不思議な力でフレンズの姿に変身する能力を得た少女、ともえ。
異世界からやってきたイエイヌと共にセルリアンと戦う事になった。
ともえ達の学校に編入されたイエイヌは部活勧誘で引っ張りダコに。
熾烈な勧誘合戦からともえとイエイヌを救ったのはオイナリ校長先生の会を名乗るキツネのフレンズ達だった。
彼女達と一緒に色鳥町商店街へと繰り出すともえ達。
そんな商店街で、またしてもセルリアンと遭遇する。
からくもこれを撃退し、人々はあらためて謎の変身ヒーロー、クロスハートとクロスナイトの名を知る事となった。
クロスハート変身フォーム紹介
名称:オイナリサマフォーム
パワー:B スピード:B 防御力:B 持久力:E
特徴:神通力
必殺技:キツネのヨメイリ
白い袖なしの着物のような和装に白のミニスカート。
そして肘から先に振袖をつけたような衣装になる。左太もものみに巻かれた飾り紐が何とも艶めかしい。
基本スペックはそこまで高くなくしかも消費も激しい。
だが、その分特殊能力は強く、神通力で狐火を操って戦う戦闘スタイルが得意だ。
必殺技の“キツネのヨメイリ”は周囲に狐火を浮かべて結界を作り出す技だ。
名称:キタキツネフォーム
パワー:B スピード:A 防御力:B 持久力:A
特徴:磁場感知
必殺技:マグネティックサーチ
狐色の袖なしスカジャンに白のミニスカートにニーソックス、という衣装。
首元に飾りのヘッドフォンを掛けている。
キツネの持久力と優れた感覚器官が特徴で防御能力の高い戦闘フォームだ。
必殺技の“マグネティックサーチ”は磁場すら感知すると言われるキツネの感覚器官を総動員した索敵技だ。
けものフレンズRクロスハート第6話 『キラキラのcocosuki』(前編)
放課後の美術室。
ここが美術部の活動場所である。放課後の今、ここにいるメンバーはともえ、萌絵、イエイヌの3人とラモリさん。
それにかばん生徒会長とサーバルだった。
今はサーバルをモデルに絵を描いているともえと萌絵。
「ふぉおおお!?いいよ、サーバルちゃんっ!めっちゃ絵になるぅうう!」
「うんうん!ほんとだね!ほんとに絵になるぅうううう!」
一方でイエイヌは少しお疲れモードであった。
「大丈夫ですか?イエイヌさん。もしかして昨日商店街でセルリアンと戦ったせいで疲れてるんじゃ…。」
心配そうにたずねるかばんにイエイエヌはゆっくりと首を振る。
「いえ…。昨日の夜はまさかあんなに毛皮を脱いで着替えまくる事になるとは思ってなくて…」
夕食の後にみんなで宿題してその後はイエイヌの着せ替え大会になってしまった昨夜。春香も加わってあり合わせの服で即席ファッションショーが開催されたのだ。
服を着替えるという事に慣れていないイエイヌは構って貰えるのは嬉しかったがそれでも大分気疲れしてしまっていた。
「まあ…その…。いっぱい撫でられたり褒められたりして嬉しかったんですけど…。」
「あはは、わかります。楽しい事でもやり過ぎると疲れちゃいますもんね。」
ちなみに、イエイヌの手元には各運動部が提出してきた勧誘パンフレットがあった。先ほど美術室にかばんが来た時に一緒に持ってきたものだ。
一つ一つ丁寧に読んでいたイエイヌではあるがやはりともえと萌絵と一緒に部活がしてみたい、というのが本音である。
昨日はなんだかんだで楽しかったし。
やはりともえと萌絵と一緒にいたい。
それがイエイヌの一番の願いだった。
一方でともえと萌絵はといえば、昨日さんざんイエイヌをスケッチをしたにも関わらずまだその熱は冷めやらないようであった。
昨日オイナリサマフォームを使ってかなり疲労していたはずのともえも今朝にはすっかり元気になっていた。
どうやら今はファッション雑誌やネットの衣服の画像を参考にして絵のモデルが着たらどうなるか、というのを想像してスケッチするのにハマっているようだ。
