けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第15話『クロスラピスも甘えたい』(後編)

 

 ユキヒョウは色々と呆れていた。

 飾り付けや料理の準備などは思っていた以上にしっかりと出来ていた。

 けれども…。

 

「な、なんでセルリアンが増えてるのじゃ…。」

 

 なんだか毛むくじゃらで羽根の生えたセルリアンが一匹増えているのだ。

 しかも、今日の主役を差し置いて、既に取り皿にとられた唐揚げをパクついていた。

 

「ま、待ってくれ、ユキヒョウ!?これには理由がだな!?」

「そ、そうだとも!決してエゾオオカミ君が悪いわけじゃないんだっ!」

「見逃してくだせえ!ユキヒョウ姐さんっ!」

 

 と、エゾオオカミも“教授”もイリアまでもが揃って弁明しているのもどうしたものか。

 人の事を鬼か何かと勘違いしてないか、と、それもユキヒョウの呆れの一因になっていた。

 ユキヒョウはとりあえず嘆息してから言う。

 

「理由があるのは分かった。で、何がどうなってこうなっておるのじゃ…?」

 

 なにせ、せっかくのサプライズのはずだったのに、むしろ毛むくじゃらのセルリアンに全部持ってかれたような感じになってしまった。

 ルリもアムールトラも部屋の様子には気付かずにそのセルリアンの前にしゃがみ込んで観察していた。

 と、そのルリがユキヒョウの方に振り返りながら言う。

 

「えっとね、美味しそうなキラキラがあったからつい持ってったらエミさんに捕まって、でも許してもらって、でもってキラキラを食べさせて貰ってたんだって。」

「ふむ…。ルリはこの毛むくじゃらの言う事がわかるのかの?」

「うん。何となくだけど。」

 

 それもルリのセルリアンとしての能力の一つなんだろうか。

 

「それと、この子、レミーノって名前なんだって。」

「へー。こいつ、そんな名前だったんだな。」

 

 ルリに毛むくじゃら改めレミーノの名前を教えて貰って、エゾオオカミも感心したように頷く。

 

「なるほど。これは藁に似た毛並みだと思ってはいたが、蓑…、つまり昔の雨具だね。」

 

 “教授”はレミーノの毛並みを撫でつけながら言う。

 どうやらレミーノは蓑という藁を編んで作られた昔の雨具に憑りついたセルリアンであるらしかった。

 

「透明になる能力はさしずめ“天狗の隠れ蓑”とでも言うべきものなのかな。」

 

 そうして興味の赴くままにレミーノを観察する“教授”はもうすっかりいつも通りだ。

 さっきまでの醜態はエゾオオカミとイリアだけの秘密にしておこう、と目配せし合う二人であった。

 

「それと、レミーノのヤツはあっし程ではねーですがちゃんとした知性を持ち合わせてるみてーです。腹さえ空いてなきゃ悪さをする事もねーでしょう。」

「へー。腹さえ空いてへんかったらって、コイツ何を食べるん?」

 

 イリアの解説にアムールトラが疑問を持った。

 今は唐揚げを食べているが、それで腹が膨れるのだろうか。

 

「人間が作った料理に込められた“輝き”を摂取してるんでしょうな。あっしと同じで生きるのにそこまで“輝き”を必要としねーのでしょう。」

 

 つまり、普通に何かの食事をしていれば腹を空かせる事もないし、今回みたいに何かを盗んだりするような事もないのだろう。

 ここまでを聞いた一同は揃って頷き合う。

 “教授”もルリもアムールトラも、エゾオオカミもイリアもついでにレミーノまでもが正座っぽい姿勢でユキヒョウを見上げる。

 ユキヒョウの最後の呆れの原因はこれだった。

 何となくこうなる事がわかっていたのだ。

 しっかりと監督してやれば悪さをしないというのなら選択肢は一つだ。

 なので、嘆息と共にみんなにこう告げるのだった。

 

「ちゃんと世話するんじゃぞ。」

 

