けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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【用語解説 ビースト】

 ビーストとは、けものフレンズ2において登場した動物キャラクターの一種である。
 作中では唸り声をあげ、フレンズにもセルリアンにも見境なく襲い掛かる乱暴者として描かれている。
 また、作中では唸り声以外のセリフは一切ない。
 その姿はリデザイン後のアムールトラの物であった為、ビースト=アムールトラと認識されている。
 なお、作中ではアムールトラ以外のビーストは登場していない。
 黒いオーラを纏い、イエイヌを圧倒したり巨大なセルリアンを一撃で倒したりフレンズ型セルリアンを一蹴したりと戦闘能力は相当高い。
 最後はけものフレンズ2主人公の呼びかけに応じてフレンズ型セルリアンが発生したホテルへと現れるが、その際、一人崩壊するホテルに取り残されて行方不明となっている。
 本作中でアムールトラが語った瓦礫に埋もれた状態の記憶はこのホテル崩壊後のもの。



第7話『がーるず・びー・すとろんぐ』(後編)

 

 

 屋上でアムールトラと話して以来、イエイヌの胸中は複雑だった。

 自分と似たような境遇の仲間ともいうべきフレンズがいたことはほんの少しだけど嬉しい事だった。

 そして、アムールトラに野生解放のコツとか訊いておけばよかったなあ、という思いがあった。

 アムールトラはおそらく、戦う事が得意なフレンズだと思えた。

 ならばきっと野生解放だって使えるはずだしそのコツだって知っているかもしれない。

 試しに訊いてみるんだったなあ、とは思うものの、それは後の祭りだ。

 そして、もう一つ…。

 これはずっとイエイヌ自身が否定し続けていた事であるが、アムールトラとビーストが同一人物だったら…。

 そう考えると身震いした。

 アムールトラもイエイヌと同じ世界からこちらに来ていたのだとしたら…。外見だけがあんなにも似ているものだろうか。

 再びもった疑念はどんどん膨らんでしまう。

 そして…かつてコテンパンに負けたビーストに勝てるのか、と言われると正直自信がなかった。

 かつてビーストに襲われそうになっていたヒトの子供がイエイヌの想像の中でともえと萌絵の姿に置き換わる。

 慌てて首を振ってその考えを打ち消すイエイヌ。

 そんな事をぐるぐると何度も考えていたせいか、今日の授業は随分と身が入らなかった。

 後で萌絵に復習をお願いしないといけないかもしれない。

 

 そうして放課後。

 生徒達は早速帰り支度をしたり部活に向かったり、学校でたむろしたり。それぞれに過ごしはじめていつも通りの放課後だ。

 放課後にはともえも教室にやって来て取り敢えず帰り支度だ。

 イエイヌは自身が今感じている不安は一度置いておいて、ともえと萌絵に自分の考えを伝えてみる。

 技を鍛える…、つまり野生解放を試してみるという事を。

 

「そっか…。イエイヌちゃんが暮らしてた世界のフレンズちゃんにはそんな技があったんだね。」

 

 ともえも萌絵もイエイヌの提案を真剣に考えているようだった。

 

「アタシは…。あんまり賛成できないよ。だってイエイヌちゃんの身体には凄く負担がかかる技なんでしょ?」

 

 イエイヌにとっては負担の大きい技である事も包み隠さず伝えた為、萌絵の言い分はもっともな事に思えた。

 

「うん。無理するのはよくないと思う。お母さんとも約束したし。」

 

 そう。春香とも約束したのだ。無理はしない、と。

 もしも無理して身体を壊したりしたら春香はとても悲しむだろう。

 それはイエイヌにも容易に想像できた。

 

「その野生解放っていうのに詳しい人がいたら意見を聞いてみたいとは思うかな…。だって実際使った事はないんでしょ?」

 

 ともえが言うようにイエイヌは今まで野生解放を使った事はない。

 そして、この世界で野生解放という技に詳しそうなのは、アムールトラを除けば、かばんくらいだろうか。

 

「さすがにラモリさんはその野生解放っていうのに詳しくないよね?」

 

 と萌絵が抱えたラモリさんに訊ねてみるが

 

「アア。ソノ野生解放、と言う技は俺のメモリにはナイ。」

 

 と却って来たのは予想通りの結果だった。

 となると次の候補としてはかばんになる。

 

「今日はかばんちゃんは生徒会のお仕事があるみたいで放課後すぐに生徒会室に行っちゃったから、明日きいてみる?」

 

