ことができました‼︎
今回は『11341文字』 までの膨大な量を頑張って
書きましたが、豆腐のようなクソナメクジメンタルの
自分はきちんと面白く書けているのかととても心配に
なります……(汗)
【お気に入り】や【しおり】、【投票】、【感想】
などいただければ、豆腐のようなそんなメンタルで
脆い自分も更に『創作意欲』が増していきます‼︎
面白く出来ているかどうか心配でいっぱいですが
一生懸命にたくさん書きました。
最後まで読んでいただいてもらえたら嬉しいです‼︎
「痛たた……」
士道は頭にできたこぶをさすりながら、海辺に設営を
されたトイレに向かってのろのろと歩いていた。
ちなみに、士道がトイレに行ってくると言ったその際、
さっきまで気絶していたのに一人でトイレなんて危ない
ので私がついていっていろいろ手伝う、と言った者が
若干名いたが、それは丁重に、それこそ頭を砂浜に擦り
つける勢いで断った。
『……大丈夫かい、シン』
と、右耳に令音の声が聞こえてくる。士道は疲れた
ように苦笑しながら口を開いた。
「まあ……なんとか。そっちはどうですか?」
『……正直、まだ何とも言えないな。あとは二人の
対抗心をどれだけ煽れるかが──』
と、令音が不意に言葉を切った。
「令音さん? どうかしたんですか?」
眉をひそめながら問うが、その理由はすぐに知れた。
令音が言葉を詰まらせてからすぐに、トイレの脇から
耶倶矢が顔を出したからだ。
「耶倶矢……? なんでこんなところに。みんなの
とこで待ってるはずじゃ」
「くく……颶風の加護を持つ我に、あの程度の隔たりは
意味を成さん」
「……まあそりゃそうだろうけど。どっちかっていうと
理由の方を訊いたんだが……」
そう言ったところで、士道はハッとなった。前屈みに
なりながら叫びを上げる。
「だ、だから手伝いはいらないって言っただろ!?」
「は……?」
耶倶矢は一瞬キョトンとしたあと、顔を真っ赤に
染めた。
「な、あんなの場の流れで言っただけに決まって
んじゃん! 本気にすんじゃねーし!」
「そ、そうなのか……?」
「当たり前でしょ!? な、なんで私があんたの……
その……」
耶倶矢がそこで顔を俯かせ、言葉を詰まらせる。
「とッ! とにかく、用件は別にあるの!」
「お、おう……!」
思わずうなずく。そして士道は声をひそめ、インカムに
向かって言葉を発した。
「令音さん、これもそっちの指示ですか?」
『……いや、こちらからは何も言っていない』
と、士道が令音と会話していると、耶倶矢が焦れたよう
に声をかけてきた。
「ちょっと、無視しないでよ」
「ああ、悪い」
士道は慌てて姿勢を戻すと、耶倶矢に向き直った。
が……そういえば一つ気になることがあった。
耶倶矢の顔を見据えながらぽりぽりと頬をかく。
「ところで……その口調のまま続けていいのか?」
「あ」
耶倶矢はしまった、という顔を作った。
そしてすぐに気まずそうにコホンと咳払いをして、
格好いいポーズを取ってみせる。
「くく……我が道化芝居に謀られたな。我が手の上で
踊る貴様は大層滑稽であったぞ」
「…………」
「……何よその目は」
耶倶矢がぶー、と唇を尖らせてくる。士道は力無く苦笑
しながら頬をかいた。
「いや……なんでわざわざ無理してそんな口調にして
んのかなあと思って……」
「無理してないし! これが普通だし!」
「戻ってる戻ってる」
「は……っ!」
耶倶矢は愕然とした顔を作ったかと思うと、はあと
息を吐き、小声で呟いてきた。
「……だって、あれじゃん。私、精霊だし。こう、
超凄いじゃん? だったらやっぱそれなりの威厳と
いうかさ、そういうのが必要なわけじゃん?」
「……そうなのかなあ」
士道は眉根を寄せてううむとうなった。今まで何人もの
精霊に出会ってきたが、別にそういう少女はいなかった
気がする。
「そりゃそうでしょ。せっかくこんな格好いい出自と、
悲劇的な環境が用意されてるのよ? やっぱそれなりの
人物像じゃないと」
「まあ……耶倶矢がいいならそれでいいけどさ。
それで? 用件って何なんだよ」
士道が言うと、耶倶矢は「ああ」と首肯してから
続けてきた。
「なんかめんどくさいからこのまま続けちゃうけどさ、
今私と夕弦は、あんたを巡ってバトルしてるじゃん?