今はサーバルがモデルとなってどんな服を着せてみるか、と想像の翼を広げている真っ最中なのだ。
どうやらちょうど二人の絵が描き上がったようである。
「かばんちゃん、どっちのが好き?」
三人でかばんとイエイヌの元へ駆け寄るともえと萌絵とサーバル。ずい、とスケッチブックが差し出されていつもの優しい笑顔でそれを眺めるかばん…
と…。
「「「かばん…ちゃん?」」」
ピタリ、と時が止まったかのように固まるかばん。しばらくじーっと手の中のスケッチブックを見る。
「こ…。これは選べませんよっ!?!?」
しばらく固まってたと思ったらバッと顔をあげるかばん。
「だってどっちも可愛いじゃないですかっ!こっちのエプロンドレスは正統派で可愛いですしサーバルちゃんの可愛い尻尾につけたリボンも可愛いですし、こっちのボーイッシュなサーバルちゃんもいいです!いつも元気いっぱいなサーバルちゃんのイメージにピッタリで可愛いですっ!」
一気に言い切ったかばん。ハッと気が付くとともえと萌絵がやけにニヤニヤしてかばんを見ていた。
「いやー、かばんちゃん…。アツイのろけをありがとう。お姉ちゃんは応援しちゃうよ。」
「うんうん、普段はサーバルちゃんがかばんちゃんを褒めまくってるのは聞くけど逆って珍しくてなんだか嬉しくなっちゃうよ。」
萌絵とともえは二人して両側からポム、と肩を叩く。茹でタコのように一気に顔を赤くすると両手で顔を覆うかばんであった。
「い、一応お外ではあんまりしないように気を付けてたんですが…。あぅうう…。」
ああ、アレで一応気を付けてたのか…。家ではどんなことになってるのか、と逆の意味で戦慄を覚えるともえと萌絵。
「おうちだといっぱい可愛いって言ってくれたり褒めてくれたり撫でてくれたりするよ!」
とあっさり暴露してしまうサーバル。さらに赤面してしまうかばんの両肩をポムポム、と何度も叩いて頷くともえと萌絵。かばんにとっては思わぬ大惨事であった。
「あ、あのっ!」
そこまで沈黙して成り行きを見守っていたイエイヌ。ここに来て挙手である。
「も…、もしかしてかばんさんとサーバルさんは…つ、つがいだったりするのでしょうか…?」
まさかのイエイヌから放られた爆弾。微妙に知識の偏りが見られるイエイヌだけに決して悪気があるわけでもないのはわかる。
だがそれでもかばんの顔はさらに真っ赤になった。
「えっとねー…。私とかばんちゃんはね、パートナーなんだよ。つがいーっていうのはどうかなー。少しだけ違う気もするかな?」
そんなイエイヌに少し考え込むようにして答えるサーバル。イエイヌもまたその答えに考え込む。
「パートナー…ですか…。」
その言葉に何か思うところがあるのかしばらくの間考え込んでいるイエイヌ。
そんなイエイヌの耳元に顔を寄せるサーバル。
「あのね、別にパートナーって呼べるくらい大好きな人が二人いても平気だと思うよ。」
こしょこしょ、と耳元で囁かれる言葉に顔を赤くするイエイヌ。
「イエイヌは頑張り屋さんだけどね。ともえちゃんと萌絵ちゃんも私もかばんちゃんもいるから何か迷ったりしたらいつでも言ったらいいよ!いつでも助けるよっ!」
ふんすふんす、と鼻息荒くイエイヌに詰め寄るサーバル。イエイヌはそんな彼女に何とも言えないような笑みを見せる。
嬉しさ半分、色々見透かされてるような居心地の悪さがほんの少し、あとサーバルは頼りにもなるけど案外ドジなトコもあるもんなあ、という心配の気持ちが小さじ三杯分くらいのなんとも複雑な感情だった。
だが、悪くないな、なんて思うイエイヌである。
「大丈夫!私、庶務だから!」
ビシィ!と親指立ててみせるサーバル。
「はい、ボクも生徒会長ですから。」
ふふ、と笑いながらまだ少し顔の赤いままのかばんも続ける。
「あ、じゃあアタシはお姉ちゃんだからっ!」
で、萌絵が続いて…。
「え!?あれ!?アタシなんだろう!?えっとえっと…アタシは体育だけは5確定系女子だからっ!」