 そう言うと一同に喜色が広がる。

 ユキヒョウはやれやれと苦笑する。ウチのマンションにはますます変なペットが集まるなあ、と。

 

「じゃあじゃあ、レミーノさんにも何か呼びやすそうな名前考えないとね。レミィさんとかどうかなあ?」

「キュゥ!キュゥ!」

「お、いいですなあ。レミィのヤツも喜んでるようですぜ。」

 

 ルリはルリで早速レミーノにニックネームをつけていた。同じようにしてニックネームをつけられたイリアも仲間が増えたと喜んでいるようだ。

 

「それはそれとして…、そろそろ部屋の様子にも気づいて欲しいんじゃがの?」

 

 とユキヒョウが促すと、ようやくルリも部屋が綺麗に飾り付けられている事に気が付いた。

 そもそもレミィが食べていた唐揚げは一体誰が用意したのか。

 それに気づくべきだったのだ。

 テーブルには美味しそうなオードブルが並んでいた。レミィが食べていた唐揚げはそこから失敬したものなのだろう。

 しかし、これは一体全体どうしたのだろう、とルリとアムールトラだけが戸惑っていた。

 ユキヒョウは“教授”に目配せしてみせる。今日の主催者なのだからビシっとかっこいいところを見せてくれ、と。

 

「その…。二人の誕生日を祝う事をすっかり忘れていてしまったのでね。大分遅れてしまって申し訳ないんだが、誕生日パーティーをやろうと思ったんだ。」

 

 “教授”が鼻の頭を掻きながら照れ臭そうに言う。

 エゾオオカミは自身の戦果であるバースデーケーキを紙箱から出す。幸いにして中身も崩れたりせずに無事だったようだ。

 それは真っ白な生クリームと真っ赤なイチゴで彩られたホールケーキだった。

 中央にはチョコレートのメッセージプレートが添えられている。

 まごう事無きバースデーケーキだ。

 

「う、ウチらの…?」

「誕生日…?」

 

 目を丸くするアムールトラとルリを見て、サプライズ成功かと残るみんなもニヤリとしていた。

 

「ちなみに、ルリとアムールトラの本当の誕生日はいつなんじゃ?」

 

 と訊ねるユキヒョウ。

 “教授”は頷くとそれに答えを返す。

 

「4月12日だよ。アムールトラのはよくわからなかったからルリと同じ日にしたんだ。」

 

 ちゃんと覚えていたなら及第点だ、とユキヒョウも笑って見せた。

 未だに目を丸くしたままのアムールトラ。信じられないものを見るような目で自分もなのか、と自身を指さしている。

 

「キミはもうビーストじゃなくてフレンズで私の娘という扱いだからね。そりゃあルリだけじゃなくてアムールトラだって祝うさ。」

 

 そう言われるとアムールトラの胸には何か熱いものがこみ上げてどうにもむず痒くて仕方がない。

 ユキヒョウとエゾオオカミはよくやった!と言わんがばかりに頷いていた。

 アムールトラはかつてはビーストと呼ばれて誰かとまともに交流した事すらなかった。

 だからこそ、こうして生まれて来た事を祝われるというのは何とも言葉に出来ない暖かいものがこみ上げる。

 湿っぽくなるのは我慢しないと、とアムールトラが後ろを向いてしまったのを察して“教授”は次の話題に進んだ。

 

「それとプレゼントも用意したんだ。気に入ってもらえるといいんだが。」

 

 プレゼントボックスは何故か5つもあった。

 

「もちろんルリとアムールトラの分はあるんだが、せっかくだからユキヒョウ君とエゾオオカミ君、それにイリアの分も用意したのさ。どうかな。ささやかなサプライズになっただろうか。」

 

 言って“教授”はそれぞれに箱を渡していく。

 レミィには流石に準備していなかったので、とりあえず追加でオードブルからエビフライをあげてみた。

 どうやらそれで満足してくれたらしくてほっと一安心である。

 

「あっしにもいいんですかい?」

 

 早速中身を空けてみたイリア。どうやら高級食用オイルの詰め合わせセットだったらしい。

 

