名称:ユキヒョウ
所属:茶道部
特技:茶道 華道 書道
ジャパリ女子中学1年B組のお嬢様でユキヒョウのフレンズ。
古式ゆかしい喋り方をするのが特徴だ。
家はかなりの資産家でルリとアムールトラの二人が暮らすマンションの大家でもある。
幼少の頃から様々な習い事をしており、特に文化系の習い事は得意だ。
面倒見がいい性格をしており、特にお子様には優しい。
最近引っ越してきたばかりのアムールトラとは馬があうのか気の置けない友人付き合いをしているし、ルリは妹のように可愛がっている。
ちなみに暑い場所は苦手である。
cocosuki1階。
ここは食料品店、フードコート、レストランなどの飲食店、さらにお菓子屋さんなどの専門店が並んでいる。
「かばんちゃん!どれがいいかなー?迷っちゃうね!」
「うん、どれも美味しそうだね。サーバルちゃんはどれが食べたい?」
そのcocosuki1階に入っているテナントの一つ、ファミリーレストラン“ジャパゼリヤ”のテーブルについているのはかばんとサーバル。
その向かい側にもう二人並んで座るヒトとフレンズがいた。
「たまにはかばんちゃんの負担も減らしておかないといけませんもんね。今日は好きなものを選んで下さいね。」
「はい、ミライお姉ちゃん。ありがとう。」
そしてテーブルについているのはミライともう一人はフレンズだった。
かばんの隣にサーバルが座って、ミライの隣にもう一人のフレンズが座っている格好だ。
「ねえ、ノナ母さんはどれがいいと思う?色々あり過ぎて選べないやー。」
サーバルがメニュー表を渡した相手はミライの隣に座るフレンズだった。
大きな耳はサーバルとお揃いでサーバルキャットのフレンズの特徴を備えたノナと呼ばれたフレンズだ。
「そうだねー。みんなで色々頼んでわけっこしたらどうかなあ?」
サーバルよりも毛足が少し短めに整えてあって、少し大人っぽい印象があるノナ。
そんなノナの意見にかばんも嬉しそうに頷く。
「あ、いいですね。色々試してみたらサーバルちゃんが好きなのも見つけられそう。」
ミライとノナの二人は顔を見合わせるとこちらも嬉しそうに笑う。
ちなみに、ノナはミライのパートナーでサーバルの母親にあたる。
一般的にフレンズが生まれるには二通りの方法がある。
一つは伴侶を見つけてその伴侶との間に子を設ける方法。
もう一つは世代交代と呼ばれる方法だ。
フレンズは子育ての適齢期になると伴侶がいなくとも必ず一人は自身の種族と同じフレンズの子を宿す。
それはサンドスターのもたらす奇跡の一つとしてこの世界ではごくごく一般的なものだ。
そして、親は子供に名前を譲り新たな名前を名乗るようになるのが一般的である。
中にはゴマのように種族名の他にニックネームを持つフレンズもいる。
だが、親から子へと名前を継いで各種族のフレンズ達は連綿と世代を重ねてきた。
その中でヒトと交わったりしてヒトに近づいていったのがこの世界だった。
一方で、野生動物がフレンズ化するような事態は非常に稀な事象であったりもする。
自然発生、と呼ばれる野生動物のフレンズ化であるが、そうした稀な事象に対してもそれを保護する法整備はきちんとしていたりもするあたり、ヒトとフレンズが作り出す社会基盤はしっかりとしているのだ。
「ふふ、じゃあ色々頼んじゃいましょう。」
ミライも柔らかく微笑み、テーブルの呼び出しボタンを押す。
ちなみに、こうして外食でサーバルに色々食べさせるとかばんが対抗心を燃やして食事が豪華になったりするのでその恩恵はミライとノナにもあるのだ。
星森家の買い物スケジュールは最初に食料品いがいの買い出し。その後休憩を兼ねて外食。
そして食料品の買い出しというコースになる。
明日のお弁当が今から楽しみなミライ。計画は完璧だ。
注文するのはともかくミニサイズ。そのかわり品数は多めになった。
コストパフォーマンスは若干悪いが……
ミライとノナは顔を見合わせて頷きあう。そう、これは必要な投資なのだ。
やがて頼んだ品物がテーブルに並んでいく。
「おおー!どれも美味しそうだねー!」
と目を輝かせるサーバルに早速取り皿へと取り分けていくかばん。
