無限の時間の中で、僕の時間は無限じゃない   作:モトヤス

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もしよかったら、感想とか評価していってね!




へえ、モロボシさんね。僕は飛鳥レイ、よろしくー

 

 

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 魔法少女の希望とは総じて絶望に変わるための糧である。希望が絶望を後押しするのだ。

 それは飛鳥レイにとってもまた同様の事柄であった。

 

「う……っ」

 

 レイの友人であるサキは校庭から響く轟音で目を覚ました。

 立て続けに教室の窓が軋むので、つい外を覗く。

 

「あれはレイ……?」

 

 見慣れた銀色の少女が見たこともない怪物と戦っている。

 その姿に見惚れるわけでもなく、応援するわけでもなく、ただ恐怖を感じた。

 一歩、後退る。机をガタっと揺らす。

 

「何これ」

 

 周囲の異変に気付いた。

 教室が教室でなくなっていることに、誰も意識がないことに。

 

「みんな、眠ってしまっているの?」

 

 教室で意識があるのは彼女一人のようだ。だから、校庭で怪物と戦っているレイの存在を認識するものはいない。

 サキにはただその光景を見ていることしかできなかった。

 

 

 

14

 

 

 

 敵を倒したことで世界が元の形へと戻っていく。

 完全に魔女が消滅したからだろう。これにて一件落着である。

 魔女のいた場所に何か宝石のようなものが出現している。だが、レイはよくわからないものは放っておくことにした。

 

「倒せば、元に戻るんだねって、いないし」

 

 あの奇妙な生物はいなくなっていた。

 

「ま、そのうちまた会えるだろうし」

 

 教室に戻ろうと、変身を解く。

 魔法少女の装束が消え、元の私服が現れる。手首にはブレスレッドが嵌められていた。

 

「魔法少女になるための変身アイテム的な?」

 

 とりあえずは置いておこう。

 大きな怪我もしていない。腕に少し、擦り傷ができたくらいだ。授業に戻るのに何の心配もいらなかった。

 校舎の玄関に行く。靴は上履きのままだったが、砂を軽く落とし、床を汚さないように気を付ける。

 レイはそこで出会うはずのない友達と出会った。

 

「ねえ、何してるの?」

 

「サキ……」

 

 サキが玄関の先にいた。

 なぜ意識があるのか、という疑問が湧きおこってくる。全くもって頭が回らない。

 

「レイ、質問に答えて」

 

「あはは、別になんでも」

 

「なら、さっきの校庭のにいた化け物はなんなの?」

 

「それは……」

 

 核心に触れる言葉だった。サキはすでにあの化け物を目にしてしまっている。これでは、何も言い訳なんて通用しない。

 

「化け物なんて学校にいるはずないだろう?」

 

「ねぇ、私たち友達でしょ。答えて」

 

「その言い方はずるいなぁ」

 

 友達を何より大事に想うレイにとって、そのやり方はとことん上手い。断れないのを分かり切ったうえで質問している。

 

「なあ、サキはこれを聞いて信じるか」

 

 知っている情報を彼女に伝える。

 すべてはあの白い生物から耳にした内容ばかりだが、魔女のことを、魔法少女のことをかいつまんで話した。

 まだレイも知らないことだらけだ。魔法少女とはいったいどういった存在なのか、根本的なことは何も聞かされていない。それでも友達には応えたいという想いが強かった。

 それを聞いたサキは、

 

「そう……」

 

 と、つまらなさそうに答える。本当にどうでもいいといったように。それが意外だった。

 そして、もうレイのことを見ていなかった。

 

「驚いたわ。でも、もう脅威は去ったというわけね」

 

「僕が倒したからね」

 

 彼女はレイの方に目もくれず、立ち去る。

 

「ちょっと、サキ」

 

「気安く話しかけないでもらえるかしら」

 

「は? 何言ってるのさ、僕たち友達だろ。別に話しかけるくらいいいじゃんか」

 

 そのあとに続いた言葉はレイにとって想像もしたことのないものだった。

 

「人間じゃない人と友達になんてなれるわけないじゃない」

 

 言葉が出なかった。

 思いもよらぬ衝撃を受けた時に人とはこういった反応を取るのだろう。だが、少女はもう人ではない。

 自分が助けたはずの友達はもう友達ではなかったらしい。助けられたことへの感謝もなく、そして友達であることさえも真正面から否定される。

 

