かつてヒトがいなくなったジャパリパークで暮らしていたイエイヌはオイナリサマの手によって別な世界へと旅立った。
そこで遠坂ともえ、遠坂萌絵の二人とその家族と出会い幸せに暮らしていたがセルリアンの魔の手がこの世界にも忍び寄っていた。
フレンズの力を借りて変身する不思議な能力を得たともえと共にセルリアンと戦い、幸せな日常を守ってきたイエイヌ。
ある日アムールトラというフレンズと出会う。
ルリという少女を大切にしているアムールトラ。
かつて打ち負かされたビーストに酷似した容姿の彼女に最初は戸惑うイエイヌだったが、いつしかすっかり打ち解けて友達になった。
しかし、ルリがセルリアンを生み出すセルリアンであるという衝撃の事実を知ってしまうイエイヌとともえと萌絵。
ルリを守るため、アムールトラはイエイヌ達に襲い掛かってくるのであった。
「ビーストドライブッ!」
旧校舎裏の人気のない場所にアムールトラの叫びが響く。
彼女を中心に烈風が巻き起こり、それが治まった時、そこにいたのは黒いオーラを纏い凄まじい殺気を巻き散らすアムールトラだった。
その姿はまさに…
「ビースト…」
であった。
クロスナイトの口から漏れた通り、その姿はまさに彼女がよく知るビーストのそれであった。
かつてイエイヌが暮らしていた世界でビーストと呼ばれたその存在は乱暴者として知られていた。
凄まじい膂力を誇るものの、理性らしきものすら見せずフレンズもセルリアンも見境なく襲って回っていたのがビーストなのだ。
混乱するクロスナイト。
何故。
どうして。
疑問は尽きない。
だが、それを正す時間もなかった。
「ぐるぁああああああああああああああああっ!」
野獣の咆哮をあげたビーストが猛然と襲い掛かって来たからだ。
一足でクロスナイトと距離を詰めたアムールトラことビースト。
間合いに入ると力任せにクロスナイトの顔面めがけて拳を振り抜く!
クロスナイトも両手を交差させて防御態勢をとるが…
ニィ、とビーストの口角が上がる。
と、ピタリ、とその拳がクロスナイトのガード直前で止まった。
「があああああああああっ!」
ビーストの逆の腕が横からガードをすり抜ける形で振るわれる。
ちょうどストレートを囮にフックを叩きこんだ格好だ。
寸前で頭を後ろに引いた事でその一撃はクロスナイトにダメージを与える事はなかった。
だが、クロスナイトのミラーシェードを掠めてそれを一撃で粉砕する。
「くっ…!」
思わず後ろに下がるクロスナイトだったが、その目の前にニヤリと獰猛な笑みを浮かべたビーストの姿があった。
思わぬシャープな中段蹴りが飛び出してクロスナイトを捉える!
その一撃をもろに受けて「かはっ…。」と吐息を漏らすクロスナイト。
そのまま吹き飛ばされて地面を転がる。
「い、イエイヌちゃんっ!?」
思わず変身前の呼び名で呼んでしまう萌絵。
しかし、それに対してクロスナイトは地面をかいて立ち上がろうともがくのみだ。
「わるいな。今のウチは本能のままに戦う獣ってわけやないんやで。」
獰猛な笑みのままにビーストの口からアムールトラと変わらない口調の言葉が飛び出す。
それはクロスナイトにとってはかなり意外な事であった。
かつて戦ったビーストは確かに膂力は強かった。
だが、動きは直線的でまさに本能のままに暴れる獣、という印象だった。
それなのにかつてのイエイヌはビーストにコテンパンに打ち負かされたのだ。
それが理性的に立ち回れるのだとしたら…。
目の前の相手はクロスナイトの想定よりもはるかに強敵だ。
「このビーストドライバーのおかげでな、短時間やったらビースト状態を制御出来る。」
そんなクロスナイトの想いを知ってか知らずか、ビーストは両腕にはめた手枷のような物を掲げてみせる。
ビーストドライバーというのはその手枷なのだろう。
割れたミラーシェードの残骸を投げ捨て、歯を食いしばりどうにか立ち上がるクロスナイト。
その膝がふるふると震えてしまっていた。
たった一撃でダメージは甚大である。
立ち上がりはしたもののまともに戦えるようには思えない。
「チェンジッ!クロスハート・G・ロードランナーフォーム!」
そこに割り込んだのはクロスハートだ。スピード特化のG・ロードランナーフォームへフォームチェンジ!
