無限の時間の中で、僕の時間は無限じゃない   作:モトヤス

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これからは親しみを籠めてレイちゃんと呼んでくれ

 

04

 

 

 

 夜――見滝原市

 

 

 

 夢を抱けなくなったのはいつかからだっただろう。

 毎日を生きていくことで精一杯だった。いつ死ぬかも分からない戦いの中でレイはずっと一人であった。仲間はおらず、友と呼べる者もいない。

 仕方がないことだった。庇護されるべき年齢ではあるが、もう少女は人を守る役目を背負っていた。

 祈りを捧げてしまったからだ。それを後悔したことはない。守りたいものがあったのだ。どうしても譲れないものがあった。しかし、一つ残念だったのは自分が守りたいものだったのはつまらないもので、大切にする必要もなかったことだった。

 ……悔やむ点があるとすれば、祈りは届けられたが、願いは達成できなかった。方法も間違ってはいなかったのだ。守りたいものが応えてくれなかっただけ。レイの想いがエゴそのものだっただけ。

 それを当時、小学六年の十二歳には理解の及ばないことだったのは道理ではあるが、それでも必死で願ってしまったのだ。あの白い生物に――

 

『ボクと契約して魔法少女になってよ』

 

 今思えば、悪魔の囁きとはああいうことを言うのだろう。

 そこからは苦難の日々だった。掌で拳を握り、血を流しながら戦い、旅を続けてきた。

 

「強くなっても、あの頃からなにも変わってないや」

 

 ずっと欲し続けている自分がいる。願いは馬鹿々々しいことも理解している。そんな自分を一歩引いたところから冷たい目で眺めている自分がいるのも分かっていた。

 

「ああ、こんな自分は嫌いだな。もっと明るくいこ」

 

「自分が嫌いなのかい?」

 

「タイミングが悪いというか、なんというか」

 

「レイ、君はいつもボクを無碍にするけれど、ボクがいったい何をしたっていうのさ」

 

 突然現れたのはキュゥべえだ。そして、疑問だ! といったふうにレイの問う。

 

「僕を魔法少女にした」

 

「きゅぴぃ」

 

 特に反論はなかったらしい。都合が悪いのか、はたまた。

 かわいこぶんなよ……、レイはしっかりと言葉を噛み潰す。

 

 銀の髪が風に揺れる。これから戦いが待っているのだろうが、夜は深く、今夜の寝床はどうしたものかと思案するレイ。とりあえず、赤い方のヘアピンを留め直し、前髪を整えた。

 

「よし、今日は見滝原でスーパー銭湯で泊まれるとこ探そ」

 

 キュゥべえに目をやるが、なんだか猫がじゃれている時のように身体を動かしていた。何も喋らなければ、愛嬌があるのに。それも噛み潰しておく。

 

「喋らなければ、それはそれで得体の知れなさとかが不気味か」

 

「わけがわからないよ」

 

 レイにとって、他者との関わりとはどのような形であれ、大切なものだった。

 世界との繋がりを感じる瞬間であり、自分の存在意義を再定義できる要素であるから。大人であれば、成長の過程で得られるものがレイにはない。経験が圧倒的に足りていなかった。幼くなければ、また何か変わっていたのかもしれない。

 魔法少女になったことが少女の幸か不幸か、ならなければ、こんな人間にならなくてすみ幸福だったのか。いずれにせよ、レイは魔法少女であった。

 

 出会った人に恵まれなかった。憧れを抱く対象がなかった。気づけば、こうして魔法少女をこなしている。

 

 飛鳥レイには、彼女を受け入れてくれ、隣に並び立てる仲間が、友がいなかった。

 

 

 

05

 

 

 

 夕方――巴マミの自宅。

 

 

 

「というわけで、隣町の風見野市から魔法少女がやってくるからよろしく頼むよ」

 

 まさに外道だ。鹿目まどかはそう思わずにはいられなかった。

 

「ちょっと待ちなさい、キュゥべえ! いったいどういうことよ」

 

「今言った通りだよ、マミ。見滝原と風見野の境目辺りに魔女が出現したのは知っているだろう? だから、縄張りに位置する風見野の魔法少女がマミやまどかよりも先にグリーフシードを手に入れようって魂胆なのさ」