 ともえの提案に頷くイエイヌと萌絵。

 おそらくかばんだって野生解放に詳しくはないだろう。そして、イエイヌが野生解放したらどうなるのか、という疑問の答えを知っているとは思えなかった。

 しかし、それでも今はそれしか手がなさそうでもあった。

 取り敢えずの方針を決めたともえと萌絵とイエイヌの三人は帰り支度も終えて今日は家に帰る事にした。

 昇降口で上履きを脱いで学校指定のローファーへと履き替える。

 そして昇降口から外へと出たとき…、イエイヌにとってはもう嗅ぎなれてしまったセルリアンの匂いがした。

 

「セルリアンの匂い…。でも…、これって…。」

 

 セルリアンの匂い自体は嗅ぎなれたものだった。

 けれど、今日に限ってはその匂いに何か違和感がある。

 その違和感の正体は分からなかったがイエイヌは弾かれたように駆け出した。

 

「ちょ!?イエイヌちゃんー!?」

 

 慌てたようなともえの声が聞こえたがイエイヌは振り返る事なく走る。

 どうにもイヤな予感が拭えないイエイヌであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 セルリアンの匂いを辿ってたどり着いたのは旧校舎裏手の人気のない場所であった。

 放課後で生徒達はそれぞれに部活などに赴いているはずであったが、ここは静かなものだった。

 これなら多少派手に暴れても問題なさそうだ。

 イエイヌは速度を落とすと周りの匂いに集中する。

 と、セルリアンの匂いがする方向から声が聞こえてきた。

 耳をピクリとさせてその声に耳をすませるイエイヌ。

 

「よし、ルリ。落ち着いてな。深呼吸するんやで?何も心配な事ないからな。」

 

 聞こえてくる声の一つはアムールトラだった。

 そしてもう一つ。

 苦しげな吐息も聞こえてきた。

 それはルリの声のように思えた。

 

「もしかしてルリさんが体調を崩してる…?セルリアンと戦う前に何とかしないと…。」

 

 イエイヌはそちらの方へ駆け出して、そして絶句してしまった。

 旧校舎裏手の植え込みの向こうにはルリを抱えたアムールトラがいたのだが、ルリの身体から黒い水のようなものが滴り落ちて足元に落ちていた。

 その黒い水からセルリアンの匂いがしているのだ。

 どう見ても、セルリアンをルリが生み出しているようにしか見えない。

 アムールトラの腕の中でぐったりとして意識がないように思えるルリ。

 だから今事情をきけるとしたらアムールトラしかいない。

 

「アムールトラ…。これは一体…。」

 

 と戸惑いとともにアムールトラに声をかけるイエイヌ。

 アムールトラは驚いたように振り返り、そして随分と悲しそうな表情をした。

 アムールトラがそんな表情をしている事にイエイヌの胸も痛みを覚える。

 

「いっちばん見られたくないヤツに見つかってしもうたなあ…。」

 

 と自嘲気味に笑うアムールトラ。

 

「な、何を言っているんですか…。ルリさん具合悪いんですよね?早く保健室に連れていかないと…。」

 

 目の前で起こっている事にイエイヌの理解は追いついていなかった。ともかくルリの具合が悪そうだ、という事だけはわかったので、その対処だけでも絞り出す。

 が、そうしている間にもルリの身体から滴り落ちた黒い水のようなものがニュルリ、と動き出して旧校舎裏に置かれていた古く錆び付いた整地用ローラーへととりつく。

 やがて黒い水はグニョグニョと形をとって巨大なローラー型セルリアンへと姿を変えた。

 

「と、ともかくアムールトラ!貴女はルリさんを連れて逃げて下さい!」

 

 バッと背中に二人を庇うようにローラー型セルリアンとの間に割って入るイエイヌ。

 それに意外そうな表情を見せるアムールトラ。

 

「え、ええんか?」

「いいも悪いもないでしょう。早く。」

 

 気を失っているように見えるルリをこの場に留めておくのは危険なように思えた。

 だから目の前のローラー型セルリアンを睨みつけながらイエイヌはアムールトラを促す。

 ルリがセルリアンを生み出していた事については今は置いておく。

 

「すまん。恩に着るわ。」

 

 短く言ってルリを抱えて駆け出すアムールトラ。

 その背中にイエイヌも短く言う。

 

「後で事情は教えて下さい。わたしも力になりますから。」

 

