無限の時間の中で、僕の時間は無限じゃない   作:モトヤス

12 / 12

最終回です。

拙作をここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。

では、どうぞ。




飛鳥レイという魔法少女の物語

 

 

 

 

 

 

 人の運命は生まれた時から既に決まっている。

 これは変えようのない因果である。

 生命は芽吹いた時から死に向かう。その過程で成せることはそう多くない。

 母から生まれ、学校に通い、就職をし、恋愛をし、結婚する。ゆくゆくは子供に恵まれるかもしれない。仕事で成功するかもしれない。

 政治家になる者もあれば、信仰に向かう者もいる。

 人はそれぞれだ。

 

『君という人間は、背負う運命を間違ってしまったのか。それとも、担わされたのか』

 

 白い外来者は宇宙の存続という使命のため、少女を気に掛ける。

 その頭に浮かぶのは飛鳥レイである。

 魔法少女であり、光の巨人の光を受け継いだ人間。

 背負う運命の大きさで飛鳥レイを魔法少女に選んだが、これは嬉しい誤算だった。

 

『まさか、運命を乗り越えるなんてね』

 

 自身が唯一信じていたものに裏切られ、絶望から破滅に向かう運命を覆した。きっとその時に光の巨人との出会いがあったのだろう。

 それまでであっても相当なエネルギーが回収出来たはずだが、比較にならないまでに回収率が上がった。彼女が絶望し、魔女となるのが楽しみなほどに。

 

『しかし、屈強な精神を持つようになってしまったのが問題点だね』

 

 思春期の女の子のものとは思えないほどのタフさを手に入れてしまった。それこそ、巨人級のスケールだ。

 これがさらに大きな想定外であった。

 

『ああ。けれども、これはチャンスだ』

 

 飛鳥レイという最高戦力が欠けた状態で超弩級の魔女とこの町の魔法少女たちは相対さなければならない。

 そして、仲間である少女たちの成れの果てを目にした時、飛鳥レイはきっと我々が望んた通りの結果をもたらしてくれることだろう。

 

『さあ、ワルプルギスの夜が来る』

 

 

 

 

 

 

 見滝原市――暁美ほむら宅

 あの戦いの後、魔法少女たちはほむらの自宅で意識を失ったレイの面倒を見ていた。

 体中の骨折をはじめ、レイの肉体には怪我が無いところがほとんど無い状態であった。

 これほどの怪我を治すには病院に駆け込むのがベストだが、これの経緯を一般の人に説明するわけにもいかず、両親が家に居ないほむらの家は実に都合がよかった。

 マミも一人暮らしをしている身ではあるが、ほむらの懇願によって彼女の家で世話をすることとなる。

 最初の数日で、全身の怪我は魔法によってどうにかなった。治療魔法を得意とする魔法少女が居なくとも、日にちをかければ問題はない。

 しかし、枯渇し切ったレイの魔力の方はどうしようもなかった。

 通常、魔力はソウルジェムから発せられるものであり、魔力を消費すれば、グリーフシードを使用することによって回復させることが可能だ。

 一つのグリーフシードを使い切るまでにソウルジェムの穢れを数度は取り除くことだって出来る。だが、レイのソウルジェムはいくつグリーフシードを使用したとしても、穢れを取り除くことは出来なかった。

 

 普段からレイはグリーフシードを使用せずとも、ソウルジェムの輝きを維持していた。だから、魔女を倒したとしてもグリーフシードを欲せず、共に戦った仲間に譲ることも多い。

 これにはおかしな点がある。

 ソウルジェムは魔法少女が魔法を行使することで穢れを溜めていくものである。他にも穢れを溜める要因はあるが、それを浄化するためには必ず、魔女の落とすグリーフシード用いなければならない。

 飛鳥レイがグリーフシードを使用せずとも、己がソウルジェムに穢れを溜めこまなかった理由。それは、光の巨人の力によるものであった。

 (ゼロ)が初めてレイに会った際、ソウルジェムを浄化したことから、光の巨人には(穢れ)を照らし、救うことが出来ることが分かる。

 これをレイは無意識的に利用し、普段から行っていた。

 

 ゆえにこそ、先の戦いにおいて、光の巨人の力を行使することすらままならないほど、摩耗し、命を削るほどに使い果たした魔力をグリーフシードごときでは完全に回復させられない。

 グリーフシードの数が足りないのだ。圧倒的に。

 

