一方でクロスハートVSセルシコウ達の戦いも始まっていた。
「それじゃあ行くよ!」
一番にクロスハートが飛び出していく。
「む、無策で突っ込むのは…!」
とエゾオオカミの制止が届く前にクロスハートは早くも二人のセルシコウの間合いに入っていた。
そのまま…。
「ワンだふるアタァアアック!」
と両手を獣の顎に見立てた攻撃を繰り出すクロスハート。
しかしそれではカウンターの餌食だ、とエゾオオカミは続く惨劇に両目を閉じた。
が、いつまでも何も起こらない。
「うん、やっぱりだ。」
セルシコウが取ろうとしたクロスハートの腕を逆に彼女が取っている。
ちょうど、片腕をとらせて、動きが止まったところをクロスハートがセルシコウの腕をとった形だ。
お互いに片腕を取った状態でクロスハートはイタズラ成功、とでもいうようにニマリとしてみせた。
それは、腕をとってしまえばクロスハートはイエイヌと同じ技が使えるからだった。
つまり…。
「ドッグバイトぉ!」
とセルシコウの腕を握る手に力を込めた。
ワンだふるアタックが両腕で放つ威力重視の攻撃に対して、ドッグバイトは片腕で放つ小回り重視の技だ。
が、それを察知したセルシコウは分身にクロスハートを狙わせる。
動きが止まったところを延髄に豪快な回し蹴りを叩き込もうとした…が。
「そうはさせませんよ。」
と、その一撃はクロスナイトが両腕でガードしてクロスハートを庇った。
さすがに片腕を失うのは損害が大きいと判断したセルシコウは一旦、腕を思い切り押し込み、直後に手を払う事で何とかクロスハートのドッグバイトをかわす。
どうやら連携も個々の戦いの経験もセンスも先のクロスハートとは一味違う。一筋縄ではいかない相手だ、と悟ったセルシコウは一度分身体ごと大きく飛び退って距離をとる。
「先ほど貴女はやっぱりだ、と言っていましたね。どういうことです?」
握られた腕を軽く擦りながら訊ねるセルシコウ。
どうやらギリギリでダメージを受ける事はなかったようだ。
一瞬でも離脱の判断が遅れていたなら片腕を使い物にならなくされていたかもしれない。
クロスハートも構え直しつつ応える。
「えっとね、セルシコウちゃんの動きってキンシコウ先輩に似てるなーって。アタシ、よく空手部にも助っ人で行って練習付き合ってたから。」
「そうですか。」
ふ、とセルシコウは嬉しそうな笑みを見せた。
「こちらの世界のキンシコウもやはり武の道を極めんとしているのですね。いつか機会があれば手合わせ願いたいものです。」
セルシコウは名前から推察できる通り、キンシコウのフレンズがセルリアンに憑りつかれた者になる。
それでも、やはり別な世界の自分が同じように武術の鍛錬をしている事は何だか嬉しい、という気持ちがあった。
「その前にまずはクロスハート。貴女方ですが!」
「そうだね!」
再びクロスハートとセルシコウが激突する。
今度はセルシコウから仕掛けた。
足をしならせての中段蹴りを放つ。
鋭く、そして速い蹴りだ。
こちらに向けて走り込んでいるクロスハートにはかわしきれない。
ガードして動きが止まったところを分身体で狙う算段だ。
が……。
「!?」
セルシコウの蹴りは見事に空を切った。
あの速度で急制動なんてかけられるはずがないのに、と思ったとき、クロスハートの後ろにクロスナイトがいた事に気が付いた。
クロスナイトがクロスハートの手をとって制動をかけたのだ。
上手く急停止したクロスハートとクロスナイト。セルシコウの蹴り足が行き過ぎた今がチャンスだ。
「ダブル!」
「ワンだふる!」
「「アタァアアアアック!」」
クロスハートとクロスナイトが同時に必殺技のワンだふるアタックを繰り出す。
「くっ!?」
セルシコウは体勢が整いきっていない以上、かわすのは無理だ。ならば、と分身体が震脚を踏む。
そのまま先程エゾオオカミを吹き飛ばした時と同じ要領でセルシコウの背を『押す』。
まさに弾かれたようにセルシコウは吹き飛ばされるものの、ワンだふるアタックの牙からは逃れる事が出来た。
ダメージだってない。
「(す、すごい…!クロスハートもクロスナイトもあの敵と互角に戦ってる…!)」
エゾオオカミは一連の攻防についていけてはいなかった。
先程自分が手も足も出なかった相手と互角に渡り合っているのは悔しくもあるけれど、流石だな、と嬉しくもなっていた。