「ノナ母さんもミライお姉ちゃんもどうぞ。」
「あら、私たちもいいの?」
手早くみんなに料理を取り分けて楽しそうな食事が始まる。
「かばんちゃんっ!これ美味しいよっ、はい、あーんっ」
「ほんと?あ、ほんとだね。美味しいねっ」
予想通りのはい、あーん合戦が始まっていた。
ちなみに熱い食べ物はきちんと適温に冷ましてからはい、あーんする辺り芸が細かいかばんである。一方で彼女は頭の中での分析を欠かしていない。
この唐揚げは下味を丁寧につけてある。生姜と少量のニンニクと醤油…、すり降ろしたリンゴとか追加したら面白いかも。ああ、二度揚げのおかげで食感もいい…。丁寧な仕事だ。
と、次にサーバルの為に再現するレシピが頭の中で組み上がっていた。
そんな二人の様子をほっこりと見守るミライとノナの二人。
目論見通り明日のお弁当は期待していてよさそうだった。
そうしてデザートのパフェまでみんなで仲良く食べ終わった後…。
「美味しかったぁー…。」
と自分のお腹をさするサーバル。
「でも、かばんちゃんの作ってくれるご飯もとっても美味しいよっ!」
そんなサーバルにとっては最高の提案が待っている。
「今度真似して作ってみるね。」
「かばんちゃん最高だよ…!」
これが星森家の外食恒例行事なのだが、今日は一つ余計な事が待っていた。
サーバルの耳がピクン、と大きく動いてかばんの背筋にもゾワリ、といやな予感が走る。
続いて二人が左腕に巻いている時計のようなものがブルブル、と震えて緊急事態を報せてきた。
「かばんちゃん…。これって…。」
「うん。」
かばんとサーバルはお互いに頷きあう。
彼女達二人に報せられる緊急事態は一つ。そう、セルリアンだ。
「いくんだね。」
短いノナの言葉に頷くかばんとサーバル。
「気を付けて。」
こちらも短く言って頷きを見せるミライ。
「ミライお姉ちゃん。ノナ母さん、行ってきますね。」
「すぐ戻ってくるから待っててね!」
言って席を立って駆け出すかばんとサーバル。残る二人はそれを複雑な笑顔で見送った後に揃って不安で顔を曇らせるのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
「ははは!おもろいな、ともえ先輩!なんやそのともえスペシャルって!」
「ええ。無茶な挑戦さえしなければ普通に美味しいのに…。そこはアムールトラが少し羨ましく思います。」
ルリを連れてアムールトラとイエイヌの元に戻るともえと萌絵とユキヒョウ。
一同が戻って来た時、ベンチで荷物番しながら何だか楽しそうに笑いあうイエイヌとアムールトラの二人の姿が目に入った。
荷物に紛れたラモリさんが多機能アームでサムズアップして見せていた。
「あらまあ。二人とも随分仲良くなったのね。」
と春香も後ろから合流していた。
そんな二人にルリが駆けて行く。
「お。お帰りルリ。なんや随分可愛くなったやないか。似合ってるで。」
「ええ。凄くお似合いですよ、ルリさん。」
ルリを迎えるアムールトラにイエイヌ。着替えて来たルリは二人の目にもとても可愛らしく映っていた。
「そうじゃろそうじゃろ?やはりルリは可愛かろう。」
とユキヒョウがめちゃくちゃドヤ顔になっていた。その姿に一同自然と笑顔になる。
結局、その後みんなで1階へと移動する事にした。
せっかくだから一緒にご飯、という流れだ。
それぞれに荷物を抱えて移動だ。
アムールトラの分はイエイヌと二人で半分こ。春香の買い足した生地やらはともえが持って小さめの荷物は萌絵が担当だ。
ちなみに、ユキヒョウは右にルリ、左に春香と手を繋いでご満悦だった。
cocosuki1階は“食”のフロア。そして2階が“住”。3階が“衣”とだいたいのジャンル分けがされている。
外食するなら1階だ。
フードコートにファミリーレストラン。それに喫茶店などのテナントもあるのでどれにするか迷ってしまう。
一同がワクワクしながら1階に降りた時……。
―キャアアアアアアッ
という悲鳴が吹き抜けに響き渡る。
何事か、と上を見上げればバラバラ、と何かが降って来ていた。
「え!?これ、ヒト!?」