 魔法少女たちにも、自分のために使用するグリーフシードは必要だ。

 もう、レイが自分自身の力で回復するのを祈るしか道はなかった。

 

 

――そして、飛鳥レイが目を覚まさないまま一か月が過ぎ、ワルプルギスの夜が到来する。

 

 

 

「くっそ、どうなってやがる!」

 

「全部倒すしかないわ!」

 

「でも、数が多すぎて……っ」

 

 出現したワルプルギスの夜と呼称される魔女は、噂通りの化け物であった。

 それは移動するだけで、まさしく災害と呼ぶに相応しい被害を周囲にまき散らしていく。

 迫りくる自然の猛威に対して、いかに策を弄そうと、人間如きが敵うはずもない。

 

 町がワルプルギスの夜の発生させる突風によって破壊されていく。

 それを魔法少女たちは防ぐことが出来ない。

 

「チクショー!」

 

 思うように戦いを運べず、杏子は叫んだ。

 展開される魔女の使い魔たちの量が膨大すぎて、それの対処に追われ続ける。

 

「アイツがいなくたって、負けやしないっ!」

 

 脳裏にベッドで横たわる彼女の姿が浮かぶ。

 気合を入れ直した。

 魔女は魔法少女たちが自身に辿り着きすらしない様を目にし、不気味な笑い声を上げた。

 

「この使い魔たち! 普通の使い魔とは比べ物にならないくらい強い!」

 

 並みの魔女を想定するなかれ。

 エタルガーとはまた別の次元の強さを発揮するのがこのワルプルギスの夜という魔女。

 個として最強の戦力がエタルガーであれば、群として最凶の災害こそワルプルギスの夜である。

 エタルガーとの戦いの後、ワルプルギスの夜が襲来するまでの期間、みんなで作戦会議を何度も行った。

 事前に得られた情報からワルプルギスの夜への対処方法、魔法少女同士の連携を十数パターン。それの練度を上げる訓練も行ってきた。だが、すべては無に帰す。

 

「こんなのっ」

 

 侮っていたわけではない。油断していたわけでもない。

 ましてや、予測が甘かったわけではない。

 ただ規格外すぎただけ。

 

 全員が絶望に包まれる。

 

 状況を変えられるほどの火力のある一撃を放てるのは、あれからいまだ目を覚まさない飛鳥レイだけだ。

 

 心のどこかでレイを頼ろうとしている自分がいることに魔法少女たちは気づく。

 いつも、どんな絶望の中でも決して諦めない輝きを放つ少女が支えてくれていた。

 笑顔や、言葉に助けられていた。

 

「こんなんじゃ、今も眠ってるアイツに顔向けできねーんだよ!」

 

 杏子は槍を振るった。

 その姿は獅子奮迅の如き勢いだ。

 使い魔の包囲を抜ける。

 瞬間――大きな影に覆われた。

 

「――……あ」

 

 ワルプルギスの夜の接近に気づかなかった杏子は、

 

「く、……っそ……」

 

 その半身を巨大な魔女の肉体によって押しつぶされた。

 

「杏子ちゃん!」

 

「佐倉さん!」

 

 ワルプルギスの夜の不気味な笑い声が響き渡る。

 まどかも、マミも、なんとかして杏子を助けようと彼女の下に駆けつけようとするが、使い魔たちに阻まれ、どうすることも出来ない。

 

「ケッ。ほんとにアイツに、顔む、け……できなく、なっち、まっ、た」

 

 痛覚があったら、ショック死でもしてたか。そんな言葉が杏子の頭をよぎる。

 そう。痛覚を遮断していようとも、痛いという感覚が全身を駆け巡っている。いや、全身ではない。腰から下の感覚が何もなかった。

 

「ああ……くっそ。しにきれねぇ、や」

 

 柄にもなく、レイ(アイツ)に勝利を誓った。

 仲間というものを信じてみようと思った。

 そして、この魔女を倒してみせた後、笑いながら、大したことなかったぜって言ってやるつもりだった。

 

 佐倉杏子の命は潰えた。

 

 

 

 

 

 

「……杏、子……――」

 

「……ッ。レイさん!?」

 

 空へと届くように手を伸ばす。

 レイが目覚めたことに気づいたほむらが驚いて、椅子を倒した。

 

「よかった……よか、ったよぉ……」

 

