疾風迅雷   作:袈裟固め

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0章4話以来(だいたい6年半ぶり)のスキル描写。
忘れた人も忘れてない人も、もう一度見てきて頂ければ(宣伝)


16.『リヴィラの戦い』

それは、呼吸のように。

もしくは、手脚を動かすように。

エルはそれ(・・)の名は知らなかったが、ただ自分はそれを出来る(・・・)ということを知っていた。

 

武器を肩に担ぎ、片足を前に出して前傾姿勢。

狙う先は、この階層を踏み荒らす漆黒の巨人(ゴライアス)

エルの周囲には彼を中心として地面との間に稲妻にも似た現象が発生し、バチバチと小さく音を立て辺りを明るく照らし始めていた。

 

手順自体は簡単だった。

まずは自分の中に器を用意して、決めた時間でそこに力という名の水を溜めるイメージ。

蛇口を捻るように注ぐ量を調整して、その器を満たすことで発動条件を満たす。

 

ただ、コレ(・・)を使うに当たって厄介なことがいくつかある。

 

その器を丁度(・・)ぴったり(・・・・)と言える量で満たせなければ不発になるということ。

力を溜めている間は、不発としないかぎり他一切の行動が許されないこと。

器が満ちるのが、決めた時間より早まっても遅くなっても不発になるということ。

そして不発になった場合、それまで溜めていた力に応じて体力がごっそりと削られること。

 

要するに、使い処が極端に限られるのだ。

相手の注意を逸らすか、行動を抑制する味方が居て初めて選択肢に入ってくる程度。

端的に、使い勝手が悪すぎる。

 

けれど、発動さえ出来れば(・・・・・・・・)

とりわけ、今回のように単体の敵を相手取って使う場合には。

 

コレ(・・)は、絶大な効果を発揮する。

(およ)そ考えられるほとんどの相手を破壊可能な力と速度を得ることが出来る。

 

介入は一撃と決めたこの場面。

そして、標的(ゴライアス)はリヴィラの冒険者たちと戦っているこの状況。

珍しく、使い処としては非常に合っていると言えた。

 

注がれた(・・・・)力の量に合わせて、エルの周囲がさらに広い範囲で輝きを増していく。

加えて、辺りで爆ぜるように発生する稲妻も、その音量と範囲を拡大させる。

エルは、その身から力が溢れ出てくる感覚を覚えていた。

何故か背中が、呼応するように。この行動を後押しするように、強く熱を持っていく。

 

『―――――アァアアァ』

 

その時になって、漆黒の巨人(ゴライアス)は視界外で起こる異常に気付いた。

(にわ)かに明るさを増したことで視線を向けたのか、それとも(ほとばし)る力の奔流を感じたのか。

誰にも知る由は無いが、巨人はターゲットを壊滅寸前の冒険者の集団からエルへと変えた。

 

彼は迫るゴライアスに構わず、自分の行動(チャージ)を続ける。

まだ距離は十分に有るように思えた。

 

しかし、相手は巨人(・・)。その一歩は想像以上に大きかった。

 

彼我の距離は、ゴライアスが脚を踏み出す度に不安になる程縮まっていく。

急速に大きくなっていく巨人のシルエット。足音と共に伝わる振動が、より激しく、強くなっていくのをエルは感じていた。

 

そして、怪物が数歩踏み出した後。

十分に接近したと考えたのか、ゴライアスは眼前の獲物を握り潰そうとその大腕を伸ばし始めた。

飛び道具(咆哮)を使わないのは、接近しても逃げようとも抵抗しようともしない獲物一匹に使う必要が無いと考えたのかもしれない。

はたまた、魔力とも異なる力の奔流を過小評価したのかもしれない。

 

どちらにせよ、か細く鳴きすらもしない蟻のような小人を捻り潰すには問題無いように思えた。

 

「……っ」

 

