無限の時間の中で、僕の時間は無限じゃない   作:モトヤス

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一区切り。





幸せになりたいから、人ってやつは醜いのかもしれない

18

 

 

 

 暁美ほむらにとって、自身の裡より出でし魔女は悪夢のような存在だった。

 精神に寄生されていたせいか、すべてを閲覧されてしまっている。ほむらが何を考えていたのか、何をどう思っていたのか。やつは知ってしまっている。つまりそれは、自分のデータをコピーされたも同然であった。

 

「レイさん、ごめんなさい」

 

 自分が招いてしまった問題を力が無いせいで、レイに任せきってしまっている。そんな現状をほむらは嫌だと感じている。

 

「別に謝ることのほどでもないとっ、思うけどねっっ!」

 

 迫る黒き爪撃を器用にレイは躱していく。

 まさに紙一重といったようにギリギリの距離でだ。

 様子見として、今は通常の銀色の姿で少女は戦う。

 

「それにしても、スパスパ切れるなー、あの爪」

 

 黒い爪はレイがいたはずの場所の悉くを切り裂いた。

 浮遊していた足場が割ける。

 一刀両断。振り下ろした先にあった物質のすべては真っ二つである。これを一撃でもくらってしまえば、少女の身体も同じようになってしまうことは明白だった。

 つまり、正面から籠手(ガントレット)で爪撃を受け止めるような真似は一切できない。防御の面において、圧倒的に不利な状況へと追い込まれている。

 その中、魔女の爪の鋭利さによって、レイは防戦を強いられていた。

 

「強くないか、こいつ」

 

 できれば、一人で相手にするのは避けたい敵。

 理想を語るのであれば、射撃による攻撃が行える後衛がいるのが好ましい。スピードがあり、魔女の目を攪乱できる前衛と後方からの射撃で仕留める。それがこの敵の対処の仕方である。

 

「マミか、まどかがいれば楽なんだけどなーっとッ!」

 

 ないものねだりをするのは意味のないことだが、それでも愚痴を零したくなるほど厄介な相手であることに違いはなかった。

 さらに躱す。

 レイの速さは十分に悪夢の魔女に通用している。だが、攻撃に転じる隙がないことが問題だった。

 

「レイさんー!」

 

「応援、頼む!」

 

 集中力を研ぎ澄まし、爪撃を対応。

 当たれば絶命するのだ。気を抜く余裕なぞない。

援軍の要請をほむらに任せる。

 

「(キュゥべえ! 大変なの、レイさんが!)」

 

『(いったいどうしたんだい、ほむら。すごく焦っているようだけれど)』

 

 すぐに繋がった。こういった時にテレパシーを使えるのは便利だと、ほむらは思う。

 魔女の結界に入ってしまえば、携帯電話での連絡は使えない。魔法少女になったわけではないが自分にその適正があったことに心の中で感謝した。

 

「(どうしたんだ? 近くにレイのやつがいるのかい?)」

 

「(ん、レイさんがどうかしたのかしら、暁美さん)」

 

 ちょうどよかった。キュゥべえの近くに杏子とマミがいたらしい。すぐに情報が伝わって動いてくれる。

 

「(すごく強い魔女が現れて、一人だと厳しいから助けてって!)」

 

『(そんなことになっていたのかい……)』

 

「(そういうことは早く言えよな、待ってろ)」

 

「(ええ、すぐに向かうわ)」

 

『(レイ、もう少しだけ持ち堪えるんだ! すぐに二人が駆けつけるから)』

 

 ――魔女がレイの頭上で旋回する。

 それは特有の不気味な笑い声を上げながら爪の先を向けていた。

 

 レイからは、キュゥべえの言葉に返事がない。

 ほむらたちの会話は聞こえているはずだ。しかし、応答がないのは意識の全てを迎撃に向けているからだろう。

 

「――――」

 

 見つめていた。

 レイは悪夢の魔女をその目に捉え続けている。

 その姿を見て、ほむらは畏怖を覚える。

 魔法少女であろうとも、鋼鉄をも切り裂く一撃のもとに散ってしまうだろう。だというのに、レイは怖気づく素振りすらない。

 焦っているのは見て取れた。

 だがそれは、この魔女と戦う中で最大限に警戒すべき攻撃に対してだ。

 それでも、いつ死んでもおかしくないはずなのに立ち竦むことも、背を向けることもない。

 

「レイさんは、なんて」

 

 強い人なのだろう――。

 また一つ、ほむらの中には羨望の感情が生まれていた。

 

 

 

19

 

 

 