 意識を取り戻したことに嬉しさがこみ上げたのか、思わず涙を零すほむら。

 彼女は付きっ切りでレイの面倒を見ていた。

 食事など、魔法でなんとかなる部分以外の世話を全てやっていたのだ。

 暁美ほむらは飛鳥レイに助けられたから。友達だから。こんな自分でも、出来ることをしたかったから。

 

 レイはまだ朦朧としているものの、身体を走る嫌な悪寒を黙らせながら、言葉を発した。

 

「みん、な、は?」

 

「戦ってます。ワルプルギスの夜と」

 

「なんだって……」

 

「レイさんはあの壮絶な戦いの後、一か月もの間、眠り続けていたんです、でも、やっと目を覚ましてくれた」

 

「行かなきゃ」

 

 一か月ぶりに動かそうとする体は言うことを聞いてくれない。

 それでも無理に動かそうとして、ベッドから落ちそうになる。

 

「なにやってるんですか!?」

 

「行かなくちゃ……」

 

「仲間を……友達を信じてください」

 

「その言い方はずるいなぁー」

 

 だが、ここぞという時の嫌な直観というものは当たる。当たってしまうのだ。

 状況がどうなっているか分からない。それでも戦いが始まっているというのであれば、自分もその場所へと赴かなければならない。

 

「だったらさ、ほむらも一緒に付いてきてくれない? 僕、こんなだし、一人で外をぶらつく方が危ないと思うんだよねー」

 

「……」

 

「ほら、今までいろいろ頑張ってたのが水の泡になっちゃうぞ~いいのかい~?」

 

「はあ、わかりました」

 

 一度睨まれたが、観念した、とようやくほむらは折れてくれた。

 

「では、よろしくお願い」

 

「……はい」

 

 差し出した手をほむらは取ってくれる。

 そのまま引っ張られるように立ち上がって、二人は戦場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 ワルプルギスの夜の侵攻はなおも続いていた。

 世界の終焉を描くように、町を、大地を、移動するだけで捲りあげていく。

 ゆえにこそ、超弩級と称される魔女。

 

「どうして、戦いが終わっているんだ……」

 

 隣で息を呑むほむらに支えられながら、レイは戦場へと到着した。

 激しい戦いの痕跡があるだけで、もうここは戦場ではない。

 誰も戦っている者がいなかった。

 

「みんなを感じれない」

 

「レイさん……」

 

「うん」

 

 頷き、捜索を開始した。

 感じることが出来るのは尋常ではない存在感を放つワルプルギスの夜だけ。

 人の気配を感じることが出来なかった。

 

 嫌な予感が現実のものとなる。

 

「レ、イ、ちゃん」

 

「まどか、か? まどか! どこにいる!」

 

「え、鹿目さん!?」

 

 ほむらから離れて、掠れた今にも消えてしまいそうな声のした方向を探す。

 よろけて、こけそうになっても全身に力を入れて堪えた。

 そして、魔法少女の姿からいつもの見滝原中学の制服姿へと戻っているまどかを発見する。

 

「まどか! まどか、しっかりしろ!」

 

 彼女は制服までもがボロボロになり、そして腹からは大量に血が流れていた。

 致命傷を負っていて助からないのがどうしても分かってしまう。

 

「杏子ちゃん、も、マミ、さんも死んじゃった。ごめんね。なにも、守れなか……った」

 

「謝まらなくていい。死ぬな、まどか!」

 

「ワル、プルギス、の夜には、勝、てない。にげ、……て」

 

 最期まで友達の身を案じながら鹿目まどかは息を引き取った。

 

「鹿目さんーッ! うわああああああ!」

 

「まどか……」

 

 ほむらがまどかの死を間近で目撃し、耐え切れず、泣き崩れた。

 無理もない。親友だと思っていた女の子を目の前で失ったのだ。ほむらの悲しみは測り知れないだろう。

 ふと、

 

「僕がやらなきゃ――」

 

 そう思った。

 

「え」

 

 戦わなければならない。

 他の誰でもない。飛鳥レイ自身が戦わなければない。

 代わりはもういない。

 みんな死んでしまった。

 だから、戦えなくとも戦わねばならない。

 

「その身体でっ、無理だよ! 勝てっこないよ。逃げようよ!」

 

「逃げるわけにはいかない」

 

 誰も戦えぬのならば、自分が行こう。それを行動に移せてしまうのがレイ。

 鹿目まどかが、巴マミが、佐倉杏子が死ぬ気で守ろうとしたものを守りたいと、レイは思った。

 

