ともえ達の喫茶店『two-Moe』へやってきたかばん達クロスシンフォニーチームの6人。
お目当てのジャンボパフェを求めてやってきた彼女達だったが、そのジャンボパフェにまつわる思い出話を語ってくれた。
1杯のジャンボパフェが繋いだクロスシンフォニーの絆。
それは今も変わらずしっかりと繋がっていたのだった。
今日もともえ達の暮らす色鳥町に朝がやって来る。
太陽も昇ってこれからどんどん気温も上がっていくだろう初夏の陽気を思わせる快晴だった。
―チュンチュン…
と窓の外から小鳥の声が聞こえてくる。
そんな朝にともえはベットの中で……。
「むにゃむにゃ…。もう食べられないよぉー…。」
とベタな寝言を言うのだった。
そんな彼女に近づく影が一つ。
そっと足音を立てないように近づき、優しくともえの肩を揺り動かす。
「ともえさん、そろそろ起きて下さい。」
その言葉にゆっくりとともえの瞼が開く。
やがて焦点を結んだ瞳はかばんの姿を映し出した。
イエイヌでもなく萌絵でもなく春香でもなく何でかばんが?
しかも何でまたメイド服を着て?
という疑問が浮かんでくるが…。
「ああ、そうか。これ夢だ。うん、いい夢だなあー。むにゃ…」
パタリ、ともう一度ベットに沈むともえ。
「もう、夢じゃないですよ。起きて下さい。」
と、かばんはもう一度ともえの肩を揺さぶる。
「あっれー?そうだっけ?なんでかばんちゃんがうちにいるんだっけー?」
むう、と寝ぼけ眼でぼんやりと考えるともえ。
「そっかあ。かばんちゃん、うちにお嫁さんにきたんだっけー?」
「いや、違いますよ。全然違いますよ。」
「そんな照れなくてもいいんだよぉー。さ、おはよーの抱っこしてくれてもいいんだよぉー?」
「さあ!カモン!」とばかりに両手を広げるともえの額をツン、と指でつつくメイド服姿のかばん。
「ともえさん。絶対寝ぼけてないですよね?」
「あはは、バレたかあ。」
ペロリ、と舌を出してみせるともえに苦笑するかばんだった。
一度目を覚ましてからのともえは寝覚めがいい方なのだ。
「準備は出来てますからそろそろ起きて下さい。それともお着替えも手伝いますか?」
ともえは一瞬それはそれで役得なんじゃないだろうか、と思いつつも本格的に目を覚ます事にした。
自室から去っていくメイド服姿の後ろ姿を眺めつつ、こんな状況になっている原因を思い出す。
今日は日曜日。今日はかばんとサーバルと一緒にみんなで出かける予定になっていた。
実は昨日やって来たかばんとサーバルはそのまま一晩お泊り会をする事になった。
そして、今朝、お出かけに持っていくお弁当とかを用意しようという話になっていた。
どこに出掛けるのかについてはまだ秘密であるらしい。
そういえば、大分前に、かばんが「一緒に行きたいところがある」と言っていたが、その約束も色々な事があって伸び伸びになってしまっていた。
まあ、今日の目的地については後の楽しみにとっておくべきだろう、と判断したともえ。とりあえず顔を洗って身支度してからリビングへ向かう。
遠坂家2階のキッチンへ行くと、今日はそこはいつにもまして凄く賑やかだった。
まず、キッチンには春香と萌絵がいてバスケットにお弁当を詰めていた。
そしてその傍らにはイエイヌがいて魔法瓶の水筒にお茶を注いでいて、その光景をやはり何故かメイド服姿のサーバルが興味津々で眺めていた。
そしてリビングのテーブルでは教師の星森ミライとサーバルと同じ大きな耳をもったサーバルキャットのフレンズであるノナが朝ご飯の準備をしていた。
「春香先輩。私たちまでお呼ばれしちゃってよかったんですか?」
「ええ、もちろん。私もミライちゃんやノナちゃんと久しぶりに会いたかったし。」
と言い合う春香とミライ。どうやら二人は知り合いらしかった。
