けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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 第2章は13話で完結予定です。
 13話はいつもよりも分量多くなるので細かくパート分けされると思います。
 いつもよりも長尺でのお話になるかと思いますがお付き合いの程、よろしくお願いいたします。



第13話『対決!クロスハートVS偽クロスハート』①

【情報】クロスハートウォッチングスレpart3【求む】

 

1:名無しのフレンズ

このスレは最近街で噂の通りすがりの正義の味方、クロスハートと名乗る女の子を暖かく見守るスレです。

目撃情報や彼女の活躍を生暖かく見守りましょう。

 

2:名無しのフレンズ

>>1建て乙

 

3:名無しのフレンズ

>>1乙

 

4:名無しのフレンズ

乙<こ、これはおつじゃなくて私の尻尾なんだから!勘違いしないでよね!

 

5:名無しのフレンズ

クロスハートって何?正義の味方っていったい何と戦ってるんだよ。

 

6:名無しのフレンズ

>>5 このスレは初めてかい?まあ肩の力抜いて前スレ見てこいよ。

Part1 http:www………

part2 http:www………

 

 

7:名無しのフレンズ

>>6 ありがとう。ちょい見てくるわ。

 

8:名無しのフレンズ

この前、商店街で見たのってクロスハートだったのかな。

鳥系のフレンズっぽかったけど…。

 

9:名無しのフレンズ

>>8 kwsk

 

10:名無しのフレンズ

えっとね。色鳥町商店街に買い物に行ったんだけどね、変なでっかいハチに襲われそうになったの。

そこを鳥系フレンズみたいなのに助けてもらった。

 

11:名無しのフレンズ

>>10 他にも似たような目撃情報はあるから信憑性高いな。

ただ>>10が見たのがクロスハートかクロスシンフォニーか…。それだけだと判別つかないな。

 

12:名無しのフレンズ

>>11 マテ。通りすがりの正義の味方ってそんなにいるのか…。

 

13:名無しのフレンズ

>>12 >>6をみておいで。

現在確認されてる通りすがりの正義の味方はクロスハート、クロスナイト、クロスシンフォニーの三人かな。

 

14:名無しのフレンズ

その三人ってどうやって見分けるの?

 

15:名無しのフレンズ

>>14 えっちいのがクロスハート

 

16:名無しのフレンズ

>>14 えっちいのがクロスハート

 

17:名無しのフレンズ

>>14 えっちいのがクロスハート

 

18:名無しのフレンズ

>>15 >>16 >>17 おまえらwwwww

いやまあ一度見ると納得するんだけどなwwww

 

19:名無しのフレンズ

そういえば、この前、ネコミミ生えたバスに乗ってたの…、あれ、クロスハートじゃないかな。

 

20:名無しのフレンズ

ここに来てまさかの新目撃情報。

 

21:名無しのフレンズ

私も見たよ。手振ったら振り返してくれた。

 

22:名無しのフレンズ

>>21 ちょwwwwうらやましすwwww

 

23:名無しのフレンズ

俺、この前cocosukiで変なマネキンみたいなのに襲われたんだけど、そん時助けてくれたのがクロスハートだったのかな。

犬系のフレンズみたいなのでミラーシェードつけてたから顔はよくわかんなかったけど。

 

24:名無しのフレンズ

>>23 それ、クロスナイトだよ。多分。

 

25:名無しのフレンズ

まじかー。あんときはポカーンとしてお礼も言えなかったけど助かったわ。

もし会えたヤツいたら俺の分もお礼言っといて。

 

26:名無しのフレンズ

http:www.wetube……

ほい、いつぞや電波ジャックかなんかわからんけどクロスハートとクロスナイトがテレビ出てたヤツ。

 

27:名無しのフレンズ

>>26 有能

 

28:名無しのフレンズ

>>26 お前が神か。

 

29:名無しのフレンズ

あー。うん。>>15 >>16 >>17の反応に納得したわ。

 

30:名無しのフレンズ

まあ待て。露出度は低くてもオイナリサマフォームの艶めかしさも捨て難い。

 

31:名無しのフレンズ

なんつうか…。こう、クロスハートは直視するのが後ろめたい。

 

32:名無しのフレンズ

>>31 わかる

 

33:名無しのフレンズ

>>31 わかる

 

34:名無しのフレンズ

>>31 おまえはおれか

 

35:名無しのフレンズ

大体前スレ読んできた。

読んできたんだけどさ…?俺が最近みた空飛ぶ魔女っこみたいなのは誰なんだ?

