けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

46 / 107
これまでのけものフレンズRクロスハートは!

 いよいよ運動部の地区大会が始まった。
 ともえ達応援団も水泳大会で大活躍。
 応援団の大声援を背にした水泳部も絶好調だったが、そこにセルリアンが現れる。
 プールに陣取った巨大イカのセルリアン。
 水中の敵にクロスハートは新フォーム、人面魚フォームで戦いを挑む。
 人面魚フォームからのエクストラフォーム、セイリュウフォームにチェンジしてセルリアンを撃破するクロスハート。
 プールの平和を守るのだった。


第17話『拳に賭ける夢』(前編)

 

 ジャパリ女子中学空手部は弱小だった。

 空手部は女子生徒にあまり人気もなく、部員も辛うじてギリギリ大会に出られる程度で地区大会で勝利を納めた事などなかった。

 3年前までは。

 その状況はとある一人のフレンズによって随分と様変わりしていた。

 それは現3年生、空手部主将、キンシコウの手によってである。

 部員がギリギリなのは相変わらずだが、それでもキンシコウは持ち前の物腰の柔らかさで空手部の皆を引っ張って、空手部に実力をつけてきた。

 今年はいよいよキンシコウにとって中学最後の大会となる。

 

「だから…。だから俺はキンシコウ先輩を絶対に全国に連れてってやりたいんだ。」

 

 空手部2年生のオウギワシは帰り道の生徒会メンバー、かばん、サーバル、アライさん、フェネック、そしてヘビクイワシに自分の想いを口にした。

 彼女は純白の髪と黒の混じった髪色をしている。さらに前髪の一部がまるでクチバシのように黄色い。短く立った髪がボーイッシュな雰囲気を醸し出しているフレンズだ。

 オウギワシは空手部でキンシコウの指導を受け続けた。

 丁寧な指導によって彼女は実力を伸ばした自覚がある。

 だから、その実力でもってオウギワシはキンシコウを県大会を越えて全国大会にまで連れて行きたいと本気で思っていた。

 今年はそれが夢じゃない。

 現実に手が届くところまで来ていたはずだった。

 なのに…。

 

「3年の先輩達が急に体調を崩したんだ。それも3人も。」

 

 空手部の大会は明日だ。

 3人もの部員が体調を崩したら団体戦出場は絶望的だろう。

 それでオウギワシが助けを求めたのはヘビクイワシだった。

 ヘビクイワシとオウギワシは幼馴染同士だ。二人とも空手を習っておりライバル同士でもある。

 だが、中学生になったとき、ヘビクイワシは空手部ではなく生徒会に入ったのだ。

 オウギワシは空手部以外でこんな場面に助けを求められる人物は二人しか心当たりがなかった。

 一人はヘビクイワシ。もう一人は空手部にもよく練習の手伝いに来てくれていた遠坂ともえだった。

 ともえは応援団長だ。空手部の助っ人は頼めない。

 となれば、こうして生徒会メンバーの帰り道に訪ねるしかなかった。

 残る生徒会のメンバー、かばん、サーバル、アライさん、フェネックは成り行きを見守る。

 

「しかし、オウギワシ君。私は空手部ではないのであります。空手部の大会に出るわけには…。」

 

 ヘビクイワシの言うように今回の大会は空手部の公式試合だ。練習試合ならともかく公式試合に部外の者が出場するのは問題だ。

 

「生徒会は部活じゃない。委員会だ。だからヘビクイワシ。お前は部活に無所属なんだよ。」

 

 しばらく考え込む様子を見せたオウギワシ。できればこの手を使いたくはなかった、とでも言いたげに苦しそうに吐き出す。

 実際、生徒会は部活ではない。けれど、仕事が色々と忙しくなるので部活の単位として認められている。

 過去には部活と生徒会両方に所属していた生徒もいないではなかったけれど、それはやはり忙しかったらしい。

 ヘビクイワシも、それに他のメンバーも生徒会活動一本で他の部活への所属はしていなかった。

 

