子連れ少女は生き延びたい   作:ちゃっぱ

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 少しだけ、違う道筋へ――――――。






第十三話 第一歩は七年後から

 

 

 

 

 

 

 まだ日が昇っていない早朝の時期から出発をと言われているため、善逸を寝かせてそのまま行くことに決めた。

 声を聞いたら凄く悲しくなるのは分かっている。

 

 しばらくは会えないのは確実だ。

 せめて上弦に襲われないと確定するまでの間は―――――私のことは隠される。

 襲撃を受けても逃げられるようにと強くなることを求められる。

 

 

 

 ……いや、本当は強くなる義務なんてない。

 ただ我妻琴音という存在をなかったことにして、そのまま生きていくことさえ出来る可能性があるなら藤の花が多く咲いている場所でひっそりと暮らしていけばいい。

 

 

 でも、それで本当に大丈夫なのかは分からない。

 相手は上弦だ。普通の鬼とは違う奴相手に対して、それだけで確実に安全だとは断言できない。

 だから、強さを身に付けろと言うのだ。

 

 

 私は嫌だと思っていても死ぬ可能性が高い状況で拒否なんてできない。

 弟とずっと一緒にいたいなら、今を耐え忍んで生き延びろと、そう駄目親父は言っていた。

 

 

 だから私は諦めた。

 

 

 

 だから、俺は―――――弟と共に、生きるために今を捨てる。

 

 

 

 

 

「荷物はそれだけか?」

 

 

 

 数着の衣服だけな俺の荷物に対して、駄目親父は首を傾ける。

 

 

 ほかにもいろいろと弟がとってきてくれた花を押し花にしたものとか、煉獄家からかんざしやら何やらと貰ってはいたけれど……。

 

 

 

「しばらくの間、預かっていてほしいな。全部終わったら、取りに来るから」

 

 

 

 今はまだ、必要ない。

 縋り付く思い出は、今はいらない。

 

 

 

「願い事をかなえるには、まずは我慢しなくちゃだからね」

 

 

 

「……ああ、良いだろう」

 

 

 

 だから、駄目親父以外の煉獄家に挨拶を済ませ、さあこれからだという時なのだが……。

 

 

 

 

「……そうだ、少し待っていろ」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

 

 駄目親父が門を開けて、誰かを通す。

 まだまだ日も出ていないというのに、何故か『彼』はぎらぎらとした目でこちらを見つめていて、時間帯的に暗いというのにはっきりと誰なのかが理解できた。

 

 

 

 駄目親父は気を使ってくれたのだろう。少しだけ離れた場所で立ち、話す時間をくれたようだった。

 

 

 

 

「見送りに来てくれたの?」

 

 

「見送りじゃねえ。たまたまだ」

 

 

 

 おやおや。素直じゃないなぁ。

 

 

 でもまあいいさ。あの時怪我をした後君がどうなったのか少し不安だったからね。

 

 

 

「元気そうで良かったよ獪岳くん」

 

 

「……お前はどうなんだよ」

 

 

「わた……俺は別に……」

 

 

「…………」

 

 

「えっとぉ、それで。今日はどうしたの?」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 

 きっまずい。

 

 え、なに獪岳くん!?

 

 

 君の音ってもうちょっと自信満々で怒りっぽくて雷っぽい音しなかったっけ?

 まあ自信満々の中に空白っぽい何か変な音も聞こえてたけどさ!

 

 

 いつもとは違って物凄く複雑な音しかなっていない。

 

 何でそんなに弱気なんだよ。あれか? あの武家屋敷での鬼に出会ったからか?

 あの時刀もないまま突っ込んだからか?

 無力だったからか?