それに二人の連携も凄いの一言だ。
クロスハートが無茶とも思える突貫が出来るのはクロスナイトがしっかりとサポートしているからだ。
結果、あのセルシコウの予想を越えた攻撃を仕掛けている。
体勢を立て直したセルシコウは再び二人で構えなおす。
「正直意外でした。クロスハート。貴女は戦い慣れているようですね。ですが…!」
クロスハートとクロスナイトの善戦にセルシコウ達も本気を出す事に決めたようだ。
それぞれの右腕に黒いセルリウムが集まる。
「こちらの世界にもこのことわざがあるのかはわかりませんが…。鬼に金棒。そして…!」
セルシコウの右腕に集まったセルリウムが形を作る。それは細長い一本の棒になった。
セルシコウの背丈ほどもあるその棒は棒術とよばれる武術で使われるものだった。
「セルシコウに如意棒、です。」
形作られた棒を頭の上でぐるぐると回した後に小脇に抱えるようにしてピタリと構えをとるセルシコウ。
たったそれだけでセルシコウから放たれる圧が一段階引き上げられたようだ。
素手ですらあんなにも強かったセルシコウだ。
武器を持ち出したならどれだけ強いのか想像すらつかない。
再びエゾオオカミの背にイヤな汗が浮かぶ。
それはクロスハートもクロスナイトも一緒のようだった。
何か対抗策があるのかクロスハートがクロスナイトに視線を送ると、クロスナイトはその視線を受けて「えぇー…。」とでも言いたげな表情になった。
エゾオオカミとしては二人が何を意図しているのかわからない。
クロスハートはエゾオオカミの方を一度チラリと確認する。
一体何をするつもりなのだろうか、と思っていると何と、くるりとセルシコウに向けて背を向けた。
「クロスハートっ、逃げるよー!」
言いつつクロスハートはエゾオオカミの背中をポンと叩いてからその手を引いて走り始めた。
それを「ふう、やれやれ。」とでも言いたそうな様子でクロスナイトが続く。
まさか背中を向けて逃げ出すとはセルシコウも思っていなかったのか、一瞬呆気にとられたようにポカンと口を開けて見守ってしまった。
その一瞬で三人のクロスハートは大分離れてしまっていた。
「セルシコウちゃんー!こっちこっちー!」
とクロスハートは遠くから手を振ってみせた。
「た、確かに私は鬼に金棒だ、と言いましたけど…!」
ぷるぷる、と怒りに震えるセルシコウ。
「本当に鬼ごっこをはじめる人がありますかー!!」
「きたきたー!みんな、逃げるよー!」
棒を構えた二人のセルシコウが鬼。
逃げるのは三人のクロスハート。
夕暮れの公園でこれまた奇妙な鬼ごっこが始まったのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
「『ラガーミサイルッ!』」
先手必勝。
オオセルザンコウは踏み出したクロスラズリに向けて大量のビール瓶ミサイルを放つ。
「なかなかええな。曲芸としては合格点や。」
が、そのビール瓶ミサイルはクロスラズリの前でピタリ、と動きを止めてしまった。
何事かと訝しむオオセルザンコウ。
と、空中で静止したビール瓶ミサイルは全てが真っ二つに断ち切られていた。
思わずオオセルザンコウは驚愕に目を見開いた。
「いや、大したタネがあるわけやないけどな。」
クロスラズリは自身の手に生やした猫科の鋭い爪を見せて獰猛に笑った。
その鋭い爪でもって一瞬で全てのビール瓶ミサイルを断ち切っていたのだった。
野生解放しているからこその芸当ではあったが、何とも力技である。
「よっしゃ。ラモリさん。クロスラピスの事は頼んだで。」
言いつつクロスラズリはズンズンとオオセルザンコウに向けて歩みを進める。
オオセルザンコウは再びラガーミサイルを放つものの、やはりクロスラズリの爪で次々と断ち切られていく。
クロスラズリの歩みを止める事は出来ない。
「くっ……!『ラガースラッガー!』」
いよいよ接近戦の間合いにまで詰めたクロスラズリに対してオオセルザンコウも覚悟を決めて接近戦用の技、ビール瓶バットを引き抜いた。
「『ラガー…ホォオオオオムランッ!』」
と振りぬかれるビール瓶バットに対して…。
「ぐるぁあああああああああああっ!」
と咆哮をあげつつクロスラズリは拳を打ち付けて迎撃した。
―ガシャアアアアン!
