ガンドォ! 作:brain8bit
A.ないです
Q.どうしてですか。
A.ノリ果汁80%だからです
「……づぅ……え"ぁ"……ッ!!」
苦しい。体が張り裂けそう。まるで電子レンジに入れられたようだ。体内の水分が沸騰するような感覚。あぁ、なんでこんなにも使い勝手が悪いんだろうか。
「……ぐッぅ、げぇ……ゲホッ……あぁ」
びちゃり、という音が個室に鳴り響く。水の中に落ちた故に、一際大きく反響したようだ。全く、耳障りなことだ。とにかく、もうすぐ終わる。あと少しの辛抱だ。耐えよう。この地獄の様な時間を。そうすることでしか、わたしは強くなれないのだから。
本当に、酷い話だ。
◇ ◇ ◇
はーい! みんな元気ぃ!? 雄英高校期待の新入生、奏ちゃんでーっす!! ねえ、シリアスだと思った? 唐突なシリアスに戸惑った?? 残念だったなぁ、(叙述)トリックだよ……。はい、怒らない怒らない。まあ、実際今のわたしは空元気みたいなもんだから。え、じゃあさっきのはなんだって?
あー……あれは個性のデメリットです。わたしの個性はどんな服装でも礼装としてロールアウトして、魔術を行使できる反面、まったく礼装へのイメージがつかないものはあんな風に魔術回路の基本骨子がスッカスカになるわけです。普通なら時間をかけて
まあ、簡単に言えば、無理やり服にイメージを押し付けたっていうのが正しいですかね。でも、それはあんまりしたくないんだよね。だって、わたしの個性の発動条件は
うーん、そこがちょっと難しい所なんですよ。っていうのも構成する概念の質の問題なんだよねぇ。前に話したけども、わたしの魔術のイメージっていうのはFGOのモノに縛られている。これを払拭するのは難しい。でも、決して不可能じゃないんだ。今までのイメージを別のものに思い込むことだってできる。例えばこの雄英のジャージ。青を基調に雄英もじったUAという文字が白いラインとして刻まれている。わたしが抱いている礼装のイメージで近しいものはカルデア戦闘服だろう。だけど、色合いや抱いている質感とは全く異なる。ならば、どうするか。
答えは単純。
橙色を青色と思い込む。それだけです。
……そんな事でいいのかって? はっはっは、そんな事と軽んじたそこの貴方。出来るんですか? 今まで培ってきた経験を情報へと変換、形成し固定観念と成り果てた自分の中の概念を、思い込みひとつで完全に棄却できると? そんなことが可能なのは解離性同一症の人間、いわゆる多重人格の人間だけですよ。
そう、完全には無理なんです。強く思い込むことはできても、完全に変換することはできない。だから、魔術回路を構成するときに齟齬が生じる。イメージがついてないんだから、思い込みの部分だけ脆いんですよ。そんなスッカスカの魔術回路に魔力を流し込んだから、女子トイレで血反吐吐いてたっていう寸法です。めっちゃシンドイ。まだ、微妙に全身が震えてる。後は、魔術を行使するときは変換された概念を忘れて行使してはいけない。認識を戻した瞬間、魔術回路の構成しているその部分が消えますし。いや、本当に文字通り消えるんですよ。置き換わんないだけマシです。全く異なった属性に置き換わったりしたら、起源弾喰らった人ぐらいひどい目にあいますので。
とまあ、多少の無茶でこのジャージを礼装として使ってるわけですよ。寿命が縮むわこんなん。でも、時間は待ってはくれないので、とっととグラウンドに行くとしましょう。運動させられんのかな。あのやる気ない感じの先生が何してくるか全然読めねぇ。
◇ ◇ ◇
「個性把握テスト!?」
ほうほう、中学まで禁止だった個性を解禁しての体力テスト。まあ、確かにやる価値はありますわな。クラス全員の能力を把握するためにも、必要なことだと思いますとも。ただ、わたしにはただの体力測定と変わらんな。わたしの個性は他人にしか意味ないですし。自分の最大パワーは単純な身体能力だけですもん。こりゃ血を吐いてまで調整する必要なんてなかったかねぇ。
っと、あのガラ悪い少年がボール投げするのか。素で67mでも十分すごいけどな。わたし? 72mだけど? おい誰だ今ゴリラっつった奴ちょっと面貸せや。みんな、投げ方に工夫が足りんのよ。実際わたしはそこまで筋肉ついてる訳じゃないし。あ、でもおなかは少しだけ筋肉が浮き出てるかな。そんなバッキバキに割れてる訳じゃないです。そりゃ花も恥じらう女子高校生だもの、少しは気を遣いますって。
「そんじゃまあ……
くたばれぇええぇえええ!!!」
おい掛け声。いいのかそれで。マジでヴィラン側じゃないんかあの不良男子。流石におねーさんびっくりしちゃったよ。はぁ、先生曰くこれがもっとも合理的だと。なるほど、こりゃ全員の個性把握できるチャンスかもですな。わたしは個性は他人を活かす個性。故に他人の個性把握は何よりも大事だ。しっかし、あの不良少年の個性は凄まじいな。700mって勝ち目ないよこれ。まあ、勝ったからどうこうあるわけでもないしな。みんなも個性使えるって意気込んで楽しそうで何よりです。わたしは温かい目でその光景を拝むとしましょう。
「あ、ちなみに最下位は除籍処分な。じゃ、気張ってやれよ」
……What's the F〇CK!?