「キミにも随分助けてもらったからね。まあ、日ごろのお礼という事で受け取ってくれ。」

 

 それを見ていたユキヒョウとエゾオオカミだったが、次は自分達の番って事でいいか、と顔を見合わせる。

 主役は最後に残しておくものだろう、と二人してプレゼントを開けてみる。

 

「ええっと…こいつは何だ?」

「わらわのはネックレスかの?」

 

 エゾオオカミの箱には透明な瓶に小分けされた何かと、ユキヒョウの箱には雪の結晶を模した飾りのついたペンダントが入っていた。

 

「まずエゾオオカミ君のだがね。それは“リンクパフューム”の補充用香水だよ。」

 

 “リンクパフューム”はサンドスターを帯びた香水をメモリークリスタルを通してけものプラズムに変換する。

 香水は当然使えば減るので、補充用のそれは有難い品だった。

 

「在庫が少なくなったら言ってくれたまえ。また作るからね。」

「おおお!“教授”!サンキューな!」

「ふふ。私もクロスジュエルチームの一員なんだろう?ならこのくらい当然さ。」

 

 思っていた以上に喜んでくれたので“教授”も悪い気はしない。

 そして、ユキヒョウの方のペンダントも当然普通の品ではない。

 

「そちらのネックレスはね。パーソナルフィルター発生装置を少しばかり応用したんだ。」

「って事は…もしかして萌絵さんと一緒に?」

 

 ルリは自身のつけていた髪留めを弄る。

 それは萌絵がルリの為に作ったものだ。それを応用したという事は彼女も一枚噛んでいるのかと予想したがそれはどうも正しいらしい。

 

「これは名付けてパーソナルエアーコンディショナーだよ。サンドスターが気候変動をもたらす性質を利用して、一人分の空間の気温を制御してくれるんだ。」

 

 “教授”的にはこれが一番苦労した。

 おそらく萌絵がいなければ完成しなかっただろう。

 ユキヒョウが夏の暑さを苦手としているらしいと知って、何とか完成に漕ぎつけたのだ。

 早速ユキヒョウが試しにつけてみると、途端にひんやりとした空気に包まれた。

 

「おお…!?こ、これは凄いのう!?夏の暑さもこれならへっちゃらじゃ!?」

 

 思わぬ贈り物にユキヒョウも驚きを隠せない。

 

「まだ温度の微調整なんかは効かないから、そこは今後の課題だね。寒く感じるようなら外すといいよ。」

「の、のう。これ完成したらうちで売らぬか?絶対大ヒット間違いなしなんじゃが…!」

 

 ユキヒョウにしては珍しく手放しで“教授”を褒め称える。

 まだこのパーソナルエアコンは温度調節も効かないし、今回は冷房機能しかないようであるが、それでも夏の暑さから解放されるのはそれだけでも素晴らしい。

 商品化はどうしようか、と“教授”は悩む。なんだかんだで他の発明品の特許などでお金には困っていないから急ぐ事はない。

 商品化するにしてもまだまだ先は長いだろうし、萌絵とも相談しないといけないから簡単には頷けない。

 けれども先の事は置いておいて喜んでもらえたようでよかった、と“教授”も満足だ。

 

「しかし、まさかお主にここまでプレゼントのセンスがあったとは驚きじゃのう。」

「はっはっは。安心したまえ。ルリの分は萌絵君から女の子の誕生日プレゼントとしてはちょっとどうかと思うと言われているんだ。」

 

 ここまで手放しで褒めていたユキヒョウだったが、この“教授”の自嘲に不安を覚える。

 一体ルリのプレゼントはどんな事になっているのか。

 ルリが今度は自分の番、と箱を開ける。

 ルリの箱は一番大きな物だった。

 

「えっと…。これなあに?」

 

 一言では何とも言い表せないものがそこにあった。

 まずどうやら腕にはめて使うものらしいのはわかる。

 それは主に二つのパーツで構成されていた。一つは腕にはめる為のグローブとアームガード。

 そしてもう一つはアームガードの先端から伸びるクワガタのようなハサミだ。

 無理に一言で表すなら腕部装着型の万力、と言ったところだろうか。

 

