「…本当にいいのか?」
手に取った資料を見ながらそう問う。
「はい。このままいいようにやられるわけにはいかないんですよ。」
夜のバーに二人の男の声が響く。
「お前も巻き込まれるぞ…」
「フレデリック少佐。私はあの会社、『デュノア』という名前に縛られ生き続ける人生はごめんなんですよ。あの時は母のためにやったが父の策略に気づけなかった私の責任でもあります。このまま奴のいいようにはさせません。」
そう話す男は手に持っていたグラスに入っているウィスキーを一気に飲み干す。
「それにリリアンに振り回される社員達を見てはいられない。私の居場所がないと思っているあの女と私を利用し、愛する妻と娘に苦しい人生を歩ませたあの男に報いてやる。『歯車』には『歯車』の意地があることをやつらに見せつけてやりたいのです。利用していた歯車が1つ噛み合わさなくなっただけでどうなるのかを。それに協力してほしいんです。」
男はゆっくりとグラスを置く。そしてフレデリックと呼んだ男に向き直り頭を下げる。
「………わかった。この資料は受け取ろう。」
フルデリックが男に渡された資料。それはこれまでデュノア社が行ってきた事。表では絶対に明かされてはならないことが書かれた資料。それをフレデリックは受け取った。もう一人の男は代金を払い店から出ようとする。その男をフレデリックは呼び止めた。
「アンドレ………」
ドアの前で止まる。自ら泥をかぶり、報われない人生を送り続けた男に対して、一人の軍人として、フランス陸軍の少佐として、かつての後輩に対して最大の敬意を払う。
「滅び行く者のために………」
グラスを持ち上げそう言った。
アンドレは振り向かず店から出ていった。
◇
店から出て、路地を歩く。これでよかったんだ。そう自身に言い聞かせる。思えば私アンドレ・デュノアの人生は散々なものであった。
産まれたところがデュノア家という多くの会社を持つ大企業の一人息子として産まれた。他の子供たちより裕福に暮らしていただろう。
母は優しかった。私に並々ならぬ愛情を注いでくれた。しかし、父は違った。あの男は私を息子ではなく道具と見ていた。私は決められたレールの上を歩くように教育されてきた。だが私は不器用だった。そんな私を罵倒し殴り蹴る。あの男は私を嫌悪していた。日常茶飯事だった。母だけは私の味方だった。だが、あの男は私の母でさえ罵倒した。
出来損ないの子供を産んだ女。
謝り続ける母を私は見ていられなかった。だから私は18の時に軍人になった。早く一人前になり、母を迎えにいこうと。
入隊したときは周りから馬鹿にされた。
金持ちのボンボン。
お坊ちゃん。
だから私は努力した。その中でアメリカのローガンさんと出会った。彼のお陰で私は自身の才能を伸ばすようにした。彼は私の手際の良さと、銃の取り扱いがうまいと。そのあとはひたすら努力し続けた。そして国家憲兵治安部隊に入隊した。
ただひたすら母を迎えるために努力した。
そんな中………彼女と出会ったんだ。
ベルトラム・リュシルに
彼女と出会ったのは町でだった。
買い出しに出ていた私は男に絡まれていた彼女を助けた。綺麗な金髪を後ろでくくり、目は綺麗なアメジストの色。小柄な女性であった。助けたお礼と言い彼女の家に招待された。彼女は独り暮らしだった。両親は早くに亡くし孤児院で育ったらしい。優しい老夫婦の営む店に住み込みで働いていると言っていた。
ほっとけなくなってしまった。
そのあとは何度も彼女を誘い食事に行ったり映画や劇団を見たりした。
その時の彼女の笑顔はとても可愛らしく綺麗だった。何もかもが初めての体験だと。…いつの間にか私は彼女に夢中になってしまっていた。
そして結婚を前提に正式に付き合い始めた。
そして家を出て10年、リュシルと付き合いはじめて5年が経った日、デュノア家から連絡が来た。
母が危篤であると。
私は急いで家に戻った。久しぶりに母を見たとき絶句した。体は細くなっており、髪の毛はすべて抜けていた。どうやら重い病気だったらしい。そしてあの男は私にデュノア家に戻ってきてほしいと言った。会社を継いで欲しいと。当時デュノア社は大きく傾いていた。私の助けがあれば母の治療ができる。あの男はそう言った。だから私は軍を辞めデュノア社の社長になった。