「だから、お前が首を縦に振ってくれるなら今からだって空手部に入部は出来る。」

 

 だが、オウギワシも苦い顔をしているようにヘビクイワシにだって事情があるのは分かっていた。

 どんな気持ちがあって生徒会入部を選んだのか。それはオウギワシにはわからない。それでもそれを選んだのにはきっと大切な理由があるはずだ。

 だからヘビクイワシが生徒会に入った気持ちを無視しているようでいたたまれなかったのだ。

 そんなオウギワシだからこそ、ヘビクイワシの答えは決まっていた。

 

「かばん君。すまないのでありますが、明日の陸上部の応援には私は参加できそうにないのであります。」

「じゃあ…!」

 

 オウギワシは顔を輝かせる。

 ヘビクイワシは空手部の助っ人になってくれるらしい。

 

「けれどもオウギワシ君。確か空手部は人数ほぼギリギリでありましたか。」

 

 ヘビクイワシは疑問を口にした。

 確かオウギワシは体調を崩した空手部部員が3人だと言った。

 だとしたらヘビクイワシ一人が助っ人に入ったところで団体戦出場は出来ないのではないか。

 

「ああ。家の手伝いで忙しくて殆ど練習には参加していないけど1年生が一人いるぞ。これで団体戦は四人…。あと一人必要だな。」

 

 今のジャパリ女子中学空手部団体戦メンバーは主将キンシコウ、オウギワシ、ヘビクイワシ、空手部1年生の四人だ。団体戦は5人で1チームだから確かにあと一人足りない。

 それに「はいはーい!」とサーバルが挙手した。

 もしや、サーバルが出場する気なのだろうか?

 彼女も運動神経はいいし、体力だってある。サーバルもともえと同様に体育だけは5確定系女子だった。

 けれど空手は素人だったはずだ。

 

「ううん。私じゃなくて、かばんちゃんならどうかな?」

「ええ!?ぼ、ボクぅ!?」

 

 以前、イエイヌが編入してきたとき、その所属部活を巡って校内で大騒動が起こった事がある。

 それを鎮めたのが生徒会長のかばんだった。

 その方法は、単に騒ぎを起こしていた人たちを一人一人丁寧に説得していっただけだ。物理的に。

 なので、騒動に加わっていたオウギワシとヘビクイワシもあの時の事は軽くトラウマだ。

 

「ああ…。まあ、生徒会長なら問題はないぞ。うん。」

 

 オウギワシも、あの時の事を思い出したのか若干引きつった笑みを浮かべた。

 

「で、でもボクだって空手とかやった事ないですし…。」

「えぇー。かばんちゃんなら絶対出来るよ!私!カッコイイかばんちゃんが見たい!」

 

 やたらキラキラした目でかばんに迫るサーバル。

 そんな目で見られるとイヤとは言えないかばんである。

 むしろ、サーバルの為ならと張り切る気持ちまで生まれてきた。

 

「じゃ…じゃあ…。よろしくお願いします。」

 

 すっかりサーバルに乗せられた格好のかばんであった。

 それを見てしばらく考え込むヘビクイワシ。携帯電話を取り出すと皆に言う。

 

「ならば明日は私とかばん君とサーバル君が空手部の助っ人に、という事でともえ君にも話してみるのでありますよ。」

 

 サーバルまで応援団から抜けて大丈夫だろうか、と一瞬不安になる他生徒会メンバー達。

 

「いや、サーバル君が一緒の方がかばん君も頑張り甲斐があるというものでありましょう?」

 

 なので存分にイチャつけ…じゃなかった。存分に張り切れと思うヘビクイワシであった。

 

「確かになのだ!ならばアライさんの分もサーバルにかばんさんの応援をお願いするのだ!頑張るのだサーバル!」

「今回はサーバルが空手部チームの応援団代表だねえ。」

「うん!私頑張って応援するよ!」

 

