けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第13話『対決!クロスハートVS偽クロスハート』⑤

 

【情報】クロスハートウォッチングスレpart3【求む】

 

1:名無しのフレンズ

このスレは最近街で噂の通りすがりの正義の味方、クロスハートと名乗る女の子を暖かく見守るスレです。

目撃情報や彼女の活躍を生暖かく見守りましょう。

 

154:名無しのフレンズ

例の魔女っこの目撃情報なんだけど、ちょっと前に見たよ。

なんか水色っぽいロープみたいなのでワイヤーアクション?とかそういう感じで空飛んでた。

 

155:名無しのフレンズ

>>154 やっぱしクロスハートでもクロスナイトでもクロスシンフォニーでもないんだな。

一体何者なんだ。

 

156:名無しのフレンズ

噂なんだけどさ、その魔女っこクロスラピスっていう名前みたいだよ。

この前バイクで街中を走り抜けてるとこを見たって人もいるよ。

 

157:名無しのフレンズ

ここまでのクロスラピス(仮)まとめ

①魔女っこ

②背が低い女の子

③空を飛ぶ(ワイヤーアクション?)

④バイクに乗ってる

どんな人物なのかまったくわからん…。

 

158:名無しのフレンズ

しかもさ。バイクに乗ってるの見た人の話によると、結構な大型バイクに乗ってたっぽいよ。

 

159:名無しのフレンズ

いやいや、背が低い女の子が大型バイクって…。転んだら起こせないよ。

 

160:名無しのフレンズ

ところで、そのクロスラピスは何の動物のフレンズさんなんでしょうか?

ステキなお耳と尻尾してるといいですよね。

 

161:名無しのフレンズ

>>160 今のところ目撃情報だと何かの動物のフレンズっぽい感じの話は出てないな。

 

162:名無しのフレンズ

それは残念です…。

 

163:名無しのフレンズ

クロスハートとクロスシンフォニーは色んな動物に変身してるっぽいし、クロスナイトはイヌ科の動物っぽいとはわかってるんだけどクロスラピスには耳や尻尾の目撃情報ないんだよな。

もしかしたら、フレンズじゃなくて普通のヒトって線もあるのかなあ?

 

164:名無しのフレンズ

知ってるか?

ヒトは空を飛べないんだぜ。

 

165:名無しのフレンズ

フレンズだって空は飛べないけどなw

でもワイヤーアクションみたいな事して空飛んでたらしいじゃん。

 

166:名無しのフレンズ

いやいや、ワイヤーアクションで空を飛ぶって結構大がかりな準備がいるんじゃないか?

 

167:名無しのフレンズ

しかもワイヤーアクションって目撃情報みたいに空を飛んだり出来るものじゃないんじゃないかなあ。

 

168:名無しのフレンズ

えっとね…。ちょっと話題を切るようで申し訳ないんだけどクロスハートとその魔女っこ?クロスラピス?が一緒に変なオバケみたいなのと戦ってんだけど…。

 

169:名無しのフレンズ

>>168 kwsk

 

170:名無しのフレンズ

>>168だけど、商店街に変なオバケみたいなの出たの。それでね、クロスハートとクロスラピスが来てそれと戦ってくれてるんだけどね…。

なんていうかね…。

クロスハートがえっちくなかった。

 

171:名無しのフレンズ

は?

 

172:名無しのフレンズ

えっちくないクロスハート……だと?

 

173:名無しのフレンズ

もしかして新フォームとか?

 

174:名無しのフレンズ

ええと、今、私が見てるクロスハートはイヌ科のフレンズっぽい感じの子なんだけど…。

 

175:名無しのフレンズ

イヌ科ってことはそういうフォームがあるのは確認されてるけど、やたら服の丈が短くてえっちいかったんだよな…。

 

【挿絵表示】

 

 

176:名無しのフレンズ

>>175の画像とは違った。雰囲気とか全然違う気がする。

多少フリフリはついてて可愛い感じはしたけど丈とか普通でえっちい感じはしなかったよ。

あとね…。他にも3人くらい何かの動物のフレンズっぽい子達がオバケ退治に参戦してたの。

 

177:名無しのフレンズ

は?

 

178:名無しのフレンズ

おいおい、クロスラピスに続いてさらに通りすがりの正義の味方が増えたのか?

 

179:名無しのフレンズ

クロスラピスの登場で話題が盛り上がってるとこにえっちくないクロスハートとさらに3人の追加戦士?

