無限の時間の中で、僕の時間は無限じゃない   作:モトヤス

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登場、ウルトラマンゼロ





僕は友達を守れる自分になりたい

07

 

 

 

 飛鳥レイには二人の幼馴染がいた。

 彼女たちとの出会いとは平凡なもので、小学一年生の時に同じクラスになったことか親交が生まれた。

 よく遊んだのが少し気の弱い「みく」という名前の少女。そして、もう一人。無邪気なレイとは対極の位置にいるようなクールな女の子。名前を「サキ」という。

 

「とーさん! きいて、きいて!」

 

「どうしたんだい?」

 

「おともだちができたの!」

 

 孤児院にいたせいで友達というのは小学校に入学するまで誰もいなかった。他の子たちは兄であり、姉であり、弟であり、妹だ。全員が家族なのである。

 世界が一気に広がったような気がした。

 同年代の女の子たちとの関わりが増え、机に向かって勉強するのが苦手なものの、日々を謳歌していた。でも、そんな楽しい時間はいつも短いのだ。

 

「いじめられている?」

 

「う、ん」

 

 小学六年生になってから、みくからその報せを聞く。

 これまでずっとクラスが一緒だったものの、今年になって初めて、レイは彼女と違うクラスになった。

 学年が上がって、落ち着いた時期に入り、ようやく二人で遊べるようになった日の出来事。

 

「それ、ほんとか?」

 

 友達想いのレイにとっては見逃せない親友のピンチだった。だからこそ、少女は解決に乗り出さずにはいられなかった。

 

「うん」

 

「誰に?」

 

「サキさんに……」

 

「サキが、か」

 

 レイとサキの付き合いは長い。それは彼女ともこの五年間一緒のクラスだったからというのもあるが、二人は事あるごとに衝突していたからだ。

 勉強するのは苦手だが、負けず嫌いな気があるレイはテストの点数でサキに負けるのが嫌だった。それ以外にもたくさんある。

 たとえば、マラソンだ。長距離を走るとしても、彼女には負けたくない。家庭科の調理実習でも、裁縫の実習でも、友達をライバル視していた。

 いわゆる腐れ縁のようなものが二人の間にはあった。

 それをサキは特に気にも留めず、淡々とこなしていた。人としての能力値が総じて高いのだ。何もかもを容易にやってのける。それがサキという人物だ。

 

「話つけてくる。みく、一緒に行くぞ」

 

「ええっ、一緒にですか!?」

 

 レイはみくの腕をとって足早に歩く。

 放課後サキはよく教室に残って、彼女の友達と雑談していることが多い。それを知っているから、レイは学校へと足を向けた。

 思った通り、彼女は教室にいた。

 

「サキ、話がある」

 

「おまえ、サキさんに向かってなんだよその態度……!」

 

「サキさんは私たちと楽しく会話しているんだ。邪魔しないでくれる」

 

 そうだ、そうだ! と何人かが発言した二人に同調する。

 あまり空気が良くなかった。

 

「レイ……なにかしら?」

 

「ちょっと、サキさん」

 

「いいのよ、レイとは同じクラスだったよしみがあるから」

 

「お前、誰だか知らねぇけど、サキさんに感謝するんだな」

 

 レイはサキをずっと見据えていた。

 真剣であることを彼女は見抜いている。そして、友達のためならば、どんなことでもやってのけるレイの本質にも気が付いている。

 

「それで何の用かしら?」

 

「みくをいじめてるのはほんとか?」

 

「あら、なんのことかしら」

 

「真面目な話なんだけどなー」

 

 口調はいつも通りだが、それ以上にサキを射抜く視線が鋭い。相手を見定めようとするこの目に嘘や冗談は通用しない。

 惚けたとしても、話を逸らすことがサキには出来ないでいた。

 

「いじめ、ね。みくのことを?」

 

「そうだ、みくからお前にいじめられてるって」

 

「そんな嘘か本当かも分からないことを信じて?」

 

「みくは嘘をついたりなんかしないよ」

 

