無限の時間の中で、僕の時間は無限じゃない   作:モトヤス

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長く時間が開いてしまいました。

そんなわけで前回までのあらすじ。

魔女を倒した飛鳥レイたちの元にエタルガーが強襲をしかけた!疲弊したレイを逃がすために犠牲となってしまった杏子たち。さあ、どうなる11話!


決戦、そして終局

 

 

 

15

 

 

 

『来たか』

 

 かの戦士がこの地に訪れたことにより、主を失い消えるはずだった魔女の結界は歪な様相を保ち、存在し続けている。

 異界であるというのに、青空が広がる矛盾がそこにはある。

 

『少しはマシな(ツラ)になったではないか』

 

 額に包帯を巻いたままの少女。すでに戦装束を身に纏っているが、露出した肌に傷がないところの方が少ないくらいだ。

 だというのに、戦意は衰えていない。むしろ、熱く燃え上がっている。

 

「お前を倒して、みんなを助ける」

 

『みんなとはアレのことか?』

 

「……あ、クッ」

 

 戦士が天を指さす。

 少女がそこに視線を向けると、鏡の中に囚われている三人を見つけた。

 意識はないと判断したようだ。

 

「でも、よかった……」

 

 ひとまずの安堵があった。

 戦士は少女の後ろにいる力のなき存在に気が付く。

 

『どうやら、虫が一匹紛れ込んでいるようだが、まあいい』

 

「全部、守り抜いてみせるさ」

 

『大きく出たな。だが、先の戦いでは見逃してやったのだ。仕切りなおすためにも、前座を用意しやろう』

 

 戦士は不敵に笑い、幻影を作り出すのであった。

 

『お前の相手は俺ではなく、お前の宿敵たち(・・)さあ、楽しませてくれ』

 

 それに命を吹き込む。

 朧げな姿に実体を持たせていく。

 百に届くかという魔女の大群。これらは総て、少女がこれまで倒してきた魔女たちだ。

 

『行け』

 

 力なき存在――暁美ほむらはこの光景を目にして、息を呑んだ。

 勝てるはずがない。いかに少女――飛鳥レイが最強の魔法少女だとしても、この数をまえにして勝ち目などない。数の暴力によって蹂躙されて死んでしまう未来しか待っていないと絶望する。

 しかし、挫けたほむらなぞ関係なしと、二体の魔女が先陣を切り、襲い掛かってきた。

 

「諦めるなよ、ほむら」

 

 レイは続けさまに魔女を殴り、爆殺した。

 目にも止まらぬ早業とはこのことか。もう、普通の人間でしかないほむらには目で追えないほどのスピードで以てして、敵を倒してしまう。

 呆気にとられる自分に、レイは言う。

 

「君があらためて教えてくれただろう。もう、諦めない。だから、君も絶望なんてしなくていい」

 

 

 

16

 

 

 

 会話の最中であろうと、敵は待ってはくれない。理性のない化け物に成り下がった魔女たちは、同胞が殺されようとも怖気づくことはない。

 果敢にも、向かってくる。

 

「限定召喚――ウルトラゼロスラッガー」

 

 レイの頭の付近に一対の宇宙ブーメラン。

 それらを発射する。その後は、魔力で操作し、敵を切り裂いていく。

 

「セェーヤッ」

 

 二十体を切り裂き、手元へと引き戻した。

 つかさず、連続でダメージを与えた個体のみを狙い、的確に殺していく。

 

「残り、七十八体!」

 

 果敢にもではない。正確には力の差も理解できず、恐れすら抱かず、無謀にもだ。

 レイは足に魔力を籠め、跳躍。熱に変換し、蹴りを放ち、三体まとめて貫いた。

 止まらない。

 (ゼロ)の宇宙拳法をトレースし、自身の戦い方に組み込んでいく。

 荒々しい戦法の中に、センス煌めく技の数々。

 ゼロスラッガーを手に、敵を屠った。

 

『ほう、全快といかなくともこれほどまで』

 

 エタルガーがレイを観察しているが、手は出してこないのを確認しつつ、目の前の敵に集中する。

 一体一体が、当時戦ったほどの強さではない。なぜか。

 おそらく、レイの記憶から作られた存在たちだからだ。それらを自身が鮮明に覚えているか、どれほどの脅威と認識しているかによって敵の強さが設定されているのだろう。

 ゆえに、最近戦った魔女はそのままの強さを再現されてある。

 

