無限の時間の中で、僕の時間は無限じゃない   作:モトヤス

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後半戦開始。

タイトルがここから台詞ではなくなります。

あと、ちょっとボリューミー。




運命の光

 

 

 

 

 

 

 

 運命とはいったいなんなのだろう。

 それはきっと定められた個人では抗えぬ道のことだ。

 魔法少女たちは、願いを叶えるために祈り捧げ、魔女と戦い続ける運命が定められる。

 しかし、それは自らが選択し、受け入れた運命だ。選ばないという選択肢もなかったわけではない。

 さて、自分の意思を以てして選んだ運命は果たして、本当に自分の意思によるものだっただろうか。そこには何かもっと別の大きく強い力が働いてはいなかっただろうか。

 さも物語の脚本ように作者の意思によって、話の展開が決まっていて。

 世界が作られていて。

 個人(キャラクター)の考えが生まれていて。

 全ての事象は予め、歴史(プロット)によって定められており、それに沿って時間が流れていく。

 まさしく、人の身では覆すことの出来ぬ運命であろう。これこそが人の越えらぬ限界だ。

 世界中が君を待っている? 否である。それは世界からの強制に他ならないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 銭湯とは飛鳥レイにとっての楽園である。

 汗を流し、肉体を綺麗にする。

 髪を洗い、艶を与える。

 湯船に浸かって、心を落ち着ける。

 そう。日々の至福とはここにあるのだ。

 

「……だというのに、君はどこにでも現れるな」

 

『お邪魔だったかい?』

 

「……」

 

 あえて答えてやらない。

 またか、と思うところがあるからだ。

 ふと思い返せば、キュゥべえと会うのはお風呂場が多い気がする。これは、

 

「もしかして、キュゥべえはスケベなの?」

 

『それには誠に遺憾であると言わざるをえないよ」

 

 そんなふうに思われても仕方ないだろう。

 小動物のくせに、お風呂場によく出没する。なぜだろうか……身体を綺麗にするならば、公園の噴水でもいいと思う。

 そもそもだが、この生物は美意識のようなものがあるのか。

 でもだ。久しぶりに会うキュゥべえから変な臭いがするというのも、なんとなく嫌だな。

 

「いやー、銭湯によく来るのってさ、女の子を品定めでしてるのかなーって」

 

『君がよく通っているから、ここに来れば会えるだろうと思っての事なんだけど』

 

 なんやかんやでその見た目は可愛いのだ。女の子に警戒心を抱かせずに取り入ることなんて簡単だろう。裏では、『この見た目も戦略のうちさ、実に容易かったよ』とか言っていそうである。。

 

「でも、普通の人からさ、キュゥべえの姿って見えないよね」

 

『どうやらレイは、ボクのことをどうしてもスケベで変態であると言いたいらしい』

 

「そんなに機嫌を損ねないでよー」

 

 誰にも気づかれないのであれば、完全犯罪し放題である。やっていることは、女湯を覗くという行為ではあるが。

 でも、そろそろキュゥべえが不満だー! と怒ってきそうではある。

 レイは本気でキュゥべえがそんなことをするようなやつだとは思っていない。一応。

 

『話は今度にして、帰ろうかとも考えたよ』

 

「んー、なに話ってー?」

 

『君の特異性についてさ』

 

 ピンとこないレイ。

 はて、自分はそんなに他の子と違って変だろうか。

 

『まったく思い当たる節がないような顔をしているね』

 

「うん。そんな思い当たることなんて、何一つないからねー」

 

 これといって特筆すべきことはないはずだ。

 レイは魔法少女として祈りを捧げ、魔女との戦いの運命を受け入れた。それは他のどの魔法少女とも同じ。

 いや、自分の縄張りを持たず、旅をしているというのは通常の枠には当てはまらないのかもしない。

 

『それはね、君の魔法少女としての才能についてだ』

 

「魔法少女としての才能……?」

 

『ああ。君のそれは到底ありえないほどのものだよ』

 

 キュゥべえは語る。魔法少女とはどういうものなのかを。

 

『生まれながらにして持っている運命。それが魔法少女の素質に大きく関わっている。才能と言ったのはそういうことさ。

 しかし、君の場合はある時期からそれが跳ね上がった』

 

「それは僕が魔法少女になったからじゃないの」

 

『運命とはそうそう大きく変動したりするものじゃない。たかだか八十年やそこらしか生命としての活動を維持できない人間が簡単に操れるものではないんだ』

 

 きつく絡み合った糸が簡単には解けないように、時間を掛けても無理なものは無理なのだ。

 

『レイ。ボクが魔法少女を選ぶ理由はね。その素質がある人間……さっき説明した通り、背負う運命を見定め、その大小をもって勧誘する。だから、君の背負う運命を見込んで声を掛けたんだ」

 

「でも、それが大きく変化してしまった、と」

 

『ああ。これほどまでの因果が一人の人間に集約するとは思えないほどにね』

 

 飛鳥レイの人生は平凡ではないものの、非凡でもない。

 両親を知らず、孤児院に預けられ、父親代わりの三船大地という男に育てられた。ただそれだけだ。

 幼少期に友達を失って、魔法少女となって、今がある。

 ちょっと魔法少女歴が長いだけの女の子。それがレイの自分の評である。

 

