正義の味方になりたかった系ハンターのエミヤ=キリツグだ 作:GT(EW版)
原作:HUNTER×HUNTER
タグ:R-15 オリ主 転生 クロスオーバー 女主人公 Fate 衛宮切嗣(偽物) セイバー(ちょっと強い普通の女の子)
この世界の至るところには、不思議な力が溢れている。
家庭の事情からそういった類いとは産まれた頃から馴染みのあった私だが、「念能力」という存在を知ったのは12歳の頃、ブラックリストハンターである師匠と出会ってからが初めてのことだった。
『はじめに言っておくとね……僕は魔法使いなんだ』
私の身柄を厳重に閉じ込めていた石室を素手で破壊しながら、理屈では説明できない力を発揮したあの時の師匠はそう言っていたものだ。
「念」を知らない人間に対する説明として「魔法」という言葉を遣ったのは、その表現が誰にでも呑み込みやすかったからだろう。
肉体から溢れ出す生命エネルギー「オーラ」。
そしてそれを自在に使いこなす技能「念」。
人間にも動植物にも魔獣にも、この世界に生きるあらゆる生物の身にはオーラが宿っているが、その力を任意に引き出すことができる者──「念能力者」の存在はほんの一握りだと後に知った。
師匠が言うには私が幼い頃から本で伝え聞いていた名高い仙人たちもまた、その多くが念能力者であったり、本人も自覚しないまま念能力を使っていたりするのだとか。この世の新しい一面を知った気分である。
「念」の基盤となるオーラ自体は生物が元来備えているもののため、修行次第では誰でも「念」を習得することができる。だからこそ悪用の危険から「念」の存在は一般人に秘匿されていのだ。
そしてその念能力の習得が活動の大前提となっているのが、師匠のような「プロハンター」という職業である。
人が踏み込むことができない過酷な危地を仕事場とする彼らには、それ故に人を超えた力が必要となる。その力こそが「念」であり、自らの身を守る盾となり、剣にもなるのだそうだ。
『だけど……僕にはアヴァロンがある』
少し変わったところのある私の
念を扱うことで人はその肉体から爆発的な力を引き出すことができるが、それは念能力の持つ可能性の一側面に過ぎない。
それとは反対に、念は扱い方次第では強すぎる危険な力を抜き身の刃としないように封じ込めることもできるのだと言う。
私自身、師匠が師匠となってからまず最初に取り組まされたのは、オーラの精孔を閉じ、オーラが全く出ていない状態にする「絶」の習得訓練だったものだ。
それぞれ「纏」、「絶」、「練」、「発」と呼ばれる念能力の基礎。念を知らなかった人間がそれら「四大行」をまっさらな状態で習得しようとする場合、まずは自らの肉体に閉じ込められているオーラを外へ解き放つ為、オーラの発生気管である「精孔」を開くところから修行を始めるらしい。
通常、人間の精孔は閉ざされており、頭から微弱なオーラが垂れ流しの状態になっている。精孔を開くことで初めてオーラを見ることができ、そこから「纏」──垂れ流し状態のオーラを自らの肉体の周りに留める準備が整うという流れだ。
精孔を開く方法としては長期間の地道な瞑想によってゆっくりと解放していくパターンと、念能力者による攻撃を受けることで外部から精孔を刺激し、無理矢理開くパターンの2種類に分かれる。
そして私の精孔がいつの間にか開いていたのは、十中八九後者のパターンだろうと師匠は教えてくれた。
確かに私は生まれてこの方瞑想などしたことがない。
かと言って師匠のような念能力者から攻撃された憶えも無かったが、「外部から精孔を刺激された」という状況には一際強い心当たりがあった。
──それは、私が持っているこの武器……「エクスカリバー」である。
暗澹としたカキン帝国の、地図にすら記されていない小さな村──私の生まれ育ったその村では、「理想の王」を造り出すという常人には理解しがたい目的の下、非人道的な儀式が百年以上にも及んで繰り返し行われていた。
その儀式とは、因習村に封印されている「選定の剣」を台座から引き抜くというもの。
