かつてヒトがいなくなったジャパリパークの世界に住んでいたイエイヌは、オイナリサマの手によってヒトとフレンズが仲良く暮らす現代的な世界へとやって来た。
そこで遠坂ともえとその家族と出会う事となった。
幸せな生活を予感させる中、本来その世界にはいないはずのセルリアンが突如襲い来る。
フレンズの姿に変身する不思議な力を得たともえとイエイヌはそんなセルリアン達と戦い幸せな日常を守って来た。
いつしか彼女達の戦う姿は謎の変身ヒーロー、クロスハートとクロスナイトとして人々の噂になっていった。
そんな中、遠坂ともえとその姉、遠坂萌絵とは実の姉妹のように仲良くなったイエイヌであったが、母親の遠坂春香だけはいまだにお母さんと呼べずにいた。
そこで三人は春香にサプライズを仕掛けて、ついにイエイヌに春香をお母さんと呼ばせる事に成功したのだった。
公的にもイエイヌは遠坂家の一員として認められ名実ともにイエイヌは遠坂イエイヌとなったのであった。
遠坂ともえと遠坂萌絵、そして遠坂イエイヌの暮らす家は2階が住居部分となっており、1階部分で喫茶店『two-Moe』を営んでいる。
常連達には『もえもえカフェ』の通称で親しまれるこの喫茶店であるが、実はこの『two-Moe』つい先日看板をリニューアルしていた。
店名はそのままではあるが、『two-Moe』の文字を守るかのように尻尾をグルリ、とさせた犬の意匠が追加されたのだ。
店名は飲食店登録などの際に登録している為、そう簡単に変えるわけにはいかないが看板ならば話は別。デザイン変更は自由である。
で、そんなリニューアルした看板と共に『two-Moe』には新しい店員が追加となった。
そう。イエイヌである。
「ふぉおおおおお!?いい!いいよ!イエイヌちゃん!これは絵になるぅー!めっちゃ絵になるぅー!」
「ほんとだね!これは絵になるぅー!ほんとに絵になるぅー!」
自身も『two-Moe』の制服姿となっていたともえと萌絵は凄まじい勢いでスケッチブックに絵を描いていく。
そして一気に描き上げるとお互いのスケッチブックを交換して食い入るように見つめて、そしてお互いにパシン、と手を鳴らしてハイタッチする。
今日の二人のモチーフはイエイヌだった。
イエイヌの『two-Moe』制服はまず、ヘッドドレス。こちらはともえと萌絵とそして春香ともお揃いだ。
そしてトップは白の袖なしブラウスに濃紺のベスト。首元にはリボンタイが結ばれている。
肩口にフリルをあしらっているあたり仕事が細かい。
そしてボトムはベストと同色の三段フリルのミニスカートであった。
さらに両手首にはフリルをあしらったリストバンド。足元は白のハイソックスにローファー。
左太ももにのみ巻きつけられたフリルつきのレッグリングがちょっとだけ艶めかしい。
初めてその制服を着たイエイヌはウエストエプロンを引っ張るようにしてモジモジと恥ずかしそうにしていた。
「うふふ。ちょっと気合いれて作った甲斐があったわー。イエイヌちゃんとっても可愛いわよ。」
春香も春香で実際に着せてみてとても満足のいく出来であったようだ。
今日は学校帰りのともえ達三人を珍しくバイトに誘った春香。このイエイヌの制服をお披露目したかったようだ。
平日の夕方以降の時間という事もあって、ちょうどお客さんもいない店内で制服お披露目会は家族水入らず状態であった。
ラモリさんがそんな4人の団らん風景を通信で父親に送って、ドクター遠坂がその場に居られない事に悔しがっているところでカランカラン、とドア鈴が鳴る。
どうやらお客さんだろうか。平日のこの時間の来客は珍しい。
いい加減褒めちぎられて少しばかり居心地の悪かったイエイヌは一番にお出迎えに走った。
「い、いらっしゃいませっ。」
まだたどたどしい様子で挨拶するイエイヌが出迎えたお客さんは…
「あ。こんにちわ。イエイヌさん。凄く可愛いですね。特にお耳の周りのヘッドドレスが凄く似合ってます。」
かばんと…。