「爆走!スピードスター!」
さらにスピードを上げるバフ技で速度をあげてビーストへと向かう。
「まあ、パワーに優れた相手にスピードで翻弄ってのはわからなくもない手やなあ。」
ビーストの周りを囲うようにグルグルと走り回るクロスハート。
あまりのスピードに分身すら見えるかのようだ。
「ねえ!?アムールトラちゃん!?なんでアタシ達が戦わないといけないの!?」
スピードをあげながらビーストに問うクロスハート。
だが、それは一笑に付される。
「それはもう終わった話やで!正義の味方ぁ!」
ダンっと地面を蹴って踏み出すビースト。
パワーがあるという事は瞬発力もあるという事だ。
パワー型とはいえ鈍重とは限らないのだ。
一瞬のスピードであればスピード特化のG・ロードランナーフォームにだって追いつける。
「うわわっ!?」
猫科特有の飛びつき攻撃を間一髪、大きく飛び退ってかわすクロスハート。
スピード特化のG・ロードランナーフォーム以外であれば今の攻撃をかわし切れなかったかもしれない。
クロスハートの頬を冷や汗が伝う。
一連の攻防にクロスナイトは頭の中がカッと熱くなるのを感じていた。
先程想像の外に追いやった場面が頭の中にフラッシュバックした。
かつてビーストが襲ったヒトの子供がともえと萌絵に置き換わる。
それが今、目の前で現実となっていた。
大きく飛び退っていたクロスハートにさらに追い打ちをかけようと追いすがるビースト。
「ともえさんに…!手を出すなぁああああああああっ!」
叫びを遠吠えがわりに、『ウォーハウリング』を発動させるクロスナイト。
かつて自分が苦い敗北を味わったのと同じ場面に、思わずクロスハートを変身前の名前で呼んでしまっていたがそれに気づく余裕すらない。
『ウォーハウリング』でわずかながら身体能力を向上させたクロスナイトはビーストに追いつく事に成功した。
背後から追いすがり、サンドスターを集めた手を振りかぶり…。
「ドッグバイトぉ!」
と、自身の手を牙に見立てた攻撃を繰り出す!
それに振り返ったビースト。クロスナイトの『ドッグバイト』に対して腕でガードする。
ガードに上げられた腕にそのまま『ドッグバイト』の牙を突き立てようとするクロスナイト…。
だが…
「通らない!?」
黒いオーラを纏ったビーストの腕に爪の一撃を食い込ませる事が出来なかった。
逆にニィ、と口角を上げるビースト。
『ドッグバイト』を放った腕を逆に掴み、そして…
「ぐるぁああああああああああああああああっ!!」
咆哮と共に力任せにクロスナイトを振り回し、そして地面へ叩きつけた!
―ダァン!
と物凄い音と共に地面へ叩きつけられバウンドするクロスナイト。
さらに追い打ち、とばかりに大きく振りかぶったビーストの拳がクロスナイトへ放たれようとしていた。
黒いオーラを集めて一層濃くしたそれは必殺の一撃のように思えた。
この体勢ではかわせない…!
「イエイヌちゃんっ!」
変身後の呼び名で呼ぶ余裕すらなくしたクロスハートがそこへ飛び込んで割り込む!
両腕を交差させてありったけのサンドスターを防御へ回す。
スピード特化のG・ロードランナーフォームだからこそこの場面に割り込む事が出来た。
だが、反面防御は弱い。
可能な限りのガード体勢でビーストの拳を防ぐも…。
「!?!?!?」
ビーストの拳は両腕のガードごと貫いてクロスハートを吹き飛ばした!