は? ちょ、除籍ぃ!? 除籍ってあの除籍か!? 何でそうなんだよちくしょうめぇ!! わたし他人にしか個性使えんのだが!? なんてデジャヴだよ、入試と状況一緒じゃねぇか!! 天丼は飽きられるって分かってないんですか雄英ぃ!! はっ、もう始まってるぅ!?
「ふむ、やはり3速が限界か……む、どうした萬實黎君。顔が真っ青だが……調子でも悪いのか?」
心身ともに絶不調だよ飯田少年(絶望)。あぁ、なんでこんな試練染みた状況に何度も陥らなきゃならんのですか……。神よ、わたしが何したっていうんだぁ!!!
◇ ◇ ◇
第1種目:50m走
『6秒12』
結局普通に走ってしまった……。周りが素だったなら十分な記録だけど、普通にみんな5秒台叩き出してきやがります。みんな創意工夫をして挑んで来るってか。どうにもならないよこんなの。
第2種目:握力
『49kg』
よっしゃ、何人か抜いたぁ!! 途中観察してたんだけど芦戸ちゃんは酸みたいの手から出してました。結構使える範囲が狭いだろうに、ちらほら常人以上の記録出してるのも見えたんで、彼女なりに頑張ってるらしい。わたしも、どうにかして個性出していかないと……って思ってもどうにもならんのよねぇ。他人にしか個性使えないんだから。人の測定の邪魔したりは流石にしたくないし……あぁーもうどうしよぉおぉぉおおおぉ!!!!
ん? 他人にしか使えない……?
第3種目:立ち幅跳び
『232cm』
また、普通に素でこなした。けれど、さっきとは少し違う。出席番号順だったけど頼み込んで一番最初にしてもらった。みんな不思議そうな顔してたけどね。だけど、今はこれでいい。わたしが今、一番欲しいのは『時間』。さっさと測定して確保しなきゃ。構築に問題は無い。後は負荷をどう軽減するかを考えなきゃ。ちょっとトイレにで調整してこよう……。
第4種目:反復横跳び
『71回』
今までやってきた素の記録で、総合18位ぐらい。ここらでデカい記録叩きだしとかないと一瞬で除籍まで転げ落ちる可能性もある。方法は確立させた。芦戸ちゃんにも検証してもらったから、多分大丈夫。決めるなら次の種目だ。ひとりひとり測定する科目であれば、さらに確実だから。
やってやろうじゃん。掛かって来いよ国立機構。
◇ ◇ ◇
第5種目:ボール投げ
順番は戻してもらった。その方が確実性がある。わたしの番号は20番。最後から2番目。これならギリギリまで品定めできる。今のわたしに必要な情報は、最初と変わらず他の人の個性、そしてその使い方。それを理解して、初めてこの策を決行できる。
「えいっ」
……うん、やっぱり彼女が一番適任っぽいな。少し申し訳ない気もするけど、決して邪魔したりする訳じゃないからセーフだよねきっと。問題は、彼女が承認してくれるかだよね。ダメだったら……まあ、人の嫌がることを無理強いするような趣味はない。縁がなかったと潔く諦めましょうか。
「ねぇ、ちょっといいかな」
「うん? あっ!! 入試のときの!!」
「覚えててくれたんだ。今朝は挨拶できなくてごめんね」
そう、入試のときの下敷きガール。彼女が一番適任なんだと思う。たった今、記録「∞」とかいう記録を叩き出したみたいだし、見立ては間違ってなかったみたいです。
「うぅん! わたしが来たときには、もうグラウンド行けって言われてたし時間もなかったからしょうがないよ! むしろ見つけてたらわたしから挨拶に行くべきだったんだけど……更衣室じゃ見かけなかったから分かんなかったよ」
