けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第17話『拳に賭ける夢』(後編)

「ブモォオオオオオッ!」

 

 色鳥武道館では再び牛頭の化け物が怒りの咆哮をあげる。

 そして、自らの手でそのたてがみから数本の毛を引き抜くとそれを鼻息で吹き散らした。

 すると、なんとただの毛だったはずのそれはたちまち沢山の牛頭のセルリアンになってしまった。

 幸いなのは本体よりも二回りくらい小さく、かばんの胸元くらいまでの背丈しかない事だろうか。

 しかも動きが悪く、本体よりは強くなさそうだ。締めてる帯が白帯だし。

 それでもその数は驚異的だ。

 さらに悪い事にはその現れた小さな牛頭の分身体は四方八方に散って生徒達に襲い掛かろうとしているではないか。

 

「こ、このぉ!」

 

 牛頭の分身体は動きは大した事がない。

 それを見てとった空手部女子生徒の一人が反撃に出た。得意の正拳突きを牛頭の分身体へ叩き込むが…。

 

「へ?」

 

 その拳はまるで水を殴ったかのような手応えと共にズブリと牛頭の身体に突き刺さった。

 しかし、牛頭はダメージを受けたような様子もなく、むしろニヤリとしていた。

 

「ぬ、抜けないっ……!?」

 

 女子生徒は拳を戻す事が出来ず、それどころかどんどん牛頭に腕を引っ張られて身体に取り込まれていく。

 

「た、助けてっ!?」

 

 だが、逃げ惑う生徒達も大人達も彼女を助ける余裕はなかった。

 そして、かばんもキンシコウも試合会場中央でセルリアン達に囲まれたままだ。

 万事休すか、と女子生徒が諦めかけたその時…。

 

―パッカァーン!

 

 と女子生徒の腕を取り込もうとしていた牛頭が砕け散った。

 それを為したのは茶色のブレザーに同じ色の長い毛並みをしたオオカミのフレンズだった。

 

「あなたは…。」

 

 と呆ける女子生徒。

 

「あー…。こんな大勢の前で名乗るのは初めてかな。俺の名前はクロスアイズ。通りすがりの正義の味方さ。」

 

 エゾオオカミはまだ会場がパニックになっている間に観音開きの扉の影に隠れて一人先に変身を済ませていたのだった。

 未だ呆ける女子生徒を促してこの場から逃がす。

 

「さぁて。セルリアンども。散々好き放題してくれやがったな……!難しい事は取り敢えず置いといて…覚悟しやがれ!」

 

 そこからはクロスアイズの独壇場だ。

 次々に牛頭の分身体を撃破していく。

 一体、また一体と減っていく分身体だったが、多勢に無勢。

 四方八方で襲われている生徒達全てをカバーする事が出来なかった。

 

「きゃぁっ!?」

 

 今まさに、一人の女子生徒が二体の牛頭セルリアンの分身体に前後から挟み撃ちにされようとしていた。

 そんな彼女を救ったのは意外な人物だった。

 

「「せぇぇええい!」」

 

 気合の声を同時に響かせ、一人は得意の上段蹴り、もう一人は得意の正拳突きを牛頭の分身体に叩き込む。

 そのコンビはヘビクイワシとオウギワシだった。

 だが、ダメだ、とクロスアイズは声をあげようとした。

 先程と同じように拳と脚をそれぞれに取られてしまうのではないか、そう予想したのだ。

 けれどそうはならなかった。

 

―パッカァアン!

 

 と小気味良い音と共に二体の分身体はそれぞれに砕け散ってサンドスターの輝きに還る。

 

「な、なんで…?」

 

 クロスアイズは不思議だった。

 どうしてヘビクイワシとオウギワシの攻撃は通用したのか。

 そしてよくよく見れば、試合会場中央あたりで大量のセルリアンに囲まれながらも大太刀回りを演じるかばんとキンシコウの二人も隙を見てはセルリアンに反撃を加えていた。

 本体の牛頭や瓦頭や面頭を倒すには至らないが二人の攻撃もどうやらセルリアンにダメージを与えているらしい。

 しかも、自身を囲む牛頭の分身体くらいは次々倒している。

 それに…。

 