ヒーローの拳とビール瓶。
どちらが固いかは一目瞭然だ。
派手なガラスの砕ける音と共に砕け散ったのはビール瓶バットの方だった。
ともかく、これで接近戦の距離に持ち込めた。
オオセルザンコウの懐に潜り込んだクロスラズリ。
短いショートアッパーでオオセルザンコウの腹を打ち抜く!
「ぐっ!?」
辛うじて両腕でガードするオオセルザンコウ。
防御力に優れるオオセルザンコウの両腕をもってしても一撃で痺れが走る。
ガードの上からでもこの威力か、とオオセルザンコウは肝を冷やす。
「お前は防御が得意なフレンズみたいやな。」
一撃を放ったクロスラズリは無理な追撃は控えていた。
クロスラズリの攻撃力をもってしてもオオセルザンコウの防御力は容易には突破できない。
何か作戦が必要だろう。
「(ま、そこは一つタネを仕掛けてあるんやけどな。あとは上手くいくかどうかってとこやけど…。)」
クロスラズリの考えを余所にオオセルザンコウも構え直す。
どうやらこのクロスラズリというフレンズはかなり強い。生半可な攻撃ではビクともしないはずの自分の防御力を容易く越えてくる。
この敵と正面切って戦うのは危険過ぎる。
「だったら絡め手といこうか!」
オオセルザンコウは空中にビール瓶を二本放る。
それをガンマンのようにくるくると回転させると頭をピタリ、とクロスラズリに向けて構えて叫ぶ。
「『ラガースプラッシュッ!』」
―ブシャアアアアッ!
と吹きだしたビールがクロスラズリに襲い掛かる。
今度は液体だ。
爪で切り裂いたところで意味がない。
クロスラズリはその一撃をもろに浴びてしまった。
この一撃を受けた以上、クロスラズリもまた酔っ払い状態になってしまう…。
危うし、クロスラズリ!
