ガンドォ! 作:brain8bit
「いやぁ……危なかったよ轟少年。両足を凍らされた時は結構ヒヤッとしたね!」
自分を称賛する声が屋内に反響して聞こえる。部屋は広かったはずだ。ヤツの声が相当大きいのか、それとも俺の頭がぼーっとしているせいなのか……どの道、判断のしようが無い。倒れ伏しながら回らない頭で事実確認してはいるが、それが正常なモノかは分からず、ただ薄れ行く視界で眺め続けた。
「……ッ……ろ、……どろ……きィ!」
また、別の声が聞こえた。意識が遠のき続けてるせいか、酷く聞き取りづらい。恐らく瀬呂であることは認識できるが何を言っているかが分からねぇ……。く、そ……こんなに、遠いの、かよ……ちょ…う、て……は――。
◇ ◇ ◇
イエーイ、奏さん大勝利ィィーーッ!!
いやぁ、ドジ踏んで捕まったときはどうなるかと思ったけど、なんとかなりましたね。まあ大体全部オールマイトにぶん投げただけなんですけど。個性が個性だからね。許してクレメンス。てか、オールマイトいて負けるとか末代までの恥になりかねん。ズルいとか思わないで欲しい。
ちなみに、オールマイトに気絶させられた轟少年は隅っこで横になっています。保健室に担ぎ込まれなかったのは、外傷はない上にすぐ目を覚ますだろうという、オールマイト自身の判断だそうです。いや、連れてけよ。
「さて、講評の時間だが……誰が一番評価が高いと思う?」
「「「「そりゃオールマイトでしょ」」」」
「私抜きでの話だよッ!!?」
何で漫才してんの? いや別にいいんだけど。まあ、ダイレクトに通信も聞いてた八百万ちゃんが今回もマシンガントークで解説してくれるでしょう。何聞いても的確な回答をしてくれるから、途中から講評は全部彼女にぶん投げてる感がある。途中からオールマイトも流し目で「言ってどうぞ」みたいな雰囲気を醸し出してたし。
「さきの戦闘訓練にて、最も適切な行動を取っていた人物ですが……正直、未だに決めかねています」
ってあれぇ!? なんかスッゴクしおらしいです!? 推薦組の頭脳でも分からないって一体何があったのよ……。
「轟さん、娃吹さん、瀬呂さん……お三方もオールマイト先生という格上の相手によく立ち回ったと思いますわ。轟さんによって考案された陽動と索敵の策。その策を潰されても対応しきった状況判断能力。それに追従し、的確なサポートを行った瀬呂さん。単騎ながらも、不確定要素である萬實黎さんを行動不能にした娃吹さん。全員がMVPとして、選ばれる要素を兼ね備えておりました。ですが、唯一……萬實黎さんだけはどのように評価すべきか分かりませんでした。理由は圧倒的に判断材料が不足していること……ですから、解説を行う前に明らかにしたいことがあります。萬實黎さん、少しお伺い致します」
ん? なんです? そんなに畏まって。メチャクチャ聞きづらそうな顔しますやん。え、もしかしてすこぶるプライベートなこと聞かれんのわたし?
「貴女の個性が一体どのようなものか……お聞かせ頂けませんか?」
あ、そっちか(素)
でも、確かにお茶子ちゃんにしか説明してなかったわ。しかも、めっちゃ大雑把に「わたしの個性でスキルスワップするから貸してくれない?」って感じで。だって、全部話そうとすると長くなるんだもん。それに、あのときは割りと切羽詰まってたし、しゃーないでそ?
