古明地さとり(偽)の現代生活   作:金木桂

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早期完結を目指しているのに増える蛇足


問13:古明地姉妹がアニメショップに行くことを一時間前に知ったスカーレット家は古明地姉妹が辿り着く前に先んじてアニメショップに辿り着けるか、○か✕かで答えて理由も書きなさい。

 東方例大祭のカタログは基本的に書店には置かれていない。ゲームや同人グッズを取り扱う、いわゆるアニメショップに陳列されているのだ。

 結論から先に述べれば、都会でも無い僕の住処付近にそのような二次元チックな店は無いから、昨日の外出に引き続き今日も少し遠くへ出かける必要があるのだった。

 

「今日も電車ね〜」

 

 こいしが楽しげに笑いながら電車内へと乗り込む。

 朝の11時の社内はガランとしていて、空いてる席は簡単に見つかる。……いや、11時って昼なのか?個人的には朝派なんだけど、昼と言われれば昼だ。太陽も眩しいし。

 

 僕は青い布地のシートに腰を掛ける。こいしもあとを追って、僕の左隣に座る。

 電車が動き出すと、対面に嵌ってある窓硝子から太陽の光が刺々しく差し込んで、明確な熱とともにスカートを照らした。

 何か話題でも振ろうかどうか迷ったけど、結局車内の穏やかな空気に流されて止めて、することも無いので外の景色を楽しんでいると、こいしはこちらを覗き込んだ。

 何から話したものかと、探るような瞳に僕は曖昧に笑んでいるとおもむろに口を開いた。

 

「お姉ちゃん、どこまで行くの?」

「横浜よ。そこなら売ってる店があるらしいから」

 

 と、ネットで軽く調べた情報を言う。

 因みにあるらしいと予防線を張ったのは本当に伝聞系だからで、何故なら僕は横浜に行ったことがないのだ。当然。だって一人暮らししてからロクに外出しなかった訳だし。神奈川全然分からない、マジで。

 じゃあ前住んでたところは分かるの?と聞かれても白旗あげちゃうのが引きこもりの辛いところだったりする。

 

「へー。横浜。行ったことないわ」

「寧ろこいしはどこならあるのよ」

「んー、カナダとかオーストラリアとか?」

「スケールが違う……」

 

 日本の枠組みから飛び出ちゃってるじゃん。

 え、もっと無いの?北海道とか沖縄とか。

 気になりはしたけどこいしに聞いても「日本の都市?そんなのどれも似てるし覚えてないわ」とか返ってきそうだったので口を噤む。僕も行ってみたいよ海外、特に北欧ね。

 こいしは一度瞬きをして、首を傾げた。

 

「横浜って何があるの?」

「そうね……みなとみらいとか中華街かしら?」

「みなとみらい! 名前からしてカッコいいわ!」

 

 目を輝かせるこいしには申し訳無いけど、僕は横浜を全然知らない。

 だからそんな純粋無垢な瞳を向けないでくれ!

 知名しか分からないんだよ僕は!

 

 頼むからこれ以上掘り下げて聞かないで、という健気な願いが通じたのか、こいしは話を変える。

 

「そう言えばお姉ちゃんの能力、心が読めるんだよね?」

「藪から棒にどうしたの」

「いや、なら私の心も読まれてるのかな〜って」

 

 そうか、こいしにはこの事は言ってなかったっけ。

 加えて東方について知ったのは一昨日、知らなくて無理もないか。

 

「確かに私は心を読めるわ。でもねこいし、貴方の心だけは絶対に解錠出来ないの」

「え? そうなの?」

「第三の目を閉ざして無意識を渡る。心すら無意識の大海に浮かばせて流す貴方に、意識の表層を掬い揚げようとする私の能力は通用しないわ」

「へー、じゃあ私は対お姉ちゃんメタ装置だった訳ね」

「違うから。私をメタってどうするのよ、メタるなら霊夢か魔理沙になさい」

 