『いつだったか。君がふさぎ込むのをやめた前後にその兆しが見られた。何かなかったかい?』

 

「……」

 

 とある青年との出会いがあった。そして、立ち直ることができた。

 もしかすると、その出会いが理由なのか。

 

「んー、わからないなー」

 

 レイに確信があるわけではない。確かなことは答えられない。

 あの状況を表すのなら、知らない男の人に声を掛けられて、運命が変わるのであれば、年頃の女の子はみんな魔法少女になっている。まさにナンパ男様様である。今頃、溢れかえてしまっているのではないか。

 しかし、キュゥべえの話が本当であれば、生まれた時に決まっているものを、そんな偶然が人の運命に何かをもたらすのであろうか。謎である。

 

「さぁてね。まぁ、色んな縁があるんじゃないかなー。人生ってそういうのが折り重なって、絡まりあって、繋がってるんだよ」

 

 偶然と必然。

 自由と運命。

 これまでとこれから。

 ずっと繋がっている。

 

『そうかい。レイ、君の価値観は実に参考になったよ。僕たちにはなかった考え方だ』

 

 レイは仰々しく、それはどうもーと答えた。

 言葉を続ける。

 

「うん、出会いってやつは等しく素晴らしいものだ。善し悪しはあれど、かけがえのないものであるってね。

 父親代わりの人から教えて貰ったことだけど、わりと納得できるところがあるんだー」

 

『ふむ、なるほどね。君は大いにその人物からの影響を受けているようだ』

 

「なんか恥ずかしいというか、照れるというか」

 

 よく笑うあの男の顔を思い出し、変に暑くなる。

 言葉とは、教えとは、親から子へ引き継がれていくものなのだろう。人格の形成に大きく影響を与えられてしまっている。それでも、彼の語った言葉をレイが好ましく思ったから、受け入れて、成長してきた。

 

「だったら、レイ。君にとって僕との出会いは良きものだったかい? それとも悪いものだったかい?」

 

「怪しさ満点の怪生物との出会い?」

 

『レイはボクに対して辛辣なんだね』

 

 知っているとも! とキュゥべえはそっぽを向く。

 触ってみたら、ふわふわな感じとか特にずるい。仕草だけを取ってみても、相変わらずかわいい生物なのである。

 

「ごめんごめん。でも、ありがとうって思うところはあるよ」

 

『ほんとうかい』

 

「うそ」

 

『君という人間は、まったく……』

 

 笑っているレイを見て、やれやれというふうに首を振るキュゥべえ。

 

「冗談だって気づいてるくせにタチが悪いなー」

 

『そう思っているのなら、ボクを舞台の悪役のように仕立て上げるのはやめてくれないかい』

 

 こう見えて彼女とキュゥべえの付き合いは相当長い。

 つまり、互いのことを知るからこそのやり取りだった。

 

「今の僕があるのは、色んな人のおかげだからさ。そこにはもちろんキュゥべえもいる。だから感謝してるよ」

 

『……ふむ。それじゃあ、ボクは行くよ。リラックス中に失礼したね』

 

「いや、正直に思いの丈を語ったっていうのに、反応、軽いな!」

 

 背を向けて四本の脚で歩き出すキュゥべえ。

 彼は振り返って答えた。

 

『ボクが君の言葉に感動している姿を見たら、気味悪がるだろう?』

 

「うん」

 

『だからさ』

 

 即答であった。

 想像するだけで、ちょっと薄気味悪い。互いが互いの性格をよく分かっていた。

 

「じゃあね。あ、あとそれから、今度からお風呂入ってるタイミングを狙ってくるのはやめてちょーだい」

 

『わかったよ。善処しよう』

 

 絶対にまた次も同じことを繰り返すやつのセリフだった。

 この生物にプライベートを邪魔するなという常識を説いても、『言われなかったからさ!』だとか変わらない表情で口にするであろうから追及することはしまい。

 

「あー、冷たいシャワーでも浴びて、もっかい浸かろ」

 

 銭湯の気持ち良さはいつもと変わらないものの、もう少し一人でボーッとしていたい。レイはそういう時間も大事にしているし、好きなのである。

 キュゥべえと喋るのが嫌いというわけではない。しかし、身体が休まるかと言えば、それは違うのである。

 会社でいう上司とのやりとりのようなものだ。妙に気が張ってしまう。

 レイは働いたことはない。でも、そういうイメージが彼女の中にはある。打ち解けてはいるが、契約を交わした以上、立場はキュゥべえの方が上みたいな。

 そうして、溜息を一つ。レイは湯船から上がった。

 

 

 

 

 

 

 やはり、飛鳥レイという個体は異常である。

 これまで続く長い魔法少女の歴史を鑑みても、あれは条理(ルール)から逸脱している。

 

 第一に、あの背負う運命の膨大さだ。

 文明を築き、一時代を作った者と同程度の量。

 過去において、時代が大きく動く機会が多かった頃ならば、まだありえただろう。しかし、この二十一世紀において、時代が動くことなぞそうそう起こりえない。

 飛鳥レイが社会そのものの変革を起こすような人間であるとも考えにくい。

 