「うみゃみゃみゃみゃあー!!」

 

 一人制服姿のサーバルまでもがセルリアンを倒して他の生徒達を助けて回っていた。

 

「もしかして…、フレンズだったら攻撃が通じるって事か…!?」

 

 確かに他のヒトの生徒達は危うく腕や足を飲み込まれそうになっている者もいる。

 思わず反撃して逆に手や足を取り込まれそうになってしまったのだろう。

 彼女達とオウギワシやヘビクイワシ達の違いは一つ、フレンズかどうかだった。

 かばんはクロスシンフォニーだから例外として、ヒトの子達の攻撃は効いていない。

 

「(これが“教授”の言っていた防御機構ってヤツかよ!)」

 

 いつかのバースデーパーティの時、“教授”はセルリアンには防御機構があるというような事を言っていた。

 あの時は詳しく聞かずにいてしまったが、今目の前で起きている現象が防御機構とやらの仕業なのではないだろうか。

 そして、それはフレンズならばある程度突破できるらしい。

 多分、“教授”であればけものプラズムがどうのとか小難しい理屈を解説してくれそうだが、エゾオオカミにはよくはわからない。

 

「よくはわかんねーけど、そういう事なら……!」

 

 クロスアイズはヘビクイワシ達がカバーできない位置にいるセルリアンから優先して倒して回る事にした。

 その作戦は功を奏したようで、生徒達の避難はどんどん進んでいく。

 数の減ったセルリアン達にオウギワシもヘビクイワシも余裕が出て来た。

 まだ油断は出来ないが二人も背中合わせで周囲を警戒する。

 ヘビクイワシは状況を見渡してから背中のオウギワシに言った。

 

「オウギワシ君。キミは外へ。」

「は!?何言ってんだよ!お前やキンシコウ先輩達を残していけるわけないだろう!」

「外にこの化け物共がいないとは限らないでありましょう。オウギワシ君は外でみんなを守って欲しいのでありますよ。」

 

 言いつつもまた飛び掛かって来た牛頭の分身体を上段回し蹴りで蹴り倒すヘビクイワシ。

 

「お前はどうする気なんだ。」

 

 そのヘビクイワシの背中の隙をつこうとした牛頭の分身体に拳を叩き込むオウギワシ。さらに一体を倒しつつ訊ねた。

 

「私はまだやるべき事があるのであります。」

 

 チラ、と試合会場中央のかばんとキンシコウに目をやるヘビクイワシ。何か考えがあるらしい。

 だったらここは言う通りにするべきか、とオウギワシは判断した。

 

「わかった。なら無理すんなよ。」

「そちらも。」

 

 言いつつオウギワシとヘビクイワシはコツンと小さく拳をぶつけ合う。

 そうしてからオウギワシは他の人達が会場からいなくなったのを確認して外へ向かう。

 これで会場に残るのはサーバルとヘビクイワシ、それに変身を果たしたクロスアイズと相変わらず試合会場中央でセルリアン達に囲まれるかばんとキンシコウ、そしてその二人を見つめるセルシコウ。この6人だった。

 既に牛頭の分身体はあらかた倒されており残るセルリアンは牛頭の本体、瓦頭のセルリアン、防具の面頭のセルリアンである。

 

「さて、サーバル君。それにセルシコウ君、ええと…あとはクロスアイズ君、でありましたか?」

 

 一段落ついて自由に動ける皆に声をかけるヘビクイワシ。

 

「ちょっと手伝って欲しいのでありますよ。」

 

 一体何をするつもりなのだろう、と集まった皆も不思議そうな顔をした。

 

「なあに。大した事ではないのであります。戸締りをするのでありますよ。」

 

 開け放たれたままの観音開きのドアを指さして言うヘビクイワシ。

 確かにこのままではいつセルリアン達が外へ出るのかわかったものではない。

 

「わかった!」

 

 サーバルが一番に走り出して次々とドアを閉めていく。

 

「そのくらいならお手伝いしましょう。」

「じゃあ、俺はあっち側を閉めてくる。」

 

