子連れ少女は生き延びたい 作:ちゃっぱ
皆を泣かせてやりたい気分になったので書いた。
泣けるかな?
鬼化したお姉ちゃんのハッピーエンド(あとがきにおまけ追加)
私は何故、泣いているのだろう。
それが始まりだった。
「ようやく素直になったね。これで俺たちと同じになれるよ」
一番最初に聞こえてきた声によって、私は生まれた。
私は人であった頃の記憶はない。
何か苦しいこと、大切な何かがあったような気がするけれど、鬼になることにものすごく抵抗してその反動で全部忘れちゃったと聞いたんだ。
―――だから私は、新しく生まれたんだと思えた。
昔の私は死んだ。今の私は新しい『私』なんだって思ったんだ。
忘れたことを思い出せないのなら、もうそれでいい。
私は鬼だけど、人形のようなもの。
童磨様に可愛がられて、服を着せ替えされて、お喋りの相手になる。
一方的にだけれど、それで満足していたみたい。
「君を食べようと思っていたけれど……うん。食べなくて良かった」
満足そうに笑った童磨様に私も笑いかける。
私の親代わりは童磨様だから、彼の言う通りに従って生きる。
一人で自立して、童磨様よりも尊いあの方が望まれるものを見つけなくてはならない時も従った。
童磨様よりも優先順位はあの方だ。
青い彼岸花が何処にあるのかは分からないけれど、旅をしていけばきっと見つかるはず。
「琴音は素直で良い子だね。でも我慢しないで、何かあったら俺のもとに帰っておいで」
頭を撫でてくれた童磨様の手のひらはとても冷たかった。
それからたくさん歩いた。
たくさんの人を見て、お腹が空いたら食べた。
お腹が空くことはよくあって、だから食べていった。
童磨様のいう通りに。あの方の血の欲求通りに。
しかし私はどうやら食欲が薄いらしく、自ら望んで食べようと思ったことはない。
食べなくてはいけないという生理的現象にのみ従う。旨いか不味いかなんて気にせずに。
―――だから、初めてだったのだ。
数多もの人間たちと出会ったというのに、私はその一人に魅入られた。
月の光を浴びた、金色の髪。
キラキラ輝く綺麗な音。
ビクビクと震えている様子はまるで小動物を思わせる。
しかしそれだけではない。
静かだった私の心が生まれて初めて慟哭を上げた。
様々な感情に揺さぶられては戸惑いに満ち溢れる。
その対象を逃してはならないと思えた。
この人を、欲しいと思えた。
ああ食べたいと。
私が初めて、人間を食べてみたいと思えた男の子。
強い執着にも似た思いのままに行動した。
「ねぇねぇ! 私は琴音! あなたのお名前は!?」
「ひぃぃぃ鬼に名前聞かれたぁぁぁ!!!」
「あなた美味しそうね! こんなにも人を食べたいと思ったのはあなたが初めて! ねぇこれって一目惚れってやつなのかしら!!」
「そんな一目惚れいらないから!!」
泣き喚く子供は私を見て怯えてくる。
でもそんな表情が愛おしいと感じる。
その子が欲しいと、強く願ってしまう。
でも、何故?
この子が好きなのは、何で?
―――刹那、私の首を狙った足音を聞いてすぐさま飛び上がった。
くるりと一回転しよく見れば、首を斬りかかったのは猪頭の男の子。
その後ろから慌てて金髪の男の子に近づく箱を背負った少年。
「大丈夫か善逸!」
「うぉぁぁぁ炭治郎! あの鬼なんか変な音するよぉぉ!」
「変な……うん。なんだかこれって……」
同族の音がする箱を背負った男の子が私を見て首を傾けた。
騒がしい音に思わず眉を顰めてしまう。
私が欲しいのはあの金髪の男の子だ。
箱を背負った男の子より、猪頭の男の子よりあの子が欲しい。
アレを、食べたい。
「へッ! すばしっこいがそこまでじゃねえ! この俺が斬ってやるよ!」
「やだよ! まだ死にたくないからね!」
斬撃を躱すのは得意だ。
逃げることは得意だ。
うん。今日は仕方がないから帰ろうかな。
「鬼ごっこは嫌いだけど、好きな子を追いかけるのは初めてかも。ねえ善逸くんだっけ?」
「ひぇっ」
「また会おうね善逸君! 今度はその身体食べさせてね!」
「誰が食わせるかよぉー!!」
これが始まり。
たまに夜に出会って、逃げる善逸君を追いかけて、怪我をしていたらその血を舐めようとして物凄い勢いで逃げられて。
食べたいんだ。その肉を。
死んでしまったはずの私の心が、あなたの全てを欲しているんだ。
「ねえねえ善逸君。ほら、私の顔を見てよー! 髪色は違うけど、それ以外はほぼ一緒だよ!」