それで、明日にはその決着もつく」
「ああ……そうだな。て、おまえ、まさか。さすがに
それはずるいんじゃないか?」
耶倶矢が自分に根回しをしにきたのかと思い、
眉をひそめる。
──だが耶倶矢は、まったく予想外の台詞を吐いた。
「──
「……へ?」
想定していなかった言葉に、ギョッと目を見開く。
「へ、じゃなくてさ」
耶倶矢が肩をすくめながら続けてくる。
「悩むポイントなどなくない? だって夕弦、超可愛い
じゃん。ちょっと愛想はないのかもしんないけれどさ、
従順だし、胸大きいし、もう男たちの妄想が形になった
ような超絶萌えキャラじゃん? しかも、多分あいつ
選べば、いろいろサービスしてくれんじゃないの?
選ばない手はないでしょ。だから──」
「ちょ、ちょっと待て!」
士道は混乱する頭を整理しながら、耶倶矢のその言葉
を制した。彼女の言っている意味がわからない。否、
言葉の内容は理解できるのだ。だが、明日夕弦を選ぶ
ということは──
「耶倶矢、おまえ……この勝負に勝った方が八舞の
主人格になるって言ってたよな」
「うん、言ったわね」
「……負けた方は、勝った方に取り込まれて、消えて
なくなっちまうって言ったよな」
「うん、そーね」
「だったら、なんで──」
士道がのどを絞るようにして言うと、耶倶矢は頭を
かきながら困ったように笑った。
「んー……そりゃ私だって消えたかないけどさ。でも、
それ以上に──私は、夕弦に生きていて欲し欲しいの。
もっともっといろんなものを見て、思いっきりこの世を
楽しんで欲しいの」
「……っ、おまえ」
士道が苦しげにうめくも、耶倶矢は構わずに言葉を
続けた。
「っていうか、あんたさえ乱入してこなきゃあのときに
全部済んでいたんだからね。あそこで派手に激突して、
私が『やーらーれーたー』ってそうダウンをして終わり
だったのに」
耶倶矢がビッ、と士道に指を力強く突き付けながら
言ってくる。
士道は顔を歪めた。心臓を引き絞られるような嫌な痛み
などが、胸元に渦巻いていく。
「じ、じゃあ、俺を先に惚れさせた方が勝ちってのは
──」
「ああ、あれ? そりゃ、夕弦の方が可愛いからに
決まってるじゃない。この勝負なら、まず間違いなく
夕弦が勝てるでしょ?」
「でも、それじゃ……」
士道が言葉を継ごうとすると、耶倶矢が一瞬のうちに
士道の目の前にまで移動して、士道の唇を塞ぐように
人差し指を突き立ててきた。
「別に士道の意見は求めてないし。あんたはただ明日、
夕弦の方が可愛いですちゅっちゅっ、ラブリーラブリー
夕弦たんハァハァって言えばいいのよ。……でないと、
この島ごとあんたの友達全員吹き飛ばしてやるから」
言葉の途中で耶倶矢が目を細くし、声を低くしてのどを
鳴らしてくる。
士道はごくりと息を飲んだ。今の今まで忘れかけていた
そんな精霊の脅威が、その言葉と視線のみで、一気に
蘇ってくる。
士道が緊張などでその場から動けずにいると、耶倶矢が
ふっと表情を緩めて足を引いた。
そしてくるりと身体の向きを変え、やたら格好良い
ポーズを取る。
「くくく……ではさらばだ人間よ。此度交わせしは血の
盟約ぞ。違えるのならば其の身の髄まで
に灼かれると知れ!」
言って、耶倶矢が去っていく。 士道は、その場に
立ち尽くすことしかできなかった。
『……シン』
しばしのあと。右耳に響いてきた令音の声でハッと肩を
揺らす。
「令音さん、今の──」
『……ああ、聞いていた。これは……なかなか難しい
ことになってきたな。もし今のが駆け引きでも何でも
ない耶倶矢の本心なのだとしたら……明日、こちらが
煽っても耶倶矢がキスに応じてくれない可能性がある。
──夕弦を勝たせるために』
「……ぐ……」
士道は拳を握りしめた。
確かにそれもある。非常に由々しき事態だ。
だが、今はそれよりも。
夕弦を生かすために己を殺す耶倶矢の決意が──重く、
士道の心にのし掛かっていた。
