けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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 これまでのけものフレンズRクロスハートは!

 実は誕生日というものを知らなかったルリとアムールトラ。
 その原因となっていた“教授”はユキヒョウにしこたま怒られて数か月遅れのバースデーパーティを開く事に。
 プレゼントをどうしたものか、と悩む“教授”が頼ったのは何年も連絡をとっていなかった姉の遠坂春香であった。
 なんだかんだ色々ありつつもどうにかプレゼントも誕生日ケーキもパーティー用の料理も用意できて決行当日となった。
 ところが、バースデーケーキがセルリアンに盗まれてしまったではないか!
 あらたにクロスアイズとなったエゾオオカミの活躍によってバースデーケーキを取り戻した“教授”達は無事に二人の誕生日を祝う事が出来たのであった。





第16話『水面の絆』(前編)

 青龍アオイはジャパリ女子中学の1年生である。

 由緒正しい青龍神社の娘で、母親は守護けものの血筋を引くセイリュウだ。

 将来は母のお役目を引き継いで、青龍神社の神主となる予定だ。

 そんな彼女は生来の生真面目な性格から1年生にして生徒会会計に抜擢されている。

 なので、間もなく始まる夏の地区大会や応援団のサポートも業務のうちだ。

 

「で、アオイちゃん。まずはアタシ達って水泳部の応援からでいいんだよね?」

 

 と訊ねるのは今年の応援団長の遠坂ともえだ。

 その質問にアオイは手元のファイルに目を落として答える。

 

「はい。まずは応援団は大会当日、色鳥東中学校に移動してそこの観客席での応援になります。」

 

 二つ結びにした水色のツインテールを揺らし、まるで敏腕秘書といった佇まいのアオイは淀みなくともえの質問に答えた。

 

「当日は学校が用意したマイクロバスで選手が移動の後、応援団が第二便で移動となります。」

 

 その淀みない返事にともえは感心したように目を丸くする。

 

「すごいね。アオイちゃん。完璧なスケジューリングじゃない。」

「いえ。スケジュールの大枠を決めてくれたのは、かばん先輩達ですから。私はお手伝いしただけです。」

「それでも凄いよっ!おかげでアタシも何の心配もなく応援団出来てるし!」

 

 手放しの褒め言葉にアオイはクルリ、とともえに背を向ける。

 

「(うわぁー!?と、ともえ先輩にめちゃめちゃ褒められてるぅー!?どうしよう!?すっごい嬉しいんですけどぉー!すっごい嬉しいんですけどぉー!!)」

 

 と、胸中で大喜びのアオイ。

 だが、それを表に出すのは、はしたない。

 なのでともえに向き直ったアオイはいつもの冷静な表情を保った。

 それにしても、とアオイは思う。

 ともえの応援団衣装、アリだな、と。

 

「……?」

 

 自身をじーっと見られて不思議そうに小首を傾げるともえ。

 結局、応援団長であるともえの衣装はチアガールと学ランのハイブリットと化していた。

 基本衣装はチアガールのものである。丈の短いトップスにミニスカート。それにルーズソックスにスニーカー。

 それとちゃんとスパッツも装備なので激しく動いても大丈夫である。

 で、応援団長を示すトレードマークがわりにマントのように学ランを羽織っているのである。

 これまた激しく動いても大丈夫なように肩部分にアタッチメントで留められていたりするらしい。

 

「(カッコいいし可愛いし、もうどうしたらいいのー!?)」

 

 アオイ的にはもうこれだけでお腹いっぱいである。

 だというのに、応援団には憧れの先輩であるヘビクイワシも生徒会長のかばんもチアガールとして参加しているのだ。

 衣装協力をしてくれたともえの姉である萌絵と、1年生のユキヒョウには感謝しかない。

 それはともかくとして、仕事は仕事だ。

 今日は応援団の重要な仕事がある。

 

