めるば、ごるざ
09
――とある話をしよう。
かつてインキュベーターが地球に降り立つよりも前、闇の眷属と光の巨人たちの戦いがあった。
激化していく戦争を終わらせたものがいた。
その名はティガ。光の守護神。
人々の願いに光が応え、この地上に遣わす地球の守護神であり、すべての人の中に宿る神聖なる魂の光。その人の光と石像の巨人が一体となり、光の巨人は誕生する。とされている。
役目を果たした光の巨人は希望を託し、元ある宇宙へと還っていく。
光は過去から未来へと引き継がれて、現代にも残っているのかもしれない。
宇宙より飛来したインキュベーター、光の巨人その二つは人々に希望を与える存在であった
10
銀の髪を靡かせ、赤き翼の魔女に相対する。
既に装備である
魔女が翼をはためかせ、少女の白のスカートが大きく揺れた。
「ねえ、君たちー、一緒にこいつらやっつけよーぜー」
まずレイは三人でこいつを倒そうと思った。
今もなお孤軍奮闘する杏子のところに駆けつけるよりもまずは、魔法少女三人がかりで圧倒することを選ぶ。
その選択はレイの杏子に対する信頼が成せる選択だ。
付き合いは短くとも一度刃を交えば、相手の実力をおおよそ把握できる。その戦闘のスタイルも。交えたのは拳と槍ではあるが。
無茶と無理をしないタイプの人間であると分かっている。そういった人物は滅多なことではミスを起こさない。杏子に加勢するよりもまず、非戦闘員である少女がいるこの場をなんとかしなければならなかった。
「さて、僕は飛鳥レイ。レイちゃんと呼んでくれ。君たちはー?」
戦うよりも前に礼儀を尽くすのが飛鳥レイである。これから共闘するのだから当然だと心が言っていた。
遠くにいるピンク色の少女と黄色い少女に発する。
「わ、わたしは鹿目まどかって言います~」
「巴マミよ」
「うんうん、まどかにマミね。よし、覚えたっ。これからよろしく!」
満足げに頷く。
新しい出会いに心が弾んだ音がした。だが、今はそれに感謝し、喜んでいる場合ではない。
「さて、一気にあいつを叩くよ。僕が前衛務めるから、援護よろしくぅー!」
一足で跳躍する。
レイの登場にあたふたしていたまどかだが、落ち着きを取り戻した様子でマミに話しかけた。
「悪い子じゃなさそうですね」
「そうね、明るくって前を向いている子のようね」
二人の魔法少女は遅れを取るまいと弓を銃を構えなおす。
「行くわよ!」
マミの掛け声にまどかは大きく「はい」と返事した。
駆け出す前に、
「ほむらちゃん、ごめんね。もう絶対に怖い思いをさせたりなんてしないから」
「鹿目さん……」
「行ってくるね」
ほむらを危険に合わせてしまったことを謝る。守ると言ったのに叶わなかった。今回はまどかの代わりにほむらを守ってくれた人がいた。だから、改めて心に誓いを立てるのだ。
それを横目に見ていたレイは少し羨ましかった。
「いい友達なんだね」
自然とクスっと笑みがこぼれる。だから、この場にいるみんなを守らなくてはいけないと思った。
戦いの中で彼女はいつも考える。
なぜ、戦うのか。なぜ、強くならなければならないのか。魔法少女の力の意味を探し続けている。
拳を握った。その姿に明確に敵である判断され、翼の魔女は
高速で迫るそれを的確に弾き流す。
驚異的なスピードだ。まともに食らえば、丸焦げは免れないだろう。頭でシュミレートしていく。
どんな場面においてもシュミレート、イメージしていくことは重要だ。予想、予測を打ち立てていく。その裏打ちのための情報を一つずつ得ていく。それこそが戦いだ。
目標の所作、目の動き、そこからどう行動するか。パターンを見極めていく。その対応のみ。
「どうしよ」
ちょっとだけ弱気であった。
もう一度、拳を握りなおして気合を入れる。
その間にも、レイの後方から敵の隙を突くように攻撃が放たれている。
「ダメージ覚悟以外で近づける方法が思いつかない」
まどかとマミの援護は強力である。しかし、即席のコンビゆえに攻めるためのパターンがこちら側には多くない。