 

36:名無しのフレンズ

え?

 

37:名無しのフレンズ

だれそれ?

 

38:名無しのフレンズ

もしかして新しい通りすがりの正義の味方?

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 エゾオオカミはジャパリ女子中学校に通う1年生である。

 ショートの灰色の髪に白と黒の毛が混じった毛並み。ピンと立ったオオカミの耳が特徴的なフレンズだ。

 目つきも鋭く、野性味あふれた雰囲気をまとっている。

 彼女は今日も放課後に商店街の一角にある駄菓子屋へと足を運ぶ。

 そこには小学生たちがキャイキャイとたむろしていた。

 エゾオオカミは軽く手をあげるとその子供たちへと声を掛ける。

 

「よー、お前ら。元気してるか?」

「あー!エゾオオカミ姉ちゃん!」

 

 エゾオオカミが声をかけると、わらわらと子供たちがエゾオオカミの元へ集まって来た。

 その反応にエゾオオカミは確信する。

 こういう集まり方をするときは決まって子供たちが困り事を抱えている時だ。

 そんな時こそ自分の出番である。

 

「で、お前ら。なんか困り事があるんだろ?」

 

 エゾオオカミが訊ねると子供たちが一斉にワイワイと喋りはじめてしまった。

 エゾオオカミはどうどう、と子供たちを一度落ち着かせる。

 

「いっぺんに話されてもわからねーからな。順番に話せ。ちゃんと聞くから、な。」

 

 エゾオオカミが言うと女の子が一人輪の中から歩み出てくる。

 今にも泣きだしそうな表情で俯いていた。

 いつまでも喋り出さないのを見かねたのか、隣の男の子が口を開いた。

 

「あのさ!エゾオオカミ姉ちゃん!コイツんちで飼ってる猫がいなくなっちゃったんだって!」

「迷子だよ迷子!」

「大変だよね!」

 

 最初の一言を皮切りに再びワイワイと喋り始める子供たち。

 エゾオオカミはもう一度子供たちを落ち着かせてから俯いたままの女の子のところにしゃがんで目線を合わせる。

 

「そうなのか?」

 

 と一言確認すると、女の子は大きく頷いた。

 

「よし、わかった。なら、まずは依頼料だな。持ってるか?」

 

 その言葉に女の子は大きく頷くとポケットからドングリを一つ取り出して両手でエゾオオカミに差し出す。

 

「お、これはクヌギの木の実じゃねーか。」

 

 それをつまみあげるとエゾオオカミはしげしげとそのドングリを眺めてやおら軽く空中へと放る。

 

「よし。迷子の猫探しはこの俺、木の実100個分の難事件を解決した名探偵エゾオオカミが引き受けた。」

 

 そのドングリをパシリ、と握りなおしたエゾオオカミが宣言すると女の子もパッと表情を輝かせた。

 

「さて、まずはその猫の特徴を教えてもらえるか?」

 

 エゾオオカミにはもう一つの顔がある。

 それは商店街の子供たちの困り事をドングリ一つで解決する名探偵…。

 人呼んで、木の実探偵エゾオオカミである。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「さぁてっと。どうやって探すかなあ。」

 

 エゾオオカミは女の子から預かった猫の写真を見ながらテクテクと商店街を歩く。

 特にエゾオオカミが得意なのは探し物だ。

 普段は“探偵の勘”に従って歩いていればいつの間にか見つけてしまうのだ。

 それは元の動物であるオオカミが探索が得意である事に由来しているので、正確には“探偵の勘”というわけではない。

 たとえ世代を重ねる中でヒトに近づいたとしても、元の動物由来の能力も少しは残したフレンズだって多い。

 エゾオオカミの場合は探し物が特に得意なのだ。

 何となく探し物の事を思い浮かべていて、ピンと来たところを重点的に探すと、発見できてしまう場合が多い。

 この“探偵の勘”を頼りに、それが働く場所を歩き回って探してみる事にしたエゾオオカミ。

 特に猫のいそうな場所を探すのがいいだろう、と考えた。

 まずは魚屋さんの店先や定食屋さんの裏口、あとは細い路地なんかも覗いてみる。

 だけれども、今のところ“探偵の勘”はピンと来ない。

 女の子から聞いた猫の特徴からすると、まだ1歳になっていない子猫らしい。

 大分大きくなって行動範囲が広がったのはいいけれど、調子に乗りすぎて帰り道を見失ってしまったのかもしれない。

 出来れば早く見つけてやりたい。

 それにエゾオオカミはこの依頼は是が非でもやり遂げなくてはならない理由があった。

 