 セルシコウが手近なドアを、クロスアイズは遠くのドアを担当してくれた。

 ヘビクイワシも加わってあっという間に全てのドアが閉められた。

 しかし、ヘビクイワシは戸締りまでして一体何をしたいのか…。

 そう思っていると、彼女は試合会場中央で相変わらずセルリアン達をいなし続けているかばんに向けて叫んだ。

 

「かばん君!これで他の人に変身を見られる心配はないのでありますよ!」

 

 その言葉に、そうか、と思うかばんであったが……。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!?なんでヘビクイワシさんが変身の事を!?」

 

 と気づいてしまった。

 ヘビクイワシにはクロスシンフォニーの事は秘密だったはずなのに。

 

「い、いつから気づいてたの!?」

 

 とサーバルまで驚いているので、ヘビクイワシは苦笑しか出ない。

 まあ、この二人なら隠し事は苦手そうだしな、なんて思ってしまう。

 ヘビクイワシが確証を得たのは昨日のプールでの出来事だった。

 かばん達がいなくなって、それと入れ替わるように現れたヒーロー達。そして何かを明らかに隠しているような友人達。

 パズルのピースを当てはめるのは簡単な事だった。

 

「なので、まあ…。その…。私も頼って欲しいのでありますよ。」

 

 ほっぺを掻きつつ言うヘビクイワシ。

 かばん達が何か隠し事をしているのは1年生の時から薄々は感じていた。

 その事はしょうがないとも思うけれど、やはり悔しくもあった。

 友達の力になれない事が何より悔しかった。

 だから、ヘビクイワシは今この時に万感の想いを込めて叫ぶ。

 

「さあ、変身でありますよ!クロスハート!」

 

 キンシコウとセルシコウもこの場にはいるが、二人は後で話せばわかってくれるだろう。

 だから変身してみせてくれ、と思うヘビクイワシだったが…。

 

「え?」

 

 とかばんは目を丸くしてしまっていた。その反応にヘビクイワシも…。

 

「え?」

 

 となってしまう。

 見兼ねたサーバルがヘビクイワシの耳元に口を寄せてコショコショと告げる。

 

「あのね…ヘビクイワシ。かばんちゃんと私ってクロスシンフォニーの方なの……。」

 

 言い終わるとヘビクイワシが反応する前にサーバルはてけてけと走ってかばんの隣に並び立つ。

 ヘビクイワシはその背中を見送ってから無事真っ赤になった。

 両手で顔を覆って思う。

 

「(く、クロスハートの方だと思ってたのでありますぅうううう!?)」

 

 穴があったら入りたいとはこの事か、と一つ無駄な知識を得てしまったヘビクイワシであった。

 何はともあれ、彼女が作ってくれたせっかくのチャンスである。

 かばんとサーバルは揃いのポーズで左腕を突き出して、それを胸元に引き寄せながら叫ぶ。

 

「「変身!」」

 

 サンドスターの輝きが二人を覆って、それが治まった時に現れるのは大きな猫科の耳にしなやかな尻尾。白のブラウスにヒョウ柄のミニスカートを纏った…。

 

「クロスシンフォニー!」

 

 である。

 ちなみに、セルシコウの方は…。

 

「すまんがちょーっとだけ目を閉じててくれなー。」

「ちょ!?何するんですか!?何も見えないじゃないですかー!?」

 

 とクロスアイズに両手で目元を覆われて目隠しをされていた。

 クロスシンフォニーの変身が終わってようやく手を外されたセルシコウ。

 

「あぁー!?!?な、なんでここにクロスシンフォニーが!?!?」

 

 突然目の前に仇敵クロスシンフォニーが現れていて驚愕の声をあげる。

 そんな彼女にクロスアイズは…

 

「俺、お前のそういうトコ、嫌いじゃねーぜ…。」

 

 と少しばかりの呆れの表情を浮かべるのだった。

 何はともあれ、これで役者は揃ったようである。

 

「よっしゃ。じゃあ手を貸すぜ。クロスシンフォニー。」

「ええ。お願いします。クロスアイズ。」

 

