けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第28話『木の実探偵の事件簿』⑧

 

 

 クロスアイズの姿が変わっていた。

 灰色の短い髪に灰色のジャケット。灰色を基調としたチェックのミニスカート。ジャケットの肘から先が黄色に彩られている。

 クロスアイズ自身にはわからない事だったが、それはエゾオオカミというフレンズが本来している姿であった。

 つまり、今のクロスアイズはニホンオオカミスタイルではなく……

 

「エゾオオカミスタイル……というわけか」

 

 と、ダブルクロスが驚愕の呟きを漏らす。

 

「だが、見掛け倒しなら意味はないよ!」

 

―ダンッ!

 

 ダブルクロスが再び普通のフレンズの二倍のスピードで踏み込んだ。

 そのままクロスアイズへ掴みかかる。

 ダブルクロスのパワーは通常の二倍だ。

 多少のパワーアップをしたところで簡単に捻じ伏せられる……はずだった。

 

―ガシッ!!

 

 掴みかかって来るダブルクロスの手をクロスアイズの手が掴んでいた。

 

「くっ!」

 

 ダブルクロスはさらに逆の腕で掴みかかって来る。

 そちらの腕もクロスアイズは同じように正面から掴んで迎撃した。

 ちょうどお互いに両手を掴み合った力比べの格好となる。

 驚きはしたがダブルクロスとしては望む展開だ。

 単純な力比べだけなら相手に怪我をさせる心配なく本気を出せる。

 

「おおおおおっ!!」

 

 雄たけびと共にダブルクロスは全力でクロスアイズを捻じ伏せにかかった。

 が……。

 

「そっちがダブル(二人)ならこっちだってダブル(二人)だ!!」

 

 クロスアイズは真正面から受け止めていた。

 

「その力……! 野生解放の力だけじゃないね……!」

 

 ダブルクロスの見立てでは、パワーは互角だった。

 普通のフレンズが野生解放をしただけならこうはならない。

 エゾオオカミ本人が野生解放した事により、ニホンオオカミの“けものプラズム”とエゾオオカミの“けものプラズム”を同時に纏っているわけだ。

 つまり理屈の上ではクロスアイズ・エゾオオカミスタイルとダブルクロスは全く同じ事をしている。

 なので、クロスアイズとダブルクロスは互角のスペックを持っていると言っていい。

 この力比べも互いに互角なのだからどちらかが押し切る事もない。

 

―バッ!

 

 示し合わせたようにクロスアイズとダブルクロスは一旦離れて距離を取る。

 クロスアイズはダブルクロスと互角に渡り合って見せた。

 だが……。

 

「どうやら本当に遠慮はいらないようだね」

 

 ダブルクロスがはじめて構えを取った。

 実はダブルクロスは今まで手心を加えていた。

 本来壁や地面に獲物を叩きつけるような戦い方はイヌ科のそれだ。

 猫科の戦い方は一撃必殺が信条である。

 その戦い方を控えていた理由は二つ。

 一つはセルシコウを生け捕りにする為。

 そしてもう一つは可能な限り無駄な犠牲を出さない為だった。

 

「ここからは本気だ。せめて天国へ行ける事を祈るよ」

 

 ダブルクロスはクロスアイズという強敵を前にしてとうとう最後の覚悟を決めた。

 エゾオオカミという何の罪もないフレンズをその手に掛ける事を。

 即ち本当に引き返せない場所へ踏み出す事を。

 

「させねーよ」

 

 対するクロスアイズは先程と同じく空手の基本となる中段の構えをとった。

 

―ヒュウ……

 

 対峙する二人の間に風が吹いた。

 と同時、互いに踏み込む!

 

「覚悟したまえ!」

 

 ダブルクロスはサンドスターをかき集めた鋭い爪で斬撃を繰り出して来る。

 必殺のはずの斬撃はだがしかし……

 

―ガッ

 

 クロスアイズの払い受けで見事に受け流されていた。

 

「言っただろ? させねーって!」

 

 クロスアイズは流れるように正拳突きを繰り出す!

 彼女の拳は身体の流れたダブルクロスを捉えた。

 数歩たたらを踏んで後退するダブルクロス。

 クロスアイズの攻撃はダブルクロスの二倍の防御力をも越えてダメージを与えている。

 

「まだまだぁ!!」

 

 クロスアイズは後退したダブルクロスへ向けて踏み込み間合いを詰める。

 そこから再び正拳突き!

 

「ぐっ!?」

 

 直撃を受けたものの、今度はダブルクロスも喰らったままではいない。

 猫科の鋭い爪で反撃を繰り出して来る!

 が……。

 

―パァン!

 

 ダブルクロスの反撃は、クロスアイズの回し受けで受け流される。

 そして、クロスアイズは受けては突く。

 相手が下がれば踏み込んで突く。

 相手が踏み込んで来れば足捌きでいなして突く。

 空手の(かた)通りの動きでクロスアイズは次々に拳を叩き込む!

