子連れ少女は生き延びたい   作:ちゃっぱ

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第一話 義勇くんは面倒くさい

 

 

 

 幼女と赤ん坊が村から離れても良いことなんて何もない。

 外から来た余所者は目立つ。それも子供だけの場合なら。

 

 

 だからだろう。

 とある村に住む幼い少年は彼女たちを観察していた。

 

 

 

 歩き疲れて休憩でもしているのだろう。しかし、彼女は赤ん坊にしか興味がないらしい。

 

 少年と同じように道の端にて座り込む彼女たちをじっと見つめる目は複数あった。

 でもそれよりも彼女は体力回復を優先しているように見えた。

 

 

 

 

「おねえちゃーん。ほら呼んでごらん。おねえちゃん!」

 

「ね、ねーねー!」

 

「そうそうお姉ちゃんだよ! あー可愛いさすがは俺の弟!」

 

「きゃー!」

 

 

 言葉は少し乱暴だが、彼女は弟を溺愛しているのは理解できた。

 

 しかし母と父はどうしたのだろうかと幼い少年は思う。

 

 どこから来たのだろう。

 何故身体が少し汚れているのだろう。

 たまに周囲を見て怯えたような目をするのは何故だろうか。

 

 幼い少年は、家族と共に過ごすのは当然だと考えていた。

 優しい家族がいたから、そんな当たり前がない生き方をすることを知らなかった。

 

 目立っているからだろうか。

 

 いつもなら大好きな姉の元へ向かうはずの少年―――義勇は、じっとその姿を見つめていた。

 

 

 彼女たちを見て興味を抱いたのだ。

 

 

 

「ううー!」

 

「そろそろ立てるかな? いやまだかな?」

 

「な?」

 

「ふふっ」

 

 

 小さな手をバタバタと揺らす赤ん坊を愛しげに見つめる姉。

 彼女の年齢がもっと大人だったら親子だと勘違いしそうなぐらい、赤ん坊を大事にしている。

 

 義勇は分からなかった。

 赤ん坊は見るからに綺麗な布を巻いているのに、幼女の服装はボロボロだった。

 

 

 明らかに赤ん坊を優先にしているのが分かるのに、幼女は痩せこけてガリガリなのに、とても幸せそうな顔をしていた。

 

 

 

 だから、狙われているのだろうか。

 

 余所者を狙う柄の悪い大人達。ちらちらと辺りを気にしては幼女を見るにやけ顔。

 

 彼女はそれに気づいたようで、スンッと無表情になり赤ん坊をしっかり抱き上げた。

 

 

 

「……行こっか」

 

「う?」

 

 

 幼女が行く方向に、大人達も同じように近づいていく。

 義勇も同じく近づく。大人達より早足で。

 

 少しだけ心に恐怖を抱いてはいたが、それでも身体は動いた。

 

 

「ひっ!」

 

 

 彼女の腕を掴むと、奇妙な悲鳴が出てきた。

 

 でも彼女の反応を見る余裕はない。

 

 義勇は気づいた。

 このままでいたら、彼女は捕まると。

 

 

 

「…………こっち」

 

 

「へっ!?」

 

 

 

 言葉少なくとも身体は動く。

 彼女の腕を引っ張り走り出した。

 

 

 後ろから追いかけてくる音はない。完全に狙われていたというわけではないようだと理解し、ある程度歩いてから立ち止まる。

 

 

「……」

 

 

「あ、あの……?」

 

 

「危ないだろう」

 

 

「ひぇっ……急になんなの? もーびっくりしたなあ」

 

 

「うー?」

 

 

 

 余所者が無防備な姿を見せてはいけないと習わなかったのか?

 人攫いにでも遭いたいのか?