の の の の の の の の の の の の の の
「お待ちなさいー!」
セルシコウは三人のクロスハートを追いかける。
ぶんぶんと生み出した棒を振り回すものの、逃げ回る三人には当たらない。
「な、なあ!クロスハートッ!お前らいっつもこんな事してんのか!?」
「はい。割とそうです。クロスハートはいつもこうです。」
「いいじゃない、楽しいよね!」
「まあ、そこは否定しませんよ、クロスハート。」
「クロスハート、お前は一回こっちのクロスハートに謝るかなんかした方がいいんじゃないのか!?」
と、二人のセルシコウに追いかけられながらも楽しそうな三人のクロスハートである。
エゾオオカミはヒーローなのに逃げ回っている今の状況に戸惑っていた。
思っていたのと違う。
だけれども、確かに楽しい。
憎まれ口を叩いてしまってはいるものの、楽しくて仕方がない。
ついさっきまでの絶望的な状況と気分は180度正反対だった。
と、エゾオオカミは思い出す。
「そ、そうだった!クロスラピス!クロスラピスが危ないんだ!クロスハート!いくならアッチだ!」
とエゾオオカミはクロスラピスがいる方向を指さす。
せっかく走るのならそっちへ行けばクロスラピスと合流できる。
「ううん、そっちはもっと頼りになる子がいってるからへーきへーき。」
クロスラズリならば必ずクロスラピスを守ってくれる。それよりもオオセルザンコウとセルシコウが合流してしまう方が心配だ。
クロスハート達は周囲をグルグルと走り回ってセルシコウを引き付け続ける。
つまりセルシコウはここで何とかするしかないのだが、走り回って一体どうなるというのか。
訝しむエゾオオカミにクロスハートはピッ、と指を一本立ててみせると自信たっぷりにこう言った。
「ところで作戦があるんだけど、やる?三人で。」
「で、今度は何を思いついたんですか?」
と一番に訊くのはクロスナイトだった。
「あのね、クロスハートもイヌ科の動物のフレンズだよね?」
とクロスハートはエゾオオカミに訊ねる。
「あ、ああ。そうだ。」
何を考えてそんな事を訊くのか。
まだクロスハートの意図がわからないエゾオオカミ。それでも答えて頷いた。
きっとクロスハートならこの状況だって何とかしてくれる。その信頼があった。
「じゃあ遠吠え系の技って使えるよね。」
その確認にもエゾオオカミは頷いた。
彼女の技、『天上ぶち抜きボイス』は遠吠えによって一時的に攻撃力を引き上げる技だ。
「アタシとこっちのクロスハートも同じような技が使えるんだけどね。実は同時に使うとほんの少しだけど効果がアップするんだ。」
「そ、そうだったんですか!?」
「ってなんでそっちのクロスハートがしらねーんだよ!?」
「いや、だってわたし、昔は一人で戦う事が多くて…。わたしの『ウォーハウリング』にそんな効果があったなんて知らなかったです…。」
「そこは気づこうよ、クロスハートっ」
「っていうか今さらだけどやっぱり三人ともクロスハートだとややこしいな!?」
「まあまあ、楽しくていいじゃない!」
三人のクロスハートはワイワイ楽しそうに言いあいながら走り回る。
もうこのややこしい状況も楽しくて仕方がなかった。なんならもう半分わざとのようにお互いをクロスハートと呼んでいる。
「さて、そろそろかな?」
クロスハートはチラと後ろを振り返る。つられて振り返ったエゾオオカミの眼にもその状況が飛び込んできた。
棒を構えて走るセルシコウの息があがっているのだ。なんで!?と驚くエゾオオカミにクロスハートは得意気に解説を始める。
「そりゃあそうだよ。セルシコウちゃんはあんな長い棒を振り回して走ってたんじゃあすぐに疲れるに決まってるもん。」
確かにあんな長柄の武器を手にしては走りにくい事この上ない。
そして相手は耐久力とスタミナには絶対の自信を誇るオオカミとイエイヌのフレンズだ。
セルシコウはまんまと挑発に乗って相手の土俵に登ってしまったのだ。
「じゃあいくよ!クロスハート!」
「はい!」
「おう!」
クロスハートの掛け声と同時、三人で大きく息を吸って……。
「「「あぁあああああぉおおおおおおおおおおおん!!」」」
と天に届けとばかりに遠吠えを吠え猛る。