悲鳴すらあげられず吹き飛ばされ地面を何度かバウンドしてようやく止まるクロスハート。
―シュウ
と音を立ててその変身が解除されて元の制服姿のともえへと戻る。
そして、クロスナイトもまた地面に叩きつけられたダメージからまだ動く事が出来ないでいた。
「これでお終いやな。」
目の前のクロスナイトに向けて拳を振りかぶるビースト。
と、その時、どやどや、と賑やかな声が響く。
「こっちなのだー!こっちから凄い声がさっきから何度もしてるのだー!」
「待ちなよ、アライさーん。私たちだけ先に行ったってどうしようもないよー。」
そんな声が遠くから聞こえてくる。
「ちっ。ちと騒ぎすぎてもうたか。邪魔が入ったようやな。」
ビーストは拳を解くと大きく飛んで声がするのとは逆方向に大きくジャンプしていずこかへと消えていった。
どこかビーストにホッとした様子があったのは気のせいだろうか。
どやどや、と大人数でやってきたのはアライさん。フェネック。博士助手にサーバル。そしてかばんであった。
やって来た6人も思わぬ場面に息を呑む。
制服姿のともえが倒れて動かず、ミラーシェードの割れたクロスナイトも地面に倒れ、どうにか立ち上がろうとしてる。
「ともかく、ここにはもうすぐ他の人たちも騒ぎを聞きつけてやってくると思います。ともえさんとイエイヌさんを落ち着ける場所に運んで手当しましょう。」
かばんの言葉に今はそれが最善だ、と頷く萌絵。
だが、その次の行動はどうしたら最善になるのか全く思いつかなかった。
の の の の の の の の の の の の の の
かばん達の手によって一旦保健室へ運ばれたともえ達。
どうやらルリとユキヒョウ、そしてアムールトラも入れ違いで既に保健室を出た後だった。
怪我人は二人。
イエイヌとともえである。
イエイヌの怪我の方はそこまで大したものではない。
ところどころすりむいたりしているものの、消毒して手当をしておけば特に問題はないものだった。
問題はともえの方だ。
ラモリさんの診断によると、肋骨が折れてしまっていた。
幸いにも折れた骨が内臓を傷つけるような事態にはならずに済んだ。
だが、軽傷というわけでもない。
もしもガードが遅れていたら、と思うとイエイヌの顔からは血の気が引いた。
ともかく、ともえは絶対安静、ということで家に帰る事になった。
別に歩けないわけではないけれど、ちょっとした事で軽い痛みが走る。
腕などをあげたりしたらさらに痛い。
ともえはとても戦える状態には見えない。
「いやぁー。漫画とかで、今のでアバラの2、3本はイッちまったか、とかいうセリフあるけど実際こんな感じなんだね。」
ともえは割と明るく振舞っていたものの、何せ初めての敗北だ。一緒に家路につく萌絵もイエイヌもラモリさんも雰囲気は暗かった。
帰宅後、ちょっと休むとベットに入ったともえはすぐに眠りこけた。
もしかしたら痛みを我慢していたのかもしれない。
イエイヌはそんなともえの眠るベットサイドを片時も離れようとしなかった。
ともえの寝顔を見ながら色々な考えが過るイエイヌ。
「わたしは…。わたしはまた守れなかった…。」
まず浮かんだのはそれだ。
自分がもっと強ければともえはこんな痛々しい姿を見せずに済んだのだ。
と、こんな事態になってイエイヌはこちらの世界に来てからずっと心のどこかに引っかかっていた感情に気づいてしまった。
それは後悔だ。
確かに自分は寂しさに負けてこちらの世界に来る事を選んでしまった。
それは今まで貫いてきたヒトの帰るおうちを守る、という信念が折れてしまった、という事でもあったのだ。
かつて戦ったビーストに2度目の敗北を喫した事でそれがイエイヌの心に浮き彫りになってしまっていた。
たとえ今がどんなに幸せであったとしても、それで拭えるものではなかった。