ほんとどうなってるんだ。

 

180:名無しのフレンズ

っていうか、まさかの実況かよ。

>>176は出来ればコテハンつけてくれると助かる。危なくないところで出来る範囲でいいから実況お願いしたい。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 エゾオオカミの言うところの“探偵の勘”は優秀だった。

 商店街の路地裏。人気のない場所で駄菓子屋の店先から消えたガチャガチャの機械を発見したのだから。

 ともかく、ガチャガチャの機械はパッと見たところ壊れたような様子もないように思える。

 まるで店先からこの路地裏に自分でやってきて場所を変えました、とでも言わんがばかりの様子だった。

 ともかく、見つかってよかった、とエゾオオカミとルリはガチャガチャの機械へと近寄る。

 触れて調べてみてもやはり壊れたところはないようだし、中身のカプセルなんかも無事だ。

 

「犯人のヤツは一体全体何がしたかったんだ?」

 

 結局、犯人のやった事はガチャガチャの機械をこの路地裏に運んだだけだった。

 起きた事件の割には犯人の行動がショボすぎると思えた。

 ともかく、とエゾオオカミは気を取り直す。

 こうしてガチャガチャの機械だって見つかってそれも無事だったのだ。

 泥棒との直接対決なんて事にならなくて一安心だ。

 

「それじゃあガチャガチャの機械を運ぼうぜ。ユキヒョウ。そっち持ってくれよ。」

「いやあ。わらわは箸より重たいものは持った事がなくてのお。」

「あ、エミさんっ!私!私が持つよっ。」

 

 早速、とばかりにガチャガチャの機械を運ぼうとしたエゾオオカミ達に突然声が掛けられた。

 

「あの。それは借り物なので勝手に持っていかれては困るのですが…。」

 

 エゾオオカミ達が驚きと共に振り返ると、そこにはレオタードのような衣装に頭に金の輪っかをつけたフレンズがいた。

 そして、その後ろにはさらに二人のフレンズ達が控えている。

 一人はセーラー服をワンピースにアレンジした衣装を身に纏ったイルカ系のフレンズで、もう一人はハンチング帽に三段フリルのスカートのアルマジロ系のフレンズに見える。

 

「勝手に持っていったら泥棒なんだよっ!」

 

 とイルカのフレンズが言う。

 泥棒呼ばわりに頭が熱くなって言い返そうとしたエゾオオカミを手で制したユキヒョウが言う。

 

「いや、これは駄菓子屋の店先にあったものじゃろ?じゃとしたら何故お主たちが持っておる?何か事情があるのかの?」

 

 そんな詰問に新たに現れた三人組は顔を見合わせて不思議そうな顔をする。

 そして三人して円陣を組むようにするとコショコショと内緒話を始めた。

 

「駄菓子屋…?ええっとお店屋さん…でしょうか。」

「という事は、そこの店員か何かか…?」

「むしろマセルカ達が泥棒?」

 

 内緒話は終わったのかパッと円陣を解くと三人は一斉に頭を下げた。

 

「「「ごめんなさい。」」」

 

 一斉に頭を下げられて戸惑うエゾオオカミ達三人。

 どうやらガチャガチャ泥棒に悪気はない事だけは分かったが、それで無罪放免とはいかない。

 ルリとエゾオオカミはユキヒョウの方を振り返った。視線で「どうしよう?」と丸投げしてしまう。

 こういう頭を使う事は確かに彼女が一番適任なのだが、さすがにこの場での丸投げはどうなんだ、とユキヒョウは苦笑する。

 とはいえ、ルリとエゾオオカミに任せても話が前に進みそうにないので、ユキヒョウは気になる事を訊いてみる事にした。

 

「で、お主たちはこのガチャガチャの機械を持って行って何をしようとしていたのじゃ?」

 

 それそれ、とルリもエゾオオカミも何度も頷いていた。

 

「ええと…。コピーしようとしてたんだ。終わったら元のところに戻しておけばいいかなーって。まさかお店屋さんの物とは思わなくて…。」

 

 とアルマジロ系のフレンズが言う。

 コピーとは何だろう?とエゾオオカミ達は三人そろって首を傾げる。

 

「ええとええと…“シード”を使ってコピーしようとしてたんだが…。」

 

 またまたよくわからない単語が出て来て再び三人に首を傾げられるアルマジロ系のフレンズ。

 そんな彼女を見兼ねたのか、イルカのフレンズが彼女の服の裾をクイクイ引っ張って言う。

 

「ねえねえ、オオセルザンコウ。実物見せちゃったら?もう出来てるし。」

「名案ですね。言葉で説明するよりもずっといいかと。」

 