 アライさんとフェネックとワイワイ言い合っているサーバル。

 そうこうしているうちにヘビクイワシは事の成り行きを応援団長のともえに電話で伝え終わったようだ。

 

「あの。ともえさんはなんて?」

「そのままともえ君の言葉を伝えると…。『かばんちゃん絶対カッコイイだろうから記録よろしく。』だそうでありますよ。」

 

 訊ねたかばんは、そうじゃなくて、と思わずにはいられなかった。

 問題は陸上部の応援の方である。かばんとサーバルとヘビクイワシの三人も抜けて大丈夫だろうか。

 

「陸上部の応援の方は任せて、とも言っていたでありますよ。」 

 

 そっちがついでなのか。まったくともえらしい。

 けれど、ともえならば確かに何とかしてくれそうな気がする。それに…。

 

「かばんさんとサーバルの分もアライさんが陸上部をしっかり応援してやるのだ!任せるのだっ!」

「うんうん、こっちにはアオイちゃん達もいるからね。心配しないでよ。」

 

 アライさんとフェネックだっているから応援団の方は大丈夫だ。

 そんな生徒会メンバー達にもう一度オウギワシは深々と頭を下げる。

 

「すまない。それにありがとう。」

 

 こうして、空手部は臨時メンバーでの大会参加となるのであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 

「「「「ご馳走様でした。」」」」

 

 ハクトウワシのアパートでは、その部屋の主とオオセルザンコウ、マセルカ、セルシコウの4人が空の食器を前に手を合わせる。

 

「今日も美味しかったわ。セルシコウ。」

「そうですか。それならよかったです。」

 

 一人暮らしのアパートに4人の生活は最初は手狭に感じられたが、慣れてしまえばそれでもどうにかなるものだ。

 それに毎日の食事が楽しくて仕方ない。

 ハクトウワシは今日も満足と共にセルシコウに礼を言うのだが、ふと気が付いた。

 

「ねえ、セルシコウ。何かいい事でもあった?顔がニヤけてるわよ。」

「え?あー…。わかります?」

 

 両手をほっぺにあてて、恥ずかしがるセルシコウ。

 明日の大会が楽しみ過ぎてどうやら顔が緩んでしまっていたらしい。

 ハクトウワシとしては、セルシコウが中学生としての生活を楽しんでくれているらしいと分かって嬉しく思う。

 それだけに、今、洗い物をしてくれているオオセルザンコウも学生生活をして欲しいとは思うが、彼女は明日はヤマさんが紹介してくれたバイトがあるみたいだ。

 やはり、この3人を自分が引き取るべきなのだろうか、と思い悩むハクトウワシ。

 そうすれば、オオセルザンコウだってどこか学校に通う事が出来るだろう。ただ、3人分の生活費や学費全てを賄える程、ハクトウワシだって給料がいいわけじゃない。

 しかし、暗い事ばかり考えていても仕方がない。

 ハクトウワシはマセルカに後ろから抱き着く。

 

「そういえばマセルカ、今日は水泳部の大会だったんでしょう?どうだったの?」

「ぅ……。リレーも自由形も2位だった…。」

「あら、凄いじゃない!いきなり2位だったら来年はきっと優勝よ!」

 

 マセルカは未だ敗戦は引きずっていたものの、ハクトウワシに褒められると少しは気が軽くなった。

 ちなみに、プールで起こった事件についてはあまり広まっていないのでハクトウワシがそれを知らなかったのも無理はない。

 

「で、明日はセルシコウが空手の大会なのね。」

「ええ。多少は猛者と呼べる者もいるでしょうから楽しみで仕方ありません。」

 

 オオセルザンコウの洗い物を手伝い終わったセルシコウはキッチンの電灯の紐をペシペシと叩いていた。

 どうやら本当に楽しみなようで今すぐにでも身体を動かしたくてうずうずしているのだろう。

 電灯の紐でシャドーボクシングごっこだなんて普段のセルシコウならむしろ窘めそうなものなのに、そんな事をしているのがハクトウワシは可笑しくてしかたなかった。

 