無理やり、という感じで続くともえ。
「そこは通りすがりの正義の味方だから、とかじゃないんですね。」
くすくすと笑いを堪え切れない様子のイエイヌ。そんなイエイヌをみんなほっこりと眺めるのだった。
「さて、それじゃあボク達もそろそろ行きますね。……あ、その前に…」
と去り際のかばんとサーバル。美術室をお暇する前に一度振り返る。
「えっとですね。今度のお休みとか空いてるようでしたら、ともえさん達と一緒に行きたいところがあるんです。一緒に行きませんか?」
その言葉に一度顔を見合わせるともえと萌絵とイエイヌ。
「「もしかして…。デートのお誘い?」」
「違いますよっ!?」
声を揃えるともえと萌絵に即座にツッコミいれるかばん。そんな三人を呆れ半分で見守るイエイヌであった。
の の の の の の の の の の の の の の
そして生徒会の二人が帰っていった美術室。さっきまで賑やかだったのが二人減っただけで少しばかり寂しくなってしまった気がする。
「今日はお母さんが早く帰って来なさい、って言ってたしそろそろおしまいにして帰る?」
「そうダナ。春香モ待っているハズだから早いトコ帰ってヤレ。」
と提案する萌絵にラモリさんも頷いている。
実は昨夜、イエイヌの着せ替え大会の際に彼女の服を買いにいく案が思いのほかすんなりと通ってしまったのだ。
春香も大いにノリ気だった、という原因もあるがやはりイエイヌの衣服を揃えるというのは重要な事だからであろう。
今日の放課後にみんなで買い物に繰り出そうという計画になっているのだ。
なので、少し早めではあるが美術部の今日の活動はこのくらいにして帰り支度を始めた三人+ラモリさん。
と……。
―ダッダッダッ、
と誰かが廊下を走ってくる音が近づいてきて、勢いよく美術室の扉が開け放たれる。
最初、かばんとサーバルのどちらかが忘れ物でもしたかな?なんて呑気に考えていたともえであったが現れた人物を見て軽い驚きを覚える。
肩で息をしながら美術室のドアを開けたのはオイナリ校長先生の会のメンバー、キタキツネであった。
しばらくの間、息を整えるように開けたドア枠にもたれるキタキツネにともえ達も心配そうに駆け寄る。
「だ、大丈夫?キタキツネちゃん。」
しばらく肩で息をしていたキタキツネであったがようやく顔をあげる。
「た、助けて!オイナリ校長先生の会が乗っ取られちゃう!」
ようやく出てきた言葉に目を白黒させるともえ達。
「ともかく一緒にきてえええっ!」
ともえの腕をぐいぐい引っ張るキタキツネ。その剣幕に押されてとりあえず、とキタキツネについていくともえ達である。
そうして手を引かれてやって来たのは昨日お世話になった茶道部室である。
再び茶道部室に戻って来たキタキツネ。ガラリ、と茶道部室になっている和室の扉を開け放つ。
「あら、お帰り。キタキツネ。」
そこには3人のフレンズと一人の女子生徒がいた。一人は昨日も会ったギンギツネ。残る3人には見覚えがない。
一人は灰色がかった長い髪が印象的なフレンズだ。
そしてその後ろには豊かな体躯の猫科フレンズとやたらと小さな青みがかった髪色の少女がいた。こちらも髪が長く二つ結びの三つ編みに前髪で片目が隠れていた。
4人とも座布団に正座して湯飲みでお茶を傾けている最中で特に何か剣呑な空気があるわけではなさそうだ。
「えっと…、オイナリ校長先生の会が大変だ、って聞いてキタキツネちゃんに連れてこられたんだけど…。」
と戸惑いの声をあげるともえ。
「あ、ともえ先輩に萌絵先輩、それとイエイヌ先輩も来てくれたんですね。とりあえずどうぞどうぞ、上がって下さい。」
ギンギツネに促されるままに上がり口で上履きを脱いで和室に上がる三人とラモリさん。
「で…、どういうこと?」
座布団に座っても未だに状況が飲み込めないともえ達。
「それはわらわの方から説明致すのじゃ。」
何とも古式ゆかしい喋り方で話し始めたのはギンギツネの前に座っていた長い髪のフレンズだった。