 イルカのフレンズの言葉に残るレオタードのサル系フレンズも両手を合わせて頷いている。

 もう一度、謎の三人組は頷き合った。

 と、同時…。

 

―ギョォオオオオオオオッ

 

 と、三人の背後から黒い水のような何かが立ち上がったと思ったら、それが大きなガチャガチャの機械を形作り咆哮をあげた。

 

「えっとね!この子は『セルガッチャ』って言うの!」

 

 じゃーん!とばかりに両手を広げてイルカのフレンズが言う。

 巨大なガチャガチャことセルガッチャはガチャガチャの機械に蜘蛛のような虫を思わせる手足のついたセルリアンだった。

 

「「「な…っ」」」

 

 とユキヒョウ達三人は開いた口が塞がらない。

 さっきから話している妙な三人組のフレンズ。彼女達がこのセルリアンを生み出したようにしか見えない。

 泥棒なんて生易しいものじゃなかった。

 もっと恐ろしい何かが始まろうとしている。

 その予感にエゾオオカミの背筋が凍る。

 だが、悠長に驚いている場合でもなかった。

 何せこのセルガッチャがギロリ、と一つ目でエゾオオカミ達を睨みつけたからだ。

 

「ど、どう見ても…。」

「わらわ達と仲良くしようという雰囲気ではないの…。」

 

 エゾオオカミとユキヒョウはじりじりと後ずさる。

 それを見て謎の三人組のフレンズはまたも顔を見合わせてから得心したように「ああ。」と頷き合った。

 

「そっか、こっちの世界の子達って普通のフレンズだからセルリアンに襲われちゃうんだ。」

 

 イルカのフレンズが言う事は分からなくもない。だが、それでは自分達はまるで普通ではない、と言っているようではないか。

 

「私たちはセルリアンフレンズですからね。この子達を怒らせたりしなければ襲われたりはしませんが…。」

 

 そう言うサルのフレンズは頭につけた金の輪をズラして前髪をあげる。

 そこにはあったのはセルリアンの…。

 

「『石』じゃ…。」

 

 ユキヒョウの言う通り、サルのフレンズの額にあったのはセルリアンの『石』だった。

 その光景にユキヒョウには思い出される事があった。

 いつぞや皆で遊びに行ったサンドスター研究所で出会ったスザクの事だ。

 彼女は別な世界からこちらの世界へやって来た存在だ。

 ただし、セルリアンに憑りつかれたフレンズとして。

 目の前のフレンズ達がいうセルリアンフレンズとはそういう事ではないのか。

 

「ともかく、皆さんは逃げた方がいいかと思いますよ。」

 

 呆けるエゾオオカミとユキヒョウに言うサルのフレンズ。

 彼女の言う通り、セルガッチャはいよいよ二人を獲物と見たのか、四本足のうち一本を振り上げていた。

 二人…?

 ルリは?

 と気づいた瞬間…。

 

―ズドォオオオオン!

 

 とセルガッチャが横なぎに吹き飛んだ。

 その身体に水色の三つ編みが巻き付いている。

 つまり、これをしでかしたのは…。

 

「クロスラピス!?」

 

 である。

 いつの間に着替えたのか、魔女の帽子と目元を隠す仮面に短いケープを翻したクロスラピスがそこにいた。

 周辺のパイプや柱などをくぐらせて三つ編みを伸ばしてセルガッチャ捕まえてから三つ編みを元の長さに戻す事で滑車の原理を利用してウィンチを巻き上げるようにセルガッチャを引き倒したのだ。

 

「ユキさん!エミさん!逃げて!」

 

 言うが速いか、クロスラピスは再び三つ編みを操って空へと舞い上がる。

 その様子を見ながらアルマジロのフレンズが感心したような声をあげた。

 

「へえ、彼女、セルリアンじゃないか。しかも、こんなにしっかりした知性を持っているのは私たちと一緒かな?」

「ううん、あの子はわたし達セルリアンフレンズとは違うよ。」

 

 首を振って否定するイルカのセルリアンフレンズ。

 こちらの三人組はセルリアンが出ているというのに呑気なもので、宙を舞うクロスラピスの空中機動を眺めて楽しんでいた。

 まるでサーカスの空中ブランコ鑑賞でもしているかのようだ。

 

―ギョォオオオッ!