 その言葉にまたもアムールトラの表情が辛そうに歪む。

 だが、何かを言う前にルリを連れて去っていった。

 あらためてイエイヌは目の前のセルリアンに向き直る。

 たっぷりと黒い水のようなものを吸い込んだセルリアンはイエイヌの背丈の倍近くの巨大なローラーを作り出していた。

 本当ならば思わず畏怖してしまいそうだったが今日は何故だか怒りの感情の方が強かった。

 先程見せたアムールトラの悲しそうな表情が棘のようにイエイヌの胸に突き刺さっていた。

 早く行って安心させてやりたい。

 だからこのセルリアンはとてもとても邪魔なのだ。

 やる事は決まった。

 

「変身…!」

 

 イエイヌの身体がサンドスターの輝きに包まれる。

 

「クロスナイトッ!」

 

 その輝きが晴れたときにそこにいるのは腰までの短いマントをたなびかせた騎士、クロスナイトである。

 巨大整地用ローラー型セルリアンことコンダラセルリアンはローラー部分を回転させはじめる。

 持ち手の部分が高くあがってイエイヌに向けて突撃してくるコンダラセルリアン。

 そのスピードは意外に速い。

 いくら怒りに駆られているからといってクロスナイトは真正面から向かったりはしない。

 クロスナイトはパワーに優れるタイプではないのだ。

 そのことは彼女自身がよく分かっていた。

 バッと余裕をもってコンダラセルリアンの突撃をかわすクロスナイト。

 スピードもあり、巨大なローラーによる圧し潰し攻撃は凄まじい破壊力を秘めているだろう。

 だが動き自体は直線的だ。

 かわせない程ではない。

 そして『石』を探すクロスナイト。

 『石』はまだ見つからないが、高く持ち上げられた持ち手部分の中央にセルリアンの目らしきものがある。

 きっとそこは弱点にはなるだろう、と予想したクロスナイトは叫ぶ。

 

「クロスハート!あそこです!」

 

 と高く持ち上がったコンダラセルリアンの持ち手部分を指さすクロスナイト。

 

「りょうかーい!」

 

 と声が響くと同時ヘビクイワシフォームに変身したクロスハートが飛び出した。

 匂いでそろそろともえが追いついてくる頃だろうと知っていたクロスナイト。絶妙な不意打ちだ。

 

「ちょいさー!」

 

 とセルリアンの目に向けて飛び蹴りを放つクロスハート。

 だが……。

 

―グゴゴゴゴゴゴ!

 

 と音を立ててその場でローラーを回転させるコンダラセルリアン。

 なんと一体型と思われていたローラーの右半分と左半分がそれぞれ逆方向に回転していた。

 それでまるで独楽のようにスピンするコンダラセルリアン。

 高く持ち上げていた持ち手部分も凄まじい回転を見せる。

 

「うわわっ!?!?」

 

 突撃していたクロスハートは回転する持ち手部分に弾かれて錐揉み状に飛ばされる。

 

「クロスハートっ!」

 

 クロスナイトが走って地面に激突する前にクロスハートを受け止める。

 

「ありがとうね、クロスナイト。」

「いえ。わたしもまさかセルリアンがあんな事をしてくるなんて思っていませんでした。」

 

 あらためてコンダラセルリアンに向き直るクロスハートとクロスナイト。

 やはり油断ならない相手だ、と気を引き締めなおす。

 と、油断しないように、と気を引き締めたばかりだというのに、その直後コンダラセルリアンは持ち手部分を叩きつけるかのように上空から二人に向けて振り下ろす!

 しかし、これは目測を見誤ったのか、全然クロスハートとクロスナイトに届いていない。

 

「ダメだよ!クロスハート、クロスナイト!そこは危ないよ!」

 

 さらに追いついてきたラモリさんを抱えた萌絵の声が響く。

 攻撃は外れたのに何が危ないのだろう、とハテナマークを浮かべるクロスハートとクロスナイト。

 振り落とされたコンダラセルリアンの持ち手部分はちょうど二人を囲むような格好になっていた。

 その持ち手が縮んで二人をローラーに向けて抱きしめようとしていた。

 

「うそお!?」

 

 伸縮スピードは意外にも速い!