その行為自体は他の村々でもよく聞くような話に思えるだろうが、問題はその「選定の剣」である。
この剣──引き抜こうと柄に振れた瞬間、振れた者の生命力を瞬く間に絞り尽くしていくのだ。
天に選ばれていない者、すなわち「理想の王」になり得ない者は剣によって神罰を下されるという解釈になっていたが……子供ながらに私は、あれは聖剣などではなく呪われた魔剣や邪剣の類いなのではないかと常々疑っていたものだ。
そう、この「選定の剣」もまた、「念」と同じくこの世界に跋扈する不思議な力の一つだった。
そもそもが私の生まれた村は、凡そまともなものではなかった。
カキン国に深い恨みを持った人々が集まって結成したテログループによって興されたその村は、あらゆる犯罪行為に手を染めながら、じわりじわりと国家転覆の準備を進めていた。
この「選定の剣」による儀式もまた、その準備の一つだと聞いた。何でも剣を抜いた者こそが現在の王族に取って代わる「理想の王」、すなわちカキン国の新たな支配者となるのだという。
そんな与太話に何の価値があるのかわからなかった私だが、村の老人たちは嬉々として選定の儀式を行い、剣に手を触れては無惨な屍に変わっていく若者たちの姿を狂気的な眼差しで見続けていた。
そんなことを続けていれば村から若者が居なくなるのは自明の理であり、故に外部から若者を拉致して無理矢理「選定の剣」を抜かせようと差し向けては失敗し、もはや神聖な儀式とは程遠い人体実験のような行為を繰り返していたものだ。
──そんな村だったからか、私が引き抜いた「選定の剣」が、その刀身から放たれた太陽の如き光で村人たちを蒸発させていく光景を見ても、私の心に罪悪感は湧かなかった。もちろん楽しくもなかったが、まあいいや、まいやという心情だ。
王族への復讐だとか、全ては邪悪なるカキン帝国を浄化しあるべき姿に戻す為だとか言いながら、何の罪も無い子供たちさえも拉致して洗脳して……実験しての虐殺を繰り返してきた村だ。
私自身はこの村で生まれ育った生え抜きの実験体のためか、あの子たちと比べれば「王の器」として大切に扱われてきた部類であったが……本当に神罰というものがあるのなら、このような村は滅ぶべくして滅ぶ筈だろうと彼らの遺体を冷めた思いで見下ろしていたものだ。
自慢ではないが、昔から「あの子は人の心がわからない」と言われ続けてきた私である。
「理想の王」たる者にしか抜けぬと言われた「選定の剣」を引き抜いた時も、自らの使命を果たせたことに対する喜びは湧かなかったし、剣の力が暴走し壊滅していく村の光景を見ても何ら申し訳ないとは思わなかった。
自分の生命力が吸い尽くされなかったことに安堵する思いはあったが、他の者たちのように吸い尽くされて死ねるのならばそれはそれで仕方が無いと受け入れている気持ちもあり……何と言うべきか、どうにでもなれーという感情だったのだ。
百年以上もの間誰一人として儀式を成功させた者はおらず、その丘に若者たちの死体の山を無意味に積み重ねてきた特級の呪物。
いよいよ儀式が私の番へと回ってきた時、その柄を右手で掴んだ私は即座にこの肉体が干物になる未来を幻視していた。
しかし、予想に反して私の身体は元気だった。
まことに信じがたいことに、当時12歳の小娘の手でスルリと台座から引き抜かれた「選定の剣」は、その金色の刀身から聖剣の名に相応しい輝きを放っていた。
そして同時に、私から見える世界は大きく変わった。
それが私の、「念」の目覚めだった。
身体の奥から溢れ出る強烈な力の昂ぶりと同時に、周囲の生物が発するオーラの姿をその目で読み取れるようになった。私の精孔が、「選定の剣」という外部からの刺激を受けたことで強引に開かれてしまったのだ。
……後に師匠から聞いた話だが、「選定の剣」は大昔の念能力者が強力な念を込めて鍛造した代物なのではないかという考察である。剣に込められた念能力者のオーラが、私の精孔を開く条件に合致していたのではないかという話は納得できる理屈だった。