一瞬ドキリ、とするともえ。ガシャ、ガシャ、と音を立てて次々と吹き抜けから1階へと降り注いだのは人型ではあるがよくよく見ればマネキンであった。
取り敢えずヒトが落ちて来たのではなかった、と安堵する暇すらない。1階に着地したマネキンたちがユラリ、と立ち上がってまるでゾンビか何かのようにノロノロとこちらへ向かってきていたからだ。
「う、うぇえええ!?なにこれ!?」
「きょ、今日はホラー映画の気分じゃないかなーってお姉ちゃん思うな!?」
その姿に慌て始めるともえと萌絵。ちなみにcocosuki3階にはシネマコンプレックスも併設である。なお萌絵がホラー映画の気分になる事はない。彼女はホラー映画は苦手なのだ。
それはともかく、これはやはりセルリアンの仕業か。
素早くアイコンタクトでイエイヌと萌絵に目配せするともえ。それに頷きが返っては来るもののどこで変身したものか。
と、迷っていると黄色い旋風が吹き抜ける。
それはサーバルキャットのフレンズの格好をした…
「クロスシンフォニー!?」
だった。
バラバラ、と次々と降り注いでくるマネキン達に爪を振るいサンドスターへと返していく。
しかし、如何せん数が多すぎる。クロスシンフォニーがマネキン達を撃破するよりも新たに吹き抜けから落ちてくるマネキンの方が多いように思えた。
急いで加勢した方がいいだろう。
何でもいいから何か物陰がないだろうか。と探す萌絵の目にエスカレーター下のショッピングカート置き場が目に入る。
「ともえちゃん、イエイヌちゃん、あそこ!」
指さす萌絵にともえ達も正確に意図を読み取ってくれたのか頷きを返す。
ショッピングカートとエスカレーターでわずかな死角のあるそこに身体を滑り込ませて叫ぶ二人。
「「変身っ!」」
カッとサンドスターの輝きが物陰で光ったと思うと…。
「クロスハート・キタキツネフォーム!」
「クロスナイト!」
変身を終えてそれぞれに飛び出すクロスハートとクロスナイト。
一気に三人に増えたヒーロー達。マネキンに襲われそうになっているヒト達を優先して助けて回る。
「ふう、“マグネティックサーチ”めっちゃ便利。襲われそうになってる人がいるかすぐわかるもん。」
そう、キタキツネフォームの必殺技、“マグネティックサーチ”は索敵技なのだ。
どこにどれだけのマネキン型セルリアンがいるのか、逃げ遅れそうな人がどこにいるのか手に取るようにわかる。
「クロスハート、クロスナイト、来てくれたんですか。」
一通り吹き抜け直下のマネキン型セルリアンを倒した三人。背中合わせ状態で周囲を警戒する。
とりあえず手近にいる人たちは無事に逃げ出したようだ。
「うん。たまたま買い物に来ててね。それよりもアイツら3階にまだまだいるみたい。」
クロスハートが言う通り、3階の吹き抜け手すりを乗り越えてまだまだ沢山のマネキン型セルリアン達が次々と降り注いでくる。
“マグネティックサーチ”でも3階にマネキンの数が多く、2階には全くいないと出ていた。
つまり、3階に何か発生源となるようなものがあるのではないだろうか。
マネキン型セルリアン達は数は多いものの動きは鈍くパワーもない。一体一体は弱いと言っていいだろう。
だが、数が多すぎる。発生源を何とかしない事にはジリ貧になってしまう。
「ともかく、3階の人達も助けましょう。クロスハート、飛べますか?」
「うん、いけるよ。」
頷きあうクロスシンフォニーとクロスハート。
「クロスナイトは1階をお願いします。」
「はい、わかりました。」
ともかくクロスシンフォニーのおかげで作戦は決まった。
1階をクロスナイトが守っている間にクロスハートとクロスシンフォニーで3階に乗り込んで逃げ遅れている人たちを助けて発生源を何とかする。それしかないだろう。
「チェンジ!クロスハート・Gロードランナーフォーム!」
水色のランニングシャツにブルマ姿のGロードランナーフォームに変身するクロスハート。頭の翼を羽ばたかせて吹き抜けから一気に3階へと駆けあがる。
それを追いかけるクロスシンフォニー。
2階の壁を蹴るようにして三角飛びの要領で3階まで大ジャンプ!