 

 学校の帰り、制服姿のまま、一人暮らしする巴マミの自宅にて作戦会議中にいつものように、ふらりとキュゥべえが現れ、そんな爆弾を落としていた。

 迷惑なのだが、確かな情報なのでありがたくもある。まどかはこの状況に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 まどかが発言する。

 

「風見野ねぇ……」

 

「キュゥべえ、いつやってくるの?」

 

「今晩さ!」

 

「あなたって子は、なんでそんな重要なことをもっと早くに言わないの……」

 

 心底、頭が痛いといったふうに溜息を吐くマミ。

 

「向こうは即決即断するタイプだからね。仕方がないよ」

 

「ほら、マミさん、元気出して」

 

「ありがとう、鹿目さん」

 

「ボクに感謝はないのかい、マミ」

 

 キュゥべえがきゅぴぃ、と鳴く。そんなことよりも現状をどう対処するか、それが問題である。

 まどかはマミよりも冷静であった。

 

「マミさん、これからどうしていくか考えないと」

 

「ええ、そうね。キュゥべえ、やってくる魔法少女はどんな子たちなの?」

 

 気を取り直すことに成功したようで胸をなでおろす。うろたえるマミをうまくセーブするのはまどかの役割になっていて、それが型にはまっているようだ。

 

「とても気が強くて、戦闘能力も申し分ないくらい強い魔法少女が二人」

 

 マミが息を呑む。知らぬところでレイはキュゥべえに気が強い女と認定されていた。自身を臆面もなく貶す存在は気が強いと見なされるらしい。

 

「おそらくは、マミ、君と遜色ないレベルで強い相手だ」

 

「そんな相手が二人も……」

 

 まどかはまだ見ぬ二人の魔法少女に恐れを抱く。

 当然だ。鹿目まどかは魔法少女になったと言っても、それはつい一週間前のことだ。経験も浅ければ、実力も高くはない。自分がその二人に敵わないことを明確に実感していた。

 しかし、その恐怖を、冷静な判断をマミは見抜く。

 

「鹿目さん、恐れることは恥ずかしいことじゃないわ。人間として当然の感情だもの。それを自覚しているあなただからこそ、魔法少女としてしっかりやっていけると思うの」

 

――恐怖を自覚するものこそ、勇者である。

――実力を過信するものこそ、愚者である。

 己の力を正確に見極め、自惚れることがないことこそ戦いにおいて生き残れる者である。引き際を見誤ることはないのだ。

 

「マミさん……」

 

 弱気になって、涙目になっていたらしい。まどかは目元の雫を指で拭う。

 

「さて、キュゥべえ。あとは今回現れる魔女について何か知っていることはないの?」

 

「そうだね。これまでの魔女とは違うタイプのものだってことくらいしか観測できていないんだ」

 

 すまない、とキュゥべえは付け加える。

 

「いいのよ。もしかしたら、魔女の方を優先して魔法少女同士の戦いになんてならないかもしれないし」

 

「そうですよね! もしかしたら、協力して魔女をやっつけることになるかもしれないですし」

 

「それはどうだろう。少なくとも、極めて特殊なケースじゃなければ、ぶつかることは必至だとボクは思うけどね」

 

「そっかぁ」

 

 肩から力が抜けて、腕をだらーんと後ろにつけた。床のマットが心地良く感じる。

 特殊なケース。いったいどれほど強い魔女が出てくるとそんな展開になるのだろうか。想像したくない。

 巴マミと同等かそれ以上の実力を持つ魔法少女が二人いる状況下で共闘が必要なほどの脅威がやってこなければ、そのような事態にはならないだろう。

 しかし、脅威とはいつだって不意にやってくるものであった。

 

「――特殊なケースってのは、こんな状況かい?」

 

 一人でに窓が開き、部屋に風が舞い込む。

 

「え」

 

 声のした方向に、瞬時にまどかとマミは顔を向ける。

 赤い髪の少女が窓の外、ベランダを越えた先にいた。

 

 挑戦的な目。

 へそを出したスタイルのいい格好。

 手には棒状のスナック菓子。

 黄槍の上に偉そうに乗っている。

 風見野市の魔法少女、彼女の名は佐倉杏子。

 