『引いた……引いたというのか! おお……なんと……何という……!』
『やはり、理想の王はお前だったか……! お前こそが、ロード=ログレス……!』
剣を掲げた私の姿を膝をついて見上げた老人たちは、これで一族の悲願を達成できると一様に涙を流していたものだ。
だがその言葉が、彼らの辞世の句となった。
次の瞬間、私の掲げる「選定の剣」から放たれた爆発的な閃光が、彼らの身を容赦無く焼き払っていったのである。
もちろん、私の意思ではない。
彼らのことは嫌悪の対象ではあったが、手ずから殺してやりたいと思うほどの関心があったかと言うと答えは否だ。
端的に言うと、百年以上ぶりに解き放たれた「選定の剣」はその力を暴走させてしまった。
竜が起床した時に上げる目覚めの咆哮のようだとぼんやり思ったのが私である。
突如として放たれた聖剣の閃光は、まるでそれこそが彼らに対する「理想の王」の答えだと言わんばかりに、無情なる断罪の刃となって村の全てを吹き飛ばしていった。
内心では「何ですかこれは……」と困惑しながらも私は、この時暴虐を尽くしていた剣から手を離すことができなかった。
恐るべきは聖剣の呼び名に違わぬ破壊力だったが、しかしそれ以上に私が恐ろしいと感じたのは消し炭にされていく老人たちが死する時まで恍惚と浮かべていた狂気の笑みだったのだ。
──
……ま、そんなことはどうでも良いのです。
ともかく百年以上続いた狂気の村の悪しき因習は、私が引き抜いた聖剣の目覚めと共に村諸共呆気なく終焉を迎えることとなった。
そしてそれは私にとって、剣の力を欲する者たちから逃走する日々の始まりでもあった。
村が滅びてから一晩と経たない内に、明らかに堅気ではない者たちが一体どこから聞きつけたのやら、「選定の剣」と私を捜して集まってきたのである。
全員が防弾チョッキと銃で武装している彼らの姿と一部の者たちから感じ取れる不気味なオーラに何か嫌な予感がした私は、彼らから逃れる為に村の跡地を足早に離れることとなった。
元々、後片付けを終えたら旅に出るつもりではあった。
読書を数少ない趣味の一つとしてから村の外の世界にはそこはかとなく憧れを抱いていたのだ。とうに幻想として諦めていた想いだったが、図らずも村を滅ぼしたことでその憧れに向けて一歩足を踏み出せたということになる。
しかし、そこは残念ながら12歳の小娘である。
いかに「選定の剣」の威力が一振りで村を滅ぼすほど高かろうと、それを振るう人間は念の概念も知らない、ちょっと強い女の子に過ぎない。
案の定、私は旅立ってから数日と持たず体力切れを起こし、森の中で気を失うことになった。
──そして、目覚めればそこは冷たく固い石室の中。少女は囚われの身となっていた。
私は何者かに、おそらくは村の跡地で私を捜していた武装集団であろう。気絶している間に拘束され、隔離施設に押し込められてしまったのだった。
その事実に対して私は、とても残念だとは思ったが不思議と恐怖は無かった。「まあそう上手くはいかないか」という諦観と「さてここからどのようにして抜け出そうか」という状況分析がそれぞれ30%ずつ。
残りは縄に両手を背中で縛られ、お尻を突き出すように強制された姿勢が窮屈で苦しいという感情が10%。身につけていた服が何故か高そうな白いドレス衣装に着せ替えられていたことへの困惑が30%という感情の配分だった。
その丈の短いドレスは私を捕まえた者の趣味か何かだったのだろうか……あまり深く考えたくはなかったが、思考力が戻ると気絶する前には言うまでもなく身につけていた筈の下着の感触が上下共に無くなっていたことに気づき、私の感情配分も流石に内心激しく乱されていった。もちろん、困惑側に。
貞操的に、非常に嫌な想像が過ったが……身体に拘束部以外の痛みは無く後日何事も無かったことを確認するとその時は深く安堵の息を吐いたものである。それはもう、聖剣に触れた後も自分が生きていることに気づいた時よりも安心したほどだ。こう見えて多感なんですよ私は。