だが、これでも矢と弾丸が魔女の気を割くのに有効である以上、その手を中断してまで新たに何かするのは得策ではない。
マミの巧みな銃撃が翼の魔女の追撃を許さない。
マスケット銃を常に召喚しつつ、高速で移動し続けることで敵の攻撃を躱し続ける。まどかは、さらに遠距離から腕に精一杯力を籠めて桃色の花の装飾がされてある弓を引く。
「仕方ないか」
消耗が激しいうえに、行くなら一気に勝負を決めなければならない。
「ねえ、マミー! 一発デカいので気を引いててくれー」
「ちょっといきなり何を!?」
「マミさん、早くっ」
「マミー、まだー」
「もう、わかったわよ!」
マミは半ばヤケクソにリボンを取り出す。
くるくると円を描く姿はさながら新体操の選手のようだ。そのリボンが大砲クラス大きさの銃へと変化した。
「特大の一発決めてやるわよ」
マミの愛用する単発式の白い高貴なマスケット銃をそのまま巨大化させたようなデザイン。その銃口に魔力が込められていく。
「ティロ・フィナーレ!」
その一撃は並みの魔女ならば耐えることなど不可能なほどの一撃。一直線に赤き翼の魔女へと放たれた。
直撃すれば、対象を焼き尽くすのは必然だった。
だからこそ、顔に驚愕が浮かぶのも必然だった。
「翼で受け止める、なんて」
魔女はマミの必殺技を防いだ。
本気の一発だった。それを一度翼をはためかせ、突風をマミの一撃に合わせることで威力の減衰と己の翼で防御することを可能とした。
気を引いてくれと言われたが、倒しきるつもりの攻撃だった。少なくともマミにとってはそのつもりで放った。
だが、防がれてしまったのだ。
真っ向から持ちうる最大の攻撃を防がれる絶望は計り知れない。マミの心が大きく揺れる。
「こんなのって……」
「諦めるのはまだ早いよ!」
レイが赤き翼の魔女の横をすり抜け、背後へと回る。
「ここからが本当の戦いだ」
――
銀が煌めく青へと変化する。
その必要な工程は一手順のみ、キラッとしたヘアピンを一つ外すこと。
残すのだ。青い変化のためには赤を外す。赤い変化のためには青を外す。
青い力は奇跡を起こす導きの力。
「こいつでフィニッシュだ」
銀の魔法少女は青の魔法少女へと変わる。装束もそれに合わせるように青を基調とした姿へ。
「リザリウムパニッシュ」
落ち着いた声音だった。
魔女の背中にすっ、と手を置くようにして放たれた必殺の技。この一撃は凄まじい衝撃によって相手の体内を破壊し尽くす。
ここに赤き魔女の絶命は確定した。
その身体は痛みにもがきながら、ノイズを走らせる。
「ふう、倒した」
緊張を緩める。張り詰めた糸とはピンと伸びているものだ。そういったものは簡単にプツンと千切れてしまう。適度な息抜きは戦場においても欠かしてはいけない。
ヘアピンを前髪に付け直し銀色の姿へとレイは戻った。
魔女は撃破され、消えていく。風景は変わらず、結界はまだ解けない。なぜなら、もう一体が健在だからだ。
「よし」
それでも、この勝利には素直に喜んでおく。共に戦った結果ゆえの白星なのだから。
「やったね、マミさん」
その光景を目にしていたまどかがマミに歓喜を見せる。それに対して、マミは、
「そうね……なんとか」
同じように喜べないでいた。
これほど強く厄介な魔女は、マミの魔法少女としての活動の中に一度として現れたことはない。いや、今回が初めてになっただけなのかもしれないが。自信がなくなりそうだった。
レイはまどかとマミの下へと戻ってきた。
「まどか、マミ、大丈夫だったかい」
「うん、それにしてもすごかったね! こう……ずどどーん! って」
「ええ、助かったわ。ありがとう」
「いや、二人のおかげだよ。あんなすごい一発を持っているなら、最後はマミに任せてもよかったかもしれないな」
「大袈裟よ、褒めても何も出ないわ」
「初めて組んだにしては上出来、上出来!」
「いろいろとありがとう、飛鳥さん」
正直、気が滅入そうだったマミだが、レイの暖かさが心地良かった。
そんなことには全く気付いていないのが飛鳥レイという少女なのだが。