「えっとね、ミライちゃんはね、昔、春香ちゃんと同じ学校に通ってたの。春香ちゃんが先輩でミライちゃんが後輩ね。」
とノナが二人の関係を教えてくれた。
「ふふ。あの頃はノナちゃんがサーバルちゃんだったのよねー。」
と昔話に花を咲かせる春香。
急に自分の名前を呼ばれて「みゃ?」と振り返るサーバル。彼女は生まれた時にノナから名前を受け継いだのだった。
「みんな遅れてごめんね。何からしたらいいかな?」
とにもかくにも最後になってしまったともえは自身もエプロンを付けつつキッチンへやってくる。
「もー。遅いよ、ともえちゃん。じゃあ、ともえちゃんはおむすび当番ね。残ってるごはんでおむすび握っちゃって。」
「らじゃっ!」
萌絵の言葉に敬礼しつつ早速おむすび作りにとりかかるともえ。
「えっと…わかっていると思いますが普通にお願いしますね。普通に…。」
今度はお味噌汁を別な魔法瓶に詰め始めたイエイヌが言う。
ともえは別に料理が下手なわけではない。皮むきだとか下ごしらえなどはむしろ上手な方だ。
だけれども、ついつい新しい味を探求してしまって余計な調味料を余計な分量で入れてしまうのだ。
「わかったよ!イエイヌちゃん!普通にともえスペシャルだね!」
「全然わかってませんよともえちゃん!?」
いい笑顔で塩胡椒の瓶を構えるともえに即座にイエイヌのツッコミが入る。
「多分、炒飯とか作る時に胡椒を入れるし、おむすび握るのに塩も入れるから塩胡椒でもいけるでしょ、っていう発想だと思うけど、辛くなるからオススメしないかな。」
と萌絵は苦笑していた。
「ともえちゃんちの朝って賑やかでいいねー。」
「ふふ、ほんとだねー。」
そんな様子を眺めながら出来上がった朝ご飯をテーブルに並べていくかばんとサーバル。
こちらは二人ともお揃いのメイド服姿であった。ちなみに、二人ともロングスカートのクラシカルメイドタイプである。
なんでこんなことになってるのかというと、実は春香の営む喫茶店『two-Moe』のサービスの一つである。
お客さん用のメイド服も貸し出してコスプレ写真とかを撮れたりするのだ。
意外と人気のあるサービスで、サイズも調整が効くように随所にアジャスターが仕込まれていたりする。
「おおー…。二人並ぶとめっちゃ絵になるねー。スケッチしたい…。」
「そうだねえ。本当に絵になるねえ。でも朝ご飯が済んでからにしよ?」
とともえと萌絵は二人のメイド服姿にスケッチ欲がうずいていたが今は我慢だ。
何せ昨日の夜もさんざんスケッチしたので今朝はどうにかスケッチ欲を抑える事が出来ていたのだった。
ちなみに、二人のメイド服姿は今朝やって来たミライとノナの二人へのサプライズでもあったが、そちらも上手くいったようだった。
昨晩はお泊り会だったかばんとサーバル。さすがに今朝も二人を借りっぱなしだと寂しいのではないか、と思った春香がミライとノナも朝ご飯に誘ったのだ。
そして朝ご飯とお弁当の一部はかばんお手製でもある。
今朝の遠坂家の朝は大層賑やかであった。
の の の の の の の の の の の の の の
さて、朝ご飯も済んで春香とミライとノナに見送られてお出かけとなったともえと萌絵とイエイヌにかばんとサーバル、そしてラモリさん。
それぞれ私服に着替えての出発だ。
「天候モ順調。バスの時間モ問題ないナ。」
今朝は萌絵に抱えられたラモリさん。ともえ達の手にはそれぞれにバスケットや重箱が持たされていた。
確かに5人と大人数ではあるが、それでもその量はさすがに多すぎなんじゃないだろうか、とともえは疑問を持つ。
「えっとですね、向こうでアライさんやフェネックさん、それに博士先輩や助手先輩も合流しますから。」
「それとね、ルリちゃんとアムールトラとユキヒョウも来るって!」
と、その疑問にはかばんとサーバルが答えてくれた。
「向こうってどこかな?バスに乗るってことはそれなりに遠くだよね?」