 何度目かの攻防でダブルクロスはたまらずに大きく後ろへ跳び退り距離を開けた。

 

「セルシコウに比べたら付け焼刃なんだろうけどな……」

 

 クロスアイズは残心から油断なく構えなおして続ける。

 

「付け焼刃でも刃は刃だ。お前に届くならそれで十分だぜ」

 

 クロスアイズはその心でもって野生解放を果たし、身体を強化してきた。

 そしてセルシコウと共に鍛えた技を最大限に活かしてダブルクロスを追い詰めている。

 心技体全てを兼ね備えて悪党の前に立ちはだかる。

 それこそが今のクロスアイズという正義の味方(ヒーロー)だった。

 

「確かにキミは強いよ。けれど……僕だって負けられない理由がある!!」

 

 ダブルクロスはまだ諦めていなかった。

 諦められるはずがない。

 この戦いにはルビーの復活がかかっているのだ。

 その瞳にバチバチと火花が散り始める。

 それは先程クロスアイズがやった事と同じだ。

 即ち……

 

「野生……解放ッ!!」

 

 である。

 ダブルクロスの瞳に青色の炎が灯った。

 ルターはセルリアンのいる別世界で激しい戦いを生き抜いてきたフレンズだ。

 当然野生解放だって出来る。

 そしてダブルクロスが野生解放したという事は、野生解放してようやく互角になったクロスアイズを身体能力面で再び大きく突き放した事になる。

 

「(こりゃあやべえな)」

 

 引き上げられた圧にクロスアイズの頬から一筋の汗が流れ落ちた。

 野生解放したダブルクロスが叩きつけてくる殺気もそれだけで吹き飛ばされそうな程だ。

 それに加えて、野生解放を先に使ったクロスアイズにはもう一つ問題があった。

 初めて野生解放を使ったクロスアイズは既にサンドスター切れが近い。

 そもそも野性が薄まったこちらの世界に住むフレンズであるエゾオオカミが野生解放した事だって奇跡に近いのだ。

 その奇跡だってあと一回の攻防を果たせるかどうか。

 

「(けどなぁ! 根性勝負だったら負けねーぞ!!)」

 

 クロスアイズが初めて野生解放を果たしたように、ダブルクロスだって『コネクトフレグランス』で変身するのは初めてだ。

 二人とも無理に無理を重ねているのは一緒だ。

 自分が苦しいなら相手も苦しい。

 最後に勝つのはより心が強い方だ。

 

「(とはいえ……また開けられた差を何とかしねーと)」

 

 野生解放を果たしたダブルクロスは圧倒的だ。

 セルシコウ程の技を持っていない以上、何とかして身体能力の差を埋めない事にはクロスアイズに勝ち目はない。

 

「(なんか……なんかねーのか!?)」

 

 せっかくここまで来たのだ。

 絶対に負けられないのだ。

 クロスアイズはなりふり構わず勝てる手段を模索する。

 その脳裏にやはり声が響いた。

 

『あるよ。なにか』

 

 その声は先程同じ事を告げたものと一緒だった。

 クロスアイズの背後に一人のフレンズの雰囲気がする。

 そして、その匂いは何度も嗅いできた『リンクパフューム』の香水と同じだった。

 背後のフレンズが耳元に囁く。

 

『あっちはさ、あんまり群れないトラ系の動物だけど、私達はオオカミだよ? 群れの力はこっちの方が上』

「なるほどな……あっちの1+1は20くらいありそうだけどよ……」

『私達は1+1で200だよ、200!!」

「10倍だな!」

『10倍だよ!』

 

 謎の声が何を言いたいのかクロスアイズは理解した。

 

「なら行くぜ! ニホッ(・・・)!」

『合点承知!!』

 

 クロスアイズは天へ向けて吠え猛った。

 

『「あぁおおおおおおおおおおんっ!!」』

 

 イヌ科のフレンズであるクロスアイズは遠吠えによって身体能力を引き上げる技が使える。

 仲間と共に吠え猛るのならばその効果はさらに増す。

 イヌ科という群れを作る動物の習性であった。

 これをクロスアイズは以前にクロスハートとクロスナイトに教わっている。

 今はエゾオオカミ自身と、彼女に力を貸すニホンオオカミ二人での遠吠えだ。

 これがクロスアイズ・エゾオオカミフォームでの必殺技、『月下咆哮』である。

 

「これでまた互角だぜ」

「試してみるかい?」

「来いよ」

 

 クロスアイズは伸ばした手で自らへ掌をクイと向ける。

 それはセルシコウがよくやる挑発でもあった。

 

「ならば行こう!!」

 

 ダブルクロスが両手の爪を長く伸ばした。

 と当時に彼女の放つ“けものプラズム”が周囲に吹き荒れる。

 その圧倒的な“けものプラズム”は周囲を青と黄色の薔薇で出来た花畑へと変えた。

 

「必殺……ッ!! 百花繚乱ッ!!」

 

―ザンッ!

 

 ダブルクロスが踏み込むと同時、青と黄色の薔薇が一斉に花びらを巻き上げた。

 それは花の嵐となってクロスアイズの視界を奪う。

 しかも花の香りで嗅覚すら封じられてしまった。

 これでは必殺の斬撃がどこから振るわれるのか全くわからない。

 

「(こっちもこっちでやれる事をやるしかねぇ!)」

 

 クロスアイズは腰だめに拳を構える。

 今なら。

 今の限界まで引き上げた身体能力なら出来そうな事があった。

 

「必殺……ッ! 漫画で見たヤツ!!!」

 

 クロスアイズは思い切り虚空へ向かって正拳突きを放った!

 

「遠いッ!?」

 

 ここまでの攻防を見守っていたセルシコウからは、その一撃が明らかに間合いの外だと見えた。

 つまりクロスアイズの攻撃は空振りに終わってしまうはずだ。

 が……。

 

―スパァアアン!!