「あれ?クロスシンフォニーは飛ばないの?」
「ええと…、もうすぐ博士先輩と助手先輩も来てくれる、とは思うんですが、今はサーバルシルエットにしかなれないんです。」
ざしゃ、と着地点のマネキン達を蹴散らし再び3階で背中合わせになるクロスハートとクロスシンフォニー。
「そっか。じゃあアタシがその分頑張らないとね!」
Gロードランナーフォームはスピード特化。
その超スピードで次々とマネキン型セルリアン達を砕いていく。
やはり3階には逃げ遅れた人が多かった。
マネキン達もそんな人たちにノロノロと迫っている。幸いにしてまだマネキンに捕まるような人達は出ていないようだがこれでは時間の問題だ。
「(オイナリサマフォームで結界を作る方が…。ううん。ちょっと範囲が広すぎる。この範囲をカバーしきったら一瞬でサンドスター切れになっちゃうよ。)」
商店街の時よりも数が多いマネキン型セルリアン。
そして一箇所に固まっているわけでもなく広範囲に散らばっている以上、結界で封じ込めるというのは得策ではないように思えた。
そして何よりオイナリサマフォームは連続使用できるようなものでもない。
「今はひたすら倒して回るしかなさそう!」
「ですね!」
クロスハートとクロスシンフォニーはそれぞれに別方向へと飛び出す。
こうなった以上守りに重点を置いている暇はない。
「爆走!スピードスタァアアアアッ!」
「疾風のサバンナクロォオオオッ!」
二手に分かれたクロスハートとクロスシンフォニー。
3階のマネキン型セルリアン達を次々と撃破していった。
の の の の の の の の の の の の の の
1階の方は小康状態だった。
かわらずマネキン達が吹き抜けから落ちては来ているもののそこさえ守れば被害は拡大しない。
さらに2階の方にはマネキンがいないらしい。
3階から2階へと避難している人たちも見える。
3階からパッカーン!という小気味いい音が何度も響いている辺りあちらも順調なのだろう。
「ドッグバイトぉ!」
再び握りつぶすようにして落ちて来たマネキンをサンドスターへと還していくクロスナイト。
人々は戸惑いと共にその姿を遠巻きにして見守っていた。
みんなに外へ逃げるように言った方がいいんだろうか。
それともこのままここへ留めておいた方がいいんだろうか。
クロスナイトは迷ってはいたが、ともかく目の前のマネキン達を倒して決してみんなに近寄らせないのが自分の役目だ。
もう何体目になるのかわからない程に倒したマネキンの数。
だが、この調子ならここをもたせるのは難しくないだろう。
と、何体目かのマネキンがギクシャクとした動きから一転、鋭く爪を振るうような一撃を放ってくる。
間一髪、それを左腕でガートし、返す右腕でマネキンを握り潰す。
再びマネキン型セルリアンを一体撃破したがクロスナイトはゾクリとした戦慄を覚える。
確かに先ほどの攻撃は今までのものとは全く違った鋭さがあった。
対処出来ない程のものではない。ないのだが、それは恐ろしい事実を物語っていた。
「まさか…。学習…している!?」
クロスナイトが思い至ったと同時、ギクシャクとした動きではあるがマネキン達が走った。
「だからなんでそんなホラーなのぉ!?」
めちゃくちゃなフォームで走るマネキン達は不気味度がさらにアップ。思わず萌絵は悲鳴をあげる。
それよりもなによりも問題は萌絵達の方にもマネキンが殺到している事だろう。
無茶苦茶に手足を振り回しながら走ってくるマネキンは軽くどころか重度なホラーだった。