 飛んで逃げる事もジャンプでかわすことも出来ずに縮む持ち手に引っかかってしまう二人。

 コンダラセルリアンは待ってました、とばかりにローラーをゆっくりと回転させ始めていた。

 何度も言うようだが俗称コンダラの整地用ローラーは押して使うものだ。持ち手の内側に入るとこうなるかもしれないからよい子は絶対真似しちゃいけない。

 

「く、クロスナイト!」

 

 縮む持ち手から逃げられない事を察したクロスハートはコンダラセルリアンの上の方を指さす。

 

「ジャンプして!」

 

 その言葉にクロスナイトも何がしたいのかを理解した。

 持ち手に足をかけてそれが縮む勢いも利用して大きくジャンプする二人。

 コンダラセルリアンのローラー頂点部分に着地、そのままローラーの回転と逆方向に走る。

 

「こ、これはちょっと無茶じゃないでしょうか!?」

「他にいい方法思いつかなかったんだよお!?」

 

 言いつつローラーの回転に抗ってその上を走り続ける二人。一見するとコミカルだが、ローラーの回転に負けた瞬間に巻き込まれて圧し潰されてしまう。

 と、ローラーの頂点部分のちょうど真ん中に『石』が見えた。

 何とか走りながらも徐々に横にずれていって『石』を狙う二人。

 そうはさせない、とばかりにコンダラセルリアンは持ち手を再び上へ向けてから縮めてくる。

 ちょうどローラーの上を走る二人に叩きつける格好だ。

 

「クロスハートっ!飛んでっ!」

 

 というクロスナイトの言葉にそういえば自分はいま飛べるんだった、とようやく思い出したクロスハート。

 慌てて頭の翼を広げて飛ぶとクロスナイトをかっさらうように抱いて一度大きく距離をとる。

 

「ふ、ふう…。危なかったぁ…」

 

 二人揃って、ふいー、と一息…している暇もなかった。

 再びコンダラセルリアンがローラーを回転させて突撃してくる!

 

「ム…?最初よりモ少しダケだがスピードが上がッテいる…?」

 

 その突撃を見たコンダラセルリアンを解析中のラモリさん。表示されるデータのわずかな差異に疑問の声をあげる。

 

「それってこの前のマネキンのセルリアンみたいに学習能力があるってこと?」

 

 萌絵もそれに自分の予想を重ねてみるが、それにはラモリさんがいいや、と尻尾の多機能アームを首のかわりに横に振る。

 

「地面を見てミロ。ソレが原因ダ。」

 

 ラモリさんの言う通りに地面を見てみる萌絵。と、おかしな事に気が付いた。

 この殆ど人の手が入る事のない旧校舎裏手の地面が真っ平になっているのだ。

 

「そっか…。あのセルリアンって整地用ローラーにとりついているから、地面を平らにならして動きやすくしたんだ。」

 

 萌絵はそこからさらに考えこむ。

 もしかしたら、という閃きが頭によぎった。

 そばにあった土塊を拾い上げる萌絵。それをコンダラセルリアンの前へと放り投げる。

 と、クロスハートとクロスナイトを追いかけていたコンダラセルリアンが放り投げられた土塊へと向かうと丁寧に丁寧にそれをプレスしていた。

 すっかり綺麗に真っ平になった地面をじーっと見つめるコンダラセルリアン。

 なんだか、いい仕事をした、とばかりに満足気な様子だ。

 もしもこのセルリアンに両手があったらきっと額の汗を拭うかのような仕草をしていたことだろう。

 それを見て萌絵の閃きは確信に変わる。

 

「クロスハート!そいつね、平らじゃない地面が許せないんだよ!なんたって整地用ローラーだもん!そういう習性があるんだよ!」

 

 萌絵の言葉にクロスハートはニマリと笑った。

 その顔はイタズラを思いついた子供のようだった。

 そしてその思いつきを実行する為に叫ぶ。

 

「チェンジ!クロスハート・イエイヌフォーム!」

 

 サンドスターの輝きと共にイエイヌフォームへと変わったクロスハート。

 これにはクロスナイトがおや?と思った。

 最近はイエイヌフォームの出番は少なくなっていた。何せクロスハートがイエイヌフォームで出来る事はだいたいクロスナイトも出来てしまう。

 だから別なフォームを使う方がより作戦の幅が広がるのだ。

 それは当然わかっているクロスナイトだったがそれはそれでちょっとだけ寂しさを覚えていたりもした。

 だからクロスハートが何を思いついたのか、戦いの真っ最中だというのにちょっとだけワクワクしてしまっていた。

 

「クロスナイト!ここ掘れワンワン!」

 