「ここでアイツを倒さなきゃさ、全部終わっちゃうよ。町も、人も、全部壊されちゃう」

 

「……そんなものよりも、わたしはっ! レイさんに死んで欲しくない! あなたまで、死んじゃったら、わたしは……っ」

 

「君にそんな顔をさせるために付いてきてもらったわけじゃなかったんだけどなぁ」

 

 ほむらにとって、大切なのは命を救ってくれたまどかやレイだけだ。

 学校や、そこに通う他の生徒たちのことなんて彼女たちに比べれば、優先順位が低い。

 嫌悪感を自身に対して抱かないわけではない。それでも、迷わず己の大切なものを選び取れるのがほむらだった。

 

「君は強いねー」

 

「わたしは、あなたや鹿目さんみたいに強くなんてない」

 

「ううん。自分の大事なものを守りたいという想いを抱ける人間はそれだけで強い」

 

「だったら、わたしに従ってください……」

 

「それは聞けないお願いかな」

 

「友達だから! あなたが大切だから、わたしはっ!」

 

「……友達、か。君がそう言ってくれて、僕も嬉しいよ。けど……」

 

「……ッ」

 

 ほむらは悲壮と悔しさの混じった顔を伏せる。

 友達を想う目の前の少女の願いを受け入れるわけにはいかない。

 なぜなら、まどかたちの想いは誰かが達成しななければならないとレイは思うからだ。

 

「ごめん」

 

「行かないで」

 

「ごめん」

 

「死なないで」

 

「ごめん」

 

「……わたしのことはどうでもいいんですか?」

 

「ずるいなぁ」

 

 矛盾している。

 友達の想いを成すというのなら、ほむらの想いも汲むべきだ。

 それをレイは無碍にしていた。

 

「心が、あれは倒さなくちゃならないって叫んでいる。世界をめちゃくちゃにしてしまうようなものを野放しには出来ない」

 

「あなたは皆を守るために行くんですね」

 

 英雄だったら、救世主だったら、友達の命を守れただろうか。

 

「――僕はさ、英雄でも、救世主でもないよ。ただの友達を守りたいって思う女の子さ」

 

 答えは出ない。けれど、はっきりしている事実はある。

 守れなかった。

 大切な友達を失ってしまった。もう彼女たちと言葉を交わすことも、触れ合うことも出来ない。

 だから、こんな思いを他の誰にもさせたくないと強く思う自分がいた。

 

『今の君には、魔法少女に変身する力すら無いと思うけれど』

 

「キュゥべえ……」

 

 白い獣が戦場に佇まっていた。

 ちょこんと地面に座るこんな瓦礫の山が構築されている場所でなければ可愛らしくも見えるだろう。

 

「君はこの戦いをずっと見ていたのかい?」

 

『もちろん。僕には、そういう役目もあるからね』

 

「みんなを助けようとも思ったりしないの?」

 

『無理に決まっているだろう。ボクにそういった力は何もないのさ。彼女たちが死んで逝くのを見て、悲しんだりはしたけれど』

 

「そんなふうには見えないけどね……」

 

 振り返る。

 レイは遥か先にいるワルプルギスの夜を見据えた。

 

「さてと、それじゃあ、最後の戦いに赴くとしますか」

 

『魔法少女にもなれず、光の巨人の力も行使できない今の君が行くのは本当に無謀だと思うよ。やめておいた方がいい』

 

「戦う力ならここにあるよ」

 

 完全に真っ黒に染まったソウルジェムをブレスレットから取り出し、キュゥべえへと見せる。

 

『魔力を生成することも出来ないはずだ。それでいったいどうやって……』

 

「なんとなくだけどさ。分かるんだ。いつからだったかな、シンくんに光をもらった時くらいからだったかな。

中からナニカが弾けようとしている感覚がだ、力を使っているとあった」

 

『……』

 

「しかもそれは相当大きなエネルギーを孕んでいるんだよね。」

 

『驚いた。まさか、そこまでね』

 

「僕、エネルギーの流れには敏感なんだよね。これがいったいどういうものなのかまでは把握できていないけれど」

 

 光のエネルギーの扱いに長ける者として、己の中に流動する物には過敏に反応する。

 レイは魔法少女の秘密にまでは気づいていないが、小さなヒントからソウルジェムにはナニカがあることを突き止めていた。

 