「クロスハートには負けられねえからな。」

 

 それは数週間前。

 商店街に謎の怪物が現れた事があった。

 その時の自分は無力だった。

 目の前に大きなハチのような化け物が出てただただ何も出来ずに立ち尽くしていた。

 あわや自分もそのハチに襲われるかと思った矢先に、それを一蹴して助けてくれたのがクロスハートだった。

 格好よかった。

 と同時に悔しかった。

 自分の商店街でよくわからないヒーローに助けられるだなんて。

 自分は木の実探偵エゾオオカミなのに。

 助ける側なのに。

 そうした思いはいつしかライバル心へと変わっていった。

 そのライバル心をバネに、ついに依頼解決で貯めた木の実だって100個を超えた。

 商店街のヒーローはこの木の実探偵エゾオオカミだ、との自負があった。

 だから、この依頼だって絶対に成し遂げて見せるとエゾオオカミは気持ちを新たにする。

 

「となると…。よっしゃ。少し探索範囲を広げてみるか。」

 

 エゾオオカミはホームグラウンドである商店街から離れると住宅街の方へ向かう。

 そちらはマンションやアパートなどの集合住宅が多く見られる地区だ。

 背の高い建物のおかげで隠れる場所だって多いし、アパートの庭先など猫の集会所になりそうな場所だって結構ある。

 ふ、と覗き込んだ路地に何かがピン、と来た。

 エゾオオカミの言うところの“探偵の勘”が働いたのだ。

 エゾオオカミは早速その路地に入っていく。

 ちょっと薄暗くて何かイヤな予感がするけれど、その程度で怖気づいてなどいられない。

 何故なら、自分は木の実探偵エゾオオカミなのだから。

 ちょうど大きなマンションが周りに立っているおかげで薄暗い。

 それにエアコンの室外機などが並んでいるおかげでそこかしこに猫がちょうど隠れられそうな物陰がある。

 エゾオオカミの“探偵の勘”がちょうど室外機の影を指していた。

 ヒョイっとそこを見てみると、小さくなって震えている猫を見つけた。

 それはまさに女の子から預かった写真に写っていたあの猫だ。

 

「ったく、よかったぜ。見つかって。さ、家に帰ろうぜ。」

 

 エゾオオカミはなるべく猫を驚かさないようにそっと抱き上げる。

 どうやら猫は本当に迷子になっていたみたいで逃げだす元気もないようだった。

 そんな様子に、急いでよかった、と安堵の吐息をつくエゾオオカミ。

 猫もエゾオオカミに抱き上げられると安心したかのような様子を見せる。

 ちょうど、猫の顎を自らの肩に乗せるかのような格好で抱き上げたエゾオオカミ。

 と…。

 

―フシャアアアアアッ!

 

 突然猫が警戒の鳴き声をあげた。

 と同時にエゾオオカミの背筋にも何か猛烈なイヤな予感に寒気が走った。

 エゾオオカミは猫を抱いたままともかく身を投げ出すようにして転げる。

 一瞬後に…。

 

―ガシャアアアアン!

 

 とガラスが砕けるかのような音がする。

 それはつい先ほどまでエゾオオカミと猫がいた場所だ。

 そこに割れたビール瓶が散乱していた。

 誰かがエゾオオカミのいるところにビール瓶を投げ込んだのだろうか。

 

「誰だ!何てことしやがる!」

 

 エゾオオカミが誰何の声をあげつつ振り返る…、と、そこに信じられないものを見た。

 手足の生えたビールケースのような変な化け物がいたのだ。

 大きさはエゾオオカミの背丈ほどもあるビールケースは自分の頭に収められたビール瓶を一本取り出す。

 そのままシャカシャカシャカ、とよく振ると、そのビール瓶の底をエゾオオカミに向けた。

 

「(ヤバい!)」

 

 咄嗟に猫をかばって身を屈めたエゾオオカミ。

 と同時に、そのビール瓶からブシャアアアアアア!と中身が吹き出す。

 ビールケースの化け物が瓶を放すと同時、吹き出した中身を推進力に、まるでミサイルのようにエゾオオカミに向けて飛んだではないか!

 

―ガシャアアアアアン!