「だから、私の言い分を聞きに来たというわけね」

 

 そこまでサキはレイの行動を読んでいる。

 腐れ縁というのはあながち間違いではないのだ。

 

「私は彼女をいじめていたつもりなんて無い。そういうふうに捉えられていたのなら、今ここで謝るわ」

 

 サキの言ったことは本当であった。別にみくに対して心無い言葉を投げかけたことはこれまでに一度もない。

 

「私はみくに対して、こうした方がいいんじゃないの、って言っただけよ。

ほら、彼女って少し消極的じゃない? だから、それを少しでも良くしてあげられたらなって思ったのよ」

 

 そのあと、同調した周りの人間が何を言ったとしてもそれはサキのせいではない。自分の意見に賛同して、みくに強い言葉を投げた周りの人間が悪いのだから。

 

「ほんとか?」

 

「疑うの?」

 

 それは友達を信じないのか、というレイへの問いかけだった。

 サキの言葉に返す言葉はレイの中では最初から決まり切っていたものだ。

 

 友達が頑張っていたのなら応援する。

 友達が悩んでいたのなら一緒に考える。

 友達が失敗したのなら助ける。

 友達が間違えたのなら一緒にやり直す。

 

 レイにとって友達とは掛け値なしに信頼に値するものだった。

 

「信じるよ」

 

「レイちゃんっ」

 

「信じてくれると思っていたわ。だって、私たち友達だもの……ね」

 

「そういう言い方はなんか引っかかるなー」

 

「気にすることはないわ」

 

 そして、サキは教室に人が数人いるにも係わらず、何の躊躇いもなく、恥じらいもなく、みくに頭を下げた。

 

「みく、ごめんなさい。あなたを傷つけたことを悪かったと思います。本当にごめんなさい」

 

 取り巻きたちは謝罪に騒ぎ立てる。

 

「謝る必要なんてないよ!」

 

「そうだよ、こいつが悪いんだからさ!」

 

「しかも、いきなり来てなんなんだよ……こいつ」

 

 彼女たちの言葉をサキは一つ睨むことで静止させる。

 それほどの迫力があった。

 

「私は謝らなければならないと判断したからそうしたの。あなたたちは私が間違ったことをしたから、そうやって声を荒げて言葉を発するのかしら?」

 

 全員が黙った。いや、一つも言葉を発せないでいる。

 

「間違ったことをしたら、それを正す。相手を傷つけたのだから謝る。それは当然のことではないの。あなたたちは、そんなことすら、小学六年生になってもまだ理解できていないのかな」

 

「そ、そうだよねー」

 

「ごめんなさいっ」

 

 次々と謝り始めた。しかし、それはサキに対してだ。

 取り巻きたちは誰一人として、いじめられたみくを見ていない。

 

「みく、許してくれるかしら……」

 

 心が籠っているからこそ、レイは見逃してしまう。

 そして、有無を言わさぬ圧力をサキがみくに対してかけたことにも気づかない。

 

「う、うん……」

 

 そうして、レイとみくは帰っていった。

 これでひとまずはいじめがなくなり、落ち着くだろうとそんな確信があった。

 だが、いじめとはいつの時代でも無くなることはない。それよりも、それに口を出してきた者が新にいじめを受けるケースもあれば、以前にも増して、いじめが酷くなるケースもある。

 みくの場合は後者であった――

 

 

 

08

 

 

 

 あの夕方から約一か月後、みくは学校で自殺した。

 屋上から飛び降りたらしい。どうやって忍び込んだかは調査中とのことだが、答えは出なさそうとのこと。

 飛鳥レイは、その数日後、みく母親に呼ばれ、彼女の自宅に来ていた。

 

「お邪魔します」

 

 どんな顔をして訪ねていいか分からない。

 初めて人の死に関わった。深い悲しみだけが、胸の裡を埋め尽くす。

 自分よりも、みくの母親の方が辛いし、悲しみ明け暮れているだろうことは想像できた。だから余計にどんな言葉をかけていいのか分からなかった。

 