一体どこに行くのだろう、とともえは思案を巡らせるが全く思い当たる節がなかった。
そうしているうちにバスもやってきたので、早速乗り込むともえ達5人と1機。
日曜日のバスはまだ朝も早いうちだったせいもあって人もまばらだ。全員席に座る余裕もある。
大人数ならここがいいだろう、とバスの最後尾に陣取った。
そうしておしゃべりしながら待つことしばらく。
バス停で停車すると3人程乗り込んでくる。
「あ、萌絵さんっ!みんなっ!」
一番にてけてけ、と駆け寄ってくるのはルリであった。そんな彼女の為にともえは萌絵の隣の席を空ける。
ルリはお礼を言いつつ萌絵の隣の席に腰を下ろした。
「最近のルリはすっかり萌絵ねーちゃんにベッタリやな。」
続けてやってきたのはアムールトラで、その手にはバスケットが提げられていた。
「まあ、あの時は格好よかったからの。無理もあるまい。」
と続けてやって来たのがユキヒョウである。こちらは手ぶらだった。
「ウチとしても萌絵ねーちゃんには感謝してもしたりないわけやけど、一番格好よかったのはイエイヌだったんじゃないかなーって思うわけで……。」
とアムールトラにしては珍しく後半はゴニョゴニョとした声になってあまりよく聞こえなかった。
ほほう、と目を細めるともえ。最後尾の5人掛けの席のうち、イエイヌの隣に座っていたサーバルを誘ってその一つ前の席に移動。
アムールトラを空いたイエイヌの隣に押し込んだ。
「おはようございます、アムールトラ。」
「おう。おはよう、イエイヌ。」
と挨拶をかわすイエイヌとアムールトラであったが、アムールトラは何故か少しばかり顔を赤くしていた。
そんな様子に、ともえと萌絵とユキヒョウが揃ってほほう、とニヤニヤして見守っていた。
「本当は“教授”も一緒に連れて来たかったんだけどね。今朝は全然起きないからまたの機会にって事になっちゃった。」
一方でルリがそんな事を言っていた。
「“教授”ってルリちゃんとアムールトラちゃんの保護者の方だよね?」
隣に座る萌絵の言葉にコクコクと何度も頷くルリ。
萌絵の頭にはパーソナルフィルター発生装置を作った際にメールを送って来たProfessor.Wなる人物が思い起こされていた。
ルリの保護者であるならば、随分とピンポイントな研究をしていたのも納得がいく話だ。
「まったく、あの御仁は。すっかり生活が夜型じゃよ。」
と苦笑しているユキヒョウ。きっとルリの為に“教授”とやらの生活環境を改善すべく世話を焼いていたのだろうが、その努力は実っていないのだろう。
そうしてルリ達を加えて楽しくおしゃべりしていたら、あっという間に目的地らしい。
かばんが気づいてサーバルに言う。
「あ、サーバルちゃん。次降りますのボタンを押してくれる?」
「はーい!私やるー!」
と、サーバルがバスの降車ボタンを押していた。
そしてからバスの車内アナウンスが流れる。
『次はー、サンドスター研究所前。サンドスター研究所前。お降りの際はお忘れ物ないようにご注意下さい。』
ん?という顔をするともえと萌絵。
「「もしかして、今日の目的地ってサンドスター研究所?」」
二人声を揃えて同じ動作で小首を傾げるのに、かばんも笑顔でコクリと頷く。
サンドスター研究所はともえと萌絵の父親が働く場所であり、もう何日も家に帰れない状況が続いている。
せっかく、今日の目的地がそこだとわかっていたなら差し入れの一つも作ってくればよかったなあ、と思う萌絵であったが、そこでハタと気が付く。
イエイヌやサーバルやともえ達が抱えるバスケットや重箱の量がかなりの物である事に。
そして、春香がやけにメニューにこだわっていた事に。
「あの…。もしかしてかなーーり多めに作ったこのお弁当の山って……。」
「はい。サンドスター研究所所長のドクター遠坂さんへの差し入れでもあります。」
