けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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これまでのけものフレンズRクロスハートは!

 別世界のジャパリパークからともえ達の暮らす世界へやってきたイエイヌ。
 その生活環境向上を目指して大型ショッピングモールcocosukiへとやってきた。
 学校で新たに出会ったユキヒョウ、ルリ、そしてアムールトラの三人とも偶然一緒になって楽しいショッピングタイムを過ごす。
 だがそんな楽しい時間にまたしてもセルリアンが現れる。
 アムールトラの思わぬパワーにも助けられて何とかセルリアンを倒したクロスハート達。
 果たしてアムールトラ達は一体何者なのか。


第7話『がーるず・びー・すとろんぐ』(前編)

 

「それじゃあ、ともえちゃん、イエイヌちゃん。いくよぉー。」

 

 早朝の公園。それぞれに動きやすい格好に着替えたともえ、萌絵、イエイヌの三人がいた。

 萌絵は昨日ショッピングモールで買ってきたフリスビーを構える。

 

「えいっ!」

 

 萌絵がかけ声とともに投げたフリスビーは気合の割にはフラフラと飛んでいく。

 

「わはぁ!」

 

 とイエイヌが目を輝かせてダッシュ。ともえがその後を追う形で追走していく。

 あっという間にフリスビーに追いつくイエイヌ。落下地点で「はぐぅ!」とダイビングお口キャッチ。

 そして着地しながらフリスビーを構えなおして……

 

「ともえさん!」

 

 中間地点くらいに来ていたともえへ向けてフリスビーを投げるイエイヌ。

 狙い通りにともえへ向けて飛ぶフリスビー。

 今度はともえがそれをキャッチして…。

 

「萌絵お姉ちゃんっ!」

 

 と萌絵へ向けて投げる。

 なるべく回転を多め。スピードは遅く。軌道は山なり。それでいて真っ直ぐ飛ぶように手首のスナップを使って投げる。

 

「わっ、とっとっと。」

 

 それでも落下地点がすぐにはわからない萌絵。前へ出ようとしてそれだと行き過ぎか、と今度は後ろに下がる。

 危なっかしいがそれでもフリスビーの落下地点に潜り込む事には成功した。

 

「あっ。」

 

 しかし萌絵の手からフリスビーが零れ落ちる。

 

「わわっ、わっ、わっ。」

 

 数回、萌絵の手から逃げるようにフリスビーが跳ねる。お手玉状態を数回繰り返して結局フリスビーを逃してしまう萌絵。

 フリスビーが地面に落ちる直前……。

 

―ビュンッ!

 

 と物凄い勢いでともえの横をイエイヌが駆け抜ける。

 そして地面に落ちる直前のフリスビーをダイビングキャッチ!そのままごろごろと芝生の地面を転がる。

 地面を転がったせいで草をくっつけたイエイヌが萌絵にフリスビーを手渡す。

 

「おおー!すごいっ!イエイヌちゃん凄いっ!」

 

 とイエイヌを撫で撫でわしゃわしゃする萌絵。

 

「ああ―!お姉ちゃんずるい!アタシもっ!アタシもイエイヌちゃんモフるー!」

 

 さらに後ろ側からやって来たともえがイエイヌに飛びつきサンドイッチ状態に。二人がかりでモフられまくるイエイヌ。

 

「わぁー!?お、お二人ともちょっと苦しいですよぉー!?」

 

 と言いつつもその顔はすっかりニヤけて尻尾がぶんぶんと揺れているのだった。

 

 

 昨日フリスビーを買って来ていたともえ達は早朝の公園で遊んでみる事にしたのだ。

 朝から凄く楽しみにしていたらしいイエイヌ。

 今朝は一番に起きてフリスビーを手にじーっとまだ寝ているともえと萌絵を見ていたりしたものだ。

 で、早朝のお散歩にフリスビーで遊んでもらえた上に思いっきり褒めてもらって撫でられまくったイエイヌはなんだかんだ上機嫌だった。

 そんな帰る道すがら…。

 

「あの……。」

 

 とイエイヌがおずおずと声をあげる。

 

「わたし、こんな幸せでいいんでしょうか?」

 

 その言葉に一緒に並んで歩くともえも萌絵もイエイヌへ向き直る。

 

「うーん?幸せって言って貰えるのはアタシ達も嬉しいけど…。」

「やっぱり不安って事?」

 