「うわぁー!ほんとだ!かわいー!何これどうしたの!?」
とその後ろから飛び出したサーバルが興味津々といった様子でイエイヌの周りをぐるぐる回って観察する。
「サーバル。落ち着くのです。イエイヌが驚いているのです。」
「それにあまり騒いではお店の迷惑になってしまうのです。」
そんなサーバルをたしなめるのは博士と助手であった。
「まー、でもさー。サーバルの気持ちもわかるよー。ねー。アライさーん。」
「そうなのだ!すっかり見違えたのだ!とってもとっても可愛いのだ!」
と、さらに後ろからフェネックとアライさんまで現れてワイワイとイエイヌの制服姿を見ていた。
「皆さん、お揃いでどうされたんですか?まさかセルリアン…!?」
さすがに6人全員が揃ったクロスシンフォニー達に一瞬イエイヌに緊張が走る。が…。
「あ、いえ。それはもう倒したところなので問題ないですよ。」
と、あっさり言うかばん。その後を博士が続けた。
「ここにはコレが目的で来たのです。」
と、スマートフォンの画面を示して見せる。そこには『期間限定!two-Moe特製超ジャンボパフェ!』という文字が踊っていた。
「い、いつの間にそんな新メニュー開発してたの…。」
やって来たともえもその画面を見て、知らなかったと被りを振る。
「そりゃあそうよ、だって思いついたの今日だもの。」
遠坂春香。思いついたら即実行な辺りはさすがともえの母親である。
そうこうしていると、博士と助手がてててーっと一番奥のテーブルに陣取って…
「さあ、特製ジャンボパフェを出すのです。」
「我々はこの限定メニューを望んでいるのです。」
と、二人して手でテーブルをペシペシと叩いていた。
その様子にむしろ微笑ましいものを感じつつも春香はこう訊かなければならなかった。
「でも…。試作してみたはいいんだけど、お値段結構しちゃうんだけど大丈夫?」
そう。
この特製ジャンボパフェは春香が思いつきで作ってはみたものの、結構な材料が必要で原価が跳ね上がってしまい、結果お値段も相当になってしまっていた。
その言葉に博士はあらためて値段を確認すると「う”っ」と変な声を出してしまった。
「少しは割引してこのくらいには出来るけど…。」
と春香が示した数字に助手も「う”っ」と変な声を出して固まってしまった。
春香としても出来れば娘の友人達なのでご馳走してあげたい気持ちはある。けれど、特製ジャンボパフェは原価も原価なので全員分ご馳走してしまうとお店の経営的に大ダメージだった。
「あのね、結構なサイズになるから、皆で一つ頼んで皆で分けて食べてみるっていうのはどうかしら?」
春香の提案に博士と助手は「うぅむ…。」と難しい顔で考え込む。
「それくらいならおばさんがご馳走してあげるわ。せっかくだから感想モニターもしてくれるって条件でね。」
とウィンクしてみせるのが決め手となった。
「よかろうなのです遠坂春香!」
「我々は特製ジャンボパフェをみんなで食べるのですよ!」
と博士と助手はわちゃわちゃと春香にまとわりついて喜んでいた。二人に擦りつかれた春香はデレっと顔が緩んでしまう。
何せこの二人はちょっと生意気な言動がいちいち子供っぽくて可愛いのだ。
その様子にともえと萌絵が春香の肩を両側からポム、として「わかる」とばかりに頷いていた。
「じゃあ、私は早速ジャンボパフェ作っちゃうから他のお客さんが来たらお願いねー。」
と春香がキッチンへと入る。
それを見送ってから、博士は今度はかばんに向き直る。
両肘をテーブルにつけて口元で腕を組み何やら重々しい表情で…
「かばん。」
と語りかける。
思わぬ緊迫した様子に見守るともえも萌絵もイエイヌも思わずゴクリ、と固唾を飲む。
「ま、まさか…。」
その緊迫した様子に思い当たる節があるのか、かばんの頬に冷や汗が一筋流れた。
「そのまさかです。久しぶりにアレをやるのです。」
「いや、それは流石にダメなんじゃないでしょうか…。お店にも迷惑が…。」