間に合うか、間に合わないか。

迫り来る巨腕を前に、相当に微妙なタイミングではあったが、しかしエルには止める選択肢が思い浮かばなかった。

何故だか、このまま進めて良いという確信があったのだ。

エルは賭けにも似たこの状況で、自分の直感を信じ切ろうと決めていた。

 

そして、巨人の腕がエルをその掌に収めようとした―――その時だった。

 

「【―――今は遠き森の空。無窮(むきゅう)の夜天に(ちりば)む無限の星々】」

 

ボロボロにしたはずの冒険者達が居た方角。

そこから湧き上がったのは、新たな魔力の奔流。

 

一瞬、ゴライアスは動きを止めその方向に気を取られてしまった。

回復したとは言え、巨人は魔導士達やベルの魔法(砲撃)で相当なダメージを負ったのだ。

魔力を源とする魔法が危険だということは、強く本能に刻み込まれていた。

 

けれど、今。

その一瞬の迷いが、一人と一体の命運を分けた。

 

 

―――薄闇に包まれた18階層に、【雷】が(はし)った。

 

 

 

 

 

 

リューが自らの詠唱を開始したのは、もはや反射としか言いようが無かった。

五年前までの、アルとの共闘で染みついた反射。

遠く視線の先で輝きを増していく光が、【迅雷】のスキルだと確信した瞬間に身体が動いていたのだ。

 

アルは必ず、スキルのチャージ時間を生死を分けるギリギリに設定する。

それは、いつもの彼の悪癖とも言うべき考えの無さから来るモノ。

リューは、きっと今回もそうだろうといつの間にか考えて、必要と思われた陽動を始めていた。

 

『私達を頼りにしすぎです、アル。もっとスキルを発動する状況を選んで下さい』

『でも、今回も大丈夫だっただろ』

『そういう問題では―――』

『リューと皆を信頼してるんだよ。もしダメだったとしても観念するさ』

『……考え無しにやっているだけでしょう』

『いや、そんなことは無い……ハズ?』

『……アル?』

『はぁ。……やはり貴方様は脳筋で御座いますね』

『あ゙?』

『か、輝夜っ! アルっ!?』

 

詠唱を進める中で、リューの脳裏には記憶の中の一場面が想起されていた。

彼がある意味で、人任せに過ぎた当時。けれど、頼られる分には悪い気がしなかったあの時。

 

その想いが今、再びリューの心を満たしていた。

 

彼に足りない欠片を自分たちが埋めて、自分たちに足りない部分を彼が補完する。

そうすることで、立ち塞がるモノを屠り続けてきた。

それが今、この場所でもう一度。五年の時を経て、再び。

 

本音を言えば。

 

力が満ちていく(アルが居るかもしれない)あの場所へ、一目散に飛んで行きたかった。

あの小高い崖の上まで全速力で駆けて行って、彼の姿を確認したかった。

もう一度、彼と面と向かって逢いたかった。

言葉が尽きるまで話をしたかった。感情が果てるまで、想いを吐き出したかった。

 

けれど、それは今。少なくとも行動に移してはいけないことだと理解していた。

自分がここで詠唱を行うこと自体に意味があるのだ。

彼と離れた他でもないこの場所に、自分は居なければならないのだ。

 

リューは歯痒い想いを押し殺し、仕事に徹した。

詠唱によって魔力を起こし、巨人に自らの存在を不必要な程に誇示する。

 

結果として、ゴライアスの注意がこちらに()れた時、リューはこの駆け引きでの勝利を確信した。

 

そして、それとほぼ同時に。

 

 

薄暗闇に呑まれた18階層を引き裂く程の、強大な光が弾けた。

巨人の身体を斜めに突っ切るように、歪な光の筋が奔った。

 

 

それは、誰しもが目を覆いたくなるほどの(まばゆ)さ。光彩を焼き切りそうな凄まじい閃光。

 