 第二に、ソウルジェムの穢れについてだ。

 通常、魔法少女のソウルジェムとは魔法を行使することによって穢れをため込んでいく。あるいは、負の感情によっても穢れを増長させる。

 だが、これまで飛鳥レイのソウルジェムが大きく穢れをため込んだことはない。これはあり得ないことなのだ。

 絶対に少なからずの穢れが発生し、グリーフシードによる浄化を試みなければならない。

 しかし、レイはこれまでほとんどグリーフシードを使用したことがない。だというのに、水晶のような輝きを灯し続けている。

 

『レイ、君という存在は実にボクたちの興味を惹く』

 

 ――異端者(イレギュラー)

 おそらく彼女からのエネルギー回収率は素晴らしいものに違いない。ノルマがあるとするならば、それを容易くクリアするほどの量を回収できるだろう。

 

『これからも観察が必要だ』

 

 キュゥべえ――インキュベーターと呼ばれるものたち。

 彼らの目指す目的のための行動原理。

 それは宇宙のために■■を生み出すもの。

 

 

 

 

 

 

――見滝原市、デパート。

 

 学校に通っていない佐倉杏子にとっては縁遠いものだが、知り合いはそうでもない。学校に行っている者もいる。

 巴マミがそうだ。今も見滝原中学の三年生として学校に通っている。飛鳥レイはふらふらと町の銭湯にぶらついているが。

 

 出会いというものは突然に。偶然に起こりうるのだ。

 たまたま遅刻してしまった時であったり、普段とは帰り道を変えてみた時であったり、こうして寄り道をしてしまった時など。

 

「あ、杏子ちゃんだ」

 

 エスカレーターを降りようとしたところ会った。

 

「たしか……鹿目まどか、か」

 

 学校の帰りなのだろう。彼女は制服姿であった。

 風見野から見滝原に来て、知り合った少女。

 初めてマミの自宅で会った時の印象はぽわんとしていて、便りのないやつ。まだ経験も少ない未熟者。そういったふうに思った。

 しかし、二体の魔女との戦いの後、芯のしっかりしたやつだと杏子は考えを改める。

 

(感情が豊かで心の優しいやつ……か)

 

 そんなふうに頭で思って、レイの顔が浮かんだ。

 

「なんで、あいつの顔が出てくるのさ……」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない」

 

 フロアに繋がる落下防止のためのガラス張りのフェンスにもたれかかる。

 

「わかった。レイちゃんのこと考えてたでしょ」

 

「おまっ、エスパーかよ」

 

 魔法少女だよ。そうまどかは答えなかった。

 なぜなら、

 

「ねえねえ、この子、まどかの知り合い?」

 

「わたくしたち以外にもこんなかわいい女の子がお友達にいらしたなんて、鹿目さんも隅には置けませんわ」

 

「もう! ただの友達だよ!」

 

 二人の知り合いがいたからである。まどかに遅れる形でエスカレーターを登ってきたようだ。

 快活な水色の髪の少女――美樹さやか。お淑やかな印象の少女――志筑仁美という。

 見てみるに、彼女たちとまどかは親しい間柄のようだ。

 

「なんか、レイに似てるやつだな。アンタ」

 

「レイ? 誰それ?」

 

「アタシのダチさ」

 

「……言われてみれば、そうかも」

 

「へえ、さやかさんに似ているんですね」

 

「この場にいない、しかも知らない人の話題で盛り上がるなー!」

 

 快活で、短い髪。ヘアピンをしている。

 杏子は思っていたよりも共通点が多いことに気づく。

 

「騒がしいとこも似てるな」

 

「初対面の人に騒がしいって言われた!?」

 

「そういうところですわよ」

 

「そういうとこだねー」

 

「みんなあたしの敵だぁ~あ~」

 

 レイと会えば、一分もしないうちに意気投合してしまいそうだなぁと思う。

 

「いきなりで、悪かった。アタシは佐倉杏子。よろしくな」

 

「失礼な人かと思ったけど、そうじゃなかった……」

 

「それが失礼にあたると思いますが……わたくしは志筑仁美と申します。よろしくお願いいたします」

 

「あー、あたし美樹さやか。よろしくー」

 

 そんなありきたりな挨拶を交わす。

 彼女たちとのひと段落が着いた時、まどかが杏子に話しかける。

 

「杏子ちゃんはどうしてここに」

 

「アタシはこれからマミのやつと約束があってだな」

 

「じゃあ、レイちゃんは?」

 

「いや、以前に追いかけていた魔女……」

 

「魔女? ねえ、魔女ってなに?」

 

「い、いやっ、それはだなぁ……」

 

 一般人のいる前で口を滑らせてしまい、汗が吹き出る。

 

(しまった)

 

 最近まで魔法少女以外の人間とあまりにも関わる機会がなかったから油断していた。これも杏子を取り巻く環境が変わってきているからのだが、本人はあまり気が付いていない。

 ゆえに起こってしまったミスだった。

 

「ね! ゲームの話だよね、杏子ちゃん」

 

「げーむ……? そう、ゲームの話だな!」

 

「なんだ、ゲームかぁ。真面目な雰囲気で言うもんだから、本当にいるのかと思ったじゃんー」

 

「アハハハ」

 