博士に反対の意を返すかばん。しかし、そこにすかさず助手の援護が入る。
「かばん。今は他のお客さんもいないのです。それに…。遠坂春香。久しぶりにアレをやっても構わないですね?」
とキッチンの方に語り掛ける助手。すぐに「いいわよー。」と気楽な様子の返事が返って来た。
かばんが恐る恐る、といった様子で他のクロスシンフォニーの仲間たちを振り返ると、サーバルもアライさんもフェネックもキラキラと目を輝かせていた。
どうやら博士の提案に反対しているのはかばんだけのようである。
それにとうとう諦めの嘆息を一つついてから
「わかりました。」
と頷くかばん。
ともえも萌絵もイエイヌもどうにも話が見えない。博士達は一体何を始めるつもりなのだろう、と疑問の表情を浮かべていた。
それに気が付いたかのように博士がともえ達に向けて口を開いた。
「ふっふっふ。遠坂ともえ。ジャンボパフェは一つ。我々は6人。普通なら分け合って食べたらもう少し食べたかったなー、となると思いませんか?」
「あー。どうかなー。でもそうかも?」
博士の自信満々の言動に多少の疑問はあれども取り敢えず頷くともえ。
そして助手もまたニヤリとしつつ後を続ける。
「ところが、我々には我々にしか出来ない技でみんなでジャンボパフェを心行くまで楽しむ事が出来るのです。」
それに、まさか、と萌絵が思い至った。萌絵がそれに気づいた事を悟ったかばんは恥ずかしさで赤くなった頬を隠すように両手で顔を覆ってみせる。
その反応にどうやら予想が正解らしい、と確信した萌絵はそれを口にする。
「まさか…、クロスシンフォニーに変身してからジャンボパフェを食べるの?」
「「その通りなのです!」」
博士と助手はどうだ、とばかりにふんぞり返っていた。
「「え、えぇー……」」
と、ともえも萌絵も困惑の表情を浮かべていた。
クロスシンフォニーへの変身は確かに6人が一人になる合体とも言える面がある。
ただ、それで一杯のジャンボパフェを6人で味わうというのはどうなんだろう、と戸惑いがあった。
まあ、春香がいい、と言っているからいいのだろう。
おや?
ちょっとまて、とともえも萌絵も引っかかりを覚えた。
「ねえ、お母さん…?もしかして…」
「かばんちゃん達がクロスシンフォニーだってずっと前から知ってた?」
その引っかかりを萌絵が言って、後をともえが続ける。
キッチンからは「そうよー。」と気楽な春香の返事が返って来た。
「ええと…。春香さんには割と以前から協力してもらってたんです。正体も内緒にしておいてくれるって約束してくれてましたし。」
と、かばんがフォローしていた。
「いや、全然知らなかったよ。お店で会う事全然なかったもん。」
ともえが言う通り、かばん達と『two-Moe』で会う事はクロスハートになる前は全然なかった。
「まー。ここを作戦会議で使わせてもらうとか、簡単な祝勝会みたいな事くらいで、毎日利用してたってわけでもないからねー。」
「アライさんとしては毎日でも利用したかったのだ!」
フェネックの説明に何故かアライさんがふんぞり返る。
「でもさ、ここがともえちゃん達のおうちだって分かった時はビックリしたよね。」
「あー…。そうだね。色んな意味で…。」
サーバルの言葉にかばんが頷いて何やら遠くの方へ視線を彷徨わせる。
「確かに…。我々も遠坂春香が年上でしかも娘までいると聞いた時には驚かされたものです。」
「あれは我々のかしこさをもってしても見抜けなかったのです…。」
と、博士と助手も同じように視線を彷徨わせた。
それにはともえも萌絵も苦笑するしかなかった。
「でも、こういうやり取りも懐かしいよねー。」
と言うサーバルにフェネックがうんうん頷いていた。
「そうだねー。ある意味、クロスシンフォニーに変身してここで初めてパフェを食べた時が私たちがほんとにチームになった時だったかもしれないねー。」
「そうなのだ!あの時から嬉しい事は6倍の無敵のチームになったのだ!」
アライさんが続ける言葉にともえ達も興味をそそられる。