 そのクロスハートの言葉だけでクロスナイトは作戦を理解した。

 二人してシュババ、と地面に穴を掘り始める。

 ちょうどよいくらいの穴が出来たら次、掘り終えたら次、と次から次に穴ぼこが増えていく。

 これにはコンダラセルリアンが焦ったかのようにローラーで整地を始める。

 だが整地しても整地しても穴ぼこが増える速度の方が上だった。

 二人がかりで穴を増やしているクロスハートとクロスナイト。

 コンダラセルリアンが元凶を絶とうと一人を追いかけている間はもう一人が穴を掘り放題。どんどん周囲が穴だらけになっていく。

 と、クロスハートが掘った穴をあらかた整地し終えたコンダラセルリアン。

 なんだか気のせいか疲労の色が見て取れるような気がした。

 そんなコンダラセルリアンにクロスハートは、後ろを見てみて、とばかりにその背後を指さしてみせる。

 何だかイヤな予感がしつつもローラーを回転させて振り返るコンダラセルリアン。

 

―!?!?!?!?

 

 と、コンダラセルリアンの悲鳴が聞こえた気がした。

 こんなん出来ました、とばかりにクロスナイトが今しがた掘った大穴を指し示していたからだ。

 クロスハートが囮になっている間に掘った大穴はちょっとやそっとでは整地しきれないように見える。

 大慌てでその穴を整地に向かうコンダラセルリアン。

 整地用ローラーとしての習性を持つコンダラセルリアンにはこれは許せないレベルの大穴なのだろう。念入りに念入りに整地を始める。

 あれだけの大穴もあっという間に元通りになろうとしていた。

 が、整地作業に集中しているコンダラセルリアン。無防備な背中をクロスハートに晒してしまっていた。

 

「チェンジ!クロスハート・ヘビクイワシフォームっ!」

 

 再びヘビクイワシフォームへと変化したクロスハート。頭の翼を広げてコンダラセルリアンの頭上へと飛ぶ。

 そのまま…

 

「刻み込む蹴撃!スタンプスタンピィドォオオオオッ!」

 

 とそのローラー頂点にある『石』へ向けて必殺のマシンガンキックを叩きこむ!

 

―ズガガガガガッ!

 

 と凄まじい轟音と共に『石』へ蹴りの雨が降って…

 

―パッカーン!

 

 と『石』が砕けて一瞬遅れてコンダラセルリアンの巨体もバラバラに砕けてサンドスターの輝きに還っていく。

 何とかなった、と安堵の吐息を漏らすクロスハートにクロスナイトと萌絵の三人。

 そうして気を緩める三人の前に、ザッと足音が響く。

 その足音の主は…。

 

「アムールトラ…。」

 

 であった。

 クロスナイトはそのまま彼女に駆け寄ると

 

「ルリさんは?」

 

 と訊ねる。

 

「今は保健室でユキヒョウが看てくれてる。もう落ち着いた。」

 

 その言葉にまずはほっと胸を撫で下ろすクロスナイト。だが、先程見たものは決して看過できるものではなかった。

 

「あの…。アムールトラ。さっきのアレは…。」

 

 クロスナイトはともかく事情を聞きたかった。

 

「さっきはセルリアンの始末を任せてすまんかったな。おかげさんでルリの事を早いうちに落ち着かせられた。礼を言うで。」

 

 礼を言う、という割にはアムールトラの纏っている雰囲気は随分と剣呑なもののように思える。

 そのまま言葉を続けるアムールトラ。

 

「それにな。嬉しかったで。あんなん見ても、力になるって言ってくれてな。」

 

 ゆっくりと被りを振ってからアムールトラはさらに続ける。

 

「けど無理や…。クロスナイト。お前も見たやろ。ルリはセルリアンを生む。本人の意思に関わらずな。」

 

 その言葉にクロスハートも萌絵も、そしてクロスナイトも息を呑む。

 

「あの子はな。周囲の“キラキラ”を呼吸みたいに吸って身体に貯めて“セルリウム”に変えてしまうんや。」

 

 驚きに大きく目を見開くクロスナイト。理解したくない現実を前に何とか言葉を紡ぎだす。

 

「それ…。ルリさん本人は…。」

「知らんよ。あの子は何も知らん。薄々感づいてはいるかもしれんけどな。あの子は普通に生きてるだけや。」

 

 淡々と話すアムールトラであったがそれは随分と痛々しい姿のように思えた。

 

「“キラキラ”はルリにとって栄養みたいなもんや。ルリって小さいやろ?」

 

 小学生の低学年といっても通用しそうなルリ。その言葉には黙ってうなずくしかなかったクロスナイト達。

 

「本当はな。生き物から“キラキラ”を取り込むのが一番効率がええんや。けど、ルリはそれをしたことがない。」

 