──何より幸いだったのは、目覚めてから程なくしてすぐ、ウニのようにモサモサした髪型の知らないおじさんがそんな私を助けに来てくれたことだった。
『やあ、こんばんはお嬢さん。僕は正義の味方になりたかった系ハンターの、エミヤ=キリツグだ』
それは、私の出会った運命だった。
冷たい石室をいとも容易く素手で破壊した青年は、自らの名をそう名乗りながら私の前へ唐突に現れた。
オーラから敵意を感じなかった私は、彼が私を捕らえた側の者ではなく助けに来た人間であることを直感的に悟っていた。
その直感の正しさを証明するかのように彼は手慣れた動きで私の拘束をほどき……しかし楽な体勢になった私がこの顔を上げて目を見合わせた瞬間、彼の紳士的な態度は秒で崩れ去った。
『なに……? お前は……セイバァァァー!!』
『……?』
誰か知り合いに、私の顔に似ている者でもいたのだろうか? 答えは今も聞けていないが、私の顔を見た瞬間彼は酷く驚いた様子でそう叫んだ。
彼の身体が発するオーラから、常人からは考えられない激しい揺らぎを感じた。
何か……不快です。
当時は念の存在を知らなかった私だが、そんな彼の情緒不安定な様子に何かこう……命の危険以上の怪しさを感じた私は後退りたくなる思いを堪えながらせめてもの抵抗とばかりに精一杯睨み返してやったものだ。
そしてそんな私の手には、不可思議にもいつの間にか「選定の剣」が握られていた。
気を失っていたので気づかなかったが、どうやら「選定の剣」は私の肉体と一体化しており、この心が戦意を抱いた瞬間に限り体内から具現化されるようになっている──らしい。
それは「選定の剣」が元々備えている機能なのか、或いは剣に触れたことで精孔が開いた私が無意識に身につけてしまった念能力なのかは定かでないが、ともあれ聖剣は私の意思一つでこの手に舞い戻るようになっていたのだ。
その現象に誰よりも驚いていたのは他でもない私だったのだが、一触即発の状況故にそんな内心を悟られぬように、この時の私は努めて気丈に問い掛けた。
自らをハンターと語る彼が何を求めて私の前に現れたのか……私の直感は彼に敵意が無いことを感じ取っていたのだが、それでも「人の心がわからない」私は、会ったこともない知らない男が善意で自分を助けに来たという事実を素直に受け入れられなかったのだ。
彼の目的は私ではなく、おそらく私が引き抜いた得体の知れない聖剣だろうと判断していたのだ。
この剣を奪う為に私を騙そうとしている可能性も、もちろん考慮していた。
『問おう──貴方が私の、ハンターか?』
ハンターならば一振りで村を滅ぼした魔剣と、それを手にした危険人物である私を狩りに来たのかと……そう問い掛けた私の言葉に対して彼は一瞬固まり、笑った。
『……君の名前は?』
『私に、名前はありません。産まれた頃から王の器となるように育てられた村の子供は、この選定の剣を引き抜いた時になって初めて王として……人として認められ、名を与えられる。そういう風習でした』
『なるほど……ならその剣を無事引き抜くことができた君には、名前を与えられる資格があるわけだ』
自分で村の因習を口にしたことで、私は思い出した。
それは長老が今際の際に呟いた一言。あれはまさしく、選定の儀式を成功させた初めての実験体を真の「王」として認め、名を与えていたのではないかと。
生まれて初めて付けられたその名前を、私は初めて口にしてみた。
『ロード=ログレス』
他人事のようにしか感じていなかったが、思いの外しっくり来るものだ──そんな自らの王名を名乗り、私は聖剣を構え直す。
そんな私の構えを見て、エミヤ=キリツグと名乗った男は、何かを噛み締めるような顔で問い掛けてきた。
『……そうか。じゃあログレス……知らないおじさんに着いていくのと、ハンター協会に保護されるのとではどっちがいい?』
『…………』
村を滅ぼした剣を構える私に対して、彼は最後まで敵意を見せなかった。
そんな彼はしかし、この場に残るという選択肢だけは与えてくれなかった。
だから……私は不思議と迷わず、答えを返した。