「こんなわたしがともえさんと萌絵さんのそばにいたらダメだったんだ。」
悔しさに拳を握りしめるイエイヌ。
「こんなわたしのご主人様になってくれる人なんているわけなかったんだ…。」
ビーストを相手にかつてヒトの子供を守れず、今またともえを守る事も出来なかった。
それはひどくイエイヌの心に暗い影を落としていた。
だが幸か不幸か落ち込んでいる暇はなかった。
イエイヌには次にアムールトラが何をするつもりなのかよく分かっていた。
もしも自分が逆の立場であったなら、必ずそうするだろうから。
そう。
手負いにした獲物が巣穴に逃げたなら次はその巣穴に出向いて狩るのだ。
そしてそうなればイエイヌに勝算はない。
どうしよう、どうすればいい、せめてともえと萌絵と春香の三人は守らないと。
でもどうやって。
無理だ。
ビーストには勝てない。
逃げようにもともえは今まともに動かせない。
助けだって期待できない。
かばん達クロスシンフォニーに助けを求めたってともえが戦える状態ではないのだから結局同じ2対1だ。
犠牲が増えるのがオチだろう。
ぐるぐると思考が渦巻くイエイヌ。
妙案なんて思いつくわけもなく八方塞がりに思えた。
そんな時…
「へーい、かわい子ちゃん。そんなしょぼくれた顔してちゃせっかくの可愛いお耳と尻尾が台無しだよ。」
イエイヌの思考を破ったのはいつの間にか目を覚ましていたともえだった。
「ともえさん…。」
こちらの世界に来てから初めて声を掛けられた時と同じセリフにイエイヌも顔をあげる。
するといつもの笑顔を浮かべたともえと目が合う。
たったそれだけで今までの暗い感情が吹き飛んでしまったかのように思える。
「ねえ、イエイヌちゃん。」
ともえはイエイヌを真っ直ぐに見ながら続ける。
「イエイヌちゃんがアタシ達と一緒にいるのに理由なんていらないよ。だってアタシ達って家族でしょ?」
その言葉に思わず
「え?」
となるイエイヌ。その反応にともえも…
「え?」
となってしまっていた。
「うん。アタシもイエイヌちゃんはアタシの可愛い妹だって思ってたよ。」
いつの間に来ていたのか、萌絵がイエイヌの後ろに立っていた。
イエイヌのそばにジャパリまんの入った器を置きながら、違うの?と言いたげなキョトンとした瞳をイエイヌに向ける。
そして振り返ればともえも全く同じ瞳をイエイヌに向けていた。
「そうか…。」
と気づいたイエイヌ。
ともえも萌絵も自分に対して最初から家族として接してくれていた。
だが自分はどうだったろうか。
ずっとこの家の居候。そのくらいのつもりではいなかったか。
そしてともえと萌絵を自分の仮の飼い主くらいに思っていなかったか。
そして今ともえが言ってくれた家族という言葉はご主人様という言葉よりももっともっと暖かく響いた。
何か時々ともえと萌絵といて少しだけ違和感があったのはそれだったか、と思い至るイエイヌ。
自分はなんてバカだったんだろう、とイエイヌの口が少しだけ笑みの形を作る。
さすがにそれをそのまま言うのは何だか二人に申し訳がない気がしたイエイヌ。かわりにこんなセリフが口をついた。
「あー。いえ。萌絵お姉ちゃんを萌絵お姉ちゃん、と呼ぶのには抵抗がないんですが、ともえちゃんをともえお姉ちゃん、と呼ぶには若干の抵抗があるといいますか何と言いますか。」
このイエイヌの物言いに萌絵がぷっ、と吹き出した。
「わかる。ともえちゃんって妹みが強いからねえ。」
「ええー!?萌絵お姉ちゃんもイエイヌちゃんもヒドくない!?」
思わず抗議の声をあげるともえ、しかし声が折れた肋骨に響いて思わずアタタ、と黙り込む。
「だ、だいたい萌絵お姉ちゃんから見てアタシの妹感が強いのは萌絵お姉ちゃんがお姉ちゃんだからでしょ。」
とほっぺたを膨らませてみせるともえ。