あ、でも個性届の登録を元に書かれた願書を見てる雄英関係者、つまるところオールマイトはわたしの個性を知ってるのだろうか。新米教師といえどそのくらいは確認してるとは思うんですが。でも、以外とうっかりとかやらかしそうだしなこの人……知らなくてもワンチャンありますね。
ん? じゃあ誰もわたしの個性知らないのでは? なるほどぉ、誰も正確なことは分からないと。ふむ。
え、じゃあ言いたくないんだけど。
いやほら、個性ってこの超人社会における元凶兼対抗策なわけじゃない? 個性を個性で捩じ伏せるって脳筋すぎて嫌気が刺すけど、そこらへんの所感はとりあえず割愛。
何が言いたいかっていうと「個性を晒すのは悪手じゃん?」ってこと。良くも悪くも個性が注目されてる社会で、それらが色んな手段に使われてる現状。そんな中、多人数に個性を知られようものならあっという間に広まっちゃうでしょ? 別にクラスメイトを信用してないってことじゃない。ただ、「強い個性」や「特異な個性」を晒すって行為が危険だって言ってるだけ。
でもまあ、一切合切情報がないってのもそれはそれで不自然だよね。火のないところに煙は立たない、それは逆に火種さえあれば煙は隠せないってこと。故に、多少は炎が見えていた方が安全なんですね。例えそれが、偽りの炎だとしても。
「――いいよ、別に」
よって、一部だけ開示するのが得策。見える真実に適度な嘘を……そう考えて5年ほど前に対策を打ち出した。当時は幸か不幸か、わたしの個性に医者が匙を投げていた。なら個性がどのようなものであるかは、わたしが勝手に判断できる。故に「わたしがそう思い込んでしまった」個性の概要を世間に受け入れさせることは簡単だった。
これを一番個性に寄り添ってきた本人が言うのだ。疑う方が不自然だろう。ましてや個性は超常現象。科学で証明できないからこそ、周りは納得せざるを得ない。
けれど、1つ……たった1つだけ、わたしが納得いかない事がある。それは――
「……わたしの個性は『
……。
…………。
………………。
は――
恥ずかし過ぎるぅうううぅぅうぅうう!!!!??
だれだこんな名前つけた奴はァ!? 後から個性届見て思わず固まっちまったよ! そんな御大層なルビ振り型月でしか映えないんだよ!! そもそもこちとら目立たないように虚偽個性登録したんですが!? なんでそんな名前にしたのよ!? お願いやめて見ないで沈黙しながらこっちを凝視しないでいっそ殺せぇえええぇぇえぇ!!!!
「サポート系か……!」
「へぇ~珍しい個性だねぇ!」
「名前カッコイイ!」
ぬ"っ!!!
すっごいキラキラした視線が精神的にアラサーのわたしにはツライ。冒頭でいつもハッチャケてる? あれは無理やりテンション上げてんだよ。じゃないと高校生のノリについて行けないんですぅ~! 言わせんな恥ずかしい。
「その様な個性でしたか。なるほど……ええ、それなら繋がりましたわ」
聞いた張本人なのに淡白すぎん? 真面目っ子なのね八百万ちゃん……して、その心は?
「1~3フロアを一部屋にしてしまうという、轟さんたちを足止めをするために張った奇策。あまりにも大胆すぎるもの故に、そちらにばかり意識が向いてしまいがちでしたが……本命は別にあったという事ですわ」
「本命? フロアぶち抜いて、無理にでもオールマイト先生と戦わせる事じゃないのかよ?」
「ええ。おおよそ、それは正しいのでしょう。あの状況下で萬實黎さん側が優位に立つならば、相手にそうさせることが最善手です。ですが、あくまでそれは意識を反らすための手段でもあった……違いますか、萬實黎さん?」
唐突な推理パートは心臓に悪いからNG。
えぇ……いきなり話振られても着いていけないんだけど。しかも、立場的に容疑者やんけ。トリック暴かれる犯人ってこんな気持ちなんですかね。複雑な心境過ぎてどう反応すればいいか分かんないや……よし、とりあえず頷いとこ!(脳死)
「訓練開始と同時に萬實黎さんが屋上から轟さんたちへ向けて、何かしらの仕掛けを行ったのは確認しました。恐らく萬實黎さんの個性によって、その時から既に個性に細工をされていたのでしょう。その後の状況から鑑みるに、轟さんに個性の増強を強いる効果を付与したのだと思われますわ」
