ガンドォ! 作:brain8bit
主人公の本当の武器は個性ではなく考える力。つまり、わたし自身がつまらない考えを文字にすると主人公もつまらない奴になってしまうという辛さ。
振動がすごい(唐突)
はい。モニタールームでもっさり君……もとい緑谷君の個性を目の当たりにしてガクブルが止まらない奏でございます。
やべぇよ。改めて見て思ったけど、パワーが段違いだよ。そりゃ入試のときにあの仮想ヴィランぶっ飛ばした個性なんだから覚悟していたけど、それでも相手をするかもしれないと思うと怖いです。あ、でもなんか戦闘不能みたいですね。リカバリーガールの所へ運ばれていくようです。どうやら彼は続行不可能みたい。不謹慎かもですが、少し安心しました。
でも、例の彼が残ってるんですよね(絶望)。ほら、めっちゃヴィランっぽい彼ですよ。確か爆豪君でしたっけ? モニターで見た限り、めちゃくちゃ個性強い上に、格闘も割と様になってた。あれは、昔から喧嘩してた人間の動きですね。実際に、緑谷君のこと個性を交えて捕縛せずボッコボコにしてたし。ビルを倒壊させかねない個性って何だよマジで。ちょっと初っ端から飛ばし過ぎじゃないです? さて、講評するっぽいし、さっさと意見をまとめますかね……。
◇ ◇ ◇
その後は順調に番が回り、いよいよ私たちの番が来た。とりあえず、みんなの個性を観察してたけど、的は絞れた。相手にしたくない個性持ちは3人。
まず1人目は轟焦凍。半冷半燃の個性。単純に出力が他と比べて段違い。どうやらビル全体を凍らせるぐらい、わけないようだ。炎の方は未知数。でも、ビル全体の氷を数秒で溶かしていたのをみると、氷と同等の力を持っていると考えられる。敵にまわせば近接だろうが遠距離だろうが対応してくるだろう。ドラクエにいたよこんなキャラ。
次に2人目。八百万百。個性は創造。体から何でも作れる個性。ただし、規模の大きいものや、複雑な構造をしたものは時間がかかる模様。何故選ばれたかは、動きの読めなさと、その汎用性、そしてそれを十全に駆使する八百万の知性。彼女が加われば、どんなチームでも変則的な動きが可能だと思う。弱点があるとすれば八百万自身の身体能力はそこまで高くないことぐらい。後、発育がいい。素晴らしいと思う。
最後の3人目。障子目蔵。個性が複製腕。両腕にもう2本ずつ、体の一部を複製できる触手を持っている。触手自体は常時発動型で、器官複製は適時発動型。耳や鼻を使って索敵も可能なうえに、6本の腕で壁や天井にも張り付ける。狭い場所であれば奇襲をかけることも可能かつ、素の身体能力もそこそこ高い。憶測になるが、足回りは普通と見た。後、無口だけど触手に生やした口ではめっちゃ喋る。割とシュール。
この3人のうち、ひとりでも敵にいたらだいぶキツイと思います。勝機があるとすれば、オールマイトがいること。わたしの個性が割れていないこと。そして、まだわたしに
「うむ! では、残り時間も少ない。わたしたちに挑むメンバーを決めようじゃないか!」
始まりますか。さて、誰が相手になることやら。
「1人目は轟少年だ! 敵を追い詰めてしまい、最後の手段に出ることを考慮しなかったことは減点だが、それを抜きにしても一瞬で無力化したのは事実だ! 是非挑んでもらいたい!」
やはり轟少年ですか。まあ、まだ想定の範囲内。むしろ彼が来なかったら今まで立てた算段の半分以上が無意味になります。いや、それでも選ばれなかった方が楽だったけどさ。
「2人目は蛙吹少女! パートナーの常闇少年のサポート、および個性を生かした奇襲に成功。見事、核を回収してくれた! その手腕をもう一度披露してくれることを期待している!」
おっと、ここで予想外な人が来ましたね。蛙吹梅雨ちゃん……んー、個性は蛙でしたっけ。蛙ができることは大体できるっぽいけど、どうなんでしょ。屋内だと四方八方に張り付けそうだし、舌を使っての奇襲もあり得る。異形型の部類に入るだろうから、わたしの個性の効き目も低そうなのがネック。ちょっと、頭から抜けてたかも。
「そして最後は君だ! 瀬呂少年! ヴィラン側として存分に個性を生かしたトラップを仕掛け、時間稼ぎで敵を焦燥させたのはもちろん、戦闘でピンチとなった切島少年を前線から撤退させた手腕は見事だった! 結果こそ核を回収されてしまい敗北となったが、ヴィラン側を想定した戦い方ではもっとも模範的だったぞ!」
うわ、マジで想定外な人ばかり来るわ。瀬呂少年かぁ……個性はテープね。地味に見えるけど汎用性はクッソ高い個性ですよね? テープの強度も人ひとりぐらいは持ち上げても平気みたいだし、割とキツイかも。これ、考える中でも割と最高の組み合わせかもしれない。蛙吹ちゃんと瀬呂少年は強襲をやってのける機動力と汎用性。轟少年はゴリ押しともいえるその強力無比な個性で前線を押し上げるタイプ。できることなら、わたしたちがヴィラン側をやりたいところですよこれ。
