ガンドォ! 作:brain8bit
ダメだぁ、ドク。まったく書けん。
ごめんなさい、1週間とか無理でした。なんなら1か月ですらしんどい……。かけるだけ書くから許してください。
「即ッ刻ッ! 中止にすべきだッ!」
糾弾するような怒声が部屋に響いた。一瞥するにブラドキングによる声だろう。熱血漢である事は決して悪いことではないが、感情論が顔を覗かせるのはよろしくない。プロヒーローという職務を全うする我々が公私混同で動いた結果が、良いものであったことのほうが稀だ。それでいて精神論が運良く良い結果に結びついた結果、美談として語り継がれるのだから尚の事に質が悪い。
さて、俺個人としても生徒にこのまま体育祭続行を強いるのは得策ではないと思っている。だが、あくまで個人的にだ。状況を須らく整理した上で導く最適解は――。
「確かに生徒の事を思うなら、それが一番なのさ。他の人はどうだい?」
話を促すのは、根津校長だ。この場には今5人の教師陣が集まっている。根津校長、ブラドキング、オールマイト、ミッドナイト、そして俺の5人だ。どうやら、校長は全員の意見を聞くつもりらしい。そうでなければ5人集まって協議する意味もないのだから、当然のことだが。
「怪我とかのレベルではないのだぞ! 重危篤者がいる時点で続行など論外ではないか!!」
「ブラド。校長は他の意見を聞いている。一旦落ち着け」
「落ち着く暇などあるかァ!!」
駄目だな、話を聞かない。完全に血が昇っている。個性が操血の癖に短気が過ぎる。担任教師枠であるから、俺と対になる関係で採用されているんだろうが……こうなると面倒だ。
「オールマイト! あなたもそう思うでしょう!?」
「わ、私かい? むぅ……」
オールマイトは難色を示すか。意外……ではないが、少なくとも珍しい。恐らくは天秤に掛けているんだろう。平和の象徴としてか、雄英の一教師としてか。前者であれば止めるべき、後者ならば続行。一生徒の怪我で他の活躍の機会を奪って良いのだろうか。この場の誰もが抱く議題。今回の要となる部分だ。
「……本来であれば中止にはしたい。けれど、それは――」
「言いたい事は分かります。言い淀むのは通ることが難しいからこそでしょう。ですが、この場ではハッキリと発言してください」
「相澤君……」
ナンバーワンとは難儀な肩書だ。ましてや平和の象徴。下手なことは言えないだろうな。
だが、今は全てを捨て置いてもらう。この状況において一刻を争う事態という言葉は比喩表現じゃない。大勢の生徒の将来と雄英の未来がかかっている。というより、もはや方針は決まっているようなものなのだから関係ない。協議というよりは互いの合意確認。校長も体裁を設けてはいるが、最終的に行き着く先は
「続けるべき、だと判断します……!」
「なっ!?」
ブラド。これは緊急事態だが、不測の事態じゃない。前例なんてものは
「……ミッドナイトはどうですか?」
「私もオールマイトに賛成よ。元よりそのつもりだったわ。生徒がそう望むのなら、私達はそれに答えるべきよ」
「ひとりの生徒を切り捨ててまで掴ませる栄誉に、一体何の価値があるというのだ!? ミッドナイト……お前は最も近くにいたのだろう!? 何故、そうも簡単に――」
「――
『ミッドナイト先生、この試合がどんな結果になろうとも、恐らくわたしは倒れるでしょう。最悪、死ぬかもしれません。けれど、止めないでください。この試合も、その後の本選も……わたしごときのためだけに、皆の輝ける未来を奪わないで。だって、そうじゃなきゃ――』
「『割に合わない』……だそうよ」
「なんだ……それは……ッ!?」
……割に合わん、か。
確定的だな……この会議も、あの言葉も。本気で見世物じゃない事を世間に知らしめようとしている。どう鑑みてもヒーローとして倒錯的なことだ。生徒としても普通じゃない。自己犠牲にしては出来すぎている。出来すぎていているが故に