 

 クロスアイズが放った正拳突きは空気を切り裂き、花の嵐を突き破って、そして必殺技の体勢に入っていたダブルクロスを打ち据えた。

 セルシコウはあまりの事に目を丸くする。

 クロスアイズは極限まで高めた身体能力で音速を越える拳を放ったのだ。

 その生み出す衝撃波が花の嵐を吹き散らし、その先にいたダブルクロスを打った。

 この技をセルシコウは話だけなら聞いた事がある。

 それは武の極致ともいうべき技の一つ……

 

「遠当て……!?」

 

 ……である。

 セルシコウは驚愕した。

 実際にその技を目にしたのは初めてだったのだから。

 だが、それよりも今重要なのはダブルクロスが衝撃波に打たれて体勢を崩した事だ。

 即ち千載一遇にして最後のチャンスである。

 セルシコウは叫ぶ。

 ヒーローに向けて。

 

「やっちゃいなさい! クロスアイズッ!!」

「おぉおおおおおおっ!!」

 

 クロスアイズは雄叫びで答えて間合いを詰め、大きく拳を振りかぶる。

 対するダブルクロスは崩れた体勢で驚愕に目を見開くだけだった。

 

「歯ぁ食いしばりやがれ! 悪党ッ!!!」

 

 形振り構わぬ全力の拳がダブルクロスの横っ面に吸い込まれた。

 そのままあらんかぎりの力を込めて振り抜く!

 

―ダァン!!

 

 あまりの勢いに、ダブルクロスの身体が地面に一度叩きつけられてバウンドした。

 

―シュウゥウ……

 

 地面に倒れ伏したダブルクロスの姿が元のルターへと戻った。

 ルターの様子を見るに、変身も解除されてもう立ち上がる気力すら残っていないようだ。

 つまり勝負あったのだ。

 

「くっ…………殺せ」

 

 どうにか転がって仰向けになると、ルターは開口一番言った。

 対するクロスアイズは変身を解除する。

 もっとも今日はエゾオオカミスタイルだったわけだから、単に元々着ていた空手道着姿に戻っただけであるが。

 変身解除したエゾオオカミは答えた。

 

「……そのセリフ。漫画以外で言ったヤツ初めて見たぜ」

 

 若干呆れ気味で。

 

「なっ……!? わかっているのかい!? 確かに僕の負けだ! だけど、僕は諦めたわけじゃない! ルビーを取り戻すまで何度でもセルリアンフレンズ君達を付け狙うぞ!」

 

 確かにこの場ではルターを撃退出来た。

 けれど彼女の言う通り、何も解決したわけではない。

 ルターが生きている限り、彼女はルビーという最愛のパートナーを取り戻すべくありとあらゆる手段を取るだろう。

 それを止めたいならば、ルターの言う通り彼女にトドメを刺す以外にない。

 エゾオオカミは答えの代わりにルターの側にしゃがみ込むと……。

 

「てい」

「いたたっ!?」

 

 早速腫れ上がりはじめたルターの頬をつっついた。

 

「ていてい」

「痛い!? 痛いからとりあえずやめてくれるかな!?」

 

 エゾオオカミが続けてほっぺたを連打でつつくのでルターは思わず悲鳴をあげた。

 どうしてそんな事をするのか分からずにルターはエゾオオカミを見上げる。

 その視線を受けてエゾオオカミは答えた。

 

「あのなあ、ルター。お前、『コネクトフレグランス』を使っただろう?」

「あ、ああ」

「って事はお前の望みはもう殆ど叶ってるはずだぜ」

 

 エゾオオカミが何を言っているのかわからずにルビーは「?」マークを浮かべる。

 それに対してエゾオオカミは何もない虚空を指さすと……。

 

「ちなみに、ニホのヤツがこの辺りにいる」

『やっほー、ルター。ルビー。久しぶりー』

 

 エゾオオカミの目にはニホンオオオカミがルターに向けて手を振っているのが見えていた。

 だが、どうやらルターにもセルシコウにもニホンオオカミの姿は見えていないようで戸惑い、若干引いてすらいた。

 

「す、すまない……。まさか打ちどころが悪かったのか……」

「いや、そういうんじゃねーよ!?」

 

 よほど打ちどころが悪かったと思ったルターは思わず謝っていたが、エゾオオカミも即座にツッコミを入れた。

 

「っていうかな!? 俺ですらニホの姿が見えてるんだから、お前だって“メモリークリスタル”のフレンズが見えるだろーが!?」

 

 今回、二人とも『リンクパフューム』と『コネクトフレグランス』の限界性能を引き出した。

 その副産物として、エゾオオカミはニホンオオカミの姿を見る事が出来るようになったわけだ。

 もっとも、ニホンオオカミの姿が見えて声が聞けるのは『リンクパフューム』を使っているエゾオオカミだけのようだが。

 だが、ルターには今のところルビーの姿は見えていない。

 

「とりあえず、よーっく見てみろよ。お前ら仲良しだったんだろ? だったら絶対見えるはずだぜ」

 

 エゾオオカミに言われてルターは仰向けになったまま目を凝らしてみる。

 

―ニュッ

 

 その視線を塞ぐように、ハニーブロンドの巻き髪をしたフレンズが顔を出した。

 見間違えようもない。

 彼女こそがルターのパートナーであったフレンズ……

 

「る、ルビー……」

 

 である。

 ルビーは両手を腰にあてて何やら怒っているようだった。

 