「ともえ先輩。今日はこの後、水泳部との打ち合わせがあります。水泳部部長、バンドウイルカのドルカ先輩が打ち合わせに参加してくれますので、そこで応援内容の確認をしますね。」

 

 応援といってもただ歌って踊ってをするわけでもない。

 適切なタイミングで応援を行わないと却って選手の集中を削いでしまったり大会運営の邪魔になる事だってある。

 なので、応援内容の確認は大事な作業だ。

 今日はかばん生徒会長が水泳部に赴き、時間が取れ次第打ち合わせの連絡を入れてくれる手筈になっている。

 スケジューリングは完璧だ。

 と、そうこうしていたら、早速かばんがやって来た。

 

「ともえさん。アオイさん。」

 

 二人に語り掛けるかばんの顔は何故か暗く沈んだものだった。

 アオイもともえも一体どうしたのだろう、と思っているとかばんの口からはあまりにも意外な言葉が飛び出した。

 

「水泳部の地区大会ですが…、いったん中止になりそうです。」

 

 しばらく呆けたアオイとともえであったが、言葉の意味を理解すると同時に慌てだした。

 

「な、なんで!?中止ってどうして!?」

「それが…。大会会場の色鳥東中学校から設備に不備があって会場設営が出来なくなってしまった、と連絡があったようで…。」

 

 ともえに答えるかばんの言葉も歯切れが悪い。

 何せ他校の出来事を教師伝いに聞いた情報なのだ。それが正確なものなのかどうかかばん自身にも判断がつかない。

 

「いま、ミライお姉ちゃ…。いえ。ミライ先生とドルカ先輩が一緒に色鳥東中学校に行って状況を確かめている最中です。」

 

 一体全体どうしてそんな事になったのか…。

 

「どどど、どうしましょう!?かばん先輩っ!?レンタルする予定のマイクロバスとかキャンセルした方がいいんでしょうか!?もう一回別な日に借りるとなると予算が!?」

 

 降って湧いたトラブルにアオイは大慌てだ。

 

「アオイちゃん、落ち着いて。まだそういうのを決めるのは早いと思うんだ。」

「ええ。そうですね。まずは先生方を通して業者さんに連絡してもらって、いつまでにキャンセルの連絡をすればいいかを確認しておきましょう。」

 

 対してともえもかばんも落ち着いたものだ。

 この程度のトラブルなど慣れっこだ、とでも言うようにあっさりと対策を出してくれる。

 

「(あぁ…。でもともえ先輩とかばん先輩の真剣な表情も超カッコいいんですけどぉー!)」

 

 で、こんな時だというのにアオイは真剣な顔で話し合う二人に見惚れてしまっていた。

 

「じゃあ、ボクは職員室に行ってミライ先生とドルカ先輩の連絡を待ちます。何かわかったらすぐに報せますね。」

「うん。じゃあ応援団の方はアタシに任せておいてよ。やれる事があったら言ってね。」

 

 そうして頷き合う二人は歴戦の戦友とでもいうかのような雰囲気でアオイはますます見惚れてしまった。

 そして、かばんは職員室へと駆けていく。

 残されたのはともえとアオイである。

 まだ呆けたままのアオイを、不安がっているのかと勘違いしたともえ。

 

「大丈夫だよ。ほら、アタシ達の学校にだってプールあるじゃない。だから最悪でもアタシ達の学校で大会する事だって出来るよ。」

 

 まさか、アオイを気遣ったこの当てずっぽうが現実となるとは、この時のともえとアオイには予想だに出来ないのであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 現地を確認したミライの手によって、色鳥東中学校のプールには底面に亀裂が見つかった事が報告された。