 何故か私を嵌めようとしているこいしに思わずツッコむ。

 てかメタ装置ってなんだ。確かにこいしに関しては心を読めないけど、そもそも戦闘力ゼロの僕は一般人相手にしても簡単にやられてしまうと思うからメタも何も無いと思う。

 だからって霊夢も魔理沙もここにはいないんだけどね、多分。可能性は残るから予防線は張っとくけど。

 能力の話題なんてものを今更振って来られたので僕は少し考えて、意図がやはり分からないので本人に聞き返すことにした。

 

「いきなりどうしたのよ。能力なら最初に確認したし、なんなら地霊殿をプレイして知ったんじゃないの?」

「いや、そうなんだけどさ」

 

 こいしは珍しく言いづらそうに、口内でモゴモゴと言葉を溜め込んだ。

 見守っていると、訥々と話し出す。

 

「……能力、成長してる……と思うの、私」

「……成長?」

 

 身長……のことじゃないね。

 そこはかとなく嫌な予感がして、感情とは裏腹に脳細胞が激しく震え立った。

 だがそれだけだった。

 思考は袋小路の回答に繰り返し行き着いて、けどその意味を理解する事は出来ない。

 こいしは神妙に頷いた。

 

「無意識が発達してるの」

「……無意識って発達するものなのかしら?」

「分かんない。分かんないけど、段々能力が勝手に作動するようになっちゃってるの」

 

 電車がレールの継ぎ目で振動して、それに合わせて髪が揺れた。

 目に掛かった前髪を払うこいしの表情は不安げに影を落としていた。

 

「勝手に作動……。それってもしかして、能力の制御が効かなくなってるということ……?」

「そうよ。今まで意識的に相手の無意識を操っていたのに、今日になって無意識に無意識を操るようになっちゃったみたい」

 

 下手なジョークを誤魔化すみたいにカラカラと笑う。

 …………冗談だよね?

 こいしの言葉を咀嚼し切れず、心中で反芻する。

 能力が制御不能になる、その可能性を考えたことがないと言えば嘘になる。この容姿も能力も、全て突然何かから転じて出来たもので、本来の自分の所有物じゃない。

 

 だけど、意図的に僕は考えないようにしていた。

 怖かったからだ。

 

 古明地さとりという戸籍も無ければ架空の存在である少女に成ってしまった時点で僕は混乱していたし、危機感にも包まれていた。早くどうにかしなきゃと、その事実に齷齪と対処する為だけに思考の殆どは持ってかれたし、能力については敢えて深く考察をしていなかった。精々本物じゃないのだから能力がデチューンされているのだと思っていた。

 

 こいしの顔を見て今まで無視していたツケを突きつけられる。

 その判断は間違いだったのだ。

 

「お姉ちゃんはどうなの? 大丈夫?」

 

 こいしの言葉はのっぺりとしている。それでも隠しきれない不安感からか、矢鱈と髪の毛を弄っていた。

 僕は……どうなのだろう。

 恐る恐る、能力を確認する為に頭の中で起きている事柄を紐解いていく。

 

 古明地さとり()は半径5メートル以内の人間の心が読める。意識を覚れる。それは一昨日人に近づいたり離れたりして確認した通りだ。

 

 そして今、僕の脳内は陸風から海風に変わる節目みたく凪いでいる。人の思考が僕へと流入していない証だ。

 改めて目視で確認すれば、5メートル以内にこいし以外の人はいなかった。一番近くにいる人でも8メートルは離れている。

 ……能力の拡張とも言える現象は、僕の身には起こっていない事を意味している。

 

 つまり僕は一昨日から変化していない。

 こいしの言葉を借りるなれば、能力は発達していないということで───。

 

「私は大丈夫よ。こいし、問題は無いの?」

「良かったぁ……」

 