「あの時の二体同時に出現した魔女か」

 

 雷を放つ赤き翼の魔女(メルバ)血管の浮き出たような赤黒き魔女(ゴルザ)

 空と地から連携を取ってくる。

 非常に厄介だ。だが、成長したレイが一人で対応できない相手ではない。よって、まず狙いを翼の魔女に絞る。赤い方のヘアピンを外した。

 奇跡起こせし月の力(ルナミラクル)を現出させ、飛び上がる。

 銀の装束が青き姿へと変化した。

 

「守り抜く――レボリウムスマッシュ!」

 

 掌底を放つ要領で吹き飛ばし、赤黒き魔女にぶつかるよう調整。計算通り、二体は衝突する。

「よし!」

 

 へアピンを入れ替え、強き太陽の力(ストロングコロナ)の姿へと。

 絶殺の意思の下、魔力を炎熱に変換。放つ。

 

「ガルネイトバスタ―!」

 

 体表がいくら頑強であろうと、焼却する。

 進化した炎は何者をも溶かし尽くした。

 苦戦していたあの頃とは違うのだ。

 毎日を必死に生きて、進化している。過去の亡霊に遅れを取ることはない。

 ほぼ完全に彼の力を引き出すことが出来るようになったレイの技は昇華されていた。

 手を止めない。敵を蹴散らそうとも、空を埋め尽くすほどの光景はまさに圧巻である。

 臆さない。

 

「まだまだいるじゃん。ほんと、厄介だなー……」

 

 銀の姿に戻る。消耗を抑えるためだ。通常フォームとも呼べるこの姿が一番バランスの取れた状態。

 

 ――赤き姿は太陽を象徴し、青き姿は月を司る。

 

 総じて、(ゼロ)の能力を引き継いだものではあるが、いかんせん尖った性能をしている。今まで使っていたものとかけ離れてはいないが、それでも出力が段違いなのである。慣れるまでは、まだ扱いにくい。

 

 宇宙拳法による打撃の応酬によって、魔女を倒す。

 ゼロスラッガーを操り、敵の肉体を切り裂いた。ゼロスラッガーは常に操ったままの状態だ。

 その中で必要に応じて、魔力を変換し、光をスパークさせ放つ。

 

 ――魔法少女になって初めて戦った魔女を殺す。

 ――旅をして、出会った仲間と共に倒した魔女を殺す。

 ――以前、ほむらの悪夢として現れた魔女を殺す。

 

 そうして、敵の数がついに十を切ったとき、そいつは現れた。

 

「黒い僕……」

 

 つい先日倒した自身と瓜二つの存在。

 

『やぁ、僕』

 

「君もいるなんてね」

 

『一番の宿敵が僕なんじゃないかい?』

 

「ああ。その通りかもしれない」

 

 対峙する。救ったはずの存在と。

 

『でも、きっと僕という障害を君は難なく乗り越えていくのだろう』

 

「うん、倒さなきゃならないやつがいる」

 

『本当は君と一緒にエタルガーに立ち向かうことが出来れば、なんて胸熱な展開なのだろう!

 と、思っていたけれど、残念ながら、僕は僕に協力するという意思は剥奪されていてね』

 

「僕もそんな展開が待ち受けていたなら、胸を躍らせていただろうさ。

 だからこそ、君という僕の本質はどこまで行っても飛鳥レイなのだろうけど、その実、飛鳥レイの存在を許せない」

 

 自分もそう在りたいと願ってしまう。

 同一自己の存在を羨むから、消滅させようとする。

 否定せず、その心に従うことも、彼女(魔女)が飛鳥レイを複製(コピー)してしまったがゆえ。

 

『僕にとっての最大の敵が僕なんだよ』

 

 否定しない。

 

『美しいから壊したくなるでしょ?』

 

「そういうセリフを僕ならば、カッコつけて言ってしまう気がして、なんか複雑な気持ちだなっ!?」

 

 そういう痛いセリフをカッコイイと思ってしまうのがレイなのであった。

 要は子供っぽいのである。

 

「――ワイドレイショット!」

 

『――ワイドレイショット!』

 

 二つの光線が激突した。

 拮抗し、破裂するように弾ける。

 一秒の間隙の後、拳がぶつかった。

 

「この光線を君が使えるなんてねー」

 

(きみ)の分身のようなものなんだから、当たり前だろう!』

 