 

 そんな事は余所に、起き上がったセルガッチャは怒りの咆哮をあげた。

 

「あぁ…。いくらあの子がセルリアンでも怒らせちゃったら襲い掛かってくるなあ。」

「そうですね。」

 

 アルマジロのセルリアンフレンズの言葉に頷くサルのセルリアンフレンズ。

 三人組が見守る中でセルガッチャは自らの身体についたガチャガチャのハンドルを回す。

 当然、そうなればガチャガチャのカプセルが排出される。

 そのカプセルの中身は一体何なのか。

 カプセルが開いて中から現れたのは意外なものだった。

 

「なっ、なんでっ!?」

 

 クロスラピスが驚くのも無理はない。

 カプセルから現れたのは大きなショッピングカートのセルリアン、『ドンカート』だったからだ。

 つい先日、クロスラピス自身が『石』を砕いて倒したセルリアンが再び目の前に現れたのだ。

 そんな驚きを余所にセルガッチャはさらにハンドルを回し続けていた。

 次々とカプセルが排出されて現れるのはかつてクロスハート達が倒してきたセルリアンだった。

 カプセルから現れたセルリアン達はこの路地裏にひしめきつつある。

 

「ま、まずい。このままじゃと彼奴らが溢れ出すぞっ!」

 

 ユキヒョウは未だに状況についていけていないエゾオオカミの手を引いて路地裏を飛び出す。

 路地裏から飛び出せばそこは人の溢れる商店街だ。

 つまり、路地裏からセルリアンが溢れ出したら大惨事になってしまう。

 ここにいたってようやくエゾオオカミは我に返った。

 そうだ。

 今の自分には力があるじゃないか。

 あの日無力だった自分とは違う。

 今度は、今度こそは自分がこの商店街を守るんだ。

 その決意を胸にエゾオオカミはユキヒョウの手を振り払った。

 

「ユキヒョウ!お前は逃げろ!」

 

 言いつつその手に“リンクパフューム”を構える。

 

「リンクハート…メタモルフォーゼっ!」

 

 変身の掛け声と共に“リンクパフューム”を全身に振る。正直変身ポーズを決めている余裕はなかった。

 

「リンクエンゲージ…!ニホンオオカミスタイルッ!」

 

 それでも変身にはやはり支障はないようだった。

 全身を覆うサンドスターの輝きが晴れたとき、茶色のブレザーにピンクのチェック柄ミニスカートを翻したエゾオオカミが現れる。

 

「どおりゃあああああっ!」

 

 雄たけびと共にエゾオオカミは路地裏から躍り出ようとしていたセルリアンを殴りつける。

 それは丸形の小型セルリアンであった。

 エゾオオカミの拳を受けた小型セルリアンはパッカーンとあっさり砕け散った。

 それは本体が分身体を作り出す『レギオン』と呼ばれるセルリアンであったが、なんと運がいい事にこの一撃で見事に本体を撃破してしまったのだ。

 少しずつ数を増やしていた分身体も今のでまとめて消し飛んでしまった。

 

「へえ。貴女はどうやらセルスザク様の情報にあったクロスシンフォニー、とやらかな?」

 

 アルマジロのセルリアンフレンズが変身したエゾオオカミを見ながら感嘆の声をあげる。

 だが変身したエゾオオカミはいいや、と首を振る。

 

「違うさ。俺の名前はクロスハート。そう。通りすがりの正義の味方…。クロスハートだ。」

「そうか。クロスハート。感謝しておくよ。」

 

 アルマジロのセルリアンフレンズはサルのセルリアンフレンズに目配せする。

 それに頷いてサルのセルリアンフレンズは板状のスマートフォンのような機械を操作した。

 すると、砕け散ったセルリアンが残したサンドスターの輝きがそのスマートフォンのような機械に吸い込まれる。

 そしてその機械の上部についたスリットから一枚のメダルが吐き出された。

 

「ええ。こうして“セルメダル”を手に入れる事が出来たのですから。」

 

 サルのセルリアンフレンズが持つそのメダルには先程倒した『レギオン』と呼ばれるセルリアンの姿が刻まれている。

 

「だが、このペースではいつまで経っても終わりそうもない。」

 

 アルマジロのセルリアンフレンズは言いつつ別なメダルを取り出した。

 それはつい先日、クロスラピスが倒した『ラガーカチューシャ』の姿を刻んだものだった。

 

「だから少しばかり手伝おう。セルシコウとマセルカは“セルメダル”の回収を頼むよ。」

 

 アルマジロのセルリアンフレンズは名をオオセルザンコウと言う。

 彼女は被っていたハンチング帽をひょいと上にずらす。

 すると、前髪に隠れた額にセルリアンの『石』が露わになった。

 

