子連れ少女は生き延びたい   作:ちゃっぱ

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お姉ちゃんがいない未来へ拍手を

 

 

 

 

 何が起きたのかは分かっていない。

 ただ急に森の中にいた。

 

 血濡れの修羅場。

 殺し合いの真っ最中。

 

 

 その中央に現れた俺を鬼が喰らおうとしてきたけど、すぐに切られて死んでいった。

 

 まあそれで、よく分からないうちに事態が収束して……。

 

 

 ――――で、だ。

 

 

 

「どうしてこうなったんだああああああああああああっ!!!!!」

 

 

「うるせえ雌逸!」

 

 

「誰が雌逸!? つーか弟はどこ!!?」

 

 

 

 弟を探すためにここから離れようとすると、誰かに肩を掴まれた。

 でもその手を振り払えないぐらいにはその少年から優しい音がしていて……。

 

 

 

 

 

「待ってくれ。ちゃんと説明するから!!」

 

 

「説明って何だよ!?」

 

 

「実は―――――」

 

 

 

 額に火傷の痕らしきものがある少年、炭治郎が教えてくれたのは意外な話だった。

 

 

 とある血鬼術を受けた対象が、血の通った一番身近で大切な誰かの幻影を見せるというものがあったらしい。

 しかし鬼たちの乱戦。そして連続して起きた意味不明な血鬼術の重ねによって爆発が起こり、ただの一般人を庇ったこの時代では珍しい金髪の少年がそれを喰らってしまった。

 

 爆発が消えて、弟にそっくりな音をした金髪少年から出てきたのが俺、ということになるよう……だ?

 

 

 

「いやマジ意味分かんねえよ!! つーか俺の弟は何処だよ!!!?」

 

 

「お、落ち着いてくれ。冷静に話し合おう!」

 

 

「これが落ち着けるかあああああああああっっ!!!!」

 

 

 

 

 炭治郎からは優しさの権化かってぐらい綺麗な音が流れているけどなぁ!

 俺の顔見て引き攣った笑み浮かべてんの分かってんだからな!

 

 あと面倒だって木に頭突きするようになったそこの猪頭の少年! 伊之助くんが最後にかぶったものに似てるようだけど違うかな!?

 違うんだったらいいな!

 

 

 それとそこでなんか白目剥いて気絶してる金髪の弟似の少年を比べんじゃねえよ!!

 

 

 

 

 弟は、黒髪なので!!!

 

 まだ幼児ですので!!!!

 

 

 

 

 

「善逸は何処だごらぁあああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 善逸に似ている男は鬼に攻撃されたか何かされたらしく気絶し、俺のことも含めて蝶屋敷という名の場所へつれてこられた。

 

 

 そこで詳しく分かったのは、俺が過去から来てしまったかもしれないという話だった。

 

 

 鬼たちが直前に行った行動。複数の力の混ざり合いによる爆発。

 そしてそれを喰らってしまったことによって何かの力が強力な作用を引き起こし奇跡が起きて俺が出てきたということ、らしい。

 

 

「血鬼術は鬼を斬ったので消えるはずですよ。毒じゃない限りはね」

 

「ひぇっ」

 

「ああ大丈夫ですよ。あなたが受けたのは毒じゃありませんから」

 

 

 可愛らしい蝶の飾りを髪に付けた美しい女性が笑いかけてきた。

 

 だからこの術はいつかちゃんと解けて、元の過去へ戻るらしい。

 

 

「もしかしたら過去に戻れば未来にいた時の記憶はなくなっちゃうかもしれませんね」

 

「えっ?」

 

 

「うふふ」

 

 

 なんか怖いことを言ったような気がしたけれど、とにかく理解はできた。

 

 

 鬼には血鬼術と呼ばれる不思議な力を使うことが出来る。

 

 それを使って人を地面に沈めては喰らい、糸でぐるぐるに巻いては溶かして喰らいとまあいろいろと捕食に対する力だと思っておいた方が良いという話は聞いている。

 