しかし、いつまでもここで呆然としているわけにも
いかない。士道は重い足を引きずるようにして歩き
始めた。あまり長く姿を消していては十香や折紙、
そして何より夕弦に不審がられ──
「制止。士道、止まってください」
「……っ!?」
急に背後から声をかけられ、士道はビクッと肩を
揺らした。
それは間違いなく夕弦の声だった。一瞬、幻聴でも
聞いたのかと思ったが……違う。いつの間にそこに
いたのだろうか、すぐ後方に夕弦が立っていた。
「ゆ、夕弦……?」
「応答。はい、と答えます」
抑揚のない声。落ち着いた所作。至極冷静な調子で、
夕弦がうなずいてくる。
「ど、どうかしたのか?」
額に汗を浮かべながら士道が問うと、夕弦はふっと
耶倶矢の消えていったその方向に顔を向け、静かに
口を開いた。
「質問。──耶倶矢と、何を話していたのですか?」
「……ッ!」
士道は息を詰まらせた。収まりかけていた動悸が、
再び激しくなる。
「何、をって……その」
と、士道が考えを巡らせていると、夕弦が小さく肩を
すくめながら息を吐いてきた。
「撤回。いえ、やはりいいです。大体の予想は
ついています」
「っ、そ、そう……なのか?」
「肯定。大方──明日の選定の際、自分を選ぶよう
言ってきたのでしょう?」
「や……それは」
士道が言葉を発そうとすると、夕弦が手を広げて
制止してきた。
「質問。それは構わないのですが、その際耶倶矢は
何かしましたか?」
「何か……っていうと」
「例題。たとえば士道に躊躇いなく抱きつき首筋に舌を
這わせたり、胸に士道の顔を挟んだり、士道の水着へと
手を突っ込んで股間などをまさぐったりしましたか、
と訊きます」
「し、してねえよそんなこと!」
予想外の言葉に、士道は思わず叫んでしまった。
夕弦が、やれやれと首を振る。
「落胆。耶倶矢はそこが駄目です。詰めが甘いです。
耶倶矢がきちんと誘惑すれば、士道なんて発情期の
猿くらい簡単に落とせるというのに」
「…………」
なんだか酷い言われようだったが、それよりも士道は
夕弦の口振りに違和感を覚えた。
だって、夕弦の言葉はまるで──
「請願。夕弦は士道にお願いがあります」
と、士道の思考を遮るように、夕弦が声を発してくる。
「お願い……?」
その文言を聞いて、士道の背筋にぞくりとしたものが
走った。思わず唾液を飲み下す。のどがジンと痛み、
心臓の鼓動が早くなっていく。どく、どく。急に血管が
拡張し、全身に勢い良く血液が送り込まれるかのような
感覚。
だけど士道の頭は対照的に、まるで酩酊するかのように
霞がかかっていった。しかしその中でただ一つだけ──
つい数分前に聞いたそんな言葉が、脳裏に鮮明なまでに
思い起こされる。
「肯定。その通りです」
「
「────」
声は、出なかった。
もしかしたら夕弦が現れた時点で、何となく予想できて
いたのかもしれない。
そんな士道の反応を見てか、夕弦が怪訝そうな表情で
首を傾げる。
「質問。士道の反応に違和感を覚えます」
「っ、や、なんでもない……」
「要求。それよりも、お願いします。明日、絶対に
耶倶矢を選んでください。約束です」
「ななんで……そんなこと」
「説明。耶倶矢の方が、夕弦よりも遥かに優れている
からです。悩む余地などはありません。士道も、耶倶矢
の可愛らしさはよく知っているはずです。多少強がりな
ところはありますが、一途ですし、さらに面倒見などは
いいですし、触れれば折れそうな華奢な肢体をぎゅっと
抱きしめたときの快感は天国としか形容できません。
耶倶矢を選べば、いろいろやらせてくれるはずです。
是非、耶倶矢を」
「だって、耶倶矢が勝ったら、夕弦は──」
士道が言うと、夕弦は目を伏せてうなずいた。士道が
考えている程度のことは、もう幾度も幾度も熟考した
と言わんばかりに。
「耶倶矢こそ、真の八舞を名乗るに相応しい精霊です。
士道だってこの一日を通して、よくわかったでしょう?