かばんの答えに二人が驚きの声を上げる前に、バスはちょうど目的地へ到着してしまった。
の の の の の の の の の の の の の の
バスを降りた一行はサンドスター研究所の正門へと進む。
正門前で守衛さんに「どうも。」と挨拶をするかばん。通行許可証を出そうとするも守衛さんが最早顔パス、とでも言うようにゲスト用のIDカードをくれる。
「もうお友達4人は先に来ているよ。」
と守衛さんが言っていたからアライさんとフェネック、そして博士と助手は先に来ているのだろう。
正門からそれなりの距離を歩いて研究所の中へと入る。敷地はかなり広い。
見える範囲だけでも広いが見えない範囲もかなりの物なのだろう。
そして研究所の中もかなりの広さだと思えた。
そこを手慣れた様子で進むかばん。カードリーダーに守衛さんから受け取ったゲスト用のIDカードを近づけると扉が開いたり、エレベーターが動いたり。
その度に何故か「おおー…。」と感心してしまう一同。かばんは照れながらも…
「ボクがクロスシンフォニーになってから、ここには色々とお世話になっていて。」
と教えてくれる。
ここの所長であるドクター遠坂が実はともえ達の父親だと知ったのも割と最近の話らしい。
クロスハートになったともえ達の事をいつか紹介したいと思っていたが、まさか娘さんでしたか、と大層驚いたそうだ。
「そういえば、イエイヌちゃんにやっとお父さんを紹介できるね!」
と、ともえがイエイヌを振り返る。それに遅れて「え?」と反応を返すイエイヌ。
「ええと、ラモリさんがお父さんでは…?」
「違うゾ。」
と、相変わらずイエイヌはラモリさんをお父さんというものだと勘違いしていたようだ。
「そうだナ。ドクターは俺にとってモ生みの親ダ。」
と解説してくれるラモリさんにようやくドクター遠坂という人物が父親というものでどうやら凄い人らしい、と理解したイエイヌ。
そうとわかると途端に緊張してきた。
「あ、あの!どこか変なところとかないでしょうか!?」
そうして改めてイエイヌを見てみるも、今日はミライとノナまで加わっていつも以上に丁寧にブラッシングされたおかげで毛並みはツヤツヤだ。
「うん、いつも通り可愛いよ!イエイヌちゃん!」
と親指を立てるともえ。それに同意とばかりに他のみんなも頷いていた。
「変とか言うようならウチが喰ったるわ。」
「いや、食べないで下さい。」
冗談めかして言うアムールトラに即座にかばんのツッコミが入った。
それに、ぷっと一同笑いがこみ上げる。
気づけば所長室の前であった。
この扉の向こうにともえ達にとっては久しぶりの、イエイヌにとっては初めてとなる遠坂家の父親がいる。
緊張しながらイエイヌはノックをしてから扉を開けた。
そして目の前に広がっていた光景は……。
「さあ!ドクター!我々にサンドスターの秘密を教えるのです!」
「そうなのです!我々はサンドスターの秘密を解明したいのです!」
「アライさんも!アライさんも頼むのだー!アライさんもかばんさんみたいにかしこくなりたいのだー!」
わちゃわちゃと博士と助手とアライさんにまとわりつかれて困った顔をしているやせ型の白衣の男性の姿であった。
ちょっと頬がこけてシャツもベルトからはみ出たりと着衣の乱れがちょっと気になる。
そして無精ひげも大分伸びていて、大分くたびれている様子に年齢相応さが伺える。
そしてソファーにはフェネックが座っていてこちらに手を振っていた。
が、一つだけ大きな問題があった。
今、着いたばかりのともえ達にとっては中学生女子にまとわりつかれて鼻の下を伸ばしている中年男性という光景に見えてしまっていた。
なので、ともえと萌絵は全く同じ動きで携帯電話を取り出して、全く同じようにこう呟いた。
「「もしもしポリスメン?」」
