それと、もしよろしければ、感想や評価してください。
01
飛鳥レイは、今日も今日とて銭湯に足を運んでいた。この年ではあるが、学校なんてものに通っていないせいで、日中からぶらぶらと出来るのは最高で、そしてお風呂こそが至福の時間なのであった。
彼女にとって、根本的に机に向かって勉強するということが嫌いだった。
そんなレイだが、最近、友達が増えた。向こうはどう思っているか分からないけれど、少なくとも彼女は見滝原で出会った魔法少女たちに対してそう思っている。
もちろん、杏子のことも友達だと思っている。
「一方通行じゃなければいいなー」
湯船に浸かりながら、寛ぐ。
時折、ぽちゃんと雫が桶に溜まった水の上に落ちる音が気持ちいい。
魔法少女としての活動の傍らで、こうして銭湯を巡ることを日々の楽しみにしているのだが、通いすぎるとすぐに財布が軽くなってしまうのはレイの定石だった。
(もうちょっと仕送り、増やしてくれないかな)
先日、通帳記入した時の残り残高が頭の上に浮かぶ。
育て親である男が毎月きちんとある程度の金を口座に振り込んでくれている。いつ独り立ちしてもいいようにと、貯金を貯めるために作ってくれた口座だ。今の生活はその男のおかげで成り立っているのは明確である。
それもあと一年やそこらでアルバイトできる年齢になるため、大幅に減らされてしまうのが約束されているから、出費は考えなければならないのが専らレイの悩みの種であった。
(けど、お風呂上りの冷たいジュースは絶対に外せないし)
節約の中にも外せないこだわりというものがある。それが飛鳥レイにとってのお風呂と食事である。
お風呂に入ることと、食べたい物は絶対に食べる。それが≪QOL≫。すなわち、クオリティ・オブ・ライフというやつだ。
だからこそ、この後に待っている自販機の前で何を買うか迷うのも、レイはとても楽しみにしている。
「それにしても、学生たちが勉強し、社会人たちが働いている時間から入るお風呂は最高だなぁ」
思っていることが割と最低だった。
02
時は遡り、二体の魔女を倒した夜。
お風呂パーティーだぁー! とはしゃぎだしたレイを見て、暁美ほむらはくすっと笑う。
「楽しそう……」
無邪気そうな彼女を羨ましいと思った。
現在、時刻は二〇時。マミの家に戻り、祝勝会ということで魔法少女ではないほむらだったが、みんなと共に参加していた。
このまま泊まる予定であるレイと杏子は置いておくとして(杏子が泊まることになったのはレイが強引だったからではあるが)、まどかは家に九時頃に帰ると言っていたので、その時間までほむらも一緒にいることにした。
「レイちゃんって、本当に強いんだね!」
「ま、ど、か……」
なぜか感極まっているレイ。
「あんなにも決め台詞にしてたのに、これまでに呼んでくれた人はほとんどいなかったんだ。ありがとう、まどか!」
「ふええ、それほどでもないよ~」
抱き着かれ、まどかはなすがままにされている。
そんな彼女たちを微笑ましく思う。
「あら、暁美さん。頬が緩んでいるけど、どうかしたのかしら」
「いえ、すぐにあんなにも鹿目さんと飛鳥さんが仲良くなって、その」
「羨ましいわけね」
「いえ、そんなことは……あります……けど」
日和った。そんな自分を見て、マミが優しく笑う。
こちらを見ながら、窓の近くでお菓子を食べている杏子に声をかけた。
「あなたも、こっちに来たらどう?」
「な、巴マミっ」
先ほどからチラチラとこちらの様子を窺っていたのをマミは見逃さない。それは意地悪のように思えるが彼女の優しさでもあった。
「ほうら、ケーキも紅茶もあるわよ」
「い、いらねぇし」
「じゃあ、全部食べちゃおうかな~」
「太るぞ」
「なんですって」
「しゃ、しゃね~なぁ……」
ドスのきいた声だった。杏子は汗を額に滲ませながら、顔を合わせない。怖いからである。だから、マミに従った。
うら若き乙女に対して、カロリーや体重のことを口にするのはタブーなのである。正直、杏子が悪いのではあるが、それ以上に強制的であった。
そうして、ようやく近づいてくる。
「ところで、アンタさ、魔法少女じゃないわけ?」
「わたし、ですか?」
「アンタ以外に誰がいるっていうのさ」
まさか、話しかけられるとは思ってもみなくて、おどおどとした態度になってしまう。ほむらは、そういったところが自分の嫌いな部分であった。