 そして、セルリアンの方もずっと黙って見ていたわけでもない。

 

「ブモォオオオオッ!」

 

 牛頭のセルリアンが吠えると、残る瓦頭のセルリアンと面頭のセルリアンがニュルリ、と黒い水のように変わって牛頭セルリアンに纏わりつく。

 そして、程なくして現れたのは…。

 

「フシュゥウウウ!」

 

 頭は空手の防具の面で覆い、肩には鎧武者の肩当のように瓦を身に着けた牛頭のセルリアンだった。

 そして、ギュっと締め直した帯の色は黒である。

 先程までよりも一回り大きくなった牛頭セルリアン。

 見た目は空手道着と防具、それに瓦で出来た肩当を装備したミノタウロスだ。

 そしてその動きも今までよりも…。

 

「速い!?」

 

 丸太のような足から繰り出される中段蹴りは凄まじい速度でクロスシンフォニーとクロスアイズを襲う。

 二人がかりのガードでかろうじてその蹴りを受け止めるが大きく弾き飛ばされてしまった。

 試合場には一人キンシコウだけが残される形となってしまった。

 牛頭セルリアンは今度は彼女に向けて正拳突きを繰り出した。

 危ない!と叫ぶ暇すらなかった。

 

「(あぁ…。これをまともに喰らったら私は…。)」

 

 ドクン、とキンシコウの胸が高鳴る。

 思考は真っ白だったが身体は動いていた。

 セルリアンの拳はまさに比喩表現抜きで必殺だ。

 そのピンチを前にキンシコウの集中は極限まで高まっていた。

 キンシコウの視界ではスローモーションになってその拳が迫り来る。

 自らに迫る豪腕を…… 

 

―パァン!

 

 と音を立てて回し受けするキンシコウ。

 ほんのわずかに力の流れを逸らされた牛頭セルリアンの一撃はキンシコウの頭の横を過ぎていった。

 

「!?」

 

 必殺のはずの拳を受け流された牛頭セルリアンは驚愕の様子を見せる。

 一歩間違えれば大怪我…いや、それ以上すら有り得た場面に、しかしキンシコウの心は高鳴っていた。

 口角があがり、笑みと呼べるものがキンシコウの顔に浮かぶ。

 

「認めなくてはなりません。どうやら私は……!」

 

 キンシコウはピタリと構えをとる。

 

「強い敵と戦うのが好きなようです!」

 

 言いつつ牛頭セルリアンに向けて伸ばした右腕の手のひらを自分に向ける。

 かかって来い、と。

 この胸の高鳴り、この血が湧きたつ感覚。

 疑いようもない。

 この狂気と言ってもよさそうなものこそがずっと求めていたものだ。

 そんなキンシコウの表情はまさに不敵と呼ぶべきものだった。

 

「ブモォオオオオオォオオッ!」

 

 牛頭セルリアンも咆哮と共にキンシコウに向けて突進してくる。

 圧倒的巨体、圧倒的速度。

 その突撃をかわす術はキンシコウにはなかった。

 それでも牛頭セルリアンを射るその眼には闘志が燃えていた。

 

「(迎え撃つ…!)」

 

 左右に逃げる事も不可能、後ろに下がっても追いつかれる。

 ならば残された道は前しかない。

 右足を少しだけ前に、左足に体重を乗せる。

 後は震脚と同時に後ろから前へ体重移動。生み出した全エネルギーを迫りくる相手にぶつけるだけだ。

 狙いは眉間。

 猛牛よろしく頭を突き出して突進してくるからおあつらえ向きだ。

 面でガードされているものの、カウンターが入れば勝機はある。

 

―ズダァアン!