「ルリはパワー不足に悩んでいたようだったからね。それを補う武器だよ。」

「お、ぉおおおおおっ!?“教授”!?これどうやって使うの!?」

 

 武器と聞いて俄然テンションがあがるルリ。

 

「これは簡単に言うと油圧式の万力なんだ。これでセルリアンの『石』を挟み込んで圧力をかけて握り潰すわけだね。」

 

 “教授”は早速解説を始める。

 この武器にはクワガタのようなハサミ部分の根元にいくつものボルトのような物がついているのが見える。

 その中には既に高圧をかけたオイルが充填されている。いわゆるアキュムレータだ。

 使用時にはこのアキュムレータが押し込まれて中の高圧オイルを流し込み油圧機構に圧力をかける事によって、機械仕掛けの力で万力を締め上げる仕組みになっている。

 

「あ、これってパスカルの法則だ!」

「そう。よく勉強しているね。エライよ。」

 

 最近勉強に関しても頑張っているルリは油圧機構の原理も知っていた。“教授”はその頑張りを褒めて頭を撫でてあげると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

 

「パワー重視で作ったから、連続使用回数は1回きりだけれど、だいたいのセルリアンの『石』を砕ける程度の力は保障するよ。」

 

 つまり、一回使ったら補給が必要だけれど、必殺の一撃になり得るという事だ。

 

「あと、この油圧機構に入れたオイルはイリアが作ってくれたものだから、サンドスターを少しばかり帯びている。そう簡単にセルリアンに取り込まれる事もないはずだし、『石』の防御機構だって破れるはずだ。」

 

 これはまさに対セルリアン用の武器と言っていい代物らしい。

 ちなみにこれを共同で開発した萌絵は1回しか使えない高威力武器を浪漫あふれ過ぎ、と大層気に入っていた。

 ただ、問題が一つ。

 

「でもさ、“教授”…?これ、普段持ち歩くには大きすぎない?」

 

 それは、この武器が大きすぎる事だった。

 ハサミ部分も含めた全体の長さはルリの身長の半分くらいもあるのだ。普段から持ち歩くには目立ちすぎる。

 だが、そこにも“教授”は解決策を用意していた。

 

「ふふ、そこでアムールトラへのプゼントの出番になるわけだよ。」

 

 “教授”の物言いに、今度はアムールトラが自身に渡された箱を開ける。

 それには輪っかのような物が入っていた。

 

「これ、なんなん?」

 

 アムールトラはその輪っかを裏返したり、中の中空を通して向こうを覗いてみたが何も変わらない。

 

「じゃあ、アムールトラ。キミの変身衣装のシルクハットを貸してくれるかい?」

 

 “教授”に言われるがままにクロスラズリの変身衣装のシルクハットを渡すアムールトラ。

 シルクハットを受け取った“教授”は、その帽子の底面に先ほどの輪っかを取り付けた。

 そうしてから、ルリの油圧式万力をシルクハットの中に入れていくと……。

 

「「「「「ええええええ!?」」」」」

 

 見守る一同から驚きの声が上がった。

 なんせあれ程大きかった油圧式万力がシルクハットの中にすっぽりと納まったのだ。

 “教授”がそれをアムールトラに渡しても、中身はいつもとかわらぬ帽子だ。

 

「で、It's show time!の合言葉で取り出せるようになるわけだよ。」

 

 可愛くやってね、と言い置いて“教授”はワクワクと見守る。

 

「え、ええっと…いっつ、しょーたいむっ?」

 

 とアムールトラがシルクハットの中に手を突っ込んで引き抜くと…。

 

「ほ、ほんとに出たぁ!?」

 

 と先ほどの油圧式万力がニュルンと出て来た。

 

「はっはっは。種も仕掛けもあるんだがね、これもサンドスター科学の応用で、空間をほんの少し歪めて内容量を増やしているのさ。」

「はへー…。やっぱし“教授”は“教授”なんやなあ…。」

 