「私は明日もお仕事だから応援にはいけないけども頑張ってね、セルシコウ。」

「はい!きっと勝ってきますからねっ!」

 

 そんな様子のセルシコウにオオセルザンコウは苦笑しか出ない。

 こうなってしまった彼女を止める事は誰にも出来ない。願わくばやり過ぎてあまり目立つ事は避けて欲しい。

 

「セルシコウもハクトウワシも明日は早いんだろう?二人とも先にお風呂と歯磨きをすませてくるといい。私とマセルカで布団をしいておくから。」

 

 それでもオオセルザンコウだって、セルシコウの楽しみを邪魔するつもりはなかった。

 

「そうね。じゃあセルシコウ。明日応援に行けない分、背中流してあげるわ。Let's go!」

「じゃあじゃあマセルカもー!」

「こら。マセルカはこっち。一緒に布団の用意だ。」

「ええー!?」

 

 せまくとも賑やかなハクトウワシの部屋であった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 ジャパリ女子中学3年生、空手部主将キンシコウ。

 彼女を知る者にその人となりを訊ねれば必ず優しい人だと答えるだろう。

 物腰は柔らかく、性格は穏やか。それでいて争い事も嫌いで誰かと諍いを起こす事はまず有り得ない。

 そんな彼女の家はスポーツジムを経営している。

 既に中学生にしてトレーナーとして手伝いをしているキンシコウは利用者からの評判もいい。

 

「(将来はウチでトレーナーになるのもいいですし、体育教師とかも憧れますね。もう少し勉強を頑張ってスポーツドクター…はさすがに無理でしょうか。)」

 

 そんな取り止めのない思考をしていても、キンシコウの身体は自然と動く。

 閉店した後、少しだけ時間をもらって空手の形を練習だ。

 普段はエアロビクス運動やヨガや様々な運動に使う広いフロアが今は貸し切り状態だ。

 頭に水の入ったコップを乗せた状態で形をこなしくていくキンシコウ。

 水はこぼれる事なくピタリと頭の上で止まっている。

 こんな芸当が出来る彼女は達人と言っていい腕前だった。

 

「まあ…。私としては太極拳とかそういうのの方が好きなんですが…。」

 

 ふぅ、と形を終えて一息つきながら誰にともなく言うキンシコウ。

 力強さやキレのある動きが特徴の空手もいいが、元々彼女が好きなのは流麗な動きを特徴とする太極拳の方だった。

 中学の部活に空手部しかなかったので、否応なしに練習してきた。

 最初こそ勝手の違いでよい成績は残せなかったが、今年はよい結果を残せるかもしれない。

 キンシコウはそう期待していた。

 今ではこの経験も悪くない。そう思える。

 この大会が終わったら部活は引退。悔いの残らないよう全力を尽くさねば。

 そして大会が終われば高校進学。その先は将来に向けて努力の日々だ。

 家で本格的にトレーナーになるのも、もしくは体育教師になってたくさんの子供達を指導するのもどちらもステキな事だ。

 けれど、キンシコウは心のどこかで

 

「本当に?」

 

 と思わずにはいられなかった。

 キンシコウの頭の中には、いつかオウギワシと一緒に期待の新人を勧誘に行った時の事が思い起こされた。

 結局その勧誘自体は失敗に終わったのだが、その際に起こった校内の大騒動…。あれは…。

 

「楽しかったなあ…。」

 

 剣道部副主将、3年ヘラジカとの異種格闘技戦。

 あれは今までにないくらい心が昂った。

 自分の嫌いな争い事だったというのに。なのになんであんなに楽しかったんだろう。

 キンシコウは知らず、ヘラジカとの一戦を思い出してその時の動きをなぞっていた。

 

「(あの時はヘラジカさんがこう来てたから、こう。そして返しはこう。相手は新聞紙を丸めた模擬刀をもっているわけですから、次は…)」

 

 想像の中でのヘラジカとの再現の一戦は唐突に終わりを迎える。

 そう。

 その騒動を鎮めた生徒会長が現れたのだ。

 あの時は校内で大騒ぎをしてしまった自分に非がある事を認めて、キンシコウはすぐに降参したのだ。

 けれども、もしも降参していなかったら?

