子連れ少女は生き延びたい   作:ちゃっぱ

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番外編が邪魔だと思えたらすぐ消しますね。



では本編の続きです。よろしくお願いします!




第弐章 炎柱の■■■な少女
第八話 不協和音


 

 

 

 

 突然だけどうちの弟が可愛すぎて死ねる件について。

 

 

 

「幸せなら手を叩こー」

 

 

 

 

 俺が歌うと、小さな足で歩く弟が俺を見上げて両手を叩いた。

 

 

 

 

「ぱちぱち」

 

 

 

 ああ可愛い。

 その小さな手で叩いているのだけでも可愛いのに、口でもパチパチとか!

 舌っ足らずに可愛い声でぱちぱちとか!!

 

 

 はぁぁー可愛すぎじゃねえうちの弟!

 これがうちの弟なんだよ信じられるか!?

 

 

 

 しかしそれだけじゃない。

 弟の可愛い行動に思わず身悶えそうになる。

 

 

 

「ねーちゃ?」

 

 

 

 こてんと首を傾けるその姿はまるで小動物のようだ。

 

 

 

「う゛、んん……なんでもないよー」

 

 

「ほんとに? ねっ、ほんとにどしたのねーちゃ?」

 

 

「んんっ……ほんとうに、何でもないよー」

 

 

「でもへんなおとしてる」

 

 

「変な音?」

 

 

 

 首を傾けると、俺の足元にいる小さな善逸がまたもこてりと首を傾けた。

 

 

 

「ばくばく。……どきどき?」

 

 

「ああ、やっぱり俺の弟だな。姉ちゃんの心臓の音が聞こえてるんだろー?」

 

 

「んっ!」

 

 

 

 可愛い。

 ついデレッと顔を緩ませるぐらいには可愛い。

 

 この純粋な弟には綺麗な音しか聞かせたくなくなる。

 ハッ。そういえば俺の音って汚い……汚い!?

 

 弟が成長していくのを間近に感じられて幸せの絶頂期なんだけど弟は大丈夫なのか!?

 

 

「しぁわせにゃらてをたたこー。ぱちぱち」

 

 

「はぁ可愛い」

 

 

 

 もういいや。弟が可愛いし、音もちゃんといつもの綺麗な音だし。

 幸せだと思っているのは姉ちゃんだけじゃないはずだ。

 

 

 ああ、この幸せが長く続くことを祈ろう。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「あーっと……」

 

 

 

「ひぅ……」

 

 

 

「だ、大丈夫だよ。お姉ちゃんがついてるからねー」

 

 

 

 思わず引き攣った顔で家の門前を眺めるのは仕方ないと思いたい。

 

 

 

 炎柱様の家に来たのは良いが、その家の中は酷く悲しい音が響いているのだ。

 

 

 誰かが死んだような気配はない。

 しかし、何かに絶望している音はする。

 

 その音を中心に心配しているようなものと、不安を抱えている音が不協和音となって響く。

 家の雰囲気は普通だというのに、その音を聞いているだけで恐怖の館っぽく見えてしまって中へ進む勇気が出てこないのだ。

 

 帰りたい。でももう帰るべき場所はない。

 

 

 

 

「ねーちゃ。ねえちゃっ!」

 

 

 

 

 ギリギリという嫌な音は善逸にも聞こえているのだろう。

 

 俺の脚にしがみついて離れない善逸は、大きな目をうるうるとさせて必死に俺の顔を見上げてきていた。

 

 弟からは必死な音が響いている。

 不安と恐怖が入り交じった音だ。その音をさせてしまったことに罪悪感を感じつつも、俺はただしゃがみこみ右手で弟の頭を撫でることしかできない。

 

 

 

「ねーちゃ。こここわい。かえろ?」

 

 

「んーでも帰る家無くなっちゃったからなー」

 

 

「ぴぇ」

 

 

 

 

 家がないことに対して必死に首を横に振るう。

 絶対に入りたくないという態度をとっている可愛い弟だが、現実というのは無情なものなのだ。

 

 

 

 

「大丈夫大丈夫。死ぬようなことはないからね。お姉ちゃんがついてるよ」

 

 

「うぅ……」

 

 

 

 善逸が足にしがみついて子兎のように震えてる。

 それに可愛いと思ってしまう俺は酷い奴なんだろう。

 

 

 

 でももう覚悟を決めよう。

 

 そう思い、家を訪ねてみると出てきたのは子供だった。

 

 

 

 

「あの―――」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 煉獄家にやって来た少女を見た煉獄杏寿郎にとって、それは衝撃だった。

 幼い身体。おそらくは同い年ぐらいだろう。

 

 