 エタルダミーが起こした魔女の成長。

 自身と同じという一点が、レイの想像により強化されこの現象を存在させていた。

 

「エメリウムスラッシュ」

 

 指先を額に当て、エネルギーを集約、エメラルドに輝く光線を放つ。

 これは牽制だ。回避に回った魔女を打撃によって仕留めるためのもの。

 しかし、同じ自分。読まれる。

 

『はああああああ!』

 

 魔力を籠め、熱を灯し、キックが放たれる。エメリウムスラッシュにぶつけながら、一直線にレイへと肉薄した。

 爆裂する。

 両腕でのガードが間に合うも、その上からのダメージは少なくない。

 

『戦術が甘いんじゃないかい? そんなのじゃ、エタルガーはおろか、僕にすら通用しないよ』

 

「その通りだね。だからこそ」

 

 次の布石は用意しておいた。

 

『くッ』

 

 黒きレイの両肩を宇宙ブーメランが切り裂いた。

 腕がだらんと下がる。

 

『いつのまに……』

 

「お茶の間にさ」

 

 召喚し、操って魔女を倒していたゼロスラッガーをこの戦闘に持ち込んだまでのこと。この戦いの最中、レイは残りの八体を倒していた。

 

「さすがでしょ?」

 

『まったく、カッコいいんだから。片手間に戦ってたってワケか、くっそ~』

 

 一対のゼロスラッガーを両手に持ってくる。

 頭の中にかの巨人の使う最強光線が思い浮かぶ。

 ウルトラマンゼロがゼロスラッガーを胸のカラータイマーに装着し、広範囲を焼き尽くす必殺光線。

 

「――レイ(・・)ツインシュート!」

 

 黒き自分を光線が貫いた。

 

 上半身と下半身が別たれ、各々が粒子となり消えゆく。

 

『容赦ないんだもんなぁ』

 

「最強が控えているからね」

 

『違いないや……』

 

 声は掠れている。力なく倒れ、彼女は死ぬ。

 

『勝ちなよ。守りたいって決めたんでしょ?』

 

「負けるつもりなんて毛頭ないさ」

 

『なら、何も心配ないねー……』

 

 そう言って、完全に消滅した。

 一度救った人に激励されてしまった。レイがそっちの立場なら、同じようにしていたかもしれない。

 実際はどうだったか分からない。それでも、一つの決着がここにはあった。

 

『――光の巨人を受け継ぐものよ、それでこそ俺が自ら手を下す価値があるというもの』

 

「エタルガー……」

 

 これまでの戦闘を目に焼き付けるようにしていたエタルガーは確信する。

 

『素晴らしい活躍! 素晴らしい能力! ああ、貴様と戦うことにこれほど胸が高鳴るとはな』

 

 歓喜に震える戦士がいた。

 

『力を得た人間がここまでやれるとは想像もしていなかった。下に見ていた非礼を詫びよう』

 

「そんな形だけの謝罪なんていらないよーだ。さあ、始めよう――」

 

『いいぞ。人間ッッ!』

 

 ――超速の拳が衝突した。

 

 

 

17

 

 

 

 暁美ほむらはただこの戦いを眺めていることしか出来なかった。

 いつだってそうだ。涙を浮かべ、状況を見ているだけ。

 

 魔女に殺されそうになって鹿目まどかに命を助けられて以来、魔法少女の世界と関わりを持つようになった。

 しかし、ほむらは魔法少女ではない。ただの人間だ。

 彼女の魔法少女の素質は高くなく、キュゥべえが見えるくらいのもの。危険がずっと付きまとってくる魔法少女になりたいとは心から思えなかった。

 それでも、まどかやマミとの関係を絶つことをしなかった。出来なかったのだ。

 憧れがあった。かっこよく人を助けられる魔法少女鹿目まどかに。

 

「レイさん……」

 

 彼女たちに着いて行った際に、飛鳥レイという少女に危ないところを救われた。

 それがほむらとレイの出会い。

 数日後、悩みを相談する機会が訪れた。偶然だったと思う。町を歩いていた時に出会って、一緒にショッピングモールに行った。そして、魔女に憑かれていて、助けられた。そのあと、少し揶揄われてどぎまぎした。

 

「お願い……」

 

 手を合わせ、無事を祈る。勝利を祈る。

 出会って、まだ間もない少女の身を案じた。

 少しでも怪我が少なくあってくださいと願う。

 