 生徒達の安全を鑑みて、色鳥東中学校でのプール競技は中止。

 代わりに男子部は色鳥市民プール、女子部はジャパリ女子中学校での開催が決定された。

 ちなみに、男子水泳部の面々は可愛い子が多いと噂のジャパリ女子中学校の面子と会えないとわかって多いに落胆したらしい。

 閑話休題。

 急遽会場設営を行わなくてはならなくなったジャパリ女子中学校の教師達は大変だった。

 水泳部の生徒達や生徒会の助けも借りて大慌てで会場設営を行っていく。

 生徒会メンバーのかばんもサーバルもアライさんもフェネックもヘビクイワシも応援団どころではなくなってしまった。

 さすがに応援団の放置はまずいと思ったかばんはアオイだけでも応援団の方に残してくれた。

 ただ一人で応援団のサポートを任される形となってしまったアオイは緊張しきりである。

 

「まあまあ、アオイちゃん。肩の力抜いてリラックスだよ、リラックス。」

「そうそう。今はみんな大忙しだろうけどアタシ達はアタシ達のやるべき事をやろうよ。」

 

 と、逆に応援団長のともえとその姉の萌絵に気遣われる始末だ。

 

「とはいえ、ともえ先輩、萌絵先輩。今、応援団に出来る事って一体何でしょう?」

 

 既に応援団の力自慢であるアムールトラとイエイヌが会場設営の手伝いに回っている。

 会場設営用の仮設テントの骨組み運びで大活躍中だ。

 応援団からも会場設営に人手を出している以上、練習もままならない。

 この状況で一体何が出来るのか、自分達も会場設営のお手伝いに回った方がいいだろうか、とアオイは思い悩む。

 しかし、ともえは別の答えを口にした。

 

「そりゃあ、アタシ達って応援団だからさ。応援するのが一番のお仕事じゃない?だから応援の内容確認しとこうよ。」

 

 確かに、当初の予定では水泳部部長のドルカと応援内容の打ち合わせの予定であった。

 けれど、ドルカは色鳥東中学校からまだ戻っていないし、戻ったら戻ったで大忙しのはずである。

 とても応援団との打ち合わせを捩じ込めるタイミングがあるとは思えなかった。

 けれど、萌絵はともえの話で何かを理解したらしい。

 

「あ。なるほど。先にこっちで水泳の応援に詳しい人に話しを聞いておいて内容を決められる部分を決めちゃうって事ね。」

 

 萌絵の言葉にアオイも納得だ。

 確かに大枠をこちらで決めて細かな修正を指示してもらった方が水泳部の手間と負担は減るはずだ。

 けれど、そんな水泳の応援に詳しい人なんていただろうか?とアオイは首を傾げる。

 水泳部のメンバーなら詳しいだろうが、今は会場設営で大忙しで、とてもじゃないけど時間を割いてもらう余裕はなさそうだ。

 けれど、ともえと萌絵は一度顔を見合わせてからニマリとする。二人には何か名案があるのだろうか。

 

「えっとね。去年の応援団長さんで…。」

「3年生演劇部のコイちゃん先輩のとこ行こう。」

 

 ともえと萌絵がかわるがわる言う。こういうところはさすが双子だなあ、とアオイは感心しきりだ。

 挙がった名前はアオイがよく知った人物だった。

 3年生で人面魚のフレンズである通称コイちゃんは青龍神社に仕える巫女の家系だ。

 アオイにとっては姉も同然に育ってきた人物でもある。

 ちなみに、ともえは去年も応援団に参加していた為、去年の応援団長とも顔見知りだ。きっとこのくらいの頼み事ならば快く聞いてくれるだろう。

 そして、去年の応援団長であるコイちゃんなら去年の水泳部の応援に関して一番詳しい。

 それを参考にするのは名案でもある。

 ただ問題が一つ。

 

「コイちゃん姉さんですか…。」

 

 アオイの表情が暗く曇る。

 アオイはコイちゃんが苦手であった。

 明るくて誰とでも仲良くなれてしかも大体の事は何でも器用にこなしてしまう。

 そんな自慢の姉なのであるけれど、自由奔放過ぎるのだ。

 生真面目な性格のアオイとはそこでどうしてもソリが合わない。

 そんな事を考えていたら、アオイは背後から誰かに抱き締められた。

 それをした人物こそまさに話題の人の…。

 