「じゃあ、あの時オールマイトがダメージを負ったのって……!」
「今までの調節で発露させた冷気が増強によって、当人が思った以上の出力を発揮したでしょう。現に、コントロールしきれずに、後方の瀬呂さんまで巻き込みかけていましたから」
凍ったってマジ? 確かに予め「霊子向上」と「完勝への布石」仕掛けて、時間差で発動させたけどさ。そんな威力になってるとは思わんやん。どんだけ素の威力高かったんだよ怖すぎだろ。
あ、何気に新技術お披露目ですね、はい。魔術の時間差発動。原理的にはルーン魔術みたいな感じ。某術ニキみたいに文字書いて任意のタイミングで発動できないかなぁって思って、フード被って魔術行使したら、発動方式がルーンを刻む魔術に変容しました。
いや、我ながら思うけど単純すぎん? 確かに元々服のイメージが主体で制御する個性だったけどさ。フード被っている=術ニキで魔術を成り立たせてしまった短絡的思考にへこむわ。変身ベルト着けて仮面ライダーごっこする子供と同レベルだぞ。あ、今仮面ライダーを愛する大人たちを敵に回した気がする。怖いからこれ以上は何も言わんとこ。
「でも、何のためにそんなことしたの? 敵の個性を増強させてもメリットなんてないよね?」
「……いいえ、ありますわ。萬實黎さんにとって最良の状況とは何か。そもそも何のために1~3フロアを一部屋にしてしまったのか。今までの行動を踏まえた上で考えれば答えは自ずと見えてきます。個性を増強させた理由、それは――」
「……なるほどな。その気にさせたかっただろ?」
あ、轟少年が起きた。その様子だとちょっと前から意識があったなお主。八百万ちゃんの答えを横取りしていったからには説明を引き継いでくれるってことでよろしい?
「あのときは、娃吹が確保されて核の回収は困難だった。かといって、プロ……ましてやNo.1を相手取って確保するなんざ夢のまた夢だ。正直、俺たちはどうすべきか分からなかった……。そんなとき、格上相手に自分の攻撃が通じたなんて希望をちらつかせられたら、誰だって食い付く。たとえ罠だと気付いたとしても……俺たちには縋る以外に選択肢はなかっただろうな」
「轟さん……」
待 て や (迫真)
その言い方にはちょっと悪意を感じるんですが。なにその悪役にしてやられたみたいな……いや、確かに
「……うん、確かに容赦なかったなぁ」
なんで感慨に耽ってんだァ!!
新米教師にアフターケア期待したわたしが馬鹿だったよ! お得意のジョークでこのしんみりした空気をぶち壊せよ! 笑ってフォローしてくれよ!! アカン、このままだと患者(自分)が死ぬぅ! いや待て落ち着くのよ奏、まだ卍解のチャンスはあるわ。そのまま月牙天衝してゴールにラストストロークよ。多分最終的には月島さんのおかげで何とかなるはずや。
ん? お茶子ちゃん? どうしたのそんな顔して。え、なに今の本当なのって? いや、そもそもその質問の意味が分からんのだけど。え、わたしが本当に意図して功策したのか? あー、うーん……間違っちゃないけど、というか大体全部正解だけども……。確かに念には念をかけて、轟少年の魔術の発動と同時にオールマイトにかけたパニッシュメント発動させたよ? 個性の発動を弱くする魔術で、オールマイトが劣勢になりやすいように仕向けたりもしたけどさ……あの、もっと言いやすい雰囲気ってあると思うのわたし。ボコられた当人が未熟さを戒めるように吐露して頭抱えてる途中よ? そんな中「そうなの~! 凄くないわたしぃ~?」とか流石に言えないわ。
ちょ、全員でこっち見んな! 何そのとんでもねぇヤツと同じクラスになっちまった的なsomethingの視線はァ! ただ逆算で動き読んだら棚ぼたの結果拾っただけなんですけど!? ハイそこのチャラい系ビリビリ男子ィ! 「さっすが入試1位の考えることは違うぜ……」って呟いたの聞こえてんだかんな!? なんでお前らわたしの事そんなにヨイショすんの!? 回を重ねるごとにわたしの安住の居場所が無くなっていくのは何故!!?