「やあ、杏子。思ってたより、劇的な登場じゃないか」

 

「なに、人の情報を勝手に流してくれてんのさ。アンタ、ぶっ殺すよ」

 

 

 

06

 

 

 

 暁美ほむらはナニカを見つけてしまっていた。

 いつも通り、学校での授業を終え、家に帰るという何気ない日常を謳歌する中で非日常と出会ってしまうようになっていた。

 それは濃い負の感情。蠢くようにして集まっていく気配。それを感じ取ってしまった。

 

「とにかく、鹿目さんに連絡しないと」

 

 先日、ほむらは暗い感情に支配されていた際に魔女の結界に迷いこんでしまったことがあった。その時にクラスメイトである鹿目まどかと一つ上の先輩である巴マミに助けられる。

 そこから二人とは親交が生まれたのだが、今日は大事なことを話すからと先に一人で帰宅することになったのだった。その矢先の出来事である。

 迷いこんだときと雰囲気が似ていたのだ。だから、危険が自分に及ばないように探った。何か彼女たち二人の役に立ちたいという一心から。初めてできた友達にお礼がしたい想いから。

 

「ええっと」

 

 ほむらはあまりケータイの操作には慣れていない。友達とアドレスの交換をしたのもまどかが初めてで、毎日のように何かメールを送った方がいいのかと迷っている。

 得意ではないものの、メールではなく、思い切って電話をかけてみようと〈鹿目まどか〉の欄を開く。

 

「ふうっ」

 

 緊張の瞬間である。初めての友達との通話。緊張するなというほうが無理である。

 

 突風が巻き起こった。

 

「きゃあっ。これって……」

 

 明らかな自然現象ではない。地面から舞い上がるように風は勢いは増していく。

 暗く、不気味な魔力を纏った風。もう緊張などは消し飛んでいた。

 

「早く、出てっ」

 

 ボタンを押し、コール音が鳴る。

 ほむらの胸の裡では警鐘が鳴り響き続けている。一人で踏み込み過ぎたのだと。

 十秒もしないうちにまどかに繋がった。

 

「はい、もしもし……」

 

「あ! 鹿目さん、大変なの! 魔女の結界がっ!」

 

 

 

07

 

 

 

 まさしく強襲だった。

 夕空の下、穏やかなティータイムが流れるわけでもなく、尋常ならざる緊張感が場を包み込んでいる。

 この急展開はなんなのだ、と頭が現実に追いつかない。

 

 まどかは助けを懇願するかのようにマミの名を紡いだ。

 

「マミさん……」

 

「大丈夫よ、相当なプレッシャーだけれど、今ここで事を荒立てる気はないみたい」

 

 マミがまどかを自分の後ろに控えさせるように立つ。

 経験という絶対の信頼を置ける予想。それが今のマミを支えているのだろう。まどかの年上であり先輩という点も彼女が踏ん張る一要因になっていたのは間違いない。それがまどかの不安を和らげた。

 

「よく分かってんじゃねえか、マミ。確かにここでドカンと派手に暴れる気はねぇよ。それはそれで楽しそうだけどな」

 

 愉快そうに笑みを浮かべ、八重歯を覗かせる杏子。

 

「ま、宣戦布告ってやつさ。あの魔女はアタシらが狩る。だから、アンタらは手を出すなってね」

 

「人の家にまでのこのこやって来てただで済むと思っているのかしら」

 

「挨拶しに来ただけだったんだけど、そっちからおっぱじめるってんなら、こっちも容赦はしないよ」

 

(あれ……なにか)

 

 そこでまどかが違和感に気づく。

 

(たしか、キュゥべえは二人って……)

 その違和感の正体を代わりにキュゥべえが杏子に訊ねた。

 

「そういえば、レイはどうしたんだい。君と一緒に向かうって聞いていたと思うんだけど」

 

「ああ、あいつかい」

 

 杏子はトンっと黄色の槍からベランダに降り立つ。

 一息ついてから、口を開いた。

 

「あいつがこの場にいると締まらねえし、なんだかゆる~い雰囲気出るからな。置いてきた」

 

