子連れ少女は生き延びたい   作:ちゃっぱ

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第二話 死に物狂いの逃走劇

 

 

 

 

 

 旅に慣れてきた――――とは、少しだけ違うけれど、とりあえず俺と弟が生きていける程度には慣れたと思う。

 

 

 それにまず感謝すべきは義勇くんだ。

 

 夕飯ぐらいは食べていけと誘ってくる幼い幼児ぐらいの義勇くんと無理やりお別れを告げてもうどのくらい経っただろうか。

 

 

 ボロボロの寝間着にしか見えない薄着の服ではなく、子供が着ているようなちょっと良いものを羽織るだけで俺たちを見る人間の音が変わるとは思いもしなかった。

 

 要は俺が襲われやすそうな雰囲気を出していたからなのだろう。

 素足で歩けば草履も買えないような貧乏な娘だと思われるし、目立つ。

 人買いに売りやすい娘だと思われてしまうから襲われやすく、弟も危ない。

 

 ずっと弟にしか使わないと思っていた金銭だが、旅路で目立たないためにと自分にも使うことに決めた。

 

 それに凄く大変だけれど金は稼げる。

 困っている人の音をきちんと聞いて、その手伝いをすればいいだけ。

 

 弟のようなとても綺麗で優しい音はしないけれど、義勇くんのようなお人好しみたいな音でもないけれど。

 それでも、困っているときに手伝えば利用価値があると判断させてしまえばいいのだ。

 

 ほんの小さな小銭ぐらいは貰えるし、不審に思われるような行動をしないよう必死に音を聞いてその通りに従っていた。

 

 

 まあ、たまに酷い目に遭ったけれどな……。

 

 そこはいい。俺についてはどうでもいい。

 弟が無事ならそれでいいんだ。

 

 

 だから、旅に慣れてきたというよりは、旅をしていて出会う人々をどうやり過ごすのかがうまくなってきたと実感できたのが正しいかもしれない。

 

 

 鬼の恐怖もない村や町は、前世ほどとは言い難いが、それでも平和だったのだ。

 

 人攫いがいても構わない。逃げればいい。

 それに金を稼げなくても最終手段は路上で小さな布袋を手にして歌えばいいだけのこと。

 俺の耳は良すぎるから、絶対音感でも持っているのかなと前世で聞いていた音楽を軽く歌ってみたら通りの人が興味を示してお金をくれるようになった。

 

 まあ目立つし派手だし、金に困っているのが目に見えて分かるからいろいろと嫌な人間に近寄られて困るけどな!

 だから本当にそれは最終手段だ。俺は目立ちたくないのだから。弟のためにも普通に生きなくてはならないのだから。

 

 

 

 

 だからもう大丈夫だと思っていた。

 油断していた。

 

 

 この時代にいる鬼はあの地獄のような村にしかないと思っていた。

 

 もう二度と会わないと思っていたんだ。

 

 だから安心して、鬼の脅威もない自由な旅を弟と一緒に過ごしていた。

 どこかで住居を見つけて、弟のために安心できる居場所を探していた時だったのだ。

 

 

 

 

 赤ん坊を抱えた、血濡れの美女が来るまでは。

 

 その血の匂いを辿ってきたのだろう。

 美女の後ろからひょっこりこんにちはしやがった鬼が来るまでは。

 

 

 

 

 はいはいはいはいどうもーマジでふざけていますよねぇぇこの大正の世界ってさぁぁ!!!!

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!(汚い幼女の高音)」

 

 

「逃げんじゃねーよえさあああああああああっ!!!!」

 

 

「うるせー俺みたいなガリガリ食べても栄養ねーぞ! 赤ん坊なんてもっとねえぞ! 美女なんて食べるの勿体ねーからな!!! もっとこう栄養あるもの食べようぜ! 豚とか牛とかさぁぁぁぁ!」

 

 

「肉ぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

 

 

 もう嫌だこの世界!!

 

 

 もう嫌だこんな悲惨な状況!!!

 

 

 

 

 

 血濡れの身体。

 手を引っ張って逃げる女性と一緒に、鬼に追われて何分が経過しただろうか。

 

 

 いや、まだ一分も経っていないかもしれない。

 ただ体力が続かない。血濡れの美女も赤ん坊を抱きしめて荒く呼吸をしている音がする。

 

 俺たちの体力は保たないのに、鬼は元気いっぱいに追いかけてくる。

 たまに切り込みを入れてくるかのように爪で攻撃しようとして来るが、勘が良いのか美女が攻撃される前に俺を引っ張って避けてくれる。

 

 でも時間の問題だ。

 彼女の勘が鋭くとも、俺の耳が音を察知しようとも。

 

 奴は美女の血の匂いを追ってくる。

 遠くから聞こえる「血の匂い」に引き寄せられる鬼の音に身体が震える。

 

 

 弟を優先するなら美女を見捨てればいいと思う。

 

 でも、俺にはできない。

 

 それをして弟に立派なお姉ちゃんとして親代わりを果たせるか?

 弟より小さく、生まれて間もなさそうな可愛い赤ん坊を抱いたこの人を見捨てることが出来るか?

 

 

 無理なんだ。

 この人からも優しい音が響いているから、見捨てることはできないんだ。

 

 

 

「私なら大丈夫だから。お願い。うちの子を連れて一緒に逃げて……」

 

「綺麗なお姉さんを犠牲に出来る心はあの地獄で捨て去りましたからああああっ!」

 

「あぶぶぶぶっ」

 

 

 

 うわああああんと泣き出し一歩手前の俺を胸に抱いた弟がぐずりながら応援してくれているように見えた。

 

 お姉ちゃん頑張る。

 でももう山道は絶対に通らないからな!!!

 

 

 

「ふわああああああんな図体だけで頭のない鬼なんて逃げれば大丈夫お姉ちゃん朝までがんばりゅからあああああ!!」

 

「違う。違うの……私が追われているのは、あんな化け物じゃなくて……」

 

「いいから逃げるよお姉さん!! それとお姉さんと赤ちゃんの名前って何!? というか名前ある!?」

 

「えっ、その……琴葉で、この子は伊之助だけど……」

 

 

「伊之助くんのためにもあなたは生きなくちゃいけないの! 俺は弟のために生きるって決めてるから!! ほら行くよ琴葉さん!!!!」

 

 

「……っ」

 

 

 

 生きるために駆ける。

 駆けて逃げて――――――ただ、守るべきもののためにも必死になって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ捕まりましたけどね。気持ち悪い奴に。

 

 

 

 

 

 

 

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