 理屈を聞いてもアムールトラにはこれがただただ凄いものだ、としか分からなかった。

 でも待てよ、と思い直す。

 

「“教授”…?でもこれなんやけど、ルリの帽子につけた方が便利なんちゃう?」

 

 それはそうだ。これではせっかくの武器もルリとアムールトラが揃っていないと使えない事になる。

 

「ああ、それはね。これも一応武器だからね。使うのに危険がないわけじゃない。だからアムールトラが使わないとダメだと思った場面でしか使えないようにそうしたんだ。」

 

 それになるほど、と一同納得だ。

 つまりこれは…。

 

「クロスラピスとクロスラズリ二人が揃って初めて使える必殺武器というわけじゃな。なるほど女の子の誕生日プレゼントとしては微妙じゃ。」

 

 くつくつと笑うユキヒョウ。呆れたというよりも愉快さが勝った。

 確かに女の子の誕生日プレゼントに贈る物としてはどうかと思う。

 けれど、ルリが今一番必要としていて“教授”にしか贈れない最高のバースデープレゼントだった。

 

「アムールトラはルリをずっと見て来ているからね。適任だろう?」

 

 それにアムールトラならルリがそれを使わなくてはならない場面を見誤ったりはしないと信頼できる。

 

「だったら必殺技の名前も決めておいたらいいんじゃないか?さすがに油圧式なんとかー、じゃあ格好つかねえだろ。」

 

 エゾオオカミの言葉にそれもそうか、と一同思案に暮れそうになるが…。

 

「それは食事しながら考えようじゃないか。せっかく用意したものだしね。」

 

 必殺技の名前決めはせっかくだからバースデーパーティの話題の一つにさせてもらおう。

 それに、このままだとせっかく用意したご馳走もレミィに全て食べつくされそうだし。

 “教授”はルリの椅子を引いて席に座るよう促す。

 が…、ルリは“教授”を見上げていた。

 何か言いたいのだろうか?と“教授”は小首を傾げる。

 待つ事しばし、ルリが口を開いた。

 

「あのね……。実は“教授”に一つお願いがあるの。」

 

 ふぅむ、と“教授”は考え込む。

 ルリは殆ど……いや全くと言っていい程こうしたおねだりをした事はなかった。

 だから、今日という日にはなるべくなら願い事を叶えてやりたいと思う。

 自分に可能な事だといいが、と“教授”は祈りつつ頷いてみせる。

 

「あのね。」

 

 ルリは“教授”の耳元に自分の願いを口にした。

 その内容は確かに“教授”にしか出来ないし、“教授”いがいの人間では叶えられないけれど物凄く簡単な内容だった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 一夜明けて明くる日の朝。

 昨日の大分遅れた誕生日パーティーは盛況のうちに幕を閉じた。

 来年の本当の誕生日にはともえや萌絵やイエイヌ達もゲストに呼ぼう。

 今度は盛大にやって、また二人を驚かせるのも面白そうだ。

 と、そんな事を考えながら研究を進めていたらいつの間にかまたも徹夜してしまっていた“教授”である。

 ふと気づけばリビングから朝ご飯の匂いがする。

 もうすぐルリとアムールトラの登校時間なのだろう。

 せっかくだし見送りくらいするか、と“教授”はそちらへ向かう。

 

「あ、おはよう。朝ご飯とお昼ご飯は用意してたから後で温めて食べてね。」

 

 今朝も変わらずルリは朝の支度をテキパキとこなしていく。

 既にルリとアムールトラは朝ご飯も終えて登校するばかりとなっていた。

 キッチンではイリアが定位置でいつも通りに壺の振りをしており、レミィも朝ご飯を食べて満足したのかソファーの上で寛いでいる。

 

「ああ、ありがとう。それじゃあ二人とも気を付けて行ってらっしゃい。」

 

 保護者らしい事が出来ているのか、と自嘲気味に考える“教授”だったが、せめて見送りくらいは、と二人に手を振る。

 ルリはしばらくもじもじと迷うようにしてから、昨日のお願いごとを実行に移した。

 