 

 でもあのまま鬼から逃げていてもいつか必ず捕まっただろうし、出入り口も塞がっていて帰るのもできなかっただろうしなぁ。

 人形たちに監視されていたから、獪岳くんが無茶をしてもしていなくても最終的には襲われただろう。

 

 

 だからあれで運が良かったと思えるんだけど……。

 

 

 

「が、獪岳く――――」

 

 

「聞きたいことがある」

 

 

「アッハイ……え、なに?」

 

 

 

 彼はそのぎらぎらと――――ちょっと殺意も混ざっているかのような目で俺を見た。

 

 

 

「お前は何でそこまでして人のために自分を犠牲にできる。何故、他人のために命を無駄にしようとするんだ」

 

 

 

 おそらく獪岳くんを守った時のことを言っているんだろう。

 もしかしたら俺の現状も含まれて質問しているのかもしれない。

 

 

 でもこれだけははっきりと言える。

 

 

 

 

「そりゃあ決まってるよ。私が、お姉ちゃんだからさ」

 

 

 

 弟のためになら、お姉ちゃんは自分がどうなっても構わない。

 

 弟が愛しいから。

 弟のために頑張りたいから。

 

 あの小さくてかわいい命を守るためになら、お姉ちゃんは何でも出来ると信じてる。

 

 たとえ自分が望まない方向へ生きて行かなくてはならないとしても、それが弟のためになるのならお姉ちゃんは逃げない。

 だから今、ここにいるんだと。

 

 

 しかし獪岳くんはよく分からなさそうな音を鳴らしながら、顔をしかめた。

 

 

 

 

「姉、だから……だと?」

 

 

「うん。それに赤ん坊のころから面倒を見ていたからかな。母親みたいな気持ちでいるから、だから頑張れるんだよね」

 

 

「待て、それは答えになっていない! 弟のためと言ったが、ならばなぜ俺を助けた!?」

 

 

「あーあの時はね……うーん、なんというか。何度も言うけど、やっぱり私が姉だからかな」

 

 

「はぁ?」

 

 

「守るべき者がいるっていうのはね、時に凄い力を発揮できるもんなんだよ。弟のために立派に生きてみせたいっていう思いもあるし、だから誰かが苦しんでいたら救いたいと思う気持ちも強い」

 

 

 

 

 今までのことを思い出す。

 

 義勇君とのやり取り。

 あの美人な親子との短い逃走劇。

 

 

 誰かに助けてもらったこと。

 

 誰かが手を伸ばしてくれたから、今があるということ。

 

 

 

 

「私はね、与えられた情をたくさんの人にも返していきたいんだ。弟を守りたいのと同じように。

 

 私のように困っていたら、死んでしまったら遅いから……だから、私がやれることはいっぱいやりたいって思うんだよ」

 

 

 

 きっと、私と同じような生き方をしている人がいるだろう。

 私のように、望むような生き方が出来ず悲しむ人がいるだろう。

 

 弟のために生きていきたい自分の気持ちと同じように、他の人もきっと長く生きたいと思っているだろうから。

 

 

 あの時の獪岳くんだって、もっともっと強くなりたいと願っていた。

 生きて師に認められていきたいと、願っていたから。

 

 

 

「すべては弟のため、かな?」

 

 

 

 

 弟に立派な姉だと思われたい気持ちだってある。

 

 人に救われた恩を返したいという思いもある。

 

 誰かが困っていたら、誰かを救える優しいお姉ちゃんになりたいと思う気持ちだってある。

 

 

 でも、死にたくないから……。

 

 

 

「まあ獪岳くんを助けたのは勢いだけだったけどね! いつもならそこまではしないよ! 私だって死にたくないからね!」

 

 

 

 鬼が出たらとにかく手を引っ張って逃げます。

 今のところはね!

 

 これからどうなるか分からないから地獄だけどね!!

 

 

 

 

「……ふんっ、そうだろうな」

 

 

「うんうん。そういうこと。弟を守るためなら無限大の力を出せるってもんだよ」

 

 

「弟、か」

 

 

「獪岳くん?」

 

 

 

「……琴音、お前絶対に生き延びろよ」

 

 

「ふぇ?」

 

 

 

 なんか音が静かになったけど、急になんだ?

 

 首を傾けていたら、頭を突然掴まれてぐりぐりされる。

 

 

 

 

「痛い痛い! 何急に!?」

 

 

「この俺様が! なんの力もねえ片腕の女に助けられたって事実が認められねえんだよ! だから俺が力を付けるまでは、絶対に生き延びろ! 勝手に死んだら殺すぞ!!!」

 

 

「理不尽っ!!!」

 

 

「うるせえ! 借りを作りやがったてめえが悪い!!」

 

 

 

 

 んっ、んんっ?