「それでも膨大なエネルギーには違いない。これ発動条件はよく分からなかったけど、今なら分かる。発動させるためには、ソウルジェムを完全に濁らせなければならなかった」

 

『正解だ。しかし、それを解き放ってしまえば、君は……』

 

「言わなくていい。なんとなく想像はついているよ」

 

 おそらく、レイは飛鳥レイという個を保てなくなる。

 自身の消失を意味することくらい理解していた。

 人にとって、魔法とは身に余るものだ。それを行使してきた代償を払わされるだけのことだ。

 

「それでも、やらなくちゃならない」

 

『そうかい。残念だ』

 

「そんなこと思ってもないくせに」

 

 無表情だなぁと、キュゥべえに対して改めて感じる。

 

「シンくんにも申し訳ないことをしてしまったなー」

 

 せっかく貰った(ひかり)をこれから失ってしまう。だから、謝ろうと思って、

 

『お前の守りたいもんのために使うんだろ? だったら、意味があったさ』

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

「そうだね。なら、この選択は絶対に間違いなんかじゃない――」

 

 最期にまた勇気を貰ってしまった。

 レイの心が温かくなる。

 

 きっと怖くなんてない。力を使って、あれを倒して、またみんなと。

 

 希望を胸に秘め、それを反転させた。

 

 ――世界は、救われた。

 

 

 

 

 

 

『素晴らしい力だ。あのワルプルギスの夜を一撃で葬り去るなんてね』

 

 暁美ほむらは結末に涙し、すべてを目撃した白い外来者は、大袈裟に結論づけた。

 

『ようやく納得がいった。君は地球における外敵を退けるための抑止力(カウンター)だったんだね』

 

 少女の運命の大きさとはいったいなんだったのか。

 なぜ、光の巨人から光を受け継ぐことになったのか。

 

『地球が選んだ地球を守るための装置。それが君だ、飛鳥レイ』

 

 ゆえにこそ、運命に選ばれた。

 

『原初の巨人はティガ。もとは光の側の巨人だったが、闇に墜ちた側面をも持つ巨人だ。この二つの属性を備える巨人を、地球上において食物連鎖の頂点に立つ人間に与えることで、人間が生き残る要因と、人間が絶滅する要因を作った』

 

 星が外からの侵略者によって滅ぼされる可能性を潰すため。

 星が内からの破壊者によって滅ぼされる可能性を潰すため。

 そのために地球の意志が用意した抑止力。

 

『要するに、地球が生んだ光の巨人というわけだね』

 

 必ずそこには特別な理由があるのだ。でなければ、本物の光の国の巨人が認知するはずがない。

 

『しかし、人間を守るために行使した力は、闇へと堕ちた。これから世界は彼女によって滅ぼされてしまうのだろう。……こうしてみれば、簡単な方程式だった。さて、この結末をどう思うかな。暁美ほむら』

 

「わた、し、は……」

 

 無力だったがゆえに、少女は生き残ってしまった。

 力を得る勇気がなかったから戦う術を持たなかった。

 最後まで傍観者であったからこそ命を落とすことはなかった。

 それが暁美ほむらという少女。

 力を得て、友達を守ろうとした彼女とは違う運命を自身で選んだのがほむらだ。

 

「この結末を否定したい」

 

 涙を拭った。

 

 決意を胸に秘める。

 

『なら否定し続けるとといい。それで何か解決するとは限らないけれど』

 

 佐倉杏子が死に、巴マミが死に、鹿目まどかが死に、飛鳥レイはその身を闇に堕としてまでワルプルギスの夜を倒した。

 これが変えようのない結末であり、ほむらにとっての現実。

 ゆえに、打破せねばなるまい。

 

「私、叶えたい願いがあるの」

 

『……ふむ』

 

 獣はほむらを観察するように見つめる。

 

『なるほど、これは驚いた。不思議なことに以前では考えられないほどに君の背負う運命は大きく変動したようだ』

 

「キュゥべえ、あなたはどんな願いでも叶えられるんだよね」

 

『もちろんさ。どんな願いだって叶う。しかし、それに見合った運命を君が担っているのなら』

 

 そう。人の運命とは生まれた時から決められているものである。それが何らかの要因によって変化があるのは、飛鳥レイが証明している。

 暁美ほむらの運命は獣と邂逅した頃であれば、魔法少女になる素質および素養は兼ね備えてはいた。だが、それは魔女に襲われたところを魔法少女に助けられたがゆえに、獣を目視出来るようになったにすぎない。

