商店街の路地裏。
そこでは奇妙な共同戦線が繰り広げられていた。
クロスラピス&エゾオオカミのコンビとオオセルザンコウとマセルカのコンビの二組だ。
お互いに連携をするでもなく、かといって敵対するわけでもない。
クロスラピス達から見れば敵の敵、というだけで味方とは言えない相手だ。
それとは別にクロスラピス達を悩ませる問題がもう一つあった。
それは“セルメダル”の事である。
クロスラピスとエゾオオカミがセルリアンを倒すとセルシコウが“セルメダル”を回収してしまう。
彼女達が“セルメダル”を集めて何をするつもりなのかまではまだわからないが、よくない予感がする。
とは言え、このセルリアン達を倒さないと商店街に被害が出る。
クロスラピス達に戦わない選択肢はなかった。
「エミさんっ!」
クロスラピスは機動力を活かしてエゾオオカミを抱えてセルリアンの『石』へと回り込む。
「おうよ!」
そして、エゾオオカミが『石』を砕いてセルリアンをサンドスターへ還していく。
つい先日戦ったのと同じ、再生『ドンカート』もこの方法で再びやっつけた。
このセルリアンと直接対決したクロスラピスにはわかるのだが、どうもセルガッチャから現れたセルリアン達は元のセルリアンよりもスピードもパワーも劣っているように思えた。
なので、クロスラピスとエゾオオカミの二人でも何とかなっていた。
それに一方で共同戦線を敷いているオオセルザンコウとマセルカの二人の活躍も凄まじいものだった。
「『ラガーミサイルッ!』」
とオオセルザンコウが鱗を変化させたビール瓶ミサイルを連続発射するのにあわせてマセルカが突撃する。
まるで弾幕の中をミサイルと一緒に飛ぶように飛び跳ねるマセルカ。
その動きは輪ゴムのセルリアンであるワゴメリアンの弾性を利用したものだった。
オオセルザンコウが足止めしている間にマセルカが『石』へと取りつき一撃で砕いてしまう。
クロスラピスもエゾオオカミも同じことを考えていた。
あの二人の方がセルリアンの群れよりも強敵だ、と。
そして残るセルシコウは先程からセルリアンが倒される度にスマートフォンのような機械を操作して“セルメダル”を回収していた。
クロスラピスも何度かその機械を奪えないか、と狙ってみた事はある。
けれどセルシコウはその度にクロスラピスに気づいてるよ、とばかりに視線を送ってくるのだ。
うかつに仕掛ければ手痛い反撃を予感させるには十分過ぎた。
とにかく、この共同戦線のおかげで再生セルリアン達もあっという間にその数を減らしていた。
残るはセルガッチャのみである。
既に周囲を飛び回っている間にクロスラピスはセルガッチャの『石』を見つけていた。
セルリアンの頭頂部、ガチャガチャで言えば天板の部分だ。
本来であれば鍵穴があるべき部分に『石』があった。
「なら一気に叩くぞ!」
「うんっ!もう一回行くよ、エミさんっ!」
エゾオオカミがセルガッチャの足元に潜り込んで足の一本を思いっきり殴りつける。
それで転びはしないがセルガッチャが体勢を崩した。
そこをすかさずクロスラピスがセルガッチャの股下を縫うかのように空中を駆け抜けてエゾオオカミを拾い上げる。
そのまま周囲の壁を三つ編みで掴んで二人ごと身体を引き上げると一気にセルガッチャの頭上に躍り出た。
「じゃあお願い!」
「任せろ!」
クロスラピスはセルガッチャの『石』へ向けてエゾオオカミをぶん投げた。
一気に『石』へ肉薄したエゾオオカミは右手にサンドスターの輝きを集める。
「いくぜぇ!『天上ッ!ぶち抜きボォオオイスッ!』」
叫びと共にエゾオオカミはその右手をセルガッチャの『石』へと叩きつけた。
その一撃で『石』にはヒビが入って、そのまま…。
―パッカーン!