の の の の の の の の の の の の の の
結果から言うと、通報はされずに済んだ。
ともえも萌絵も父が春香一筋である事はよく知っていたからだ。
なのでさっきのは軽い冗談である。
それよりも何よりも許せなかったのが、ドクター遠坂の身だしなみが大分だらしなくなっていた事だ。
何せこのドクター遠坂。研究者としては非常に優秀なのだが、放っておくと自分の事に関してはどんどん無頓着になってしまう。
普段なら春香が毎日のように気を回すのであるが、中々帰宅できない今、無理からぬ事ではあった。
だが、ともえと萌絵にとってはその事情を加味しても許せない。なんせ、ちゃんとしてればお父さんはカッコイイのだ。
しかも大事なイエイヌとの初対面である。
第一印象は大事、とばかりに問答無用で父親を洗面所に引っ張っていくと二人がかりで身支度を整えた。
まあ、既に色々と手遅れ感はあるが、一同の前に戻って来た時にはすっかり見違えたドクター遠坂がそこにいた。
「ええと、はじめましての方も多いね。私はこのサンドスター研究所所長のドクター遠坂だよ。」
無精ひげもなくなり、髪も整えた彼は年齢相応の渋さがあった。
「まずはイエイヌちゃん、はじめまして。いつも萌絵とともえと春香さんを守ってくれてありがとう。これからもよろしくね。」
まずはイエイヌの前に膝をつくと目線を合わせるようにして語り掛けるドクター。
「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」
緊張しながらもしっかりと挨拶しているイエイヌに一同ほっとした様子を見せた。何はともあれイエイヌとの初対面はどうにか形になったようだ。
次にドクターはルリとアムールトラの方に向き直ると同じようにその前に膝をつく。
「で、ルリちゃんとアムールトラちゃんだね。大体の事情は聞いてたけど、大変だったね。」
そういうドクター遠坂に対してアムールトラの身体にほんの少しの緊張が走っている。
ドクターはそれを見越したかのように一つ頷いて見せた。
「安心して欲しい。ルリちゃんがセルリアンであったとしても、普通に暮らせるように僕も尽力するから。」
それにほっとした様子を見せるアムールトラ。そんな彼女の肩をユキヒョウがポムと叩いて続けた。
「まあ、実験材料にするとかいう御仁であれば、かばん生徒会長達がここまで信頼もせぬじゃろうからな。」
「そうだよっ!お父さんはそんな人じゃないよっ」
とともえにまで言われてアムールトラも緊張を解いた。
「アムールトラちゃんもビースト化による後遺症とかはなさそうに見えるけれど一応検査とかした方がいいかもしれないね。」
せっかく緊張を解いたばかりだというのに、アムールトラの表情に再び緊張が走る。
「そ、それって痛かったりするヤツなん?」
「いや、殆ど痛くないはずだよ。せいぜい血液検査の注射があるくらいで。」
ドクター遠坂の『注射』という言葉に「ぴぃ!?」と謎の鳴き声をあげてイエイヌの後ろに隠れるアムールトラ。
「あー…。わかります。わたしも何でかわかりませんが、『ちゅうしゃ』と聞くとすっごいイヤです。」
そんなアムールトラをイエイヌが撫でていた。
「と、とりあえず血液検査は無理しなくていいから。」
とドクター遠坂は苦笑。
さて、と話題を変えるように一つ手を打つと
「今日、みんなに集まってもらったのには色々理由があるんだよ。」
と語り始める。そこに萌絵が挙手して疑問を口にした。
「ええと、その前にお父さん。お父さんもかばんちゃん達がクロスシンフォニーでセルリアンと戦ってたっていうのは知ってたって事だよね?」
それに頷くドクター遠坂。
「はい。ドクターには色々とサポート用の機械とかを作ってもらったりしてました。この“シンフォニーコンダクター”もそうなんです。」