「くっ!?どきなさい!!」
周囲のマネキン達がクロスナイトにも殺到しており、それを蹴散らしはしたものの一歩出遅れてしまっていた。
萌絵達のフォローにはその一歩が遅い。
「だ、だめぇ!!」
バッと萌絵の前に飛び出したのはルリだった。
両手を広げて殺到するマネキンと萌絵達の間に立ちはだかる。
無茶苦茶に手足を振り回して殺到するマネキン達にルリは目を固く瞑って次の衝撃を予想する。
が…。
それは来なかった。
「おう。ルリに手ぇ出す気か?」
ガシリ、と先頭のマネキンの頭を掴んで押しとどめていたのはアムールトラだった。
「誰だろうがルリに手ぇ出すヤツは許さへんでぇ!!」
そのままマネキンの頭を掴んだまま腕をひと薙ぎさせるアムールトラ。ブン!と振り回されるマネキンが他の物を巻き込み甲高い音を立てる。
ただの腕のひと薙ぎで萌絵達の殺到していたマネキン達を全て砕いてしまった。
「な、なんてパワー…。」
クロスナイトが驚きで目を見張る。
それは今までこちらの世界で出会ってきたどのフレンズよりも力強いものだった。
そしてかつて暮らしていた世界でだってこれ程の力を持つものをイエイヌは知らない。
恐らくその膂力だけなら異世界のフレンズであるイエイヌよりも上なのではないだろうか。
「おう、クロスナイトっちゅうたか。特別や。ルリの周りだけはウチが守ったる。余所はお前に任せたで。」
パシン、と自らの拳を手のひらに打ち付けるようにして合わせるアムールトラ。
その手には微かなサンドスターの輝きが宿っていた。
「もしかして…アムールトラ…。貴方も…」
いや、今はそれどころではない。
今は戦わないと…。
そう、考えるのは戦いに勝利した後でだって出来るのだ。
の の の の の の の の の の の の の の
『かばんさーん、お待たせー。』
『少しばかり遅れたのです。』
クロスシンフォニーの心の中に響くフェネックと博士の声。
ここで少しだけ解説しなくてはならない。
クロスシンフォニーが左腕に巻いている時計のようなものは変身サポートアイテムの『シンフォニーコンダクター』という。
これは通信機能、簡易なセルリアン解析機能の他に重要な役割を担っている。
それは離れた場所にいる仲間とも変身の際、『合体』を可能としてくれる事だ。
もちろん、離れた場所にいる仲間がこの『シンフォニーコンダクター』を着けていて変身に同意した時しか発動出来ないが、それでも常に一緒にいるわけではない仲間もいる以上とても助かるものだった。
最初はシルエットチェンジが出来なかったのも、仲間達がそれぞれの生活で少しだけ変身タイミングが遅れたせいだろう。
「いえ、凄く助かります。」
これでようやくクロスシンフォニーも十全に力を発揮出来る。
『でも、この状況、どうするのだー?弱い敵を一度にたくさんやっつけられる技ってあるのかー?』
とアライさんの声がする。
『一網打尽、は無理でしょうから次善策です。かばん、私を使うのです。』
助手の言う通り範囲攻撃が無理なら次善策で機動力で戦うのがベターだろう。
吹き抜けの向こう側で戦うクロスハートも今まさにスピード特化のGロードランナーフォームで戦っている。
それに頷きクロスシンフォニーは叫ぶ。
「シルエットチェンジッ!ワシミミズクシルエットっ!」
茶色を基調としたコートのような衣装へと変わるクロスシンフォニー。
足先にサンドスターで形成した猛禽の爪を纏うとそれで目の前のマネキンを掴み上げ、空を飛ぶ勢いを追加しつつ敵の群れへと投げ込む!