「お悔み申し上げます」

 

「あら、そんな難しい言葉を知っているのね」

 

 それでも、みくの母親はレイを歓迎してくれた。オレンジジュースも出してくれる。

 

「娘がいなくなると、お家がこんなにも広くなるなんて思ってもみなかったわ」

 

 相当泣きはらしたのだろう。まだ目元には跡が残っている。

 本来なら大学生になるころに一人暮らしを始めたり、結婚して家を出るまでは毎日この家に帰ってくるはずだったのだ。もっと先にあったはずの出来事。

 それはもうやってくることはない。

 

「……」

 

「ごめんなさいね。つい、あの子のことを話してしまうの。だめね」

 

「そんなことないです。僕はもっと話していただいてもかまわないので」

 

「ふとした瞬間に思い出してしまうのよ。何気ない言葉や景色、ご飯を食べた時とかもね」

 

「っ……」

 

「やっぱり、だめね。娘の友達の前なのに、情けないわ」

 

 みくの母親の目には涙が浮かんでいた。

 

「よし、こんなままじゃ、天国にいる娘に笑われちゃうわ。あなたを呼んだ用件を伝えるわね。少し、待っててくれるかしら」

 

「はい」

 

 そう言って、部屋から出ていった。

 一分もしない内に戻ってくる。

 

「これ、みくからあなたに」

 

「僕に……ですか」

 

「あなた宛てに手紙が部屋に残されていたのよ。きっとあなたにだけ伝えたい言葉があったのよ。読んであげてもらえるかしら」

 

 手紙を受け取る。そこには『レイちゃんへ』と書かれていた。

 レイは母親の前でそれを読むわけにもいかず、そのまま帰路へと着く。

 孤児院には人がたくさんいる。だから途中、みくとよく遊んだ公園に寄った。

 

「ここでなら大丈夫かな」

 

 ベンチに腰を掛ける。

 日はまだ高い。周りにはまだ遊具で遊ぶ小さな子供や、それを見守る親の姿、他には散歩しているおじさんもいた。

 

「みく……」

 

 ここには何が綴られているのだろう。

 助けてくれなかった恨みか、生きたかったという願いか。どんなことが書いてあったとしても、レイはその全てを受け止めなければならない。

 それが友達としてみくにやってあげられる最後の事だった。

 

『レイちゃんへ

 

 ごめんね、ごめんね、ごめんね。私、辛くて、苦しくって、もうダメだったんだ。

 

 あの時ね、相談に乗ってくれて本当にうれしかったの。そして、一緒にいじめるなーって言ってくれたことも、ありがと。

 

 でも、変わらなかったんだー。サキさんたちが私を思って言ってくれることを、私は何も出来なかった。ドジで、ぐずで、ノロマだから、私は何にも出来ない。

 

 もっとレイちゃんみたいに何でも出来る子だったらよかったな。あ、レイちゃんが頑張っていたのは知ってるよ。でも、私は頑張っても出来ない子だった。そんな自分が大嫌いだった。

 

 最近、自分のダメなところがずっと頭から離れないの。レイちゃんなら、サキさんなら簡単に出来ることが私には何一つ出来ない。勉強も、運動も、友達も。

 

 だから、サキさんたちは何も悪くないの。悪いのは私。私だけなの。

 

 私が悪かったの。

 

 ごめんなさい。こんな私でごめんなさい。強くなくってごめんなさい。

 

 弱くてごめんなさい。

 

 こんな私だったけど、こんな私とお友達になってくれてありがとう。

 

 大好きだよ

 

みくより』

 

 そこにはひたすらに謝罪の言葉が残されていた。

 自分が悪かったと恥じる思いが書いてある。

 そして、感謝と好意を最後に伝えようとしてくれた。

 

 悔しかった。みくを助けられなかったことが何よりも悔しかった。

 涙が溢れ出る。

 サキが悪かったのか、みくが弱いことがいけないのか。答えは一生出ることはないのだろう。

 だから、悲しみがレイを押しつぶそうとする。喪失感で、ぽっかりと胸に穴が空く。

 