答えはかばんが代わりに返してくれた。それと一緒に左腕に巻いた腕時計のようなものを見せてくれる。
それは変身サポート用のアイテムだ。
通信機能や簡易なセルリアン索敵機能の他にも重要な機能がある。
それはチームメンバーが離れた場所にいても変身を可能としてくれる機能だ。
なお、変身解除後はそれぞれ元いた場所に戻るらしい。
「それと、この子もかばんちゃん達についてもらっていたんだ。」
と、ドクター遠坂が水色と白のカラーリングのラッキービーストを机の上に置いた。
「ラッキーさんっ!」
「「「「「ボスぅ!」」」」」
かばんが驚きの声を上げながらも一番に飛びつくようにしてラッキービーストを抱きしめた。
それに続いてクロスシンフォニーの5人のフレンズ達が覆いかぶさるようにしてかばんごとラッキービーストを抱きしめる。
「修理に時間がかかってごめんね。でもどうにかボディも完全に治せたよ。」
満足気に頷くドクター遠坂に何度も頭を下げるかばん。
その様子にともえ達は目を白黒させるばかりだった。
「ええと…。以前にかなり強いセルリアンとクロスシンフォニーが戦った時に、ラッキービーストが大きな破損を負ってしまってね。それ以来、僕が預かって修理していたんだ。」
感動の再会、という様子のかばん達の代わりにドクター遠坂が事情を説明してくれる。
「かばん。みんな。心配かけてごめんネ。」
とラッキービーストが言うけれど、しばらくの間は6人に離してもらえなさそうな雰囲気だ。
「俺モ兄弟ガ復帰して嬉しいゼ。」
そして傍らではラモリさんがピョインピョインと飛び跳ねている。
どうやらこの二人は兄弟機らしい。
それにしても、クロスシンフォニー達が大切にしていたラッキービーストに大怪我を負わせるような相手とは一体どんな者だったのか。
想像すらつかないでいるともえ達であったが…。
「それは我じゃよ。」
と声が響いた。
そちらを見ると扉の入り口が開いて車椅子に乗ったフレンズが一人、こちらに来ていた。
「スザクさん!」
と、今度はそのスザクと呼ばれたフレンズへ駆け寄るかばん。
「息災で何よりじゃな。クロスシンフォニー。」
うむ、と鷹揚に頷いてみせるスザク。
「そちらはまだ本調子ではなさそうですね…。」
とかばんは彼女が乗った車いすを見ながら続ける。
これは一体全体どういう関係なんだろう、とまたも目を白黒させるともえ達とルリ達。
「スザクは以前セルリアンだったんダヨ。」
とラッキービーストが随分衝撃的な事を言い始めた。
「せ、セルリアンってルリちゃんみたいな!?」
と驚くともえにスザクは首を横に振った。
「我は元は守護けもの、と呼ばれる四神の一人じゃった。こことは違う別な世界のな。」
「あ、あの、それってわたしやアムールトラがいた世界の…?」
そのイエイヌの疑問にもやはりスザクは首を横に振った。
「世界とは無数にあるのじゃよ。こうして平和に進んだ世界。ヒトがいなくなった世界。そしてセルリアンに支配された世界。様々な世界があるのじゃ。」
一同、最後のセルリアンに支配された世界、という言葉には少なからぬショックを覚えた。
しかし、ショックはそれだけでは終わらない。
「我はセルリアンに支配された世界の住人じゃった。そして、セルリアンとしてこちらの世界に送られたのじゃよ。」
そのスザクの言葉に一同息を呑む。
つまり、フレンズをセルリアン化する方法があるという事だろうか。
「そうじゃ。我はかつてセルリアンスザク。セルスザクとしてクロスシンフォニーと戦い、そして敗れたのじゃ。」
「あれは凄い戦いだったねえ。」
「ええ。危うく切り札中の切り札、『大きくなる』を使うところだったのです…。」
「博士!それは絶対ダメですからね!絶対ですよ!」
「わかっているのです!?私だって使いたいわけではないから安心するのです!」
フェネックが思い返す中、博士がうっかり口を滑らせて助手に詰め寄られる。