「だから、レイちゃんと呼んでって。まあ、いいか……あとは」
一人で戦い続ける杏子を助けに向かうだけだった。
11
命を懸けるということは、そう簡単なことではなかった。
戦いとは命を奪い、落とすことである。それを理解した瞬間、手が震えたのものだ。
殺すこと、死ぬこと。どちらも嫌だと思った自分がいた。
それまで自分はなんて生物の生き死にとは遠いところに身を置いていたのかを痛感した。だから、親の代わりとしてレイを育ててくれた男の教えてくれてくれたことの大切さを初めて知った。
腹ペコのまま学校に行かないこと。
天気の良い日に布団を干すこと。
道を歩く時には車に気を付けること。
他人の力を頼りにしないこと。
土の上を裸足で走り回って遊ぶこと。
男は私も親から教えられたものだ、と感慨深い表情でそれを口にしていた。その他にも多くを教わった。
『レイ、ご飯を食べる時には、いただきますを必ず言うんだよ』
食材への感謝を胸に、口にしてからご飯を食べる。あの頃のレイはもっと幼く、食卓に並べられたご馳走に目を輝かせていた。だから、その本当の意味をこれっぽっちも理解していなかったのだ。
されど、魔法少女となり、命を懸けなければならない戦場に身を置くようになってようやく男の教えを理解する。
あの食材たちは、元、生命としてこの星に生まれ。そして人間の糧となるために命を奪われたのだ。
食事とは自分のために糧となってくれた生命への感謝だ。人は食べることで他からエネルギーを得なければ生きてはいけないから、だから感謝を忘れてはならない。たったそれだけの、当たり前のこと。
『五つの教えのねー、他人の力を頼りにしないことっていうのはなんでなのー?』
その一つの教えには幼いながら疑問が湧き、男に問いかけた。ただの子供の純粋な好奇心。それに彼は少女と同じ目の高さで答える。
『他人の力を頼りにしないっていうのはね、別になにも一人で生きていくことの教えではないんだ。
レイも大きくなれば、いずれ仲間と出会うだろう。その仲間と日々を過ごす中、いつも仲間たちがレイを助けてくれる状況とは限らない。
だからね、自分の力でなんとかできるように鍛えておこうっていう意味なんだ』
『そーなんだー』
『ピンチをギリギリまで踏んばって、ギリギリまで頑張って持ち堪えている時、仲間はきっとレイの元へと駆けつけてくれる』
『うん!』
『だから、仲間がピンチのその時は……』
優しい声音だったのを覚えている。
「杏子―――!」
「レイか! 遅いんだよ!」
『レイが助けてあげるんだよ』
その教えはここに成る。
12
レイが知る中で杏子ほど守りの堅牢なる魔法少女はいなかった。
赤き翼の魔女を倒し、駆けつけるまでの間、怪我を一つも負わなかったわけでもないが、たった一人で強力な魔女を相手どり、その命を散らすことなく奮闘している。
佐倉杏子は多節棍の槍の使い手である。
武器が仕込んだ鎖の多節棍ゆえにその伸縮は自在であり、槍という武器の特徴であるリーチの長さを存分に発揮できる。そして、仕込んだ鎖以外でも、鎖を召喚して防御壁を作りだすこともやってのけたことがある。
守りに徹するだけでなく、攻めの一手を忘れない。隙があれば、相手の首元に噛みつく。そんな獣のような。
対人戦であれば、これほどトリッキーな武器を扱い、変則的な戦闘スタイルである杏子と戦うのは気が引ける。というか、是非とも丁重にお断りしたい。それがレイの佐倉杏子という人物の魔法少女としての評だ。
「レイ来るぞ!」
「分かってる!」
拳を構える。レイに魔女が迫ってくる。それを真正面から迎撃した。
双方の拳が衝突する。嵌めている籠手には多大な魔力を注ぎ込み、膂力で負けないようにする。
魔法少女と魔女。その肉体的スペックは人のサイズであるがゆえに、大きく魔女に劣る。だからこそ、その差を埋めるべく知恵を張り巡らせていた。
「マミ!」
「飛んで行ったと思えば、もう戦い始めているんだから」
会話が終わったと同時に杏子の元に向かったレイに遅れる形で到着する。