 話を合わせてなんとか乗り切った。

 ナイスだ、まどか。と杏子が視線を送ると、まどかはチラッとだけこちらを見て、背中の後ろでサムズアップした。

 わりとノリが良いやつなのだろうか。今は置いておこう。

 

「じゃあ、杏子さんはゲームがお好きなのですね」

 

「いや、別にそういうわけじゃないんだけど」

 

「え?」

 

「違うよ! 杏子ちゃんじゃなくって、マミさんがびっくりするくらいゲーム廃人なんだよね。ね! 杏子ちゃんっ!」

 

「ハイジン……? まあ、そうだな」

 

 まどかは背中の後ろでサムズアップした。

 

「えー、廃人に付き合わされてるのー。大変だね、アンタも」

 

「んー、そうだな……」

 

 マミへの変な誤解が生まれていたが、誤解であることに杏子は気づかない。悲しい誤解である。

 

「あちゃー」

 

「まどかさん、どうかしたのですか」

 

「いやっ、なんでもっ」

 

 まどかは見ないことにする。

 一度生まれてしまった誤解を解くのは、少女には難しいのだ。

 さやかとひとみは知り合ってもいないが、巴マミの先輩としての威厳はきっと地に落ちていた。

 きっと出会わないであろうから、何も問題はないはずと自分に言い聞かせるようだ。

 杏子の目に大きな柱時計が映る。

 

「じゃあ、そろそろ時間だし、アタシは行くよ」

 

 マミとの約束の時間に近づいていた。ここでずっとあまり油を売っているわけにはいかない。

 

「そうだ。また、お茶でもしようね。杏子ちゃん」

 

「お、おう……」

 

 杏子はまどかが親しく接してくれると思わず、妙に照れる。

 レイとはまた違った居心地の良さがあった。

 

「ねえねえ、あたしとも、今度あそぼーよ」

 

「そうですわね。では今度は、そのレイさんという方も誘って」

 

「お、いいねー。それアリかも!」

 

「そうだな」

 

 心がくすぐったくて笑みがこぼれてしまう。

 自分がこんなふうに笑うなんて不思議な感じだ。

 学校に通っていたら、自分にもこんな今があったのだろうか。そんな考えが頭に浮かんだ。

 いや、考えても無駄だ。杏子の人生はあの時に、魔法少女になった時に止まってしまっている。

 

「まあ、暇になったら、こっちから声を掛けるさ」

 

 過去を振り返っても仕方がない。

 今は今で充実している。それでいい。

 

「またなー」

 

 そうして、杏子は彼女たちに別れを告げてマミとの約束の場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 飛鳥レイは巴マミの自宅へと招待されていた。

 なんでも新しい魔女について話があるとか。

 学校の授業が終わった頃にマミの家に来いと伝えられて、こうしてマンションの前にまでやってきている。

 ピンポーン、とインターホン。

 すぐに「開けるわ」とマミの声が聞こえ、ドアのロックが解除される。

 自動ドアを抜け、エレベーターを使い、部屋へと到達。中に招かれた。

 

「いらっしゃい」

 

「おせーぞ、レイ」

 

「おじゃましまーす。と、杏子はすでに寛いでいる……」

 

 杏子が頭だけで振り返り、言葉をかけてきた。

 どうやら、レイが最後に来たらしい。彼女はソファに腰掛け、既にゆったりとしている。

 マミは用意してくれていたのであろう紅茶をカップに注ぎ、テーブルの上に置いてくれた。

 

「はい、どうぞ」

 

「マミ、ありがとー!」

 

「さて、メンツも揃ったことだし、さっさと始めちゃわないかい」

 

「まどかはいいの?」

 

「経験のまだ浅いあの子は今回は不参加よ。キュゥべえ曰く、今回の魔女は手強いらしいの」

 

「あいつが絡んでいるのか……」

 

 ろくなことにならないだろう、と予想が簡単につく。

 最近で言えば、たしか結界に魔女が同時に二体出現した時だ。あの時も、警告を受けていた。だから、万全を期して、決して一人では突っ走らず、杏子と共に見滝原の地までやってきていたのであった。

 でも、杏子の脚が早すぎて遅れてしまったのではあったが。

 

「見たところ、標的は魔女っぽくない魔女だったぞ」

 

「え。杏子、戦ってきたの?」

 

「ちょっかいかけて、帰ってきただけさ」

 

 そんな知り合いのバイト先に寄って、作業の邪魔をしてきたみたいな。きっと魔女にとってもはた迷惑でしかなかっただろう。

 

「それであの時、駆けつけるのが遅くなってしまったの」

 

「だから、珍しく二人で行動していたのか」

 

 先日の一件だ。

 ほむらに取り憑いた魔女と交戦していた際の救援要請をした時の事。

 マミに連絡したところ、杏子もその場にいたのだ。一緒にいた理由がキュゥべえから警告された魔女の結界にでも入っている時だったのだろう。

 

「で、魔女の特徴だが、体についている金属みたいなやつをブーメランにして攻撃してきたな。しかも、その金属は色んな形に変えることが出来るみてぇで、厄介極まりないって感じだ」

 