「わらわの名はユキヒョウ。1年B組なのじゃ。」
「あ、わたし、1年B組の宝条 ルリです。」
「同じく1年B組、宝条 アムールトラや。」
長い髪のフレンズがユキヒョウ、豊かな体躯の猫科フレンズがアムールトラ、青みがかった髪の少女がルリ、というらしい。
そんな自己紹介にそれぞれ自分達も自己紹介を返すともえ達。
はて?なんだかイエイヌがいつもよりも緊張しているように見えるのは気のせいだろうか…。その視線がアムールトラと名乗ったフレンズへと注がれている。
「わらわは実はこの学校には茶道部があると聞いて入部できるかと思ってきてみたのじゃ。ちなみにこちらの二人は付き添いで見学じゃ。」
それが何でオイナリ校長先生の会が乗っ取られる、という話になるのだろうか。
その疑問をもってキタキツネを見るともえ達。
「だ、だって…。えっと、えっと…。ギンキツネお願い。」
上手く言葉に出来なかったキタキツネ。ギンギツネに説明をまるっとパスしてしまう。
「そうね…ここは本当は茶道部で本当の茶道部員が入っちゃったらオイナリ校長先生の会がなくなっちゃう、って思ったのかしら。」
ギンギツネの説明に我が意を得たり、とばかりに何度も頷くキタキツネ。
「なるほど、わらわ達が来て用件を告げた途端すっ飛んでいくから何事かと思ったがそういう事であったか。」
こちらもうんうん、頷いているユキヒョウ。
「その様子だと大分走ったようやし、とりあえず茶飲んで落ち着き?ルリ、キタキツネと先輩方にもお茶淹れたって。」
「はーい、アムさん、任せて。」
小さな女の子がポットからお湯を急須に注いで少し待ってから新たな湯飲みにお茶を注いでいく。
「ともかく、勘違いさせたようで悪かったのお。別にオイナリ校長先生の会、とやらを潰すつもりで来たのではないのじゃ。」
お茶が行き渡った頃に再び話し始めるユキヒョウ。まずはキタキツネに頭を下げてみせる。
「あ…、ええと、ボクも話も聞かないで急に飛び出していってごめんなさい…。」
頭を下げられてはキタキツネも意地を張る事に罪悪感を持たざるを得ない。こちらも素直に自分の非を詫びる。
そんな様子に…
「俺達ハ必要ナカッタかもな。」
「うん、そうだね…。」
と、こしょこしょ内緒話のラモリさんともえ達である。何はともあれ喧嘩とかにならなくてよかったとほっと一安心だ。
「でね?キタキツネが飛び出していってる間にユキヒョウ達の話を聞いたんだけど、ユキヒョウって凄いのよ。色々習い事してるから茶道の事も詳しいんだって。」
ともえ達が茶道部室に来た時にギンギツネが他の3人と楽しそうに話していたのはそれだったのか。
「思うんだけど、私たちだって茶道部じゃない?ユキヒョウに色々教えて貰って茶道部の方もちゃんとやってもいいと思うの。」
「えっと…。それだとオイナリ校長先生の会は…?」
不安げに訊ねるキタキツネにユキヒョウは一つ頷いてみせる。
「それはそれでやったらよいと思うのじゃ。聞けば中々愉快な事をしているようじゃ。」
「うんうん、アタシ達も昨日混ぜてもらったけどすっごい楽しかったよ。」
ユキヒョウの言葉に頷くともえ。会の意味合いとかを考えると最初は敬遠されがちだがやってる事はオイナリ校長と楽しくあれこれする事だし商店街の役にも立っている。案外立派な活動になってしまっているというのが現状ではないだろうか。
「それにね、キタキツネ。お茶菓子も出るのよ。ほら、これ。」
とドラ焼きを出してくるギンギツネ。お皿に乗せてともえ達の分も出してくれる。
「あ、これcocosukiに入ってる和菓子屋さんの菓匠若葉のドラ焼きだ。」
萌絵がそのドラ焼きの焼き印に気が付いたのかそんな事を言い出す。ちなみにcocosukiというのはこの色鳥町にある大型ショッピングモールの名前だ。そこの菓匠若葉はちょっとお高めの高級和菓子屋さんだったりする。