「ごめんごめん、ちょっとお花摘みに行ってたからさ。入れ違いになっちゃったみたいだね。わたしは萬實黎奏。こんな状況だけどよろしく」
「うん! わたしは麗日お茶子。よろしくね!!」
ふむふむ、入試のときのあれでトラウマになったりはしてないようですねぇ。それは重畳重畳。なら、時間も限られてるし、さっそく本題に入らせてもらいますか。
「あのさ、麗日ちゃんの個性ってもしかして物体を無重力にするの? 使っててどんな感じ?」
「へっ? うーんそうだなぁ、どんな感じかって聞かれてもすごく感覚的なものだし……説明するのは難しいよ。あ、でも軽いものに対してならずっと使ってても疲れたりしないかな。重いものを連続とかだとちょっとしんどい……って感じ」
そりゃ当然ですよ。わたしだって自分の個性の感覚とか口頭で伝えられる気はしませんから。でも、なるほどね。常時発動でも、軽いものなら問題ないと。それなら当初の予定通りやるだけだから支障はない。正直面倒ごとが省けてよかった。
「麗日ちゃん、ひとつお願いがあるんだけど――」
◇ ◇ ◇
「お、あのスポーツマン女子の出番か。今のところ全然個性使ってないみたいだけど、今回も使わないのか?」
「うーん、個性が身体能力向きじゃないのかもな。だとしたら、今回は災難だったろうな」
おうおう、好き勝手言ってくれますね。まあ、否定はしないけど。さて、ご紹介に預かった通りわたくしめの出番です。外野はほっといて、わたしはわたしなりに行動させて頂きましょうか。
「
ぐぇッ……! 覚悟はしてたけど、やっぱり発動にも一苦労だなこれ。魔術回路が浮き出てる。しかもいつもは碧色なのに、紫っぽい色に変化してる……明らかに異常ですよちくしょう。でも、無理して魔力通してんだから、当たり前の事。この程度のリスクは承知の上ぇ!!
「ッぐぅ......
余計な角度はつけない……体に走る痛みを無視しろ……! 籠める魔力は最小限。使い切れる程度! そして、今はボールを
「……!(コクッ)」
サンキュー、受け取ったぜその覚悟ぉ! これが今のわたしにできる全力だぁぁぁあああぁああ!!!
「
地球の周回軌道までぶっ飛べやぁぁ!!!!
萬實黎奏:記録『∞』
はーっぁはっはぁ!! どーよこの手腕。アインシュタインもびっくりな手法だぜぇ! ……いや、流石に盛りましたけど。え、何をしたか分かんないって?
単純です。個性を使ったんですよ。
オーダーチェンジ。FGO内の礼装魔術。前衛のサーヴァント1人を後衛のサーヴァント1人と切り替えるあれです。プレイヤーなら死ぬほどお世話になってるんじゃないかな? 周回然り、高難易度然り、使える幅が広い
そう! 入れ替えたんです! わたしと麗日ちゃんの個性をね! いやー、普通なら他人の個性同士を入れ替えるために使う魔術なんだけど、私が使っているのも当然個性だからね。入れ替えることは原理的に不可能じゃないのではと考えたのですよ。あ、ちなみに、入れ替えられる時間は永続じゃありません。魔力を注ぎ続けている間だけ発動します。精神的に疲弊したり、集中力が切れたら戻る仕様ですねー。
ただ、この作戦にはひとつだけ問題がありました。そう、わたしの個性が麗日ちゃんに映ったときに与える負荷です。お察しの通り、今のわたしの魔術回路はボロボロのスッカスカでございます。なので、魔術を発動しているときには相応のダメージが発生する。それはもう、割と激痛な感じで。そんなものを麗日ちゃんに負担させるわけにはイカンのですよ。
だから、立ち幅跳びの後、トイレで調整してきました!