 その程度のものだったのだ。暁美ほむらという少女の背負う運命とは。

 だからこそ、結末を否定すると言ったほむらに対して、先に釘を刺す。

 

『だが、飛鳥レイを助けることは不可能だ。暁美ほむら、君と飛鳥レイでは背負っているものが違い過ぎる。ああなってしまったレイに干渉し、元に戻すのは到底……』

 

「私の願いはそうじゃないの」

 

 祈りを捧げるようにほむらは両手を握り、立ち上がる。

 

「私は魔法少女になって、出会いをやり直したい。守られる私じゃなくて、誰かを守れる私になりたい」

 

 英雄になりたいわけじゃない。救世主になりたいわけじゃない。

 ずっと守られてきたのだ。

 まどかに、マミに、杏子に、そしてレイに。

 出会ってから守られてばっかりだった。もう彼女たちの後ろ姿を眺めるだけの自分にはうんざりだ。

 友達が傷つく姿を見るのが怖い。

 友達が死んでしまいそうになるのが怖い。

 ただ、大好きな友達を守りたい。

 

 ――今度はすべてを見てきた暁美ほむらが助けなくてはならない。

 

『そうかい。君はそう願うんだね』

 

 いいだろう、とキュゥべえはちょこんとその場に座り込む。

 

『契約は成立だ。君の願いはエントロピーを凌駕した。さあ、解き放ってごらん。その新しい力を』

 

 なりたいんだ。

 誰かを守れる自分に。

 誰かを助けられる自分に。

 友達の隣に立てる自分に。

 

 暁美ほむらは未来への希望(ひかり)をその手に掴み取った――

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました。

 

 ずっと長い夢を見ていた気がする。

 

 それは少女漫画なんかで見るメルヘンな魔法少女が登場する夢だ。

 けれど、彼女たちの生きる世界はメルヘンなんかではなく、人間を狙う魔女と殺し合いを続けるというもの。本当に血生臭いものだった。

 私はそんな魔法少女たちと友達だった。

 魔法少女はクラスメイトだったのだ。これには驚いた。彼女に危ないところを助けられてからというもの、よく一緒に居るようになった。

 気の弱い私なんかに友達が出来るなんて思ってもみなかったのだ。

 だから、彼女やその先輩と過ごす時間は嬉しくって、かけがえのないものになった。

 新しい二人の魔法少女と出会った。一人は怖くって、気が強そうな女の子。もう一人はカッコよくて、お風呂が好きな女の子。

 二人とも私とは全然正反対の人だ。

 お風呂が好きな女の子とは一緒に遊びに行ったこともある。

 ショッピングモールの中を色々回って歩いた。

 すごく楽しかったのを鮮明に覚えている。

 そして、魔女に標的にされてしまった私をその女の子は助けてくれた。

 色んな強い敵がいた。みんなでかかっても勝てないくらいの敵。

 それでも最後には力を合わせて勝利した。

 私はその光景を見て、すごいなって、ずっと憧れていた。

 でも、勇気が出なかった。人を、町を守るために戦う魔法少女たちと自分なんかが一緒に戦えるわけがないと思っていたのだ。

 

「ここ……」

 

 意識が覚醒してくる。

 白で埋め尽くされた部屋。カーテンは揺れ、隙間から陽光が差し込んでいた。

 そのベッドに少女は眠っていたらしい。

 少女は自分の身体の重ったるさに、むぅとしつつも上体を起こした。

 

「なんで」

 

 自分は泣いているのだろう。

 顎にまで、涙が流れてしまっている。

 そうだ。この夢の結末はとても悲しいもので……。

 

 握られた手の中にある感覚にハッとした。

 

「夢じゃない……」

 

 紫に輝くソウルジェムがあった。

 

「そうだ。私は」

 

 ――無力であった少女は、自分自身で己の運命を掴み取った

 

 

 

 







これにて最終回となります。最後までこのような拙作を読んでいただきありがとうございました。

最終回まで初めて描き切ったことに自分でも驚いております。ホント、エタるかと思ったことはありました。

あと一時期、更新が滞ってしまい申し訳なかったなあと思っています。

 この物語の始まりとしては、旅人である魔法少女がたまたま風見野市で佐倉杏子と出会い、ひょんなことから見滝原で活動する魔法少女たちと出会い困難に立ち向かうものとなっております。