「ぐ…!しょ、商売敵の商品に手を出すわけには…っ!」
と何やら葛藤している様子のキタキツネ。
「でもいいの?これ結構お高いヤツじゃない?こんなのご馳走になっちゃって悪くない?」
そんな心配をする萌絵であったが…
「いいや、これはわらわの家の店子殿からの貰い物なのでな。美味しくいただければそれでよいのじゃ。」
とあっさり言うユキヒョウ。
「ちなみに、ユキヒョウの家ははウチらの家の大家さんなんや。」
「うむ。ルリとアムールトラはわらわの店子殿じゃからの。妹も同然じゃ。」
「わたしも!ユキさん好きだよ!」
そんなアムールトラの解説にえっへん、と胸を張ってみせるユキヒョウ。そんな彼女に小さなルリが抱き着くようにして甘えていた。
確かにこの光景を見るととても仲のよさそうな三人組だと思える。
思わずほっこりした表情になるともえと萌絵。
しかしルリは本当に中学生なんだろうか。かなり身長が低いので小学生でも全然通用する。なんなら低学年でも全然違和感ない。
そんな彼女が甘える姿はなんともほっこり光景だ。
「ゆ、ユキヒョウはいい子…!でも商売敵のお菓子には……くぅううう!?」
「まあまあ、ドラ焼きに罪はないよ。はい、キタキツネちゃんあーんっ。」
となおも葛藤しているキタキツネの口に自分の分のドラ焼きを一欠けら放り込むともえ。
それで難しい顔をしていたキタキツネの顔が一気にほわーんと蕩けてしまう。
「ああ…。商店街のみんな…。ごめんなさい…。めちゃくちゃ美味しい…。」
くどすぎない上品な甘さが口の中に広がり、まさに口の中が幸せ状態だ。
そしてこれがまたちょっと渋めの緑茶によくあってしまう。
まるで神に懺悔する罪人のような雰囲気のキタキツネ。堕落の瞬間を見てしまった気分だ。
「ちなみに…。ユキヒョウってcocosukiのオーナー企業の社長令嬢だったりするのよ。」
とギンギツネがさらに追い打ちをかけてしまう。
「ザ・商売敵!?」
シュビっと両手の手刀を前に謎の構えをユキヒョウに対してとるキタキツネ。
「うむ。商売敵かもしれぬが、別に仲良くして悪いという事もないのじゃ。」
その言葉に一同うんうん頷いてキタキツネを見る。
「わ、わかった!ユキヒョウは商売敵だけどボクの友達!でもってここはオイナリ校長先生の会兼茶道部!これでいい!?」
みんなの視線を受けてキタキツネは謎の構えを解いてみせた。それに対してユキヒョウも嬉しそうな笑みを見せる。
「うむうむ。平和が一番じゃ。」
「よかったね、ユキさん。」
一見落着のようでルリと呼ばれた少女も嬉しそうにしている。
「さて、そうと決まれば茶道具なども十分ではないようじゃのお…。」
きょろきょろ、と和室内を見回すユキヒョウ。
「ええ。ずっと茶道部は休部状態だったみたいで道具もせいぜい電気ポットとか急須とかそのくらいしか…。」
「そもそもボクら茶道ってどんな事するのかすら全然わからないもんね。」
と申し訳なさそうなギンギツネにキタキツネ。
「いやいや、やる前から知っておる者などおらぬのじゃ。茶道具はわらわの持っているもので取り敢えずまかなうとして足りぬものはまずはこちらで用意しよう。となると……。」
ふぅむ、とユキヒョウは考え込む。
「ならばちょうどよいのじゃ。ルリ、アムールトラ。今日はわらわに付き合ってくれんかの?買い出しにいくのじゃ。」
そこで何故お供がその二人なのだろう、と疑問を持ってルリとアムールトラの二人を見る一同。
もしやこの二人も茶道に詳しいのだろうか。
その疑問がわかったのかルリは慌てて被りを振る。三つ編みの二つ結びにした長い髪が尻尾のようにぶるぶる振られる。
「いやな?この二人は先週くらいに越してきて転校してきたばかりなのじゃ。まだ色々と身の回りのもので買い揃えておいた方がよさそうな物も多いのじゃよ。」
あれ?ちょっと待て。そういうのは普通大家さんじゃなくて保護者などの役割なのでは?