「「コイちゃん先輩っ!」」

「はーい、コイちゃんだよぉ。」

 

 コイちゃんであった。

 

「いやあ。聞いたよー。なんか水泳の地区大会会場がウチになったんでしょ?コイちゃん達演劇部も何かお手伝いできるかなーってコッチに来てみたんだ。」

 

 アオイを後ろから抱きしめたまま続けるコイちゃん。 

 

「ちょ、コイちゃん姉さん!?ともえ先輩も萌絵先輩も見てるからっ!?離してくださいー!」

「えぇー。どうしよっかなー。」

「「続けてどうぞ。」」

 

 ともえと萌絵はそうやってじゃれている姉妹をほっこりと見守っていた。何なら二人してスケッチブックを取り出して物凄い勢いでスケッチまで始める始末だ。

 で、コイちゃんはと言うと「いえーい♪」と二人にピースサインでポーズまで取ってあげるサービスぶりである。

 

「で、アオイちゃんはこれはツンデレってヤツかなあ?」

「なんだかんだコイちゃんにギューされるのがイヤじゃないあたりにデレが出てるでいいんじゃないかなあ?」

 

 言いつつあっという間にスケッチを完成させた遠坂姉妹。二人してスケッチブックを一度交換。お互いに食い入るように眺めて二人してその出来栄えに満足。

 パチン、と手を鳴らしてハイタッチし合う。

 

「もう!ともえ先輩も萌絵先輩も!コイちゃん姉さんもですっ!」

 

 真っ赤になったアオイが暴発する前にコイちゃんは彼女を放した。

 三人してごめんごめん、とアオイに謝る。

 コイちゃんは黒髪なのに、ほんのわずかな毛並みの違いで綺麗な模様を見せる不思議なフレンズであった。

 頭には水棲動物のフレンズの特徴でもある、エラやヒレらしきものが生えていた。

 そして、自慢の髪を留めている髪留めは何故かホラー調の人の顔のように見える模様になっている。

 ともかく、わざわざコイちゃんがこちらに来てくれたのは助かった。

 

「コイちゃん先輩。実はアタシ達、水泳の応援の事について聞きたくてコイちゃん先輩を探してたんですよ。」

 

 ともえの言葉にコイちゃんも頷いてみせてから…。

 

「コイちゃんもね。アオイちゃんが困ってる気配がしたからこっち来ちゃったんだぁ。」

 

 と、これまた本当なのか冗談なのかよくわからない事を言い始めた。

 

「確かにこの状況だと水泳部の子と打ち合わせしてる時間なさそうだもんね。いいよ。去年の事でいいならコイちゃんがバッチリ教えてあげるから。」

 

 それでもコイちゃんはしっかりと状況を理解しているらしかった。

 去年の応援団長はやはり頼りになるなあ、と感心しきりだ。

 

「そうだねえ。基本は去年のと同じ感じのコールがいいと思うなあ。飛び込む時に揃えて『セーイ!』っていうやつとか。」

「そこはタイミング合わせでともえちゃんが指揮とればいいよね。」

「うわわ。責任重大だっ。」

 

 うんうん、と顔を突き合わせて話し合うコイちゃんとともえ達。

 アオイはクリップボードに留めたメモ用紙に内容を書き記していく。

 

「あとは、去年やったのはアレかな。『いっけーいけいけ、いけいけドルカ!』みたいなヤツ。」

「ああ、あれはテンションあがるって水泳部の子達にも評判いいんだぁ。」

「でもアレ、泳いでるみんなにちゃんと聞こえてるか不安になるよね。特に最初の音頭をとる人の声。今回はアタシになるわけだけど…。」

「あーそれは確かに…。泳いでる時って結構声援が届きづらいかもだねえ。」

「ならいっその事……。」

 