オーダーチェンジを使った直後、回路が閉じるように。そして、注ぐ魔力もちょうど使い切る最小限。なので、麗日ちゃんにわたしの個性が移ったのはほんの一瞬だけ。わたしも麗日ちゃんも感覚ではずっと個性を使い続けてたわけだから、結果的に麗日ちゃんの個性だけが残ってたていう寸法よぉ!
いやー、これで気が楽になりましたわ。少なくとも、最下位はないでしょ。あ、麗日ちゃんにお礼言ってこないと。おーい。
「あ、萬實黎ちゃん! 上手くいったみたいでよかったよー! これで、入試のときのお礼ができたかな?」
「十分だよ……ごめんね、力を利用するようなお願いしちゃって」
「あ、ううん! だって、萬實黎ちゃんはその個性でわたしを救ってくれたんだもん! 今度はわたしの個性が助けになったのなら全然気にしてないよ! それにさ、萬實黎ちゃんとお揃いの記録嬉しいから!」
あかん、この子お嫁さんにしたい。めっちゃええ子やでホンマ……わたしが男だったら確実に惚れてたね。いや、女でも惚れそうなんだけど。だが、残念だったな諸君。わたしは至ってノーマルなのだよ。でも、女子とくんずほぐれつで絡むのは大好きだからそこは期待しといてクレメンス。修学旅行とかお泊り会とかあった日には必ずや成し遂げて見せるからよ……ぐへへ(にちゃあ)。
「あ、そうだ! 萬實黎ちゃんのこと名前で呼んでもいいかな? 奏ちゃんって、響きすごく可愛いし!!」
「うん、いいよ。じゃあ、わたしもお茶子ちゃんって呼ぶね?」
「いいの!? わぁい、ありがとう!!」
ぬわぁああぁあああん!! いい子過ぎるぅぅううぅうう!! 3年間ずっと一緒に居ようねぇぇえぇぇぇええ!!!これは本格的に入れ込みそうな子です……わたしには分かります。容姿といい、可愛げな名前といい、その性格といい……すべてがヒロインムーブ! きっと、主人公君と結ばれる感じの子なんだろう……だがそんなことは関係ねぇ!! お茶子ちゃんが欲しくばわたしを倒してから行くんだなぁ!!
……って、あれ? みんなの空気が死んでる? なんだどうした……ファッ!? 先生の髪がゴンさんみたいになってます!? え、主人公君がなんか布みたいなので捕縛されてんですけどぉ!? なんか指導受けてるみたいだけど何やったのよ……。
まあ、主人公だしなんとかするやろ!(適当)
没ネタ
「
地球の周回軌道までぶっ飛べやぁぁ!!!!
「ぐぅうううぅぅーーーッッ!!!??」
外野の方から悲鳴が聞こえる。その声の主を、わたしは当然知っている。こんな役回りを押し付けて本当にごめん。そして、心からの感謝を。そして早く個性を解除するように促さないと……って、マジかよオイ!? 痛みに悶えててもしっかり意識を保ってるのか。なんて精神力してんだよ……。ともかく、ここからはタイミングが重要。麗日ちゃんに確認を取らなければ。心配してみんなが群がってるけどそんなことは気にしない。
「どいて! 麗日ちゃん聞こえる!? 3つ数えたら力を抜いて! いくよ、1...2...3!」
「……か、解除ぉ!!」
……ッうぁ!! 痛みが戻ってきた……ってことは少なくとも成功……。後の結果は、麗日ちゃん次第――
「……え、えへへ、ちゃんと……発動し続けてるよ。大、丈夫だから……安心して」
馬鹿か、わたしは。
ふざけんな。こんないい子に何させてんだよ。なんなんだよ……ひとりじゃ何もできない役立たずが。馬鹿だろ。馬鹿すぎる。さっき自分でなんて言った? 何が「後は了承してくれるか」だよ。ヒーロー目指す人間だろうが。それがこんな……こんな……!
そんな人間が……女の子にこんな辛そうな笑顔させてんじゃねぇよ!!!
「ご、めん……わたし、大きな声上げちゃった……」
違う……。
「大丈夫って言ったのに……足引っぱっちゃったよね?」
違う。悪いのは私だ。君は悪くない。わたしが無理をさせたから――。
「大丈夫……もう、平気だから……。そんな辛そうな顔しないで……ね?」
……ごめ、ん……なさい! わたしなんか……わたしなんか……ッ!
――ヒーローになる資格なんて、ないんだ。
・没理由
唐突かつ過度なシリアス。ぶっちゃけ白けるだけだから。