クロスハートとクロスナイトは『ウォーハウリング』を。
エゾオオカミは『天上ぶち抜きボイス』をそれぞれに発動させる。
「た、確かになんかしらねーけど一人で使った時よりもずっと力が湧いてくるような気がするぜ!」
「ええ!わたしも気づいてませんでしたが、こんな効果もあったんですね!」
エゾオオカミもクロスナイトも驚いていた。
実はクロスハートも一度だけクロスナイトと二人で『ウォーハウリング』を発動させた事があった。
その時はほんのわずかだけど確かに効果が上がっていたのに気づいていた。
そもそも遠吠えとはオオカミや犬が仲間に向けて吠え猛るものだ。
なので仲間と共に使えば効果が増すのは道理である。
「アタシはこれを、けもコーラスと呼んじゃおうかと思ってるよ!」
ふふん、とドヤ顔のクロスハートにクロスナイトとエゾオオカミは揃って、微妙、という顔をした。
「なら、コイツは『群狼ハウル』って技にしようぜ。」
「いいですね!それ!カッコいいです!」
クロスハートの案を蹴って二人で盛り上がるクロスナイトとエゾオオカミ。二人ともいい名前だ、とばかりに尻尾がぶんぶん揺れていた。
「くっ!?悔しいけどかっこいい!ってわけでセルシコウちゃん!アタシ達の『群狼ハウル』を破れるかなっ!」
ビシィ!と指をつきつけたクロスハート。
三人で遠吠え技を同時に発動させたおかげか、身体の奥から力が湧いてくるようだ。
対してセルシコウは走り回らされたせいで息も上がっている。
それでもセルシコウは棒を構えた。
分身体は捨て石にしてしまっても構わない。
確実に一人は仕留める、と決意する。
―ダッ
とクロスハート達が踏み込んでくる。
確かに速い。
おそらく『群狼ハウル』は本来自分にしかかからないはずのバフ技をお互いに掛け合った状態になるのだろう。
つまり、今のクロスハート達は『ウォーハウリング』×2と『天上ぶち抜きボイス』がそれぞれにかかった状態か。
「ですが、ここで一人くらいは仕留めさせてもらいますよ!」
セルシコウは分身体を前に出して棒を構えさせた。
この棒はセルリウムで生み出している為、まさに如意棒のようにある程度の伸縮が可能だ。
先頭を走ってくる丈の短い毛皮のクロスハートに狙いをつけて手首の捻りを加えた螺旋突きを突き込みつつ如意棒を伸ばす。
防御を捨てて深く踏み込んだ分、その速度はセルシコウの放てる技の中でも最速と言えた。
きっと残る二人のクロスハートによって分身体は倒されてしまうだろうが、先頭のクロスハートがこの必殺の攻撃をかわせるはずがない。
が、丈の短い毛皮のクロスハートはニヤリとした。
その理由は…。
「もちろんさせません!」
ミラーシェードで目元を隠したクロスハートが手に“けものプラズム”で生み出した丸形の盾で攻撃を防いだからだった。
まさか盾を生み出すとは思っていなかったセルシコウは完全に当てが外れてしまった。
クロスナイトのナイトシールドはセルシコウの如意棒をキッチリと止めていた。
「今だよ!クロスハート!」
先頭のクロスハートが残る最後のクロスハートに言う。
頷き飛び出すエゾオオカミ。
今のセルシコウは驚くほど遅い。
それはエゾオオカミにバフ技がかかっているせいと追いかけっこでセルシコウの体力が削られたせいだ。
だから、今なら!とエゾオオカミは自身の両腕の爪にサンドスターを集める。
そしてそれをまるで獣の顎のように両手を組み合わせた。
この構えは…、とクロスハートもクロスナイトもそしてセルシコウまでもが思った。
そしてその通りの技名をエゾオオカミは高らかに叫ぶ。
「ワンだふるアタァアアアアアック!!」
深い踏み込みで体勢の整っていない分身体はそれをかわす事が出来ない。
エゾオオカミの放った『ワンだふるアタック』を受けてパッカァアアアン!とサンドスターの輝きへと還った。
分身体が一人は相打ちに持ち込んでくれる事を期待していたセルシコウはこれまた完全に当てが外れた。
三人のクロスハートはいずれも健在。
それどころか、こちらは分身体を失ってしまった。
これ以上は危険すぎる、と判断したセルシコウは逃げを打つ事にした。
が…。
その判断は一歩遅かった。
