はあ、なんで私が……
昨日夜遅くにロキに呼ばれたと思ったら、新入りの子の指導役を言いつけられてしまった。
ロキが認めたからには、悪い人ではないんでしょうが、昨日の自己紹介を見るにちょっと不安です。
リヴェリア様が言うには、彼の一族である紅魔族ではあれが普通だとのこと。
格好良さを追い求める所と変なネーミングセンスを除けば基本的には普通らしいのですが……
新人を育てるのはファミリアにとって大切な事だ。自分だって駆け出しの頃はお世話になった。だからこそ、新人教育は先輩冒険者の務めであり、義務であることは分かってはいるんですが……それでも、私だって平行詠唱ができるように特訓をしたい。
そんな思いを抱えながら、ロキ・ファミリアの新人冒険者ベル・クラネルの教育係に選ばれてしまったレフィーヤ・ウィリディスは己が主神が指定した待合場所へと歩を進めた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「ここ、だよね?」
昨夜、神さまから教育係をつけると言われた。曰く美少女エルフだと。里の女の子達はちょっと……いや、かなり癖があった為か、結構楽しみだったりする。
それに、おじいちゃんにも言われたし。男ならハーレムを作れ、と。まだまだその夢は諦めていない。
神さまに言われていた集合場所に着くと、そこに居たのは……
明るく、清楚で、優しそうなエルフ美少女などではなく、
若干不機嫌な様相を呈した、厳しそーな妖精さんだったのである。
そう、僕ことベル・クラネルと指導役たるレファーヤ・ウィリディスの出会いは最高でもなく、最悪でもない、実に残念なものであったのだ。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「いいですか! いくら私がついているといえど、油断はしないで下さい。ダンジョンでは何が起こるか分からない、冒険者の常識です!」
「は、はい!」
ダンジョン4階層。
以前調子に乗って一人で来てしまった5階層手前。
前回の時は1人でだったが、今回は指導役のレフィーヤさんと一緒だ。レフィーヤさんはなんていうか……今まで僕が出会ったことのないタイプの女性だ。
まぁ、エルフとこうやって話すこと自体が初めてなんだけど。
戦い方やダンジョンでの注意点、気をつけなければいけない事などを教えてもらいながら、進んでいく。それが自身の体験などを織り交ぜながらなので、とても分かりやすい。
最初は怖そうな人だと思っていたけど、意外とって言ったら失礼だけど、優しい人だってことが分かる。
僕が倒したモンスター達からレフィーヤさんと2人で魔石を引っ張り出していると。
「……なんていうか、貴方少し変ですね」
「え、ええぇ!? へ、変ですか? 僕って……」
へ、変なのだろうか、僕は……
これでも里の中では常識人のつもりだったんだけど……
僕がその言葉に衝撃を受けていると、言葉を発した当の本人であるレフィーヤさんは僕の様子にクスクスと笑う。
その様子を僕が訝しんでいると。
「い、いえ。別に悪い意味ではないですよ。ただ、あんだけみんなの前で啖呵を切っておきながら、私と話す時はおっかなびっくりなので。それが少し面白くて」
け、貶されているのだろうか。そんなに僕この人に何かしたかなぁ?
「……意外といいものですね。人に教えるのって」
「? えっと……何の話ですか?」
「気にしないで下さい、こちらの話ですので」
「貴方は…………。…………。貴方のこと、私はなんと呼びましょうか?」
「呼び方ですか? 別になんとでも呼んでもらって結構ですよ?」
「なんとでも。……じゃあ、ベルでいいですかね?」
本当ならこんな話、ダンジョンでする話ではないのだが今は別だ。僕たちは今、レストと呼ばれる場所で休憩している。
出入り口が一方向のみの小さな空間のことだ。
空間内部の周りの壁を意図的に壊すことでモンスターが産まれないようするのだそうだ。そうすることでエンカウントするモンスターは1つしかない出入り口のみからとなり、対処しやすくするのだとか。
よく考えられてるなぁ。
因みに、「なら、壁を壊しながら進めばいいんじゃないですか?」と聞いたところ、「いたそうですよ? 実際にやった人が。途中で武器が破損したらしいですけど」と返されてしまった。
やっぱり僕じゃダメみたいだ。あの天才少女ならどんなことを思いつくのだろう?
確か、僕より先にオラリオに来ている筈だけど。
誤った情報があれば、報告して貰えると幸いです。