「例え本人が望んだとしても論外だろうがァ! ミッドナイト……教師としての矜持はないのか貴様ァ!!」
「……言い訳はナシよ。あの子が負ったケガは、止めなかった私の責任。私が全部背負う。痛みも、恨みも……」
「止めないか2人とも!! ブラドキングは一旦頭を冷やしなさい!! ミッドナイトも滅多な事を言うんじゃない!!」
OFA発動状態に至ったオールマイトがブラドの肩を押さえた。ミッドナイトも「……ごめんなさい」と呻いている。まさに地獄のような空間だな。正義同士が己の価値観による主張で火花を散らせる。まるで戦争だ。
しかし、だ。どれだけ騒ごうが過去が覆る訳でもない。いい加減、話を進めなければ。今、この場に必要とされているのは我々の認識を改めさせる様な……言うなれば会心の一撃。全員の共通認識が「驚愕」に塗り替えてしまう大きな波だ。
「……もう直、だな」
――――カチャリ
来たか……。
「あんまり騒ぐんじゃないよ。アタシらプロが冷静じゃなくてどうするのさ」
「リカバリーガール……!」
漸くまともな判断材料の到着か。裏を返せば、彼女が来なければ何も始まらない。さっさと本題に入るとしよう。
「リカバリーガール。ヒーロー科1年A組、萬實黎奏の状況をお聞かせ願えますか?」
結局はそれが全てだ。芳しくなければ中止か、ある程度の事実を伏せて続行。見込みがあるなら全てを告げて続行。私情介在の余地なし。合理的に行こうじゃないか。
――――悔やむ事など、後でいくらでも出来る。
「そう事を急かすもんじゃない……と、普段ならそう忠告してる所だよ。けれど、そうも言ってられないのが現状さね」
「……まさか、彼女は……ッ!?」
「先に言っとくよ。あたしゃ中止にすべきだと思ってる。別に、あの子を止められなかったのはアンタ達の力量不足と責めやしないよ。こうなっちまった事は仕方がないのさ……」
「――治療は出来ない。これが【答え】だよ」
個性副作用、出血多量、急激な温度変化……治療に残される体力などない。聞けば今も個性発動を維持した状態だという。個性が発動している以上、外科手術は出来ない。かと言って、リカバリーガールの【治癒】に耐えられる余力もなく、体温上昇を強いては内出血しているであろう臓器への負担も計り知れない。今は傷を塞ぎ、栄養投与以外の方法はリスクが高すぎるのだという。
「あの子の個性発動時に現れる紋様……検査してみれば神経系に親しいものと来た。下手に弄ろうものなら、あの子の体にどれだけの負担が掛かることやら……想像に易いってもんだよ」
「そんな……」
ミッドナイトが呆然自失としている。あの場で最も責任が重かったのだから、何も不思議なことはない。鈍重な雰囲気が頬を撫でている。何度か吸ったことのある空気の舌触りは、何時になっても不味いまま。そんな所感を脳裏に浮かべながら、リカバリーガールを見据えた。
言ってしまえば、最悪の状況だ。余談なんぞ挟む隙間さえない。すべての場の停滞。完全な手詰まり。誰もが口を開かないまま立ち尽くす。リカバリーガールなら或いは……と、考えていたアテが外れた。
埒が明かないのなら、抉じ開けるしかない。
「――――情報は出揃いました。我々に残されているのは決断と実行。意見が無ければ、体育祭を続行することで進めますがよろしいですね?」
視線が突き刺さるとは、まさにこの事なのだろう。驚いた様子がないのは根津校長だけ。アルカイックスマイルのような表情を崩していない。初めから理解した上で会議と銘打って開いたのか? だとすれば、本当に茶番だな。
「な、正気か相澤!?」
「無意味な確認だ。足踏みで同じ場所を長居しすぎている。さっさと前に進んだ方が合理的だ。この会議の場を停滞させている本人そうも望んでいる。なら、推し進めるべきだ」
「担任としての心は――!」
「
「責任なら私にだって……ッ!!」
「ミッドナイトにはこの後が控えています。仮に無理にそんな強行を押し通した人物が