 ワイワイとともえと萌絵とコイちゃんがメインで話が進んで行く。

 アオイもその内容を書き記すので手一杯だ。だが、そのおかげでどんどん応援内容の大枠は決まっていく。

 あとは選手それぞれに合わせたコールに変えていくだけだ。

 

「あと、少しだけ難しいのはタイミングかなぁ。ターンの時とか。あ。あと残り25mのところでコールを変えるのも割と重要かも。」

「そうだった!去年は残り25m地点でコイちゃん先輩が合図してくれてた!」

 

 まだまだ詰めるべき内容はあるようだけれど、それでもやはりアオイは感心していた。

 なんだかんだでコイちゃんはこうやって何でも器用にこなしてしまうのだ。

 その事にアオイの胸には小さくチクリとした痛みが走る。

 コイちゃんは青龍神社に仕える巫女の家系で彼女もまた将来はお役目を継ぐ。

 そうなればアオイはコイちゃんの主となる。

 そんな家柄だけでこんな事を決めてもいいんだろうか。

 コイちゃんは巫女にならなくても何だって出来る無限の可能性があるのに。

 それこそ彼女が普段振舞っているようにアイドルにだってなれるとアオイは本気で思っている。

 だからこそ、自分になんか縛り付けていいんだろうか、とも考えてしまう。

 

「どうしたの?アオイちゃん。」

「いえ、何でもないです。」

 

 考えが顔にでも出てしまっていたか。コイちゃんが心配そうにアオイを覗き込む。

 アオイは被りを振ると、自分の仕事に集中する。

 幸か不幸か余計な事を考えている余裕は今のアオイにはなさそうだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 時は少しだけ遡る。

 ここは色鳥東中学校。

 そこにはこの時期に珍しい転校生がやって来ていた。

 

「マセルカだよ。よろしくね!」

 

 しかもフレンズの。

 イルカ系のフレンズの特徴を持つ美少女転校生の登場に男子生徒はもちろん、女子生徒も色めきだった。

 当然、各部活ともこぞってマセルカを勧誘するのだったが、結局彼女が入ったのは水泳部だった。

 やはり水の中に少しでも長くいられるというのが決め手になったらしい。

 

「(オオセルザンコウもなんで“アクセプター”を最低出力にしておけなんて言うかなぁ。おかげで身体が重たくて仕方ないよ。)」

 

 転校初日からみんなにあれやこれやと世話を焼かれたマセルカは気疲れしてしまっていた。

 さらに“アクセプター”の出力を最低限に落としている事も気疲れの原因になっている。

 “アクセプター”は彼女達セルリアンフレンズだけが持つ特徴だ。

 この“アクセプター”にセルメダルをセットする事によって他のセルリアンの能力を使えるようになる。

 それだけではなく、出力を絞る事によって身体能力を意図的に抑える事も出来るのだ。

 今のマセルカはちょっとだけ運動が得意なヒトと同程度の能力しかない。

 うっかりマセルカが騒ぎを起こさないように、とオオセルザンコウが一計を案じた結果であった。

 それでもマセルカの泳ぎはやはり水棲動物のフレンズだけの事はあって、群を抜いていた。

 結果、転校してきたばかりの1年生だというのにあっさりとレギュラーの座を勝ち取ってしまったのだった。

 

「わっふい!なんかよくわかんないけど、オオセルザンコウとセルシコウにも自慢できちゃうかな?あ、あとハクトウワシとヤマさんにも褒めてもらおーっと。」

 

 こうして電撃誕生した色鳥東中学校の水泳部エース、マセルカであったが一つ気が付いた事がある。

 それは、このプールがキラキラと“輝き”を放っている事だった。

 それは水面に夏の日差しが反射しているだけではなかった。

 マセルカは考える。

 ここにはどういうわけか“輝き”が存在している。だったらそれは保全しなくてはならない。

 クロスシンフォニーの妨害を呼び込んでしまう可能性を考えると身震いする思いだったがチャンスがある以上それをフイにする事は出来なかった。

 そして幸か不幸か、何かがあった時の為にオオセルザンコウからセルリアンを生み出す“シード”を一つ預かっている。

 これはこういう時の為に使うべきものなのではないか。

 