「だってそうでしょう? 化け物を倒してしまえるような人が人間であるはずがないわ。むしろ、あの魔女だったかしら、それと同じ化け物よ」

 

「僕は化け物なんかじゃっ……」

 

 頭では分かっていたつもりだった。

 でも、その考えは甘くて、気にも留めなかったことが自分の大切にしなければならなかったことで。されど、契約は果たされており、後戻りなんて出来ない。

 レイは特別な存在になりたかったわけではない。ただ、みんなを守りたかっただけだったのだ。

 選択肢はあの場面では実質一つだったのだ。

 生きるか、死ぬか。その二つに一つ。死を選べるほどに成熟していないし、死ぬことを許容出来る心なんて持ち合わせてはいなかった。

 

 ――魔法少女とは人ならざる魔女を倒すことの出来る唯一の存在である。それと同時に、人ならざる者であるということ。

 

 それでも諦めきれない。諦めていいわけがない。

 だが、説得しようとした手は弾かれた。

 

「ッ……!」

 

「もう私に関わらないでくれるかしら」

 

 サキの身体は震えていた。人間ではないものを目の前にして恐怖していた。

 自分を見る目が恐れや怯えの色を伴っているのがレイには分かってしまう。あれは初めて、得体の知れないナニカに出会ったときのようで。魔女と出会った自分自身を鏡で映したようだ。

 

「あちゃー、ごめんね。あんまり、そういうセンチメンタルなことを気にしてなかったよ」

 

 レイはサキに背を向ける。

 こんなにも自分に恐怖心を抱いているというのに、これ以上一緒にいるわけにはいかない。そして、もうレイとサキは友達ではないのだ。

 教室に戻ろうと思っていたが、やめる。今日はもう学校にいたくない気分だった。

 

「今日はもう帰るよ。サキ、何か聞かれでもしたら、飛鳥レイは体調が優れなくなって帰ったって言っておいてくれ」

 

「ええ、それじゃあ」

 

 友達を助けても、みんなを助けても、感謝なんてされない。褒めてもくれない。レイが頑張ったことなど誰からも評価されない。

 叶えたはずの願いは最悪の形で自分に帰ってくる。希望が絶望となり降り注いでくる。

 

「私はなんのために魔法少女になったんだろう……」

 

 魔法少女となった少女は友達を失わないために守る力を得て、友達をもう一度失った。

 

 

 

15

 

 

 

 青年は天高く輝く太陽を見つめた。

 この地球に降り立つにあたって、巨人のままでいるわけにはいかない。相当な混乱を招いてしまうのは明白だった。

 だからこそ、地球人の青年の姿を作り、こうして町を歩いていた。

 蝉の声が聞こえる。夏の風物詩に挙げられるのだろうが、暑さの象徴であるようにも思える。

 時期は七月。梅雨が明け、肌寒さがなくなり、ようやく気温が上がってくる季節だ。

 町を歩いているのは、父親へのお土産を買うという普段の彼ならばまずしないであろう行動。久々に故郷に帰るというのに手土産も無しに行くのは、さすがの彼にも出来なかった。

 

「お、これなんかいいんじゃないか」

 

 商店の店先で立ち止まる。

 日本らしい着物が吊り下げられていたのが目に入ったからだ。これなら、この星を思い出して懐かしく思うのではないか、と青年は考えた。

 着物といえば、お祭りをイメージすることが多いのではないだろうか。この季節にピッタリのものである。これに決めようと思った時だった。

 

「む、なんだ」

 

 何か邪悪なものの気配を察知してしまう。

 周囲を探る。特にそれらしいのが見当たるわけでもなく、

 

「気のせいか。いや、でも確かに」

 

 そのようなものを見逃すはずがない。悪意や邪悪なものには敏感なほどに直観が働く。戦士の勘ともいうべきものが反応したのだ。何かがいるはずだ。

 ゼロはもう一度範囲を広げて探す。

 すると、それはすぐ近くから感じ取れた。

 

「まさか、でも、なんだあれ?」

 

 邪悪な気配はこれまでには感じたことのない種類のものだった。

 一言で表せば、奇怪。濃い気配ではあるものの、何かが混じっているような。

 どこまでいっても深い闇の中に輝く温もりがあるような。それが、自分と近い光を感じたような。

 

「とにかく、追うか」

 

 青年は銀色の少女を追った。

 

 

 

16

 

 