「“アクセプター”…セットメダル!『ラガーカチューシャ』!」

 

 オオセルザンコウの掛け声とともに、その『石』にちょうどメダルを投入できるようなスリットが現れた。

 彼女はそこに『ラガーカチューシャ』の“セルメダル”を放り込む。

 するとオオセルザンコウの鱗を模したリストバンドが大きく伸びて形を変える。

 続けて両肩にも肩当のようなプロテクターが装着された。

 さらに帽子も形を変えてヘルメットになるとそこから目元を隠すようにバイザーが降りる。

 

「変身…しやがっただと…!?」

 

 今度はエゾオオカミが驚く番だった。

 しかもセルリアン達の群れに加えて今度はこのオオセルザンコウまで相手にしなくてはならないのだろうか。

 そう思ってエゾオオカミは身構えた。

 対してオオセルザンコウも本気の戦闘態勢に入ったようだ。

 

「『ラガースラッガー』!」

 

 腕のリストバンドから鱗を一枚伸ばしてとると、それがビール瓶のような形になり細長く伸びる。

 ちょうど野球のバットのようだ。

 それはつい昨日、クロスラピスが倒したセルリアンと同じ技だった。

 

「それでは行くよ。ラガー……ホォオオオオムランッ!」

 

 とオオセルザンコウはそのビール瓶バットを…手近にいたセルリアン…輪ゴムのセルリアンことワゴメリアンへと叩きつけた。

 

―ガッシャーン!

 

 というビール瓶の割れる音とパッカーンとセルリアンが砕ける音が同時に響いた。

 

「ど、どうなってやがる…。」

 

 エゾオオカミは意外な展開に戸惑った。

 そもそもこのセルリアン達はあの妙な三人組が生み出したものではないのか。

 だったら何故わざわざ生み出したそれを自らの手で倒しているのか。

 それにエゾオオカミはついさっきの光景を思い出す。

 あのアルマジロのセルリアンフレンズとやらは妙なメダルを使って変身しているようだった。

 

「まさか…!」

 

 宙を舞うクロスラピスはある事に気が付いた。

 それが本当ならば、自らが生み出したセルリアンを自ら倒すという一見ちぐはぐな行動も辻褄が合う。

 

「エミさん!あの子達はさっきの“セルメダル”を集めるのが目的なんだよ!」

 

 そのクロスラピスの言葉の通り、再びサルのセルリアンフレンズ、セルシコウがスマートフォンのような機械で今しがた砕かれたワゴメリアンのサンドスターの輝きを吸収している。

 そして先程と同じように排出されたメダルにはワゴメリアンの姿が刻まれていた。

 セルシコウはそれをイルカのセルリアンフレンズ、マセルカへと投げ渡す。

 

「マセルカ、それはあなたの“アクセプター”向けかと思いますよ。」

「わっふーい!ありがとうセルシコウ!」

 

 二人はそれぞれに“セルメダル”を構えると叫んだ。

 

「「“アクセプター”セットメダル!」」

 

 セルシコウは額の『石』に、マセルカはうなじの『石』にそれぞれ投入口が現れて、そこへと“セルメダル”を放り込んだ。

 

「『レギオン』!」

「『ワゴメリアン』!」

 

 まずセルシコウ。こちらはレオタード風の衣装の裾につけられた飾りのフリルが大きく変化しスカート状に。まるで燕尾服の尾のようであった。

 ただ、その割に前から見れば相変わらずレオタードが丸見えなので、かえって妖艶さが強調されている。

 そして頭の金属の輪がヘルメット状に変化。そこからバイザーが降りて目元を隠す。

 続けてマセルカ。こちらはセーラーワンピースが変化してセーラースクール水着ともいうべきものになった。

 具体的に言えば、セーラー服の襟元のカラーがついたスクール水着だろう。

 さらに露わだった両手両足にアームグローブとニーソックスが装着される。

 最後にやはりこちらもヘルメットが装着されて目元を隠すバイザーが降りた。

 

「やっぱり…!あっちも変身した…!」

 

 クロスラピスは宙を駆けてセルリアン達の注意を引き付けながらもその光景を見ていた。

 やはりあのセルリアンフレンズ達は“セルメダル”で変身するようだ。

 そして、その“セルメダル”はどうやらセルリアンを倒す事で手に入るらしい。

 つまり、セルガッチャというセルリアンを生み出す能力を持ったセルリアンを作り出して、そこからセルリアンを生み出し、“セルメダル”を回収するのが目的だったのだ。

 