「そうね。佐倉さんの主観に私の考えを足すならば、変幻自在の攻撃ということはブーメランのような投擲武器以外にも何か作れるはずよ。例えば、拘束具なんかを作って、魔法少女を動けなくするなんかされてしまうと、一貫の終わりだと思ったわ」

 

「鋼鉄の檻とかに閉じ込められてしまえば、そこから脱出するのは難しいね」

 

「だなー。となると、近接主体のアタシらよりも、遠距離から攻撃できる鹿目まどかを呼んでおいた方がいいんじゃねぇか?」

 

「いえ、金属の身体を持つということは、並大抵の攻撃では意味がないと思うわ」

 

「矢で、金属の魔女を貫くのは難しいってことだね」

 

 マミはレイの言葉に頷いて答える。

 彼女の実力を低く見積もっているわけではない。魔法少女になって二週間やそこらだが、まどかはよくやっている。強い魔法少女だ。

 しかし、経験という、これまで魔女と戦い続けてきた魔法少女としての時間だけはどうにもならない。

 機転が利くというのは、これまでで大きな困難にぶつかったことから、それを乗り越えるための方法を知っているということだ。天才であれば、やってのけることもあるだろう。

 それでも、その困難を数多く乗り越えてきたからこそ、今を生きることが出来ている。

 飛鳥レイ、巴マミ、佐倉杏子。この三人の魔法少女はただそれだけで強い。

 

「だったら、銃弾でやっちまうってのもいけるのかい? 傷つけるのが関の山だろう」

 

 杏子の疑問は当然だ。

 硬く厚い金属を貫くなんてスナイパーライフルでもなければ、表面をへこませる程度しかいかないだろう。マミの武器は単発のマスケット銃だ。これでは火力が圧倒的に足りない。

 

「ええ。だから、私は支援の方に回るわ。主に敵の攻撃に対して、リボンでの防御することとかね」

 

「リボンも要は使い方ってわけさね」

 

 ブーメランの重い一投から仲間を守るための人員。

 リボンで受け止めることや、搦めとってしまうことも可能だろう。そして、これはレイの考えだが、マミの必殺技であるティロ・フィナーレなら打点に繋がるようにも思える。

 

「ええ。だからアタッカーはあなた達よ。特に打撃による衝撃なら、金属の身体にもダメージが通りやすいと思うの」

 

「なら、アタシはレイが攻撃しやすいようにするためのサポートってワケだな。了解~」

 

「僕も了解―。なんとかなると思うけれど、キュゥべえがわざわざ言ってきたくらいだからね。いつも以上に気をつけないと」

 

「そんなに心配することか?」

 

「だって何考えているか、分からないじゃん……」

 

 あー、というマミと杏子の声が重なる。

 やはり、思うところはあるのだ。魔法少女になった以上、あの怪生物に対しては。

 そうして作戦会議は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、このケーキ美味しいな」

 

「わかる!ちょー、うめぇよな」

 

 まさしくティータイム。穏やかに流れる時間に、美味しいケーキと鼻孔を優しく包む紅茶の香り。

 少女たちが楽しむ理想の形がここにあった。

 

「杏子は甘い系統の方が好きなのー?」

 

「そうだな。酸っぱいのとかよりは断然そっちだな」

 

「なるほど、味覚がお子ちゃまと」

 

「お、なんだい。アタシにケンカでも売ってるのかい?」

 

 杏子の目は挑戦的だ。その奥にはこの状況を楽しんでいることがうかがえた。

 そして、マミが二人に言う。

 

「貴女たち、本当に仲が良いわね。羨ましいわ」

 

 

「そう……?」

 

「まぁ、気性が合うのはあるだろうさ」

 

「一緒に戦ってきたからねー」

 

「そうさね。レイのことは何となくならだいたい分かる」

 

「二人は心が通じ合えるような仲……」

 

「それは大袈裟だな」

 

「大袈裟だねー」

 

 息ぴったりではないか。

 レイと杏子には、戦いの中で紡いだ絆があった。確かな絆がここにはあるのである。

 他人の頭の中なんて分かるわけが無い。それでも何となくで察せるものがある。同じ時間を過ごした者同士だけが感じ取れるものがあるのだ。

 

「だったら、戦友のようなものかしら」

 

「そんな感じじゃねぇか」

 

「う、僕は親友だと思っていたのに。ひどいよ杏子!」

 

「あー、めんどくせぇ」

 

 彼女のことだ。嫌がる素振りは見せているものの、本気ではない。

 悲しがってみせたレイは直ぐに復活して、話を戻した。

 

「僕と杏子が親友であるかどうかはともかくとして、マミと杏子はけっこう仲良しだろ?」

 

 マミと杏子はレイの方を驚いた様子で見た。気にせず続ける。

 

「どうしてかしら」

 

「うーん。事実と違っていたら申し訳ないんだけど、親しげに話をしたり、行動したりするくせにお互いがお互いに深く踏み込もうとしない。

僕が見た限り、僕と杏子より、よっぽど親しい間柄だと思うんだけど、ねえ、何かあったの?」

 

「レイさん。貴女、鋭いわね」

 

「まぁね。孤児院で色んな子の面倒見てたし」

 

「孤児院?」

 

「そう……孤児院」

 