耶倶矢はとてつもなく魅力的です。選ばない道理はない
はずです」
「だ、だって、二人は、あんなに競って……」
「解説。耶倶矢はああ見えて恥ずかしがり屋なのです。
焚き付けてあげないと、自分からああいったアピールは
できません」
「…………」
士道が無言になると、夕弦は士道に歩みを寄せ、耳元に
囁くようにして言ってきた。
「念押。明日、耶倶矢を選ぶとそう言ってください。
さもなくば、士道の友人たちに不幸が訪れることに
なります」
脅し文句まで耶倶矢とそっくりなものを残して、
夕弦は去っていった。
「…………」
集合時間になってようやく大量の砂の中から掘り出して
もらえたエレンは、全身砂まみれのまま、海岸沿いの方
で体育座りをしながら海を眺めていた。
もう既にターゲットもこちらの海岸の方へと戻ってきて
しまい、着替えのためすぐに更衣室に向かっていた。
先ほど砂に埋められたエレン(砂でできている身体部分
はボディビルダー風に改良などを加えられていた)の前
を通りかかり、腹を抱えて笑っていたので間違いない。
ちなみに一足先に掘り出されてた殿町が恭しく手を差し
伸べてきたのがなんだか癪に障ってきたので、エレンの
埋められていた穴に放り込み、再度砂をかけておいた。
『……執行部長殿、その』
インカムに、気まずげなオペレーターの声が耳元に
響いてくる。
「……大丈夫です。気にしていません。別にあれです。
本命は夜でしたし。何も問題ないですし。ちゃんと
旅行中に捕まえますし」
『そ、そうですね……』
優しいオペレーターの声が、なんだか逆に辛かった。
その日の夕食は、味がしなかった。
別に旅館の調理師が宿泊客の健康などに気を遣いすぎて
しまっただとか、士道の味覚が云々という話ではない。
単純に、他のことに気がいってしまっていたのである。
誰とも会話を交わさず食事を済ませたのち、ぼんやりと
思案を巡らせながら、旅館の廊下をのろのろ歩く。
日中、海で耶倶矢と夕弦が吐いた言葉が、未だに頭の中
に渦巻いていた。
──もう
それを聞いたとき、士道は一瞬彼女らの考えなどが
理解できなかった。
だが、たとえば。
士道が命を投げ出さねば、妹である琴里が死んでしまう
としたならば。
きっと──自分は、逡巡することもなく応と首を振る
のだろう。
自己犠牲だとか献身だとか、そんな
ではない。
ただ単純に、一考だにせず、それしかないと。
そんなものは選択肢などですらないと、頭が判断して
しまうだけだ。
「──ドー」
だから、夕弦に生き残って欲しいというそんな耶倶矢の
気持ちも、耶倶矢に生き残って欲しいと願っている夕弦
の気持ちも、痛いほどに理解できる。
「シドー」
いや、それどころか。むしろ──耶倶矢と夕弦が互いを
こんなにも思い合っていることがわかって、士道として
は嬉しかったのかもしれない。だが……
「おい、シドー!」
「っ!?」
耳元で大声を発され、士道はハッと目を見開いた。
「まったく、ようやく気付いたかシドー」
言って、いつの間にかそこにいた浴衣姿の十香が
ぷくー、と頬を膨らます。
「と、十香……いつからそこに?」
「随分前から隣を歩いていたぞ」
士道が言うと、十香はジッと士道の顔を見つめてきた。
「ん……何だ?」
「いや」
十香はふっと視線を逸らすと、小さく唇の端を上げ、
士道の手をきゅっと握ってきた。
「シドー、よかったら、少し外へ行かないか?」
「え……?」
「夜の海をな──見てみたいのだ」
言って、士道の手を引いてくる。
「あ、ちょ、ちょっと……」
士道は慌てて足を踏ん張り、十香の進行を止めた。
「いや、まずいだろ勝手に外行っちゃ。そろそろ先生も
見回りに来るだろうし……」
すると十香は唇を突き出すようにしながら、ほうと
息を吐いた。
「……すまん、シドー。少し嘘を吐いた」
「え?」
「その……なんだ、せっかく修学旅行に来たのに、
なんだか……あまり話せていないだろう? だから
──シドーと、二人でお話がしたかったのだ」
「……っ」
「駄目……だろうか」
言って、上目遣いになりながら士道を見てくる。
「……いや、そんな、ことは」
これで駄目と言える男がいたなら、是非お目にかかって