本の知識だが、プロのハンターはいずれも超人じみた怪物揃いであると聞く。
確かにこの「選定の剣」のような人智を超えたお宝を狩ろうとするのであれば、宝を巡る争いに打ち勝つ為、最低でも生身で銃弾を耐えたり素手で岩を砕き割るぐらいできなければ話にもならない筈だろうと納得する。
それは私の身体を赤子のように抱き抱えながら速度を落とすことなく疾走し、悪天候の中、歪んだ大地を踏みしめていくキリツグの姿を見れば明白だった。
降り注ぐ大雨と共に襲い来る銃弾の嵐を物ともせず、キリツグはまるで後ろに目がついているかのような動きで武装集団による追跡を華麗に捌いていった。
その間、丈の短いドレスを着ている上に下着もつけていない状態で彼に抱き抱えられていたこの時の私は、正直言って色々と……その……落ち着かない状態だったのだが、彼の超人的な動きを間近に見ていると次第にそのような羞恥心は気にならなくなっていた。
武装集団──あれはおそらく、あの村に連なるテログループのメンバーだったのだろう。
命の危機が迫っていたその状況で衣服のことなど考えている場合ではないのはもちろんだが、私はただただ単純に、彼らを圧倒し振り切っていくプロハンター、エミヤ=キリツグという男の力に目を奪われていた。
控えめに言って、人間のできる動きではなかった。
馬よりも速く走り、弓矢よりも鋭い蹴りで立ち塞がる兵士たちをいとも容易く薙ぎ払っていく。それでいて私を抱き抱えた腕の中は周囲の混乱が嘘のように穏やかで、まるでゆりかごのようだった。
思わず眠りたくなるような安心を感じたものだが……彼が加速を掛ける度に高らかに叫ぶ「タイムアルター、ダブルアクセル! ンンッ!!」という苦悶の声が気になって中々寝付けなかったのが当時の自分である。
……念について教わった今ならわかるが、あれはキリツグの持つ固有の念能力「発」の発動に必要な制約だったのだろう。
発動した瞬間、ただでさえ人間を辞めていた彼の脚力はさらに上の次元へと引き上がり、追っ手諸共音を置き去りにしていった。
身体能力の爆発的な向上──念が実現できる人間の可能性の一端である。
私はプロハンター界隈に詳しくないが、私を助けに来たハンターが彼でなかったら彼らから逃げ切るのは難しかっただろうと思う。
村の関係者はもちろん「カキン」という国では私の出自は色々と大っぴらにはできない事情が複雑に絡んでいる。
故に大陸にいる間、追っ手の数は途切れることが無く、道中立ち寄った町ではまともに身体を休める時間さえ無かったものだ。
慌ただしいという言葉が生温い逃亡生活の中、常人では到底耐えられないスケジュールをこなしていくキリツグの姿に私は、「選定の剣」などよりもハンターや念能力の存在の方がよほど奇特な宝なのではないかと思った次第である。
『……いや、その剣は確かに凄まじいが、僕としてはそれほどの呪いを出し入れして平然としていられる、君の身体の方が興味深く思うよ』
『セクハラですよ、キリツグ』
『そんなつもりは無かったが……まあいいや、まいや』
『?』
ハンター目線から見ると、彼曰く剣は私自身の存在が興味深いお宝に見えるのだそうだ。
確かに百年以上繰り返されてきた選定の儀式の中で、唯一干からびることなく「選定の剣」を引き抜いてみせた私の身体は、普通の人間のそれとは違うのだろう。
尤もだからと言って私は、12年付き合ってきたこの身体を今更怪訝に思う気持ちは無かった。
『王ですから』
『……君は、強化系かもしれないな』
『?』
『さて、そろそろ港が見える。このまま海を出て僕の故郷、ジャポンまで逃れられれば、彼らはもう追ってこないだろう』
『ようやく落ち着けますね、キリツグ』
そんなお宝な私の身柄を聖剣諸共確保してみせたキリツグは、プロハンター独自のツテで手配していた船に乗り込むなり無事カキン帝国から逃げ仰せることとができた。
さらば故郷。さらばカキン帝国。もう戻ることはないでしょう。
心地良い潮風に目を細めた私は、生まれて初めて見た青く広大な海を前に、久方ぶりに心が軽くなったような気がした。