「もし、わたしにも……」

 

 魔法少女の力があれば、と考える。

 エントロピーを凌駕するほどの願いがほむらにはない。だから、魔法少女になりたくともなることは叶わない。

 キュゥべえは暁美ほむらを魔法少女にしようとはしない。

 

「わたしには何も出来ないけど、それでも」

 

 少女は奇跡を信じて、祈る。

 ――友達と笑い合っている幸せな未来を。

 

 

 

18

 

 

 

 小手先の技なぞ通用せず、

 力押しの技では押し切れず、

 そこには純粋なまでに力の差があった。

 

『その身体でどこまで保つか……』

 

「ハ――――あ、――っ」

 

 拳を交えるだけで骨が軋み、全身に途轍もない痛みが走る。

 蹴りを受け止めるだけで、衝撃から意識が飛びかける。

 ブレスレットは早い間隔で点滅を繰り返している。

 武装である|籠手〈ガントレット〉はボロボロで砕けかけている。

 

「はぁ、はぁ……はッ。ハァ……は、は――はぁ」

 

 呼吸は乱れ、酸素を肺に送ることすら困難になっている。

 いまだに死んでいないのは全神経を総動員し、この刹那を駆け抜けているからだ。

 

(どうしてこんなにも頑張っているんだっけ?)

 

 意識と身体が乖離していた。

 

 頭の中はクリアで冷静に今を見ている。

 

(ただ痛くて、苦しくて、辛いだけじゃないか)

 

 拳を撃ち出す。

 

 ここに来る前から限界で、本当は嫌だった。

 カッコつけるんじゃなかった。彼女たちに助けてもらったから、今度は自分が助けないとなんて思うんじゃなかった。

 せっかく助かった命だ。大切にしなくちゃいけないだろう。

 今になって後悔し始めていた。

 

 枯渇しているはずの魔力を気合のみで無理やり生成した。全てを拳に集めて、撃ち出す。

 一撃で使い果たし、霧散した。

 

 どうして今も戦っているのだろう。

 いっそのこと死んでしまえば楽になる。こんなに苦しく、激しい痛みの地獄にいるくらいなら。そう思ってしまう。

 

 再度、魔力を練っていく。

 

(もうやめよう。でも、あと一度だけ力を振り絞って、握り拳を作ろう)

 

 己の全てを乗せて拳を撃ちだす。

 敵を倒すことは叶わず、相殺された。

 ずっとただひたすらにそれだけを繰り返している。

 

『もう意識すらままならないか』

 

「っ――、ぅッ――」

 

 何度目だろうか。

 撃ち合い始めて、いったいどのくらい経ったのだろう。拳を交える度に、これまでの頑張りを全て否定されてような気がする。

 

 拳を撃ち出す。大きく吹っ飛ばされた。

 

「ぐっ、ガッ……」

 

『ウルトラ戦士共を殺す前の肩慣らしにしては存外に楽しかったぞ、飛鳥レイ。そろそろ終わりにしよう』

 

 眼前には凄まじき戦士が有り余るエネルギーを腕へと集めている。

 

『では、死ね――』

 

 凝縮され、この星をも粉砕しかねない火球が放たれた。

 レイの目はそれを捉え続けている。

 これを防ぐ手段なぞあるはずもない。人がこの凄まじき戦士に勝てるはずもない。

 

 ――もう尽きているはずの魔力を、命を削って生成する。これまでの戦いも大きく差のあり過ぎる質量を埋めるために命を削りながら魔力を生み出し、消費していたが、それもなりふり構っていられない。

 今まで以上のありったけを持ってくる。

 

「フっ、はあああああ!」

 

 力の入らない両腕を無理やり上げて、眩く、グリーンに輝くディフェンサーを展開した。

 ブレスレットの点滅の間隔がさらに早くなる。

 希望はどこにもない。

 厚く、強固に展開する。だが、敵の攻撃が障壁にぶつかった瞬間にヒビが入った。

 

『ク、ハハハハ。諦めよ、人間!』

 

「諦めるもんか」

 

 まどかの顔が浮かぶ。

 マミの顔が浮かぶ。

 ほむらの顔が浮かぶ。

 杏子の顔が浮かぶ。

 ――|仲間〈ともだち〉を助けると、守るとこの胸に誓った。

 

「今ここで諦めたら全てが終わってしまう。それだけは」

 