 あの生徒会長がにこやかな笑顔と共に放っていた圧ともいうべきものの前に自分は一体どうなってしまっていたのだろう。

 そんな事は許されないのは分かっているが、自分の持つ技をぶつけてみたかった。

 そうしたら彼女はどう動いたのだろう。

 想像の中での生徒会長はどう動くのかやはりわからない。

 何せ拳を交える事をしなかったのだから。

 それでもキンシコウは想像の中の生徒会長に向けて、自身の持てる技を放とうと震脚を踏んだところで…。

 

―パシャン。

 

 頭の上に乗せたままのコップがとうとう倒れた。

 

「私は一体何を…。」

 

 水の冷たさに想像から現実へ引き戻されたキンシコウ。

 

「あ、ああー!?いけません!?早く雑巾をもってこないと!?」

 

 せっかく貸してくれたフロアに水をこぼしてしまった。このままにしてはおけない。急いで掃除しなくては。

 キンシコウは自身の中に生まれて育っている感情からまたも目を逸らしたのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 明くる朝。

 今日は地区大会も二日目。今日はともえ達応援団は陸上部の応援の予定だ。

 そして、空手部も今日が大会となる。

 かばんも昨日、空手部から借りた道着を持って待機中だ。

 

「かばん先輩。空手部なんですが、先生方が運転する車で色鳥武道館へ移動。そこで大会の予定です。」

 

 今朝もやはり敏腕秘書のようにファイルに目を落として言うアオイ。

 しかし、その胸中は穏やかでなかった。

 

「(ず、ずるい!かばん先輩とヘビクイワシ先輩が空手の大会!?そんなの絶対カッコいいに決まってる!見に行きたい!せめてビデオか何か…!)」

 

 そんな事を考えていると…。

 

「うみゃあ?このビデオカメラっていうのどうやって使うの?ボタンがいっぱいでよくわかんないね。」

 

 サーバルが学校備品のビデオカメラを弄っていた。

 せっかくの大会だ。試合の記録を残す事も学校の大事な仕事の一つである。

 一人、空手部のマネージャー的立場になったサーバルが記録係を担う事になったのだが何とも頼りない。

 アオイは素早くサーバルに近づくと…。

 

「サーバル先輩!ここ!このボタンで録画開始です。でもって録画ストップはこのボタン!わかりやすいようにメモを書きますから!」

「わぁー!ありがとう、アオイちゃんっ!」

 

 怒涛の勢いでメモ用紙にビデオカメラの使い方を記していった。

 ついでに、サーバルに予備バッテリーと予備のメモリーカードを渡すのも忘れない。

 甲斐甲斐しく世話を焼かれて礼を言うサーバルに、「(いやいや、礼を言うのはこっちの方ですよ。サーバル先輩)」と胸中で思うアオイ。

 後でデータをコピーする算段をつけなくては。

 そんな事を考えていたら、アオイの後ろからヒョイっとともえが顔を出した。

 

「あ。いいなー。後で見たい!でもってみんなスケッチしたいな!絶対絵になるよっ!」

 

 そして逆側からは萌絵がヒョイっと顔を出す。

 

「そうだねえ。データ後でバックアップとってあげるからビデオカメラ貸してね。」

 

 二人の顔が両肩くらいに来てて真っ赤になるアオイ。

 けどずるい!私も!と思うアオイだったが続く一言で…。

 

「きっと、アライさんやフェネックちゃんも見たがると思うから生徒会室で上映会とかしよ。」

「さすがです萌絵先輩。」

 