「ねえねえ、セルシコウ。わたしもオオセルザンコウを手伝ってくるね。ちょっと数が多くなってきたし。」

「ええ。“セルメダル”の回収は私一人で大丈夫です。」

 

 まだセルガッチャはガチャガチャのハンドルを回し続けていた。

 そこから排出されるカプセルからかつてクロスハート達が戦ったセルリアンが生み出される。

 『アラハバキ』も『ジョア』も『ナイトメア』も『アラクネドール』も『コンダラセルリアン』も『ブラックボードスナイパー』も。

 どんどんとこの路地裏にひしめいてきた。

 到底この数の相手はクロスラピスとエゾオオカミだけでは無理だろう。

 先に商店街の方へと逃げていたユキヒョウは後ろ髪を引かれる思いだったがその場を後にして走り出した。

 自分がこの場にいてもやれる事はないだろうし邪魔にすらなるかもしれない。

 それならば助けを呼んでくる方がいくらかでも役に立つはずだ。

 

「すまぬ!ルリ…、エゾオオカミ…二人とも持ちこたえるんじゃぞ…!」

 

 ユキヒョウは二人の無事を祈る事しか出来ない悔しさをバネに全力で走るのだった。

 

 

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 放課後のジャパリ女子中学校。

 そろそろ部活も終わりという頃になると、下校する生徒達の数も一旦少なくなっていた。

 運動部は夏の大会を控えて練習に余念がなく、中にはまだ居残り練習をしている生徒の姿も見られる。

 そんな中で、ともえと萌絵とイエイヌにラモリさん、それとアムールトラとかばんにサーバルとアライさんとフェネックに博士助手と賑やかな一団が家路についていた。

 アムールトラはキタキツネとギンギツネの二人を応援団へ勧誘する事に成功していた。

 そのまましばらく応援団の構想を生徒会メンバーも交えたともえ達と話し合って帰りはこの時間になっていた。

 

「とりあえず、美術部に茶道部兼オイナリ校長先生の会、あと生徒会もみんな参加だし、人数は結構集まって来たよね。」

「あとで生徒会の方でも各部活に案内を出すので、まだまだ希望者は集まると思いますよ。」

 

 先頭を歩くともえの言葉に答えるかばんの顔も明るい。

 そして、その後ろを歩くイエイヌも笑顔をアムールトラに向ける。

 

「これもアムールトラが茶道部兼オイナリ校長先生の会のみんなの参加を取り付けてくれたおかげですね。」

「本当はルリとユキヒョウとギンギツネにキタキツネも連れてきたかったんやけど、みんな今日は用事があるみたいでな。」

 

 ルリとユキヒョウはエゾオオカミとの約束があったし、キタキツネは新作ゲームがどうのと言ってギンギツネを連れて早めに帰ってしまった。

 

「ん?でも…。」

 

 とイエイヌは言いよどむ。その鼻にとある匂いが届いたからだ。

 それはユキヒョウの匂いだったが、彼女は用事があって先に帰っていたはずではなかったのか。

 その匂いはこちらに近づいているようだ。

 イエイヌがそれを不思議に思っているうちにやはりユキヒョウの姿が見えてきた。

 

「って…ユキヒョウちゃん!?」

 

 と先頭のともえが驚きの声をあげた。

 ユキヒョウは息も絶え絶えという様子で辛うじて走っている、という様子だったからだ。

 ただごとではない様子にその場の全員が走ってユキヒョウの元へ急ぐ。

 もう倒れ込みそうなユキヒョウを見た瞬間、アムールトラは弾かれたように飛び出していた。

 

「どないした!?ユキヒョウ、何があった!」

 

 ユキヒョウが倒れ込む前に辛うじて抱きとめる。

 アムールトラはユキヒョウがこんなになるまで無理をする姿は見た事がない。それだけでも何か大変な事が起きている事は察しがついた。

 それに何よりルリがいない。一緒ではないのか。

 聞きたい事は沢山あるがユキヒョウ自身だって心配だ。

 

「セルリアンじゃ。」

 

 ユキヒョウはどうにかそれだけを言えた。

 その言葉を聞くや否や、アムールトラは走り出そうとした。

 しかしユキヒョウに止められる。

 汗だくで髪も乱れているものの、その眼光だけはいつもと変わらなかった。

 

「まったく。走ってどこへ行けばよいのかわかっておらぬじゃろ。」

 