「相澤君……」
無論、代償が発生する。そんなもの掃いて捨てる程に払ってきた。今更、どれだけ泥を被ったところで変わらん。この選択がどう転んだところで、行き着く先は
『【合理性の中に自分が入っていなければ】の話ですよね、それ。今すぐ止めてください』
……お前が言えたことじゃないだろう。
『わたしに【無理するな】と言ったのは貴方です。自分にできないことを他人に押し付けないでください……迷惑ですから』
……俺が無理を通したから、お前もそうしたのか? 反面教師になったつもりはないが……まあ、今回ばかりは生徒のやらかしを処理する教師の務めだ。目を瞑ってやるさ。ヒーローとしての道、それも最も茨とも思える道を歩むための覚悟……それを見届けるために、あの瞬間は行く末を見据えることにした。
だが、お前が『犠牲』になることは話が別だ。
論外、それ以下の悪手。自分の身も守れない奴がヒーローにはなれん。自己犠牲の精神は求められるが、それを嫌っての行動なら猶更矛盾しているだろう。すべてが自身のエゴであるというなら、それはヒーローではなく偽善を振りまく
だから、理屈抜きに信じよう。その無謀な心意気を、果たすまでは生きることを、俺は信じる。
「他に、意見はありませんね? では、体育祭は予定通り――」
だから、頼むぞ。必ず戻って――。
「なら、改良案を挙げましょうか」
そこから先は、よく覚えていない。
というのも、記憶そのものに靄がかかったかのように酷く曖昧だからだ。後々聞けば、他の教員も同じようなことを述べていて、要領を得ない。部屋に設置された監視カメラを確認しても同様だ。何度見返しても、違和感を感じる所が何処にもない。違和感を感じない事が違和感、と言うべきだろう。
だが、それ以上もそれ以下もなく、そこに何が在るのだろうという、漠然な問い掛けに他ならない。考えるだけ無駄か、と思考を途中で放棄
「良い方法があるわ。あなた達が最も望む結果を齎す方法が……ね?」
その違和感が日を重ねるごとに、増していく。それが至極自然で、正しいものであると分かる。疑うべきだと、理性が囁いてるんだ。今日も、悩む時間がまた増えていのだから、間違いない。ここから考え始めても、また振り出しに戻されるのかもしれないのは見据えている。
だが、ひとつだけ鮮明に思い出せる。それが俺の思考を縛り、同時にこの矛盾螺旋へと繋げられる唯一の鍵だ。他の教師陣が放っておく最中、俺のみが馬鹿みたいな苦悩に頭を抱えるための撃鉄。離すものかよ――。
「私に、萬實黎奏を預けなさい。
貴方の望みは、ここで叶うの」
必ず、お前を――――。
◇ ◇ ◇
「……と、いうわけで。貴女は私の元へ来ましたとさ。良かったわね?」
全然良くないが???
何ナチュラルに良い話みたいに終わらせようとしてんの? 要は魔術による拉致誘拐ですよねソレ。私の意向どころか誰の許可も得てないじゃん? ていうか、魔術って秘匿されるべきものだったのでは? 普通に一般ピープル相手に、魔術行使してるよね?? 白昼堂々通り越してもはや渋谷の駅前で丸裸のダンシングなんだが???
「あぁ、割と強めの暗示を掛けたから、あと数週間は解けないはずよ。手続きも表上は公的なものだし、心配しないでちょうだい」
それバレなきゃ犯罪じゃないんですよっていう名言を言い換えただけなんだよなぁ!? 誰もそのベクトルでの心配はしてねぇですわよ!! 釈明しろっつってのにいけしゃあしゃあと説明しないで頂けますかねぇ!!?
訳わからんぞこの状況……! 体育祭を無事乗り切ったと思ったら今度はモノホンの魔術師に出食わしましたってマ!? 何この世界ヒロアカ時空じゃなかったの!? 気が付けば型月との邂逅とか冗談キツすぎる……!?
…………っはあ。待て、落ち着け。本当に、数あるピンチの中で一番ヤバい状況なのは間違いないけど、落ち着かなきゃダメだ。今、やるべき事を正しく認識しないと……!