『ああ、今の内にゆっくり休んでおけ、セイバー……じゃなかったログレス。だけど向こうに着いたら、早速「絶」の修行に取り掛かるぞ。既に「纏」はできているようだからね』
『わかりました、師匠』
『マスターでいい』
『? わかりました、
『ふっ……そうかい。そうだろうね』
聖剣の危険性を考えるならば、本当なら亡命先への渡航中、船の中からでも早速私の念修行に取り組みたかったのだろう。
しかしまだ子供な私の体調を慮ってか、彼は体力の回復に専念するように言った。
自らもキセルを吹かし、遠ざかっていくアイジエン大陸をリラックスした様子で眺めている。
キリツグは──私が着いていくと決めた
……ただ、そんな彼にも時々気が回らないことがあった。
『ですがその前に、私はまともな服が欲しいです。特にその……下着が』
『! あ、ああ……そうだね……』
逃走の道中、時間的な余裕が何も無かったので口にはしませんでしたが、私は多感な女の子です。
特にジャポンは小さな面積に対して人口密度が高く、都市部は帝都並みに人の往来が活発だと聞く。そんな場所へ今の格好で出歩くのは、流石に看過できなかった。
無論、キリツグのような成人の男性からしてみれば私のような小娘、そのような意識をすることは無いのだと理解しているが……生憎私の方はそこまで割り切れるものではない。これは、尊厳を守る為の戦いである。
潮風に煽られて捲り上がりかけた丈の短い裾を両手で押さえながら、私があまり言いたくなかった切実な感情を吐露するとキリツグは気まずそうにそっぽを向き、もう一本キセルを吸いながら言った。
『……僕としたことが、とんだご無礼を。今まで気にする素振りが無かったから、てっきりそういう部族なんだと思っていたよ』
『〜〜っ! そんなわけないじゃないですか! 多感なんですよ私は!』
『ふふっ、そうか……』
笑いごとではない。気づいていたのならもっとこう、気遣ってほしかった。
確かに下着という概念自体が浸透していない村落など、世界規模で見ればそう珍しいものではないというのはわかる。
特に彼のように世界中を旅回っている人間からしてみれば、文化の違う未開の部族との関わり方も心得ていることだろう。
だから逃亡生活の激しい運動の中で仮に、仮に! うっかり見えてしまったとしても、「そういう部族なら仕方ない」と何も指摘せず受け流すのも至って大人らしい処世術と言える。
……いや、私としてもあえて指摘してこなかったのはありがたかったのだ。その配慮もまた、騎士の情けとして受け取っておきましょう。
だがそれはそれとして、この時の私の中では抑えきれない感情が自分でも驚くほど顔を熱くさせてきた。
過剰なほど溢れてきた羞恥心もまた、命の危機という鉄火場を乗り越えてきた今だからこそ、一気に込み上がってきたものなのかもしれない。
……急に全身から力が抜けてその場にへたり込んでしまったのも、これまでの緊張が抜けたことの証だろう。
ドレスの裾を固く握りながら、自分自身の感情を処理しきれず目を伏せた私の姿をチラリと一瞥した後、彼は薄く笑って呟いた。
「ああ──安心した」
「何がですか!?」と、私が抗議の感情を込めて上目遣いに睨むと、キリツグは弁解するように返した。
『そうしていると、普通の女の子じゃないかと思ってね』
『……何ですかそれは? 今まで、私のことをどう見ていたのですか?』
『オーラの波長があまりにも落ち着き過ぎていた。はっきり言って、気味が悪いと思っていたよ』
『気味が悪い、ですか……そうかもしれませんね。幼い頃から、そうなるように作られてきましたから』
初対面の時、泣きもせず騒ぎもせず、ただ静かに剣を構えていた私の姿は彼の目には酷く不気味なものに映っていたらしい。
それこそまるで──人のフリをした機械のようだったと、彼は語った。
……実際、あの村ではそういう存在になるように生まれた頃から「教育」されてきたのが、「王の器」として育て、作られてきた私という存在である。