 戦いにおいて、相手との間合いとは、全ての行動の際に最も気を付けなければならいものである。

 一歩踏み込めば相手に一太刀浴びせられ、一歩距離を取れば相手の一太刀を躱すことができる。

 これを剣道における一足一刀の間合いという。

 つまるところ、適切な距離を測ることが攻撃に繋がり、防御にも繋がるのだ。それを制することが出来れば、自ずと勝利は近づく。

 こちらが一方的に攻撃を与えられる位置、相手の攻撃が届かない位置は自身の有利となる間合い。

 だが、敵も、自分も近接戦闘を得手としている。

 武器のリーチで見れば、圧倒的に向こうが長い。リーチの長さとはそのまま戦況に反映される。

 手の甲、手首の付近から延びる鋭利な爪はおよそ五メートルほどもある。それが魔女の巨大かつ長い腕が合わされば、脅威であることは言うまでもない。

 拳で戦う飛鳥レイが苦戦を強いられるのは、当然の原理であった。

 

「はぁ、はぁはぁはぁ、はぁ……はぁはぁ」

 

 肺が熱い。苦しい。

 肩で呼吸をするほど疲労が蓄積している。

 

「は――はっ、はぁ……」

 

 それでもレイの動きは鈍らない。

 鈍らせない。

 鈍らせるわけにはいかない。

 常に動き続け、爪撃を躱していた。

 

「クっ!」

 

 戦況は好転する気配を見せない。

 このまま続けていれば、いずれレイの体力が尽き、地に伏したところを一刺しだ。そうなってしまってはお終い。

仲間の到着を信じている。それでも、このままではまずい。

 レイに待っているのは死だけだ。

 

「よっと!」

 

 薙ぐように振るわれた爪を避け、跳躍。

 間合いから脱出する。

 距離を離したのは、一気に決着をつけるためだ。

 これまでずっと身の回りにいた自身よりも遥かに小さいレイが離脱したことで、魔女は不意を突かれた。

 その大きな身体が姿勢を崩す。

 

 訪れるチャンス。レイは勝機を見出す。

 

「今しかない」

 

 ヘアピンを外した。

 取ったのは青いピンだ。前髪に残るヘアピンは赤。

 銀が赤へと移ろい行く。

 惜しまず、魔力を練り上げ、拳へと集約する。

 

「くらえ! ブレイジング・バスター――!!」

 

 魔力が熱に変換され、特大のエネルギー内包し、魔女へと一直線に放たれた。

 

「いけえええええ!」

 

 悪夢の魔女は無理やり腕を動かし、なんとか光線を防ごうとした。

 踏ん張れるはずもない態勢のまま、黒き爪を当てる。

 

 ――光線が割けた。

 

 炎熱が吹きすさぶ。

 完全に切り裂かれたわけではないが、魔女は光線を肉体に食らいつつも、死ぬまいと必死に腕を突き出していた。

 死んでたまるかという意思が嫌というほど伝わってくる。それでも、レイは光線を止めない。

 ついに魔女が膝を着く。

 その姿が光に飲まれたのであった。

 

「たおした……?」

 

 手応えはしっかりと感じた。

 倒したという確信とともに、まだあの執念深き魔女は生きているのではないかという不安にレイは駆られる。

 そしてその不安は現実となってしまう。

 

「嘘だろ……」

 

 魔力はもうそこまで残っていない。さらに戦闘を続けるのは困難であった。

 しかし、魔女の身体は半壊している。もはや、死ぬのは時間の問題のように思えた。

 されど、魔女はレイを見据え続けていた。

 悪寒が走る。

 それはよくない直感。

 

「レイさん! やりましたね!」

 

「バカ! こっちに来るな!」

 

「え……」

 

 魔女を倒したと勘違いしたほむらが駆け寄ってくる。

 レイはそれを静止させようとしたが既に遅かった。

 それは生物だけが持つ、死ぬ間際の最期の足掻き。

 命に後がないからこそ、なりふり構わないことをしてくる。巻き起こる被害を考えれば、悪あがきなぞさせずに確実に殺しきらなければならない。

 ならなかった。

 

 悪夢の魔女は最期に呪いを粒子とし、レイとほむらに注ぐ。

 

 だが、それを防ぎ切る術はなかった。

 

 

 

20

 

 

 

 飛鳥レイは幻覚を見た。

 なぜなら、肌が褐色に染まり、髪の色が金色になっている暁美ほむらがいたからである。

 

「これは夢だな、夢に違いない」

 

「夢じゃないですっ」

 

「夢ではないぞ、人間」

 

 加えて、通常色の暁美ほむらもいた。

 