 

 幸いな事にビール瓶はエゾオオカミの頭上を通り過ぎて壁に当たって砕け散る。

 咄嗟に身を屈めていなかったら直撃していただろう。

 その事実にエゾオオカミの背筋が凍る。

 

「(逃げないと…!)」

 

 そうは思っても、突然の出来事に足の方が上手く動いてくれなかった。

 今更ながらに恐怖のせいでガクガクと震えが止まらない。

 上手く動けないでいるエゾオオカミの目の前にさらに絶望的な光景が広がった。

 

―ガチャリ。

 

 とビールケースの化け物が頭をエゾオオカミと猫に向けてきたのだ。

 その頭の中にはビール瓶が満載されていた。

 今度はそれを連続で飛ばしてくるつもりなのだろう。

 せめて猫だけでも、とエゾオオカミは猫を庇って背中をビールケースの化け物へ向ける。

 固く目を瞑ったエゾオオカミの耳に…。

 

―ガシャアアアアン!

 

 という音が響いた。

 けれどいつまで経っても何も起こらない。

 おそるおそる目を開けたエゾオオカミの眼に最初に飛び込んできたのはマント…ではなくケープだった。

 肩までの短いケープを翻し、魔女の三角帽子を被った小さな女の子が背中にエゾオオカミを庇っていたのだ。

 

「く、クロス……ハート…?」

 

 あの日、商店街での出来事がエゾオオカミの脳裏に蘇る。

 その魔女帽子を被った女の子の背中はクロスハートに似ていたが、そうではなかった。

 

「え、ええと。クロスハートじゃなくて、私はクロスラピス。そう。通りすがりの正義の味方、クロスラピスだよっ。」

 

 気が付くとビールケースの化け物は横倒しになっていた。

 これはクロスラピスと名乗る女の子がやったのだろうか?

 だが、手足をじたばたさせたビールケースの化け物は再び起き上がる。

 それを見たクロスラピスと名乗った女の子はビールケースの化け物から視線を外さぬままに言う。

 

「その猫ちゃん連れて離れてて。危ないから。」

 

 それだけを言うと、長い二つ結びの三つ編みを伸ばした。

 先端をワニの口のように変化させると伸ばした三つ編みで壁を掴んで自らの身体を引き寄せる。

 それを交互に繰り返して、まるで空を飛ぶかのようにビールケースの化け物を翻弄しはじめたクロスラピス。

 エゾオオカミは呆気にとられてその光景を見守っていた。

 

「ほれ、ここにいてはルリ…いや、クロスラピスの邪魔になろう。お主もこっちに来るんじゃ。」

 

 そんなエゾオオカミに毛足の長い灰色がかった綺麗な髪のフレンズが肩を抱くようにして物陰へと連れていってくれた。

 どうやらこのフレンズはあのクロスラピス、という魔女っ娘が何者なのかを知っているらしい。

 

「い、一体何がどうなって…。お前ら一体何なんだ?」

 

 混乱する頭で訊ねるエゾオオカミ。彼女を物陰へと連れていったフレンズはそれに振り返ると教えてくれた。

 

「わらわはユキヒョウ。ジャパリ女子中学の1年じゃ。それとあっちは通りすがりの超絶ぷりちーな正義の味方、クロスラピスじゃよ。」

 

 超絶ぷりちーなのか、とエゾオオカミはクロスラピスを見る。

 彼女は変わらず三つ編みを伸ばして縦横無尽に空を舞っている。

 やがてビールケースの化け物は頭のビール瓶を次々と連続発射しはじめた。

 ビールの尾を引くビール瓶のミサイルはまるでホーミング機能でもあるかのようにクロスラピスを追い回す。

 だが、クロスラピスの機動力もなかなかのものだ。大量のビール瓶ミサイルに追い回されるもヒョイヒョイと身をかわし続けている。

 そして、上へと急上昇してビール瓶ミサイルを引き付けてその後急降下!

 

「あ、あぶねぇ!?」

「いいや、大丈夫じゃよ。」

 

 エゾオオカミは地面へ凄まじい速さで落下するクロスラピスの姿に思わず声をあげるがユキヒョウの方は冷静なものだ。

 ユキヒョウの言葉通り、クロスラピスは地面にぶつかる直前で一本三つ編みを伸ばして壁を掴むとグイっと自らの身体を引き上げた。

 直前までクロスラピスを追っていたビール瓶ミサイルはその急な方向転換に対応できずに地面へ激突した。

 ビール瓶ミサイルをかわしたクロスラピスはちょうどエゾオオカミ達が隠れている物陰の近くへと着地した。

 ちょうどその横顔がエゾオオカミからも見えた。

 ビール瓶の化け物を真っ直ぐに見るその横顔は、超絶ぷりちーかどうかは置いといて…。

 