 

 

 義勇少年の心は言葉で溢れてはいるが、それを口に出すことはない。

 

 だが、幼女は何故か理解したように頷いた。

 

 

 

「何故って思ってる?」

 

 

「……」

 

 

「俺はちょっと、耳が良いから……うん。あの時悪い奴等がいたのも分かったよ。でももう慣れてるからさ。逃げれば良いかなって」

 

 

 少年は内心で驚く。

 

 幼女の世渡り下手な事実に。

 何度も危険な目に遭っているという話に。

 

 その理由は明らかな筈なのに。

 

 

「……服を脱げ」

 

「いや何いってんの。いやいやマジで何いってんの?」

 

 

 何故か蔑むような目でこちらを見てきた。

 赤ん坊の目を隠して、まるでこちらが悪いかのようだ。

 

 心外だと義勇は思うが、幼女はただ深いため息をついて口を開いた。

 

 

 

「心配な音、優しい音は聞こえてるよ。弟以外では初めてだから少し戸惑っちゃったのごめんね。でも言葉はちゃんと選ぼうな? 大人になってから困るよ。急に服を脱げとか言ってごらん。悪い意味で誤解されるからね?」

 

「むっ」

 

「むっじゃないから。何この子天然さんかな?」

 

「むぅ?」

 

「弟は天使だな! ―――じゃねえ、つまり君が言いたいのはどういうことなの?」

 

 

「俺は冨岡義勇……」

 

 

「義勇くんは何が言いたいのかな!?」

 

 

 彼女はひきつった笑いを浮かべつつ、義勇を見る。

 彼はそれにしっかりと頷いた。

 

 言いたい言葉を心に思い浮かべ、口に出すのはその一部のみだったが……。

 

 

 

「服を変えろ」

 

「んん? これは駄目なの?」

 

「それは目立つ。普通にしろ」

 

 

「んー。でもなー」

 

「なぁー?」

 

 

 彼女が首を傾けると、腕の中にいる赤ん坊も同じように真似をする。

 それにデレッと気持ち悪い笑みを見せたが、すぐに無理だと断言した。

 

 

「……」

 

「何故って思ってるよな? 答えは簡単。俺に金がないからだ」

 

「それは……」

 

 

 親からは、普通の服を貰えないのか?

 

 しかし聞けなかった。耳の良すぎるであろう彼女もなにも言わずに、苦笑しているのみだった。

 

 寂しそうな空気に思わず手を引っ張ってしまう。

 

 

「なに?」

 

「うちに来い。姉さんに頼む」

 

「え、嫌だよ。お断りします」

 

「むっ」

 

「そんな嫌そうな顔してもダメだよ義勇くん。言っとくけど俺とお前は出会ったばかりの初対面だからね? 俺が悪い子ならどうするつもりなの?」

 

 

 まるで姉に怒られているかのような目で言ってくる幼女に困惑した。

 見た目は幼女だが、まともに食べられる環境じゃないから実年齢は違うかもと気づいたのは義勇が成長してからだった。

 

 

 ただ、幼い義勇が感じたのはとても強い疑問。

 そして大好きな姉を拒絶するかのような目。

 

 

「ごめんね。君が優しいのは分かるけど、あまり迷惑はかけられないから―――」

 

「待っていろ」

 

 

「はっ? えっ、いやちょっと!!?」

 

 

 

 この瞬間だけ頑固だったのだろう。

 

 

 姉に了承をとり、持ってきた着物をみて困惑する彼女にただ満足した。

 

 

「あ、ありがとう。ってか本当にいいの?」

 

 

「ああ」

 

「う、うん。じゃあありがたく貰います」

 

 

「……俺は名乗った」

 

 

「うぇっ!? あ、ああうん。名前。名前ね……悪いけど名前はないよ」

 

「むっ」

 

「だからむっ、じゃないからね」

 

 

 

 少しだけ疲れたように彼女は笑った。

 桜のような眉が垂れて困ったような顔になっていたが、義勇はあまり気にしなかった。

 

 姉を真似して、赤ん坊も笑っていた。

 

 

 

 

 

 幼くなければ、無理やり連れていけば良かったのだと義勇はあとで気づいてしまった。

 

 しかしもう遅い。あの不思議な彼女はもういない。

 ただ、いつか再会できたらと義勇は考えていた。

 

 また会えたなら。その時に名前を聞こうとただそれだけを考えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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