「え、ええと」
「変に首突っ込むと死ぬよ」
「……」
何も答えられない。それに答えを持っていない。
自分は彼女たち魔法少女と違って非力であり、そしてなにより命を懸けるつもりもない。この行為自体が遊びだと思われても仕方ない。
それでも命を救われたから何か役に立ちたい、恩返しがしたい、そんな気持ちがあったのだ。
「これ以上、アタシたちのようなやつらと関わらない方がアンタのためだよ」
その通りだ。守られる存在である自分が、今回のように何かのアクシデントで戦いに巻き込まれるかもしれない。そうなれば、魔法少女であるまどかやマミがほむらを助けようとするだろう。
それでは自分はただの足手まといでしかない。
自分は安全な場所で彼女たちの無事を願い、祈ることをしていればいい。
なんなら今までのことを見なかったことにして、日常に帰ればいいのだ。ほむらにはまだその選択肢が残されている。
「こら、そんな意地悪なことを言わない」
「いてっ。意地悪ってな、アタシは本当のことを教えてやろうって親切にだな……」
コツン、とマミは杏子の頭の上に軽い拳骨を落とした。
そのせいで二人が会話を始めることになる。
助かった。気まずくて、どうしていいのか分からなくなってきていた。
しかし、杏子の言ったことは、ほむらがこれから真剣に考えなければならないのは間違いないことでもある。
キツイ物言いだ。しかし、気遣われているのはなんとなくだが伝わってくる。性質がお人好しなのだろう。
(佐倉さんって、もしかしてツンデレ……)
テレビで耳にした単語が思い浮かぶ。そして、リアルにもいたんだぁ~とほむらの思考は別の方向へと飛び始めていた。
「たしかに、佐倉さんが言うことももっともなの。暁美さん、あなたはこれからどうしたい?」
「私は……っ」
魔法少女となって、彼女たちと一緒に戦うという選択肢も与えられている。願いがエントロピーを凌駕さえすれば、暁美ほむらも魔法少女となれる。
「まだ分かりません。それでも、私自身が考えて答えを出さないといけないことなので」
「そうね、悩んで悩んで、悩み抜いて、そうして答えを出せばいいわ」
「でも、そんな悠長にはしてられないぜ」
「はい……」
レイと談笑していたまどかがこちらに戻ってくる。
「ほむらちゃんがどんな選択をしても、私はほむらちゃんの友達だからね!」
「うん、ありがとう、鹿目さん」
「友情だなぁ。なんかいいなぁ」
「どうしんたんだよ、レイ。ああいうのに憧れでもあるのか?」
「憧れ、か……うーん、どうだろう。でも、友達とか友情とかって素晴らしいものじゃない?」
「ま、悪いもんじゃないと思うけど」
「そうそう、ほむらー。なんかあった時は僕も君を守るからね~」
「あ、ありがとう。レイ……さん」
まだちゃん付けで呼ぶのはハードルが高かった。
みんなの想いが暖かった。
この場所を守りたいな、とほむらは思う。
力の無い自分がそう願うのは烏滸がましいかもしれない。それでも、この温もりを大切にしたいという思いが胸に溢れていた。
03
マミの家でのパーティーの帰り道。
時間にして、そろそろ中学生は家にいないと補導を受けてしまうような時間帯になっていた。
ほむらたちは、まだまだ少女だ。歩く道などには気を付けなければならない。
「いやー、楽しかったね! ほむらちゃん!」
「はい!」
ああいう友達同士で、家でお菓子を広げて楽しくお茶をする会みたいなものは人生で初めての経験だったが、案外悪くないものだった。
今日に初めて出会った人たちもいる中でのことだったが、二人とも良い人でよかった。
「レイちゃんととっても仲良くなっちゃったよ」
「よかったね」
「うん!」
満足げに頷くまどか。よほど、意気投合したのだろうか。ちょっと羨ましい気持ちになる。
「私はレイさんと、あまりお話できなかったので……」
「じゃあ、また今度会った時にでもいっぱいお話すれば、きっと大丈夫だよ」
「……うん」
まどかは他人を思いやることのできる女の子だ。優しく、相手としっかり向き合ってくれる人。だから、友達が多い。
学校では、水色の快活な少女―美樹さやかと、上品かつお淑やかな少女―志筑仁美と一緒に行動しているのをよく見かける。そして、保険委員でもある彼女は教師からも、クラスメイトからも何かと慕われている。
みんなから人気のある普通の女子中学生であった。