 逡巡した。

 今、それを語る必要はきっとない。けれども、すぐに決めてしまう。

 レイはマミと杏子の知らない自身の過去について語り始めた。

 自分がどういうふうに育ってきたのかを。

 

「幼少期に保護される形で孤児院に入って育てられた。そこでは僕と同じような境遇の子達がいっぱいいてさ。いっぱい友達が出来たような感覚だったよ」

 

 そういえば、最近もこんな話をほむらにしたっけなー、と思い返す。

 

「孤児院に来る子たちは全員が訳アリの子だ。年長になるにつれ、みんなの面倒を見ることが多くなってきてさ。

すると、その子たちが何を考えてるのか、どういう関係性なのかとか分かってくるようになったんだ」

 

 事故で両親を亡くしてしまった子。

 親に捨てられてしまった子。

 虐待を受けて親と暮らせなくなってしまった子。

 あそこには、様々な理由があった。そうして独りになってしまった子たちが集うのだ。

 だが、この孤児院ではみんなが家族だった。たとえ、血の繋がりはなかったとしても。

 

「毎日ケンカばっかりだった。些細なことで殴ったり蹴ったり、泣いたり、塞ぎ込んだり、家出したり。

でも、そんな子たちと僕は家族になった。孤児院が僕たちの家だったから。あそこに帰れば、みんながいたんだ」

 

 レイは話がズレてしまった、と戻そうとする。

 

「あー、ともかくだよ。二人は相手に遠慮しないで仲良くしようとすればいいんだー!

 喧嘩とかしてたなら謝る!お互いが遠慮し合うからぎこちなく見えるのさ。思い切って、ほらっ、勇気を出せー!」

 

 他人の人間関係に口を出すのは難しい問題だ。一つ間違えれば、これまで以上に関係性がこじれてしまう可能性もあれば、その原因を作った自分が嫌われてしまうことになってしまう。

 彼女たちのために出来ることは、背中を押すことだけ。あとは当人たちの問題だ。レイには関係ない。

 いや、関係がないわけでは無い。マミも杏子も大切な仲間だ。それがギスギスしてるのはあまり嬉しくない。みんなが仲良くしていてほしい。

 そんな子供っぽい理由。そんな理由で行動するのが飛鳥レイという少女だった。

 

「えっと、いや、だから、その……っ!」

 

「……厚かましいやつだな、ホント」

 

 必死だったレイに、杏子は遠ざけるように口にする。

「そんなことレイに言われるまでもなく、分かっているさ。」

 

「う、ごめん。杏子」

 

「だいたい、アンタが首を突っ込む必要なんてないのさ。それで勝手に落ち込まれると、それはそれで迷惑だ。

 これはアタシとマミの問題だからな」

 

 過去にすれ違いがあった。

 佐倉杏子にとってみれば、ただそれだけであり、気に留めていても仕方のない過ぎた日々だ。

 感傷に浸ることもあるだろう。思うところがないわけではない。しかし、当時の自分には受け入れ難い現実と、それによって起きた考え方の変化があった。だから、巴マミとの衝突は避けられなかった。

 

 ――魔法少女の数だけの正義がある。

 

 自分のために生きるか、他人のために生きるか。

 そんな些細な、されど、両者が譲らなかった在り方。

 

「そうね、いつか仲直りしましょ。佐倉さん」

 

 もう一度、歩み寄ろうとするのも一つの在り方。

 

「ケッ、アタシはアタシの信じるものを信じているだけさ。それでぶつかることがあるってんなら、矛を交えればいいだけだ」

 

「私はあんまり野蛮なのは好まないのだけれど」

 

「野蛮で悪かったな」

 

「あら、気を悪くさせちゃったかしら」

 

 そっぽを向く杏子。

 マミは小首を傾げる。

 意地らしい。狙ってやっているのだろう。小悪魔のようである。

 そんな中でずっと不安だったことがレイにあった。

 

「……あのさ、二人は幻滅してない?」

 

「……?」

 

「なんでさ?」

 

「いや、不快じゃなかったかなーって……」

 

 レイの心配事を聞き、心底呆れたような顔をする杏子。

 

「はぁ、あのな。レイがアタシたちのためを思って言ってくれたことで、お前のことを嫌いになったりするわけねえだろ。

 鬱陶しいとか、ウゼェって思うことはあるかもしれない。でも、今までのことがなくなったりするわけじゃない」

 

「一度築いてしまった絆って案外、そう易々とは断ち切れないものなのよ」

 

「そういうこった」

 

「杏子、マミ……」

 

 元気づけるのは自分の役割だったというのに、気が付けば元気づけられてしまっていた。

 レイの心に不安はもうない。

 

「ありがと……」

 

「どういたしましてだ」

 

「ええ。こちらこそ」

 

 この場の全員に相手への感謝があった。

 レイは仲間を傷つけて失うことの恐怖を失うことはないという安心に変えられ、杏子とマミは二人の関係性がより良い方向へ一歩踏み出すためのきっかけができた。

 照れくさい気持ちはある。

 それでも、しっかりと言葉にして相手に伝えることができた。それが当たり前だけど、とても大事なこと。

 

「それじゃあ、あらためて、明日に魔女の討伐を開始するので時間には遅れないように」

 