 なるほど。だからそんなに小さいのか、と理解してしまうクロスナイト達。

 

「人里離れたところなら普通に暮らせるかと思うやろ?けどそれじゃあルリの栄養が不足してまう。モノに宿る“キラキラ”はヒトやフレンズの営みからしか生まれんからや。」

 

 そう。だからこそ最初は人里離れた場所で暮らしていたルリ達はこの街に引っ越して来たのだ。

 ここまで聞いてクロスナイトは一つ疑問が浮かぶ。

 生き物から“キラキラ”を食べてしまう存在。

 それはヒトではなくて…。

 

「セルリアン…」

 

 ポツリ、とクロスナイトの口からその言葉が漏れる。

 それにアムールトラは重々しく頷いた。

 

「せや。ルリはセルリアンなんや…。」

 

 その言葉に「「うそ…」」とクロスハートと萌絵がぽつりと呟く。

 

「セルリアンなんや!」

 

 もう一度、アムールトラは叫ぶ。

 きっとアムールトラ自身、それが嘘であればいい、と思っているのだろう。

 

「これを知ってるのはウチとウチらの保護者だけや。ルリもユキヒョウも何も知らんよ。」

 

 と自嘲気味に笑うアムールトラ。

 

「なあ、正義の味方。ルリはセルリアンを生み出すセルリアンや。ここまで聞いても力になってくれるか?ウチと一緒にルリを守ってくれるか?」

 

 す、っと右手を伸ばすアムールトラ。

 だが、その場の誰もあまりの事態に反応することが出来なかった。

 そして、アムールトラの誘いに乗るという事はこれからも毎日のように現れるセルリアンに対処せざるを得ないという事でもある。

 今の話を信じるならばセルリアンの発生源がルリなのだから。

 そしてクロスハートもクロスナイトもセルリアンの為に危ない目にあってしまった人達を知っている。

 だからすぐに頷いてあげることが出来なかった。

 

「そうやろな。普通はそうや。しゃあない。」

 

 自嘲気味に笑い伸ばした手を落とすアムールトラ。そこには落胆の色も見てとれた。

 アムールトラにそんな表情をさせてしまった事にクロスナイトの胸がチクリと痛んだ。

 しかし、じゃあどうすればいいのか。

 それは分からなかった。

 

「せやからな。今の話はウチからお前らへの冥途の土産や。」

 

 ユラリ、とアムールトラの身体から殺気と共にサンドスターの輝きが立ち昇る。

 

「ルリはセルリアンやからな。お前らさえおらんかったらそう簡単にルリを傷つけられるヤツはおらん。」

 

 確かにサンドスターを用いて戦うクロスハートやクロスナイトはセルリアンにとって天敵とも言える。

 

「ウチはな。もう覚悟してるで。何に変えてもルリを守るってな。」

 

 す、っとアムールトラは両手に一つずつの金属製の輪を取り出す。鎖はついていないがそれは手枷のように見える。

 

「そんなわけでな。…ここでウチに倒されろ!正義の味方ぁ!!」

 

 咆哮と共に右の手枷を左腕にガチャリ、と嵌めるアムールトラ。

 

―Beast

 

 の文字が手枷に浮かぶ。

 続けて左に持った手枷を右腕へ装着。

 

―Drive

 

 の文字が手枷へと浮かぶ。

 

「ビーストドライブッ!」

 

―ドンッ!

 

 アムールトラの叫びと共に空気が震え、彼女を中心に烈風が巻き起こる。

 巻きあがった砂ぼこりが一瞬彼女の姿を隠し、それが治まったとき…

 

「ぐるぁあああああああああああああああああっ!!」

 

 そこにいたのはクロスナイト…、いや、イエイヌがよく知る存在だった。

 野獣の咆哮をあげる黒いオーラを纏ったその存在をイエイヌがかつて暮らしていた世界ではこう呼んだ。

 

 ビースト、と。

 

 

 

けものフレンズRクロスハート第7話『がーるず・びー・すとろんぐ』

―おしまい―

 

 




【次回予告】

アムールトラはかつてイエイヌが暮らしていた世界にいたビーストであった。
衝撃の真実を前に迷い戸惑うクロスナイト。
誰かを犠牲にしなくてはならないのか。
誰かをとって誰かを見捨てなくてはならないのか。
正義の味方が選んだ選択肢とは……。
次回、けものフレンズRクロスハート第8話『騎士と野獣』
お楽しみに!
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