『ようやく声が届きましたのね? わたくし、ずぅううううううっと呼んでましたのよ?』

「ルビーなのかい?」

『わたくし以外の何に見えまして?』

 

 なんだか不機嫌そうだが、それでもずっと会いたかったルビーとの再会だ。

 いざ果たしてみると、何を言っていいのかわからないルターである。

 その様子を見てエゾオオカミも安心したように言う。

 

「とりあえず、一発思いっきりぶん殴って目を覚ましてやったら、お前も“メモリークリスタル”のフレンズが見えるようになるんじゃねーかと思ったぜ」

 

 本当に正しいかどうかは賭けだったが、どうにかエゾオオカミは探偵としての面目を保つ事が出来たらしい。

 

「あとは教授に任せておけよ。あの人、女ったらしで家事とかはダメダメだけど、研究だけはちゃんとするから」

 

 今はニホンオオカミもルビーも話せる人が一人しかいない状態だが、それもそのうち和香教授が何とかしてくれるに違いない。

 だから、これで一件落着なのだ。

 

『いいえ! 全然終わっていませんわよ!』

 

 ルターの目の前でルビーがぷんすか怒っていた。

 

『ルターさん! まずはエゾオオカミさんとセルシコウさんにちゃんと謝るのですわ!』

「そうだね。ルビーの言う通りだ。エゾオオカミくん。セルシコウくん。……ごめんなさい」

 

 本当なら正座して頭を下げたいところだったが、今はまともに身を起こす事すら難しい。

 だが、ルターはルビーに再び会うという目標を果たせたいま、無理に他者を害するような事をしなくていいのだ。

 そして、エゾオオカミが言う通り、ルビーの完全復活だっていつか和香教授が何とかしてくれるに違いない。

 だから二人に許されるのであれば、ルターは引き返せるのだ。

 

「まぁ、俺はセルシコウがいいならそれでいいぜ」

「わ、私もオオセルザンコウとマセルカに何もしないのだったら、それで……」

 

 エゾオオカミとセルシコウはお互いに顔を見合わせる。

 二人とも別にルターに恨みがあるわけでもないので謝ってもうしないというならそれでよかった。

 それどころか……

 

「あの、エゾオオカミ……? さすがにこれはやり過ぎだったのでは……」

「ああ。せっかくのイケメンが台無しだもんな……」

 

 と二人してルターの顔を見てヒソヒソしている。

 思い切り殴られたルターの頬が盛大に腫れ上がってしまっていた。

 

『ルター、変な顔ー!』

『ええ。ルターさんへのお仕置きとしてはちょうどいいかもしれませんわね』

 

 傍らでニホンオオカミとルビーも笑っていた。

 もっともその姿を見れるのは限られた人物だけだったが。

 エゾオオカミも自分がやった事とはいえ、イケメンであるルターの頬が大きく真っ赤に腫れ上がっているのに苦笑してしまう。

 

「まぁさ。ルターにその顔は似合わねーけどさ。悪党はもっと似合わねーよ」

 

 エゾオオカミがそう言うのなら、とセルシコウも頷いた。

 これで今度こそ一件落着である。

 ルターは2度の変身に加えて野生解放まで上乗せした上にこのダメージだ。さらに緊張の糸が切れたのか気を失ってしまった。

 エゾオオカミとセルシコウにはルビーの姿を見る事は出来ないが、きっとルターの側に付き添っている事だろう。

 それを確認したエゾオオカミはその場で大の字になって倒れた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 慌てて訊ねるセルシコウにエゾオオカミは顔だけをそちらに向けて答える。

 

「あんまり……だいじょばない……」

 

 こちらもこちらで緊張の糸が完全に切れた。

 そうなると襲って来るのはとんでもない疲労感だ。

 なんせエゾオオカミは本来出来るはずもない野生解放を使った上に、ニホンオオカミの力までも上乗せした。

 もう指一本動かせる気がしない。

 昼休みも終わりだから空手大会も再開しているはずであるが、のびているルターはもちろん、エゾオオカミも、そしてセルシコウもとても午後は参加出来そうにない。

 

「まぁ、仕方ありません。午後からの3回戦は揃って棄権ですね」

 

 セルシコウとしてもキンシコウとの決着をつける機会を失ったわけだが、命があっただけ有難いくらいの状況だったのだ。

 彼女の命を守ってくれたのはそこで動けなくなっているエゾオオカミというヒーローだ。

 それにしても、エゾオオカミは随分と情熱的な事を言っていたような気がする。

 

『惚れた女を守るのに命を懸ける理由がいるのかよ』

 

 エゾオオカミのセリフを思い出して思い切り顔を赤くするセルシコウ。

 あれは何かの勘違いだ。

 エゾオオカミがそんな事を言い出すとはとても思えない。

 だからその真意を問い質したら、いつものようにセルシコウが「そういうところですよ」と文句を言って、エゾオオカミから「だからどーいうところだよ」と返ってくるに違いないのだ。

 二人きりになって時間も余ってしまったいま、このまま微妙な空気のままでいるよりはさっさといつものように戻ってしまった方がいい。

 そう思ったセルシコウは寝転がったままのエゾオオカミに訊ねる。

 

「あ、あの。エゾオオカミ? さっきのは……その……」

「あー。あれか?」

 

 セルシコウがゴニョゴニョと「さっきの」が何を指し示すのか説明したので、エゾオオカミにもちゃんと伝わっているはずだ。

 エゾオオカミはしばらく視線を外してから、セルシコウの方へ顔を向ける。

 