理由があった。戦えないほむらがいたから、それをどうするか。決めるのはすぐで、まどかが自分からほむらを守ると言ってくれていたから、すぐに出発できた。
リボンを用いた移動方法で、そこまで遅れての登場ではなかった。
マスケット銃を自身の周りに八本召喚したマミ。その一本を手に取り、発射する。
「かったい!?」
体表がこれまでにないほどに分厚いようだ。マミの銃撃を意にも介さない。
身体に浮き出た血管が特徴的な赤黒き魔女。全身に備わる筋肉自体が強靭なのだろう。これを打ち砕くのは容易ではない。
それでもマミはどこかに弱点は無いか、と銃撃をやめない。一発撃ち込み、使い捨てる。それがマミの戦闘スタイルだ。
「な、あれ、厄介だろ」
「そういうことは早く言うこと」
「言っても状況は変わんなかったさ」
「そうね」
「いや、援護して!」
小休止を挟んでいた杏子とマミが他愛ない会話をしていたが、レイは拳を撃ち続けていた。ここは戦場でなのであった。
「力負けするー」
相当な量の魔力を籠手に回していたが、これでは無駄な消耗でしかなかった。だから、手を打つことにする。
レイは手を前髪にあてる。青いヘアピンを外し、赤いヘアピンを残した。
変化が現れる。装束は美しい銀から、情熱の赤へ。髪も赤毛が混じるように変わっていく。
赤い変化は邪悪を打ち砕くための力。
「負けない」
再び、拳を交える。今度は魔女に膂力で負けることはなかった。
魔女は苦しみの声を上げた。苦しみは呪いを増大させていく。
呪とは憎しみであり、この世界への絶望である。それが膨らんでいくことは、魔女の純粋な成長に他ならない。
「あらら」
「ばか! なにやってんだよ。敵を強くしてどうする」
「飛鳥さん、ちゃんとやって」
「真剣も真剣にやってるよ」
〈ギャオオンンン〉
痛みが、憎しみに、怒りへと姿を変え、激情が魔女を強くしていく。
貌は憎悪によって歪み、体表はさらに禍々しく硬くなる。
憤怒の悪魔のようだった。
戦いを繰り広げる中で強くなっていく。
「はあっ」
「もう一発!」
「てぇぇっ、やあああ!」
銃撃が、拳戟が、槍の一刺が当たる。だというのに、敵にはまったくダメージが入ったようには見えない。
「くそっ」
「こんなことって」
さらに全員が相当な魔力を籠めた攻撃が通用しなくなっていた。
ただ肉体が攻撃に対して硬くなっただけ、腕力が大きくなっただけ、これといって特筆した特殊能力が発現したわけでもない。
純粋なまでの強さが魔女には備わっていた。
魔法少女たちはそれを前にして、この敵をどう倒せばいいのかと恐怖する。杏子を、マミを不安が支配していく。
「こんなやつ……」
「いったいどうやって倒したらいいの……」
撤退すれば、自分たちは助かるが、町に大きな被害が出る。それは避けたい。だが、身体が動かない。
「まだ終わってないよ」
レイはまだ諦めていなかった。勝ち目があるかは分からない。むしろ、勝機なんてない。
そんなことは分かっている。
嫌だったのだ。このまま敗北して、みんな死んでしまうことが。
「諦めるな」
その言葉を発した。
二人がレイを見つめる。光が灯る。
「そうね、まだ諦めるのは早いみたい」
「諦めてなんていない。どうするか、考えていただけさ」
マミと杏子も諦めなかった。ピンチに踏ん張ることこそ、根性。
その二人の姿を目にして、自然と顔には笑顔が浮かんでいた。
「よし、杏子、マミいくよー!」
「ああ」
「ええ」
三人の連携が始まる。
まず先陣を切るのは杏子だった。
槍を複数出し、投擲する。それに合わせて、自身も跳躍した。続くようにマミが銃撃を開始する。
総じて、三〇の槍が銃弾が魔女へと襲い掛かる。それを一薙ぎで叩き落された。
数発が直撃するも大きなダメージにはなっていない。それも想定内だ。
「くらえええええ!」
二人が作った隙をレイが突き、右の拳を撃つ。狙いは魔女の顔面。
当たった。これには軽いノックバックを起こす。銀の状態時よりも、大幅に上がった膂力の一撃だ。ある程度は効いてもらわないと困る。