「たしかに」

 

 キュゥべえもそれに納得して、うんうん頷いている。

 まどかは一連のやり取りを目にして疑いを持った。

 

(この人たちは悪い人なのかな。むしろ、いい子たちなんじゃ……)

 

 目の前にいる杏子と今この場にいないレイという少女。なんだか、杏子が仲間想いの情の深いタイプの人間のように思える。確証はないけど、そんな予感がある。

 なんとなくだが、レイを気遣っていることに杏子は気づいていないように見えた。

 

「なんだろう、あんまり怖くなくなってきた?」

 

「え、どうしたの、鹿目さん?」

 

「いや、なにもっ」

 

 鹿目まどかには以外と肝っ玉があるようだった。

 

 その時だった。まどかのケータイの着信音が鳴り響いたのは。

 つい、確認してしまう。表示されていたのは先日アドレスを交換したばかりのほむらからの連絡だった。

 なぜか、共に嫌な予感もまどかに訪れる。

 

「マミさん!」

 

「もしかして、このタイミング。出てあげて」

 

「はい!」

 

 すぐさま通話ボタンと押して、耳にケータイ電話を当てる。いまだ、杏子とキュゥべえが話をしていたのも幸いした。

 

「はい、もしもし……」

 

「あ! 鹿目さん、大変なの! 魔女の結界がっ!」

 

 必死な声。緊急を要するのは火を見るよりも明らかだった。

 

「大変! ほむらちゃんが!」

 

「行きましょう、鹿目さん」

 

 まどかとマミは窓へ向かって駆ける。そのままソウルジェムを取り出し、変身した。

 

「ちょ、アンタたち! どこに!?」

 

 杏子の横をすり抜け、大きく跳躍する。驚愕を彼女は浮かべていたが、そんなことに気を割いている暇はなかった。

 

「友達が大変なの! ごめんね!」

 

「なあ、おいって!」

 

 二人は杏子からはすぐに見えなくなるスピードで夕空の下を行ってしまった。そのせいで一人、マミの自宅に取り残されてしまう

 

「どうするんだい、杏子」

 

「どうするってすぐに追いかけるけどよ」

 

 杏子は、一人は寂しいもんだな、とキュゥべえ以外の誰もいなくなった部屋でそう呟いた。

 

 

 

08.

 

 

 

 見滝原と風見野の狭間。そこに異界が形成されていた。

 人が寄り付かないのはあまりにも気味が悪いからだ。ダーティーな雰囲気が好きという人間や心霊スポット巡りを趣味としている人間でも避けてしまうほどの不気味さ。

 暁美ほむらはその場所を探り当ててしまっていた。

 

「ほむらちゃん、大丈夫!」

 

「鹿目さん、それに巴さんも!」

 

「無事でなによりよ、暁美さん」

 

 完全に周囲一帯が異界と化しかけ、結界から現実世界に出てこようとするまでに中の魔女は成長しているのだろうか。そうだとすれば、彼女たちだけで勝てるのだろうか。

 

「とりあえずは、中に入ってみましょう」

 

「正気かよ、お前らじゃあ、すぐに殺されて終わりだよ」

 

「杏子ちゃんっ」

 

 追いついてきた佐倉杏子が暗闇から現れた。

 ほむらにとっての杏子との邂逅である。

 

「杏子……さん?」

 

「ここ見滝原とは別の地域の魔法少女よ」

 

 と、簡単にマミがほむらに説明する。それでも警戒してしまうのがほむらという人間だ。

「嫌われたかねえ」

 

「少なくとも、友好的ではないでしょう?」

 

「違いねえや。さっさと始めようぜ」

 

「あら、さっき宣戦布告してきたのはどこのどなただったかしら」

 

 マミがあからさまに杏子を挑発する。しかし、それを意にも返さない。

 

「こんなでかい瘴気は初めてだ。正直、一人じゃ厳しい。手伝ってくれ」

 

「以外と素直なのね、貴女」

 

「現実をよく見ているって言ってほしいね、まったく」

 

 杏子は自己の欲望を優先することの愚かさを心得ている。判断を見誤るなんてことを起こさないタイプだ。何が必要で、何が求められているかを的確に見抜く才能が彼女にはあるのだ。