 

 

「未来の弟さんに会われますか?」

 

 

「それは―――」

 

 

「病室ぐらいは案内しますよ。あとは自分の意思次第です」

 

 

「……はい」

 

 

 

 

 信じたくはないが、周りの音は真実しか告げていないと俺の鋭すぎる耳が教えてくれる。

 嘘ではないのなら、この金髪の少年こそ俺の弟なのだろう。

 

 ――――善逸、なのだろう。

 

 

 

「そっか……」

 

 

 

 ようやく己の心境を理解した。

 だから弟を見て即座にそうだと思えたのに、何故かそうじゃないと否定したくなったのだ。

 

 金髪で毛先が蜜柑のような色になってしまった髪と、成長し逞しい男になった弟が、あの俺の後ろをついて来る善逸だと思えなかった。

 立派になったねぇと別の感情もあったけれど、弟だと思いたくなかった。

 弟を否定するだなんてお姉ちゃんは失格だ。

 

 でもそれが、真実だ。

 

 

 だって納得が出来なかったのだ。

 それが本当だとすれば――――とても嫌な事実に気づいてしまう。

 

 俺が未来から過去へ入れ替わったのならともかく、なんとなくそうじゃないと理解してしまった。

 

 

 未来の世界にて、弟の傍に俺がいない。

 

 

 お姉ちゃんが弟から離れてどこかへ行くだなんて有り得ないから、俺という影は、欠片も見当たらないことに不安を感じる。

 

 

「ぜんいつ……」

 

 

 

 決意をして病室へ入ると、そこにいたのは心配そうな顔で気絶した彼を見舞う炭治郎さんと、顔には出てないが音だけは不安そうにしている伊之助くんだった。

 

 

 ベッドに横になって眠っている彼を見ていても、弟だという実感はなかった。

 

 いや、理解はしているのだ。

 心の音も泣きたくなるほど同じだし、顔もそのまま大きくなった感じだし。

 

 

 ただ、嫌な予感があった。

 弟が一人でここにいる現状に、寒気がした。

 

 赤ん坊のころに会ったはずの伊之助くんが俺を初めて見たという顔と同じように、彼もまた俺を知らないのだろうかと。

 

 

 だから、俺の横で一緒になって善逸の看病をしてくれている優しい音を奏でる少年――――炭治郎さんを見た。

 

 とても優しい音をしているから、嘘をついてはこないはずだ。

 

 どんなに残酷でも、ちゃんと教えてくれるはずだと……。

 

 

 

 

「あの、炭治郎さん。善逸は、彼自身の家族について何か言っていましたか?」

 

 

「それは……」

 

 

 

 彼は言いづらそうに、困ったような笑みを浮かべた。

 

 その顔だけでわかった。

 音を聴いて、理解してしまった。

 

 

 ああそうだ、それが現実だ。

 

 

 俺が死なない奇跡なんて当然、起きるわけはなかったんだ。

 

 

 

 ――――そんな刹那、だった。

 

 

 

 

「う……うぅ……あぁぁぁぁ! 俺死んだ! 死んだ!?」

 

 

「いやまだ死んでないぞ善逸!」

 

 

「まだってことはいつか死ぬってことじゃんかー! 何でベッドに寝てんの俺ぇー!! い゛や゛ぁ゛ぁ゛ーー!!!」

 

 

「うるせぇ逸門!!」

 

 

「俺怪我したの!? それともまた毒!!? どっちなんだよ答えてくれよ炭治郎!! 伊之助ぇー!!」

 

 

「お、落ち着いてくれ善逸!」

 

 

 

 

 もぞりと起きた善逸を見る。

 彼はまるで弟と離れたくない俺のように喚いては炭治郎さんを困らせていた。

 

 伊之助くんに煩いと頭を殴られ怒鳴られ、ようやくこちらを見たのだ。

 