アフリカオオコノハズクシルエットの切り札、『大きくなる』は物凄い身体的負荷と引き換えに野生解放以上の力を引き出す大技だ。
この身体的負荷は非常に重く、寿命すら縮めるらしい。
助手もかばんもこの技だけは決して使わないと心に誓っていた。
「で。我はクロスシンフォニーによってセルリアンとしての『石』を砕かれて元のスザクへと戻ったわけじゃ。」
スザクの話を要約するとこういう事らしい。
彼女はかつてセルリアンに支配された世界でセルリアンと融合させられてこちらの世界へと送り込まれた。
そして送り込まれた先でクロスシンフォニーと戦い、ラッキービーストが大きな破損を負う激闘の末、敗れた。
その際、セルリアンの『石』を砕かれた事で、元のスザクへと戻る事ができたが、長年癒着していたセルリアンが砕かれた事で彼女自身にも大きなダメージが残ってしまった。
「少しずつではあるが身体も回復しておる。いずれ元に戻るじゃろう。」
と笑うスザク。
「そういうわけで、我はそこのルリともまた違うセルリアンじゃったのじゃ。あまり参考にならんですまぬ。」
「い、いえいえ、そんな謝られる事ではないですよっ?!」
とルリは慌てて両手をぶんぶん振った。
「ねえ、スザクさんがこの世界に送られた理由って何なの?」
と、ともえは疑問を口にする。それにスザクは少し考えてから答えを口にした。
「それはセルリアンの目的にある。」
セルリアンは“輝き”を捕食し、コピーすることで保存する。そうして全てを保存し、停止した世界がセルリアンの支配する世界だった。
スザクの住んでいた世界のセルリアンは全てを保存した後、他の世界の存在を知ってしまった。
それを知ったセルリアンは他の世界もその本能に従い保存するべくセルリアンと融合させたスザクを送り込んできたのだ。
「今後、我のようにフレンズの力とそして知性を兼ね備えたセルリアンがまた来るかもしれぬ。クロスハートとクロスナイトにもそれを伝えておきたくての。」
かなりショッキングな話にともえ達も息を呑む。
「もしも今後、かつての我と同じようなフレンズ型セルリアンに出会ったなら『石』を砕くのじゃ。そうすればダメージはあるがセルリアンのみを分離できるはずじゃ。」
その対抗策にようやくともえとイエイヌも頷きを返す事が出来た。
随分と場の空気が重たくなってしまっていたが、そこでドクター遠坂が口を開く。
「さて、難しい話は一度休憩にしよう。実は僕、おなかが空いてしまっていてね。」
そこで、今日、たくさん作ってきたお弁当を思い出したともえ達。
「じゃあちょっと早いけどお昼にする?」
というともえにみんなが頷いていた。
ちなみに、ドクター遠坂。放っておくとインスタント食品だとかビタミン錠だとかでばかり食事を済ませてしまう。最悪食べずに過ごす事だって少なくない。
なので、これは重い話が続いてしまった娘達への彼なりの気遣いだったりする。
「そうだね。今日は天気もいいし中庭あたりが気持ちいいかもしれないね。」
「いいね!ねえねえ、スザクさんも一緒に食べる?」
「そうですね。人数も多い方が楽しいですし。」
ワイワイとはしゃぎ始めるともえ達。
とりあえず、重たい空気は一旦吹き飛んでくれたようだった。
―中編へ続く
素晴らしいメイド服かばんちゃんイメージ画像です。
もう可愛すぎて素晴らしかったのでご紹介させていただきました。
R-18タグがつくほどではないですがややエッッなイラストもありましたので一応直リンは控えさせていただきました。
素晴らしいメイドかばんちゃんをありがとうございます!おかげで妄想が捗りましたっ
ttps://www.pixiv.net/artworks/77653056
ttps://www.pixiv.net/artworks/78915279