「はああっ!」
蛙型のモンスター、フロッグシューターの腹部にナイフを一閃。
フロッグシューターは醜い断末魔をあげながら、真っ黒な灰へと帰し、少々大きめの魔石を落とす。
「お見事ですね、ベル」
「いえ……それよりもすみません、拾って貰っちゃって」
「いいんですよ、今の私はサポーターなんですから」
そう言ってレフィーヤさんは背中に携えた大きめのバックパックに魔石を投げ入れていく。
本来ならこういう役目は新人である僕がやるべきなんだけど、今日は僕の特訓に来ているので、レフィーヤさんがやってくれている。
うう……やっぱり申し訳ないなぁ……
やっぱり僕が代わりましょうか、隣を歩くレフィーヤさんにそう言い掛けた時だった。
「【エクスプロージョン】ッ!」
何処か聞いたことがあるような、叫びが僕の耳に入ってきた。
そしてその数秒後、耳を
「ひゃあああああ!」
「うわわっ!」
思わず地面に尻をついてしまう程の揺れ。
隣のレフィーヤさんはと言うと、流石はLv,3。なんとか踏ん張って耐えたようだ。
と言うか、これ音的に結構近くない?
「ベル、行きますよ!」
どうやらレフィーヤさんも同じ結論に至ったらしく、目線は真っ直ぐ前を向いている。
「はい!」
僕もレフィーヤさんに続いて駆け出して行く。
あっ、結局言い出せなかった。
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音の発信源に着いた僕は、あろうことか顔を手で覆っていた。
というのも……
「──何やってるのさ、めぐみん」
里では天才だと持て囃されていた筈の少女が地面にうつ伏せになっていたからだ。
天才少女こと、めぐみんの前にはかなり大きめなクレーターが出来上がっている。恐らくはめぐみんの仕業なんだろうが……何をやったらこんなことになるのだろうか。
天才だという認識を改めた方がいいのかもしれない。
「ふっ。久しぶりですね、ベル。何をやっているかなど愚問でしょう? 我が爆裂魔法を忌々しきフロッグ・シューターに放ってやっただけですよ」
「……めぐみんはやっぱり紙一重で馬鹿の方だと思うな」
「言ってくれますね、ベル。紅魔族随一の天才に向かって馬鹿など、と……あの、ベル? 蛙が湧いたので、倒して貰えませんか? すぐ近くに湧くなんて完全に予想外です」
……仕方ないなぁ。
めぐみんに言われた通り、フロッグシューターを片付けてあげる。幸い一匹だったので、苦労せずに倒せた。
レフィーヤさんはレフィーヤさんで、めぐみんが作ったクレーターに固まっちゃってるし。
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「──ベルと、めぐみんさん? は同じ里出身なんですか?」
「おい、何故私の名前にハテナをつけるのか聞こうじゃないか」
「やめなよ、めぐみん。そうやってすぐ喧嘩売るのは……」
僕の背中に背負われためぐみんがレフィーヤさんに噛み付こうとするのを止める。
里にいた時も喧嘩の仲裁をするのはいつも僕だった。そして泣かさせるのはいつもゆんゆん。偶にふにふらとどどんこも泣いてたっけ。そんなことを思い出す。
「まあ、里の中ではそれなりに話す方でしたね。一緒によくゆんゆんという子をいじめた仲です」
「えっ……」
「誤解ですからね、レフィーヤさん!? 僕そんなことしてないので、そんな目で見るの辞めて貰っていいですか!?」
めぐみんに恨みがましい目線を向けていると、心外だとでも言う顔をされる。
「何言ってるんですか。ほら、ぼっちのゆんゆんを友達だなんだと言って呼び出して──」
「わーわー!! あの時はめぐみんが僕を嵌めたんじゃないか!?」
「そうだとしても、ベルのせいでゆんゆんが涙目になったのは事実。言い訳なんてしていると、
「ぐっ……」
相変わらずだ。
人の弱点を的確に狙って、自分が優位に立つ状況を意図的に作るこのやり方にはめぐみんはやはり天才なのだと思い知らされてしまう。
ついでに、レフィーヤさんの視線を見るに、僕は同級生の女の子を泣かせるクズ認定されてしまったらしい。
そんな目を向けられて興奮するへんたいなんて、ぶっころりーさんくらいなのに……!