連携はけっこう形になっている。さっきまでのマミとの共闘、以前からの杏子との関係。それが確実な戦術へと昇華していた。マミと杏子はなんやかんやで連携が取れているようだった。
「もう一回いくよ!」
「いや、次で決めるべきよ」
「そうだな」
「そうなの?」
気持ちの良い爽快な一連の流れだったから、もう一度やってみたかったのがレイの本音ではあるが、
「よし」
飲み込んで、従う。知らないうちに杏子とマミの仲が良くなったように思えたが、気にしないでおく。
「そうっーれ!」
突進する。距離を詰めていく。
その直進を止めようと魔女が腕を振りかぶった。だが、ブレてレイには当たらない。当たるのはレイのパンチだけだ。
「残念、力任せじゃどうにもならないことってあるのよ」
「ほうっら、よ!」
杏子は魔女の頭上から巨大化させた槍を突き落とす。
脳天を勝ち割るように突いたが、まだ倒しきれない。レイと杏子の攻撃はすべて全力で行っている。いや、マミを含めた全員が全力を出し尽くしている。
〈アアアーギャアアア〉
突如として、魔女は跳躍した。攻撃してきた杏子を一撃で殺すために。
殺すことを躊躇ったりしない。怒りに任せて振るう。
だが、次の瞬間に訪れたのは杏子の死ではなく、魔女の困惑だった。
「何度も同じ手に引っかかるなよなー」
鎖が魔女の頭上を覆いつくしていた。
杏子の持つ防御の術。破られないように保険をかけ、鎖を四重にまで施していた。実に彼女らしい警戒だ。
殺せない。魔女にとって羽虫のような存在である少女たちが殺せない。怒りは有頂天に達しているようだ。さらに進化を果たす。
「ここだ、マミ!」
「ええ!」
否、これ以上は魔法少女たちが許さない。
「ティロ・フィナーレ!」
マミは、すでにフィニッシュまでの準備は完了していた。
事前に打ち合わせをしたわけではない。レイの性格、杏子の性格、彼女たちがどう行動するか、それを予測して合わせたまで。
その程度のことは造作でもないのだ。
超巨大な銃から壮大な威力を秘めた弾が発射された。
「――ブレイジング」
レイは信じていた。マミを心底、信頼していた。
ついさっき出会ったばかりだが、マミが良い人だというのは知っている。そして、その実力を、心から。
「バスター!」
拳を撃ち放つ。炎が纏まり、唸り上げる。
赤い姿での、超パワーの必殺技。敵を焼き尽くすのは当然のことだった。
「くっ」
しかし、魔女の進化はそれを凌駕しつつあった。
その身体が炎に包まれているはずなだというのに、いまだ消滅しない。
進化した鋼鉄のごとき体表が魔女を生かしている。
この炎を耐え切り、殺すという意思を見せつけてくる。
(だめだ、倒せないのか)
悪態をつくレイ。
光線を放つのをやめない。だが、倒せるとは確信できなかった。
「根性だせええええええ!」
弱い気持ちを振り払うように叫ぶ。
杏子が、マミがチャンスを作ってくれた。誰も諦めていない。諦める気など毛頭なかった。
炎熱をもっと上げる。限界を越えて、その先へ。
もう頭にあるのは踏ん張ること。
(応えるんだ)
赤き翼の魔女と戦った。かなり消耗した。だから、ここでこの魔女に負けて死んでもいい。
そんなわけはない。そんな理由で諦めるわけにはいかない。
レイの腕が悲鳴を上げる。魔力の使い過ぎだ。肉体的にも、魔力的にも限界はとうに越えている。それでも、炎熱を上げ続ける。
そのレイの姿に応える仲間たちがいた。
「もう一発!」
「ええ、私も!」
さっきの一撃よりも特大の槍が銃撃が魔女に叩き込まれる。意識が警戒が完全に杏子とマミに移った。
勝機が見いだされる。
「うおおおおお!」
魔力が爆ぜた。
上昇していた熱は臨界点を越えて、魔女へと注がれる。そして、大爆発を起こした。
辺りに黒い爆風が巻き上がる。
凄まじい熱量をもって打倒された赤黒き進化する魔女は、ようやく消滅を始めていた。
「倒せた……」
命が絶えていた。
三人の魔法少女の協力があってこその勝利だった。この中の誰か一人でも欠けていたら、決して倒せないほどの脅威だった。
「やったな、レイ」
「やっと、終わったのね」