 ゆえに、小さな変化を見逃さない。

 

「奴さん、我慢できずに出てきやがるぜ」

 

「なんですって」

 

「ほむらちゃん!」

 

「えっ」

 

 顕現する。人を喰らう魔女が。

 血管のようなものが体表に浮き出た大きな赤黒い魔女。そして、鋭い鉤爪を持つ、翼の生えた赤い魔女の二体(・・)

 

「おいおい、聞いてねえぞ、なんだよこのイレギュラーは……」

 

「これは本当にまずいわね」

 

 二人は槍を、銃を構える。額にはじんわりと嫌な汗が滲んでいた。まどかは、マミがそうしてくれたように、ほむらを守る盾になるように立つ。

 

「巴マミだっけか、アンタらはあの羽の生えたやつを頼むよ。飛ばれるとアタシじゃあ、相性が悪い」

 

 命が危険に晒される。利害が一致していようとしてなかろうと利用するものは何でも利用する。そういったスマートさが杏子は兼ね備えている。

 それに状況を分析したうえでの判断だった。何をしてくるか分からない以上、ある程度、外見から判断を下さなければならない。

 変身してからマミとまどかが携えていたのは銃と弓だ。これでは接近を許すだけで、あのでかい魔女の腕の一振りでぺちゃんこである。それを防げるのは近接武器を持つ杏子のみ。当然の帰結であった。

 

「了解したわ」

 

「あのデカい筋骨隆々のやつは任せてくれ」

 

 先手必勝、杏子は駆け抜ける。戦場へと向かっていった。

 暁美ほむらは、その光景を眺めていることしかできない。

 

「わたし、わたしっ……」

 

「大丈夫だよ、ほむらちゃんは私たちが守るから」

 

「そうね、暁美さんは命に代えても守って見せるわ」

 

 マミが銃をさらに地面に展開する。まどかが矢を番えるここに魔法少女と魔女の互いを終わらせる殺し合いが始まる。

 

――それでも、魔法少女ではないわたしは足手まといでしかなくて。

 

 命の光が消えるのは一瞬なのである。

 翼の魔女の旋回する速度が早すぎたのだった。

 佐倉杏子は自分の仕事である大きく力のある魔女を一人で手に取り、巴マミが油断したわけでもなく、鹿目まどかが気を抜いたわけではない。

 自分に訪れる危機でなかったからこそ、見落としてしまった。

 明確な攻撃のチャンスにこそ十分な注意を払わなければならないのだ。

 

 戦いの余波でできた瓦礫の裏に隠れていた暁美ほむらは、魔女の流れた雷撃によって死を迎える。

 

 力を持たぬがゆえに起きた事故。弱肉強食の理の中での必定。それによって死ぬ。

 

 迫る死に介入できるものがあるとすれば、今ここに居ない者のみ。

 

 強い魔法少女のみだ。

 

 だが、魔法少女でもない暁美ほむらに死は与えられなかった。

 

「ひっぐ、えっ……ぐぅ」

 

「ちょっと遅れすぎたみたいだけど、間に合ったかな」

 

 あの雷撃を凌ぐ銀色の魔法少女がそこには居た。

 おそらく、腕で払いのけたのだろう。ほむらの前は肩から横に腕を伸ばした救世主がいる。

 それを見て、自分は命が救われたのだと安心して足から力が抜けた。全身からも抜けていく感覚がする。

 

「大丈夫だった? 怪我とかさ、してない?」

 

「う、うん」

 

 安心が勝っている状態だが、先ほどまでの恐怖がまだ身体に残っているのか、上手く声が出せない。

 それでも、助けてくれた人にお礼が言いたかった。

 

「あ、あ、ありがとうございます。あの! あなたは、いったい」

 

「え、僕? ただの魔法少女だよ」

 

 少女はうーん、そうだな、と考えてから、

「だったら、これからは親しみを籠めてレイちゃんと呼んでくれ」

 

 彼女にとっての言いなれた台詞を決めた。

 

 

 これが暁美ほむらと飛鳥レイの初めての出会いだった。

 

 

 

 





はーどふる



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