「って言ってるけどイエイヌちゃんはどうかな?」
「うーん。ともえちゃんってほっとくと何をするかわからないハラハラ感があると言いますか…目が離せない感があるといいますか…。」
「あ、それわかるー。」
とほっぺた膨らませたともえを無視して盛り上がる萌絵とイエイヌ。
「もう―!二人ともヒドイよぅ!」
とうとう上半身をベットから起こしたともえ。両手をぶんぶんと抗議しはじめた。
イエイヌはそんなともえと、そして萌絵も巻き込む形でガバリと抱き着く。
「でも嬉しいです。ともえちゃん、萌絵お姉ちゃん。大好きです。わたし、幸せです。」
抱き着かれたともえは骨折の痛みで顔を青くしていたが、ここで音を上げてはますます妹みが強くなってしまうとやせ我慢だ。
そしてイエイヌも覚悟が決まった。
群れは、家族は、たとえ何にかえても守らなくてはならない。
だからビーストと…いや、アムールトラと戦う、と。
信念が折れているからどうした。
相手が強いからどうした。
それは家族を守らない理由なんかになるわけがない。
けれど…。
「どうしたの?イエイヌちゃん。」
再び暗くなった表情を見逃さずに訊ねる萌絵。
「いえ…。その、アムールトラと戦って、そして仮に勝ったとして…。その先どうすればいいのか…。」
そう。
仮にアムールトラに勝ったとしてともえと萌絵の平穏な生活の為にはルリを排除するしかない。
それをしてしまったら自分は家族と笑いあって暮らせるのか…。とイエイヌの心に再び暗い影が落ちる。
「それなんだけど、なんでアタシ達ってアムールトラちゃんと戦わないといけないの?」
「……へ?」
ともえの純粋に疑問をぶつけるような眼差しにイエイヌは思わず変な声が出た。
「だ、だってルリさんはセルリアンなんですよ?」
「うん。そうだね。」
「しかもセルリアンを生むセルリアンなんですよ?」
「うん、そうみたいだね。」
自分と二人の反応にどうにも温度差があるなあ、と違和感を感じるイエイヌ。
もしかして、さっきと同じように何か認識に大きな祖語があるのではないだろうか、と思い至る。
イエイヌにとっても、そしてアムールトラにとってもセルリアンというのは見つけ次第戦うか逃げるかしか選べない天敵だ。
共に生きるなど思いもつかない選択肢なのだ。
けれど、この世界に生きてきたともえと萌絵にとってはどうなのだろう。
「あ、あの…。ともえちゃん。萌絵お姉ちゃん。ルリさんの事、どうしたらいいと思いますか?」
そのイエイヌの疑問に二人は同じポーズで腕を組んで考え込む。
「うーん。セルリアンを生み出すっていうのが問題だよね。」
「そうだねえ。そこを何とかしたら普通に暮らせると思うんだけどねえ。」
ともえの言葉にうんうん頷きながら返す萌絵。
それはかなり意外な答えだった。
ルリを排除する、という選択肢は最初から存在していないかのように考えを巡らせているともえと萌絵。
その様子にだんだんとイエイヌの心にも希望が湧いてきた。
それを確かめるようにイエイヌはさらに二人に訊ねる。
「ええっと…。お二人はルリさんと一緒にこれからも学校に行っても平気…ってことですよね。」
「「もちろん。」」
と即答するともえと萌絵。
「だってルリちゃんってアムールトラちゃんやユキヒョウちゃんとめちゃめちゃ仲良く暮らしてるもん。」
「そうそう。アタシ達が今まで倒して来たセルリアンとは全然違うよ。」
その言葉にそうだ、と思い直すイエイヌ。
セルリアンだから排除しなくてはならないというのは思い込みだった。
アムールトラとユキヒョウと友達になれたルリだからこそ一緒に生きていいのだ。
ということは…。
イエイヌは萌絵の両肩をガシリと掴む。
「萌絵お姉ちゃん!ルリさんが普通に暮らせるように何とかなりませんか!?」