「ええっ! 色違いの、私!?」

 

「ワタシはキサマに寄生していたあの魔女だが……」

 

 どことなく珍しそうである。

 

「ああ、だからほむらの姿形をしているのか」

 

 レイの中で納得がいく。

 暁美ほむらの精神に寄生していたがゆえに、彼女の姿を象って現れたのだろう。

 身長などの体格。顔の形から、おっぱいの大きさの何から何まで全く同じ。

 夢ではなく、現実。うむ、了解だ。

 

「ちょっとレイさん、視線がなんだかその……」

 

「いやらしいな」

 

「そんなに直接的に言わなくても!」

 

「そうやって内気だから言いたいことを他人にはっきりと言えないんだ、キサマは」

 

「それとこれとは関係ないです!」

 

「あっはっはっは!」

 

 金髪褐色肌ほむらちゃんと通常色ほむらちゃんとのやり取りを見て、思わず笑ってしまった。

 なんだろう、同じ顔なのにギャップがすごい。

 

「見ていたことは謝ろう。ごめんねー」

 

「見ていたんですね……」

 

 見ても減るもんでもなし、しかも服の上からだ。何も問題はない。

 飛鳥レイはうら若き女の子である。女の子であるがゆえにセクハラにはならないのだ。

 ついつい笑っていたし、特に罪悪感もなかった。

 どちらかというと面白さがレイの中で勝っている。

 それは置いておくとして。

 

「ところで、君はさ、あの魔女がほむらの姿を模しているのだと思うけれど、いったい喋れるようにまでなって何がしたかったのさ」

 

 和んでいた空気が一瞬で緊張する。

 この謎の空間はいったいどこで、この褐色金髪の黒ほむらの目的は何なのか。それが問題であった。

 

「壊してやりたい。それがワタシの存在理由だ」

 

 悲壮な面持ちで彼女は応じた。

 

「……素直に答えるんだね」

 

「もうワタシは死んだようなものだからな」

 

 ……やはり、と予想が当たっていたことに安堵があったが、レイは警戒を解こうとはしない。

 それは魔女にも見て取れたようだ。

 

「それほど、ワタシを危険視する必要はない。もう、力なんて何も残されていないのだ」

 

「だからって、用心しない理由にはならないよ」

 

 油断はしない主義なのであった。

 黒ほむらはレイを見据える。

 数秒の間隙の後、観念したのか、胸の裡を語り始めた。

 

「ワタシは他人に寄生することでしか存在できぬ。そういった魔女なのだ。

 取り憑き、呪い、殺す……。

 先日、そこの少女に取り憑いた。実に心の弱い人間だった。ワタシが言葉で揺さぶれば、心はみるみる疲弊し、壊れていった」

 

 この魔女がほむらに取り憑いたことで、ほむらの心は擦り減っていたのだ。

 学校にも行けなくなるほどに傷つき、自己に悩んでいた。

 まさしく悪夢。

 

「もう少し時間があれば、少女を殺せたというのにキサマが現れた」

 

 それをレイは見かけたのだ。だから、こうして魔女と正面から相対している。

 

「飛鳥レイ。キサマさえ現れなければ、簡単に殺せたというのに!」

 

 怒りを露わにする魔女。

 普段のほむらの顔からは想像もできぬ憤怒の形相だ。

 だが、その怒りはすぐに身を潜め、クールな装いに戻った。

 

「……人間の感情とは醜いものだな。ワタシはこれまでに様々な人間に憑いて理解したのだ。

 他人と争い、見下し、虐げる。そのような自分しか優先しない人間ばかりだ。それにそこの人間はひたすら自己を嫌い、友に嫉妬する。それが本当の自分だと告げられれば、違うと叫び、現実逃避だ。

 これは醜い以外の何物でもないだろう?」

 

 他を羨む心。妬み、嫉み。そこから人は呪いを積み重ねていく。挙句の果てには破滅するだけでなく、羨んだ対象を破滅させることもある。

 まさしく醜悪なる感情。

 

「うるさい! 私は鹿目さんにも、レイさんにも嫉妬したりなんてしてないっ」

 

 それに否定の声を上げたのは通常のほむらだった。

 

「私はっ!」

 

「いいえ。アナタはみんなに慕われたいと心の中で思っている。

 鹿目まどかを見る暁美ほむらはいつも羨ましがっていた。彼女の傍にはいつもたくさんの人がいる。でも、自分に近寄ってきてくれる人はほとんどいない」

 