「ごめん、僕の方こそ、ごめんね……っ」

 

 手紙を握りしめた。紙がくしゃっとなる。

 この悲しみに終わりはないようだった。

 

 ――その姿を見つめる白い獣がいた。

 

 

 

09

 

 

 

 みくの死から二週間経って、学校側はいろいろと対策に追われていたらしい。

 保護者への説明会や、生徒へのいじめ調査など、全校集会では黙祷もあった。

 レイはいまだ喪失感に襲われていた。

 

 世界が色褪せたようだ。大切な友達が一人いなくなったというのに、世界は動じることもなく回り続ける。

 授業は通常通り行われる。その中で変わったことは集会でみくの死を先生が語るくらいなのだろう。

 気が付いたら、みんなはみくの死を忘れていく。ここにいたことを忘れていく。存在が忘れ去られ行く。それだけは嫌だと叫ぶ自分がいた。

 

「疲れてるのかな」

 

 凄まじいほどの眠気に襲われる。

 ずっと、あまり眠れていないからだろうか。倦怠感は常に身体に残っている。そんな状態でも授業中に居眠りをいたことはなかった。

 

「限界なんだけど……」

 

 あまりにも眠くて、独り言が出た。

 そんな時にふと周囲の異変に気づいた。

 

「あれ、みんな寝てる……?」

 

 ほぼ全員が机に突っ伏しているという異常な光景が広がっている。

 授業をする先生も、ふらついていた。

 

「ここはだなぁ~、ふわぁ~。おやすみなさい」

 

「ちょっと先生!」

 

 レイは立ち上がって、先生が頭を地面にぶつける寸でのところで支える。

 重さに耐え切れず、ゆっくりと下した。

 

「これ、なんだ。いったい、何が起こってるんだ」

 

 このような教室にいる全員の意識を無くすなんて起こりうるはずがない。

 異変だと確信したレイは、重い身体を無理やり引き摺るように教室から出る。すでに、辺りは静まり返っている。

 大人数が集まる学校という場所が、日中であるにも関わらず静寂に包まれたのであった。これは異様な事態である。

 意識のある人が誰か一人でもいないか、とレイは学校中を駆け回った。

 同じ階の教室、職員室に、保健室。どの場所でも誰も起きていない。もう、外部に助けを呼ぶしかなかった。

 

 最初からこの異変に対して、外部に助けを求めなかったことを後悔することになる。

 

「なんだよ、これ!」

 

 学校が学校でなくなっていた。

 校内にあったはずの風景は現実味を欠いていき、まさしく異界へとなり果てる。

 人間の理解の領域をとっくに超えていた。

 

 電話が繋がらない。

 

「なんで、どこにもかからないんだよ!」

 

 警察にも、消防にも、孤児院にも、どこにも電話が通じない。そもそも、この異常な空間の中で電波が届くのかも分からない。

 そんな危機的状況において、ありえない現象の中で、見たこともない生物を見たのは起こりえる現実だったのかもしれない。

 

『ねぇ、君、ボクと契約して魔法少女にならないかい?』

 

「うさぎが喋った……!?」

 

『誰がうさぎさ。ボクにはちゃんとキュゥべえっていう名前があるんだけどなぁ』

 

 突如として現れた目の前の怪生物にハテナしか浮かばなかった。

 

 

 

10

 

 

 

 非日常の真っ只中とは、こんなにも現実とかけ離れていて、それでいてどこまでも現実だった。

 飛鳥レイにはこの現実を打開する術が何一つとしてない。

 

「そんなことより、これいったいどうなってるの。説明して!」

 

 切羽詰まった状況下だというのに、この白いのには落ち着きがある。だからこそ、焦るレイを見て、やれやれといったふうに質問に対して答えた。

 

『これは魔女の結界と呼ばれるものだ。この学校全体に張られてしまっているね』

 

「魔女? 結界?」

 

 てんで、理解が追い付かない。

 