「ねえねえ、それって昔の話だよね?アタシも知りたいっ!」
と詳しい話をせがむともえに萌絵もイエイヌも同意とばかりに何度も頷いていた。
その視線に博士と助手もサーバルもフェネックもアライさんも一様にかばんを見て視線で「話してあげて」と催促していた。
「わかりました…。じゃあ、少しだけですよ。」
やはり諦めの嘆息と共にかばんはテーブルにつくと一つの思い出話を語り始めるのであった。
の の の の の の の の の の の の の の
それはちょうど今から1年程前の事であった。
かばんは中学1年生になるとほぼ同時にサーバルと一緒にフレンズの姿に変身する不思議な力を得た。
そうして、たまに現れるセルリアン達と戦い、街や学校を守って来たのだ。
半ば無理やりな形で生徒会庶務に引き入れられたかばんとサーバルであったが、その中でアライさんとフェネックと仲良くなりいつしか仲間となった。
そしてかばんとサーバルを生徒会に引き入れた張本人である当時生徒会長の博士と助手もクロスシンフォニーの仲間となったのだった。
これはちょうど博士と助手が仲間になった直後のお話である。
「怪談の調査?」
当時生徒会長である博士は生徒会室で小首を捻る。
学内各所に設置された生徒会への意見箱の中に気になるものを見つけたのだ。
怪談、と聞いて一緒に生徒会室にいたかばんが「うぇ!?」と露骨にイヤそうな顔をする。彼女はホラーは大の苦手だった。
「まあまあ、かばんさーん。取り敢えず話だけでも聞いてみようよー。博士が気になったって事は何か理由があるんだよね?」
青い顔をするかばんをまあまあ、と宥めるフェネック。こっそりとサーバルを隣に座らせてかばんの手を握らせる事も忘れない。
そのまま視線で博士に先を続けるように合図を送る。
「この投書を見て欲しいのです。」
と博士が示した投書をかばん、サーバル、助手にアライさんとフェネックのその場にいた生徒会メンバーがそれを覗き込む。
そこにはこう書かれていた。
~旧校舎に最近現れるという謎のオバケを退治して下さい。~
詳しい内容を見てみる一同。どうやら最近、夕方くらいになると旧校舎付近に真っ白い霧がかかって数メートル先すら見えなくなるというのだ。
「それだけではないようですね…。」
助手がさらに後を読み上げる。
続く内容は、その白い霧に飲まれたヒトやフレンズは謎の頭痛を感じるというのだ。
そして、そうした生徒達は一様に額に真っ赤な腫れを残すという。
最近生徒達の間で噂になりはじめた旧校舎の怪談である。
曰く、旧校舎のオバケの仕業である、と。
「そういえば、保健委員の子が言っていたのだ。最近下校時刻辺りに額を腫らした子が駆け込みでやってくるって。」
アライさんの言葉から、どうやらこのオバケ騒動は実際に被害者も出ているらしい。
「かばん。これはセルリアンの仕業とは考えられませんか?」
博士がかばんの方を見る。さっきまで怪談と聞いて青い顔をしていたはずのかばんは今は真剣な表情で考え込んでいた。
「そうですね…。その可能性は高いと思います。」
頷くかばんにクロスシンフォニーの仲間たちも頷きを返した。
その後、全員の視線が生徒会室の一角に集中する。
そこは教師用の机が置かれた場所ではあるが、そこに座る教師はいない。
その代わり、と言わんがばかりに机の上には水色のカラーリングのラッキービーストがちょこん、と乗っていた。
「では、ボス。まずは現場の調査、という事でいいですね?」
代表して、というようにその青いラッキービーストに声を掛ける博士。
しばしセンサーアイを明滅させて考え込む仕草を見せるラッキービースト。そのセンサーアイの明滅を終わらせると
「ワカッタヨ。かばん。みんな。十分気ヲ付けテ。クロスシンフォニーの出動承認ダヨ。」
と声を発した。
「よぉーし!クロスシンフォニーの出動なのだー!」
一番に気勢をあげるアライさんに全員が「おー!」と返事を返す。