レイも、杏子も、マミも、全員がボロボロだった。全身に傷がないところを探す方が難しいくらいに。
それでも倒した。勝利できた。
「なあ、レイ。お前、顔がすっげえ汚れてるぞ」
「杏子だって、顔、真っ黒だけど?」
「二人ともだいぶ汚れてるから、お風呂に入らないとね」
「マミだって、汚れてるよ」
「なら、一緒に入る?」
「お、いいねー」
魔女の結界が解けて、現実へと戻される。遠くにまどかとほむらの姿も見える。無事のようだ。
「僕、お風呂好きなんだよねー。このあと、行くつもりだったんだけど、見滝原で良さげな泊まれるとこもある銭湯ってない?」
「あるにはあるけれど、どうせなら家に来る? あなたなら歓迎よ」
「うっそ、タダで宿までゲット!? やったー」
「お前、ホント風呂が好きなんだな」
槍を肩に乗せた杏子が呆れながら、レイの横に来る。
「どうせなら、あなたも泊っていく? 私は歓迎するわよ」
「アタシは、生憎……」
「杏子もマミの家に泊まろっ。ね!」
「おまっ、レイ!」
レイちゃんは強引なのである。自分の欲望にちょっと忠実なのであった。
一方、まどかはそのやりとりを見て、ふふっと笑う。
「あの二人、やっぱり悪い人じゃなかったね」
「悪い人だったんですか?」
「うん!」
「え」
ほむらには知らないマミとのやり取りがあったのだった。
この後、当然、レイはマミのお宅に杏子とお邪魔し、お風呂にはさすがに三人では入れなかった。
この時のレイのはしゃぎようは、後日、マミの元にご近所さんから苦情がくるほどだった。
飛鳥レイは二体の魔女との戦いを通じて、見滝原市にいる巴マミと鹿目まどか、暁美ほむらと親交を持つようになる。
これより始まるは希望と絶望の光と闇の物語。
光を受け継ぐ飛鳥レイはこの先、幾重の困難に遭遇するだろう。それでも、少女は何度でも立ち上がる。
13
白い獣は彼女を観察していた。
「君はいったいどれほどの希望を振りまくんだい」
二体の魔女を倒し、歓声を上げる少女たちの姿を目にする。
飛鳥レイのこれまでの戦いにおいて最大の強敵だったはずだ。しかし、それを仲間と協力して、またも倒してみせた。
「あれほどまでの輝きを放つなんて、本当に彼女は人間なのだろうか」
疑いは当然のものだった。今に至るまで、どれほどの強敵や困難が立ち塞がっても、レイは膝をつくことはなかった。
白い獣にとって、旅を続ける彼女を常に観察し続けることは難しかった。契約を必要としている少女たちは他にもいる。そのため、レイに固執するわけにもいかなかった。
その中で彼女は行く先々の地で魔法少女と共闘し、数多くの魔女を撃ち滅ぼしてきた。
多感な時期の少女たちだ。悩みや戦いの中で簡単に絶望していく。それが必然だったのだ。それが今、ノルマの回収率がレイによって大幅に下げられていた。少女たちの希望として、彼女の存在があったのだ。
本人にその自覚は全くないのだろうが。
だとしても、レイを排除するという考えは白い獣の考えにはない。
「飛鳥レイ、君はどんな絶望を見せてくれるのかい」
期待があった。多大な希望を振りまく飛鳥レイが絶望する姿に少なくない関心が寄せられている。
大きな希望が絶望へと移るその時に、どれほどの途方もない現象が発生するのか。
彼女を白き獣は観測し続ける。
白い獣――インキュベーターは夜の闇へと姿を消した。
レイ「さすらいの魔法少女とは僕のことさ!」
やっとウルトラマン色を色濃くできたかなとしみじみ。
いつの時代も戦闘描写は難産なのじゃ。
ここらでちょっとした解説。
この二体の魔女はゴルザとメルバをモチーフにしています。
魔女とはそれぞれに与えられた物語がある。それが今回、ウルトラマンティガのゴルザとメルバの物語だった。
象徴は「進化」・「翼と雷」
そして、魔法少女まどか☆マギカにおける三話までは、導入部分で、視聴者を引き摺りこむお話。
今作では、主人公である「飛鳥レイとはどういった人間なのか」を描きたかったんです。
一応は12話の構成でいきたいと思います。あらためて、よろしくお願いします。