 もし、続きを妄想するならば、アニメのようにほむらちゃんがループする中で、旅人としてレイが色んな形で出会ってストーリーが紡ぎ出されるかと思います。

 なのでルートによってはレイと良い形で出会えるかどうかが、ほむらちゃんのワルプルギスの夜攻略の鍵となってくるみたいな。

 さて、ウルトラマンと魔法少女まどか☆マギカのクロスオーバー作品でしたが、どうだったでしょうか。面白いと思っていただけたなら幸いではありますが、そんなこともなかったのかなーと。

 あんまりというか、ほぼ感想が来なかったので、自分が書いているものが全く面白くないのかなーと思い悩む時もあったのですが、なんとか最後まで書き切れてよかったです。

 完結したし、感想をくれ!!(切実)

 そんなわけでちょっとした設定とかをここに投げて終わりたいと思います。


name:飛鳥レイ (アスカ・レイ→零→ゼロ)

ティガの光を継ぐものとしてのアスカ・シンが存在しており、名前の由来として彼の名前と光を冠する者として飛鳥(アスカ)レイ(光)。

父親の名前 三(ティガ)船(ノア)大地(ガイア)

性別:女

一人称:僕

イメージカラー 白色(まばゆい光&銀)

髪色は銀。キラっとした赤と青のヘアピンで前髪を分けている。美樹さやかと似たように分けているせいで、本人にはどこか親近感が湧いている。初対面からさやかに対しては距離が近いのもそれが理由。
快活なタイプ。運動は大の得意。以前、学校に通っていたが、もう通っていない。魔女との闘いによって校舎が壊れた後、もうその地域から立ち去った。
幼少期、孤児院で育つ。よって、親の記憶が彼女にはない。そこの助けもあり、お金に関しては困っていない。しかし、食べたい物は食べちゃえをモットーにしているがため、お財布は常に軽い。無駄遣いではないのだ。決して!

好きなものは、お風呂、入浴。

性格の形成に孤児院での頃の経験が大きく関わっており、中でも父親代わりになってくれた人物との毎日が彼女にとっての宝物である。

魔法少女になった祈りについて。
彼女は友達を助けたかったのだ。ただ、それだけ。因果は彼女自身の遺伝子によるもので、魔法少女の素質は十分あった。
自分では自覚していないが、人助けこそが彼女の本質だった。遺伝子によるものが大きいが、孤児院での教えがよりその本質の形成に深く関わっっていた。彼女は彼女なりに人を愛している。愛しているからこそ、悩む。もがき苦しむ。愛とはなんなのか。

しかし、彼女の本質とは地球によって定められた脅威への対抗(カウンター)に他ならない。
光の巨人としての運命も背負う彼女は、太古から活動するインキュベーターによって魔法少女となるのは目に見えていた。だからこそ、地球を蝕むもの。すなわち、人間を滅ぼすための手段として、地球の意思が用意した運命。魔女となった飛鳥レイは数日のうちに人間のみを殺し尽くす殺戮兵器なるだろう。それがダークネス化。

その性質は奇跡と光
物語は『ウルトラマン』。光の巨人、神。
その意思を遺伝子に宿すがゆえに奇跡を代行することが可能だ。しかし、奇跡には総じて代償が伴うだろう。
だってそうだろう? この世に起こる事象のすべては等価交換によって成り立つのだから。

ノアが彼女を認めたのは光を受け継ぐ者としての側面をもつ人間だったからである。そういった意味ではレイも適正者(デュナミスト)と言えるだろう。
父の名前にも起因するものがある。

ウルトラマンを継ぐため、体は丈夫で健康そのもの。同化することにより、相手を救う(癒す)という能力も秘めている。それにより、円環の理と化す鹿目まどかに救いの手を差し伸べ、助け出した。(ここの設定を使って、もし話が続いたなら、そういうエンドにしようと考えていた)

叛逆の物語はない。


彼女は魔法少女として生きるのか、人間として生きるのか、それとも……


「あきらめるな」


光を継ぐもの(ティガ)
新たなる光(ダイナ)
光をつかめ!(ガイア)
新しい光(ゼロ曲名)

ティガ=3
光の巨人

光の三原色=赤・緑・青

合わせると白色になる

これがイメージの基であり、継ぐ者としてのティガが根幹にあり、そのバトンを繋いだダイナの名を冠し、新しい光となるべくガイア(地球)が選んだゼロ(始まり)。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。