と、無言のままに疑問の視線をユキヒョウに向けてみる。
「わらわもそう思わなくもないのじゃが…。あの御仁に任せておくといつまで経っても荷解きすら終わらん有り様じゃからな。」
はふー、と嘆息するユキヒョウ。ルリ達の保護者はもしかしたら片付けとか苦手なのだろうか。
「わらわの可愛いルリにいつまでも不自由させるわけにもいかん。茶道具の足りぬものの補充はついでじゃ、ついで。それに荷物持ちならアムールトラがおるしのお。」
「なんや、ウチは力仕事要員か?確かにそのくらいしか役に立てるとは思わんけどな。」
ルリを抱き寄せて膝に乗せるユキヒョウ。それにルリも目を細めてみせる。
一方で荷物持ち扱いされたアムールトラもそれに気を悪くした様子もなくカラカラと笑っていた。
なんだか形は違うけれど、自分達と似たようなところがあるんじゃないかな、なんて思うともえである。
きっとユキヒョウとアムールトラの二人はルリ、というこの女の子をとても大切にしているのだろう。
短い時間でもそれはよくわかった。
「そういうわけでの、キタキツネにギンギツネ。近いうちに茶会でもしてみるのじゃ。せっかくじゃしそちらの先輩方も招待しようかの?」
「え、ええ!?お茶会の作法なんてアタシ達ぜんぜん知らないよっ!?」
そんな思わぬ提案に焦りを見せるともえ。何しろ茶道というのは名前くらいは知っているという程度しか知識がないのだ。
本格的な茶会になど参加したらマナーを知らずに恥ずかしい事になるのは目に見えている。
それは学年一の秀才、萌絵であっても殆ど変わらないだろう。
「いやいや、そこまでかしこまった事をするつもりはないのじゃ。茶道体験とでも思って気楽に参加してもらえるものにするつもりじゃよ。」
「それなら面白そうかな…。」
と段々乗り気になってくるともえ達である。
「そういう事で話は決まったかの?ではこれからよろしく頼むのじゃ。」
そんなユキヒョウのまとめに一同揃って頷く。
ユキヒョウの茶道部入部に端を発したオイナリ校長先生の会存続の危機はこうして一件落着したのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
放課後の帰り道。イエイヌは未だ静かだった。
「ねえ?イエイヌちゃん。ずっと静かだけどどうしたの?さっき茶道部室にお邪魔したときからだよね?」
元気がない、というわけでもない。何かずっと考え込んでいる様子なのだ。
茶道部室にいる間、イエイヌは随分とアムールトラの事を気にしていたようではあったがその原因がわからない。
「えっとですね…。聞いてもらえますか?」
こうやって改まって話をするのはイエイヌにしては珍しいように思える。
「実はさっきお話してたアムールトラさんなんですが…。似てるんです…。」
ポツリポツリと帰り道を歩きながら話すイエイヌ。
それはかつてイエイヌがこの世界に来る前の出来事だった。
かつて暮らしていた世界でイエイヌはようやくヒトの子供と出会う事ができたのだが、そのヒトの子供はビーストという凶暴なフレンズが近くにいるのに友達の為に外に飛び出してしまうという出来事があった。
その時イエイヌはヒトの子供を追いかけて、ビーストと遭遇し、その子供を守る為に必死に戦ったのだが力及ばずに敗れてしまったのだ。
ヒトの子供を探しに来たその友達のフレンズ達が駆けつけてくれなかったらイエイヌも危なかっただろう。
結局ヒトの子供はイエイヌの元には留まらずにその友達のフレンズ達と旅を続ける事になった。
イエイヌ自身はヒトの子供を守れなかった、その事を今でも悔やんでいた。
そして、アムールトラの外見はその時に戦ったビーストと呼ばれた乱暴者にそっくりだったのだ。
「もちろん、ここはわたしが今までいた世界とは違います。さっき会ったアムールトラさんもルリさんを大切にしていてとても優しい子だと思いました。」
それでもイエイヌにとってはかつての敗北を思い起こさせてしまった。
あのアムールトラはビーストじゃない、と解ってはいたものの、もしも、もしもまたビーストのような強敵に出会ったら…。
セルリアンは連日現れている。
だからこそ、あの時と同じように敗北してしまったら…。その時はともえと萌絵がどうなるのか。
その想像はイエイヌの心を恐怖のどん底へと突き落としてしまっていたのだ。