 ともえと萌絵の言葉にしばらく考え込むイエイヌ。

 自分のうちにある感情は未だにハッキリとはわからなかった。

 考えた末にやがてコクリ、と頷く。

 

「「うーん…」」

 

 二人揃って同じポーズで腕を組んで考え込むともえと萌絵。

 今までがたった一人で帰ってくる事のないヒトを待ち続ける日々だったイエイヌ。

 それに対して今はともえも萌絵も春香もいる。それに沢山の友達だっている。

 環境はまさに別世界の変化だ。

 だからこそ感じる不安もあるのだろう。

 それに加えて昨日言っていた事だって引っ掛かる。

 

「昨日言ってたアムールトラちゃんの事かなあ…。」

 

 確かにともえの言うようにアムールトラの事は気になっていた。

 彼女とはお話もして友達にもなれた。

 だが…、セルリアンに対抗していたあのパワーは明らかに尋常ではなかった。

 もしもその正体が自分と同じ異世界のフレンズだったら…。

 もしも実はビーストだったら…。

 

「そんなはずはないですし、そんな事を考えちゃう自分も何だかイヤで…。」

 

 と尻尾をうなだれさせるイエイヌ。

 

「昨日のアムールトラちゃんの強さを見たらそういう考えになるのもわかる気がするなー。」

「とは言っても本人に直接確かめるわけにもいかないもんねえ。」

「「うーん。」」

 

 と再び二人して同じポーズで腕を組んで唸るともえと萌絵。

 

「ならやっぱりアレじゃない?昨日お話したじゃない。みんなで強くなろう、って」

 

 やがて腕組みを解いたともえ。

 

「そうだね。アムールトラちゃんの事はどうにもならなそうだもん。悩んでもしょうがないから出来る事からやるのがいいかもね。」

 

 うんうん、とそれに萌絵も頷いてみせる。それに何か動いていた方が気も紛れるというものだ。

 

「とはいってもどういう方針で強くなるの?」

 

 という萌絵の言葉に二人してキョトンとするともえとイエイヌ。

 

「えっと…、やっぱりあの重たい鉄で出来たローラー引っ張るとか?」

「ともえちゃん、それは置いておこう。」

 

 恐らくイエイヌがローラー引きで負荷をかけて筋力トレーニングをしたとしても大した成果はあがらないだろう。

 なんせイエイヌのパワーはこの世界のフレンズとは桁外れに力強いのだ。

 そしてくどいようではあるが、俗称でコンダラとも呼ばれる整地用ローラーは引いて使うのではなく、押して使うものだ。

 

「アタシから見たらイエイヌちゃんって強いっていうか凄い子なんだよ。身体の強さとかはもちろんなんだけど…。」

「あ、それアタシも思った。イエイヌちゃんって凄いよね。」

 

 萌絵の言葉にともえも頷く。

 

「だっていっつもアタシ達の事を気にかけてくれたり、守ってくれたり。それにお勉強だってお手伝いだって何だっていつでも一生懸命だもん!」

「うんうん!ほんと自慢のイエイヌちゃんだよね!」

 

 突然の褒めちぎりに今度は真っ赤になるイエイヌ。うなだれていた尻尾は再びぶんぶんと元気よく振られ始める。

 

「だからアタシ達にとってはイエイヌちゃんって強い子なんだよ。」

 

 言って二人してうんうん、と頷く。

 

「あの…でも、わたしはアムールトラさんみたいな大型獣のフレンズでもないですし戦いなんて特別得意じゃないですよ…?」

「そうかもしれない。アムールトラちゃんの方が戦ったら強いのかもしれないよ?でもイエイヌちゃんが強いところだって絶対あるよ!」

「そうだよ!イエイヌちゃんにはイエイヌちゃんだけの強いところ絶対あるよ!だっていつも一生懸命なのアタシ達知ってるもん!」

 

 二人がかりで詰め寄られるイエイヌ。

 ただひたすらに過ごしてきた自分がともえと萌絵にそんな風に思って貰えていただなんて…。それだけでも嬉しい。

 それに……。

 

「あの…。もしかして強さって色んな種類があったりするんですか…?」

 

 とイエイヌは思い浮かんだ疑問を口にする。

 

「うん、そうだよ。」

「それにイエイヌちゃんって初めてあった時よりも色んな事が出来るようになったりしてるし、色んな事を覚えてるし絶対前より強くなってるよ。」

 