激しい光と瞬きの静寂から一拍遅れて、エリアの隅まで轟くのは爆音。

崖から地面へ斜めに突っ切った落雷(・・)の威力を示すように、辺りには暴風が激しく吹き荒れた。

 

冒険者たちは皆一様に防御姿勢を取り、その傷ついた身体で必死に風圧から身を守ろうと試みる。

 

対して【雷】に打たれた漆黒の巨人(ゴライアス)

この階層に生まれ落ちた異常事態の怪物(イレギュラー)は、大腕を伸ばした状態で固まっていた。

それはまるで、動き方すらも忘れてしまったように。

 

暴風(かぜ)も止み、復帰の早かった冒険者の数人がその様子を疑問に思い始めた時。

 

思い出したように、ゴライアスの巨体は胸から上とその下でズレ(・・)始めた。

伸ばしていた腕も、掌から肩にかけて上下真っ二つに裂けていく。

 

そう。誰もの反応を置き去りにした【雷】は、文字通り獲物を切り裂いたのだ。

堅固な表皮すらも断ち切って、身体を横断するように。

 

けれど、それでも今回の敵には致命傷足り得なかった。

 

ゴライアスが持っていた高い自己治癒能力。

分断された身体の上側(・・)が切り離され始めたことで、ようやく。

その身体が思い出したかのように、喪われた部分の回復が素早く始まっていた。

 

しかし。

 

「―――【ルミノス・ウィンド】!!」

 

【疾風】は、それ(回復)を許さなかった。

味方の多くが傷つき戦闘不能に近い現状。

アルのスキルを補助した結果としてこの千載一遇のチャンスが訪れることまで予見した、陽動だけでなくその後のトドメまで見越した詠唱だったのだ。

 

リューの周囲に現出した無数の大光玉。

緑風を纏ったそれらが、巨人に向かって殺到する。

 

続くのは、絶え間なく響く爆音。

漆黒の体皮を焼き尽くすその威力は、回復を上回る速度で巨人を蹂躙した。

 

そして。

 

続いた『英雄(ベル・クラネル)の一撃』が、この階層に現れた異常事態(イレギュラー)との戦いに決着を付けた。

 

灰となって朽ちて行く漆黒のゴライアス。歓喜に湧く冒険者。

困難に立ち向かった各々を労い合う者達。

 

しかし、そんな中で【疾風(リュー・リオン)】は。

 

「アンドロメダ。後を、頼みます」

「え、【疾風(リオン)】っ? ―――あぁ、もうっ! 分かりましたよ!!」

 

端的な言葉で知己に後を任せ、返事も待たず先程【雷】の落ちた森の方角へ駆け出す。

巨人との戦闘で相当に消耗していたが、関係など無かった。

 

脚がいくら疲労していようが、身体がどれだけダメージを負っていようが。

そんなこと(・・・・・)よりも、自分にとって遥かに大事なことが有ったのだ。

何を差し置いてでも逢いたいヒトが、そこに居る可能性が有ったのだ。

 

(もっと速く―――もっと(はや)くッ!!)

 

今出せる全速力で、木々の間を駆け抜けるリュー。

気持ちだけでも、想いだけでも先に目的の場所へ届けと言わんばかりに。

限界に近い身体を酷使して、一寸の間も惜しんで前へと足を踏み出す。

 

少しして、辿り着いた目的地。

()の衝撃を受け、一帯の木々―――大木すらも薙ぎ倒され、巨大な窪地(クレーター)と化した場所。

 

肩で大きく息をしながら、【疾風】は素早く周囲を見回す。

 

―――そして。

 

その"爆心地"に程近い場所に、リューは目的の人影を認識した。

茶色の髪に、ほっそりと伸びた耳。細身ではあるが、力強さを覚える背中。

 

「―――アルッ!!」

 

気付いた時には、自分の口から叫ぶように言葉が放たれていた。

 




ヴェルフくんの見せ場奪うマン。この分はきっと他で活躍してくれるでしょう……。
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