だが、彼女は町を守る魔法少女でもある。
半年も病気で意識がなく、さらに内気な自分とは全く反対側にいる女の子。それが鹿目まどかだ。
「それじゃあ、私はこっちなので」
「うん、またね、ほむらちゃん!」
「ま、また……」
曲がり角で別れた。彼女とはまた明日に学校で会う。夜は遅いが、これからシャワーでも浴びようと考える。
劣等感を感じないわけではない。そんなもの生きてきた中で何度だって感じたことがある。気にするだけ無駄な感情。
なぜなら、自分はまどかとは違う人間なのだから。
『本当にそう思っているのかしら?』
「え?」
何者かの声が聞こえた。
周囲を見渡す。
誰もいない……。
「でも、今、声が……」
『あら、私の声が聞こえるのね』
「誰なの!?」
遠くから身体の中へと響き渡っていくような声。恐怖と得体の知れなさにほむらの心は限界を迎えそうだった。
まどかはいない、マミやレイ、杏子もいない。暁美ほむらを守ってくれる魔法少女は今ここには誰一人としていない。魔法少女ではない自分は魔女やその使い魔にすら出会っただけで簡単に殺されてしまうだろう。
それでも、勇気を振り絞って叫ぶ。
「もしかして、魔女!?」
『私は魔女ではないわ。言うなれば、私は本当のあなた自身』
「わたし……?」
『あなたの心を映し出す鏡のようなものだと思ってくれてかまわないわ』
姿の見えないナニカはそう言う。そして、言葉を続けた。
『そう、私はあなた。非力で自分では何もできないあなた自身』
「違う、私はそんなのじゃ……」
『ふふふ、くふっ、フフフフフ!』
それは事実だった。
ほむらは何一つ自分の力で成し遂げることが出来ない。勉強も、運動も、戦うことも。
自分だというナニカ振り払うように走りだす。
『ねぇ、なんで鹿目さんが何の取り柄もないあなたなんかと一緒にいると思う?
それはね、あなたに同情したからよ。ネガティブなせいで魔女の結界に閉じ込められてたところを助けてしまって、友達の一人もいないのを可哀想だと思ったから。
仕方なく、今も関係が続いているだけ』
頭の中はずっと自分の声に似た笑い声が響いていた。もう限界だった。
「やめて、やめてよぉぅ」
『ふふっ、生きている価値もないような人間。それがあなた』
「う、うるさい!」
とにかく走る。走って、自宅を目指す。
黒いおさげが揺れる。短い距離を走るだけで身体が悲鳴を上げる。自分に体力がないことをここまで恨んだことはない。
『気にかけてもらえるような可哀想な女の子でよかったわね。』
(なんで、私がこんな目に……!)
そんなこと分かりきっている。魔法少女と関わったからだ。
「やだ、やだよぉ」
まだ死にたくない、その思いがほむらを支配していた。
戦うことのできない少女には目を逸らして、逃げることしかできなかった。
『鹿目さんが羨ましいんでしょう? クラスのみんなから慕われている彼女のことが妬ましいんでしょう?』
そんなことない、と叫びたい。だが、否定しきれない自分がいる。
何もできない可哀想な子供。それが暁美ほむらだった。
『ふふ、ふふふ、ふふふふふ』
ほむらは正体不明の存在から逃げ切ることは叶わない。
04
見滝原市――公園
昼下がりののどかで心地の良い風が吹く。
飛鳥レイは風呂上りに公園のベンチに座っていた。
髪の毛は備え付けのドライヤーできちんと乾かしてある。身だしなみは乙女の嗜みなのだ。抜かりはない。
ところで、髪の毛を乾かさないとどうなるかご存じだろうか。
濡れた髪とは一番傷つきやすく傷みやすい。乾かすのを面倒がり、濡れたまま布団で気持ちよく寝てしまえばどうなるかはもう分かるだろう。
髪の毛はパサつき、キューティクルがなくなる。それだけでは済まない。頭皮には大量の雑菌が湧き、鼻につく異臭を放つ。乾かさないと何もいいことはないのだ。
実は薄毛の原因にもなっているだとか……。
「今日も良い天気だなぁ」
大きくのけ反らせながら、背中を伸ばす。火照った身体を冷ますためにも、こういった時間は必要だった。
レイはとことんマイペースな女なのであった。
「む、あれって……」
視線を戻した先に先日見知った顔を見た。
一瞬見間違いかと思ったが、やはりあれは間違いないだろう。
「ん? でも、この時間って」
中学生である彼女は学校に登校して、勉学に励んでいるはずの時間帯である。