『まず、前提として、魔女は迷路のような異空間の中にいる。これが結界だね。そして人が集まる場所、たとえば、繁華街や病院なんていった場所だ。そうして、結界へと人間を誘き寄せ糧とする』

 

 息を呑んだ。

 魔女だとか、そんな御伽噺の夢物語が現実であるわけがないが、それでもこの目で見たものが真実だ。

 閉鎖された空間に、喋る動物、集団催眠。こんなもの現実に起こってたまるか。

 

『つまり、魔女とは人を簡単に殺しちゃうような化け物ってわけさ』

 

「なら、この結界から出る方法は……?」

 

『捕まえた獲物を逃がすような檻があるかい?』

 

 入る者は拒まないが、出ていくことは許さない。よって、

 

「逃げることもできないし……結界によって内と外とが遮断されているから、電話も繋がらないってわけか」

 

『そう、外部からの助けは来ない。君を助ける者は誰もいない。まさに今、魔女の結界にいる君は格好の餌食というわけだ』

 

「なんだよ、それ」

 

 呆れるしかない。呆れるほどに詰んでいる。

 相手は人間では太刀打ちすら敵わぬ化け物。

 それがついにレイの前へと姿を現す。

 

「今度はいったい何がっ」

 

『お出ましのようだね』

 

 魔女に発見されてしまったらしい。

 

「これが」

 

 少女は見上げて眺めることしか出来なかった。

 

『ああ、あれが魔女だ』

 

 それは得体が知れないという言葉が似あう魔女だった。

 青っぽい肉体に真っ白の顔。目は朱に染まっており、耳のようなものが大きく肥大化して円を描いている。

 山羊のようなだと思った。立派な山羊の角。しかし、さらに観察すると腕には営利な刃がある。ふと、逆さにしたハサミのようにも思えた。

 

「僕は死ぬのか」

 

 魔女とは呪いを振りまく存在である。

 すなわち悪性の化身。人の良くない感情を煽り、傷害事件であったり、殺人、喧嘩。または自殺へと誘わせることもあるそうだ。

 レイはそれに呪われ、これから死ぬ。

 

「こいつの餌になって終わるのか」

 

 ――それは嫌だと思った。

 

「でも、死んでみくと会えるなら、それもいいのかも」

 

 死に抗う気持ちと死を受け入れる自分がそこにはいた。

 

『相当に魔女の瘴気にあてられたみたいだね。仕方ない』

 

 どう足掻いても、こんな力の無い自分では逃げることも、立ち向かうことも何も出来ない。

 

 また出会うことが出来るのなら、死ぬのも悪くないのかもしれない。この際だ、直接あの時のことを謝りに行ける。ずっと先になってしまうと思っていたが、それももうすぐ。

 

『レイ、君はこのままここで死ぬつもりなのかい?』

 

「え」

 

『……さて、ここで君に選択肢を与えよう。ボクと契約して魔法少女になって、みんなを助けるか、ここで独りで何も出来ないまま死んでいくか』

 

「みんな……?」

 

『ここはいったいどこだったかな』

 

 さっきまでレイは学校にいたはずだ。そこから魔女の結界に迷い込み、そして、

 

「まさか、ここって!?」

 

『そう、そのまさかさ』

 

「学校の中なのか……」

 

 学校とは見た目がかけ離れすぎていて、ここが同じ場所とは思いもよらなかった。

 そうして、ある考えに至る。

 

「じゃあ、生徒や先生たちが眠っていたのって」

 

『もちろん、魔女の仕業だよ』

 

「だったら、このままこいつを放置なんてしてたら……」

 

『うん、君の想像通りのことが起きるだろう』

 

 ――全員が死ぬ。

 

『さて、レイ、ここでもう一度問おう。君に魔法少女になる気はあるかい?』

 

「魔法少女ってそもそもなんなんだ? それになれば、今をどうにかできるのか?」

 

『ああ、もちろんだとも。君にはこの魔女を倒してしまうことなんて造作もないことだ。だが、魂を掛け、戦いの運命を受け入れなければならない』

 