 

 

 

「君はだれ?」

 

 

 

 

 善逸は、俺を知らなかった。

 

 その心の音を聞かれたくはない。

 でも聞こえてしまったのかもしれない。

 

 だから俺は精一杯笑った。

 

 

 隣で複雑そうな表情を浮かべた炭治朗さんの顔を見ないようにして、ただ純粋に挨拶をした。

 

 

 

 

「はじめまして善逸くん。是非俺と仲良くしましょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 善逸にとって、琴音は不思議な少女だった。

 

 鬼のせいでいつの間にか森のなかにいたらしい彼女を蝶屋敷で世話をすることになったためか、よく善逸のそばに来てはあれやこれやと世話をしてくるのだ。

 

 もちろん善逸だけでなく伊之助にも少し似たような愛情を込めてよく世話を焼いている。

 

 しかし違う。

 伊之助と己を見る目は、明らかに差がある。

 

 

 伊之助を見る目には後悔の色も少しだけあった。

 でもこちらを見る目は、はっきりと分からないほど複雑だった。

 

 

 己を見るときの彼女の音は不思議だと善逸は感じていた。

 まだ一桁であろう年齢の少女が、まるで通りでよく聞いている子を見る母親のように綺麗な音を奏でてくるのだ。

 

 それと同時に、悲しい音も聞こえていた。

 

 

 

 酷く泣きたくなるほどの悲しい音を、また己に向けて奏でてくる。

 

 

 

 それがとても不思議で―――でも、何故なのかを聞くことが出来ずにいた。

 

 

 この瞬間までは。

 

 

 

 

「なあ善逸、頼みごとがあるんだがいいか?」

 

 

 

 

 炭治郎は分かっていたかもしれない。

 だから、感謝してもしきれない。あいつ本当に優しい奴だな。

 

 

 頼みを断りきれず向かった先にて、何故か急に泣きたくなった。

 

 

 

 庭が見通せる廊下に座り、鬼殺隊のカラスを見ながら歌を歌う少女。

 その音に、聞き覚えがあった。

 

 

 歌い終わったあとにまた別の歌を歌う彼女に、懐かしみを感じてしまった。

 

 

 

 

「幸せなら手を叩こー」

 

 

 

 

 無意識のうちに、己の手が動く。

 

 パチパチと鳴らしてしまった音に気づいた少女が廊下の先にいる善逸を見た。

 

 

 なぜ拍手をしてしまったのか己の行動が理解できていない。

 でも、なんとなく懐かしいと感じたのだ。

 

 まだ物心がつく前に、大切な誰かが歌ってそれを聞いていたような、気がして……。

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 少女は泣いていた。

 真ん丸の瞳が涙で揺れていて、しかし心の音だけは綺麗な歓喜に満ち溢れていたのが伝わった。

 

 何かを悲しんでいる音も、己に向かって優しく包み込むような綺麗な音も聞こえていたのだ。

 

 

 

 

 

「……ねぇ善逸、お姉ちゃんとたくさんお話をしようか」

 

 

 

 

 年下なのに、何故お姉ちゃんと言うのだろう。

 

 何故それが、しっくりくるのだろう。

 何故こんなにも、泣きそうな気持ちになるのだろうか。

 

 

 

 

「お姉ちゃんに聞かせて欲しいな。あなたがどんな人生を歩んできたのかを」

 

 

 

 

 何故こんなにも、彼女から目が離せないのだろうか。

 

 

 

 

 

「ねえ善逸」

 

 

 

 

 

 善逸はただ、少女にすがりつきたい気持ちでいっぱいになった。

 

 

 少女を抱き締めて、心に溢れる言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「―――姉ちゃん」

 

 

 

 

 

 その言葉に、彼女は泣きながらも静かに笑った。

 水のように澄んでいる、とても綺麗な音だった。

 

 まるで爺ちゃんのような、深い深い愛情の音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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