「セルシコウ」

「はい」

 

 エゾオオカミがやたら真剣な顔つきをしているが、どんな勘違いがその口から飛び出すものかとセルシコウは身構えていた。

 そしてセルシコウが「そういうところですよ」と言ったら、やっぱりわかっていないエゾオオカミは「だからどーいうところだよ」と返してくるに違いない。

 エゾオオカミの答えはただ一言。

 

「好きだ」

 

 だった。

 しばらく時間が止まったように硬直するセルシコウ。

 見えていないとはいえ、隅っこに隠れて見守っていたルビーとニホンオオカミも同様だった。

 反応がなくて困ったエゾオオカミは続ける。

 

「だってよ。セルシコウはめちゃくちゃ強いし、料理もめちゃくちゃ美味いし、でもって仲間想いな上になんだかんだで面倒見もいいだろ? だから……」

 

 思わぬ連打にセルシコウの顔はどんどん赤くなっていく。

 これは勘違いで逃げられそうにない。

 何と返したものかと思い悩む間にエゾオオカミはさらに続けた。

 

「とりあえずさ。引っ越し前に試合してくれよ。俺が勝ったらセルシコウをいつか東京まで迎えに行く」

 

 セルシコウに勝てるならきっと何だって出来る。

 エゾオオカミとしてはそう思っていた。

 だからすぐには無理でも、いつかセルシコウを迎えに行く踏ん切りがつく。

 そう思っていた。

 だが、セルシコウの返事は……。

 

「あの……それ、私が勝ってもいい事が何にもないんですが……」

 

 と若干戸惑ったものだった。

 失敗したか!?と焦るエゾオオカミにセルシコウは苦笑と共に言う。

 

「初めてですよ? 私が戦う前から負けた相手は。後にも先にも今回だけです」

 

 セルシコウが負けさえすればエゾオオカミはいつか東京まで迎えに来てくれる。

 もうセルシコウには負ける理由はあれど、勝つ理由が一つもなかった。

 それを一言で言い表すなら……

 

「惚れた弱み、ですね」

 

 ……という事である。

 これ以上言い募らずともお互いに気持ちは通じていた。

 セルシコウが自分の手をエゾオオカミの手に乗せると、握り返して来る。

 全ての務めを果たしたエゾオオカミは安心したように気を失った。

 その寝顔を見てセルシコウは呟く。

 

「もう。エゾオオカミ。そういうところですよ」

 

 返事はなかったが、セルシコウは頑張ってくれたヒーローの頭を優しく撫でて労うのであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 夕暮れ時。

 もう空手大会はすっかり終わってしまった。

 結局、三人とも午後からは体調不良で棄権という事にした。

 大会が終わるまで休んでようやくいくらか身体を動かせる程度に回復したエゾオオカミ。

 ルターの方はまだダメージが深刻なようで一人で歩くのが覚束ないようだった。

 なので、とりあえずルターを和香教授のところへ送り届けないといけない。

 

『ルターさん……。すっかりお邪魔虫ですわね』

「わかっているから言わないでおくれ……」

 

 ルビーに言われて憮然と返すルター。

 いま、ルターは両側からエゾオオカミとセルシコウに肩を貸されてようやく歩いている状態だった。

 告白叶った出来たてカップルの間に挟まっているルターの心境は針のムシロに座っている気分だ。

 いたたまれなくてルターは……

 

「……ごめんなさい……」

 

 ……しか言えない。

 散々聞かされたエゾオオカミはとりあえず話題を変える事にした。

 

「にしても、エゾオオカミスタイルは封印だな」

 

 なんで!?

 とセルシコウもルターもエゾオオカミを見る。

 ダブルクロスにも匹敵する身体能力を見せた切り札をどうして封印してしまうというのか。

 

「いやー、これ使うとめちゃくちゃ疲れるし、身体じゅう痛いし……あと……」

 

 あと? と続く言葉を待つセルシコウとルター。

 

「正体バレるし」

 

 確かにクロスアイズ・エゾオオカミスタイルの顔は普段のエゾオオカミそのものだ。

 さすがにその姿で人前に出たら大騒ぎになってしまいそうである。

 

「だから、ちゃんと技も鍛えておかねーとな」

 

 また強敵に出会った時の為にもエゾオオカミスタイルに頼らなくてもいいように実力をつけておかないといけない。

 そう言うエゾオオカミにセルシコウも頷く。

 

「そうですね。残りの期間みっちり仕込んであげます」

 

 言って二人して顔を見合わせた後に赤くなってしまった。

 出来立てカップルはまだまだぎこちない。

 間にルターが挟まっている状態ではなおさらだった。

 ルターにとっては何とも居心地の悪い時間が過ぎてようやく和香教授達が暮らすマンションへ到着。

 

「さて。そんじゃあ話を合わせろよ」

 

 エゾオオカミは今回の一件を丸く納める為に一計を案じていた。

 果たして上手くいくかどうか。

 もうひと踏ん張りである。

 エゾオオカミとセルシコウとルターはエントランスをくぐってエレベーターに乗り和香教授達の部屋へ向かう。

 ルターとしては一日ぶりだけれど、もう戻る事はないと思っていた場所である。緊張にゴクリと喉を鳴らした。

 

「さぁて……ただいまー」

 