この時は私もまだ世間一般的な社会というものを書面でしか知らなかったので、私自身は「そういうものか」と思っていた次第だが……暗殺教育として毒の入った料理を日常的に食べさせられたりといった教育も、全く一般的なものではなかったのだ。
ジャポンに着いてからの私は、その辺りのカルチャーショックに度々頭を悩まされることになった。
そして12歳の子供が「死」を毎日傍にあるものとして享受している姿は、彼の目には直視しがたい、極めて不愉快な姿だったと語った。
……どうやら彼には余計な心配をかけさせてしまっていたらしい。申し訳ない。
ですが心外でもある。村の人からは「人の心がわからない」と評判だった私だが、自認としては普通の女の子の感性なつもりだ。
別に死は怖くはないが蜘蛛とかゴキブリとか普通に怖いし、身なりにも気を遣っている。猫や犬は可愛いと思うし、殿方には恥ずかしい姿を見せたくない。
そうはっきり言っておくと、キリツグは私が初めて見せた「人間らしい仕草」に息を吐き、それから子守唄のように穏やかな口調で語り出した。
『僕が君ぐらいの頃……僕は、正義の味方になりたかった……』
ジャポンに着くまでの、ほんの暇つぶしの一つとして。
聞くに堪えなかったら部屋に戻っていいと前置きした上で、彼はとある物語を聞かせてくれた。
それは「選定の剣」を引き抜く「王の器」として村で育てられてきた私には知り得ない、外の世界のノンフィクション──彼がエミヤ=キリツグというハンターになって子供のような理想を追い続けているという、今を生きる者たちによる時に眩しく、時に物悲しい冒険譚だった。
……彼の語ったその話は、私が村の老人たちから聞かされ続けてきた王の話などよりもずっと、心躍る叙事詩だった。
【エミヤ=キリツグ】
正義の味方になりたかった系ハンター。
自分を衛宮切嗣だと思い込んでいる精神異常者だと思い込んでいる精神異常者。偽偽切嗣である。
実は転生者。元々の姿形は衛宮切嗣とは似ても似つかない一般人だったのだが、自分を衛宮切嗣だと思い込み続けながら日々過酷な修練に励み続けた結果、肉体が少しずつ衛宮切嗣に変形し今の姿になった。流れとしては大体ビスケと同じ。
喜びに打ち震えた変態はさらなる理想を追い求め、ハンター試験を受験し一発合格。プロハンター権限で自らの名前を正式に「エミヤ=キリツグ」に改名した上で、改名以前の自分とは一切結びつかないように経歴を改竄。書類上は完全なる別人として第二の転生を果たした。
ハンターとしては主にブラックリストハンターとして活躍。しかし正義の味方になりたかった系ハンターなので信条に反する依頼は自己判断で破棄したりする。なお、特に悲劇的な過去とか背負っているわけではないのでトロッコ問題に対する考え方はレオリオ寄り。
妻も娘もいない独身である。
念系統は特質系。
最初の水見式の際には水が増加し溢れ出したためしばらくの間強化系だと思い込んでいたのだが、後日「発」の修行でそのまま長時間オーラを浴びせ続けていると増加した筈の水の量が消滅寸前まで減少していき、その後再び増加して水が溢れ出すという増加と減少のループ現象が起こった。
念能力は強化系能力の【
風呂場で敵に襲われた時はタオルを巻けば戦えるタイプ。
【ロード=ログレス(名無しの少女)】
カキン帝国滅亡とホイコーロ一族の全滅を企む邪悪な因習村で生まれ育った名も無き金髪美少女。
死が常に隣にある世界で生きてきた彼女は生への執着が薄く、いつ死んでもいいやと投げやりの日々を送っていた。
そんな時、よくわからないけど全力で正義の味方になりたかった男を演じている精神異常者と遭遇したことで「色々な楽しみ方があるんですね……」とようやくこの世界で生きる人生に楽しみを見出すことができた悲しいコ。
カキン絶対ブッ殺すマンたちが死後強まる念を使って時間をかけて熟成させた特級呪物「選定の剣」を引き抜いた唯一の担い手。
正体は転生者ではないしアーサー王でもない。ちょっと強い普通の女の子である。だけどとても似ている顔をしているので精神異常者はセイバーだと勝手に思い込んでいる。