だが…………それが間違いだった。
何とかデュノア社を建て直し軌道に乗っていたときにリュシルが子供を身籠ったのだ。当然私の子供だ。嬉しかった。愛した彼女との間に出来た子供だ。名前も決めていた。女の子と分かり彼女と一緒に決めた名前『シャルロット』。小さな可愛らしい女の子と言う名前だ。きっと彼女に似て可愛い子になるようにと願いつけた。そして私はリュシルを母に紹介した。母はその時ある程度回復しており、医者からもよい方向に向かっていると言っていた。母は祝福してくれた。だがあの男はそれを許さなかった!あの男は私には許嫁がいるなどといい彼女を拒絶した。あげくの果てにあの男はリュシルに金目当てだろと言ったのだ。殴りかかろうとした私を彼女は止めた。
そして翌日彼女は何も言わず私の前から消えた。
そして私は今の妻リリアンと結婚した。
相手は貴族の娘。あの男に金が目当てで結婚させられた。そしてリリアンの性格は最低だった。浮気は勿論、金使いも荒い。だが、そんなことはどうでもよかった。
わたしはただ彼女を探した。
そして私が33になったときにあの事件が起きた。
『白騎士事件』
そして世間は女尊男卑。
リリアンも世間の色に染まり、傍若無人が悪化した。
そんな中、デュノア社もISの企業となり実質上リリアンとあの男がトップとなった。まさにあの男の計画どうりなのだろう。
そして5年後
母が亡くなった。
母は最後の時までリュシルの身をあんじていた。
そして最悪の事態は続く。
リュシルが亡くなったと彼女が住み込みで働いていた店の老夫婦から聞いた。
もう頭の中がぐちゃぐちゃになった。
愛する人を二人も失った。自失呆然となった。
しかし、まだ私の生きる希望があった。
シャルロットだ。
すぐにかつての仲間をたより彼女を探し出した。そして彼女を私の家に迎え入れるようにした。
シャルロットを初めて見たとき、私は声が出なかった。
リュシルにそっくりだった。
綺麗な金髪。
周りを癒す雰囲気。
だが、瞳は私と同じアメジストの色をしていた。
紛れもなく彼女と私の間にできた最愛の娘だ。
だが、リリアンが出会い頭に泥棒猫と言い彼女を叩いた。恐らくあの男が告げ口したのだろう。怒りに震え上がりシャルロットを部屋に案内した後、リリアンに怒りをぶつけた。
しかし、リリアンはシャルロットをいじめ始めた。
裏から彼女を守るためISの適正があるとわかったあと彼女をテストパイロットに選んだ。そしてなるべくリリアンに会わせないように訓練ばかりにさせ、周りの技術者やコーチなどは私の信頼している部下にまかせ、守るようにした。だが、彼女が日に日に弱々しくなっていくのが目にわかるようだった。
私もシャルロットを守るのに必死であの子と話す時間など無かった。
そして、デュノア社にも限界が来た。気に入らない奴は首にしてきたリリアン、ISのことを金儲けの機械としか見なかったあの男。
経営難になった。
もう限界だ。そう思ったときだった。
世界で唯一のIS操縦者の織斑一夏に続いてあのローガンさんの息子、バーナード君がISを動かした。
IS学園に入るのは分かっていた。あそこはいかなる国家や企業も手を出せない国家機関。あそこにシャルロットを逃がすほか手はもうなかった。
フランス軍に連絡、政府の知人とローガンさんに頼み彼の友人であるIS学園の学院長に頼みシャルロットを入学させた。勿論女の子としてだ。デュノア社では彼女をスパイとして潜入させると言った。
そして、シャルロットをIS学園に入学させた。
舞台は整った。
もう未来のないデュノアを私自身の手で叩き潰す。
◇
気がつけば彼女の住んでいた家の前に来ていた。
あの日から私は彼女をみていない。
逢いたい。
話したい。
もう一度でいい。
彼女を抱き締めたい。
どれだけ後悔しても、もう彼女は居ない。
後は私の罪を償うだけなのだ。
「『滅び行く者の為に』か………」
私にぴったりの言葉だ。
バーニィが……出てないだと……
ちなみにテーマは劇場版Ζガンダムのテーマソング~メタモルフォーゼ~を意識しました。
感想、評価、アドバイス、どんどんお願いします。