そんな中でかばんは繋いだままのサーバルの手に力を込めて、サーバルはそれを同じように握り返して耳元にそっと呟いた。
「大丈夫だよ、かばんちゃん。私もボスもみんなだっているもん。怖い事なんて何もないよ。」
そんな耳打ちはかばんにだけしか聞こえていない。
かばんはやっぱりオバケは苦手なのだ。
の の の の の の の の の の の の の の
早速、旧校舎へと調査に訪れた一同。ちょうど時間も夕暮れ時。生徒達が白い霧を目撃したのと同じ時間帯である。
旧校舎へと続く道は既に人気はなく、なんとも不気味な雰囲気が漂っている。
そんな中、かばんは相変わらずサーバルの手を握ったままだった。
「生徒達の目撃情報によれば大体この辺りで白い霧が発生した、という事ですが…。」
キョロキョロ、とあたりを見渡す博士。
「ボス。どうですか?セルリアンの気配はありますか?」
助手の腕に抱えられた青いラッキービーストに声を呼びかける博士。しばらく「ケンサクチュウ、ケンサクチュウ…。」とセンサーアイを明滅させた後に…
「少し、サンドスター・ローの濃度が濃いヨ。セルリアンかどうかハ…。わからないネ。」
そのラッキービーストの言葉にかばんは腕を組んで考え込む。
「ラッキーさん。それってサンドスター・ローの濃度は若干濃いけれど、誤差の範囲内って事でしょうか。」
「そうだネ。セルリアンの痕跡カモしれないし、そうじゃないカモしれないヨ。」
「もうー。ボスぅー。結局どっちなのー?」
何とも判断に迷うラッキービーストの言葉にサーバルもまた迷っていた。
「それを調べる為にここに来たのです。もう少し周囲をよく見てみるのがよいと思うのです。」
とフォローする助手の言葉に一同頷いて回りをよく観察しはじめる。
アライさんが這いつくばるようにして地面をじーっと観察し、フェネックも周囲の木々の様子を見てみる。
「あ!アリさんの行列発見なのだ!凄いのだ!巣も発見したのだ!」
「アライさーん、それは今は関係ないと思うなー。」
しかし、そんな努力も今のところ成果には結びつかず時間だけが過ぎていく。
と、下校時刻を報せる放送が鳴り始めた。
この放送が鳴ったら、生徒達は帰宅しなくてはならない。
今日のところはこれまでにしようか、と全員が顔を見合わせた時……。
―ブワッ
と唐突に周囲に真っ白な霧がかかる。
「うわわっ!?な、何なのだ!?全然前が見えないのだ!?」
アライさんが慌てるのも無理はない。
何せ周囲が突然あらわれた濃霧のせいでお互いの姿すらよく見えない状況になってしまったのだ。
「キケン。キケン。サンドスター・ローの濃度ガ急速に上昇中。セルリアンが近くニいるヨ。」
そんな中でラッキービーストの警告が響く。
この状況でその警告は却って混乱を助長させてしまった。
「みんな、落ち着いて!変身しましょう!」
その混乱が場を支配するよりも早く、かばんの声が濃霧の中に響いた。
そうだ、変身してしまえば、この濃霧の中ではぐれる事もない、と落ち着きを取り戻した一同。
全員が制服の袖の下に隠していた左腕の時計のようなものをバッと露わにする。
そして揃いのポーズでその左腕を引き寄せて、同時に叫ぶ。
「「「「「「変身ッ!」」」」」」
―カッ
と濃霧の中にサンドスターの輝きが生まれる。
そして、その輝きが治まった時には6人は1人となっていた。
ピンク色のカーディガンにクリーム色のミニスカート。そして大きな耳と尻尾をもつフレンズの姿をした彼女こそがこの街を守るヒーロー。
「クロスシンフォニー!」
である。
フェネックシルエットへと変身したクロスシンフォニーは周囲の音を頼りに状況を把握。
まずはラッキービーストを拾い上げて腕の中に抱える。
「ラッキーさん。ボク達のそばから離れないで下さいね。」
「わかったヨ。クロスシンフォニー。」
聴覚に優れるフェネックギツネの特徴を持つフェネックシルエット。周囲がこの真っ白な濃霧の中でも辛うじて周囲の状況を把握できていた。
と……。
―ヒュンッ!
