こあパチュクエスト3(東方×ドラゴンクエスト3) 作:勇樹のぞみ
「ここはカザーブ。山にかこまれた小さな村です」
たどり着いたパチュリーたちを村の女性が迎えてくれる。
「まずは武器屋ですねっ」
「ちょ、ちょっと、そんなに焦らないで」
初めての買い物を今度こそしたい小悪魔は、パチュリーの背を押すようにして武器屋に向かう。
ロマリアからここまでの戦闘で、多少なりともお金は溜まっているはずなのだ。
モンスターから剥ぎ取った肉や毛皮、皮などを売り換金すると、確かにまとまった額にはなったが、しかし……
「た、高くて手が出ません……」
ということに。
「ううっ、お金が溜まるペースより、武器の値段がインフレして上がって行く方が速いなんて、世知辛すぎます」
RPGの世界の物価なんてそんなものではあるが、それだけではなく、
「まぁ、そうなるわね。スーパーファミコン版、ゲームボーイカラー版ならロマリアとカザーブの間にある第一すごろく場をクリアしさえすれば報酬として鋼の剣と500ゴールドが手に入るのだけれど」
この世界は携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむもので、すごろく場は省略されている。
ゆえに装備的にも金銭的にもファミコン版ほどではないにしろ厳しいのだ。
また、
「すごろく場が無くなった代わりに、ここカザーブの武器店で鋼の剣が売られているのね」
品ぞろえを見て感心するパチュリー。
鋼の剣は元々のファミコン版ではカザーブはもちろん、ロマリアでも店売りされていた武器。
しかしスーパーファミコン版以降のリメイク作では第一すごろく場のクリア報酬アイテムになり、さらに盤上のマスに止まった場合に使えるよろず屋でも買えるためか、アッサラームまで行くか、眠りからの解放イベント後のノアニールでしか買えなくなっていたのだが。
スマホ版以降ではすごろく場が削除されたためだろう、カザーブで店売りするようになっていた。
「そしてやはり第一すごろく場で商人も使える全体攻撃武器、ブーメランが拾えなくなっているのだからチェーンクロスを買いたいところよね」
チェーンクロスは敵1グループにダメージを与えるムチ。
鎖でできており、先端に分銅が付けられているものだ。
賢者、盗賊、商人、遊び人が使用できる。
一方小悪魔は、
「そうです! このカザーブで拾えるアイテムで金策をすれば!!」
「なるほど、ドラクエの勇者らしく民家のタンスからアイテムを…… 本当の勇者に目覚める日が来たというのね」
「なんですか、その勇者のイメージ!」
もちろん、
民間人らしき女性の悲痛な叫び。
彼女を押しのけて民家に押し入り、無理矢理クローゼットを開けるのは勇者と呼ばれる者だった。
女性「おやめください!」
勇者「あるじゃねえかよ! コインと剣がよ!」
女性「おやめください! 勇者さまっ!」
ナレーション「もう勇者しない」
というやつである。
「そんな風にして周りから向けられる冷たい視線に耐えることができるからこそ勇者って言われるんでしょう?」
「それって『ある意味勇者』っていう蔑称じゃないですか!」
「勇者には変わりないわよね」
「そんな勇者、嫌すぎます!」
まぁ、そうなるわけだが。
「せっかくだから隊列変更をして。さぁ、手始めに盗賊の鍵で道具屋の施錠された勝手口を開けて中に潜入するのよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい。心の準備が!」
実際には勇者一行には精霊ルビスの加護により、各家屋に棲み付いている
というより、
魔法使いであるパチュリーが持つ魔術的視野、セカンド・サイトには、この家付きの
紅魔館で働いているホフゴブリンと同一種だが、ここに居るのはアストラル体であるので常人の目には見えないのだ。
そして小悪魔もこの世ならぬ存在、悪魔であるがゆえに本来なら
つまり、
(パチュリー様がああ仰っていますから、本当なんでしょうけど……)
目に見えない、感じることができない存在に頼って、堂々と民家に不法侵入するのはためらわれる。
故に、
「ぱ、パチュリー様。その辺で時間を潰して夜を待ちましょう」
せめて夜中こっそり入りたいと、へたれることになる。
「そう?」
「よ、夜だけに得られるアイテムとか情報とかあるかも知れないじゃないですか!」
そういうことで村の周辺で時間を潰し、夜になったところで民家への侵入を開始する。
道具屋の裏手から施錠されたドアを盗賊の鍵を使って開けて中に入り……
「な、何か、かえって悪いことをしている気分になります」
などとぼやきつつも、