 あれから飛鳥レイは学校に行かなくなった。

 もちろん、孤児院のみんなからは心配されたし、父親代わりの男からも相当なほどに。でも、男はレイのことを心配したうえで、信頼していた。

 ある程度の額の金銭といつも使っていた綺麗な服を用意してくれていた。孤児院にもいたくなかったので、その気遣いがありがたかった。

 毎日をただ無意味に過ごしている。やるべきことを放棄している。

 戦いの運命だったか。もうどうでもよくなっていた。

 守りたいものに裏切られた少女の心はすり減っている。どうして、と自問自答し続ける。

 自分の何がいけなかったのか。ずっとそれだけを考えては思考の迷路に囚われていた。

 

 朝から町をさ迷い歩いている。だというのに一度も補導されなかった。

 髪の色から外国人と思われることが昔から多かった。だから今も観光客とでも思われているのだろう。こんな時間に一人で出歩いていても誰からも声を掛けられない。

 それほどまでに、レイは独りだった。

 

 公園のベンチで一休みする。疲れは溜まる一方で、特に何もすることもなく、空を仰ぐ。

 

「空っていいもんだろ」

 

「……ん、誰?」

 

 見知らぬ背の高い青年が自分を見下ろすように立っていた。

 彼は誰が見ても整った顔と言えるだろう。

 鍛え抜かれた肉体とは総じて引き締まっていくものだ。その身体には無駄な筋肉がついていない。だが、青年はスラっとしているようで、その実、均等のとれたしっかりとした身体つきであった。

 そして、無駄に声がいい。

 魔法少女になってから、こういった相手のことを見抜く才能が開花しつつあったレイだが、我に返る。

 

「いや、いきなり何?」

 

「あれ、なんで敵意丸出しなんだ。俺はせっかく落ち込んでいるお前にわざわざ声を掛けてやったっていうのに」

 

「いやいや、男の人にこんな感じで迫られたら女の子は誰だって怖いでしょ」

 

 知り合いでもない人に声を掛けられれば、誰だって警戒するものである。

 

「 ……それも……そうだな」

 

 変に納得した青年。

 それがなんだか可笑しくて、レイは笑う。

 

「ふふっ、なにそれ」

 

「お、初めて笑ったな」

 

「お兄さん何? ナンパ?」

 

「子供にナンパなんてするわけないだろ……ま、逆に俺に惚れると火傷するぜ」

 

「意味わかんないや。でも、お兄さん、面白いねー。よし、ここで会ったのも何かの縁だ! 名前なんて言うのー?」

 

「そっちもいろいろと突飛なやつだな」

 

 二人して笑う。似たものがレイと青年にはあるのだろう。

 初めて会う人と打ち解ける速さに定評のあるレイと、直球でぶつかることで知り合う青年。何かと気が合うようだ。

 

「俺はゼ……っ、いや、も、モロボシ、モロボシ・シンだ」

 

「へえ、モロボシさんね。僕は飛鳥レイ、よろしくー」

 

「俺はお前のことをレイって呼ぶ。だから、シンでいいぜ」

 

「じゃあ、シンくんねー」

 

 レイは人の名前を呼ぶ時にあまり「さん」を付けたり、「くん」を付けたりしないのだが、なんとなく付けてしまった。

 こう、びっくりするくらい年上? みたいに感じたから。

 その直感は実は間違っていなかったりするのだが。

 

「ところで、なんで僕が落ち込んでるっていうの?」

 

「ああ、そのことか。そんなもの直観以外にねえよ」

 

「女の勘、みたいな?」

 

「俺は男だ」

 

 シンは苦笑する。

 

「だよねー」

 

「まあそれはいいや。ところでレイ、お前、いったい何に悩んでるんだ?」

 

「別に悩みなんて無いよ」

 

「なら、そんなにも心の光が曇ったりしねえよ。自分では気づいていないと思うが、相当なもんだ。俺には魂が濁って暗闇に閉ざされているように見えるぜ」

 

 レイは唖然とした。自分の全てを見透かされているように感じたから。

 いや、見抜かれているのかもしれない。だからこそ、思わず、問いかけてしまう。

 

「……魔法少女って知ってる?」

 

「は? 魔法少女?」

 

「いやっ、なんでもないっ!」

 

 もの凄い直観ということが判明した。

 知るはずもなかったが、ついつい色々と彼が知っているのではないかと考えてしまう。

 

「ともかく、話してみろよ。悩みってやつは、一人で抱え込むから苦しくなるものだ。それを誰かに話して分け合えば、自然と楽になる。物は試しに……ってやつだ」

 

「ありがと」

 