 二人の言葉にイエイヌはもう一度考え込む。

 確かにこちらの世界に来てからは色んな事を経験した。

 まだこちらに来てから一週間足らずだというのに本当に色んな事があった。

 その色々な経験が戦うのとは別な種類の強さを与えてくれたのだとしたら…、とイエイヌは自分の手をまじまじと見てみる。

 外見は何も変わった様子はない。

 だけれども、今の自分には何にも変えられない絶対に守りたい人達が出来た。

 強くなるべき理由ができた。

 それだけで自然と力が湧いてくるようだった。

 そして今までは気づかなかったけれど、単純な力だけではない強さというのはイエイヌにとっての光明になるような気がしていた。

 

「色んな種類の強さ…。もしかしたら他のみんなにも訊いたりしたらもっと色んなものが見つかるかも…?」

 

 自身の両手をまじまじと見つめたままのイエイヌ。ふと、そんな考えが浮かんでくる。

 こちらに来てから友達になったフレンズ達の顔が脳裏によぎっていた。

 ヘビクイワシはとても綺麗な文字を書くし、ゴマはハードル走ならば別な世界から来たイエイヌよりも上なのだ。

 例えセルリアンと戦う力はなくともイエイヌは二人の事をとても素敵なフレンズだと思っている。

 それは、セルリアンと戦う以外の強さを二人が持っているからではないか、と思い至るイエイヌ。

 もしかしたら色んな種類の強さについてヒントをくれるかもしれない。

 

「うん。そうだね。学校行ったらお話してみたらいいと思うよ。きっとみんな力になってくれるんじゃないかな。」

 

 それはともえにも、萌絵にとっても嬉しい事だった。

 友達が増えたのはイエイヌが頑張ったおかげでもあるのだから。

 それが今度はイエイヌの力になってくれるのならば喜ばしいことだ。

 

 そうしているとおうちが見えてくる。

 朝ごはんの匂いがイエイヌの鼻をくすぐる。

 

「今日は多分、わしょく?ってヤツでしょうか。ええと、お味噌の匂いがします。」

 

 ヒクヒクと鼻を鳴らすイエイヌ。

 その言葉にともえも萌絵も空腹感が強くなる。

 

「じゃ、急いで帰ってお母さんのお手伝いしなきゃね。」

 

 と足を速める萌絵であったがともえは何か考え込んでいる様子だ。

 どうしたんだろう、とともえを見る萌絵にイエイヌ。

 そんなともえはやたらと真面目な顔で重々しく口を開く。

 

「あのね……。コーヒーにお味噌混ぜたら和風コーヒーとかにならないかな……。」

 

 イエイヌはともえの言葉に嘆息すると無言のままに彼女の両肩をガシリと掴む。

 

「忘れましょう。そのともえスペシャルは忘れましょう。」

 

 言いつつそんな恐ろしいアイデアを頭の中から追い出すようにともえをガクガクと揺さぶるイエイヌ。

 そんな風に少しばかり遠慮がなくなってきた事もいい傾向なのだろう、と萌絵は微笑む。

 ちなみに、萌絵も頭の中で和風コーヒーの味を思い浮かべてげんなりしてから、ないな、とそのアイデアを没にしていた。

 

「あわわー!?イエイヌちゃん!?忘れたからー!和風コーヒーは忘れたから止めてえー!」

 

 早朝の道に賑やかな声が響くのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 早朝のフリスビー遊びとお散歩を終えてもまだまだイエイヌは元気だった。

 今日もいつも通りに登校して2年B組の教室に入る。

 一緒のクラスの萌絵は、というと残念ながら自分の席につくとはふぅ、と蕩けてしまっていた。

 身体があまり丈夫ではない萌絵に無理をさせたろうか、と心配するイエイヌ。

 今日も一緒に学校に来てくれていたラモリさんも少しばかり心配そうに萌絵の側についていてくれた。

 やはりここから先は自分一人で行動する方がいいだろう。

 こちらに来てからずっとともえや萌絵、もしくはラモリさんが常に一緒にいてくれたから、こうして一人で行動するのは随分と久しぶりな気がする。

 それにちょっとだけ不安を覚えるイエイヌであったが、一度被りを振って思い直す。

 何せ自分は強くならなくてはならないのだ。こんな事くらいで怖がってなどいられない。

 よし、と一つ気合を入れなおして同じクラスのヘビクイワシの元へと行くイエイヌ。

 早速今朝から思い浮かんでいた疑問、強さとは何かという事を単刀直入にぶつけてみる。

 