「瞳の色も違いますけどね! 鬼は姿を変えることもできますけどね!! いいからもう来ないで!!」
「食べたいっていう思いもあるけど、鬼にして一生傍に居たいっていう思いもあるんだよね! これって恋だよね! 執着だよね! ねえ私と一生一緒にいてよ!」
「お断りさせていただきます頼むからもう来ないでぇぇぇっっ!!!」
泣き喚く善逸君が私に剣を向けたことはない。
彼はずっと逃げていくばかり。
でもそれでよかった。
それが正解だった。
「善逸君。善逸君。ねえ善逸くん!」
――――首を斬られた感覚に、痛みはなかった。
殺したのは炭治郎君だった。
でも私を救ってくれたのも、炭治郎君だった。
キラキラと崩れ落ちていく身体から溢れていく思いの正体をようやく知った。
私は弟を殺しかけていた。
弟に姉殺しをさせるところだった。
だからこれでいい。
最後にあなたに会えて、それでよかった。
ボロボロと零れ落ちる己の涙を拭ってくれる人はいない。
いや、炭治郎君が首と離れてしまった私の背を撫でてくれていたから、悲しんでくれる人はいたんだと分かった。
私を見ている善逸は、鬼が死んで安堵したような顔だった。
だからこれで、良かったのだ。
「ねえ善逸、大きくなったねえ」
最後に会えたのが弟で、お姉ちゃんは幸せだよ。
「な、なぁ善逸。お前に家族はいないって言っていたけど、本当なのか?」
「そうだよ。前にも言ったように、俺には捨て子だから……って、なんだよ炭治郎。急にどうしたんだ?」
「…………いや、なんでもない」
炭治郎はきっと、話をしようとしてくれていたんだろう。
でもそれは、ものすごく残酷で悲劇だったから言えなかっただけなんだ。
真面目でとんでもねえ炭治郎だから、いつかはちゃんと話してくれた。
姉を殺してしまったことを話していた。
俺に恨まれるかもしれないという覚悟を決めて、すべてを教えてくれていた。
ああそうだ。
―――きっと、あの時から悲劇は始まっていたのだろう。
「ねぇ善逸、大きくなったねぇ」
この声を、この言葉を決して忘れてはならない。
鬼になった姉は何もかもを忘れて、俺に執着していた。
俺は、ただの鬼なのに母親かと思えるほどの大きな愛を送ってくれる音に奇妙だと感じていた。
ただの鬼なのに、何故だと。
でもそれで、俺は本当に食われそうになって、覚悟を決めた炭治郎に斬られて終わった。
あのときは変な鬼だなと思っていた。
それだけだった。
俺はもう、姉が死んで泣くことはできない。
そんな立場にはもう、立つことは出来ない。
「やぁ、つい顔を出してしまった」
俺には家族なんていない。
赤ん坊の頃に藤の花の家紋の家にいたみたいだけど、結局色々あって一人で生きてきた。
爺ちゃんに会うまでは、ずっと一人だと思っていたんだ。
……思って、いたんだ。
「見たことのある顔だね。君が琴音を殺した人間かな?」
お気に入りの子を殺されて誰がやったのか確認しに来たらしいヘラヘラと笑う鬼。
厄介なことに炭治郎も伊之助もいない単独任務の時だったから、逃げようとしていた。
「君の顔に似た鬼を知ってる? なら君はあの子が言ってた善逸くんかな?」
瞳に文字が書かれたそいつに最初は怯えていた。
でも、怯えてはならないと気づいた。
逃げてはならないと、気づいてしまった。
「―――君には愛しているお姉さんがいたんだ。その身を犠牲にしてでも助けたいと願った弟が、君だよ」
目の前の外道が話してくれた真実に、戦慄した。
ああ。
手遅れだったのだと、絶望した。
「おや、刀を持ってどうしたんだい?」
「煩い」
「……俺はね、琴音がずっと守ってきた子供だから殺そうとはおもっていないんだよ。
ただ、琴音のことを悲しんでいるなら。どうせなら俺たちと同じになればどうかなって――――」
「煩い!」
―――なぁ、姉ちゃん。
俺は弱いから死んじゃうんだ。呆気なく殺されるかもしれないんだ。
でも、こいつが死ぬまでは頑張るから。
姉ちゃんの仇を、忘れないから。
だから、死んじまったそのときは。
そのときはきっと、笑ってくれると信じてる。
コソコソ話っ
(ちなみにこの後は善逸が死んじゃうか攫われて無理やり鬼にされるか伊之助の猪突猛進でたまたま近くにいて善逸を引っ張って逃げるよ!
そしてもしも死んじゃった場合はあの世にいる姉ちゃんが泣きながら説教して最後に笑って抱きしめ合うのである意味ハッピーエンドです)