 確かに言われてみればその通りだった。

 イエイヌが水筒に入れていたお茶を渡して萌絵が背中をさすってやるとユキヒョウも少しは息が整ってきたようだ。

 

「商店街じゃ。そこでクロスラピスとエゾオオカミが戦っておる。」

 

 ユキヒョウはつい今しがた商店街で起こった出来事を語った。

 謎の三人組がセルリアンを生み出した事。

 大量のセルリアンが現れた事。

 そしてその謎の三人組が変身した事。

 それを聞いた一同は思わぬ事態に言葉を失った。

 エゾオオカミというフレンズについてはよくわからないが、謎の三人組と大量のセルリアンを相手にクロスラピス…つまりルリが戦っているという事だろうか。

 という事は一刻を争う事態なのかもしれない。

 なのに、今度はアムールトラの足が動かない。

 なんでだ、と足を見ても何も異常はない。

 アムールトラの足を止めていたのは迷いだった。

 ルリは自分でクロスラピスになって戦う事を選んだ。けれども自分はそんな彼女を止めたいと思っている。

 いま、助けに行く事はきっと出来るだろう。

 だけれどもその先に自分はルリにもう戦うな、と言うつもりなのだろうか。

 

「(迷うのなんか後でも出来るやろ!今はルリのところに行くのが先やろうが!)」

 

 アムールトラは思って足を動かそうとするが、それでも足は動いてくれない。

 怖かったのだ。

 かつて自分はルリの為と一人で戦い、友達に迷惑を掛けてしまったしあまつさえ取り返しのつかない事態になるところだった。

 また同じ間違いをしてしまったら…。

 いま、アムールトラの足を止めているのはそうした恐怖と迷いだった。

 

「アムールトラ。」

 

 そうして迷うアムールトラの肩に手が置かれる。

 それはイエイヌの手だった。

 

「貴女は言っていました。ルリさんは貴女の一番大事だ、と。わたしはそれを間違っているなんて思いませんよ。」

 

 迷っている事を見透かされたアムールトラは驚きに一瞬固まる。

 そんな彼女にイエイヌは続ける。

 

「そりゃあわかりますよ。貴女とわたしは似ていますからね。やらなきゃいけない事があるのにどうしていいのかわからずに立ち止まってしまうところまでそっくりです。」

 

 そこまでを言うとイエイヌはアムールトラの肩から手を離して踵を返す。

 

「先に行っていますよ。アムールトラ。」

 

 言ってイエイヌは首元のチョーカーに触れて叫ぶ。

 

「変身っ!」

 

 クロスナイトに変身したイエイヌは、言う事は言ったとばかりに商店街へと向けてあっという間に消えてしまった。

 

「ともえさん、ボク達も。」

「うん。萌絵お姉ちゃん、ユキヒョウちゃんをお願いね。」

 

 続いて変身したクロスハートとクロスシンフォニーも同じように商店街へと向けて走り始めた。

 その場にはユキヒョウを抱えたアムールトラと見守る萌絵とラモリさんだけが残される。

 ここに至ってアムールトラの胸の中には何とも言いようのないムズムズした感触が残されていた。

 イエイヌは言ってくれた。

 ルリを想う事が間違ってはいないんだ、と。

 そして先に行く。と。

 それは後から来る事を待っているという事だ。

 一番迷惑を掛けてしまった彼女がそこまで言ってくれるのにここで動かないはずがない。

 

「ユキヒョウ。悪いけどウチも行くな。ウチはルリにどうして欲しいとか色々迷ってる。けど…、迷ったまま何もせんなんて我慢ならんわ。」

 

 アムールトラはユキヒョウを萌絵に預けた。

 

「まあ待て。アムールトラ。」

 

 しかし、ユキヒョウはアムールトラをまたしても引き留める。

 ここまでの全力疾走で立ち上がるのもようやくという有り様ではあったけれど、それでも萌絵の肩を借りて立ち上がる。

 

「わらわが言うのはちと卑怯な気がしなくもないがの…。ルリの一番の望みはの…。お主の隣にいる事じゃよ。」

 

 その一言は掛け違えたボタンを掛け直したかのようだった。

 そうだとも。

 自分はルリを籠の中に閉じ込めておきたかったわけじゃない。

 そしてルリは自分に守られるだけだった事だって心苦しかったのだ。

 だからルリがクロスラピスになったその日からどうにもスレ違いがあるかのようなぎこちなさがずっと付いて回っていた。

 

「じゃからな。アムールトラ。ルリと一緒に戦ってやってくれんか。」

 