「じゃ、じゃあ行ってきます。お母さん。」

 

 その様子がいつにも増して可愛らしかったので呆ける“教授”の背をアムールトラがバシンと音を立てて叩く。

 

「ほな行ってくるで。母さん。」

 

 ニヤリとしながら茶化すような雰囲気のアムールトラだったけれど、彼女の頬も恥ずかしそうに紅潮していたのを見逃さなかった。

 二人して照れ隠しのようにパタパタと足早に部屋を出ていく。

 結局、あの時ルリが望んだ事は何の事はない。

 単にお母さんと呼びたいというそれだけの事だった。

 

「まったく…。欲のない子達だ。」

 

 やれやれ、と頭の後ろを掻きつつ、それでも悪くはないなと思う“教授”であった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ハクトウワシーっ。ヤマさーん、お弁当持ってきたよー。」

 

 マセルカが元気に交番の扉を開ける。

 セルリアンフレンズ3人組はすっかり色鳥町商店街前交番の常連になっていた。

 今は半ばなし崩しでハクトウワシの住むアパートの一室で一緒に暮らしている。

 

「Wow!マセルカ、待ってたわ!もうお腹ペコペコだったのよっ。」

 

 ハクトウワシも最初こそ、この共同生活に戸惑いもあったけれどいつの間にかすっかり胃袋を掴まれてしまった。

 彼女は料理は苦手で普段の食事はジャンクフードばかりだった。

 セルシコウが呆れ半分で腕を振るっていらいその虜になってしまったのだった。

 マセルカの後ろにはオオセルザンコウもセルシコウも続いている。

 今では3人してハクトウワシにもヤマさんにもお弁当を届けに来て、そこでみんなでお昼を食べるのが日課になっていた。

 早速みんなでお弁当を広げてお昼タイムだ。

 

「そうそう。マセルカちゃん達の学力検査の結果が届いたんだよ。」

 

 みんなでセルシコウがメインで作ってくれたお弁当を突きつつ、ヤマさんが言う。

 

「一応、オオセルザンコウちゃんとセルシコウちゃんの二人は義務教育修了程度の学力があるって認められたみたいだよ。マセルカちゃんは…。うん。中学校から通った方がいいみたいだね。」

 

 つい先日受けさせられた何かのペーパーテストの結果が書かれた紙を示すヤマさん。

 ヤマさんはヤマさんでオオセルザンコウ達が今後どうやって暮らすのかを決める手伝いをすべく色々と世話を焼いていた。

 彼女達3人の保護をどこかに頼む事は出来る。

 けれど、その場合は保護する家庭の事情にもよるだろうが、3人いっぺんに保護というのは難しいだろう。

 ヤマさんとしてもこの3人を引き離すのは忍びないと感じていた。

 

「なんで、今後の生活の事を少しばかり考えようと思うんだけど、今は大丈夫かな?」

 

 オオセルザンコウ達には今のところ用事も予定もない。

 なのでヤマさんの言葉に素直に頷く。

 

「取り敢えずマセルカちゃんはどこか中学校から通った方がいいね。」

 

 それにオオセルザンコウとセルシコウは顔を突き合わせてひそひそと内緒話をする。

 

「っていうかマセルカはこちらに来る前にちゃんと勉強はしてきたのか!?」

「すると思います…?マセルカですよ…。」

 

 そんなヒソヒソ話の主役であるマセルカは一人ハテナマークを浮かべていた。

 オオセルザンコウもセルシコウもこちらの世界に渡る前に、読み書きや計算などの“輝き”を学習していた。

 だが、マセルカはどうやらそれを怠っていたらしい。

 

「三人で一緒にいるならオオセルザンコウちゃんとセルシコウちゃんが独立して世帯を作ってしまうのが一番確実だとは思うんだ。大変だろうけどね。」

「でも、そうなるとお仕事が必要よね。」

 