 

 

 え、つまりどういうこと?

 

 

 

 

 

 

「……え、守ってくれるの? 獪岳くんが強くなるまで待ったら、私の事守ってくれるの?」

 

 

「あ゛ぁ?」

 

 

 

「何その顔!? ちょっとやめて! 何気持ち悪いこと言ってんだって顔止めて! いだだだだ頭ぐりぐり止めろってばっっ!!」

 

 

 

 

 身長が縮む! 頭がへこむ!

 

 なんでそんな般若みたいな顔でぶち切れてんだよ怖いわっ!!!

 

 

 

 

「痴話喧嘩はそこまでにしろ。出発するぞ」

 

 

「……はい。炎柱様、無茶な頼み事をかなえてくれて感謝します」

 

 

「いや、これぐらいは構わない」

 

 

 どうやら私と話をするために駄目親父に頼んで今日来てもらったのだろう。

 

 ああでもムカつく。

 急に礼儀正しくなりやがってこいつはっ!

 

 

 うぐぐっ。頭がズキズキするぅ……。

 

 

 

「おい」

 

 

「何よ!」

 

 

「絶対に、生き延びろよ」

 

 

「……当然でしょ」

 

 

 

 

 でもって頭をグリグリした借りは絶対に返すからね。

 再会したその時は私もちょっとは強くなっているだろうから楽しみにしていてよね!

 

 

 弟が成長する姿も眺めていたいし、やりたくなくてもやらなくてはならない。

 

 

 だから生き延びよう。

 鬼にも獪岳くんにも、殺されたくはないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 







 記憶とは、少しずつ摩擦を引き起こしやがて思い出になっていく。


 幼い頃に見た思い出は、色の濃い今を生きて記憶が積み重なり、やがて忘れていく。




 半年から、一年。三年、五年と。



 ああそうだ。あれからもう七年もの年月が流れた。
 鬼殺隊に正式に入ったわけじゃないけれど、一応は所属扱いになった。

 俺が男として生きるようになったからか、それとも存在ごと隠されて守られ続けてきたからか。


 いやそれ以外にも、俺がやってきた地獄の数々のせいだろうか。

 幸運ではあったのだろう。
 まだ見つかっていないという状況が、俺も弟も死んでいないという事実があるから、こうしてやりたいことが出来ている。


 まあ表向きに琴音として名前を名乗れない俺はただの一人っ子。
 弟がいないということになっているから、会うことが出来ないのが物凄く悲しいんだけどな。



 それでも、たまに送られてくる手紙から感じる弟の成長を知ることが出来て楽しい。
 本当だったら覚悟を決めて、弟との接触を断つつもりでいた。

 あの上弦の危険性がなくなり、弟が安心して平和に生きられると分かるまでは俺が囮のようなものとして動くつもりだった。


 私にとって一番大事なのは善逸ただ一人。
 私の命より大事なのが、彼の命なのだから。


 まあでもちょっとだけいろいろときっかけがあってね。
 こうして手紙を送る我儘な私を許してほしい。

 善逸は「遅い!」って怒ってたね。手紙から凄く伝わったよ。


 でも、こうして間接的にでも姉弟の会話が出来るだなんてとても嬉しく思えるんだ。

 まだそちらへ行けないけれど、お姉ちゃん頑張ってるからね。



 拝啓、善逸へ。


 お姉ちゃんは今―――――。




「和善さん、今日もお山の探索ですか?」


「まあね。でもここよりちょっと遠いところに行くつもり。……炭治郎君は兄弟の面倒を見るの?」


「ああ、もちろん!」


「そっか。気を付けてね。夜になる前に帰るんだよ」


「分かってる! 俺は長男だから、約束はちゃんと守るよ!」


「あははっ、良い子だね」


「ありがとう和善さん。俺、和善さんに撫でられるの凄く好きだ!」


「んんん。……君はちょっと、直球だね」


「ん?」


「ふふっ、なんでもないよ」





 ――――さあ、やるべきことをやろう。







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