 僕の言葉をスルーして、こいしは胸に当てていた手を下ろす。

 断続的に射し込む日光で明度が上がったり下がったりする顔に、心底安心したような、満面の笑顔が浮かぶ。

 ……そんな、心配してくれてたんだ。

 

「フランさんとか、レミリアさんにはその事を連絡したり」

「してないわ。お姉ちゃんが一番だもの」

「……因みに、体調は?」

「ん、すこぶる健康。あくまで私が何もしなくても私の存在が他の人から認識出来なくなるだけだから、問題っていう問題は無いかな」

 

 それはかなり問題だと思うけど、と溢れそうになる本音を僕は喉に押し込んだ。

 本人がそう思ってるなら、そっちのほうが良い。

 未知の不安に肌を震わせるよりは強がってるほうがよっぽど健康的だ。

 

「無理なら私に言いなさい、絶対に何とかするわ」

 

 こいしは波一つない薄ピンクの綺麗な爪が付いた、ほっそりとした白い指で僕の手を弱い力で掴むと。

 

「ありがとね」

 

 とだけ言って、まっすぐ窓の外を見つめた。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 横浜駅は東京に劣らず、複雑怪奇だった。

 まず改札口が4つある。その内2つが中央の大きな通路に繋がっているのに対して、他2つ───北改札と南改札───はそれぞれ独立した別の場所に繋がっている。

 僕とこいしが乗っていたのは、12両編成の最後尾の車両。一番近くにあった階段をとんたんと下りてみれば北口改札だった。

 

「お姉ちゃん、それでアニメショップってどこにあるの?」

「東口だけど……少し待って」

 

 改札から出てしまった僕は、仕方無しにスマホを取り出す。

 目的の店は東口のはず。

 けど東改札なんてものはどうやら横浜駅には無いからして───。

 え? 本当に何処なの。

 

「どう?」

 

 僕は使ってない片手を上げてこいしの声に答えつつ、スマホとにらめっこする。

 2分くらい探して、漸く東口がどうにも中央通路にあるらしいことを僕は理解した。

 

「ちょっと分かり辛いけど……ここからなら地下から行く方が早いわね」

「そうなの? じゃあ行きましょ」

 

 すました顔でこいしはそう言うと、地下へと降りるエスカレーターの方へと歩き出した。慌てて僕も着いていく。

 エスカレーターに乗って、GPSで現在地と照らし合わせたスマホの地図と見比べる。

 

「あっちね」

 

 こいしを追い越して、僕は往来する人々に交じる。

 少し歩くと、再びエスカレーター。

 歩幅に気を付けて、確認しながら段差に乗る。

 

「へぇ、こんなに広いのね駅って」

 

 見渡すと、こいしは一つ一つをジッと見るように目を細めて言った。

 本当に駅とか全然行ったことなかったんだろうな、とか関係ないことが頭をよぎる。

 ふっ、と軽く息をついてこいしはうっすら微笑んだ。視線は上に吊られた案内掲示板へと釘付けになっている。

 

「あっちが東口らしいわ」

「ええ、ありがとうこいし」

 

 僕は案内掲示板に従って足先の方向を変えた。

 駅構内を抜けて、再び階段を上ってスマホを確認してみる。

 ……よし、大体分かる。

 

 アニメショップまでは駅から5分、とウェブサイトには書かれていたけどそれは確かだったみたいで。

 感覚的に本当にそのくらいの時間。

 僕とこいしはアニメショップへと到着した───。

 

「ご機嫌よう。さとり、こいし」

「…………帰りたい」

 

 何故か、その入り口前の柱にレミリアとフランが居た。

 

 

 

 

 

 

 殊に、この二人はアニメショップを背に立っているからか何だか凄く目立っていた。

 幼女とまでは行かずとも、年半ばの少女が二人。しかも金髪と銀髪の超美少女。

 どう考えても迂闊だなぁ、と思ってふと我が身を見る。

 …………この容姿じゃ僕も人の事、言えないよなぁ。

 取り敢えず僕は訊く。

 