 ダメだ――。

 想いを無かった事にしてはいけない。友に応えなくてはいけない。そして、誓いを果たさなくてはいけない。

 自身の裡から湧いた気持ちを裏切ってはいけない。

 

 ――それでも、圧倒的な力の前で魔法少女と言えど、人間はあまりにも無力で。

 

「僕たちは絶対に……負けないッ!」

 

 限界を越えた先で、飛鳥レイのソウルジェムはその光を失った。

 

 

 

19

 

 

 

 宇宙のような空間。

 宙を揺蕩う感覚が身体を支配しているものの、周りは暖かい星の海が広がっているかのように感じられる。

 手を、足を動かそうとしても、まったく動かない。

 

「僕は死んだのか」

 

 ギリギリまで頑張って、踏んばっても駄目だった。

 諦めなくとも、敵わない場合もあるのだと思い知らされた。

 

「僕は……それでも」

 

 唇を噛む。

 悔しくて堪らない。もっと自分にみんなを守るための力があればと切に願う。

 エタルガーを倒すに至れる力が無かった。だから敗北した。

 

「みんなと笑って生きたいんだ。まだこんなとこで、死ぬわけにはいかないんだ……!」

 

 ――突如として目が眩むほどの光が眼前に広がった。

 

 赤きエナジーコアが出現し、そこから光が形を成していく。

 

 ――神々しき白銀の巨人。

 

「ウル、トラマン……?」

 

 問いかけても、返答はない。

 巨人の周囲には無数の光が滞留していた。幻想的で神秘を纏っているかのようだ。

 それはレイの知る|彼〈ゼロ〉とは似ても似つかない姿。そして、もっと大きく感じる。

 存在そのものが異質なのだろうと思う。

 

 巨人は腕を差し出す。

 

 滞留していた光の全てが巨人の腕に集まり、少女へと注がれていく。

 レイは世界を守るかのような優しい光に包まれた。

 ブレスレットに再び光が灯る。

 

「ありがとう、神様」

 

 巨人から諦めるなという声が聞こえた気がした。

 神々しき巨人の名はノア。全宇宙の平和を守り続けているという伝説の超人。

 決して希望を諦めない者への最後の希望。

 

 ――奇跡を起こすのは少女の祈りが神に届くからだ。

 

 故にこそ。

 

 それはきっと神様がくれた運命の雫――

 

 

 

20

 

 

 

『な……にィッ!?』

 

 その輝きをエタルガーは知っている。

 戦いの中で幾度となくウルトラ戦士を封印する彼を追い続けて歴戦の勇士がいた。その勇士が纏う光の鎧。

 ノアイージスが眩い光を放ちながら火球を防ぎ切ったことにエタルガーは怒りの声を上げ、憤怒の形相へとなり果てていく。

 

「神様が認めてくれたんだ」

 

『その力はウルトラマンノアの物。ゼロの力を継いだ貴様が使えるのも不思議ではないということかァ……!』

 

 そもそもレイが継承した|彼〈ゼロ〉の光が形となったウルティメイトブレスは、ウルティメイトイージスが変形したものである。その全てをゼロから受け継いだものの、その一端しか今までは使用出来ていなかった。

 強き太陽の力(ストロングコロナ)奇跡起こせし月の力(ルナミラクル)は|彼〈ゼロ〉ではないとあるウルトラマンの力ではあるが未熟な少女の助けになればと力を貸してくれていた。

 全ての機能を扱うにはノアから認められることが必要だったのだ。

 ノアはどんな状況であろうと、決して諦めない者だけに手を差し伸べる。

 実に厳しきウルトラの神様である。

 

「ウルティメイトイージス!」

 

 バラージの盾と呼ばれるイージスを纏う。そして、そのままエネルギーを剣の部分に収束させて放った。

 狙いはもちろん、

 

『ク、しまった!』

 

 鏡に捕らえられている杏子たちだ。

 意識を失っていたはずだが、三人ともしっかりと復帰し、彼女らは自分たちで着地した。

 レイが彼女たちへ、攻撃させないようにエタルガーを剣――ウルティメイトソードで牽制する。

 

「レイちゃーん!」

 

「ありがとう。助かったわ」

 

「無事でよかった」

 

「信じてたぜ、レイ」

 

「うん、ボロボロだけど、元気そうでなによりだよ」

 