何かあったのだろうか。
心配になって、声をかけることにする。
「おーい、ほむらー。何してんのー!」
黒髪の少女には反応がない。綺麗に編んでいたはずの髪が今日は何も触っていないのが、見間違いだとレイが思った理由。
あと、眼鏡をかけていなければ気づかなかったかもしれない。
しかも、どこか髪もくすんでいるように見えた。
「おい、大丈夫か?」
「あ、レイ……さん」
「あ、おいっ」
そのまま倒れそうになったほむら。
地面に激突する直前、レイが間に合った。こういう時、魔法少女の能力が活きる。
「危ないな。ほんと大丈夫か、顔、真っ青だぞ!?」
「あんまり大丈夫では、ない、です」
ほむらはそのまま意識を失う。
「ほむら! こういう時は病院とか言った方がいいのか……って」
魔女の口づけが首元にあるのを見つける。
それは悪魔の鋭い爪のような意匠が施されていた。
「これは病院に行くっても意味ないな」
医者に診せても何も解決しないのは明白だった。これを取り除いてほむらを助けるためには、この原因となる魔女を倒さなくてはならない。
「ともかく、安静にさせるしかないかー」
前途は多難である。
05
目が覚めた。
昨日はあれから恐怖が邪魔して眠れず、でも人間というものは疲労が溜まれば意識を失うものだ。だから、ほむらが眠れたのは昼前だった。
ひたすらうなされて、すぐに目が覚めて、起き上がる。やはり安眠するまではいかない。
家から出るのも億劫で、ベットの上にずっといた。でも、学校は一人だけを待ってくれるわけではない。たとえ、ほむらが登校していなくとも授業は行われる。
「学校行かなきゃ」
無断欠席になっているはずだ。少しでもみんなから幻滅されてしまう前に頑張ろうと立ち上がる。
制服は昨日から身に着けたままだ。シャワーも浴びずに布団をかぶって、あの不気味な笑い声を塞いで聞こえないようにした。
家では聞こえてこなかった。
「行ってきます」
意識が朦朧とする。十分な睡眠が取れていないからだろう。
「いかなきゃ」
それでも歩くことはやめない。でも、限界というのは意思に反してやってくるもので。
「あ、レイ……さん」
昨日、初めて出会った銀色の少女を見て気が抜けてしまったのか、意識が遠のく感じがする。
暁美ほむらの疲労はやはりまだ限界にあった。結局、闇に意識は沈んだ。
だが、次に目を開けた時にはいい匂いがした。
(……やわらかい?)
ここはどこだっけ、という疑問がまず湧く。そのあとに、そういえば最後の記憶にレイがいたことを思い出した。
「あー、ほむら、目が覚めた」
「はい……」
「よしよし」
頭を撫でられているみたいだ。心地が良い。昔、母親にそうしてもらったような気持ち良さがある。
――日差しが眩しい。どうやら、顔は空を見上げているようだ。
薄目のまま、少しずつ目を開こうとして、すぐに驚愕がほむらを襲う。
「ふええ、何してるの! レイさん!」
「えー、なにって……膝枕?」
やわらかい感触はレイの太ももだった。何故か、羞恥もほむらを襲ってくる。
「そ、そそ、そういうのは彼氏とかにしてあげるもので」
「いやだって、僕、彼氏とかいないし」
「そういう問題でなく!」
「彼氏でもない男の子に膝枕するのはさすがに僕でも躊躇うけど、女の子相手なら別に問題なくない?」
「それはっ、そうかも、しれないです、けど……」
今も膝枕されたままである。
もじもじ、ほむほむしてしまう。いや、ほむほむはしていない。けれども、顔が熱い。
「さて、疲れ、ちょっとは取れた?」
「……はい」
「じゃあ、デートしよう」
「はい……はいっ!?」
ドキドキしていて、上の空で返事していたら女の子とデートすることになっていた。
「よし、決まりね。じゃあ、レッツ、デート!」
デートという響きにさらにドキドキが加速するほむらであった。
06
身構えていたほむらだったが、デートといってもこれといって特別なことをしたわけではなかった。
映画を観たり、服を見たり、フードコートで甘いものを食べたり。そんな普通の女子中学生の日常のような過ごし方。
「どう、疲れたかもしれないけど、ちょっとは気が晴れた?」
デートした大型ショッピングモールから離れた場所。最初の公園に戻ってきていた。もう辺りは夕焼けに照らされている。
「レイさん、どうして」
「そういう機微とかには鋭いんですよ、実は」