 と手の平を180度返した。

 一方でオウギワシはヘビクイワシと話していた。

 

「ヘビクイワシ。お前、ブランクあるけど大丈夫か?」

 

 オウギワシは空手部で練習を重ねてきた。けれど、ヘビクイワシは生徒会に入って以来空手からは遠ざかっていたのではないだろうか。

 以前はライバル同士であったけれども、今は明確な差が生まれてしまっているかもしれない。

 そう思うとオウギワシの胸には一抹の寂しさが生まれる。

 

「ふっふっふ。心配ないでありますよ。オウギワシ君。別に空手をやめたわけではありませんから。」

 

 不敵な笑みを浮かべるヘビクイワシ。

 つまりヘビクイワシもどこかで練習を重ねていたのだろうか。

 その疑問にはヘビクイワシの両肩に手を置くようにして現れたキンシコウが答えた。

 

「ええ。実はヘビクイワシさんはウチのジムに通ってますから。よく私と練習してるんですよ。」

 

 ポム。とヘビクイワシの両肩に手を置くキンシコウはにこやかに言う。

 

「なっ!?ず、ずるいぞ!?ヘビクイワシ!?俺だってキンシコウ先輩と練習したかったのにっ!」

「オウギワシ君は部活でキンシコウ先輩と練習してきてるではありませんか…。」

 

 ヘビクイワシは幼馴染のこの言動に少しばかり呆れていた。

 ただ、気持ちはわかる。

 キンシコウの教え方はとても上手で丁寧なのだ。

 そんなキンシコウは応援団にもやはり丁寧に挨拶をしてまわっていた。

 

「応援団の皆さんもメンバーをお借りして迷惑を掛けます。急遽参加して下さったかばん生徒会長さんとヘビクイワシさん。それにサーバルさんもありがとう。」

 

 一人一人に丁寧に頭を下げていくキンシコウ。

 

「それにオウギワシさんも。色々と手を尽くしてくれたおかげで中学最後の大会に臨む事が出来ます。」

「いえ!キンシコウ先輩を全国に連れていくのが俺の夢ですから!」

 

 夢かあ。

 とキンシコウは想いを馳せる。

 一体自分の夢は何なんだろう。

 トレーナー。体育教師。そのどちらもずっと自分の夢だと思ってきた。

 けれど今この段階でどこか違和感のようなものを感じずにはいられなかった。

 おっと、いけない。

 今から大会だというのに邪念は禁物だ。

 キンシコウは自分の顔を両掌でパチン、と打った。

 

「そういえば、団体戦のメンバーは私とオウギワシさん、ヘビクイワシさん、かばん生徒会長と…、あと一人は…。」

 

 その一人は遅れてやって来た。

 

「す、すんません。遅れました。道着探すのに手間取ってしまって。」

 

 やって来たのはエゾオオカミだった。

 1年C組エゾオオカミ。商店街の手伝いが忙しくて殆ど幽霊部員状態だったが空手部所属でもあった。

 

「エゾオオカミさん。来てくれてありがとうございます。」

「悪かったな。急に試合に出てもらう事になってしまって。」

 

 キンシコウもオウギワシもエゾオオカミに頭を下げる。

 

「いやいや!?こっちこそ練習に殆ど参加できなくて申し訳ないと思ってるッス!?それに、今日はどっちにしたって応援くらいはさせてもらうつもりでしたッスから!?」

 

 さすがに先輩二人に頭を下げられてはエゾオオカミもしどろもどろにならざるを得ない。

 変な敬語になってしまっているが本人はそれに気付かずにいた。

 

「あ。今日は同じチームですね。よろしくお願いします。」

 