まるでボーリングのように一度にパッカーン!と砕け散っていくマネキン達。
しかし、それでもクロスシンフォニーの心は晴れない。
何故なら先ほどからマネキンの動きが少しずつではあるが滑らかになっているような気がするのだ。
だが、こちらは二人がかり。
どうにかマネキン達を倒しきる方が早いだろう。
それぞれ逆側からマネキンを倒して回っていたクロスシンフォニーとクロスハート。
ついに吹き抜けを挟んで3階フロアを半周する形で合流する。
そこはついさっき、ともえ達がルリに服を選んだ子供服売り場だった。
そこに黒い水のようなものがマネキンに纏わりついて同じようなマネキンを生み出している。
どうやら発生源はここのようだ。
「ようやくボスとご対面だね。」
「はい。多分これを倒せば今回のセルリアン騒ぎは治まるはずです。」
二人と対峙した黒い水に纏わりつかれたマネキン。その周りのマネキン達がガシャガシャ、と集まっていく。
一体のマネキンを担ぎ上げるようにしてガシャガシャと寄り集まったマネキン達。
なんと、まるで蜘蛛の脚のように8本のマネキンで出来た脚を形成した。
「が、合体したっ!?」
「し、しかもなんか見た目めっちゃホラーだ!?」
ヒト型のマネキンが寄り集まって形成されるその下半身はあまりにも醜悪なオブジェだった。
「ギギギ。。。ア、ア、アムサ……ン。ユユユユキ…サ…ギギギ、、、」
「し、しかも何か喋ってるー!?!?」
思わず驚きの声を上げるクロスハート。
今まで鳴き声のようなものを上げるセルリアンはいたが明確に発声している者は今まで見た事がない。
それはクロスシンフォニーも同様だった。
「これは…。アライさん!アナライズします!」
『よ、よしきたなのだー!』
応えるアライさんの声はやはりその不気味さに若干気後れしているようだが、シルエットチェンジには支障ない。
アライグマシルエットへと変化したクロスシンフォニー。
「クロスハート!ちょっとだけセルリアンの気を逸らして下さい!」
「わかった!」
ビュン、と超スピードで目の前に飛び込むクロスハート。蜘蛛脚の一撃が来る直前に方向を変えて即座に離脱。
その隙をついて別方向から近づいたクロスシンフォニーがペタリ、とセルリアンに手を触れる。
「こ、これは…!?」
アライグマシルエットの技の一つは『アライアナライズ』という分析技だ。手で触れたものの特徴を把握する技なのだが、それで把握した特徴に驚異的なものがあった。
それは…。
「やっぱりこのセルリアンは学習能力があります!」
先ほどからマネキン型セルリアンの動きがよくなっていたのもそのせいだった。
つまり時間が経てば経つほど不利になっていくと言ってよさそうだ。
その事実はわずかな動揺を生む。
クロスシンフォニーがハッとした時にはもう遅い。彼女に振るわれる蜘蛛脚への反応がほんのわずかに遅れた!
辛うじて両腕でその蜘蛛脚をガードするも吹き抜けへと吹き飛ばされるクロスシンフォニー。
「シンフォニー!」
慌てて頭の翼を広げて吹き抜けへ飛び出すクロスハート。空中でクロスシンフォニーをキャッチ。落下を防いだ。
「ありがとう、クロスハート。」
今度はアフリカオオコノハズクシルエットにシルエットチェンジして自らの翼で飛ぶクロスシンフォニー。
対峙する蜘蛛の下半身にヒトの上半身をつけたマネキン型セルリアンはアラクネというゲームなどに出てくる魔物にそっくりだった。
吹き抜けで足場のないここならすぐに襲い掛かってくる事は出来ないだろう。少しは落ち着いて作戦を考えられる。
と、二人が思っていたものの今回の敵はそうは甘くなかった。
―ガシャシャシャ!
と蜘蛛の下半身からいくつものマネキンの手を連結させたような腕だけが伸ばされる。
それがいくつもいくつも発射されてマネキンの手で出来たロープがいくつもいくつも吹き抜けに張られていく。
クロスハートもクロスシンフォニーもそれをかわすのは問題なかったがどうにもイヤな予感が拭えない。
そしてマネキンの手で出来たロープがいくつも渡された後…。
「「う、うそぉおお!?!?」」
二人が揃って驚愕の声を上げる。
それもそのはず。蜘蛛の巨大な下半身をもつアラクネ型セルリアンがマネキンの手で出来たロープに乗っかり突撃してきたからだ。
辛うじてその突撃をかわす二人。
しかし……。慌ててかわしたおかげでマネキンの手で出来たロープに身体が触れてしまう。
―ガシィ!
と同時、その手の一部が二人の身体を掴んだ!