「ふむ…。強さとは何か、でありますか…。難しい質問でありますね。」

 

 藪から棒の質問にもヘビクイワシは真剣に考えてくれているようだ。

 

「例えばでありますが私は昔から空手を習っておりますが、そこでは心技体、その全てが揃った者が強いと教えられて来ました。」

 

 ヘビクイワシの言葉にうんうん、と聞き入るイエイヌ。

 

「イエイヌ君は身体能力に関しては申し分ないでありましょう。となると、技と心がどうか考えてみるとよいのではないでありましょうか。」

 

 なるほど、確かにもっともだ、と頷くイエイヌ。身体能力は一朝一夕というわけにはいかないかもしれないが技や心ならばまだ伸びしろがあるのではないか、と頭を捻る。

 そんなイエイヌとヘビクイワシの会話に加わってくるフレンズがいた。

 

「やっぱヘビクイワシは難しい事を考えてんなー。」

 

 と、後ろからやってきたのはゴマだった。どうやら朝のホームルーム前に遊びにきたらしい。

 

「ま、俺様にとって強いってのは単純明快!」

 

 ほう、その心は?とゴマの言葉に聞き入るイエイヌとヘビクイワシ。

 

「強いってのは速い事さ!どんな強いヤツだってぶっちぎってしまえば関係ないだろ?だから速い事が強い事なのさ!」

 

 どうだ、とばかりに胸を張ってみせるゴマ。

 

「ゴマ君は単純でいいでありますな。」

「なにおーう!?」

 

 とゴマがヘビクイワシに詰め寄る。

 

「ゴマ君の言うようにシンプルな信念を持っている事も強さの一つでありましょう。」

 

 まあまあ、と宥めるように言うヘビクイワシにゴマもまあ、それなら、と納得の様子だ。

 

「でもさあ。イエイヌは強いだろ?」

「ええ。先程はああは言いましたが、実はイエイヌ君の心に関してもあまり心配していないのでありますよ。」

 

 どういうことだろう、とイエイヌはゴマとヘビクイワシを見る。

 

「勉強会の時、最後まで諦めなかったのはイエイヌ君だけでありました。」

「ああ。俺も絶対ダメだと思ってた。」

 

 二人が言っているのはイエイヌの編入試験の時の事だ。

 実際は高い下駄を履かされた出来レースのような試験であったが、それを報されていないイエイヌ達にとっては小学1年生にも満たない学力から中学2年生相当の試験を受けるという絶望的な内容だったのだ。

 

「最後まで諦めず正々堂々戦い抜いたイエイヌ君は私にとっても誇れる友人でありますよ。」

「そうだぜ。そんなお前が強くないはずがねーだろ。ま、俺様にはかなわねーだろうけど、なっ!」

 

 ヘビクイワシの言葉に頷くゴマ。最後の一言は彼女なりの照れ隠しだろう。

 イエイヌにとっては二人が自分の事を誇りに思う、と言ってくれた事がとても嬉しかった。

 知らずその頬が熱を帯びる。

 

「ありがとうございます、ヘビクイワシさん、ゴマさん。わ、わたし、ちょっと風に当たって来ます。」

 

 真っ赤になってしまったイエイヌ。お礼の言葉の後にわたわた、と教室を出ていった。

 それを生暖かい笑顔で見送る二人。

 

「ゴマ君。いま考えている事を当てて見せましょうか。」

「おう。」

 

 続くヘビクイワシの言葉は何となくゴマにはわかっていた。

 多分自分と同じ事を考えているだろうから。

 

「強いうえに可愛いとか最高でありましょう。」

「だな。」

 

 自分たちの言葉に照れて真っ赤になるイエイヌの姿はそれはそれは可愛く二人には映っていたのだった。

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 教室を飛び出したイエイヌ。

 そのほっぺたが熱い。

 とりあえず涼を求めてやって来たのは屋上だった。

 屋上に出ると真っ赤になった顔に当たる風が気持ちいい。

 そよぐ風に冷静さを取り戻したイエイヌ。

 あらためて先程のヘビクイワシとゴマの言葉を考える。

 二人の言葉から考えるに、自分に伸びしろがあるのは技の部分ではないか、と思えた。

 そう。

 技については心当たりがあるのだ。

 