 そんな緊張を余所にエゾオオカミはドアを開けた。

 ちなみにエゾオオカミもゲスト登録をしてあるので顔パス状態である。

 

「あ、おかえりー」

 

 と迎えに出て来たのは夕飯準備をしていたエプロン姿の菜々であった。

 

「ってどうしたの三人とも!? めっちゃボロボロじゃん!?」

 

 菜々は三人の姿を見て驚いた。

 みんなどこかしら怪我をしているように見えたからだ。

 特にルターなんて頬っぺたが腫れ上がっているではないか。

 さて、ここからが正念場だ、とエゾオオカミは口を開く。

 

「いやさあ。空手大会にセルリアンが現れてさ。どうにか三人で倒したんだけど、大変だったんだぜ。なあ?」

 

 セルシコウとルターに同意を求める。

 そういう事か、と理解したセルシコウも話しを合わせた。

 

「そうですね。ルターがいなければ危なかったかもしれません」

「そうなの!? ともかく三人ともあがって! 手当するから!」

 

 菜々はバタバタと慌てて引き返す。

 

「ちょっとカラカルー! 救急箱どこだっけー!?」

 

 そこからはどったんばったん大騒ぎである。

 怪我して現れたエゾオオカミ達を手の空いてるみんなで応急処置が始まった。

 ただ一人、手を出すとかえって事態を悪化させそうな和香教授だけは見守っていたが。  

 その和香教授とルターの目が合う。

 ルターは正座の姿勢になると深々と頭を下げた。

 

「その……。和香さん。ごめんなさい」

「いいさ。ちゃんと帰って来てくれたんだから」

 

 事情を知らない菜々やカラカル、それにルリやアムールトラも「?」マークを浮かべる。

 ルターの事は和香教授が秘密にしていたのだ。

 だから菜々達としては一日無断外泊でフラっとどこかに行っていたように思っていた。

 

「まったく。ご飯いるかいらないかくらい連絡寄越しなさいよね」

 

 とカラカルがルターの背中を叩く。

 ルターが姿を消していた間の出来事を深く追求されるとボロが出かねない。

 だからエゾオオカミは何とかして話題を変える事にした。

 

「そうだ。ルリ。ルターもクロスジュエルチームに入れてやってくれよ」

「え!?」

 

 いいの!?とルリの瞳がキラキラ輝いた。

 

「なんせルターはめちゃくちゃ強いからな。手伝って貰えたら楽になるぜ」

 

 なあ、とセルシコウに同意を求めるエゾオオカミ。

 セルシコウは急に振られてコクコク何度も頷いた。

 それを見てエゾオオカミはルターの肩に手を置くとイタズラっぽい笑みを浮かべて続ける。

 

「とりあえず、名前、決めないとな?」

 

 エゾオオカミはルターの耳元に「ダブルクロスも似合わねーし」と囁く。

 クロスジュエルチームの一員になるなら裏切りの意味を持つダブルクロスは相応しくない。

 

「そっか! じゃあルターさんの分も名前考えないとね!」

 

 早速ルリがやる気をみなぎらせていた。

 ちなみに、クロスアイズの名前が決まるまでもかなりの時間が掛かった。

 きっとルターの名前決めも難航するだろう。

 だが、このくらいの苦労を押し付けるくらいなら意趣返しとしてはささやかな物である。

 一先ずの手当を終えたルリは早速ルターの名前を決めようとワイワイはしゃぎはじめた。

 盛り上がるルリを後目に、エゾオオカミはその輪を外れると和香教授に言う。

 

「教授。依頼完了だ」

「ありがとう。木の実探偵」

 

 これで木の実探偵の事件は終わりを迎える。 

 

「ったく、あんなハードな依頼はこれっきりにしてくれよ?」

 

 エゾオオカミはかなり大変だったが、最高の結果を残した。

 だから和香教授はそれに報いたいと思う。

 

「そうだね。まさか今回の報酬が木の実1個では割に合わなさすぎる。私に出来る事は何かないかい?」

 

 それにしばらく考えるエゾオオカミ。

 

「ちなみに、それって何でもいいのか?」

「私に出来る範囲で頼むよ」

 

 言ったな? とエゾオオカミはニヤリとする。

 そしてルターが変身後に名乗る名前を考えてああでもないこうでもないと悩むルリ達へ大きな声で言った。

 

「おーい、ルリ。今度教授がさ! 今度みんなを『わくわくプールランド』に連れてってくれるってよ!」

「本当!? お母さんっ!」

 

 ルリがまたまたキラキラした目を和香教授に向ける。

 それに若干気圧されつつも和香教授は頷いた。

 

「ああ。そのくらいならお安い御用さ」

 

 だが、まだエゾオオカミの我がままは終わらない。

 

「当然ユキヒョウ達と、あとともえ先輩達もだろ? あとさ、ついでに商店街のキタキツネとかギンギツネも誘っていいか?」

 

 思った以上の大所帯になりそうだが、それでも今回の依頼への報酬には安いくらいだ。

 和香教授はもちろんだ、と頷いてから返事する。

 

「せっかくだ。セルシコウ君達もどうだい?」

 

 と。

 それにセルシコウは一瞬固まる。

 なんせ『わくわくプールランド』が正式オープンする頃には彼女達は東京へ引っ越してしまっているのだ。

 だが、それをこの場で告げるのは空気が重たくなってしまう。

 そうセルシコウが迷っていると和香教授が意外な事を言い出した。

 

「キミ達だって来週からはお隣さんになるのだろう? ならば遠慮はいらないさ」

 

 来週から隣同士ってどういう事だろう?

