子連れ少女は生き延びたい   作:ちゃっぱ

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第壱章 絶望しかない旅路
プロローグ 世の中本当にクソだからこうなった


 

 

 

 

 

 悲鳴と死に絶えていく音が鳴り響く。

 生まれた時から決まっていた贄としての役割が、彼女の心を殺していた。

 

 彼女の感情は死んでいた。周囲に色なんてなかった。

 良すぎる耳に響く残酷な音が彼女の心を殺していった。

 

 

 初めて揺れ動かしてくれたのは、たった一人の弟だった。

 

 

 

「あうー」

 

 

 

 その音だけが、優しかった。

 それだけの音で、彼女の心が生まれたのだ。

 

 

 

 ああ守らなければと、つい思ってしまった。

 一筋の涙が零れ落ちた。

 

 

 人形だった彼女にとって、それが初めての感情だった。

 守らなければと思える心はあれど、守るという感情すら初めてだった彼女にとって、戸惑いしか生まれない。

 それほどまでにも、弟は尊い存在だった。

 

 

 伸ばされた小さな紅葉の手が彼女の指を掴む。

 そうしてただ小さく笑った。

 

 

 たったそれだけのことに、彼女の心は揺れ動いた。

 赤ん坊の笑顔に救われた。

 

 

 

 世界が色鮮やかに見える。

 生まれて初めて、生き物が発する音を綺麗だと感じる。

 そんなことを教えてくれた弟を救いたいと心から思えたのだ。

 

 

 でも、守ろうと思っていても弟は死んでしまう。

 このままだと奴らによって命を落としてしまう。

 

 

 

 

 だから彼女は、弟を救えるよう強く願った。

 人形ではなく人間として生まれ直したいと強く願った――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その結果がこれだよ。

 

 

 

 

 

「あーあー」

 

 

 

 

 転生なんてクソ喰らえ。

 性転換なんて状況を作りやがった神は死んでしまえばいい。

 

 そう思えるほどに、この世界は魑魅魍魎に満ち溢れていた。

 

 

 

 

「ああクソ。世の中クソすぎる。死ねばいいのに……」

 

 

 

 

 しかし死にそうなのは俺と弟とはどういうことなのだろうか。

 

 

 

 

 状況を整理しよう。

 

 前世を思い出したのは良いが、そのせいでより俺と弟がやばい村で生まれたと理解してしまい白目を向いたのはつい最近の事だ。

 というか、俺たちの状況がまずやばい。

 

 

 ここは、人間の養殖場だ。

 餌と呼ばれている人間と、鬼と協力して家畜を育てている畜生な人間が住む村だ。

 

 

 時代は大正……らしい。

 俺の住む村は何故か鬼と呼ばれている化け物が管理しているという場所。

 山奥の廃村のような場所だからか、外からくる余所者なんてめったに来ない。

 

 

 鬼が俺たちを管理していたのだ。

 養殖のように、ただの餌として認識しては増やしていたのだ。

 

 

 ただの餌として産み落とされた俺。

 もちろん餌として生まれた身だから奴隷よりひどい扱いを受ける。

 

 

 両親でさえ目が死んでいるし、知性も何もなくただその場にいるだけの存在だ。俺と弟を生んだからそろそろ餌にしようという話を聞いた。

 俺も前世の記憶を思い出さなければ両親のように死んだ目になっていたのだろう。

 

 

 ……しかし、両親を助けることは無理だ。

 俺と弟を産み落としてくれたと分かる人たちだから子供の俺が助けないといけないのは分かっているのに、助けることが不可能だと諦める程度には現状は地獄だった。

 

 

 弟である赤ん坊を守るだけで精一杯な俺が鬼相手に敵うわけはない。

 あいつらは化け物だ。生まれてからよく聞こえすぎる音がそれを教えてくれるのだから。

 

 

 俺たちなんてただのおやつのようなものとして喰らうと遠くから言っているのが聞こえた。だから今は弟を守ることを優先した。

 

 

 俺は、両親を切り捨てることを選んだ。

 

 

 だって、数か月前に生まれた弟に対して、数えで七つの年になってから食べるという話をされたのだ。

 鬼にその身を捧げ、一生を尽くして生き長らえようとする人間の畜生どもから。

 

 

 

 それはもう気持ち悪い音を奏でながら。

 

 

 

 

「うぅー……」

 

「よしよし、大丈夫だぞ。お姉ちゃんが守ってやるからな」

 

 

 

 前世では男だったけれど、今は生まれ変わって性別が女になったのだからお姉ちゃんと呼ばせるのは仕方ないことだと思っている。

 どうせ平均以下のガリガリの体形だ。

 嫁に行くわけでもないし、女らしくするつもりもない。

 しかし、弟も成長するのだ。将来の事も考えて姉と呼ばせることに決める。

 

 でも女になっても変わりはしない。

 もうあんなひどい目に遭いたくはない。弟をあんな地獄にはおいていけない。

 

 

 だから俺は弟を連れて逃げ出した。

 

 鬼の手先である人間どもと鬼たちは餌を気にすることはない。

 いや、逃げないと思いきっているのが正しいだろう。

 

 

 生まれてからずっと餌としてしか生きられないと分かっているからか、その対象は心の音がしない。何の感情もなく、生きようと足掻く気も起きずに呆然と食べられるまでの日々を送る。

 だから扉は空いていた。

 外へ出られる道があった。

 

 人間たちは鬼を警戒し、外へ出ることはあまりなかった。

 鬼は太陽が昇っている間は絶対に来なかった。

 

 

 だから、俺と弟が逃げ出すのはそんなクソみたいな状況のおかげだった。

 

 

 

「さあ行こう」

 

「いう!」

 

「行こうって言ったのか? よしよし偉いぞ! でも最初に喋るならまずお姉ちゃんのことを呼ぼうなー」

 

「なー?」

 

 

 

 俺と弟の名前はない。

 ただの餌に付ける名前なんてない。

 

 前世の名前は、今の両親と餌と呼ばれた他の人たちを切り捨てたのと同時に全て捨てることにした。

 俺の罪はちゃんと背負って生きていく。忘れない。忘れてはならない地獄がいつか救われることを願っておく。

 

 

 これから健やかに成長するであろう弟のためにも、俺は前へ生きていくんだ。

 俺はお兄ちゃんであって、お姉ちゃんなのだから。

 

 

 二人しかいない現状でなら、名前なんて必要ない。

 

 

 いつか必要になった時に渡してやろう。そう決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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