「何でしょう、コレ?」
手に取った布の装備をパチュリーに見せる小悪魔。
パチュリーはそれには手を触れずに見て、こう言う。
「……こぁ、あなた男の子だったら良かったのにね」
「なっ、何ですか急に! あっ、もしかして愛の告白ですか? パチュリー様が望むのなら私、男の娘になって結ばれるっていうのもやぶさかでは……」
頭の中ではウェディングベルが鳴り響き、花嫁衣裳を着たパチュリーと共にバージンロードを歩む未来を幻視する小悪魔。
私ちょっと男勇者でプレイし直してきます、と宣言しそうになるが、
「あなたが今着ている旅人の服より守備力が高いのよ、それ」
「はい?」
小悪魔は妄想を浮かべながら両手で握りしめていたものを、改めてびろーんと広げてみる。
ステテコパンツ。
「うえぇぇっ!?」
店主の、オッサンのタンスから出て来たそれ。
パチュリーが言うとおり、小悪魔が今着ている守備力8の旅人の服より上の、守備力10を誇る防具である。
ただし男性専用。
「レミリアお嬢様や妹様でしたら性別そのままでも、男水着チャレンジみたいにトップレスにこれ一つでもばれないかもしれませんが……」
男水着チャレンジとは、胸の小さな、性的特徴の乏しい女の子が男性用の水着を着用し、トップレスの状態で女性だと気づかれないようにプールや海水浴場など公共の場へ出るという無駄に高度な男装露出羞恥プレイのことである。
「身近な存在でそういう想像しないでくれる?」
パチュリーはげんなりした表情で使い魔に命じる。
それはそれとして、
「そもそも男勇者でも着れないですよ、これ!」
と小悪魔は叫ぶ。
そう、このステテコパンツを着用できるのは男性の戦士、僧侶、商人、遊び人、盗賊のみである。
さすがに勇者をパンツ一丁でうろつかせる訳には行かなかった模様。
「同じく勇者である父親は覆面パンツなのにね……」
つぶやくパチュリー。
「た、確かにファミコン版ではカンダタや殺人鬼なんかと同じ覆面パンツなグラフィックが使われていた勇者の父、先代勇者オルテガですが……」
小悪魔は言う。
「でもスーパーファミコン版以降のリメイク作では専用のグラフィックが与えられて、その汚名は返上されましたよね?」
厳密に言うと北米で発売されたNES版の時点で既にグラフィックは変わっていたが。
しかしパチュリーは首を振って、
「そう思えたのだけれどね。さらに後の作品『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』では、初代ドラゴンクエストで竜王の問いかけに「はい」と答えてしまったロトの血を引く者の成れの果てとして覆面パンツの『やみのせんし』が登場するわ」
つまり、
「子孫がこれということは先祖のオルテガもお察しという話よね」
メタな話をすれば、公式作品中でオルテガ覆面パンツ説を肯定しているということである。
「そ、そんなぁ……」
がっくりと膝をつく小悪魔。
なお、この時点で男盗賊が使えるのは守備力12の革の鎧が最上だから、資金を節約する場合はこのステテコパンツで行くという手もアリである。
さらにその場合、男盗賊の次の防具はノアニールを眠りから解き放って使えるようになった道具屋からみかわしの服を購入するか、ポルトガまで行って黒装束を購入するかまで待たねばならず、ずいぶんと長い間ステテコパンツ一丁の姿が続くことになる……
気を取り直し、
「道具屋の主人の両脇にあった宝箱、一つは棍棒だったけど……」
探索を続ける二人。
「もう一つの宝箱は毒針ですね」
パチュリーは毒針を手に取って見定めた。
「毒針は武器のようね。これで急所を狙えばどんな強い魔物もいちころでしょうね」
「どんな武器でも急所を刺されたら死ぬと思いますが……」
かんざしとか、先を研いだ自転車のスポークとか。
しかし、
「あら? 私たちの中にこれを装備できる人は、一人も居ないみたいね」
毒針は魔法使いと盗賊にしか使えない。
「お店に持って行けば7ゴールドで売れるわね」
ということで換金して資金源にするしかなかった。
次いで向かった酒場の二階の寝室、小悪魔はまだ起きているマスターを気にしつつも樽の中にあった命の木の実を。
タンスから毛皮のフードを手に入れる。
「ふわふわですねっ、守備力もパチュリー様が身に着けているターバンより上ですし」
ケープと一体になった、可愛らしい物だ。
こちらは女性専用品。
そのまま出ようとするが、ふとベッドで息子と共に寝ている女性が何か寝言を言っているのに気付く。
「お止めくださいませ! 主人が見ていますわ!」
いきなり叫ぶ女性にびっくり。
女性も自分の声で目が覚めたらしく、顔を赤らめ呟いていた。