「そうだよ。ハクトウワシもヤマさんもいい人達だもん。この世界の“輝き”だって永遠のものにしてあげなきゃ…。」

 

 あの圧倒的なパワーを持つクロスシンフォニーは正直怖い。

 けれど、マセルカにだって使命はある。

 だから彼女はその恐怖を振り払うかのように一度被りを振ると真っ黒なビー玉のように見えるそれを…。

 

―パキン。

 

 と音を立てて砕いた。

 すると、中から黒い水のような“セルリウム”がモコモコと溢れて来る。

 しかし、それはすぐにプールのどこかに消えていってしまった。

 

「よ、よぉし…!来るならこい!クロスシンフォニー!」

 

 人気のなくなったプールで一人吠えるマセルカであった。

 結局、危惧していたクロスシンフォニーが現れる事もなく、翌日プールに亀裂が入っているのが確認される事となった。

 きっと、かばん達がこの情報を聞いていたならセルリアンの関与を疑っていただろう。

 備品のコースロープやビート版などが一部なくなっていた、と。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 天気は快晴。

 夏の暑さは本格的となり、まさに絶好のプール日和だ。

 急ピッチで進められた会場設営も間に合ったし、大会運営プログラムもどうにか形になった。

 続々とこの地区の中学校から選手達も集まって来ていた。

 

「じゃあ、まずハ、アップを開始するヨ。各校ごとにコース分けしているカラそれに従ってネ。」

 

 急遽の開催という事でプログラム進行は水色のラッキービーストまで駆り出されていた。

 早速他校の女子生徒達から「何これ可愛いー!」と引っ張りだこになっていた。

 で、一方で同じく進行の手伝いにやって来たラモリさんは残念ながら女子生徒にあまり人気はなかった。

 

「イインダ…。別に気にしてナイ…。」

「ラモリさん!ラモリさんはダンディだからっ!」

「そうですよっ!ラモリさんの目のところの黒いヤツ、クロスナイトとお揃いで嬉しいですっ!」

 

 と、ラモリさんはともえとイエイヌに慰められたりしていた。

 それはさておき、各校の選手が集まってきたという事は当然彼女もこの場にいた。

 

「ぅ……ぅうぅ…。」

 

 キョロキョロと周りを見ながら所在なさ気にしているのはマセルカだった。

 両手でしっかりと水筒を握ってしきりに辺りを気にしている。

 もう準備運動とアップの練習水泳だって始まっているのに、マセルカはまだ制服姿だった。

 おっかなびっくり、という様子でそろそろと一歩一歩進んでいる。

 彼女がそんな調子なのには理由があった。

 マセルカは人気のない物陰に隠れるようにして水筒を開けると中身を確認する。

 そこには…。

 

―ブシュッ

 

 と水を吹き出す小さなセルリアンが入っていた。

 見た目はイカのように見える。

 今吹き出した水が高々と水柱をあげてマセルカは非常に焦った。

 

「こ、こらぁ!そんな事したらクロスシンフォニーに見つかっちゃうでしょっ!」

 

 コショコショと水筒の中の小さなセルリアンを叱るマセルカだったが、言葉が通じている様子はない。

 色鳥東中学校のプールの“輝き”からセルリアンを生み出したまではよかった。

 けれども、その“輝き”だけではとても足りずにこんな小さなセルリアンになってしまったのだ。

 もっともパワーはそれなりにあるのか、こうして高圧の水を吹き出す事が出来る。

 これでプールの底面に亀裂を入れたのだ。

 とはいえ、現状小さすぎて、“輝き”の保全に使えそうもないし、かと言って貴重な“シード”を使って生み出したセルリアンを無駄にも出来ない。

 それなのにこの小さなセルリアンは知性もなく、マセルカの言う事に全く耳を貸そうとはしなかった。

 八方塞がりで思わず溜め息をつくマセルカ。

 と、そこに…。

 