何かが高速で飛来する風切り音がその聴覚に届いた。その音から明らかにクロスシンフォニーを狙っている。
あてずっぽうで身を捻ったクロスシンフォニー。どうにかその飛来物を回避出来た。
地面にカツッ、と何かがぶつかる音が響く。
小石か何かがかなりの速度で飛んできたようだ。
ほっと安心する暇はなかった。
―ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!ヒュンッ!
と次々に先程と同様の何かが飛来してきたからだ。
音から察するに、何かが飛んでくる方向には旧校舎があった。
きっと旧校舎内からこの射撃を行っているのだろう。
だが、凄まじい射撃の勢いに近づく事が出来ない。
『かばん!何とか旧校舎へ入らなくてはジリ貧です!』
博士の声が頭の中に響く。それに頷きクロスシンフォニーは何とか前へ進もうとした…が…。
前へ進めば進むほど、弾幕も濃くなってくる。
なんとか聴覚を頼りに回避していたクロスシンフォニーであったが…
―ビシッ!
と太ももに衝撃が走る。
どうやらついに足に命中してしまったようだ。
『で、でもダメージは大した事ないのだ!このまま進むのだ!』
とアライさんの声が響く。
クロスシンフォニーもそれに頷き前へ進もうとしたのだが…先程衝撃を受けた足に思わぬ痛みが走り足が止まってしまった。
―ヒュンッ!
と足が止まったクロスシンフォニーへ向けて狙いすました一撃が飛来する。
―コッ!
と意外と軽い音を立てながらそれはクロスシンフォニーの眉間を打ち抜いたのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
場面は喫茶店『two-Moe』へと戻る。
「ええー!?!?じゃあ、クロスシンフォニー負けちゃったの!?」
かばんの話を聞くともえが驚きの声をあげた。
「まあ、あの場では負け、と言えたかと思います。」
とそれを肯定するかばん。
「ただ、あの一撃を受けた後、完全下校の放送が鳴ると同時に白い濃霧も晴れてセルリアンの気配も消えたのですよ。」
「なので、完全に負けたわけでもなかったのです。」
と博士と助手がフォローしていた。
「それでその後、セルリアンを探したんだけど見つからなくて、このお店で作戦会議したんだよねー。」
サーバルが懐かしく話すのに合わせてアライさんとフェネックもうんうんと頷いて見せる。
「で、で、どうなったの!?クロシシンフォニー勝ったんだよね!?ね!?」
すっかり話に引き込まれたともえはその先を早く、とせがむ。
そんな様子にクロスシンフォニーの仲間達は顔を見合わせ微笑み合ってからその続きを話し始めるのだった。
―後編へ続く
【登場人物紹介】
名前:ラッキービースト
特技:セルリアン索敵 セルリアン分析 情報検索
好きな物:かばん サーバル ミライ ノナ クロスシンフォニーチームのみんな
水色と白のカラーリングのラッキービースト。
ラモリさんとは違い尻尾も通常型である。
かつて星森家でかばんとサーバルと暮らしていてクロスシンフォニーのサポートにあたっていた。
簡易ながらセルリアンの索敵機能や解析機能を備えている。
フレンズ達からはボス、と呼ばれて親しまれており、かばんはラッキーさんと呼んでいる。
現在その姿を見ない理由については今後明かされていく……かもしれない。