ひどい無茶ぶりだ、とは自分でも思うイエイヌだったが頭脳明晰な萌絵だったら何かいいアイデアがあるんじゃないだろうか、と藁にも縋る思いでその肩をゆする。
「あー……。相当無茶だけど、なくはないよ。無茶するのアタシだけど…。」
と、ほっぺポリポリする萌絵。
「お願いします!萌絵お姉ちゃん!」
必死な様子のイエイヌに、萌絵は一つ嘆息すると…腕まくりをしてみせて。
「お、お姉ちゃんに任せなさい!」
と傍目に見てもわかるくらいの安請け合いをするのだった。
萌絵の額に冷や汗が浮かんでいるのを見逃さなかったともえであるが、姉の名誉の為に心の中にしまい込む。
ここまで妹に頼られたら何がなんでも意地を張るのが萌絵だった。
ともえにとって、そんな萌絵はやっぱりお姉ちゃんなのだ。
そして、イエイヌはというと帰宅時とは比べ物にならない晴れやかな表情になっていた。
その顔を見れただけでも意地を張った甲斐もあるというものだ、と萌絵は密かな満足を覚える。
「そうしたら…やる事は決まりました。」
アムールトラとイエイヌはどこか似ている。
だから逆の立場だったらイエイヌはアムールトラと同じ事をしただろう、と思える。
そして、アムールトラはルリの為に決して止まったりしないだろう。
言葉で説得するのは無理だと思えた。
だから、イエイヌに出来る事は一つしかない。
それは生まれて初めてやる事だけれどやるしかない。
今まで生きてきた全てを賭して為さねばならないのだ。
決意と共にイエイヌは萌絵が持ってきたジャパリまんを両手に一つずつ掴むと無理やり口の中にねじ込む。
腹が減っては戦はできない。お行儀は悪いがまあ仕方ない。
そして乱暴に咀嚼後飲み下して…、
「げほっ!?げほっ!?」
むせた。
慌ててイエイヌの背中をさする萌絵。
「もうー。慣れない事するから…。」
萌絵は少しばかりの呆れと共にイエイヌの背中をさすっていた。
だがイエイヌはこれからもっと慣れない事をするのだ。
萌絵に礼を言うとスクリと立ち上がるイエイヌ。
「じゃあ、わたし、ちょっと行ってきます。」
きっとアムールトラが来るのはもうすぐのはずだ。
だからイエイヌは行かなくてはならない。
ともえと萌絵を守るのはもちろん、アムールトラだって止めなくてはならないのだから。
「だから、言ってくれませんか。いってらっしゃいって。」
ともえと萌絵の二人はイエイヌの視線を受けて頷きあう。
二人にはまだイエイヌが何をするつもりなのかは量りかねていた。
それでもその表情を見ればイエイヌが何か大事な事を為しにいくのだろう、と思えた。
心配ももちろんあるが、それを止めるばかりが家族ではない。
「「いってらっしゃい。」」
だから二人で精一杯の頑張れを込めていってらっしゃいを言う。
そんな二人の気持ちを受けてイエイヌもまた頷く。
「萌絵お姉ちゃん。ともえちゃん。いってきます。」
言って部屋を出ていくイエイヌ。
おそらくそのまま外へと行くのだろう。
言葉でアムールトラを説得するのは難しい。
だから、イエイヌは自分の意見を通す、その為に…
これから
生まれて初めて
友達と喧嘩をする。
―中編へ続く
【セルリアン情報公開】
第7話登場セルリアン
巨大整地用ローラー型セルリアン『コンダラセルリアン』
手押し式整地用ローラーに取りついたセルリアン。
目は持ち手部分の真ん中についており、『石』はローラー頂点部分の中央にある。
ローラーを回転させて進んだり、右半身と左半身でそれぞれ逆側にローラーを回転させてスピンするように方向転換をしたりと意外と機動力もある。
さらに元がとても固い整地用ローラーだけに防御力に優れている。
戦えば戦うほど地面を平らにならしていき、自身のスピードもアップさせるが、反面、デコボコした地面を見るとついつい平らにならさずにはいられない習性がある。