 

「あの……ここに炎柱様がいらっしゃると聞いて窺ったのですが……」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 

 立派な剣士を志している少年は、一瞬動揺したことを情けないと己を恥じつつもにこりと笑顔を作り上げた。

 しかし、何をしにここまでやってきたのかについて理由を聞く必要があった。

 

 

 いくら彼女が弱く、ボロボロであってもだ。

 

 

 

「父上に何か?」

 

 

「ええと、鬼に助けてもらったお礼と、鬼についての相談をと……」

 

 

「なるほど! 理解したぞ!」

 

 

「はい?」

 

 

 

 首を傾けている少女。その足元でびくびくと震えている幼児。

 

 しかし訪ねてきた理由に納得した。よもや、よもやだ……と、ただ己の中で少女の目を見た。

 少女の身体はボロボロだった。左腕を肩から切り落とされたのだろう。一応は傷が塞がっているようだが、しかし完全に完治しているとは言い難い。

 

 遠くからこちらまで来たようだ。疲れはあるだろう。

 荷物を持ったまま、幼児の面倒を見て歩いてきたのだから、傷跡に痛みぐらいは感じているだろう。

 

 それでも女は、疲れを見せないような顔でただ真剣に父のことを聞いてきた。

 

 それが、杏寿郎にとって少女たちに興味を持ったきっかけだった。

 

 

 

「桜眉の女よ! 名は!?」

 

 

「さ、桜眉って……あー。ええと、俺は我妻琴音。それでこっちは俺の大事な弟の……善逸ぅ?」

 

 

 

 愛しそうな目で少女は幼児の頭に右手を置いてさりげなく挨拶するように言う。

 杏寿郎を怯えた目で見つめていた幼児は、その手に自らの小さな両手で掴み、少女と同じく変な顔をしつつも大きな声で叫んだ。

 

 

 

「あがちゅまぜんいつ! です!」

 

 

「うんうんよく出来た。良い子だねー!」

 

 

「えへへ」

 

 

 

 幼児の事が可愛いのだろう。宝のように思っているのだろう。

 デレッと気持ち悪い顔で弟を見る少女に杏寿郎は若干引くが、彼自身も己の剣を大切にしているために気持ちはよく伝わった。

 

 

 鬼に襲われたとしても、全く似た顔をした幼児が無事でいるはずはない。

 彼女は、命をかけて守り抜いたのだろう。

 

 琴音と名乗った少女が幼児を見る目は無償の愛に包まれているようだ。

 まだ会って間もないというのに、彼女にとって幼児は命より大事だと伝わってくる。

 

 

 だから、杏寿郎は父に会わせることに抵抗があった。

 母上は病によって床に寝たままになってしまい、父は何かに絶望し剣を捨てる勢いで何かに没頭しているのが理解できていたからだった。

 

 

 

「……よもや、よもやだが。桜眉の女よ、しばらくは父上に会うのは止めた方が良い」

 

 

「はっ?」

 

 

 

 戸惑いに満ちた顔で少女は杏寿郎を見る。

 幼児も少女と同じように彼を見上げる。

 

 

 

 

「君が困っているのは分かっているが、それでも父上は――――」

 

 

「何やってんだ杏寿郎」

 

 

 

 

 やってきた男は、杏寿郎の父だった。

 木刀を手に持ったままやつれた顔で杏寿郎を見る男に少女が眉をしかめた。

 

 

 

 

「あの……ええと、初めまして?」

 

 

「あ? なんだこのガキども。杏寿郎、何遊んでやがんだ」

 

 

「いえ父上! 遊びではありません! この桜眉の女――――琴音殿が父上に鬼を助けてくれた礼と相談があるとのことです!」

 

 

 

 

 杏寿郎の前にいる少女を認識する。

 

 男が少女と幼児を見た瞬間――――彼女たちの肩が大きく揺れた。

 

 

 

 

「ぴぇっ」

 

 

「善逸、嫌なら耳を押さえてなさい」

 

 

「んぅ」

 

 

 

 彼女たちの小さな声が聞こえたのはすぐ傍に居た杏寿郎だけだった。

 

 

 何をやっているのだろうか。

 杏寿郎はただ首を傾けて疑問に思った。

 

 今の父に対しての印象が悪いのは分かっている。

 以前の父とは違って人に対して乱暴な言葉を吐くのも知っている。

 

 

 しかし、まだ初めて会ったばかりだというのに耳を押さえてろとはいったいどういうことなんだろうか?

 父とはまだ、言葉を交わしていないはずだというのに。

 

 

 

 

 

 それが理解できたのは、しばらく後の話だった。

 

 

 

 

 

 

 

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