「あの。何かお困りですか?」

「ひゃい!?」

 

 唐突に背後から声を掛けられた。

 しかも凄く聞き覚えのある声で。

 マセルカにはその声がクロスシンフォニーとそっくりだと感じられた。

 だから、マセルカは大慌てで後ろ手に水筒を隠して振り返った。

 そこにいたのは丈の短い毛皮を着たヒトの女の子だった。

 黒髪で優し気な眼差しはクロスシンフォニーとは似ても似つかない。だいたい耳も尻尾も羽根もないし。

 

「ボクはジャパリ女子中学校の2年生でかばんと言います。」

 

 チアガール衣装のかばんはマセルカにそう挨拶した。

 かばんはマセルカが変身した際の姿は見ていたが、こうして変身前の姿を見るのは初めてだった。

 それはマセルカも同様である。

 二人してお互いがこの前戦った敵同士である事に全く気が付いていないのだった。

 

「ええと、他校の方ですよね。もう各校アップも開始してますよ。もしかして更衣室の場所が分からなかったですか?」

 

 まだ着替えも済んでいない様子のマセルカを見てかばんはそう判断した。

 勝手の違う他校で迷ってしまったのかもしれない。

 その勘違いにマセルカは全力で乗っかる事にした。

 

「そう!そうなの!うっかり皆とはぐれちゃって!」

「なら案内しますよ。こっちです。」

 

 かばんは迷っていた少女を安心させるべく笑いかけてから、彼女を案内するべく先導して歩きはじめた。

 その背を見つつマセルカは思う。

 

「(この子もいい子だなぁ。なんでクロスシンフォニーだって思っちゃったんだろう?声が似てたからかなあ?あんなおっかないのと一緒にしてごめんなさい。)」

 

 と、胸中で謝りつつかばんに付いて行く。

 マセルカは気づいていなかった。

 かばんの正体ももちろんそうだが…、さっき後ろ手に隠した蓋の開いたままの水筒をうっかり逆さまにしてしまっていた事に。

 そして、もう一つ。

 相変わらず後ろ手に隠したままの水筒がやけに軽くなってしまっていた事にも…。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 水泳大会はジャパリ女子中学校、水泳部キャプテンのドルカが選手宣誓を行い、順調に開幕した。

 ついでに各校の健闘を祈って、という名目で披露されたジャパリ女子中学校応援団のチアリーディングも好評だった。

 なんせ、ベースに力自慢のアムールトラとイエイヌがいて、トップには運動神経抜群のともえまでいる。

 さらに、スポッターは気配り上手のユキヒョウもいるとくれば、そこから繰り出されるスタンツは中々に本格的だった。

 しかも踊るのがいずれも美少女揃いのフレンズ達となのだから盛り上がらないはずがない。

 一曲踊り切ったところで、すっかり会場は熱気に包まれてしまったのだった。

 

「ふわぁ。今年の応援団凄いねえ。去年はあそこまではやらなかったのに。」

 

 様子見がてら観戦に来ていた去年の応援団長、コイちゃんも思わぬパフォーマンスに大喜びだ。

 

「うんうん。こりゃあいい記事が書けそうだよ。」

 

 で、『取材』の腕章をつけてカメラのシャッターを切るのは高等部1年生の奈々である。

 彼女は高校で新聞部に在籍しており中等部の大会も新聞に載せようとやって来ていた。

 で、その隣では望遠レンズまで装着したデジタルカメラで連続で写真を撮っている星森ミライもいる。

 

「まさかこんな本格的なチアリーディングを完成させてくるとは…。さすがかばんちゃんです。皆さんの揺れる尻尾もピョコピョコ動くお耳も存分に堪能させていただきました。」

 

 そんな不審者ギリギリの線を行くミライであったが、これも卒業アルバム制作委員会顧問の仕事なのだ。

 とはいえ、今年の応援団には3年生はいないから、このデータは来年以降に持ち越しだろう。

 