因習村のことは滅ぶべくして滅びたと思っているが、自分の手で故郷を滅ぼしてしまったことは気にしている。気にしているが、悪かったとはあまり思っていない。
実は天才的な除念師の素質があり、曰く付きの呪物剣を自らの体内に納めているのは剣の特性ではなく彼女自身が無自覚に作った念能力。自らを鞘とすることで自由自在に剣を出し入れすることができる。
因みに呪われていた「選定の剣」は彼女の体内に納められたことで一発で除念されており、名実共に聖剣と呼べる輝きを放つようになった。
生に対する感覚は鈍い。しかし好き好んで死にたいわけでもなく、その時が来たら仕方ないかぐらいの塩梅。
性に対する感覚は鋭い。本人が思っているよりも繊細かつ潔癖。外面は厚く、まるで冷徹な王女のような風格を漂わせていたが……知らない間に知らない誰かに下着を脱がされ薄いドレスを着せられていたのは割とトラウマになっている。
後に、自らの念で具現化した鎧を身につける具現化系能力を習得する。
ジャポン到着後には精神異常者から現地で着物を買ってもらえたが、下着はしばらくの間手に入らなかった。人目を避ける為に彼女らが上陸した港町は、ジャポンでも有数のど田舎……ご老人しかいない古風な場所であり、どうやって着たらいいのかわからないFUNDOSHIなる下着しか売っていなかったのだ。
ただ、その町で手に入れた着物は元々下にアンダーウェアを着なくても良い設計だったので謎ドレスの着心地とは雲泥の差で安心できたという感想である。それでも慣れるまでの間落ち着かない様子だったが、念習得の為の精神鍛錬としては案外役立っていたのかもしれない。
念能力は強化系──だったのだが、「選定の剣」を体内に納めたことによる影響により特質系に変質。キリツグとおそろっちである。
風呂場で敵に襲われた時は全裸でも戦えるが終わった後へたり込んでガチ泣きするタイプ。
【凄腕の操作系念能力者(女)】
画面外で登場。「選定の剣」とそれに連なる因習村について関わり深い、カキン帝国滅亡を企むとあるマフィア……によって雇われた一般女性プロハンター。
雇い主からは解放された聖剣とその担い手を生きたまま回収するように命じられ、そのオーダー通り彼女は少女を傷つけることなく、どころか本人に気づかれることすらなく巧みな手腕で確保してみせた。
が、肝心の聖剣が念能力が発現した彼女の体内に納められてしまったことで、やむなく予定変更。
自らの即席工房に身柄を移し、念能力による聖剣の摘出手術を開始しようとした矢先──彼女は気づいた。
この子の顔……バチクソ好みだわ!と。
それまで少女が着ていた因習村の衣装があまりにみすぼらしかったので危うく見逃しかけてしまったが、それでも美少女フィギュア製作をプライベートの趣味としている彼女は目の前に現れた極上の素材を見逃さなかった。
手慣れた手つきで元の服を処分すると、彼女は少女をたまたま持ち合わせていた白いドレス衣装へと手袋ニーハイフルセットで着せ替えさせ、完成した姫コスチュームに堪らず悶絶。
この時少女の下着を脱がせていたことに性的な意図は無く、元々は聖剣を摘出する為の手術準備だった筈なのだが……完璧なコーディネートを求めるあまり、「下着もちゃんとした物に拘ってあげたいわね……!」とモデラー魂を爆発させた。
そんな彼女は「剣抜いてる場合じゃないわ!」と本来の任務を中断し、拘束した彼女を置いたまま猛スピードでランジェリーショップへ出掛けたのだった。
その後、正義の味方になりたかった系ハンターにまんまと出し抜かれ、連れ去られた彼女を慌てて追いかけようとしたところを突然現れた謎の神父型念獣による八極拳を喰らい、まともに戦えば非常に厄介だった筈の凄腕操作系念能力者は戦線離脱を余儀なくされた。アホである。
拳法の上手い教師の旦那がいる。性癖は一応ノーマル。風呂場で敵に襲われた時は最初から何も起こらなかったことにするタイプ。
日常が衛宮切嗣なのは制約として強い(確信)