 詰められていたエタルガーとの距離をソードで薙ぎ払い、離した。

 駆け寄ってくる三人。あの戦いのままの姿だ。

 全員がボロボロで、満身創痍。されど、怪我が無い時よりも絶対に全員が強かった。

 

『感動の再会はもういいか?』

 

「ああ、気を遣ってもらって悪いね。じゃあ、君を倒そう」

 

『大きく出たな! 全員まとめて死ね!』

 

 エタルガーの拳に、ソードをぶつける。

 難なく対応できた。ノアの力を受け継いだおかげだろう。総じて出力が向上している。これならば、薄かった勝ちの目も大きくなる。

 動きの止まった瞬間に銃弾と弓撃がエタルガーに注がれる形で戦闘が繰り広げられていた。

 

『やはり厄介だな、その鎧は……』

 

「なら、これからは愛用するとしよう」

 

『神経を逆撫でするのが好きみたいだなァ!』

 

 三発の剣戟を飛ばす。

 これはもう一度距離と時間を稼ぐものだ。急いで、三人の下へ戻る。

 

「あいつを倒すためにさ、ちょっと……いや、けっこう時間を稼いでもらいたいんだけど、お願いしていい?」

 

「もちろんだよ」

 

「アンタさぁ、ウチらのこと信用してないのかい?」

 

「何分でも任せてちょうだい」

 

「じゃ、魔力を供給するねー」

 

 陣形を組む。

 先頭に杏子。続いて、援護にあたるマミとまどか。そして、最後尾にレイだ。

 組み終えた後に、魔力を譲渡する。

 

「はいなー」

 

「ちょっ、と。こんなに!?」

 

「いつも、こんな量の魔力を平然と扱ってんのかよ。おっかねえ……」

 

「でも、これならいけるよ。みんな!」

 

 士気が上がる。レイがウルティメイトイージスを変形させ、矢の状態にした。

 チャージを開始する。

 まずはマミが、

 

「特大の撃ち込むわよー。ティロ・フィナーレ!」

 

「いきなり必殺技撃ってんじゃねえよ! 様子見でやる戦法じゃねえええ!」

 

 マスケット銃を巨大な仕様に変化させ、必殺技を放つ。

 レイの魔力を供給されたがゆえに普段とはかけ離れた威力を伴った一撃は、固定砲台と化した砲身の方が地面から吹っ飛んだ。

 その速度も跳ね上がっている。

 

『クッ!』

 

「そこだぁ!」

 

 こちらもまた巨大化させた槍で切り裂く。しかし、エタルガーの纏う鎧も相当頑強なものだ。衝撃は与えど、大きなダメージにはならない。

 

『おのれぇ!』

 

 吠えるエタルガーに百の矢が降り注ぐ。

 まどかは隙を見逃さない。

 注意が矢に割かれた瞬間にもう一発のティロ・フィナーレと三本の巨大な槍が撃ち込まれた。

 幾つもの戦闘を潜り抜けてきた者達の卓越した連携攻撃。

 杏子とまどかの二人は、まだ日が浅いが、マミとの関係は長い。

 マミと杏子。マミとまどか。ここに関係性があることで成しえているコンビネーションと言えるだろう。

 チャージはまだ完了しない。

 

『このような……人間なぞにィ……』

 

 怒涛の攻撃に今まで傷一つ付かなかったエタルガーの鎧に綻びが生じ始めた。

 それほどまでにノアの力とは強大なのだ。

 

『喰らえ!』

 

 エネルギー弾を生成し、レイを狙うエタルガー。

 

『莫大な力を収束させているのだ。避けれるはずがあるまい』

 

「まずいわ!」

 

「レイちゃん!」

 

 攻撃がレイに迫る。他の魔法少女は誰も対応できない。

 チャージはいまだ完了していない。

 直撃した。

 さすがの進化したレイと言えど、防御もせずにエネルギー弾を受ければ、ひとたまりもない。

 されど、それは本当に直撃していれば、の話だが。

 

『なん……だと』

 

 攻撃が素通りしていった空間が歪み、そこから杏子が現れる。

 

「知らなかったかい? こう見えて、幻影を作るのは得意なのさ」

 

『貴様ァ!!』

 

「エタルガー!」

 

「……ッ!?」

 

 声を発したのはエタルガーの背後。

 ウルティメイトイージスのエネルギーチャージが完了する。

 

「いくぞ。これが、僕たちの――光だ!」

 