 

 キンシコウは踵落としのように大きく脚を振り上げて震脚を踏んだ。

 猛牛の頭はもう目の前だ。

 キンシコウはその眉間に向けて己の全てを乗せた拳を放った。

 だが、あまりのウェイト差がある。

 奇跡でも起きない限りキンシコウの勝利はあり得ない。

 そして、キンシコウの拳が牛頭セルリアンのつけた防具に届く直前。

 

―パキィイン。

 

 奇跡は起きなかったが乱入者が一人。

 セルシコウが手刀で牛頭の角を叩き折っていた。

 

「ずるいですよ!私が先にキンシコウと手合わせするはずだったのに!」

 

 牛の角は頭骨に繋がっている。

 そこを叩き折られれば深刻なダメージになる。

 この場合は脳震盪を起こしていた。

 そして体勢を崩したところにキンシコウの拳がついに届く。

 

―バキィイ!

 

 キンシコウの拳は体勢の崩れた牛頭セルリアンの被った面を弾き飛ばしていた。

 今度こそ奇跡は起きた。

 面が弾き飛ばされて、牛頭セルリアンの眉間にある『石』が露わになったのだ。

 体勢が崩れたところにキンシコウの全力の拳が当たった結果だった。

 そして、その状態をこの二人が見逃すはずはなかった。

 

「疾風の…サバンナクロォオオッ!」

「ワンだふるアタァアアアアック!」

 

 キンシコウの背中から追い抜く形で牛頭セルリアンの『石』へそれぞれの必殺技を放つクロスシンフォニーとクロスアイズ。

 二人の必殺技を受けては三体分のセルリアンの『石』といえども一たまりもない。

 

―パッカァアアアン!

 

 とキンシコウの目の前で牛頭セルリアンはついに光り輝くサンドスターへと還っていった。

 拳を突き出したままのキンシコウの視界はサンドスターの輝きに覆われる。

 それは随分と幻想的な光景だった。

 

「生きている…。」

 

 だから、キンシコウがそれを自覚するのにほんの少し時間が必要だった。

 

「そりゃあそうでしょう。勝ったのはキンシコウですからね。」

 

 セルシコウは懐から取り出した板状の機械、“コレクター”を操作して周囲のサンドスターを回収しながら言った。

 程なくして面と瓦の肩当を装備した牛頭セルリアンの姿を刻んだ“セルメダル”が排出される。

 その時間をキンシコウは呆けていた。

 うわ言のように呟く。

 

「勝ったんですか…?私…。」

「ええ。見事な拳でした。」

 

 そうセルシコウに言われると、ふるふると肩を震わせ俯くキンシコウ。

 今さら恐怖でも来て泣いているのだろうか。

 クロスシンフォニーもクロスアイズもヘビクイワシもそう思っていた。

 しかし…。

 

「やったあ!やりました!私やりましたよ!」

 

 顔をあげたキンシコウはセルシコウに抱き着いて子供のようにはしゃいでいた。

 満面の笑みである。

 キンシコウのそんな姿は初めて見る。

 試合に勝利して喜びはしても、こうして感情を爆発させる事は今までになかった。

 けれど、いい笑顔だ。

 クロスシンフォニーもクロスアイズも顔を見合わせて同じように思って頷き合った。

 そして同時に悟った。ヒーローの出番は終わったのだ、と。

 なのでそんな場面に水を差すのはやめにしてこっそりとその場を退散する。

 

「「さて。」」

 

 ひとしきり喜び終わったキンシコウとそれを受け止めたセルシコウは同時に口を開いた。

 二人とも表情が一変。ニヤリとしつつもお互いを射るように見つめる。

 そしてお互いに無人となった試合会場の開始線にそれぞれに立つと示し合わせたように同時に言った。

 

「「手合わせしましょうか。」」

 

 言って一礼の後に二人でピタリと構えをとる。

 見ていたヘビクイワシには何でそうなるのか分からない。

 今やらなくてもいいじゃないか、と思わずにはいられない。

 けれど、二人とも楽しそうにキラキラした目をしているのを見ると、それを止めるのも無粋か、と思えてしまう。

 どうせ皆が戻ってくるまでにあと数分は時間があるだろう。

 だからヘビクイワシは二人の近くに歩み寄ると両手を交差させて呆れ混じりにこう言った。

 

「始め。」

 

 と。

 無人の試合会場で人知れずキンシコウとセルシコウの激闘が始まった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 色鳥武道館に一番乗りしたのは、やはりハクトウワシだった。