「いやいやミライ先生。ウチのともえちゃんも中々のものでしょ。ふふ。ファンクラブの皆にいいお土産が出来たよ…。」

 

 とほくそ笑むのは応援団サポートの萌絵である。

 こちらは動画撮影モードにした携帯でバッチリ撮影していた。

 既にデータ交換の約束をしている奈々にミライに萌絵の三人。そこら辺はちゃっかりしたものである。

 

「じゃあ、皆にドリンク持っていくんでアタシはこれで。」

 

 激しい運動は苦手の萌絵はこうしてサポートに回っていた。

 パフォーマンスを終えたみんなに水分補給用のドリンクやタオルを渡したりして甲斐甲斐しく世話を焼く。

 

「次は女子50m自由形のドルカ先輩の出番で水泳部の皆と応援だからね。」

 

 と次の予定を皆に教えてスケジュール管理をするのも萌絵の重要な仕事の一つだ。

 

「で、よかったよね。アオイちゃん。」

「はい、萌絵先輩。」

 

 スケジュール管理はアオイもサポートしてくれるので萌絵としても心強い。

 そんなアオイもさっきまで同じく1年生で応援団に参加しているルリやギンギツネやキタキツネ達とパフォーマンス成功を喜びあっていた。

 そんなアオイを微笑ましく見守るコイちゃん。

 

「やっぱり見に来て正解だったよぉ。」

 

 文化部であるコイちゃんは大会期間中は自習という扱いである。

 だが、せっかく開催場所が自校になったのだ。妹も同然で育ってきたアオイの頑張っている姿だって見ておきたかった。

 そして、それは期待以上だった。

 ワイワイとみんなに囲まれるアオイを見ながらコイちゃんは満足して微笑む。

 

「あ。でも今日の分の課題は後でアオイちゃんに教えて貰わないとだぁ。」

 

 自習中の課題も用意されていたが、それをぶっちぎって観戦しにきたコイちゃんである。

 今日の夜は課題提出に向けて忙しくなりそうだ。

 アオイは真面目だから例え3年生の課題でも一緒に勉強するくらいはしてくれそうだ。

 今からアオイと一緒の時間が楽しみなコイちゃんであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

―ズルリ。

 

 何かが這うような音がする。

 それは昆虫が明かりに惹きつけられるかのように、今まさに生まれた眩しい程の“輝き”に向かう。

 

―ズルリ。ズルリ。

 

 “輝き”に近づくたび、その欠片を取り込んでいく。

 最初は手のひら程度の大きさしか持たなかったそれは今や人の背丈ほどにまで大きくなっていた。

 

―ズルリ。ズルリ。ズルリ。

 

 その何かはとうとう“輝き”の生まれている場所へと辿り着いた。

 そう。

 ジャパリ女子中学校のプールへと。

 

―わぁぁああああっ!

 

 プールから歓声が聞こえて、より一層“輝き”が強くなった。

 それは喜びと共に増えた餌へ向けてその手を伸ばしていくのだった。

 

 

――中編へ続く。




【用語解説:アクセプター】

 アクセプターとはセルリアンフレンズが持つ特徴である。
 セルリアンフレンズは身体のどこかに『石』を持つが、その『石』にアクセプターが備えられている。
 アクセプターを起動させると『石』にセルメダルを入れる為のスリットが現れて、そこからセルメダルを投入できる。
 そうする事でセルメダルの元となったセルリアンの能力を再現できるようになる。
 ただし、能力にも相性があり、どの程度までその能力を再現できるかはセルリアンフレンズそれぞれの相性にもよる。
 また、アクセプターの出力を敢えて抑える事で、身体能力を低くする事も出来る。
 名前の由来はaccept(受け入れる)という英単語と受容体を示すレセプターを掛け合わせた造語。
 承認者という意味の英単語accepterとも掛かっている。
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