 と挨拶してきたのはかばんだった。

 エゾオオカミも、このかばんという生徒会長がクロスシンフォニーだというのは聞かされていた。

 とはいえ、その実力を目の当たりにしたわけではない。

 優し気な雰囲気の彼女が空手…、ましてセルリアンと戦って来ただなんてニワカには信じがたい。

 そんな疑問を持つエゾオオカミだったが、サーバルに後ろからポンと背中を叩かれる。

 

「大丈夫大丈夫!かばんちゃんはすっごいから!」

 

 そんな言葉にもこの自信は一体どこから来るのだろう、と不思議に思わざるを得ないエゾオオカミ。

 何はともあれ役者は揃った。

 

「じゃあ、空手部は出発しますよー。」

 

 引率の教師の言葉にいよいよ緊張が高まって来た。

 いよいよ空手部の大会も幕を開けようとしていた。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 色鳥武道館。

 ここも様々な競技に対応できる上に、音楽イベントなども行える多目的な施設である。

 昨日はここで剣道部の地区大会が行われた。

 今日は空手部の大会である。

 早速、会場へ乗り込んだセルシコウはワクワクしながら周りを見渡す。

 歩き方、纏っている雰囲気から強者はいないだろうか、と探してみるが、今のところ彼女のお眼鏡にかなうだけの猛者は見つからない。

 期待しすぎもよくはないか、とセルシコウは会場の更衣室で着替えて対戦組み合わせ表を見に行く。

 既に大会登録は済んでおりあとは大会が進むのを待つばかりだ。

 

「(さて、こちらの世界のキンシコウも会場に来ているはずですね。)」

 

 セルシコウはもう一度周りを見渡して、キンシコウを探す。

 彼女が強者であろうとなかろうと、こちらの世界のキンシコウがどのような人物なのか興味はあった。

 願わくば自分に敵う者であればいい。

 そう思っていたセルシコウはとうとうキンシコウを見つけた。

 道着を隙なく着こなして所作にも無駄やブレがない。

 

「(……いいじゃないですか。)」

 

 セルシコウはぶるり、と身震いした。

 正直甘く見ていた。

 こちらの世界は平和でヒトもフレンズも一部の例外を除いて戦いに身を置くような事はないらしい。

 そんな環境で育つ戦士とは如何ほどの者かと心のどこかで見下していた。

 そんな思いはキンシコウを見た瞬間に吹き飛んだ。

 知らず、セルシコウはキンシコウの方に歩みを進めていた。

 と、あちらのキンシコウも気が付いたようだ。

 親族以外で同種のフレンズは珍しい。その表情にわずかばかりの驚きが見える。

 

「こんにちわ。私は色鳥東中学校のセルシコウと言います。」

 

 チームメイトらしいヒトやフレンズに囲まれる彼女にまずは挨拶をする。

 やはり同種のフレンズであることに驚いているらしい彼女達が何と返していいのか分かっていない間にセルシコウは短く続けた。

 

「決勝で会いましょう。」

 

 さっきチラと見た対戦表には彼女達の学校の名前はなかった。

 という事は別ブロックだったりするのだろう。

 ならば彼女達と当たるのは決勝戦だ。

 

―クルリ。

 

 と踵を返すセルシコウ。

 返事は必要ない。

 宣戦布告はもう済んだのだから。

 きっとキンシコウとは戦う運命にある。

 その確かな予感がセルシコウにはあった。

 

「あー……。その……。」

 

 戸惑うようなキンシコウの声を継ぐようにオウギワシがキッパリと言った。

 

「いや…。俺達はお前とは絶対当たらないぞ。」

「な、なんでですか!?」

 

 あまりと言えばあまりの言葉にセルシコウは再び振り返り直った。

 

「ええとその…。」

 

 言いづらそうにキンシコウは対戦表を指さす。

 対戦表は二つに分かれていた。

 組手の部と形の部の二つに。

 二つの部はまったくの別部門だ。

 そして、セルシコウのチームは組手の部に名前があり、キンシコウのチームは形の部だ。

 いくらお互いが勝ち進んだところで決して対戦する事はない。

 