 ヤマさんの提案にハクトウワシも頭を捻る。

 オオセルザンコウとセルシコウはどういうわけか中学校卒業程度の学力は備えているらしい。

 まだ生まれたてで色々と常識がズレている部分があるのは否めないが、義務教育を修了と認められたわけなので社会的には独立して世帯を持つ事も出来なくはない。

 ただそうなってくると、どうやって生活費を稼いでいくかが問題だ。

 

「そうねえ。取り敢えずどこかバイト先を探して定時制高校なんかに通うのも手かしら。」

「そうだねえ。オオセルザンコウちゃんもセルシコウちゃんも出来れば高校に通うのがいいと思うんだよねえ。」

 

 ハクトウワシとヤマさんはまたも揃って考え込む。

 おそらく自然発生した生まれたてのフレンズの保護先は見つかるだろうし、そうなれば普通に学校にも通わせて貰えるだろう。

 けれど、それは3人いっぺんに引き取れるような家庭がない限り離れ離れにさせられるという事だ。

 だが、オオセルザンコウを筆頭に独立した世帯となった場合は保護者に頼らず自分たちで生活をしていく事になる。

 生活費を稼ぎつつ学校にも行くというのはすごく大変な事だ。

 ヤマさんもハクトウワシも3人いっぺんに引き取ってその学費や生活費を出すのは不可能だった。

 どちらの選択肢を取るにしても一長一短で悩みは尽きない。

 そんなハクトウワシとヤマさんをマセルカは不思議そうに眺めながら言う。

 

「ねえ。仕事だったらさ。もう決まってるじゃない。」

 

 へ?とハクトウワシもヤマさんもオオセルザンコウにセルシコウまでもが面食らった顔になる。

 いつそんなの決まったっけ?と。

 

「いや、なんでオオセルザンコウとセルシコウまで忘れてるの。グルメキャッスルだよ、グルメキャッスル。」

 

 ようやくその言葉でオオセルザンコウとセルシコウも思い出した。

 オペレーション『グルメキャッスル』の事を。

 

「ねえ、マセルカ?そのグルメキャッスルって何の事?」

 

 訊ねるハクトウワシ。

 言葉の響きからすると何かの飲食店を開くという事だろうか。

 それはヤマさんも同じように考えた。

 

「確かにこのお弁当は美味しいからね。ご飯屋さんを開いたら繁盛するかもしれないねえ。」

「ええ。それに家で作ってくれる3人の料理もとても美味しいわ!今は食事の時間が楽しみで仕方ないもの!」

 

 3人はどういうわけか、とても料理が上手だ。

 その3人が開く飲食店ならきっと繁盛するだろうと思える。

 

「とは言え、店舗を借りるにも食材を用意するにもお金が必要よね。」

 

 またも考え込むハクトウワシ。

 

「いやあ、店舗の方には儂に一つ心当たりがあるよ。」

 

 ヤマさんはニヤリとしつつ指を一本立てて見せる。

 一体ヤマさんの心当たりとは何なのか…。

 そしてオオセルザンコウとセルシコウは不思議に思っていた。

 

「「(どうして私達よりもハクトウワシとヤマさんの方がオペレーション『グルメキャッスル』に熱心なんだろう?)」」

 

 何はともあれ、オペレーション『グルメキャッスル』もどういうわけか少しずつ進行しているようであった。

 

 

 

けものフレンズRクロスハート第15話『クロスラピスも甘えたい』

―おしまい―




【セルリアン情報公開:レミーノ】

 昔の雨具である蓑に憑りついたセルリアン。
 ソフトボール大の大きさで、毛むくじゃらの外見に羽根がついている。
 羽根は生えているがあまり高くは飛べないし、速度も遅いし、おまけに力も弱い。
 けれども、レミーノには透明になるという能力がある。
 生きるのに大した“輝き”を必要とせず脅威からは隠れて生きて来た。
 言葉を解する程度の知性を持ち合わせており、元来大人しい性格である事から宝条家に引き取られた。
 ちなみに、『石』は毛むくじゃらの身体の背中に隠されており、通常では見えない。
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