「はーい」

 

「ほーい」

 

 長くなった作戦会議が終了した。

 

 

 

 

 

 

 ――魔女結界。

 そこは一面の荒野のようであった。

 朽ち果てた送電塔だけが倒れ、転がっている。潰れてしまった発電所の跡地のようにも思える。そこに魔女の根城がある。

 

「見えてきたわよ」

 

「ご対面だ」

 

「さ、気を引き締めていこー」

 

 マミはマスケット銃を自身の周囲に突き刺さるように召喚し、

 杏子は多節昆の槍を取り出し、

 レイは籠手(ガントレット)を装着する。

 

 魔法少女たちが戦闘態勢に入るのと同時に荒野に風が吹きすさぶ。

 魔女のお出ましである。

 マミと杏子から聞いていた通りの容姿だ。金属の身体を持つ魔女。魔女とは似つかわしくない魔女。

 異形の騎士のようにも思える姿だ。武器を持ち、二足で立つ。

 

「確かに強そうー」

 

「それじゃあ、前衛はアタシとレイに任せな。マミ、アンタは援護よろしく」

 

「ええ、分かってるわ」

 

 レイは杏子と視線を交わし、手筈通りに動く。

 魔力を拳に籠める。

 戦闘において、備えることは命を落とさないための必要条件である。彼女の場合は、籠手に魔力を籠めておくことで防御にも、攻撃を撃ち合った時に力負けを回避するためでもある。

 生きるための努力を惜しむべからず。それが飛鳥レイの心情だ。

 

 ――先手必勝という言葉がある。

 

「――ワイド」

 

 籠めた魔力に、さらに籠めていく。

 それはそのまま光のエネルギーへと変換された。

 

「シュート――!」

 

 これは相手に何もさせずに勝つという意味でもある――

 

 様子見ではるが、加減などするものか。

 レイは殺すつもりで光線を放つ。初撃で殺しきるつもりで撃つ。

 その光に魔女が呼応した。

 

「何っ!?」

 

 エネルギーの全てが吸い込まれていく。放つ腕から光が抜けていくように吸い出されていく。

 これはまずい。

 

「杏子!」

 

「まったく、なにやってんのさ」

 

 レイのミスを杏子が槍を振り下ろすだけで帳消しにした。

 彼女は切り裂いたのだ、光線を。

 レイと魔女を繋いでいた光線が途切れたことで撃ち止める。これ以上は本当に危ないところであった。

 杏子が自分のところにまでやってきてくれる。

 

「なにがどうなってんのさ」

 

「わかんない。けど、魔力を全部持っていかれるところだった」

 

「なんだって」

 

 これでは魔女を倒しきるなんて不可能だ。

 予想では、おそらく光に対しての特効を持っている。加えて、それを吸収することで自分の力に変えることもやってのけるかもしれない。

 まさに、対飛鳥レイのための魔女と言っても過言ではない。

 銀の姿以外であっても、その根底にある魔法の属性は()だ。いかに炎に変換しようとも吸いつくされてしまう。下手を打てば、敵をより強力にしてしまいかねない。

 

「僕に出来るのは、直接殴るくらいしかできないぞ」

 

「そいつぁ、まずいことになっちまったねぇ」

 

 魔力で膂力を上げて、拳を撃ちこみ、ダメージを与える。そのくらいのことしか成せない。

 この戦いにおいて、レイは完全にお荷物と化していた。

 

『魔力カラ解析完了。

 データベースヨリ照合開始。

 完了。

 コレヨリ、コピー開始シマス』

 

「コピーだと……」

 

 以前、暁美ほむらが魔女に取り憑かれたことがあった。

 その時、魔女は彼女の心に巣食い、全てを見抜いていた。

 見抜くとは、解析すること。人間を情報として閲覧すること。

 そうして、悪夢の魔女は少女の姿を形作り、言葉まで発せた。意思の疎通まで可能だった。

 その魔女と魔法少女は対峙した。

 対峙したということは情報を抜き取られてしまう危険性があったということ。

 

『形成ヲ開始シマス。

 三、

 二、

 一、

 完了』

 

 金属の身体がぐねぐねと歪曲を始める。

 人間とはかけ離れていたサイズが、人間と同じサイズへと変化を遂げていく。

 そうして、黒い少女の姿へ。

 

「おい、レイ! あれって、まさか!」

 

「そんな、そんなのって……」

 

 レイはそれの誕生を眺めていることしか出来なかった

 

 飛鳥レイによって倒された魔女は亡霊(クリシスゴースト)として、情報を手に入れ、仲間へと明け渡す。

 ここからが本当の悪夢だった。

 

『やあ、初めましてだね。忠実に再現したから完璧だとは思うけれどー』

 

 それは、自らの姿を嘗め回すように見る。

 スカートを揺らめかせながら、容姿を確認する姿はさながら快活な少女そのもの。

 

「レイと同じ姿」

 

「黒いレイさん……?」

 

 銀を基調とした魔法少女が飛鳥レイだとすれば、彼女を象って生まれたそれは、黒を基調とした魔法少女である。

 その存在の証明をオリジナルが許すわけにはいかない。

 

「く……そっ!」

 