と砕け散る。
叫びを咆哮がわりに発動させたのはちょうどイエイヌの『ウォーハウリング』と似た技であった。
『天上ぶち抜きボイス』は一時的に攻撃力を引き上げるバフ技なのだ。
「(よし…!やれる!俺でも十分この化け物共と戦える…!)」
着地したエゾオオカミは拳を握りしめる。
あれだけいたセルリアンの群れもこれで綺麗サッパリだ。
だが戦いが終わったわけではない。
オオセルザンコウ、マセルカ、そしてセルガッチャの“セルメダル”までも回収を終えたセルシコウの三人がエゾオオカミと対峙する。
エゾオオカミもまた拳を握って構えなおした。その背中に再びイヤな汗が浮かぶ。
ハッキリ言ってこの三人の方が強敵だ。
そして、あちらも素直にエゾオオカミ達を見逃すつもりはないようだ。
「さて。出来れば手荒な事はしたくないので大人しくしてくれ。」
オオセルザンコウが誘うように手を伸ばした瞬間。
―バッ
と、エゾオオカミの視界が横に流れた。
それはクロスラピスが横合いからエゾオオカミを掻っ攫ったからだった。
そのまま空中を飛びながら逃げの一手だ。
「ちょ…!?ルリ、なんでっ!?」
「このまま2対3じゃ絶対勝ち目なんかないよ。あの人たち…凄く強い。」
突然の出来事に思わず変身前の呼び名を呼んでしまうエゾオオカミにルリは冷静に返した。
確かにそれはエゾオオカミも思っていた事だ。
そして、セルリアンを倒したいま、この商店街の近くで戦う必要もなくなった。
それに騒ぎを聞きつけたのか路地裏を覗き込む商店街にいた人の姿もチラホラと見てとれる。これ以上ここで戦うのは得策とは思えない。
おそらくあの3人組は商店街の人達に危害を加えるような事はしないだろう。
だったら確かに逃げてしまうのが最もよい選択肢に思える。
問題は大人しく逃がしてくれるかどうかだが…。
オオセルザンコウは伸ばした手の行き場をなくして肩をすくめた。
「まあ振られたわけだけれども…。そう簡単には逃がさないよ!」
オオセルザンコウは膝を抱えるようにして丸くなると激しくスピン。
そのまままるで回転するタイヤのように地面を猛スピードで追撃しはじめた。
「ねえねえ、オオセルザンコウ?なんであの子達を追いかけてるの?」
その横を走って追いかけながら訊ねるマセルカ。
「そうですね…。クロスハートと名乗った方は割とどうでもいいけど、あのセルリアンの子は仲間にしたいから、ってところでしょうか。」
とセルシコウもまた走って追いついて見せた。
「ああ。あの子は多分、女王級になれる可能性を秘めている。この世界の輝きを保全するにあたっては協力して欲しい。」
と先頭を行くオオセルザンコウがセルシコウに同意の言葉を返す。
それに頷きを返してからセルシコウも言う。
「それならばオオセルザンコウ。あなたがあのセルリアンの子を。私はあちらのクロスハート、とやらの相手をしましょう。」
「じゃあマセルカは…えーっとえーっと…どうしよう!?相手がいないよっ!?」
そうして慌てるマセルカにオオセルザンコウは一つ苦笑する。
「ならマセルカは待機だ。念のため周囲を警戒していてくれ。」
「ちぇー。わかったよっ。退屈そうだけど仕方ないね。」
そうしてあっという間にクロスラピスもエゾオオカミもそしてセルリアンフレンズ三人組もいずこかへ消えていった。
「あ、あわわ……。え、えらいもの見ちゃった……。」
スマートフォンを片手にその光景を見守っていた高校生くらいの女の子が一人。
驚きながらも音声入力モードにしたスマートフォンでとある電子掲示板に書き込みをしていた。
その日、クロスハートウォッチングスレは固定ハンドルネーム『Seven』の実況のおかげで大いに盛り上がる事となったのだがそれはまた別のお話である。
の の の の の の の の の の の の の の
クロスラピスとエゾオオカミの二人は近くにある公園へと場所を移した。
もうすぐ夕暮れも近いこの時間なら人も少ないし、十分な広さがある。
セルリアンフレンズ三人組を振り切る事が出来なかったとなれば、下手な場所で戦いになるよりはここで迎え撃つ方がいいように思えた。
周囲に大きな木々が生えた遊歩道。
ここならクロスラピスの機動力を最大限発揮出来るだろう。
クロスラピスがエゾオオカミを連れて降り立つと、追っていたオオセルザンコウ達も立ち止まる。
再び場所を変えて2対3で対峙する。
最初に口を開いたのはオオセルザンコウだった。
「ようやく観念したのかな?」
しかし、それにクロスラピスは無言のまま首を横に振る。
予想通りの反応にオオセルザンコウはまたも肩をすくめてから続ける。
「そうか。ならば仕方がない。少々手荒になるが許して欲しい。」
その言葉と同時にセルシコウが飛び出した。
凄まじい速さで一気に間合いを詰めてエゾオオカミに躍りかかる。
「クロスラピス!離れてろ!」
エゾオオカミも迎撃の構えだ。クロスラピスが彼女と接敵する事だけは避けなければならない。
となればセルシコウはここでエゾオオカミが迎え撃つ他ない。
「うぉりゃあああっ!」
覚悟と共にエゾオオカミは真正面からセルシコウに拳を打ち込む……、が。
―スルリ
とイヤな手応えと共に見事に受け流されていた。
それだけではない。
受け流したあと、身体が前のめりになってしまったエゾオオカミの手をセルシコウが掴んで…。
「えい。」
「うぉ、ちょ…うわぁあああああっ!?」
と軽い掛け声と共に豪快な一本背負いの要領で遠く空の彼方へぶん投げて見せた。
さらに…。
「分身…!」
とセルシコウが二人に増えたではないか。
それは『レギオン』と呼ばれるセルリアンの能力を応用したものだ。
一人目のセルシコウが二人目のセルシコウの肩を踏み台に空中に投げ飛ばされたエゾオオカミへ向けて飛んだ。
「エミさんっ!」
追撃はさせない、とクロスラピスも三つ編みを操りセルシコウを追いかけようとした。
しかし。
「おっと。そうはさせない!」
オオセルザンコウが鱗を変化させた『ラガーミサイル』を放って弾幕を張って来た。
ちょうど二人を分断するように張られた弾幕に思わずクロスラピスも制動をかけざるを得なかった。
そしてセルシコウは空中に放り出されたエゾオオカミにそっと手のひらをあてて…。
―ズドン!