 言いつつユキヒョウはリュックから一つの風呂敷包みを取り出した。

 ここに来るまでに学生鞄は走るのに邪魔だから放り出してしまったが、これは捨てずにここまで持ってきた。

 それは大切なものだったからだ。

 親友が親友と共に戦う為に準備をしておいたものなのだから捨てられるはずがなかった。

 中身はクロスラピスとお揃いの短いケープに目元を隠す仮面。そしてシルクハットだった。

 ユキヒョウはそれをアムールトラへと着せていく。

 

「これはお主にしか頼めぬ事じゃ。ルリを。クロスラピスを頼む。」

 

 それにアムールトラは頷いた。

 

「ああ。任せとけ。」

 

 その頷きにユキヒョウも満足そうに頷きを返す。

 …と。

 

―ギュギャギャギャギャッ!

 

 と凄まじいタイヤの滑る音が近づいてきた。

 何事かとそちらを見れば…。

 

「ラモリケンタウロス!?」

 

 が走って来ていた。

 

「ヨウ。お嬢さん。お急ぎだろウ?」

 

 それはラモリさんがリモートコントロールで呼び出していたものだ。

 つい先ほどドクター遠坂に要請していたアップデートがこれだった。

 リモートコントロールでラモリケンタウロスを呼び出す機能とイエイヌ以外を乗せても大丈夫なように重量バランスなどの計算をしなおしたOSアップデートをしていた。

 確かにこれなら商店街までも短時間で辿り着けるはずだ。

 

「もう!ラモリさん!今日はどうしちゃったの!すっごいカッコいいよっ!」

「俺はいつでもカッコいいだろうガ。」

 

 萌絵に手放しで褒められてそんな事を言いつつも、もしも表情を変える機能があったのならラモリさんは赤面していただろう。

 

「さあ。乗っていきナ。お前さんのお姫様を待たせてルんだろウ?」

 

 言いつつラモリケンタウロスの馬の頭に当たる部分にある窪みに収まるラモリさん。

 

「はは、随分なタクシーやないか。でも助かるで。」

 

 短いケープを翻し、ラモリケンタウロスに跨るアムールトラ。

 と、ふと一つ疑問が生まれた。

 

「あ、そうや。ユキヒョウ。ウチはこの格好ん時は何て名乗ればええんやろ?……クロスビースト、とかにしとく?」

「あほう。」

 

 ユキヒョウはそんなアムールトラに近づくとペチンとデコピンを喰らわせた。

 

「誰がそんな下世話な名前を付けてやるものか。ちゃんとルリと一緒に考えてあるわ。」

 

 デコピンは全く痛くはなかった。

 が、どうやらルリもユキヒョウもずっと自分の事を待っていてくれたのだ、とわかった。

 それに、自分で言っておいてなんだがビーストを名乗るのは勘弁願いたいところでもあったしそれを理解してくれていた事も嬉しかった。

 

「お主の名は……。」

 

 だからユキヒョウが耳元に囁いた名前は自然と受け入れられた。

 アムールトラはもう一度頷くと、今度こそ前を向く。

 

「ほなラモリさん!思いっきり飛ばしたって!」

「任せロ。ラモリケンタウロス、ペガサスモードッ!」

 

 ラモリさんの掛け声とともに、ラモリケンタウロスの胴体の一部が開いて翼とジェットエンジンのようなものが現れる。

 それに、ふとアムールトラはドクター遠坂が言っていた言葉を思い出してしまった。

 

『短時間なら飛行も出来るけど、まだ飛行制御プログラムは出来てないから使っちゃダメだよ。』

 

 文字通り本気で『飛ばす』気らしいと悟ったアムールトラは獰猛に笑った。

 

「上等!」

 

 と言うアムールトラに応じてラモリさんもジェットエンジンに火を入れた。

 ジェットエンジンの噴射で空気が揺れてもう近づく事も出来そうにない。

 けれども…、せっかくだし、とユキヒョウは萌絵の方に目配せする。

 見送る側にも作法というか景気づけというかそういうものがあるだろう、と。

 萌絵も、ユキヒョウが何をしたいのか正確に理解した。

 なので、切り火がわりに萌絵とユキヒョウは腕を真っ直ぐ伸ばして二人でポーズを決めるとこう叫んだ。

 

「「ラモリケンタウロス、発進ッ!」」

 

 と同時、暖気を終えたジェットエンジンが本格的に噴射を始めてラモリケンタウロスとアムールトラは砲弾の如く空へと射出された。

 

 

――⑥へ続く

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