まず、大前提としてこの人の素性が本当に魔術師かどうか。そもそもこの世界で魔術師である事を自分から開示している以上、魔術絡みな事は確定してる。通常のヒロアカ世界から逸脱していることは確定的だ。
そして、問題は私の個性に繋がる。
ご都合主義な個性かと思えば違う、本当の魔術である可能性。基礎論理も理念もない何となく使ってきたモノの正体。こんな危機的状況で糸口が掴めるなんて皮肉にも程がある。
けれど、それはまだ推測だけのもの。あくまで「本当に魔術が関わっているのかもしれない」という仮説だ。丁寧に情報を整理していかなくちゃ見当外れの答えにだって行き着く。魔術ではなく純度100%の個性だって有り得るんだから。
まあ、魔術という存在の有無はもう確定的なんですけどね……。型月産かどうかはともかく、推定ヤベー奴に目を付けられたわけですし、身の安全のために頭働かすのが最優先。
…………でもさ、考える以前にだよ? その悩みのタネ相手に何日も爆睡こいてた時点で詰みじゃない?仮に、モノホンの魔術師だとして異端的なグループに属する相手だとしたら、絶対に寝てる間になんかされてる。初めから打つ手なしの可能性が高い。
いっそのこと、全部曝け出したほうが楽……かも? 手遅れって言うなら、わたし公衆の面前で魔術使ってたし。はいツーアウト。秘匿されるべき神秘を一般人相手にバカスカ撃った挙げ句、ただの道具として扱っている。時計塔が存在するなら間違いなく私は抹消されるべき存在認定されますよね。スリーアウトで役満確定。わたしの親じゃなくて首が飛ぶ。物理的に。
「貴女は……わたしにどうさせたいんですか」
相手の要求を飲むしかない。少なくとも、今は生かされている。なら、大人しく従っていた方が身の為だろう。
「あら、随分と早急な物言いね。少し話をしてみたいと思ったから連れてきただけ……なぁに? もしかして怖がってるのかしら?」
うん、全然関係ないんだけどさ。ニヤニヤした表情がメッチャ艶めかしいんですよ。顔面偏差値つよつよ過ぎて鼻血出そう。単純に好みの顔立ちなんだろうけど、語彙が溶けそうなぐらいには限界来てる。あっれぇ? わたしそっちの気なんて無かったはずなんだけどおかしいな〜〜???
「……ふふっ。ホントに表情ひとつ変えないのね、貴女。まあ、そこも私の興味を引いたポイントなのだけれど」
変えないんじゃなくて変えられないんですよねコレ……内情悟られないので便利ではあるんですけども。
……って、イカンイカン。和やかな雰囲気に気が抜ける。わたしが勝手に見惚れてたのが100パー悪いんですけど、細かいことは気にしない。
さて、ふざけた怪我の功名である程度メンタルが回復したし、冷静さも取り戻しました。後は相手の反応を待ちガイルするだけの簡単なお仕事。じわじわと追い詰められて投げ打たれたら諦めるしかないのでアケコン投げて合掌しましょう。純粋な力量差だけはどうにもならんのです(釈迦如来スマイル)。
「単純な話よ。何度も言うように、貴女を知りたいの。無理強いはしないけど、少しでも恩を感じてくれてるなら話して欲しいわね」
「それは……一体
「あらあら、余程警戒されてるのね、私」
あ、わたしの返しに対して困ったみたいに笑ってる。カワイイ。美しさと可愛さの両立とか無敵過ぎん? てゆーか、暗示にでもかけられてんのかな? 冗談抜きで一挙一動に見惚れるんだけど。 それになんかこう……悪い人じゃないんだなぁって思えちゃうんですよね。寧ろお節介のお人好しみたいな――。
あー……ストップ、待て待て。相手は魔術の秘奥に辿り着くためなら手段を選ばない人種ですよね。なんで根拠もなく絆されそうになってんですか。しかも、あちらの立場からすれば、わたしは重犯罪者みたいな立場なわけでしょ。何もお咎めもない筈がない。
「でも、それって自分で答えを言ってる様なものじゃない?『私は言えない様な秘密を握ってまーす』って。プロフィール以上――プライベートな部分を見ず知らずの相手に語りたくないと思うのは道理だけど、私の話を聞いて質問が飛んでこない時点で【コチラ側】なのは自明の理だし」
う、うわー……殆ど話してないのにどんどん話が核心に伸びてきてる。リアルINT高杉やん。言葉選びだけで全てを察しているのか、或いは初めから掌で転がされてるのか……勝ち目が毛ほどもないんですけどどうすればいいですかねぇ!?(投げやり)
「問題は
「起源……」
「……ま、一度に沢山言われても飲み込めないでしょうし、そろそろお開きかしらね。回復明けで疲労もあることだし、今日は軽い運動で体を慣らすか、雄英の資料でも眺めていてちょうだい。敷地内を歩くのは自由だから、遠慮はいらないわ」
え、あっ……どうも、ご親切に……?