 かなり強引に感じられるが、シンという青年の気持ちが伝わってくる。

 それは相手を思いやるという心。

 その心が温かったから、話してみようという気になった。

 

「シンくんは不思議な人だね。僕なんかよりすっごいおっきく見えるよ」

 

「お、おう」

 

 今度はシンに変な汗が出た。

 そして、レイの直観もなかなかなものであった。

 

「実はね。友達が死んじゃったんだ。そのことで色々あって、もう一人友達を失っちゃったんだぁ」

 

 みくが自殺し、レイが魔法少女となり、サキに嫌われた。

 

「みんなを思っての行動が友達に嫌われる理由になった。何のために頑張ったのか分からなくなった。一番大切にしていたものを失ったの」

 

「そうか……」

 

「僕は何がいけなかったのかなぁ。どこで間違ったのかなぁ。友達なんて作るんじゃなかったよ……」

 

「それは違う」

 

「そんなことないよ! こんなふうになっちゃうなら、最初からいなければよかったんだ!」

 

「違う! 友達を作ったのは絶対に間違いなんかじゃない。それにだ、相手のために頑張ったことが裏目に出たことだって、お前は悪くない」

 

 シンは立ち上がり、少女の話を真正面から真摯に受け止めて、その上で否定する。

 

「そういうことはよくある。努力が実らないなんて日常茶飯事だ。だがな、その頑張りを否定しちゃいけない」

 

 かつて、認めてもらおうとしたことが全部裏目に出て、仲間たちから追放されかけたことがあった。

 師匠に修行をつけて、努力したが、実力がすぐに上がっていったわけでもない。

 諦めなかったから、彼は掴み取れる何かがあった。

 

 それに、と加えて言葉を続けるシン。

 

「友達と、仲間と仲違いすることだって、これから先の人生で何度だってある。ケンカしちまったなら、仲直りすればいいだろ」

 

「そんなこと……それが出来れば」

 

 涙がこぼれていた。

 落ちる。止まらない。悔やんで、苦しんで、悩み続けてきたものが流れ出る。

 ダムが決壊したように溢れ続けた。

 

「僕は、もう! 二度とっ、サキとは友達に戻れない!」

 

 あんなふうに恐怖させてしまうのだ。レイが彼女と会うことさえ忌避してしまう。

 そもそももう自分は人間ではない。化け物だ。

 サキも言っていた。人と化け物が友達をやれるわけがないと。

 

「諦めるな!」

 

 シンは叱咤する。

 どんな状況に陥っても必ず胸にある不屈の魂。

 それは諦めない心――

 

「もしかしたら、友達とやり直せるかもしれねえ、もう友達とこのまま一生すれ違ったままってこともあるかもしれねえ。けどな、お前自身はどう思っているんだ?」

 

 レイは思い出す。みくのことを、サキのことを。

 これまでの人生で出会った友達のことを。

 

「お前の心はどう思っているんだ?」

 

 たくさんの思い出があった。学校の中での出来事、一緒に買い物に行ったことなど、全部が掛け替えのない大切なものだ。

 だから、たとえ死んでしまっても、友達でないと告げられたとしても、

 

「友達だよ。ずっと友達だよぉ」

 

「レイがそう思ってるんなら、ずっとそいつとは友達さ。何があってもな」

 

「うん……うん……!」

 

 少女の心はもう前を向いていた。

 たしかにその選択を後悔し続けていた。自分ではない誰かが、あの魔女を倒してくれればと何度も考えた。

 しかし、あの時、あの場所ではレイしか戦える素質のある者はおらず、仕方ないと考えた。その運命を呪った。友達を失ってしまった運命を呪い続けていたのだ。

 

「もう友達じゃないかもしれない。それでも、僕が思い続ける限り友達……か。なんかいいね、その考え方」

 

 シンはレイの心に光がもう一度灯ったのを確認して、「へへっ、だろ?」と微笑む。

 

「昔は俺も色々と悩んだもんだ。戦う意味とはなんだ、与えられたこの力はなんだ、とかな」

 

「力……?」

 

「まぁ、昔の話だ」

 

 シンは言葉を濁した。

 力に溺れることの醜悪さを彼は痛いほどに知っている。そのせいで、幽閉されてしまった者が国に対して叛逆したことも。そんなやつと同じ道を辿りかけたこともあった。

 だからこそ、そのような同じ轍を踏んではならないと身に染みている面がある。

 

「そうやって、すぐはぐらかすー」

 