「あらいやだ。寝ぼけちゃったみたい……」
そしてパチュリーは、
「今の聞きました、パチュリー様。あの人、村の入り口で私たちに声をかけてくれた女性ですよ。いわばこの村の顔、代表のような一般女性じゃないですか。その人が実は夫が居て、子供が隣で寝ている寝室で熟れた身体を持て余す人妻だったなんて。しかも見ている夢、つまり内に秘められている願望は夫の目の前で寝取られるという内容! 昭和の時代に作られた、小学生もプレイする全年齢ゲームにこんな濃い性癖を突っ込んで、その後もアッ〇ルチェックがあろうとも自粛して削除したりせずに頑として残し続ける……」
などと早口で言いまくる小悪魔を慌てて外に連れ出す。
「全国一億五千万人のドラクエファンの皆さんに寝取られ性癖を埋め込む。だからなんですね、幼少の頃、ドラクエ3をプレイしてこんなことで性の目覚めを感じた人たちが大人になり、自分がクリエイターに、作る側に立つことで、寝取られものというジャンルが花開いた」
「そんなわけ無いでしょう! そういうのはもっと古くから、ギリシャ神話や源氏物語なんかで触れられてるから!」
嫌々ながら、頭の中の書籍データベースからそういう事例を拾ってきて反論するパチュリーだったが、小悪魔の興奮は収まらず、逆に燃料を投下されたとでも言うようにまくしたてる。
「そう、寝取られは歴史ある文化です! 恋愛の国フランスでは「寝取られ男」の事を「コキュ(cocu)」と言い、コキュを主題とした文学や芝居などが昔から盛んに発表される「コキュ文化」というものがあって……」
「うるさい、黙れ」
真夜中の村、興奮する小悪魔を落ち着かせるのに、パチュリーは人気のない場所に向かう。
具体的には墓地。
そこには……
「パチュリー様? な、何だかお墓に骸骨が居るように見えるんですけど」
「頭は冷えたかしら?」
「この場合、冷えるのは頭じゃなくて肝だと思います……」
小悪魔が勇気を出して骸骨に声をかけてみると、彼は素手で熊を倒したと伝えられている昔の武闘家だった。
しかし実は鉄の爪を使って熊を倒していたのだということを話してくれた。
「道具屋さんが毒針を隠し持っていましたから、てっきり盗賊あたりが「地獄へおちろー!」とか言いながら、ぷすっ、てやっちゃったかと思ったのですが……」
「まぁ、そう考えても不思議は無いわよね」
ともあれ墓の前の地面から小さなメダルを回収。
「これで10枚目ね」
「良かったですね、パチュリー様」
「ええ、これでようやくガーターベルトがもらえるわ」
「パチュリー様のがーたーべると……」
「こぁ?」
「今すぐアリアハンに帰って交換しましょう!」
パチュリーが止める暇も無く、キメラの翼を使ってしまう小悪魔。
アリアハンに跳ぶと街の端にある井戸に。
ロープを伝って降りて行った先の建物では、小さなメダルを景品と交換してくれるメダルおじさんが待っている。
「よし! これでこあくまはメダルを10枚集めたので、ほうびにガーターベルトを与えよう!」
前回以降、新たに集めた小さなメダル五枚を渡すと、代わりにガーターベルトを渡してくれた。
「こあくまからは現在10枚メダルを預かっておる。これが15枚になった時は刃のブーメランを与えよう。がんばって集めるのじゃぞ!」
そしてまた勇者の実家で身体を休めることにした二人だったが、
「何でガーターベルトを持って、にじり寄って来るの!」
「もちろんパチュリー様にガーターベルトの付け方を教えて差し上げるためですよ。知ってました? ガーターベルトのベルトは、下着の下を通すんですよ」
「それぐらい知ってるわ! でないとトイレの時に下ろすことができなくなるじゃない!」
顔を真っ赤にして叫ぶパチュリー。
「その反応…… 実はトイレで困って間に合わず、おもら……」
「うるさい、黙れ」
冷え冷えとした視線を小悪魔に向けるパチュリー。
そう、養豚場のブタでも見るかのように冷たい目である。
しかし、そんな仕打ちであっても、
「ああっ、そんな目で見られたら、濡れちゃいますっ!」
小悪魔にとってはご褒美にしかならない……
「……それじゃあ、精算してみましょうか」
パチュリーは諦めた様子でそう言うと、棍棒、毒針などを処分し、小悪魔が勝手に使ってしまったキメラの翼を買い足したりした上で、それぞれの所持金を計算する。
前回の精算時の計算が、
小悪魔:347G
パチュリー:309G
「それでここまでに戦い等で得た収入が156ゴールドで、一人当たり78ゴールドの配当だけど」
小悪魔:425G
パチュリー:387G