 鹿目まどかは温かい太陽のような人柄をしている。

 いつも友人たちが周りにいて、楽しそうにしている普通の女の子だ。

 だが、暁美ほむらは彼女ほど人当たりが良いわけではない。社交的なわけでもない。

 これといった趣味があるわけでもない。

 身体が弱いこともあって、運動も得意ではない。

 だからこそ、他人と関わる機会そのものが無い。

 

「飛鳥レイを見るキサマはいつも力に焦がれている。魔法少女として優れている姿を見て、あんなふうに自分もなりたいと思っている。でも、意気地なしの暁美ほむらは魔法少女になることすら躊躇っていた」

 

 臆病だから。

 戦うのが怖いから。

 暁美ほむらは魔法少女にはなれないのだと、悪夢の魔女は語る。

 

「違う、そんなことない!」

 

「事実である。

 ワタシはキサマに憑依していたのだ。すなわち、その心の全てを覗けた。嘘偽りなく、暁美ほむらの心の姿である」

 

 取り憑いた対象の情報の全てを閲覧することができる能力。それが、この魔女としての特性。

 そして、その外見すらもコピーして、ほむらの姿を形成し、人の言葉すらも話すことができるようになった。

 

「私はただっ、憧れただけなのに――」

 

 そう、この悪夢は現実だ。

 何一つ偽りのない、暁美ほむらの心の形。

 嫉妬という憧れ。

 自分には手に入れることなんて出来ない人としての在り方。

 だから、恋焦がれた。鹿目まどかという少女の美しさに、飛鳥レイという少女の強さに憧れを抱いた。

 しかし、それは羨望だけではなく、醜悪に歪んでしまったもので、妬むことしかほむらにはできない。

 でも、諦めきれなくて、離れたくなくて、学校に復帰して出来た新しい友達を失いたくなくて、命の危険があろうと魔女退治に付いて行っていた。

 

「どうしようもないほどに、私は……!」

 

 ほむらの目には涙が溢れる。

 悲しみに暮れ、うずくまってしまう。

 

「――醜くなんてない。ほむらは醜くなんてないよ」

 

 この悪夢を否定するレイがいた。

 

「嫉妬なんて感情は人間誰だって持ってるだろ。別にそこまで深刻に悩まなくたっていいじゃないか」

 

「でも、私は、そんな自分も嫌いで。友達をそんなふうに思ってしまう自分が嫌いなんです」

 

 劣等感が生まれてしまうのだろう。

 しかし、羨み、妬んでしまうことに嫌悪してしまう。

 

「見たであろう、飛鳥レイ。この種以上に醜い生命体がこれまでにあっただろうか!」

 

「……」

 

 レイはすぐに答えることが出来ない。

 例えば、ウルトラマンという種族であれば、他者の命を尊み、自己を顧みないような存在はいない。

 人間という種族を見れば、個々がそういった行動をすることもあれるだろう。だが、全がそうではない。ほとんどが個を優先するはずだ。

 人間はウルトラマンのように全が他のために行動できるわけがない。

 

 彼らの在り方を美しいとするのであれば、人間とはどこまで醜いのだろう。

 それはきっと最悪なほどまでに醜悪なのである。

 

 知性があった。だから、美しく在れる者もいる。しかし、醜く在る者もいる。

 

 知性がなければ、これほど矛盾しなかった。全が美しければよかった。全が醜ければよかった。

 

 知性を持たぬ獣ではないのだ。本能で生きることだけをしていけるなら、どれほど幸せだっただろう。

 

 それでも、人とは自分で考えることのできる種族だ。己のためだけに欲望を抱く獣の名だ。

 

「だけど、全てが醜悪なんかじゃないさ」

 

 どうあっても幸せに生きていく人の数は少ない。

 幸福が世界にありふれていたのなら、不幸なんて存在しない。

 

「幸せになりたいから、人ってやつは醜いのかもしれない」

 

 自己の欲望のために人間はなりふり構わないこともあるだろう。

 他を貶めてまで、自分の利益を優先しようとすることもあるだろう。

 ――そして、満ち足りていたのなら、祈りを捧げる魔法少女などというシステムは生まれない。

 

「それでも、僕はそういうところも含めて人間が好きだ。

 好きなものに夢中になるところとか、手を取りあえるところとか、綺麗なものを見て感動するところとかさ」

 

 うずくまって泣くほむらの頭を、しゃがんで優しく撫でた。

 レイは醜悪である部分も人間の持つ一側面だと思う。

 魔女の言うことは糾弾されなければならないだろう。きっと咎められた方がいいはずだ。

 

「ほら、人って失敗することができるじゃん。そこから学んで成長するところとか、いいなって僕は思うんだけどー……」

 