と掌底でさらに遠くへと吹き飛ばしてしまった。
「ではオオセルザンコウ。そちらは任せましたよ。」
分身した二人目のセルシコウは言うとゆっくりとした足取りでエゾオオカミが吹っ飛ばされていった方へと歩いていった。
すっかり孤立した格好のクロスラピス。
どうやらこれが狙いだったらしいと気づいた時には既に相手の術中だった。
「さて…。それではゆっくり話をしたいが、その前に大人しくしてもらわないとね。」
オオセルザンコウはゆっくりとクロスラピスへと歩み寄る。
マセルカは、と言えば手近な芝生に座り込んで観戦を決め込んでいた。
オオセルザンコウは確かに強いし、そして防御力も高い。
弱点である『石』はヘルメットに覆われて今は見えなくなっている。
特に火力の低いクロスラピスでは相性が悪すぎる相手だった。
だがしかし、オオセルザンコウにも決め手はないように思えた。
彼女は空を飛ぶ事は出来ないようだし、遠距離攻撃の『ラガーミサイル』だって昨日もかわしきって見せたのだ。
ともかく、何とかしてオオセルザンコウを足止めしてその隙にエゾオオカミを回収して逃げ切る、とクロスラピスは頭の中で考えていた。
オオセルザンコウはと言えば…、鱗を変化させたビール瓶を両手に構える。
そしてそれをシャカシャカとよく振ると、その先端をクロスラピスへ向けて親指で栓を抜いた。
―ブシャアアアアアアアアアアッ!
と勢いよく吹き出すビールがクロスラピスへと襲い掛かる。
が、かえってそれは『ラガーミサイル』よりも遅い。十分な余裕をもって三つ編みの一本で木を掴んで回避したクロスラピス。
だが、オオセルザンコウはそれでも次々とビール瓶を構えては吹き出すビールを矢継ぎ早に繰り出してきた。
右に左に上に下に、縦横無尽の空中機動でそれら全てをかわしてのけるクロスラピス。
「(おかしい。)」
とクロスラピスは考える。
こうなる事は予想済みなんじゃないのか。
そもそも『ラガーミサイル』の方が突然軌道が変わったりするし、弾速だって速いし、弾幕だってそちらの方が濃密だ。
なのに、オオセルザンコウは『ラガーミサイル』を使わずに執拗にビールを浴びせかけてくる。
何か狙いがあるんじゃないだろうか…、と思ったクロスラピスの視界がぼんやりとかすみはじめた。
しかもオオセルザンコウの姿が二人に見える。
もしや先程のセルシコウのように分身能力まで持っていたという事だろうか。
それどころか今度は目がぐるぐると回りはじめた。
何かがおかしい、と頭を振ってもやを吹き飛ばそうとするクロスラピスだったが、どんどん視界のもやは広がっているような気がする。
さらには考えも上手くまとまらなくなってきたというのに不思議と悪い気分ではなかった。
「『ラガースプラッシュ』という技なんだけどね。……この技にはこういう使い方もあるのさ。」
オオセルザンコウはニヤリとして見せた。
一発だって当たっていなかったのに何故、と鈍くなった頭でクロスラピスは考える。
「簡単さ。いくらビールそのものをかわし切ったとしても霧状になったビールまではかわし切れないだろう?」
チェックメイト、とばかりにオオセルザンコウはクロスラピスに指を突きつける。
「つまり今のキミは霧状のアルコールを吸ってしまって酔っぱらってしまった、というわけさ。」
そんなバカな、と思ってもそれは事実だった。
クロスラピスの両脚は既に重く頭もモヤがかかったように思考もまとまらない。
何とか三つ編みを伸ばそうとしたクロスラピスにオオセルザンコウが静止の声をあげる。
「おっと、それはやめた方がいい。酔っ払い運転ならぬ酔っ払い飛行は事故のもとだとも。」
確かにこれでは得意の空中機動も満足に出来そうにない。
そして、それがなければ最早クロスラピスにはオオセルザンコウに対抗する術は残されていない。
「さて。これでゆっくり話を出来る。場所をかえようか。」
オオセルザンコウはゆっくりとクロスラピスへ近づいていく。
そしてゆっくりとクロスラピスへと向けて手を伸ばす。
万事休すか、とクロスラピスも仮面の下の瞳を固く瞑った。
が…。
「ねえ、オオセルザンコウ。何か来るよ。」
とその手を近くの芝生に座って観戦中のマセルカが止めた。
それにオオセルザンコウも手を止めて空を振り仰ぐ。と…。
―キィイイイイッ!