あ、話終わったんかコレ?
なんで? 急に初対面の親戚の挨拶みたいな反応出ちゃったけど違うよね? これからが盛り上がるところだったんじゃないの? いや、個人的には盛り上がらないほうが助かるんだけども。しかも、放心してる間にご本人は退出してるし。突然の釈放……ていうか執行猶予で今まで積み上げてきた思考が弾け飛んだんですけど……えぇ……?
し、仕方ない。考える時間が出来たわけだし、ここは素直に喜びましょうか! 問題の先送りになるんですけど、どうにもならんものは考えても無駄ですし。気が付いたら体育祭終わってて、とんでもない情報を起き掛けに叩きつけられましたけど、生きてるんだからオールオッケーってもんですよ。とにかく今は、いったん落ち着かせるために一度体でも動かしてみますか。個性の反動で後遺症とか残ってないといいんですけど……よっと。
――うん、平気みたいですね。手足は動くし、違和感とかもない。ちょっと寝起きの疲労感はありますけど、これも誤差の範囲。この調子で歩行は……問題なしっと。
はぁ~~……ほっとしたぁ。日常生活に支障はなさそう。この調子で部屋の外に出てみますか。あわよくば外部と連絡を……いや、なんか無駄な気がするから今は止そう。日が経って余裕が出てきてからにします。助かりかけた人間が早計に走った末路なんてハリウッドだろうがB級だろうが相場が決まってるもんですよ。
てなわけで早速お散歩開始と行きましょうか。扉開けてれりごーと洒落込もーぜ。はいガチャっと。
「えっ、あ……」
…………ほ? キミはだぁれ??
ドアを開けたら可愛い子にお会いし申した。見た感じ5,6歳ぐらいかな? 家主のお子さん……うーん、何となく違う気がする。親戚の子かな? 分かんないけど多分ここに数日は厄介になるはずだから挨拶はしなきゃですよね。
「こんにちは、わたしは萬實黎奏っていうの。少しの間ここに居させてもらうことになったんだ。えっと、あなたのお名前を教えてくれると嬉しいな?」
こんな感じかな。一応目線を下げるためにしゃがんで、と。致命的な欠陥があるなら表情が死んでること。意地でも動かないなこの口角。前世で親でも殺されたんかお前。いや、前世の持ち主もわたしか。じゃあ、どうしようもねぇな!(開き直り)
「え、えっと……」
おぉう、少し警戒しているっぽい。そら目の前にこんな鉄仮面みたいな女いたらビビりますよね。せめて雰囲気を柔らかくできれば良いんだけどなぁ。無理やり指で笑顔作ってみるか。
「……ふぇ? 何してるの?」
「わたし、笑うの下手だからこうするしかなくて。どう? 笑えてる?」
「う、あの、ちょっと怖い……と思う」
あわよくば緊張とかほぐせたらいいと思ったんですけど、ダメみたいですね……。対人マジで向いてねぇ。今の環境がそういうの気にしないタイプの人間しかいなかったから感覚麻痺してのかもなぁ。やっぱりヒーロー科ってコミュ力オバケの集まりじゃないか。おのれ許さんぞマイフレンドたち。
「えっと……体、大丈夫?」
うん? あ、もしかしてお見舞いのために来てくれたのかな? 来客を知って興味本位で来たにしてはおっかなびっくりだし。大分怖がってる様子だけど、それでも来てくれたってことは――。
「平気。優しいんだね、ありがとう」
「――!」
すっごく安堵した顔。間違いなく人を思いやれるいい子だ。知らない人相手によく頑張ったよ。節々でわたしの心配してるみたいだったし、ホントに優しい子なんだろうな。どうしよう、わたしの中でこの子の好感度が急上昇なんだが。
「今度は……お顔、怖くない」