「あの……。私たちジャパリ女子中学は形の部だけの出場で組手はしないんです。」

 

 申し訳なさそうに言うキンシコウにセルシコウはもう一度対戦表を見て、もう一度キンシコウ達を見て、それを三度繰り返した。

 それが終わってから開いた口が塞がらない様子のセルシコウに全員で重々しく頷いた。

 ただ一人、マネージャーらしい猫科の大きな耳を持ったフレンズだけが状況がよくわかっていなかったのか、セルシコウとチームメイト達をキョトキョトしてから言った。

 

「うん!決勝であおうね!」

「さ、サーバルちゃんっ!?」

 

 慌てて黒髪の女の子が猫科の子の口を塞いだが一歩遅い。

 セルシコウは真っ赤になると両手で顔を覆った。

 

「こ、これで勝ったと思わないで下さいねっ!?」

 

 あまりのバツの悪さにセルシコウはその場を逃げ出した。

 

「面白い子でありますな。」

 

 と見送るヘビクイワシに全員が頷く。

 

「っていうかアイツ何をやってるんだよ…。」

 

 ただ一人、エゾオオカミだけはセルシコウがセルリアンフレンズだと知ってはいたのだが、あまりの場面にすっかり毒気を抜かれてしまった。

 懐に入れていた“リンクパフューム”もどうやら出番はないらしい。

 

「どうするかな…。」

 

 エゾオオカミは考える。

 セルリアンフレンズ達が商店街を危ない目に遭わせた事は今でも許せない。

 けれども、ちょっとくらい話をしてみてもいいんじゃないだろうか。

 きっと彼女とはこの大会の最中に話をする機会くらいあるんじゃないだろうか。

 さて、そうしたら最初の挨拶は何にしようかな。

 

「決勝じゃないけど会いにきたぜ、とか…?うん。いいかもな。」

 

 ほんの少しのイタズラ心と共にほくそ笑むエゾオオカミだった。

 

 

 

―中編へ続く。

 

 





【クロスハート変身フォーム紹介:人面魚フォーム】
パワー:B スピード:C 防御力:B 持久力:B
特徴:水中活動
必殺技:魅惑のイリュージョン

 人面魚のフレンズであるコイちゃんの力を借りた変身フォーム。
 頭にはエラやヒレと共に黒髪がわずかな毛並みの違いで綺麗な模様を描いている。
 お尻からは尾びれが伸びている。
 そして、ホラー調のお面を横向きにつけているが、一番の特徴はその衣装だ。
 白地に水を思わせる黒の模様の入ったミニ浴衣を着ているのだが、それを肩まで着崩した状態なのだ。
 下にワンピースタイプの水着を着ていなかったら何かと危なかったかもしれない。
 必殺技は敵に幻覚を見せる『魅惑のイリュージョン』だ。
 さらに実体を伴う2体の幻を作り出す事も出来る。その際には赤毛に赤い浴衣のクロスハートと浅黄の毛並みに浅黄模様の浴衣のクロスハートが現れる。
 そしてこのフォームにはもう一つ隠された能力がある。
 後述のエクストラフォーム、セイリュウフォームへと変身できる能力がある。


【クロスハート変身フォーム紹介:セイリュウフォーム】
パワー:A スピード:B 防御力:C 持久力:E
特徴:水操作
必殺技:ドラゴンフォール

 人面魚フォームから変身できるエクストラフォーム。
 アオイとコイちゃん二人の力を借りた変身フォームである。
 水色の髪をツインテールにしており、長い龍の尻尾が特徴だ。
 青色のノースリーブにしたブレザーに白のネクタイをつけて、下は水色のミニスカートと同じ色のニーソックス。
 水を自由に操る能力がある。
 必殺技は大量の水を龍のように相手に巻き付けて地面に叩きつける『ドラゴンフォール』だ。
 セイリュウフォームへは人面魚フォームからしか変身できず直接変身する事は出来ない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。