というジェット音が近づいてきたかと思ったら…。
―ズシャァアアアアアアッ!
と空から降って来た何かがクロスラピスとオオセルザンコウの間を割った。
そのよくわからないものにオオセルザンコウも目を丸くする。
パッと見は四つ足の馬のように見えるが、頭の部分にラッキービーストがいる。
という事は何かの機械なのだろう。
そして、その機械の馬にまたがるのはこれまた奇妙なフレンズだった。
クロスラピスと同じような仮面で目元を隠しお揃いのケープを纏っている。
そして頭にはシルクハット。
そこから開いた耳を通す穴からピョコンと猫科の耳が飛び出ている。
「へぇ。公園に落下した時は狙いを間違えたんかと思ったけどドンピシャやないか。やるやん。見直したで。」
「ア、ア、ア、アタリマエだろう。ケ、計算通りダ。」
その機械の馬に跨った奇妙なフレンズは馬の頭にいるラッキービーストに言う。
明らかにラッキービーストが慌てたようにしていたが、そこにツッコミを入れないのはそれが最も望んだ結果だったからだろう。
この機械の馬は4つ足についたタイヤでまるで滑るように移動するのが特徴のようだ。
そして、空から降って来て着地と同時に滑るようにしてクロスラピスを掻っ攫っていっていた。
いま、クロスラピスはその奇妙なフレンズの腕の中にいた。
自分の目的を邪魔する新たな闖入者にオオセルザンコウはイラ立ちを覚える。
「キミは一体何者なんだ。」
と詰問するも、そのシルクハットのフレンズはオオセルザンコウに答える様子はない。
「ほら、立てるな?」
とクロスラピスをお姫様抱っこ状態から地面に降ろし、自らも機械の馬から降り立つ。
クロスラピスはと言えば未だ起こっている事態についていけていないようにポカンとしたままだ。
そんな様子のクロスラピスに、新たに現れたフレンズの方はほっぺたをポリポリと掻いて照れくさそうにしている。
「その…。待たせて悪かった。」
そうしてからクロスラピスの仮面の奥の瞳を覗き込むようにしてシルクハットのフレンズは続ける。
「せやけどな。ようやく覚悟を決めてきたで。ルリが戦うならウチも一緒に戦う。ルリが傷つく時はウチも一緒に傷つく。ルリの側にずっといる。」
シルクハットのフレンズはそれを言ってからオオセルザンコウの方へ向き直った。
「ウチが何者か、やったな。」
一歩をオオセルザンコウの方へと踏み出すそのフレンズ。
その足元から立ち上る“けものプラズム”が生み出すサンドスターの輝きから、ただ者ではない事が伺える。
「ウチの名前はクロスラズリ。通りすがりの正義の味方、クロスラズリ。クロスラピスのパートナーや。」
ようやく我に返ったクロスラピスはクロスラズリと名乗ったフレンズに嬉しそうに抱き着くようにしてから言った。
「クロスラズリ…。一体何ールトラなんだ…。」
「だから殆ど言ってもうてるやん。」
クロスラズリの方もその肩を抱きよせ苦笑と共にそんな事を言った。
しかし、何かに気づいたように「あ。」と声をあげるクロスラズリ。
「クロスラピス。あれ、やり忘れてたわ。」
そのクロスラズリの言葉にクロスラピスもオオセルザンコウも観戦していたマセルカも一様に?マークを浮かべる。
クロスラズリはさらにもう一歩を踏み出しつつ、コホンと一つ咳払いをする。
「我ら今は半輝石!」
そのクロスラズリの唐突な叫びにクロスラピスだけがパッと顔を輝かせてパタパタ、とその隣に並ぶ。
「だけどいつかは奇跡を起こし輝石になろう!」
と隣に並んだクロスラピスがその後を続ける。
「クロスラピス!」
「クロスラズリ。」
そして二人揃って左右対称のポーズを決めて…。
「「二人揃って…。」」
と声を揃えて二人のチーム名を高らかに宣言した。
「「クロスジュエルッ!!」」
――⑦へ続く