みたいものだった。そして次の瞬間士道は、満面の笑み
を浮かべた十香に引っ張られていった。
「はーい! 皆さんお待ちかねであるはずの
トランプタァァァイムっ!……って、あれ?」
叫びながら部屋に飛び込んでいった亜衣は、部屋の中を
見回しながら首を傾げた。
部屋の中に、麻衣と美衣の二人しかいなかった
のである。
「あれ、十香ちゃんは? それに耶倶矢ちゃんも」
問うと、寝転がりながら旅行のしおりを捲っていた
麻衣と、電灯から下がった紐を相手にボクシングを
していた美衣が顔を向けてきた。
「んー、十香ちゃんなら五河くんと一緒にいたよー。
よろしくやってんじゃないのー?」
「耶倶矢ちゃんも見たよー。壁に隠れてその二人を
見てた」
二人の言葉に、亜衣は「ほほう……」とあごを撫でた。
「うそ、まさかの三角関係? きゃー、何だか昼ドラの
匂いがしますなあ」
亜衣はにまにまと笑ったあと、手にしたトランプに
視線を落とした。
「しかしま、そうなると人数が足りないか。大富豪
しようと思ったんだけど」
亜衣が肩をすくめながら言うと、二人があははと
笑ってきた。
「まあそれだと五人は欲しいわよねー」
「夕弦ちゃんの方呼んでみたら?」
「いや、そっちの部屋の方にも寄ってみたんだけど、
夕弦ちゃんもいなかったのよね。それとエレンさんは
見つけたんだけど途中で見失ってしまったし。みんな
揃ってどこ行ったんだか」
亜衣はふうと息を吐くと、ほんじゃま七並べでも
しとく? とカードを切り始めた。
「──はぁっ、はぁっ」
旅館の外で壁に張り付くようにしながら、エレンは荒い
息を整えるように深呼吸をした。
そして旅館の中を覗き込み、そこに誰もいないことを
確認してから放念の息を吐く。
「……危ないところでした」
独り言を呟き、額の汗を拭う。今回のターゲットである
夜刀神十香が、男子生徒とともに外の方に出ていくのを
見かけ、これはチャンスとそのあとを追おうとしていた
瞬間、背後から「エーレーンさぁぁぁん! あっそびっまっしょぉぉぉ!」と
慌ててその場から離脱したものの、正直心臓などは未だ
バクバクいっていた。
「ま、まあ、ともあれ、チャンスです」
エレンはもう一度だけ念のため旅館の様子などを
窺ってから、インカムに手を伸ばした。
「〈アルバテル〉、見えていますか? ターゲットが
旅館を離れました。仕掛けます」
『──了解しました』
「それと……この近辺にも〈バンダースナッチ〉を
一機、待機させておいてください」
『構いませんが、なぜでしょうか』
「──旅館内にはASTの鳶一
思いますが……万が一彼女に不審な動きなどが見られた
場合、そちらで対応してください」
『了解』
オペレーターの声を確認してから、エレンは夜闇に足を
踏み入れていった。
夜の浜辺にはまるで人影がなく、日中の喧噪が嘘の
ように静まり返っていた。
まあ、士道たちのいたプライベートビーチは、昼間から
静かではあったのだが。
士道と十香は、ゆっくりとした歩調で海岸沿いの防波堤
付近を歩きながら、何くれとない会話を交わしていた。
「──でな、昨日の夜は亜衣、麻衣、美衣たちと枕投げ
をしていたのだ」
「はは……そんなことしてたのかよ」
「うむ。最初は鳶一折紙と、どちらがシドーの看病を
しにいくかを決めるための勝負だったのだが、途中から
つい熱くなってしまってな、互いに疲れて眠ってしまう
までやってしまった」
「……そ、そうか」
士道は力無く苦笑した。もし早くにその決着が付いて
しまっていたり、どちらかの体力が余っていたりした
なら、昨日の夜はさらなる大惨事が待っていたかも
しれない。
とはいえ……なんというのだろうか。さして意味のない
会話を交わしているだけだというのに、何となく気分が
楽になってきていた。
と、少しばかり歩みを進めたところで、不意に十香が
振り返ってくる。
「それで──シドー。一体、何があったのだ?」
言われて、士道はどきんと心臓が跳ねるのを感じた。
「……っ、何っ、て」
「いや、具体的にはわからんのだが……何か、あった
のだろう?」
「な、なんでそう思うんだ……?」
士道が問うと、十香が「んー……」と人差し指をあごに
触れさせた。