 光線を抜き撃つ。

 今のレイは冷静さを欠いていた。

 普段であれば、予想の範疇を超える問題が発生したとしても、その分析を怠ることはないのが彼女だ。それが明らかに焦りを見せていた。動揺が大きすぎたのだ。

 

『あーあ。そんなことしちゃうと全部――貰っちゃうよ』

 

 黒いレイが光線に掌を合わせるように腕を上げた。

 敵の狙いはもちろん、レイの魔力の奪取である。

 

「ぐっ……くっ!」

 

『ほらほら、もっとだよー』

 

 不意を突くことすら敵わなかった。

 それも当然だ。相手は自分自身そのもの。自分の考えなんて、最初から見抜かれている。それに同じ思考に至る以上、裏をかくことも不可能。

 光線を撃ったのは間違いなく失敗だった。

 

「くそぉぉぉぉぉ!」

 

「バカ野郎っ」

 

「レイさん!」

 

 杏子が乱入し、マミがレイに抱き着く形で退避に成功する。

 彼女の本気の一振りは光線を吹き飛ばし、滅させる。凄まじい気迫が成した結果だった。

 

『さすがだねー、佐倉杏子。僕が信頼を置くだけはあるよー』

 

「レイの顔で気安く話しかけんじゃねぇよ」

 

『ちぇー。辛辣だなー、佐倉杏子は』

 

 黒いレイへの警戒を強めながら、レイに駆け寄る杏子。

 マミはもう介抱を始めていた。

 

「おい、大丈夫かよ」

 

「レイさん……」

 

 レイは弱々しくも、黒い自分を睨む。

 

『君のコレ、ありがたく頂くよ』

 

 黒い彼女がそう言うと、変身が解けてしまった。

 自分の意思とは反し、ブレスレットからソウルジェムが排出される。

 

「な、待て……」

 

 腕を伸ばす。

 腕を伸ばす。

 腕を伸ばす。

 ――届かない。

 それは直線で向こうへと遠ざかっていき、奪われてしまう。

 

『これは君たちの魂にあたる部分だ。それが全く同じ肉体に引かれないはずがないだろう。これで()()のものだよ』

 

 魔女は黒を基調としたものから、そこに銀のラインを加えた美しい姿へと変わる。

 もはや、怪物ではなく、魔女でもなく、それは魔法少女だった。

 

『素晴らしい。素晴らしいよ、レイー。君の力はなんて希望に満ち溢れているんだ!』

 

 新しいものを肌に馴染ませるように、ソウルジェムを撫でている。

 黒いレイは恍惚とした顔で、喜びを満期していた。だからだろう、

 

「逃げるわよ」

 

 追い詰められていた魔法少女たちの状況の判断は早かった。

 マミが動けないレイを背負い、杏子が魔女の結界を突破する。それに黒いレイが対応できない。

 すぐに脱出を試み、行動に移す。

 こうして抜けているところがあるのも、飛鳥レイに似通っている部分がある。だとしても、ソウルジェムを肉体に定着させるために追撃してくることはないだろう。

 逃走は成功した。

 

「二人とも、僕のせいで……ごめん」

 

「謝ってんじゃねえ。今は休んで回復に努めろ」

 

「そうよ、レイさん。あらためて、(うち)で作戦の練り直しよ」

 

「ありが……と……」

 

 おぶられながら、今後のことを考える。涙を流しているだけでは何も解決しない。

 レイはマミの背中で顔を隠す。ちょっと恥ずかしい思いがあって、そして、そのま、ま意、識、が、遠くな、って。

 

「次はアタシらだけじゃなくって、まどかのやつにも手伝ってもらおう。うん、それがいいな」

 

「そうね。仲間外れにしちゃったこと謝らないと」

 

「……」

 

「そうだな。しかし、あいつがレイの力を手に入れたってなると相当厄介だぞ」

 

「魔女と戦うのではなく、魔法少女同士の戦いのようになるわね」

 

「……」

 

「なあ、レイ。……レイ?」

 

「レイさん……?」

 

 彼女の反応が無い。

 いつもならば、すぐにふざけ出すはずなのにどうして。魔力が欠乏してしまって、眠ってしまったのか。

 

「まさかっ」

 

 おかしいと感じた杏子が背負われているレイの首に手を当てる。

 嫌な直観だった。だからこそ、脈を測った。

 

「どういうことだ、おい。コイツ……死んでるじゃねえか」

 

 飛鳥レイの心臓は止まっている。

 少女はすでに運命の果てに到達していた。

 






難産でした。時間が空いてしまって申し訳ないです。
再放送していたまどマギがもう終わっちゃいましたね。悲しい。

そんなわけで、今回の怪獣はウルトラマンガイアより金属生命体ミーモス・電子生命体クリシスゴースト。

クリシスゴーストが保管されていたアパテーとアルギュロスの破片を元に融合し、ニセウルトラマンガイアとなった。

そもそもとして、クリシスゴーストとはアルケミースターズのクラウス・エッカルトにより生み出されたコンピューターウイルスの生命体だ。
そのクラウスが怪獣となったのがサタンビゾーである。その怪獣の亡霊はまさに彼のゴーストなのである。ゆえに、飛鳥レイの姿をコピーし、成りかわろうとした。

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