「大人はミステリアスなんだ」

 

「シンくんはどう見ても、高校生くらいにしか見えないんだけど」

 

「いや、俺は若くて、かっこいい。レイ、お子様のお前とは違うんだよ」

 

「く、小学生の自分が憎い。あと、四年くらい早く生まれていれば……っ」

 

 あと三年早く生まれていれば、高校一年生くらいの年齢だ。目の前の青年に少しは追いつける。地球に換算すれば、同い年くらいということにレイは気づいてはいないのだが。

 

「お前、すごいな」

 

「え、何が?」

 

 やはり、女の勘というのは鋭いものなのである。

 

「じゃあ、最後に教訓を授けてやろう」

 

 これはシンがとある歴戦の戦士の戦いの資料を見た際に知ったことと、その本人から直々に教わったことである。

 

「優しさを失わないでくれ。弱いものをいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。

 たとえ、その気持ちが何百回裏切られようと……」

 

「何百回裏切られても……」

 

「ああ」

 

 人間とは愚かな種族である。どこまでいっても個人というものがあるがゆえに、この種の争いは無くなることはない。

 各国の政治を見てみれば明確なことだ。誰もが、利己的に動いている。私利私欲と言っても過言ではないだろう。他を虐げ、個を優先する。それは道理だ。

 だからこそ、かつてとある光の巨人はその言葉を地球人に送ったのだ。

 

「本当の優しさと向かい合え。争いや憎しみを越えた先で暗闇はいつか光になる」

 

 きっと必ず。

 

「苦しい時もあるだろう。いつでも想ってくれている人がいる。お前は一人なんかじゃない」

 

「うんっ」

 

 さっき大人であるとシンは言った。

 だが、彼はあの星の中では相当若い部類に入る。目覚ましい活躍があろうともまだ若さというものが抜けきっていない部分がある。それが良さであり、悪いところでもある。

 父親に教わったことがあった。師匠に教わったことがあった。仲間から教わったことがあった。

 それらすべてが今のシンを形作っている。一つ一つが掛け替えのない宝物なのだ。

 そして彼は、彼らは人間のことが好きなのだ。愛している。

 

「もう、大丈夫そうか?」

 

「自分のやるべきことが見えてきた気がする」

 

 レイの目には希望が満ちていた。

 薄暗く濁り切っていた闇は光によって照らされた。その確認ができたシンは一安心だ、といったように息を吐く。

 

「ほら、手を出してみな」

 

「え、急になに?」

 

「おまじないってやつだ。こういうの女の子はみんな好きだろう?」

 

「えぇー、なんだか偏見がすごい」

 

 戦いばっかりで流行には疎いのである。

 と、言いつつもレイはシンに差し出す。

 その手を彼は大きな手で握る。

 目を瞑った。

 

「なんだろ、あったかい感じ」

 

「もう終わったぜ」

 

「え、もう終わり?」

 

 ああ、とあっけらかんにシンは言い放つ。

 シンは手に、正確には手首にある彼女の魂に光を授けた。

 

(これでもう完全に問題ないな)

 

 魂の穢れは浄化された。

 一人の少女の心も魂も彼は救いたかったのである。

 

「よし、なら、おまじないも終わったし、こんなところにいる場合じゃねえな。そろそろ家に帰れ」

 

「また急に、なんだよー」

 

「お前の帰りを待っている人がいるんだろ」

 

「うん」

 

 少女には帰る場所がある。育ててくれた孤児院。そこの兄弟たちに、いつもよくしてくれる父親のような男。

 

「じゃあな。気を付けるんだぞ」

 

「はーい!」

 

 銀色の少女はシンに背を向けて走っていく。公園の出口に差しかったところで振り返った。

 

「ありがとー! 君は僕のヒーローだ!」

 

「よせよ、二万年早いぜー!」

 

「あはは! それじゃあ!」

 

 もう会うことはないのだろう。二人ともそのような気がした。

 根拠なんてない。だが、そんな確信めいた何かがある。

 それでも、どこかで繋がっている。貰ったものがたくさんあった。

 モロボシ・シン――ウルトラマンゼロから、飛鳥レイへと紡がれる絆があった。この絆は何があっても切れることはないだろう。

 

「美しい心の人間だったな」

 

 友を想う強さが少女にはあった。

 再び立ち上がる胆力があった。

 誰かと心を通わせる温かさがあった

 また挫けることだってあるかもしれない。だが、その度に少女は涙を流したとしても立ち上がる精神を得た。

 