 とセルシコウの頭に「?」マークが浮かぶ。

 だがその疑問に答える前に……

 

―ピンポーン

 

 玄関チャイムが鳴った。

 

「ああ、来たわね」

 

 カラカルが玄関まで出迎えに行く。

 訪ねて来たのはオオセルザンコウとマセルカ、それにハクトウワシとユキヒョウだった。

 

「あら? セルシコウももう来てたのね」

 

 ハクトウワシはリビングにやって来るとそう言った。

 それはこちらのセリフだ、と言いたいセルシコウだったがどういう事か分からず口をパクパクさせていた。

 そこに今日の料理を終えた菜々がやって来る。

 

「はい! 今日はハクトウワシさんから引っ越し蕎麦をいただいたので皆さんをお呼びしちゃった!」

 

 でん、とテーブルに大皿いっぱいに盛られたざる蕎麦が置かれる。

 付け合わせの天ぷらはカラカルが運んでいた。

 

「え、ええと……」

 

 ハクトウワシが引っ越し蕎麦を振舞ったという事は、つまり彼女はこのマンションにお引越しするという意味になる。

 まさか連続で二回も引っ越しをするわけはない。

 どういう事だ……とセルシコウは説明を求めてオオセルザンコウを見た。

 

「そういえばセルシコウには今日説明するつもりでいたんだった」

 

 驚くセルシコウにオオセルザンコウが説明を続ける。

 

「来週から私達はこの部屋の隣に引っ越すんだ」

「そうそう。ずーっと4人で暮らすにはあのアパートじゃさすがに手狭だったものね」

 

 ハクトウワシもうんうん頷く。

 

「本当は夏休みが終わる前に引っ越し出来れば一番よかったんだけど、色々と仕事が立て込んじゃって来週になっちゃったの」

「マセルカはあっちも好きだったけど、こっちも好き! あとルリ達も近くにいるし!」

 

 そうやって盛り上がるハクトウワシとマセルカ。

 セルシコウにもだんだんと話が見えて来た気がした。

 

「じゃ、じゃあ東京へ、っていうのは……」

 

 ようやく絞り出したセルシコウにハクトウワシは事もなさげに言った。

 

「ええ。1週間くらい出張で東京へ行く事になったの。お土産、何がいい?」

 

 と。

 セルシコウは必死で思い出す。

 そういえば、ハッキリと東京へ引っ越すと聞いたわけではない、と。

 つまりだ。

 ハクトウワシ達が和香教授達が住むのと同じマンションへ引っ越しするという話と、ハクトウワシが東京へ出張に行くという二つの話を混同してしまっていたわけだ。

 

「あ、あはは……」

 

 もうセルシコウは笑って誤魔化すしかなかった。

 そんなセルシコウの肩にエゾオオカミの手がポンと置かれた。

 

「おい……セルシコウ……? どういう事だ?」

 

 エゾオオカミももう何となく話が見えていた。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

 慌てて謝るセルシコウ。

 おそるおそる頭をあげてエゾオオカミを見ると……。

 ぷるぷる震えていた。

 もしかして怒りのあまりに身を震わせているのかと、その顔を覗き込むと……

 

「くくく……あはははははっ!」

 

 とエゾオオカミは大笑いしだした。

 

「だよなぁ……。たまーにそういうトコあるもんな。セルシコウは」

 

 ひとしきり笑ったエゾオオカミは不思議と怒る気にはならなかった。

 夏休み前の中学生空手大会でも恥ずかしい早とちりをしてしまった前科もある事だし。

 それに今回はエゾオオカミ一人しか被害者もいない。

 その上セルシコウとこれからも一緒なのだ。

 怒るよりも安心が先に来る。

 そして何より、エゾオオカミはそんなセルシコウの事だって好きになったのだ。

 つまり……。

 

「あー……。なるほど、コレが“惚れた弱み”ってヤツだな」

 

 惚れちゃったのだからしょうがない。

 あばたもえくぼ、というヤツだ。

 

「はい。“惚れた弱み”ですね」

 

 セルシコウが言って、エゾオオカミと二人して顔を見合わせて笑う。

 そんな二人の微妙な変化をユキヒョウが目ざとく見つけた。

 

「ふぅむ? お二方よ。何かあったのかの?」

 

 そんな質問にエゾオオカミはあっさりと答えた。

 答えてしまった。

 

「ああ。セルシコウに告白した」

 

 隠してもしょうがないし、してしまったものもしょうがない。

 なのでエゾオオカミ的には当たり前だったのだが、その行為はピラニアの群れに餌を投げ込むのに等しい。

 まず、オオセルザンコウとマセルカが……。

 

「ほ、本当か!? エゾオオカミ!? よくやった!」

「どうしちゃったの!? エゾオオカミ! またまた見直しちゃったよ!」

 

 と凄い勢いで褒めたたえている間に、ユキヒョウが素早く指揮を執った。

 

「うむ。ルリ。アムールトラ。二人分のお誕生日席を用意じゃ」

「はい!」

「まぁ、コレは話を聞かんわけにはいかんからなぁ……」

 

 ルリがノリノリで準備を始めて、こういう話に興味がなさげなアムールトラまでもがいそいそと手伝いを始める。

 ことがエゾオオカミとセルシコウの恋バナならば興味津々である。

 クロスジュエルチーム司令塔であるユキヒョウはさらに指示を下す。

 