「悪いけどセルシコウちゃん!ここで普通のフレンズに戻ってもらうよ!」
クロスハートが両腕を獣の顎に見立てた『ワンだふるアタック』を再び放ってきた。
一歩出遅れたセルシコウはかろうじて如意棒でその一撃を受け止める。
―ギチギチ
と鍔迫り合いのようにクロスハートとセルシコウがお互いを押し合う。
それを見るエゾオオカミにはもう一つだけクロスハートの為に出来る事があった。
セルシコウの変身を見ていた彼女だけが知っている事があるのだ。
そう。
「クロスハート!そいつの『石』はヘルメットの下の額にある!」
これまでの戦いでエゾオオカミもセルリアンの弱点は『石』である事を知っていた。
だからクロスハートがここでセルシコウを倒すつもりなら狙うのはそこしかない。
まさに欲しかった情報にクロスハートはニヤリとした。
「(けど、どうしようかなー。あのヘルメット結構堅そうなんだよね。このままイエイヌフォームで押し切れるかなあ?)」
鍔迫り合いからクロスハートは短く考える。
その脳裏に天啓のように閃くものがあった。
この状況を打破できるうってつけの力自慢の力を借りられるじゃない、と。
クロスハートは叫ぶ。
「チェンジ!クロスハートッ…!」
と。
瞬間彼女の身体をサンドスターの輝きが包む。
クロスハートが提げていた肩掛け鞄から彼女のスケッチブックが飛び出してパラパラとめくれていく。そしてつい昨日美術室で描いたアムールトラのページで止まった。
それと同時にクロスハートを包んでいたサンドスターの輝きが晴れた。
まずそこにはオレンジがかった毛並みにピョコンと飛び出した猫科の耳が目を引いた。
続けて、虎縞模様の猫科の尻尾がピョコリ、とお尻から飛び出ている。
虎縞のニーソックスをガーターベルトで吊った両脚が艶めかしい。
そしてその上はやはり丈の短いチェック柄のミニスカートだ。
上着はスクールベストとブラウスに虎縞模様のネクタイなのだが、何故か丈が短くおへそが丸出しだった。
そして腕に虎縞模様のアームグローブを嵌めている。
これこそがクロスハートの新フォーム。
「アムールトラフォーム!」
である。
フォームチェンジを完了したクロスハートはアムールトラのように、
「ぐるぁぁああああああああああああっ!!」
と咆哮をあげつつ強引にセルシコウを押し込んでゆく。
たまらず後ろに押されていくセルシコウ。
もちろん先にかけた三人がかりの『群狼ハウル』の効果もあるがそのパワーは凄まじい。
セルシコウのもつ如意棒ごと彼女を持ち上げると空へと投げ放つ。
空中で身動きがとれないセルシコウへ向けてクロスハートも猫科の跳躍を見せる。
そのまま…。
「タイガァ……。アッパーカットォオオオオオオッ!」
とセルシコウのヘルメットへ向けて拳を繰り出した。
空中でかわせないセルシコウはそれをまともに受ける。
―ピシリ。
とヘルメットのみなならず、その下の『石』にまで亀裂が入った。
このままいけばセルシコウの『石』は砕ける。
と思った瞬間、セルシコウの『石』にスリットがあらわれると、そこから一枚のメダルが排出された。
それはクロスハートとクロスナイトが初めて一緒に戦ったセルリアン、『レギオン』の姿を刻んだものだった。
それにピシリ、とヒビが入ると『石』の代わりに砕け散ったかと思うと凄まじい閃光を放った。
「うわわっ!?」
それに思わず目を閉じるクロスハート達。
その隙を逃さず、セルシコウは如意棒を目いっぱい伸ばし、棒高跳びの要領で遠くへ離脱した。
「クロスハート…。次に会う時を楽しみにしていますよ。」
セルシコウは技で劣っていたとは思っていない。
だが、クロスハートの方が作戦で一歩上をいっていた。
それはそれで強さというものだ。
思わぬ強敵の登場にセルシコウは笑みを浮かべる。
どうやらこちらの世界で退屈はせずに済みそうだ、と。
――⑨へ続く
【用語解説:群狼ハウル】
群狼ハウルの元ネタはネクソン版より。
イヌ科のフレンズを中心としたグループが使うグループスキルが群狼ハウルである。
クロスハート世界ではイヌ科のフレンズ達が一斉に遠吠え系の技を使う事によって効果を高める。
二人、三人と人数が増える事により群狼ハウルの効果も加速度的に増えていく。