「よし、じゃあ所属チームだが決め方はコイントスにする。表になったチームがヒーロー、裏がヴィランだ。公平を期して観戦側の人……切島少年にコイントスをしてもらおう」
「おう! ひいきなんて男らしくない事は絶対ェしねェから安心してくれ!」
おお、熱いな。昔のヤンキーみたい。瀬呂少年とタッグ組んでた切島少年か。硬化が個性だったかな。爆豪少年とおんなじぐらい厳つい見た目してるけど、めちゃくちゃ誠実そうですな。良きかな良きかな。ちなみに良きかなの語源は良き哉で、いい弟子だと褒める仏法用語です。なんで解説したかは不明。おいおい、心を落ち着かせるためのちょっとしたジョークですよ。何が面白いかって聞かれると閉口しながら弾丸籠めた焼酎持って来ざるをえない。緊張しててホントに冗談言ってないと心労で死にそうなんで大目に見てください……。
「組み合わせは……轟チームがヒーローサイド! 萬實黎チームがヴィランサイドだぜ!」
ひゅーっ! 運気はまだあるみたいだぜぇ! それならやりようはある。早速オールマイトと作戦会議と行きましょうか! さ、準備準備。オールマイト先生ー、早く行きましょー。
「HAHAHA! 随分とやる気じゃないか萬實黎少女! 君の策には期待しているよ!」
ハイハイ任せてくださいな。和洋折衷クソマンチバフ盛り、確とご照覧あれ!
◇ ◇ ◇
「しっかし、オールマイトが相手かぁ……正面突破は無理だよなぁ」
「私もそう思うわ。それに奏ちゃんがいることも忘れちゃダメよ?」
「萬實黎の個性ってぶっちゃけ誰も知らないんだよな……あ、麗日なら知ってるのかもしれないか。でも、みんなモニタールームに行っちゃったし遅いよなぁ」
俺、瀬呂範太はチームの蛙吹と唸っていた。正直俺と蛙吹の個性は補助向きだ。だから、戦闘は轟に依存しちまうかもしれない。そこのところはどうなのか轟にも聞いてみたいところなんだが……ん?
「おーい轟? なにかいい策あるかー?」
なんかビル眺めて上の空だな……もしかしたらと思って声を掛けてみたけど、どうにも返事がねぇ。そんなに集中してんのか? でも、今回ばかりはちゃんと協力して、策を練らないと駄目だろ。なんせ相手はオールマイトなんだから。
「……もう一度、俺の個性でビル全体を凍らせることも考えたが、愚策だな。仮にそれでオールマイトが行動不能にならなかったら、お前らの動きを制限しただけになっちまう」
まあ、確かにそうだな。足場が凍ってたら蛙吹はともかく、俺が全く動けなくなる。
「だが、今回は室内戦だ。オールマイトも派手に壁を壊したり、床をぶち抜いたりはしてこないはずだ。だから、俺なりの見解でいいのなら策はある」
「ケロッ、何かしら?」
「今回俺は陽動にまわる。適時個性で屋内を凍らせて、オールマイトに俺たちの場所をかく乱させる役割だ。そして、瀬呂。お前は俺について廻りながら廊下中にテープを張れ。機動力を削ぐ意味合いじゃない。テープを切らせるアクションを誘発させて、オールマイトの位置を割り出すために個性を使え。そして、蛙吹は――」
「梅雨ちゃんと呼んで、轟ちゃん」
「……梅雨は、屋外の壁に張り付いて、核の位置を探ってくれ。無線で階層ごとに部屋の様子を適時知らせてほしい。見当たらなかった場合は、各階どれかの中央部屋にあるってことになる。そのまま窓から侵入して、俺たちが陽動をしている階層以外の部屋を調べて回るんだ。俺たちもなるべく、陽動しながら中央部屋を確認するように動く。ただし、萬實黎が何をしてくるかわからねぇ以上油断は出来ねぇけどな。これが俺たちの持つ情報と手段で打てる策だと思うんだが……意見があるなら言ってくれ」
「いや、異論なんてねーよ。てか、お前一瞬でよくそんなこと思いつけんな」
素直に感心したわ。個性だけじゃなくて頭もいいんだな轟は。上鳴も騒いでたけどなんつーか、推薦入学なだけあって才能の塊だよなぁ。正直、俺がこの場にいるの場違い感ヤバい気がするわ。って、卑屈になってても何も始まらないよな! せっかくいい案出してくれてんだ。感謝しなくてどうすんだよ。
「ありがとな、轟! お前のおかげでなんとか突破口が見えてきた気がするわ!」
「そうか、ならいい。蛙す……梅雨はどうだ?」
「自分のペースでいいのよ轟ちゃん。私も異論はないわ。せっかくプロの胸を借りるのだから、妥協無く取り組まないと失礼よね」
よっしゃ、まとまったな! 後は、開始のブザーを待つだけだ。俺も本気で陽動やるぜぇ。張り切って行くとしようか!