「かっけえ…。」

 

 と思わず感想をこぼしてしまった。

 

「じゃろ?わらわのル……いや、クロスラピスは可愛かろう?」

 

 それに何故かユキヒョウがドヤ顔である。

 ともかくそんな場合ではない。

 再び睨みあう格好になったクロスラピスとビールケースの化け物。

 ビールケースの化け物は頭に手を突っ込んだかと思うとビール瓶を一本取り出した。

 それが細長く形を変える。

 まるで見た目はちょうど野球のバットのように見えた。

 それをまさに野球選手のように構えてみせるビールケースの化け物。

 ご丁寧に一度ホームラン予告のように一度空の彼方をビール瓶の先で示して見せた。

 

「ふぅむ…。なるほどのう。」

「な、なにがだよ。」

 

 ユキヒョウはそのビールケースの化け物の行動に思うところがあるようだ。

 それを訊ねるエゾオオカミに向き直ると解説を始めた。

 

「まずの?国内で主に生産されるビールは下面発酵で作られるラガーと呼ばれる種類のものなんじゃ。」

 

 それが今、何か関係があるのだろうか?とエゾオオカミは首を傾げる。

 

「つまり、ラガーと野球の強打者、スラッガーをかけた駄洒落じゃな。」

 

 それに思わずエゾオオカミの目は半眼になる。

 つまり、あのビールケースの化け物が今、仕掛けようとしている技はラガースラッガーとでもいうのだろう。

 いや、さすがにそんなものを受けて立つわけがないよな?とエゾオオカミはクロスラピスを見た。

 クロスラピスは三つ編みを両サイドの壁に向けて伸ばして、壁を掴む。

 ちょうど、自らを矢に三つ編みを弦に、ビールケースの化け物へ向けて弓を引き絞った形に見える。

 その意図するところを悟ったエゾオオカミは思わず驚きの声をあげた。

 

「お、おい…マジか…!?」

「マジじゃろうなあ…。あれでクロスラピスは頑固なトコあるからのう。」

 

 ユキヒョウがそれを肯定する。

 つまり、クロスラピスはこの勝負を受けて立つつもりなのだ。

 ビールケースの化け物のビール瓶バットが当たればビールケースの化け物の勝ち。

 空振りに仕留めればクロスラピスの勝ちである。

 

―ヒュウ。

 

 運命の一投?の前に風が吹き抜けた気がした。

 と同時、クロスラピスの弾丸が放たれる!

 それは見た目に似合わぬ剛速球、ど真ん中ストレートだ。

 ビールケースの化け物もそれを真正面から受けて立つ。

 この場面でミートバッティングなどしない。フルスイング強振一択だ。

 タイミングはバッチリ合ってしまっている。

 ビールケースの化け物が振り抜くビール瓶バットが吸い込まれるようにクロスラピスへ向かっていった。

 

「おい!?あれ…!?」

「いいや、大丈夫じゃ。」

 

 そのバッティング勝負を見守るエゾオオカミは思わず声をあげた。このままいけばクロスラピスにビール瓶バットが激突する。無事では済まないだろう。

 が、ユキヒョウはまだ冷静なままだった。

 そのユキヒョウの期待通り、クロスラピスは今度は三つ編みをビールケースの化け物の後ろの壁に伸ばしていた。

 そして、それを引き寄せてさらに加速!

 ビールケースの化け物のバットは、剛速球から超剛速球になったクロスラピスが通り過ぎた後にようやく振るわれた。

 空振りである。

 全力のフルスイングが空を切った事でビールケースの化け物はバランスを崩した。

 そこに今度は…。

 

「えい。」

 

 軽いクロスラピスの掛け声と共に、彼女の三つ編みがビールケースの化け物の背中を掴んでいた。

 そのまま超剛速球の勢いを利用してビールケースの化け物を伸ばした三つ編みで壁へと打ち付けた。

 

―パッカァアアアアアアアン!