「野生解放…。」

 

 ポツリ、とイエイヌの口から言葉が漏れる。

 野生解放とはフレンズの技だ。

 サンドスターをいつもよりも多く消費するかわりに獣性を呼び覚まし身体能力を飛躍的に伸ばす切り札ともいうべき技なのだ。

 

「けれど、それはわたしには使えません。」

 

 それは以前住んでいた世界で二本の羽根がついた帽子に黒いジャケットを着たヒトとよく似た匂いのするフレンズから言われた事だった。

 

『いいかな。イエイヌさん。キミは野生解放しちゃダメだ。』

 

 たまに家の補修などに来てくれて何かと世話を焼いてくれた彼女の言う事だったが当時の自分はそれが何故なのかわからずに喰ってかかったものだった。

 

『野生解放っていうのはね。獣としての本能を呼び覚ます事で元の動物に応じた力を引き出す技なんだ。』

 

 そんな自分に怒ったりすることなく彼女は優しく説明してくれた。

 

『イエイヌさんはヒトと暮らす事が得意だよね。それって理性が強いって言えるんだよ。理性っていうのはね、本能とは対極的なものなんだ。』

 

 難しい物言いにハテナマークを浮かべるばかりだった当時の自分に彼女はもう一度わかりやすい言葉に置き換えて何度もわかるまで説明してくれた。

 

『だからね。イエイヌさんが野生解放すると理性と本能が衝突しちゃって、普通のフレンズよりも身体にかかる負担が大きくなっちゃうんだ。』

 

 身体にかかる負担が大きくもしかしたら命にすら関わるかもしれない。そう説明されては野生解放に関しては諦めるしかなかった。

 だからこそ、イエイヌはヒトの帰るおうちを守る為に他のフレンズよりも多くの技を編み出した。

 『ウォーハウリング』もその一つだ。

 遠吠えによって一時的に身体能力を上げる技だが、これは野生解放の完全な下位互換と言っていい。

 もしも……もしも再びビーストのような強敵に出会ったのなら…。

 『ウォーハウリング』では足りないだろう。

 

「野生解放…。わたしにも使えないでしょうか…。」

 

 かつて野生解放を禁じたあのフレンズの言葉をよくよく思い出すなら、使えないわけではないだろう。

 ただ、身体にかかる負担が大きいのだ。

 

「試して…みましょうか…。」

 

 キョロキョロ、とあたりを見渡しても誰もいない。

 まだ朝のホームルーム前の時間だ。

 この屋上で邪魔するものは誰もいないように思えた。

 イエイヌは自分の心の内側に意識を向ける。

 確かに自分の心の中にも獣としての本能と呼ぶべき何かがある事がわかる。

 それは今は小さな炎となって胸のうちにあるが、これにサンドスターを注いで大きな炎にしてやればいい。

 理屈はわかっている。

 あとは…。試してみるだけだ。

 しかし、何かがイエイヌを押し留める。

 かつて世話を焼いてくれたヒトによく似たフレンズが大した理由もなく野生解放を禁止したとは思えない。

 使ったら最後、自分は死んでしまうのかもしれない。

 そう思うと野生解放を押し留める自分がいた。

 しばらくの逡巡。

 だが、こんな臆病な事でいいのか、と自分を震い立たせたイエイヌ。

 いよいよ、自分の心の中にある“本能”の炎に燃料をくべようとしたその刹那。

 

―バシーン!

 

 と景気いい音が響いて背中に大きな衝撃が走る。

 

「うひゃあああああああああああああっ!?!?!?」

「うわぁあああああああああああああっ!?!?」

 

 ちょうど野生解放を試そうとしていたその時にそんなことがあったものだから飛び上がらんばかりに驚き悲鳴をあげるイエイヌ。

 そして背中を叩いたフレンズもまたその声に驚きの悲鳴をあげるのだった。

 慌てて振り返ったイエイヌの目の前には……。

 

「あ、アムールトラ…。」

 

 がいるのだった。

 

「いやあ、ごめんごめん。イエイヌが屋上にいくの見えてな?で、ちょっと驚かせたろ思ったらまさかそんな驚くと思ってなくて…ほんまゴメン!」

 

 と両手をあわせてごめんね、のポーズのアムールトラ。

 イエイヌは絶妙なタイミングでの邪魔に怒りたくなる気持ちがないではないけれど、それよりも安堵の気持ちの方が強かった。

 