まるで蜘蛛の巣に引っかかった蝶のようなクロスハートとクロスシンフォニー。
ギロリ。とアラクネ型セルリアンが二人に向けて振り返る。
「だからなんで…!」
「今日のセルリアンはこんなホラーなんですかあ!!」
ちなみに。ともえはホラー耐性が少しはあるものの、かばんは萌絵に輪を掛けてホラーは苦手だった。
危うしクロスハート!どうするクロスシンフォニー!
の の の の の の の の の の の の の の
cocosuki1階フロア。
こちらではクロスナイトの防衛線は好転していた。
わずかずつ強くなっていくマネキン達であったがそれでもクロスナイトの足元にも及ばない。
さらに1階へ落ちてくるマネキンの数もどんどん減っていく。
これは3階で戦うクロスハートとクロスシンフォニーの二人の戦果であったがもう一つ戦況を好転させた要因がある。
それはアムールトラの存在だ。
一角とはいえアムールトラがマネキン達を受け持って撃破してくれていたからだ。
腕のひと振りで次々とマネキン達を撃破していくアムールトラの力はクロスナイトに匹敵…、いやそれ以上とも思えた。
クロスナイトがどうにか1階のマネキンを倒しきって一息をついて萌絵達の方を見る。
「よかった…。萌絵さんも春香さんもみんなも無事ですね…。」
萌絵とユキヒョウがルリを庇うように後ろに下げていて、その前に春香と多機能アームを振りかざしたラモリさんが立っている。そして最前線にアムールトラ、という配置だった。
「アムールトラ、ありがとうございます。おかげでこちらは何とかなったと思います。」
クロスナイトはあらためてアムールトラに語り掛ける。
「おう、別にルリを守っただけで他はついでやついで。それに……。」
「それに…?」
なおも言葉を続けようとするアムールトラにクロスナイトも小首を傾げる。
「いや、なんでも…。」
そう言って頭の後ろをガシガシとかくアムールトラ。口の中で小さく、ここはキラキラしすぎとったからな、という言葉は誰の耳にも届かなかった。
そうしていると、ハッと同時に頭上を仰ぐクロスナイトとアムールトラ。
「あ、あれは!」
吹き抜け3階に飛び出してくるGロードランナーフォームのクロスハートとアフリカオオコノハズクシルエットのクロスシンフォニー。
二人はマネキンの腕で出来たロープを伸ばす攻撃をかわしていくがまるで蜘蛛の巣のように吹き抜けにロープが張り巡らされる。
そして蜘蛛の巣を伝って吹き抜けに現れるアラクネ型セルリアン。
その突撃を辛うじてかわしたが、体勢を崩したクロスハートとクロスシンフォニー。
蜘蛛の巣のようになったマネキンの腕のロープに捕まってしまう。
「ま、まずいです!」
身動きがとれずにいるクロスハートとクロスシンフォニーの二人に向き直るアラクネ型セルリアン。
次の突撃はかわせないだろう。
クロスナイトには鳥のフレンズのような飛行能力もなければ、サーバルのようなジャンプ力もない。
助けにいこうにもあそこまで一足飛びで間に合わせる方法がなかった。
「おい!」
と、それを一緒に見上げていたアムールトラ。クロスナイトへと叫ぶ。
「助けに行きたいんやろ!イチかバチかやったるわ!」
バレーのレシーブのような格好で構えるアムールトラ。それでクロスナイトも意図を察した。
一つ頷き、少し下がって助走をつける。
そしてアムールトラへと走るクロスナイト。
バレーのレシーブのように構えられた腕に片足を乗せてそれを踏み台に肩へ駆けあがりジャンプ台に!
踏切と同時にアムールトラがタイミングを合わせて…。
「飛んでけえええええええ!!」
と後押ししてくれる。
思わぬパワーで後押しされたクロスナイトは一気に吹き抜け2階を抜けて3階まで到達!
アラクネ型セルリアンまで届くか…!?
いや、わずかに届かない…!