「そしてあなたに使ってもらう毛皮のフードの売却価格は187ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の93ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」
「あ……」
「でも今まで使っていた木の帽子は105ゴールドで売れるから」
「12ゴールドの黒字ですね、良かった……」
「つまり、こういうこと」
小悪魔:437G
パチュリー:480G
「そして装飾品のガーターベルトだけれど」
「これはもちろんパチュリー様のものですよね!」
ガーターベルトは、守備力を+3する上、装備中は性格を『セクシーギャル』に変える効果を持つ。
これでパチュリーを淫乱セクシーギャルにした上で主従逆転、借金奴隷に……
と小悪魔が妄想したところでパチュリーがあっさりと言う。
「私は使わないわよ」
「はい?」
「商人は、1に体力、次に力が何より必要。ガーターベルトを装備して性格をセクシーギャルに変更してしまうと、そこが伸びなくなるし」
ということ。
「それにカザーブへの移動でも、あなた危なくて安全策を取って戦闘中に防御して治療とか必要だったでしょう。レベルアップしてもヒットポイントはちっとも伸びないし」
「パチュリー様の、商人のヒットポイントの伸びがおかしいだけですよ! 私は普通、いえヒットポイントはある方ですよ」
「そうかも知れないけど、あなたの守備力の強化を優先的にしないといけないのは確かでしょう?」
「そ、それはそうですけど……」
そんなわけでガーターベルトは小悪魔が身に着けることに。
「ガーターベルトの売却価格は975ゴールド。これは二人に所有権があるから、半額の487ゴールドを私に払えば自分のものにして使うことができる」
「高っ!?」
「これで清算すると」
小悪魔:-50G
パチュリー:917G(+未払い分50G=967G)
「あ、ああ…… 買い物ができないどころかまた借金が……」
がっくりと膝をつく小悪魔。
パチュリーはというと、
「鎖鎌を下取りに出せば、カザーブでチェーンクロスが買えるわね」
というわけで翌朝にはキメラの翼でカザーブに行き、チェーンクロスを購入することに。
最終的に二人の装備とパラメーターは、
名前:パチェ
職業:しょうにん
性格:タフガイ
性別:おんな
レベル:7
ちから:18
すばやさ:17
たいりょく:45
かしこさ:12
うんのよさ:8
最大HP:90
最大MP:24
こうげき力:45
しゅび力:32
ぶき:チェーンクロス
よろい:かわのよろい
たて:かわのたて
かぶと:ターバン
そうしょくひん:なし
名前:こあくま
職業:ゆうしゃ
性格:セクシーギャル
性別:おんな
レベル:6
ちから:25
すばやさ:26
たいりょく:18
かしこさ:16
うんのよさ:14
最大HP:35
最大MP:31
こうげき力:43
しゅび力:34
ぶき:とげのむち
よろい:たびびとのふく
たて:なし
かぶと:けがわのフード
そうしょくひん:ガーターベルト
という具合に。
「私、勇者のはずなのに、ヒットポイントだけでなく、とうとう攻撃力まで商人のパチュリー様に抜かれてしまいました」
「リメイク版だとムチやブーメランなんかの複数攻撃できる武器を優先して入手するべきなのだけれど、チェーンクロスは勇者には扱えない武器だものね」
だからこの辺で逆転が起こるのだ。
「スーパーファミコン版やゲームボーイカラー版だと、すごろく場でブーメランが手に入っているから攻撃力は低くとも全体攻撃ができるということでまた違った優位性が主張できたのでしょうけど」
「すごろく場が無くなった携帯電話版から続くスマートフォン版、PlayStation 4・ニンテンドー3DS版の流れをくむこの世界では?」
「ブーメランの入手はノアニールの村を目覚めさせた後。多分、小さなメダルをあと五枚集めて刃のブーメランを入手する方が早いわ」
ともあれ、これで所持金は、
小悪魔:-50G
パチュリー:157G(+未払い分50G=207G)
ということになるのだった。
カザーブって山間の小さな村なんですが、これだけネタが膨らむとは、相変わらずの小悪魔でした。
主従逆転を狙うどころか、勇者でありながら商人にヒットポイントだけではなく強さまで逆転されているというのが現実なんですけどね。
次回は眠りの村、ノアニール行きですけど、この分だとお金が無くて装備が買えずに商人の足を引っ張る勇者などといった展開があり得そうですね……
みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
今後の展開の参考にさせていただきますので。