 

 壁に激突したビールケースの化け物。ちょうど背中にあった『石』を強打してそのままサンドスターの輝きを撒き散らして消えてなくなってしまった。

 そのキラキラとした輝きを背にエゾオオカミ達の方へと歩いてくるクロスラピス。

 

「ええと、大丈夫?」

「お前が大丈夫かああああああああああああっ!?」

 

 クロスラピスの第一声にエゾオオカミは思わず全力でツッコんだ。

 よくよく見ればクロスラピスは随分背丈が低い…小学校低学年くらいの女の子に見えた。

 なのでその怪我を心配するのはエゾオオカミとしては当然だった。

 

「えーと、私は大丈夫。でもあなたはほっぺ、に怪我してるよ?」

 

 クロスラピスの指摘にエゾオオカミは自らの頬を触ってみる。するとヌルリ、とした感触があった。

 どうやら気づかないうちにガラス片ででも切ってしまったか。

 今度はユキヒョウがその傷を観察しながら言う。

 

「ふむ。幸いカスリ傷のようじゃが、そのままもよくあるまい。ちょうどウチのマンションも近い。そこで手当しよう。」

 

 未だに状況に流されるままのエゾオオカミはユキヒョウの言葉に頷くしかなかった。

 

「それにお主が守った猫も腹を空かせておるようじゃしの。」

 

 そんなエゾオオカミにユキヒョウは一つウィンクしてみせるのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 クロスラピス、ユキヒョウ、エゾオオカミの去っていった路地裏は静けさを取り戻していた。

 そこに三人の人影が現れる。

 いずれもフレンズのようだった。

 一人は三段フリルのスカートにスクールベスト、そしてネクタイとハンチング帽のような物を被っている。アルマジロ系のフレンズだろうか。

 

「こっちの方でセルリアン反応がしてたのって間違いないね?」

 

 と後ろにいるフレンズへと声をかける。

 そのフレンズはレオタードのような衣装に金の輪っかを頭につけたフレンズだ。

 

「ええ。“コレクター”にもついさっきセルリアンが倒されたばかり、と反応が出てますよ。」

 

 何かの機械を操作しながら言うレオタードのフレンズ。

 

「じゃあもしかして“セルメダル”ゲットのチャンスなんじゃない?だとしたらラッキーじゃん。」

 

 機械操作をするフレンズの手元を覗き込みながら言うのはセーラー服を模したワンピースを着たフレンズだ。

 

「ええ。マセルカの言う通り、まだ倒されて間もないようですから。今なら“セルメダル”化出来るでしょう。」

「なら早いとこやっちゃってよ、セルシコウ。」

 

 ワンピースを着たマセルカと呼ばれたフレンズはレオタードのフレンズ、セルシコウの肩に身を乗り出すようにして早く早く、とせがむ。

 それに苦笑しつつセルシコウは持っていた板のような機械を操作した。

 すると、先ほど、ビールケースの化け物が倒された時のように周囲にキラキラとしたサンドスターの輝きが満ちる。

 その輝きはまるで吸い込まれるようにセルシコウの持つ“コレクター”と呼ばれた機械に吸い込まれていった。

 やがてその輝きを吸い込んだ機械は上部のスリットから一枚のメダルを吐き出す。

 そのメダルには先ほどクロスラピスが倒したビールケースの化け物の姿が刻まれていた。

 

「無事、“セルメダル”をゲットです。これはあなた向けだと思いますよ。オオセルザンコウ。」

 

 セルシコウは出て来たメダルをアルマジロ系のフレンズ、オオセルザンコウへと放る。

 メダルを受け取ったオオセルザンコウはそれを眺めると一つ頷いた。

 

「確かに、これは私の“アクセプター”と相性が良さそうだね。使わせてもらうよ。」

 

 言いつつニヤリと笑ってみせるオオセルザンコウ。

 

「この世界も我らが主に保管され永遠の輝きを約束される。その第一歩だよ。」

 

 オオセルザンコウの言葉にセルシコウもマセルカも揃って頷いて見せるのだった。

 

 

 

――②へ続く。

 




【セルリアン情報公開】

 ビールケース型セルリアン『ラガーカチューシャ』

 ビールケースを模倣したセルリアンである。
 その外見は手足の生えた巨大なビールケースだ。
 ビールケースに収めたビール瓶の中身を噴射して推進力に変えて放つ『ラガーミサイル』が主な攻撃手段。
 さらに頭ごと敵に向けて放つ『ラガーミサイル連続発射』という技もある。
 遠距離攻撃ばかりではなく、近接戦闘でもビール瓶をバットのように変えて殴ってくる『ラガースラッガー』も備えている。
 何故か野球が好きな習性があるようだ。
 ちなみに、ラガーとは下面発酵で低温で長期間をかけて醸造するビールの事である。
 低温である為、雑菌が繁殖しづらく品質管理もしやすい事から大量生産に向いている種類だ。

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