「いい、土産話が出来ちまったな」

 

 よくよく考えれば、地球の通貨なんて持ち合わせていなかったから、ゼロには何もお土産を買うことはできない。まさに失念である。

 

 ウルティメイトブレスからゼロアイを取り出し、変身し、即座に成層圏を抜ける。

 ゼロは地球を見つめ、少女を想う。

 

「さよなら、飛鳥レイ」

 

 手を振る。特徴的な指の形を作ってしまった。

 以前、彼が憑依した人間の癖が移ってしまったのだろう。それも今となっては懐かしい。

 ウルティメイトイージスを装着し、ウルトラマンゼロは時空を越えた。

 

――かつてそうだったように、ウルトラマンゼロはアスカの嘆きの声に導かれて、この地球へとやってくる運命だったのかもしれない。

 

 

 

17

 

 

 

「もしかして、その人のことを好きなんですか!?」

 

 飛鳥レイの話から、暁美ほむらはコイバナというものに耐性がないことが判明した。

 これまで友達が少なかった影響だ。うむ、ほんの少しだけ。少しだけ友達が少ないだけだ。

 これをコイバナと気づかないのも、レイの性格がそういうのに疎いからであった。

 

「僕がちょっと重ための昔話したのに、いきなりなんなんだ、君は」

 

「だって、完全にラブロマンス的な雰囲気ありましたよ!」

 

 恋愛ドラマの見過ぎである。

 

「うーん、どうだろ。たしかにシンくんは顔もかっこいいし、面白いし、恩人だしで、とってもいい人だけどね~」

 

「うんうん!」

 

「どっちかっていうと、恋人になりたいとかそんなのはなくって、人生の師匠的な?」

 

 興奮しているほむら。だが、一気にハテナが顔に浮かぶ。

 

「じゃあ、どんな人がレイさんのタイプなんですか?」

 

「タイプかぁ。あんまり考えたことなかったけど、僕は好きになった人ならどんな人だって愛せるさ」

 

「どんな人でも……もし、女の子を好きになってしまったらどうなるんですか?」

 

「別に女の子を好きになることだってあるかもしれないだろ。もしかしたら、僕がほむらのことを好きになるなんてことも……」

 

「ふえっ、ふえええええ!」

 

 恋愛ドラマでは飽き足らず、そういう界隈の本にも興味がありそうだ。

 いや、ある。

 他人の趣味を否定することはしない。それが友達であるなら、より一層にだ。それがレイのポリシーである。

 

「あっはっはっは、君は面白い反応をするねー」

 

「もう揶揄わないないでください!」

 

「ほむらのそういうとこ、僕は好きだぜ」

 

「はぅ」

 

 ほむらはボフンと爆発してしまう。

 その反応にまた笑っているレイだが、表情を真剣なものに戻した。

 

「よし、ちょっとは悩み事がどっかにいった頃合いだろう。一気に治療といこうか」

 

 銀のブレスレットからソウルジェムが現れる。そのまま、変身した。

 

「ちょっと痛かったら、ごめんねー」

 

「え、どうして変身を」

 

「それはこういうことー」

 

 ヘアピンを取り、青き姿に変わる。その力は奇跡を起こす、導きの光。

 瞬時にほむらへの背後へと回り、背中に手を添える。

 

「え、なにを!?」

 

「いくよー、クレセント・ミラクル――」

 

 眩い光の粒子が注がれていく。ほむらは憑き物が落ちていくような感覚がした。

 

(これはレイさんの光……)

 

 優しさに包まれる。

 辛かった心が、苦しかった心が晴れていく。

 ゆえに、そこに巣くっていた魔物が現れた。

 

「出たな」

 

「これが私の中から……?」

 

「僕さ、こういったのに鋭いんだよねー。直観っていうかさ、見逃さないんだよ」

 

 鋭利な爪を持つ黒い魔女だ。身体の中心を黄色い肉が分けるようにして存在している。それは意思を持ったかのように点滅を繰り返していた。

 

「さしずめ、精神に寄生するタイプの魔女か。さぁ、やっつけるかー」

 

 レイは守るようにして、ほむらの前に立つ。

 これは飛鳥レイが暁美ほむらという少女の心に立ち向かう戦いだった。

 

 

 






おまじないとは、お呪いとも記す。
彼の与えた光とは、呪いとなるのだろうか。はたまた……

今回のモチーフ
ウルトラマンガイアより、精神寄生体サタンビゾー。


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