 青白い極光を灯す、途方もない神秘を内包した神々しき巨人の矢。

 たとえ神が相手であろうとこの一矢をどう防ごうか。

 放つ光の絆。奇跡を起こし、運命を覆す。

 

『おのれえええ! またしても、人間とウルトラマンの絆に俺は敗北するのかああああああ!』

 

 超高速回転したイージスの矢がエタルガーを貫いた。

 

 

 

21

 

 

 

「終わった……」

 

 レイはゆらゆらと地面に着地し、へたり込んだ。

 

「もう一歩も動けない」

 

「やったな」

 

「あ、仕事人だ」

 

「役目をきっちりとこなしたけれど、そういう言い方はどうなのさ」

 

「全身痛いのに頭をぐりぐりしないでぇー」

 

 杏子をちょっといじったことを全力で後悔する。本当に大失敗である。そして、次にやってくるのは、

 

「レイちゃーん!」

 

「ぐっっっは!」

 

 ダイブしてくるまどかである。

 なんか前もこんなことがあったなーと遠い顔をするレイ。痛みでひょっこり死んでしまいそうだ。

 

「本当にお疲れ様」

 

「ありがと、マミ。君がお姉さんキャラであることをこれ以上に嬉しく思ったことはないよ」

 

「あー。なるほどね」

 

 レイの惨状を目にして、納得がいったよう顔をマミはする。

 

「信じてたぜ、レイ」

 

「あ、先に言われたっ!?」

 

 いつもの日常が戻ってきた。

 あともう一人。

 

「レイさん」

 

「……ほむら」

 

 戦いが終わって、頃合いを見計らってから来てくれたのだろう。

 ほむらは膝を立てて座る。

 彼女のもう目が真っ赤だった。

 

「わたし、レイさんが死んじゃうと思って、でも何も出来なくって、祈ることしか出来なくって……わたし、わたし……っ」

 

「ありがとう。君の想いは僕に届いてたよ」

 

「レイさん-!」

 

 よしよしとほむらの頭を撫でる。

 こんな死ぬかもしれない戦場に付いてきてくれたのだ。不安は測り知れない。

 彼女はポロポロと涙を流した。

 

「ほうら、泣かないの」

 

「だって、だって」

 

「はいはい、レイちゃんは無事ですよー」

 

「一番ボロボロでしょ」

 

「死にかけてるじゃねえか」

 

「なんかちょっとジェラシー湧いちゃうな」

 

「一人だけ嫉妬してる!?」

 

 マミと杏子にツッコミを入れるはずがまどかの発言に全部持っていかれる。

 それはさておき、ふと思ったことがあった。

 

「そういえば、あの覗き魔は」

 

『もしかしなくても、僕のことかい?』

 

「うわ、出た」

 

『呼ばれたと思って来てみれば、まったく』

 

「え、キュゥべえ。あなた、覗きなんてしてるの?」

 

「覗き? 最低だな」

 

「キュゥべえ、それはよくないよ」

 

「レイさんの裸を見たことがあるの……?」

 

『まったく、訳が分からないよ』

 

 その通りである。しかし、流れが面白いからレイは留めない。

 

「それなら、アタシ見たことあるけど」

 

「え?」

 

「裸だろ? 前に、なあ」

 

「あー、マミの家でお風呂に一緒に入ったことあるもんねー」

 

「「そういえば……」」

 

 まどかとほむらが思い出して納得した。

 そこからキュゥべえが弁明を始める。

 

『まあ、レイとコンタクトを取るのに銭湯に赴くのは効率が良かったからね。当然の帰結というわけさ』

 

「お前、他の一般人の女の身体も覗いて……」

 

『目撃してもなにも感じたりしないさ』

 

「欲情されても困るわ」

 

「実ははお風呂と掛けたギャグかい、マミ?」

 

「マミさん……」

 

「違うわよ!」

 

 不意にほむらの頭を撫で続けていた手に力が入らなくなる。

 心地よさそうにしていた彼女が気づく。

 

「レイさん……?」

 

「あれ、なんだか……意識が」

 

 遠のいていく感覚がある。

 焦点が揺らぎ、視界が定まらない。

 

「ん? どうした、レイ」

 

「大丈夫、レイちゃん?」

 

「飛鳥さん?」

 

(どうして……)

 

 疲労はピークを迎えているが、そういう感じではない。

 意識が完全に途切れる瞬間、腕のブレスレットに光が灯っていないのが見えた。

 

 

 

 

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