「なんとなく、シドーが悩んでいる感じなどがしてな。
そうだ──ええと、あのとき、狂三や〈アテナ〉の二人
のときと少しだけ似たような感じがしたのだ」
小さくうなずきながら十香が言ってくる。士道は目を
見開いた。
先月、その少女の本性を知ってしまった士道は現実に
打ちのめされ───そして、十香の言葉に救われたの
だった。
〈アテナ〉。
狂三とデートをしている途中で、乱入してきた真那に
容赦なく殺意が宿った刃を向け、士道に冷たい拒絶の
言葉を放ってきた少女。
そして、五年前には、あの燃え盛る天宮市南甲町の中、
折紙の両親を殺した疑いがあり、士道と琴里の記憶の中
の”人ならざる者”との深い関係があるであろう精霊で、
折紙が探し続けていた仇の精霊の一人である。
「いや、何もないならいいのだ。もしかしたら、
私の思い過ごしかもしれん」
「…………」
十香の言葉に、士道は大きく吐息した。
「もしかして、十香。そのために俺を連れだして
くれたのか?」
「む……まあ、その、なんだ。いや、私がシドーと話を
したかったのも本当だぞ?」
十香がほんのりと頬を染めながらそう言ってくる。
そんな仕草がたまらなく可愛らしくて──そして、
ありがたくて、士道は思わず頬を緩めていた。
「……なあ、十香。聞いてくれるか?」
「む? うむ、何でも聞くぞ」
十香がうなずいてくる。士道は首肯してから、ゆっくり
と話し始めた。
「耶倶矢と夕弦の二人がいるだろ? 嘘みたいな話
なんだがな、実はあいつらが──」
魅力勝負云々のことは上手くぼかしながら、あの二人が
精霊であり、争いあっていること、そして……負けた方
は命を失ってしまうことを説明する。
最初はふむふむと首肯していた十香だったが、すぐに
驚いたような顔になっていった。
「なんと……そんなことが」
「ああ。それで──本題はここからなんだけどな。
実は……今日の昼、耶倶矢に、『夕弦を選べ』って
言われたんだ」
「何……? そんな馬鹿な、それでは耶倶矢は──」
言いかけて、十香は小さく首を振った。
「いや……しかし、そうか。私も、私が死なねばシドー
が死んでしまうとそう言われたならば……そうするかも
しれない」
「十香……」
士道が言うと、十香はハッとした様子で肩を揺らした。
「ぬ、な、なんでもない! 続けてくれ!」
「あ、ああ……」
ぽりぽりと頬をかいてから続ける。
「それで……な、実はそのあとすぐ、夕弦にも同じこと
を言われたんだ。
『耶倶矢を選んでくれ』って、な」
十香が、目を丸くする。
「なんと……それでは耶倶矢と夕弦は」
「ああ……お互い、相手を生かしたがってるんだ。
たとえ自分の自我が消えてなくなってしまうとしても、
耶倶矢は夕弦に、夕弦は耶倶矢に、生き残って欲しいと
思ってるんだ。それで───なんていうか、どうしたら
いいのかわからなくなっちまってさ」
士道が言うと、十香はむう、とうなって黙り込んだ。
それからしばらくの間、難しげに考え込むように眉を
ひそめる。
そして数秒後、十香は神妙な面持ちで、ゆっくり口を
動かし始めた。
「なあ……シドー。私は思うのだが──」
と──その瞬間。前方から地面を踏みしめるような音が
響いて、士道は顔を上げた。
そしてそこに浴衣を着た少女の姿を認め、身体を
強ばらせる。
──そう。
「か、耶倶矢……!? なんでここに……」
「今の……何?」
問いには答えず、耶倶矢が静かな──しかし激しい憤怒
に彩られた声音を発してくる。
「夕弦が……私を? は……? 意味わかんない。
何言ってんの?」
独り言を呟くようにそう言いながら、耶倶矢がぎりと
歯を噛みしめ、拳を握る。するとそれに合わせるよう
にして、周囲に冷たい風が渦巻いていった。
「耶倶矢、落ち着──」
焦燥に心臓などを締め付けられながら士道は言った。
だが、耶倶矢はそんな士道の言葉などをまるで聞いて
いないようだった。ただ拳に力を入れ、全身を小刻み
に震わせている。
そして──それに次いで。
「……ッ!? 夕弦……!?」
背後からの足音に士道が振り返ると、そこには、耶倶矢
と同じように顔を俯かせた夕弦の姿があった。
「復唱──要求。耶倶矢が……夕弦を選べと?