Boooo!!!
「お、鳴ったな! じゃあ勝ちに行こうぜ! なぁ、轟! 蛙吹!」
「あぁ」
「ケロケロッ」
お、蛙吹がビルの壁へと飛んだ。割と素早い動きで確認してる。まあ、タイムアップが迫ってるんだ、当然だな。俺たちもさっさと行くとしよう。
「よし、じゃあ細心の注意をはらっ……て?」
「は?」
意気揚々とはビルの中に足を踏み入れた俺たちは、刹那的に茫然と立ち尽くす。まるで、時間が停止してしまったようだ。言いようのない虚無感のようなものが胸の内に残った。本当にこれが現実なのかとさえ目を疑った。だって……。
何も、なかったのだ。
文字通り、そこには何もなかったからだ。いや、何もなかったというより、あるはずものが消えていた。俺たちはドアから屋内に入り、廊下を歩こうとしたのだ。だが、その歩くべき廊下がなかった。ただ広い空間が俺たちを包みこんでいた。
「突っ立っているとはずいぶんと余裕だなァ!」
何も無い空間で、それは俺たちの
「ッ!? 瀬呂、前に飛べ!!」
「へ? ってうぉああぁあああ!!?」
轟の声で我に返った。瞬間、先ほどまで自分がいた場所の地面が抉れる。そして、数秒の後に、外から指す光が逆光のようにそれをやってのけた犯人を照らし出した。そこには、
「逃げ隠れはさせない……ここで全員潰させてもらおう」
「辞世の句は読んだか、ヒーロー共ォ!!!」
そこでようやく悟った。俺たちの策は、数秒で崩れ去ったのだと。
◇ ◇ ◇
「オールマイト先生。音立てずに1階から3階までの床全部ぶち抜いてひとつのフロアにできませんか?」
「いきなり凄い無茶ぶりするね萬實黎少女!? 多分出来るけどッ!!!」
あ、出来るんだ。いや、音を出しちゃうのは覚悟してたんだけど、まさかできるとは思わなんだ。え、なんでこんなアホなこと言ってんのかって? いやいや、歴とした作戦ですから。ただすこーし工事するだけですよー。某特殊部隊ゲームでも工事するでしょ? それとおんなじですよ。
「いや、しかしどうするんだ。そうなれば核を置く部屋も減ってしまい籠城のアドバンテージを失うだけではないのかい? 正直、私には愚策としか思えないぞ」
「大丈夫です、これは『策を潰すための策』ですので問題ありません。これが通れば相手の練った策を土台から破壊できますから」
「策を潰すための策……かい?」
そう。わたしが発案したのは外でもない、相手チームに無理にでも戦闘させる策。この戦い、わたしがオールマイトをいかに上手く動かすかで勝敗が決まる。絶対にあってはならないのはオールマイトを相手チームにぶつけずに終わること。それなら、否が応でも初っ端から戦わせ、逃げられなくする状況を作り上げる。それが可能なら手段は問わない。てなわけで、オールマイト先生。工事の方よろしくお願いしますね。
「Oh my god......君、意外と鬼だね。まあ、採点抜きにして従うと言ったからやるんだけど、さぁッ!!」
「やれることは全部やる質なだけですよ」
お、床に拳を徐々に押し付け始めた。ちなみに今階段の吹き抜けから様子を伺っています。徐々に小さなヒビが入っていって少しずつ崩壊してるようです。そんで下の階で崩落した瓦礫を超スピードで着地する前に回収して音を最小限に抑えてるらしい。人間やめてますね。まあ、平和の象徴なんだからこのぐらい当然か(感覚麻痺)。
ちなみに、入り口の扉はヴィラン側の準備をばらさないために、マジックミラー仕様らしいので相手チームからは何が起きているか分かりません。やったぜ。
「あ、終わったら入り口前の天井にスタンバってください。入ってきた瞬間に奇襲をお願いします」
「本当に容赦ないね君!! くぅ~ッ! 敵を全力で叩き潰そうとするその心構え、流石入試1位だぜ!!」
おっとその話はわたしに効く(白目)。
てか、大体アンタらのせいだからな? 雄英は入れたのはありがたいけど、こんな入り方予想していなかったよ。死ぬほど胃が痛んだこと当分は根に持つからなぁ? 覚悟の準備をしておいてくださいよぉ!?
さて、始まる前に行く場所があるんですな。屋上にさっさと登らないといけない。轟少年がまたビルを丸ごと凍らせてきたら面倒くさい事この上ないんで。マジでやろうとしたら、容赦なくわたしの『切り札』を切りますので。
Boooo!!!
さて、相手はどうするか……っと、蛙吹ちゃんが壁に張り付いた。てことは凍らせるのは愚策と踏んだみたいだね。よろしい、では次の配置へと向かいますか。オールマイトに頑張ってもらうのはもちろんだけど、この作戦はそれだけじゃ成り立たない。
――
進む様で進んでなくてごめんなさいね……。