 戦いの運命とはどういうことなのだろう――どうでもいい。

 このままではレイが助からないのはもちろんのこと、学校にいる誰もが死ぬ。何も悪いことをしていない人たちがたくさん死んでしまう。

 ならば、答えなんて、最初から決まっていたようなものだ。

 

「魂とか運命とかなんだっていいさ。どうすればいい?」

 

『願い事を言うんだ。どんな願いだって叶う。そのためにボクはいる』

 

「それであいつが倒せるんだな」

 

『ああ。レイ、君の魔法少女としての素質は十分だ。君がボクと契約してしまえば、簡単なことさ』

 

 せっかくだ、願いには何があるだろう。無難なところでいえば、資金難である孤児院のためにお金が欲しいなぁ、と頭に浮かぶ。

 だが、それよりもずっと考え続けたことがある。

 叶えられなかった願いが。

 

「僕さ、友達を助けたかったんだ」

 

 一つ、過ちがあった。きっとそれを彼女に伝えても「レイちゃんは何も悪くないんだよ~」って微笑んで頭を撫でてくかもしれない。

 友達を救うことが出来なかった。もう失いたくない。だから、今度は必ず助けるために。

 

「もう、手が届かないのは嫌なんだ。だから、友達を助ける力が欲しい。守り抜くための力が」

 

『君の願いに魂を掛けられるかい。魔法少女になるということは、戦いの運命を受け入れるということになる。もう一度聞くよ。飛鳥レイ、君はどんな祈りでソウルジェムを輝かせるんだい』

 

「さっきも言ったけど、魂とか運命とかそんなことはどうでもいいんだよ。大事なのは諦めないことと立ち向かうことだ」

 

 それが飛鳥レイという少女。

 

「助けたいんだ……僕は友達を守れる自分になりたい。もう二度と失わないために」

 

『契約は成立だ。君の祈りはエントロピーを凌駕した。さぁ、力を解き放ってごらん』

 

 その願いは叶えられる。

 

 

 

11

 

 

 

 その輝きは、まさに希望の光だった。

 戦う姿は剣闘士のようで、肉弾戦を得意とするのが少女の戦い方だ。

 だが、少女の初陣は困難を極める。

 結界内の空間を捻じ曲げて移動し、背後を取ってくる基本戦術に加え、分身能力まで兼ね備えている曲者。それが、この悪夢の魔女。

 苦戦を強いられる。自己の戦い方の確立から始めなければならなかった。

 自分には何ができるのか、魔法とはどうやって使うのか、どう敵を殺すのか。一つ一つを手探りでいく。それを成せたのは一重に飛鳥レイには戦いのセンスがあった。

 魔力の扱い方。特にエネルギーを腕に集め、光に変換し、放つことが得意だった。

 誰に教わったわけでもない。それこそ、遺伝子に刻まれていたのではないかと見た者が口を並べて言うほどに完璧な魔力調整の元で放たれた必殺技である。

 

 その光線は空を穿つほどの熱量を誇っていた。

 悪夢の魔女は撃ち抜かれ、跡形もなく消失する。

 

 願いはここに成就した。

 

 

 

12

 

 

 

 星々の煌めく宇宙の中に青き星、地球は存在する。

 大気圏の外において、青い巨人がこの星を懐かしそうに見つめていた。

 

『へへっ、久しぶりだな。地球』

 

 彼は以前、こことはまた別の宇宙で地球に訪れたことがある。その時はある男の声に導かれて、二人の勇者と共に強大な悪に立ち向かったこともある。

 

 この宇宙にはとある宇宙人を太陽系にまで追ってやってきたのだが、その案件を片付けた後、こうしてやってきていた。

 

『親父に何か土産でも持って帰ってやるか』

 

 その軽い気持ちが少女の運命に大きな影響を与えることになるのを彼はまだ知らない。

 

 

 

 




最後にだけちょこっと登場。ウルトラマンゼロ。

「悪夢の魔女」
モチーフ、ウルトラマンティガより異次元人ギランボ。




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