惹かれるという字と若いという字は似ている。

若いという字は苦いという字と似ている。

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つるっきー(鶴喰鴎&贄波生煮)SSです。
書いてるうちに二人共どんどん乙女化……もとい女々しくなってきまして、「贄波(鴎)はそんな事言わない」状態のものが出来上がったという……

まあ年単位で前に書いたものを発掘したので、供養代わりに楽しめる人には楽しんでもらおうってだけの短編です。

キャラ崩壊とまでは言いませんが、解釈違いだったらそっとブラウザバックして頂けると助かります。


都忘

卒業したから「大人」とか。

 

学生のうちは「子供」とか。

 

そういうのは正直なところ、今になってもよくわからない。

 

 

私に分かるのは。

 

お前は私より「大人」で

 

私はお前より「子供」だったということ。

 

 

 

ただそれだけ。

 

 

 

私が今更大人になったって仕方ないはずなのに。

 

どうしてだろうね。

 

追いつけないはずのお前との距離が今日、今更になって、少しだけ縮まった気がしたんだ。

 

 

 

――――――――

 

 

桜舞うだったか、桜散るだったか。

 

 

まあともかく。

 

桜の雨が降る今日、私達は箱庭学園を卒業した。

 

 

つつがなく卒業式を終えて、一度帰った後いつものメンツで集まって。

 

高校生活最後の日だからと同級生のみんなと遊びに行って。

 

珍しくゲーセンで、半強制的だったにしろプリクラなんか撮っちゃったりして。

 

 

そして、そろそろヒートが帰らなきゃいけないからと言うのでそのまま解散して、時刻は午後八時頃。

 

舞い散った桜の花びらを踏みしめて、少し感傷なんてものに浸りながら私は一人帰路を歩いていた。

 

 

そして、家の目の前の公園を横切る頃。

 

 

この時間はまだ冷えるな、とか。

 

そんな事を考えながら、もうすっかり見慣れた月のない空を見上げていると、声をかけられた。

 

 

 

「やあ、卒業おめでとう」

 

 

「…………は?」

 

 

 

その声の主は私のよく知る人物で。

 

 

なんなら卒業してもついぞ更新されなかった『高校生活で1番苦痛だった事』ランキング1位の原因で。

 

 

更に言えばこの2年間、1度も姿を表さなかった奴。

 

 

 

「いやー久しぶりー。あ、私の事覚えてる?ていうか聞こえてる?」

 

 

 

逆説(接)使い・贄波生煮が、そこに居た。

 

 

あまりの衝撃に反応出来ないでいると、贄波は私の顔の前で手を振ったり、指を鳴らしてみたり。

 

終いには顔面に思い切り振りかぶった拳を入れてこようとしたので、それはさすがに避けた。

 

 

 

「な、なん……」

 

 

「ナン?ああ、アレ美味しいよねー、急に食べたくなるのわかるわかる。もしかしてカレー専門店とか行ったら、ライスじゃなくてナンで食べるお年頃?」

 

 

「違う!なんでお前がここにいるんだ!贄波!」

 

 

 

慌てて避けたせいで尻餅をついてしまって、そのまま私は贄波に問うた。

 

 

 

「なんでって、そりゃあないよ鴎。私はお前のモノになりに来たのにー」

 

 

 

取り敢えず立て、と贄波は私に手を差し出して、そのまま私を引っ張り上げる。

 

 

 

「どういう意味だい、私のモノになりに来たって」

 

 

「おー、最高に嫌そうな顔だね、うんうん。なんとなく予想してたからその反応じゃ私は傷付かないぞー」

 

 

「だから、どういう意味なのかって……」

 

 

「どういう意味も何も、お前2年前にした約束を忘れたのか?」

 

 

 

約束?

 

確かに、2年前にした約束のようなものに、心当たりはある。

 

卒業式が終わったあと、これからどうするかななんて言ってた贄波と2人で帰っていた時にした約束。

 

 

 

✄--------------- キ リ ト リ ---------------✄

 

 

 

「やー、高校も卒業したし、これで晴れて本当に自由だねー」

 

 

「自由も何も、お前就職も進学もしないんだろう」

 

 

「しないよー。就職も進学もめんどくさいし」

 

 

「ダメ人間だな、いや知ってたけど。まあ、でも……なんだ、私が貰ってあげてもいいよ。永久就職ってことで」

 

 

「うん?永久就職?」

 

 

「あー、いや。えっと」

 

 

「そういうのは、もう少しだけ大人になってからだねー。高校生君」

 

 

「急に子供扱いか、お前に歳下扱いされると死ぬ程不愉快だな。私はもう充分に大人だ」

 

 

「おいおい。それが永久就職とか言った相手に対する言葉か?」

 

 

 

✄--------------- キ リ ト リ ---------------✄

 

 

 

そう、そんな事はあった。

 

ハッキリ覚えてる。

 

 

だけど、アレは。

 

 

 

「私はアレは、てっきり適当に流されていたものだとばかり……」

 

 

「何を言ってるのさ。私は適当だけど、あの言葉は適当じゃなかったぞー?」

 

 

 

贄波は不服そうに……いや、不服そうなのか?