「クロスシンフォニー!ちょっと熱いけどごめんね!」
この事態に素早く反応したクロスハート。
「チェンジ!クロスハート・オイナリサマフォームっ!」
真っ白い和洋折衷の衣装へと変わる。そのまま
「狐火バーニングっ!」
と狐火を放ってマネキンの腕で出来たロープを青白い炎で包む。
あっという間にロープが焼け落ちて自由になる二人。
「クロスシンフォニー!クロスナイトをお願い!」
言いつつ自由落下に入るクロスハート。今、サポート出来るのはクロスシンフォニーしかいない!
「わかりました!」
アフリカオオコノハズクの翼を広げて飛ぶクロスシンフォニー。
「クロスナイト!使って下さい!」
とクロスナイトの下へと滑り込む。その意図はクロスナイトにも理解できた。
なので遠慮なくその背中を蹴って再度跳躍!
速度も十分。
そしてクロスナイトがここまで辿り着いたのが意外だったのかアラクネ型セルリアンは反応出来ていない。
その後頭部に『石』が見えている。
「ワンだふるアタァアアアアアアアアアック!」
両手の爪にサンドスターの輝きを集めて牙を突き立てるかのように『石』へと叩きつけるクロスナイト。
ビシリ!と石に亀裂が入って…。
―パッカアアアアン
とアラクネ型セルリアンも砕け散った。
最初にクロスハートが、続けてクロスシンフォニー。最後にクロスナイトが1階吹き抜けへと無事に着地する。
「よ。お前ら、名前くらい聞いといてもええか?」
三人を出迎える形のアムールトラ。
「クロスハート。」
「クロスシンフォニー。」
「クロスナイト。」
三人でせーのでタイミングを合わせてから
「「「通りすがりの正義の味方だよ。」です。」」
言って踵を返し、いずこかへと走り去っていくクロスハート達。
「通りすがりの正義の味方、か。」
それを何とも言えない複雑な表情で見送るアムールトラ。
その表情に浮かぶ感情を正確に読み取れるものはその場には誰もいなかった。
の の の の の の の の の の の の の の
結局、その後は騒ぎの影響で緊急で営業終了となったcocosuki。
それ以上の買い物は出来ず、それぞれで解散となった。
イエイヌはアムールトラに色々と聞きたい事が出来てしまったが、話す機会がなかった。
なお、夜のニュースではcocosukiが緊急閉店した事にも触れられていたが、商品搬入中の事故とされていた。
幸い怪我人もなく明日からは通常通りの営業に戻るそうだ。
なお、ニュースではクロスハートのクの字もなかったがインターネット上では既にcocosukiに現れた謎のヒーローとして語られていたりする。
今日のツブヤキッターのホットワードランキングも急上昇だ。
色々とトラブルはあったものの無事に家に辿り着いたともえ達。
今日も盛大にともえがおかわりする夕飯を食べた後…。
「ちょっといいかしら。イエイヌちゃん。」
夕飯後、宿題やら予習やらでワイワイしていたともえと萌絵とイエイヌの三人のところに春香がやってくる。
「まず一着作ってみたんだけどどうかしら。」
それはワンピースだった。着替えてみるとイエイヌの毛並みにあわせたグレーと白の色合いで胸元を引き絞るベルトがわりのリボンのついた品だ。
そして何よりともえ達の古着を材料に縫い直したものなので彼女達の匂いがする。
「おおおお!いい!いいよイエイヌちゃん!」
「控え目にいっても最高だよお母さん!」
どうやら今夜も遠坂姉妹のスケッチ大会は開催されるようだ。
服、というものを着替えるのも悪くない。三人の匂いに包まれながらそう思い始めるイエイヌであった。
けものフレンズRクロスハート第6話『キラキラのcocosuki』
―おしまい―
【ラモリさんの内緒話】
おう。ここハ本編では語られなかったちょっとした秘密ヲこの俺、ラモリが話すコーナーだ。
今回のセルリアンはマネキンに取り付いていて物凄く不気味だったナ。
ちなみに、ホラー映画に強いのは春香だけダ。
ともえはホラー映画は見れないわけじゃないガ、好んでみるわけじゃナイ。
萌絵は全くダメ。イエイヌは…何が怖いのカ理解してないんダロウからノーカウントだ。
なお、かばんが一番ホラー映画への耐性が無いゾ。
今日の夜がどんナ様子だったかは本人の名誉の為に内緒ダ。
それじゃあ次回モまたヨロシクな。