 綺麗すぎるのもどうかと思う。

 愚かであったとしても、それが人という種なのだ。だが、愚かでなくなることもできるのが人だ。

 それは悪いことではない。

 

「そのようなものが、美しいわけがないだろう!」

 

「聞く耳は持ってくれそうにないか」

 

 それでも、呪いを孕み続ける怪物は認めようとはしなかった。

 黒ほむらは姿を捨て、元の魔女の姿へと戻る。

 この問答の裏で、回復に努めていたのだろう。なんとか動けるにまでなっている。

 黒き爪を伸ばし、突進してくる。

 

『ギャアアアアアアアアアオンンンンンン!』

 

 レイの魔力は先の戦闘でほぼ使い果たした。

 だが、使い果たそうとも回復することは出来る。

 

「悪いな。同じこと考えてたみたいだ」

 

 したたかに、裏では魔力の回復の手を休めていなかった。

 飛鳥レイは油断しないタイプなのである。

 ブレスレットに魔力を集める。

 左腕を横に切り、一気にエネルギーを光に変換していく。

 それを、左腕を曲げ、指の先を肘に添えるようにして、全てを右腕へと。

 

「ワイド・シュート!」

 

 光線を放った。

 輝かしい銀色の光。

 その一撃は、悪夢の魔女に腕を振り落とすことすら許さない。

 撃ち抜き、魔女の胴体には大きな穴が空く。

 そのまま、前方に倒れるようにして爆発した。

 

 轟音が響き渡る。

 

「終わったよ、ほむら」

 

 魔女の死をもって結界は解除され、町には平穏が訪れた。

 

 

 

21

 

 

 

 

 マミと杏子の救援は間に合わなかった。

 それもレイが一人で肩をつけてしまったからである。

 マミは二人が無事でなにより、と言っていたが、杏子は強敵だったということを聞いて、残念がっていた。

 

「それにしても、危なかったな」

 

 戦闘を思い返し、呟く。

 最期の悪足掻き、あの時、レイは反射的にブレスレットに手を当てた。

 ほむらの前に立ち、光のバリアーを張っていたのだ。あれがなければ、彼女と同じように取り憑かれていただろう。

 

「あれ、ほむらー?」

 

「ええっと! レイ……さん、どうかしましたか……」

 

「む?」

 

 いつもと様子が変である。

 レイは観察する。

 ほむらの顔がちょっと赤いようにも思えた。

 

「いや、なんでもありませんよ。なにもありません……」

 

 戦いが終わって、このまま一人で家に帰すのも憚られたので、こうしてほむらの家まで送って行っている最中なのだが、どうも反応がぎこちない。

 

「もしかして、さっきの気にしてる?」

 

「い、いえ。気にしてなんて」

 

「恥ずかしかったとか?」

 

「分かっているなら、口にしないで下さい」

 

 肩を落とすほむら。

 誰だって胸の中に隠しておきたいものはあるだろう。それが魔女のせいで、強制的に晒し上げられてしまったのだ。落ち込みもする。

 

「まあ、ほむらがいろいろ考えてることが知れて、僕は嬉しかったよ」

 

「慰めになりません」

 

「ほむらって、ホントまどかの事、好きなんだね」

 

「……~~~っ!」

 

 レイは彼女の反応を見て、くっと笑いが出てしまう。

 もう少し畳みかけてみようと思った。

 

「そういえばさー、僕の名前も出ていたけれど、どうしてなんだい?」

 

「いえ、あれは、その……」

 

「もしかして、僕のこともけっこう好きだったりするー?」

 

「もうっ、揶揄わないでください!」

 

 ほむらがちょっと怒ってしまったのでここでやめておく。

 少し元気が出たみたいで一安心だ。

 

「そっか。僕はけっこうほむらの事、好きなんだけどなー」

 

「え……」

 

「残念、残念~」

 

「どういうことですか、レイさん。まだ、揶揄ってますか!?」

 

 困惑するほむらを見て、楽しそうに笑うレイ。

 

「シンくんの言葉を借りるのであれば、僕に惚れると火傷するぜぃ」

 

 ――飛鳥レイはどっちでもイケるタイプである。

 

 

 




ウルトラマンガイアにて主人公・高山我夢の心の姿として描かれた怪獣。

今作では暁美ほむらの心を映し出すものとして登場しました。

この作品での主人公とほむらとの距離が縮まる三話だったと思います。

あと、サタンビゾーの配色から褐色肌金髪ほむらとなったのですが、彼女は新しいナニカを生み出しそうだなと思いましたまる。


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