「もういいですよ。アムールトラ。」

 

 だからイエイヌはそんなアムールトラを許した。その上で…。

 

「そうだ。アムールトラ。わたし、あなたに訊きたい事があったんです。」

「お?ほんま?実はウチもイエイヌに訊きたい事があったんや。」

 

 そうなのか、とお互いに顔を見合わせる。

 

「じゃ、じゃあアムールトラから…。」

「いやいや、イエイヌからでええで?」

 

 とお互いに譲り合う。

 

「もう、じゃあさっき驚かせてくれたお詫びという事で先に訊かせてもらいますね。」

 

 と、この譲り合い合戦はイエイヌが折れる形となった。

 

「実はわたしはこの世界ではない、セルリアン、というわたし達の天敵がいる世界から来ました。」

 

 自身の胸に手をあて、アムールトラを真っ直ぐに見つめて言うイエイヌ。

 その言葉にアムールトラの目が細くなった。

 

「あなたもそうじゃないんですか?アムールトラ。」

 

 その真っ直ぐな視線を受けてアムールトラは視線を逸らして頭の後ろをガシガシと掻く。

 イエイヌとしては大笑いされたりする事を心のどこかで期待していた。

 けれど、そうじゃない、という確信もまたあった。

 昨日ショッピングモールで見せたアムールトラの膂力はこの世界どころか、かつて暮らしていた世界でだってトップクラスだろう。

 そんな彼女に何の秘密もないわけがない。

 そしてその秘密はイエイヌと一緒のものじゃないだろうか、と考えていたのだ。

 

「そうや。ウチは…、いや、ウチも元々はこの世界に住んでたわけやない。」

 

 やがて頭の後ろをガシガシと掻くのをやめたアムールトラ。

 先に自分の正体を明かしたイエイヌの誠実さに応える形で本当の答えを返す。

 

「ウチの場合はな…。覚えてる事は多くない。」

 

 アムールトラはこの世界にやってきた経緯を語り始める。

 彼女が覚えているのは瓦礫に埋もれる自分、という場面だった。

 何故こんな事になっているのかはわからなかったが上の方からは楽しげな音楽が聞こえてくる。

 上手く声すらあげられなかった。

 それほどに瓦礫は彼女の身体を圧し潰そうとしていた。

 何とか脱出しようともがいてみたものの身体はピクリとも動かなかった。

 上の方から聞こえる楽しげな音楽に併せて歓声も聞こえる。

 きっとここに自分がいる事には上にいる誰か達は気づいていないのだろう。

 助けを求めて声をあげる事も、そして自力で脱出することも出来そうにない。

 いよいよこれは諦めるしかないか、と観念して両目を閉じたとき。

 

『ふむ。助けて欲しいか?』

 

 と何故か瞼の裏側に真っ白いキツネのフレンズの姿が映った。

 

「それ…オイナリサマじゃ…。」

「せやなあ…。そいつはそう名乗っとった。」

 

 ちなみに、アムールトラもこの学校に転校してきた時にオイナリ校長を見て大層驚いたそうだが、ここでは余談だ。

 アムールトラはそのオイナリサマと名乗った真っ白なキツネのフレンズに願った。助けて欲しい、と。

 彼女が頷くと同時、身体の重みがふっと消えた。

 その変化に驚いて目を開けたアムールトラの眼前には青空が広がっていた。

 どうやらどこかの森の中で仰向けに倒れているらしい、と悟る。

 先程までの息苦しさはどこへやら、新鮮な空気が当たり前のようにそこにあった。

 どうやらオイナリサマと名乗ったそのフレンズはどうやってかは知らないが本当に自分を助けてくれたらしい。

 身体のそこら中が激痛を訴えていたがともかくあのまま暗い場所で誰にも知られず息絶える事だけはなくなったらしい。

 そう安心すると共にそのまま気を失ってしまうアムールトラだった。

 

「で、な?次に目を覚ました時に目の前にいたのがルリやった。」

 

 ルリはどうやら倒れているアムールトラを見つけて手当をしてくれたらしい。

 ルリは小さな身体で苦労しながらもアムールトラを運ぼうとしてくれていた。

 物凄く重たそうにしていたから見兼ねて「置いていっていい。」といったら滅茶苦茶怒られた。

 