そう言ったのですか?」
「夕弦、話を──」
『
瞬間、二人が怒号にも近い声を吐くと同時、二人から
凄まじい風圧が発された。
「うわ……ッ!?」
「く──!」
二人のすぐ近くにいた士道と十香は、突然の風に背から
地面に叩きつけられてしまった。どうにか近くの防波堤
にしがみつきながら身を起こし、二人の方にすぐ視線を
戻す。
凄まじいまでの風の奔流が耶倶矢と夕弦の二人の身体に
まとわりつき、彼女らが身につけていた衣服を光の粒子
に変えていく。
そして、それと入れ替わるようにして、二人の全身を
締め付ける拘束衣が出現し、首と手足などの箇所に
錠が掛けられる。
──
しかも、それだけでは終わらなかった。
耶倶矢が右手を、夕弦が左手を、それぞれ前に掲げる。
すると耶倶矢の右肩に、無機的な質感の翼が現出した。
そしてそこを起点にするように、右腕に金属のような
光沢を持った手甲が構築され───最後にその手に、
彼女の身の丈を優に超える巨大な槍が現れる。
「〈
それとまったく同時に、夕弦の左肩にも無機的な翼が
生えた。そして左腕を鎧が覆っていき、その手の中に、
先端に菱形の刃がついた紐のようなものが握られる。
それはまるで、ダウジングに用いるペンデュラムの
ように見えた。
「呼応。〈
耶倶矢が槍を構え、夕弦がペンデュラムの先端についた
刃を宙に浮かせる。
士道は顔を青くした。
二人が今顕現させたのは、間違いなく『天使』だった。
一瞬のうちに様々な思考が頭の中を駆けめぐってくる。
『ふざけるな』。二人が発した言葉の意味。それは二人
の秘密を漏らした士道に向けられたものなのか──
それとも、士道と二人で話をしていた十香に向けられた
ものなのか。
だが、正解はどちらでもないようだった。
耶倶矢は夕弦を、夕弦は耶倶矢を刺すような視線で
睨みつけ、忌々しげに口を開く。
「……ふざけたことしてくれんじゃないの、夕弦。
私を選べですって?」
「反論。耶倶矢こそ、なんのつもりですか。夕弦は
そんなこと、頼んだ覚えはありません」
その言葉とともに、辺りに渦巻く風がさらに強く
なっていく。
「──駄目ね。やっぱり、駄目。この決闘方法なら穏便
に順当に決着が付くと思ったけどあんたの阿呆さを計算
に入れるのを忘れてたわ」
「同意。耶倶矢の馬鹿さ加減には愛想が尽きます。──
結局、こうなるのです。二人で始めた決闘を、誰かの手
で終わらせてもらおうだなんて、虫が良すぎたのです」
言って、二人が槍を、ペンデュラムを構える。
「そうね。やっぱり、最後は私たち二人でやるしかない
みたいね。ちょうどいいわ。今私、生涯最高潮にあんた
にむかっ腹立ってるし」
「応戦。夕弦もです。耶倶矢の浅慮さに苛立ちと怒りを
隠し切れません」
「──決闘方法は」
「当然。知れたことです」
耶倶矢と夕弦は、再び同時に口を開いた。
『──倒れた方が、
それが示すのはただ一つ。
どちらかが倒れるまで止むことのない──闘争。
「やめ──」
士道の制止の声も聞かず、二人は凄まじい風圧を伴って
激突した。
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しれません‼︎
今回の更新作品は『五等分の花嫁 繋がり合う絆』を
更新してますので、見てもらえれば嬉しいです!
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