 

 

依然真顔だから判別がうまくつかない。

 

 

 

「まあ、つまり私は、その約束を果たしに来たってワケ」

 

 

 

そう言って贄波は、歯を見せてと笑った。

 

 

その笑顔は、あの卒業式の後の写真よりも少し悪戯っぽくて。

 

ずっと写真で眺めてた笑顔で。

 

 

少し胸が熱くなったのを自覚して、それでもその笑顔から目をそらして目線を下げる。

 

 

 

「……よ……贄波」

 

 

「うん?なんだ?」

 

 

「遅いんだよ、贄波……」

 

 

「ふん?なんだ、もう恋人でも出来ちゃったか?」

 

 

 

そんな事、あるはずないだろう。

 

そう言いたかった。

 

 

確かにあの言葉は、冗談で流されたのかもしれないと、確かに思っていた。

 

けれど、それでも。

 

 

 

私は、その言葉に縋って生きていた。

 

 

 

だから、何故かそれが、許せなかった。

 

 

 

「あんな……高一のガキにあんな思わせ振りな態度をとっておいて、二年間も姿を見せないで!何を今更!」

 

 

「ガキってお前、あの頃さんざん、自分で『私は大人だー』って言っていただろう?」

 

 

急に大きな声を出したから、贄波は驚いた様子で目を大きく見開いて、そしてそう言った。

 

 

でも一番驚いていたのは、恐らく私だ。

 

 

父親と対面したあの時すら、こんな風に乱されることは無かったというのに。

 

今の私はまるで本当に、小さな子供のようで、そんな自分に困惑する。

 

 

 

「まあでも、だ」

 

 

 

贄波はそう小さく述べると、ゆっくりと私の頬に触れて微笑んだ。

 

涙の跡を指先が撫で上げて、そのまま首に腕が回されて強引に抱き寄せられる。

 

 

ただでさえ混乱している頭に、火花が散った気がした。

 

 

 

「だからこそ今日来たんだよ、鴎」

 

 

「この2年、連絡ひとつ寄越さなかったくせにか……ッ」

 

 

 

腕から逃れようともがくけれど、強い力で押さえつけられて逃げられない。

 

されるがまま、問答を続けた。

 

 

 

「悪かったとは思ってるよー?一度連絡してみようと思ったけど、連絡先がわからなかったんだ」

 

 

「馬鹿……お前は本当に馬鹿だ……」

 

 

「そうだねー。私は多分、世紀の大馬鹿者だ」

 

 

 

贄波の手が、あやす様に私の髪を撫でる。

 

 

柑橘系の香りが漂ってきて。

 

こんな女でも香水をつけるのか、なんて。

 

少し冷静になってきた頭はそんな事を考えていた。

 

 

 

「だけど、『だからこそ』。鴎は私を貰ってくれるんだろう?」

 

 

 

微かに笑みを含んだ声音でそう言うと、贄波はゆっくりと腕を解いて私の両頬に手を添える。

 

 

 

「これでもちゃんと考えて、今日を待ってたんだ」

 

 

「考えた?お前が?」

 

 

 

顔の距離が近過ぎて、さっきよりは遠いのだろうけれど、目の前に顔があるからか照れくさい。

 

熱を持った頬が朱に染まるのを感じて、誤魔化すように以前のような応対をしてしまう。

 

 

 

「ああ、何せ私はこれでも鴎の二個上のおねーさんだ。色々とあったんだよ、考えるべき事や、やるべき事が」

 

 

「お前が何かを考えても、どーせロクな結果にならないだろ」

 

 

「おいおーい、あんまり人を貶すなよー。お前は私に対する態度を少し改めるべきだぞ?」

 

 

 

両の手を私の頬から外し数歩踊るようにして離れた贄波は、やれやれとジェスチャーを交えてそう言った。

 

真顔のままで、なんだか少し悲しそうに。

 