「うーん。そっか…。アタシ達にはその気持ちって想像しかできないかもしれないけど…。でもね。」
ともえと萌絵は顔を見合わせてから一つ頷く。
「アタシも萌絵お姉ちゃんもイエイヌちゃんの事を守りたいって思ってるからね。だからね、一人で悩まないでいてくれた事が嬉しいかな。」
「そうそう、アタシも直接戦ったりとかは出来ないだろうけど、それでもイエイヌちゃんのお役に立てるんだからね。」
そうか。
さっきの三人がルリという少女を大切にしていたように自分達だって負けないくらい仲が良くなっていたのだ。
そしてその人たちは守られるだけじゃないんだ。
そう思ったとき、自然とイエイヌの目頭は熱くなってしまうのだった。
それを誤魔化すように目元をぐしぐしと拭うイエイヌ。そしてから…。
「あの…!わたしはどうしたらいいんでしょうか…!」
とともえと萌絵に視線を向ける。
「うん…。そうだねえ…。あのね。多分、自分に自信をつける、っていうのが重要だと思うの。強くなるーっていうのかなあ…。」
そんなイエイヌの視線を受け止めて萌絵が指を一本立てながら答える。
「昔の事ってもう変えようがないからね。だからイエイヌちゃんが不安じゃなくなるくらい強くなったらいいんだと思うの。」
「お、おお!?もしかして修行!?修行するの!?アタシあの鉄の重たいローラー引くやつやってみたい!」
何故かともえが目を輝かせ始めた。ちなみにともえが言っているのはグラウント整備に使う整地用ローラーの事である。
俗称としてコンダラと呼ばれる事もあり何故か特訓に使われるイメージがあるが実際は引いて使うのではなく押して使うものだ。
万が一にもローラーに巻き込まれたら怪我をしてしまうので、よい子は真似しちゃいけない。
「ふふ。そうだね、みんなで一緒に強くなろうか。」
そんなともえを見て可笑しそうに笑う萌絵。
「まあ、差し当たっては…。お母さんと一緒にイエイヌちゃんに可愛い服選びを頑張る事からはじめよっか。」
「な、なんでですか!?!?」
何がどうなってそうなったのか。可愛い服と戦いが何か関係があるのだろうか。イエイヌの頭は混乱した。
「うん、まずは女子力アップからはじめよう。一見戦いとは関係ない事でも色んな事を経験したらそれが案外何かの役に立つかもしれないよ。」
ほ、ほんとかなあ…、と若干の疑問がイエイヌの頭によぎる。
「まあまあ、出来る事からやっていこう!それに可愛い服を着たら案外自信がつくかもしれないしっ!」
ともえも乗り気なあたり、もしかしたら自分の考えの方がおかしいのだろうか、とその疑問を打ち消すイエイヌ。
しかしながら、ともえも萌絵も考えてる事は一つだった。
とりあえずイエイヌちゃんに可愛い服着せてみたい、と。
「さ、そうと決まったらまずは女子力アップ!お母さんも待ってるだろうし早く帰ろっ」
そう。今日はイエイヌの衣食住のうち“衣”を補強する為に買い物に行く予定なのだ。
きっと今頃春香が首を長くして待っているだろう。
ともえと萌絵とイエイヌの三人とラモリさんは日も長くなってきた帰り道を急ぐのだった。
―中編へ続く―
クロスシンフォニー変身シルエット紹介
名称:フェネックシルエット
パワー:C スピード:B 防御力:B 持久力:S
特徴:超聴覚
必殺技:砂隠れ
フェネックとの合体戦闘シルエット。パワーにはやや劣るものの大きな耳で捉える音は敵の攻撃を死角からでも感知する。
特に未知の相手と戦う際の様子見などで多用されてきた戦闘シルエットである。
必殺技の“砂隠れ”は地面から砂埃を巻き上げて視界を遮り敵の命中力を下げるデバフ技である。
ちなみに、この変身シルエットだと砂漠のような暑さにも負けない耐熱耐性も特徴の一つだ。
名称:アライグマシルエット
パワー:B スピード:B 防御力:B 持久力:A
特徴:精密作業
必殺技:アライアナライズ
アライさんとの合体戦闘シルエット。基本スペックは平均的だが特に技が重要で多用されてきた。
その技は手で触れたものの特徴を掴む“アライアナライズ”である。
特に未知の相手と戦う事も多いセルリアン戦で戦略の組み立てに重要な役割を果たしてきた。
なお、一緒に戦う博士助手からは性格と技が合っていないと散々な言われようである。
また手先も器用で特殊な工作が必要な時にもこの戦闘シルエットが用いられる事がある。