「何でここに居るんですか?」

 

 純粋な疑問だった。

 それに答えようとしたのか、レミリアの口角が上がったのを僕は手を制して。

 

「"能力で先読みして来たのよ"…………ですか。メールくらい送ってください。何の為に連絡先を交換したんですか」

「出会って早々心を読まないでちょうだい!?」

「ごめんなさい、気になったので」

 

 まあ勝手に流れ込んでくる以上、読む読まないとか無いんだけどさ。嘘も方便ってやつかもしれない。

 と言うか答えになってないじゃん、今の回答。

 レミリアは優雅というか、気品のある表情を取り戻すと「ふーん」と鼻を軽く鳴らす。

 

「シックな服装ねえ、帽子は違和感あるけど似合ってるじゃない」

「ありがとうございます。そちらこそ……」

 

 僕は歯に物が挟まったみたいに言葉を止めた、というのも目線を落とした瞬間に出すお世辞が宇宙の彼方へぶっ飛んだからだ。

 短いジーンズで織られたホットパンツと焦茶色のカーディガンは良いんだけど、カーディガンの下にあるシャツ。何故か「酒はチカラだ 病は気からだ」という黒い文字が筆で書かれたようなテイストがプリントアウトされている。気になって横目で見ればフランの服には何も書かれていない。

 

 ……そう言えば、フランも昨日は変なシャツを着ていた気がする。この良く分からない感性は姉妹共通のものなのだろうか。

 

 話が飛んでしまった。

 僕は口の中で行き場の無くなった息を溜めて、その後見ているのも恥ずかしくなったので俯いた。

 

「……良いセンスですね。光ってます。はい」

「ならアスファルトじゃなくて服を見なさい服を」

 

 共感性羞恥って本当にあるんだ……。友達居なかったから知らなかったな……。

 

「フラン、それでどうして来たの?」

 

 こいしの声に僕は顔を再び上げる。

 フランは「えっとね」と思い出そうとしているのか少し間を置くと、

 

「朝ごはん食べてたらお姉ちゃんが「あ、私もカタログ買ってないわ!」とか突然言い出すから遂にキ○ガイになっちゃったのかなぁ? とか思ってたんだけど、聞いたら何か意外に正当な理由っぽいから」

 

 と、少し気怠そうに言った。

 

「なるほどー、それでついてきたの」

「そうよ? でもこの生物が貴方たちを待つとか言い出したのは予想外だわ」

 

 嬉しそうに頬を緩めたこいしに微妙な顔になるフラン。

 ……レミリアはキチ○イだのこの生物扱いだのされていたのは気にしてないみたいだ。

 その心を読んでみると(フランがこういう口調なのも元のフランのせいだし、気にしてたらキリが無いわよねぇ)、とのこと。因みにフランを覚ってみれば意図的にあの単語を使っていたことが分かった───言わぬが華、だろう。

 

「何分くらい待ってたの?」

「うーん……10分くらいかしら。でも何か疲れたわ、買って早く帰りたい」

「じゃあフラン、一緒に行きましょ!」

 

 こいしはフランの手を引いて、開く自動ドアの中へと吸い込まれて行く。中から吹いてきた冷房の風がくすぐったいながら、少し心地良かった。

 にしても。見た目と違わず意外と勝手気ままに行動するよなぁ、あの子。

 

 二人の背中を追いながらレミリアがボソリと呟く。

 

「……お互い、苦労するわね」

「私はレミリアさんよりは苦労してません。こいしは良い子なので」

「うーん……物は相談なんだけどこいしの爪の垢、貰えないかしら?」

「煎じて飲ませても変わらないと思いますよ」

「そりゃそうよねぇ……」

 

 ……意外とさっきのフランの言葉、気にしてるのかもしれない。

 これからは少し優しく接しよう、そう決意しながら僕もアニソン流れる店内へと足を踏み入れた。

 

 

 




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