 

そんな微かなシグナルに気付いたら、また他の事にも気付いてしまって。

 

 

ああ、ダメだな。

 

なんて。

 

 

私はいったい、どれだけ贄波の事を好いてしまっているのだろう。

 

 

多分今なら、ミリ単位の髪の長さの違いすら、分かってしまうんだろうな、とか。

 

確信に近い形でそう思ってしまって。

 

 

思わず溜息が出そうになる。

 

 

 

「贄波、お前、痩せたか?」

 

 

「え?ああ、二年ぶりなのによく気付いたねー。この二ヶ月結構キツくてさー、気付いたら二ヶ月で七キロ減ってたよー。やったねー」

 

 

 

ドヤ顔でVサインをし始めた贄波に、少しイラッとした。

 

私はそのまま苛立ちの勢いでまくし立てる。

 

 

 

「いったいどんな無理をしてたら二ヶ月で七キロも落ちるんだ!少しは自分を省みろ!」

 

 

 

私の言葉にまたもや贄波はキョトン顔。

 

 

二年前の私なら、らしくない事を言ってるのはわかってる。

 

だけど私だって、この二年何も成長していないわけじゃないんだ。

 

 

全部が全部、彼女が知る私でいるままなんて出来ない。

 

 

また茶化されるのだろうかなんて思っていたけれど、予想外にも贄波は優しく微笑むだけで。

 

彼女は私の言葉を茶化すような事はしなかった。

 

 

 

「私がこの二ヶ月、もっと言えばこの二年。何をしていたのか、知りたい?」

 

 

 

当然だ、と小さく頷いて、視線で話すように促せば、贄波はゆっくりと、私の知らない二年間を語り始めた。

 

 

 

「あー……まず卒業してすぐ、最初に鶴喰家が今分家の中でどういう立ち位置にあるのかとか色々調べて、そのまま分家同士の婚姻についても調べた。これでまず半年ってところかなー。それで分家同士じゃどうも結婚は難儀するらしいから、その次に家を出た。大体これにかかったのが一年ってとこでー」

 

 

 

開いた口が塞がらなかった。

 

 

つまり何か?

 

この女は……この大馬鹿は、分家同士では結婚が難しいからって、自分のモノになるハズだった会社やら何やらを全部、投げ捨ててきたって言うのか?

 

 

 

「あ、生前贈与で財産はだいぶ貰ってたからねー?まあそんで、その後は独り暮らしを始めて、そこからは自炊とかして家事の練習。連絡をしようと思ったのもこの頃だったなー。んでこの二ヶ月は、ひたすら不安で眠れない日々だったよ。気持ち的にだいぶ追い込まれてた」

 

 

「追い込まれてた?何故?」

 

 

「ここまでしたけどその理由とは一年以上音信不通で、その間に忘れられてやしないかーとか。心変わりして私の知らない子と永遠の愛を誓ってたらどうしよー、とか。そういう不安があったんだよー」

 

 

 

あの根無し草が、なんとなく生きていただけの人間が、私を理由にそんなに悩んでいた?

 

あの贄波が、私のせいで眠れない夜を過ごしたと?

 

 

嬉しいような気もするけれど、どこかむず痒くて、くすぐったくて。

 

 

何より、そんなイメージが全く頭に浮かんでこない。

 

 

 

「ま、杞憂に終わったみたいだけどねー。うん、よかったよかった」

 

 

 

勝ち誇ったようなドヤ顔で贄波はそう言って、離した距離をゆっくりと詰めてくる。

 

 

贄波の言葉に困惑続きの私は距離を取ることも出来ずに、ただその一挙手一投足を目で追うだけだった。

 

 

 

「杞憂に終わったのだから私を貰ってくれ、鶴喰鴎。生憎と前の家や家財道具その他諸々はすべて処分してきちゃったんだ、言ってる意味はわかるよね?」

 

 

 

また変な所で思い切りがいいと言うか、適当だな、コイツは。

 

 

ああ、でも、勝てない。

 

 

 

惚れた弱みとか、そういうのじゃないけれど。

 

勝てないなって、そう思ってしまったから。

 

 

だから、多分これから私はコイツの尻に敷かれ続けるのかもしれない。

 

私が大人になったからのか、それともこれは本当は惚れた弱みと言うやつなのか。

 

まあ、それも悪くない、なんて。

 

また思ってしまったものだから。

 

 

曖昧なままで、私は頷いた。

 

 

 




あとがきはとくにありません。

楽しんでいただけたなら、幸いでございます。


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