「ん?」
おろ? 顔が怖くない? あ、もしかして笑えてた? マジ? うっわチョロイン過ぎんかわたし。幼女に心配されて緩む表情筋とかソレどんな不審者だよ。雰囲気いい感じになったし万々歳だけど、素直に喜べねぇ……。
「な、名前……言うね?」
あ、そういやまだ自己紹介終わってないんでした。やれやれ、名前を聞くだけでどんだけ時間使ってるのやら。こんな体たらくじゃ相澤先生に判断が遅いってどやされるかも。今度のヒーロー基礎学で子供の対応マニュアルを頭に入れとこ。いざ現場に出たときのためにね。
「私……壊理。その、よろしく……お願いします」
◇ ◇ ◇
暗峠のような部屋。モニターの明かりがやけに眩しい一室に、大きな影が3つ並ぶ。そのうちの一つが、切り込むように言葉を紡いだ。
「はてさて、面白い情報だ。人生の中で聞いたこともない単語がこうも拝めるとはね」
「情報は与えた。返事を聞かせてもらおうか」
手元の資料をから目を離し、ぐるりと見渡す。まるで品定めをするかのようなその挙動に、もう一つの影も淡々とした口調の元、声を発する。
「興味がないと言えば噓になる。けれど、僕としてはこちらの子の方も魅力的かな。残念なことに、どちらも僕に譲ってくれそうにないようだけどね」
「当たり前だ……アレはやらん。一族の悲願を成就するために必要なパーツなのだ。貴様にくれてやる理由などない」
「こちらも同じ条件だ。アンタに求めるのはあくまで奪還の手立てのみ。代わりに
やれやれと首を振る影に、他のふたつが苛立つ。どうにも要領を得ないと言わんばかりに、溜息まで添えてだ。だが、人の敵愾心を煽るようなその様は、反応を見て楽しんでいるようにも見える。再び訪れる短い沈黙の後、第一の影が口を開いた。
「『秘匿された神秘の開示』と『個性社会を壊す毒のサンプル』。どちらも面白そうな代物だが……残念ながら今の僕たちには信頼関係が無い。要求を飲むだけの信頼が、ね」
「信頼だと?」
胡乱な目線を送る後者2名。お前が言うなとでも言いたげである。碌でもないことを思案しているのは確定的なのだから、強ち間違いでもない。そんな2名を尻目に影は……巨悪は歪んだ笑みを堕とした。
「まずは君たちが僕を手伝ってほしい。それに応えてくれたのであれば、喜んで僕も力を貸そうじゃないか。それに見合うだけの報酬であることは理解しているからね。安心してほしい、そこまで難しい事じゃないさ」
何が信頼だろうか。白々しい。そんな思いが奇しくも二つ重なった。相手も感づくこと理解して言っているのだから余計に腹が立つというもの。だが、すぐさま身を翻してこの場を去れるほど余裕が無いのも事実だった。
沈黙は肯定。そんな二つの影に課された要求はシンプルなもの。方法は任せるとだけ言われて終わりである。大雑把と言っても過言ではないが、それだけに自由度は高い。要するにその目で我々の手の内を覗くことが目的なのだ。決行の日時と場所だけを聞くと毛色の違うふたつの足音は遠ざかっていった。
「予定と違って随分と面白くなってきた。長生きはしてみるものだね」
昏い夜明け前。巨悪は独りでに呟いた。無邪気な子供のような嘲笑を携えて、軋む椅子に深く座りなおす。
「もしかしたらここで終わるかもしれない……けれど、壁は高いほど良い。今の『彼』にはそれが必要なのさ――」
「――弔、他の悪に呑まれないように注意するんだよ」
その吊り上がった笑いは、酷く意地悪に見えた。
げんさくこわるる~。
壊れるっていうより加速する感じですかね。もう全部混ぜちゃえ的な感じで。