「教授殿はエゾオオカミの家へ連絡するのじゃ。後で送り届ける、とな」

 

 どうやらノリノリなのはルリ達ばかりではなかったらしい。和香教授に至っては……

 

「ふ……。既にエゾオオカミ君の母君には連絡をしておいたよ。エゾオオカミ君もいるからお蕎麦食べに来ませんか、とね」

 

 と親指立てつつ携帯電話をしまっている始末だった。

 珍しく素早い上に的確な行動にユキヒョウも親指を立てて「ナイス」と無言で頷く。

 その間にオオセルザンコウとマセルカがそれぞれエゾオオカミとセルシコウを用意されたお誕生日席に半ば無理やり連行していく。

 その場に集まったほぼ全員にキラキラを通り越してギラギラした目で迫られる。

 エゾオオカミは助けを求めてルターの方を見た。

 

「ああ。この僕など足元にも及ばない程に情熱的な愛の告白だったよ」

 

 ルターは事もあろうにハードルをさらに上げて来た。

 

「そこのところ詳しく!!」

 

 もうほぼ全員が喰いつかんばかりにエゾオオカミとセルシコウに迫る。

 普段は冷静な菜々やカラカル、和香教授までもが加わっている始末だ。

 このノリに唯一ついていけていないのはセルシコウの保護者であるハクトウワシだった。

 ハクトウワシはその理由を一言で言った。

 言ってしまった。

 

「っていうか、あなた達ってもうお付き合いしてたんじゃないの?」

 

 と。

 

「「「「「「「そこからかーい!!!」」」」」」

 

 ほぼ全員のツッコミが重なった。

 こうして木の実探偵最大の事件は幕を閉じる。

 当然エゾオオカミとセルシコウはかなり遅い時間まで根掘り葉掘り尋問を受けた事を付け加えておく。

 

 

 

 けものフレンズRクロスハート第28話『木の実探偵の事件簿』

 ―おしまい―




【情報公開:ダブルクロス】

 パワー:??? スピード:??? 防御力:??? 持久力:E

 マルタタイガーのフレンズであるルターが『コネクトフレグランス』を使って変身した姿。
 『コネクトフレグランス』に取り付けられた彼女のパートナーであるゴールデンタビータイガーことルビーの“メモリークリスタル”から力を借りている。
 本来強すぎる“けものプラズム”が反発しあうところを、抜群の相性で変身を成し遂げている。
 なお、変身後はルビーと同じく髪型は豪奢な巻き髪になり、オレンジのブレザーと同じ色を基調としたチェックのミニスカート姿になる。
 元々持っているルターの力を上乗せしている為、そのスピードもパワーも段違いである。
 ただし、二人分の“けものプラズム”を纏っている為、消耗は激しく長時間の戦闘には向かない。
 必殺技は、青と黄色の薔薇で出来た花吹雪を巻き起こし、相手の視界と嗅覚を奪って放つ斬撃『百花繚乱』である。


【情報公開:クロスアイズ・エゾオオカミスタイル】

 パワー:??? スピード:??? 防御力:??? 持久力:D

 通常のクロスアイズ・ニホンオオカミフォームから、エゾオオカミが野生解放する事でクロスアイズ・エゾオオカミスタイルになる。
 変身後のクロスアイズ・エゾオオカミスタイルは顔も髪型もエゾオオカミそのものだ。
 その服は灰色のジャケットに肘から先が黄色の布で飾られている。
 ミニスカートも灰色を基調としたチェック柄になっている。
 一時的にエゾオオカミ自身の力とニホンオオカミの力両方を使っている為、その力はダブルクロスにも匹敵する。
 必殺技はエゾオオカミとニホンオオカミ二人で吠え猛る事で身体能力を劇的に高める『月下咆哮』である。


【あとがき】

 このお話を書き終わったワイ「その二人……あとでラブラブんなるで」
 第13話⑦を書いてた頃のワイ「嘘やん」

 エゾオオカミとセルシコウ。
 なんでかいつの間にかいい感じになってました。
 それはさておき、クロスハートの中で一番優しいキャラは誰なんだ、と聞かれた場合、私はエゾオオカミを推します。
 そりゃあみんな優しいところがあるのですが、優しさというのを誰かを思いやれる事だと考えた場合、一番誰かを思いやっていたのがエゾオオカミだと思います。
 そんな彼女が少しずつ強くなって今回最大の事件に巻き込まれてしまったわけですが、いかがでしたでしょうか。
 私が考えるすげー燃えるシチュエーションというのをふんだんに全力投入した次第です!
 ダークヒーローとのダブル変身とかいいよね……。
 ヒロインのピンチに駆け付けてこそのヒーローだよね!
 そして諦めずに立ち上がってこそのヒーローだよね!
 というわけで何かもー色々と自分の中にあるカッコいいを最大限に投入したお話でした!
 もともと、エゾオオカミに関しの資料は「木の実100個分の賞金首」くらいしかなくて、クロスハート世界における賞金首って何だろう…となった挙句、木の実一つで依頼を解決する「木の実探偵」エゾオオカミが誕生しました。
 そんな木の実探偵のカッコいいところを楽しんでいただけたら嬉しいです!
 次のお話は……何をしようかな。
 やや燃え尽き症候群なので少し充電させていただくかも……
 早いうちにお話し考えつくように頑張ります!
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