またベンチに腰をかけながらレイは得意げな顔をする。その言葉に昨日悩んで眠れなかったことが幻だったようにも思えてくる。
隣に座るように促され、素直に座った。
学校に向かう途中だったのもあって、お金をあまり持ち合わせていなかったほむらだが、そのほとんどをレイが持ってくれた。本人曰く、ちょっと良い顔したかったらしい。
それも、ほむらに気を使わせないための彼女なりの優しさだった。
「なにかあったんだろう? もしよかったら、このレイちゃんに話してみなよ」
「お見通しなんですね」
「言ったでしょ。そういう機微には鋭いんだって~」
「う……」
昨日のことを話すか迷う。
「話して楽になることもあるもんだよ~、一回話してみなよ」
レイは、あっ、でも恋愛関連のことは経験ないから、そっち方面のことなら力になれないかも、と付け加える。
少し笑みがこぼれた。
「元気でたねー」
「え」
「今、ほむら、笑ってた」
「うん」
自分でも気づいていなかったことに恥ずかしさを覚える。さっきから、レイに調子を乱されてばかりだ。
だが、少し話をしてみようという気が出た。勇気がでた。
「……その、変な話だけど、聞いてほしい?」
「私ね、昨日、変な目にあったの。ずっと頭の中に声が聞こえてくるの」
うんうんと相槌を打ってくれる。親身になって話をレイは聞いてくれる。
「声は非力で自分は何もできない、生きている価値のない人間だって囁く
嘲笑ってくる。くすくす笑うのが頭から離れない。挙句の果てには、私が鹿目さんが人気者だから嫉妬してるって!」
「よしよし……」
「そんなふうに考えたことなんて、ない。ないのに否定できない自分がいるの! 鹿目さん
は友達なのに、私は!」
それが図星のようで辛かった。意識していなかった自分の醜悪な部分を自覚させられて、でも、そんな自分を受け入れられなくて苦しんだ。
「私は、かわいそうな子……なのかなぁ」
涙があふれていた。
真剣に考えて、妬んでいたことを否定できずに、まどかに対して申し訳なくて涙が止まらない。
「苦しかったね」
「わたしっ」
「いいんだよー、そんなに思いつめなくても」
「う、うん」
ほむらは心を曝け出してしまうほどに弱っていた。体力も、気力もすり減っていた。
だからこそ、真正面から話を聞いてくれた、受け止めてくれた相手にぶつけてしまう思いがあった。
「どうして、レイさんはそんなにも強いの! 私には何もない! 何もないの。なんで……」
「僕だって強くはないよ」
「それでもあなたは魔法少女で、強くって、綺麗で、きらきらしていて。私なんかじゃ、鹿目さんに相応しくないっ」
「僕も最初から、こんなだったわけじゃないさ。魔法少女として戦うのは怖かったし、今でも少し怖いよ」
「でも、そんな風には見えないもん!」
つい反論してしまう。
でも、だって、とつけてしまう。繰り返してしまう。負のループから抜けられない。
「あんまり頭がよかったわけじゃなかったから、必死だったんだー、僕。魔法少女になった祈りなんて、叶ったものの全然上手くはいかなかったし」
「そんなことは……」
「誰だって、完璧じゃない。魔法が使えても、何もかもが完璧にいくわけじゃない。それを僕は教わった」
分かっている。完璧な人間なんていない。誰もが欠点を抱えて生きている。
「モロボシ君っていうんだけど、高校生くらいの男の人だったかなー。僕もこうやって、ほむらみたいに一日中悩みまくってた時期があったんだよ。
そんな時に出会って、洗いざらい、その時に悩んでたことをぶちまけたよ。全然知らない、初めて会った人なのに。今思えば、不思議な経験だったなー」
「レイさんにも、そんな時期が?」
ほむらの興味は自身のことから、レイの過去に移ろいでいた。
「うん、あった、あった! いや、思い返すとめちゃ恥ずかしいわ……」
「聞きたいです。レイさんがどうやって乗り越えたのかを」
涙を拭う。このまま嘆き続けることも、弱いままの自分も嫌だった。
「ちょっと長くなるかもしれないけど、それでもいい?」
これから語られるのは、飛鳥レイという少女の起源。
祈りを捧げ、魔法少女となった彼女の過去である。
そして、
ほむらとのコミュ。
モロボシ・シンというのはウルトラマンプレミア2011にて出演したゼロの人間体の名前。
彼との出会いがあったからこそ、レイがレイであるのだ。