「……あの、もういいですかね? オールマイト、時間も押してるしそろそろ終わりませんか?」
もう無理この場にいるのもツライ……流れぶった切って悪いけど、そう口にするのは無理もないと思うのです……。早くシャワー浴びて帰りたいよホントに(切実)。というか実際に後数分で授業時間も終わるから。ね、早く終わりましょうオールマイト。ほらほら早く早く。ハリー! アップ!! モア!!!
「え……ッ!? あ、あぁ……そうだね。じゃあ、みんなお疲れさん! 緑谷少年以外は大きな怪我も無くて良かったよ! それから、轟少年たちもそう落ち込むことはない! 何故ならまだスタートラインに立ったばかりなのだから! 結果はどうあれ、君たちは諦めずに希望に向かって突き進もうと足を踏み出した。ならば、今度は今回のことを糧に自分の成長へ繋げるだけさ! 違うかい?」
「……はい」
「うむ! ヒーローを目指す者は挫折や絶望を乗り越えて一人前になっていく……感じた悔しさや不甲斐なさをバネにして自分のレベルアップに繋げていこう! Plus Ultraさ! それじゃあ、私は緑谷少年に講評を聞かせねばならないからね。着替えて教室に……お戻りぃいいぃぃぃいいぃぃーーーーーー!!!!」
すげぇ勢いで走ってったよ。え、何であんなに急いでんの? 帰りたかったわたし差し置いてそのスピードはなんか納得いかないんだけど。それに時間を指摘されて妙に焦ってたのは何故? あれかな。時間外労働とか厳しいのかな。今の時代残業は怒られるもんね。ヒーローなんだから人助けに残業もへったくれも無いかもしれないけど、超人社会の規律をヒーローが破ってたら元も子もないもんな。そう考えれば自然か。よし、わたしも着替えてさっさと帰りましょ!
「あ、奏ちゃん待ってよー!」
ぐふぅ!? せ、背中に素晴らしき双丘の感触が……あんなアウェー(?)な空気にした元凶によく話しかけられるねお茶子ちゃん。え、轟少年を完封するなんて凄い? いや、わたしはオールマイトにおんぶにだっこしてただけだし何も凄い事はしてないよ? そもそも、策を講じただけで蛙吹ちゃんにはボッコボコにされてたし。ちょ、褒めんの止まらないんだけどこの子!? しかも皮肉ならない真摯な称賛だから妙に心地が良いとかいう褒め上手っぷり。1人で速攻帰るつもりだったのに……こ、これは無下には出来ねぇ……!
わ、分かったから! 一緒に行くから褒めちぎらないで罪悪感で胃がああぁぁああぁ……!!
◇ ◇ ◇
「はぁ……はぁ……ッ!!」
Shit! 授業を一度受け持っただけで時間ギリギリ……キツイぜ……! だが、果たして授業と並行してヒーロー活動を行えるのかと問われれば快諾はできない。生徒たちと直接触れ合って授業をすることが最も好ましいんだが……対策も考えねばな。
「しかし……萬實黎少女のあの目は……」
『オールマイト、
シャイであまり話さない子かと思ってたけど……試験の仕組みを読み切った上で得た結果と考えるならばあるいは――。
「……ハハハ……考えすぎ、かな」
何を考えているんだ。生徒を疑うなんて……私にそんな資格はないだろう? そもそも隠し事をしながら対応しているのは私の方だ。申し訳ないという気持ちこそあれど、気付かれたかもしれないから不都合などといった雑念を抱くなど言語道断だ! 人を信じずして何が平和の象徴か……!!
『攻撃が効いてるフリがバレないよう、保険としてオールマイトの個性も調整しやすい様にしておきますね……ん? 思ったよりも……いえ、何でもありません。気にしないでください』
「……だと、いいけどね」
◇ ◇ ◇
また、妙なところで誤解が生まれていた。
何日かに分けて書いたから、イミフな点があったらすまない。
因みに轟vsオールマイト戦を丸々カットした理由は、魔術の効果が数十秒で切れたので正面から食って掛かった轟は一瞬で制圧された……ということで書く必要がないかなって思ったからです。手抜きと罵ってくれてもOK!(ズドン)むしろ正しいので反論の余地もねぇ……!
※投稿後、小説整理してたら間違って1回消しました。すみません。