「そうして、今のウチらの保護者のところに連れてってもらってな。でそこで傷を治してもらって…。で、そのうちにこの街に引っ越してきたっちゅうわけや…。」

 

 と一通りの経緯を語り終わったアムールトラ。ふ、と気が付くとイエイヌが滂沱の涙を流していた。

 

「ちょお!?今の話にイエイヌが泣くような事あった!?」

 

 と慌てるアムールトラ。

 

「だって…だって…!そんな暗い場所で一人ぼっちで近くに誰かいるのに気づいてもらないだなんて…!そんなの辛すぎますよ!」

「だぁー!?ウチは無事やから!せやから落ち着いて!泣き止んで!ほい、ポケットティッシュあるから!お鼻もかんで!」

 

 とイエイヌの涙をぬぐったり鼻をかませたりと大忙しのアムールトラ、

 やがてイエイヌも落ち着きを取り戻す。

 

「もしも今度オイナリサマに会えたらアムールトラを助けてくれた事もお礼言わないとですね。あ、あとルリさんにもお礼言いたいです!」

 

 とアムールトラに詰め寄るイエイヌ。

 

「ま、まあルリの方はウチが散々お礼言ったから。その分ルリと仲良うしたって。」

 

 その剣幕に押されるアムールトラ。取り敢えずの提案にイエイヌは何度も頷いてみせる。

 

「ところで、アムールトラの訊きたい事って何ですか?」

 

 そうして今度はそっちの番だ、と言いたげなイエイヌ。真っ直ぐにアムールトラを見やる。

 

「あー…。うん。あのな……。」

 

 しばらく迷うようにするアムールトラ。

 何度となく視線を彷徨わせてからやがてイエイヌを真っ直ぐに見つめる。

 そしてゆっくりと口を開いた。

 

「イエイヌ…。お前、クロスナイトなんか?」

 

 その言葉にしばらく固まった後大きく目を見開くイエイヌ。

 

「ど、どうしてそれを…。」

 

 そう絞り出すイエイヌにアムールトラは一度苦笑する。

 

「いや、イエイヌ…。少しは腹芸っちゅうもんも覚えた方がええんやないか…。」

 

 と言うアムールトラにイエイヌは慌てて両手で自分の口を抑える。

 

「あの…あの…!?」

 

 とわたわたと慌てはじめるイエイヌ。

 

「ああ、別に正体をバラしたりとかするわけやない。」

 

 その言葉にイエイヌはホッと一息。胸を撫でおろす。

 そんなイエイヌにもう一度苦笑するアムールトラ。

 

「まあ、昨日のあの状況でイエイヌがいなくなってクロスナイトが現れた。もしかしてー、くらいには思ってたけどな。」

 

 訊きたい事は聞いた、とばかりにイエイヌの肩をポム、と叩くアムールトラ。

 そのまま屋上を去っていく。

 

「あの…!どうしてそれを訊きたかったんですか!?」

 

 アムールトラの目的がわからずに去り行くその背中に向けて言うイエイヌ。

 それに振り返る事なく、言葉のかわりに軽く右手を挙げるのみで応じたアムールトラは足を止める事なく屋上から去って行った。

 

「ウチの覚悟に必要やったんや。必要な時が来て知らずに戦って後悔するよりはマシやろうからな。」

 

 階段を下りていくアムールトラの呟きは誰に届く事もなかった。

 

 

 

―後編へ続く




【セルリアン情報公開】

第6話登場セルリアン

マネキン型セルリアン『ナイトメアドール』

マネキンに取り付いたセルリアン。動きがぎこちなくパワーもスピードも大した事はない。
正直弱い。
ただし、学習能力があり、少しずつだけれども強くなっていく。
ぎこちない動きはある種の不気味さを生み出して夢に見そうな気さえする。
外見上の不気味さがある意味一番の武器かもしれない。




マネキン型セルリアン改『アラクネドール』

マネキンにとりついたセルリアンが寄せ集まって下半身を蜘蛛のようにしたもの。
下半身はマネキン達が絡み合い歪に形成されているため、その外見は非常に不気味だ。
マネキンの腕を連結したロープのようなものを発射したり、それで蜘蛛の巣を作ったりする攻撃をしてくる。
一件蜘蛛の巣と違って触れても無害そうに見えるマネキンロープであるが、触れると腕が動いて捕まえて動きを阻害してくる。
見た目の不気味さに加えて中々に厄介な相手である。
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