 自転車でしか通れないような裏道を全力で飛ばしてきた結果だった。

 会場前には外の広場に中学生達が避難している。

 見たところ怪我人はいないようだが、セルシコウの姿を見つける事も出来なかった。

 

「色鳥商店街前交番のハクトウワシ巡査です。不審者は?」

 

 付近にいた大人に訊ねると、不審者達はまだ中にいるらしい事、数名の生徒がまだ中に残っている事を教えてくれた。

 ハクトウワシの顔から血の気が引く。

 セルシコウは中にいるんじゃないだろうか。

 パトカーのサイレン音が近づいてきているから応援だってすぐに駆け付けるだろう。

 本来であれば応援を待ってから突入するべきだ。

 だが…。

 

「私は中に残った生徒達を避難させます。他の警官が来たら伝えて下さい。」

 

 ハクトウワシは単独で突入する事を選択した。

 もしも一刻を争う事態になっているのだとしたら。

 それを考えるだけでいてもたってもいられない。

 付近の大人に伝言を頼むとハクトウワシは一人館内へ進んでいく。

 外の光が届かず薄暗い通路を急ぐ。

 と、楽しそうな女の子達の声が聞こえてきた。

 何事かと訝しむハクトウワシ。

 やがて通路を歩く女の子達6人の姿が見えた。

 

「まったく、キミ達二人は。また後日でも試合できたでありましょうに。」

 

 呆れるヘビクイワシの言葉は肩を貸しあい歩くキンシコウとセルシコウに向けられていた。

 その後ろを何とも言えない苦笑を浮かべたかばんとサーバルとエゾオオカミが続く。

 

「ヘビクイワシさん。お言葉ですが…。」

「そこに強敵がいて戦う意志がある。だったら手合わせしない理由はないでしょう。」

 

 キンシコウの言葉をセルシコウが継いでそして二人してうんうん、と何度も頷く。

 そんな二人にエゾオオカミは呆れと共にツッコんだ。

 

「いや、そうはならねーだろ。」

 

 それは残る4人の総意でもあった。

 やはり彼女達にはキンシコウとセルシコウの嗜好は分からない。

 けれど、心の底から楽しそうにしている二人を見るとこう思わざるを得ない。

 この二人に限っては拳をぶつけ合う事で通じる何かがあるのだと。

 しかし、その姿を見たハクトウワシは気が気じゃない。

 

「ちょっと、セルシコウ!あなた怪我でもしたの!?大丈夫!?」

 

 慌てて駆け寄ってみるものの、大きな怪我はなさそうだ。

 

「安心して下さい、ちょっと疲れただけなので。」

 

 キンシコウは言いつつセルシコウをハクトウワシに渡した。

 キンシコウとセルシコウの二人は人知れぬ激闘の末に怪我はなかったものの精魂尽き果てていた。

 当の本人達だけは大満足の時間だったらしい。

 ハクトウワシはセルシコウの身体をペタペタと触り本当に怪我がない事を確かめると泣きそうな表情で思い切り抱き締めた。

 

「よかったぁ…。心配したんだから。」

 

 その様子に残る皆は顔を見合わせてから微笑む。

 

「安心して下さい。私はそう簡単には負けたりしませんから。」

 

 ポンポンとハクトウワシの背中を叩くセルシコウ。

 彼女はどうしてもハクトウワシに伝えたい事があった。今日はとてもいい事があったのだから。

 

「ハクトウワシ。聞いて下さい。実はですね…。」

 

 セルシコウは満面の笑みでハクトウワシにこう言った。

 

「私、強敵(ともだち)が出来ました。」

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 結局、集まった警官達が色鳥武道館をくまなく捜査したが不審者は影も形もなく、付近のパトロールや聞き込みなども行ったがやはり問題の不審者を発見するには至らなかった。

 大きな被害もなかったし、唯一被害を受けた審判の男性もすぐに回復したし、身体の中に取り込まれたという話だってどう解釈していいのかわからなかった。

 警察としては近隣住民に注意を呼び掛けると共に巡回を強化する対処しか出来ない。

 ただ、彼らはあずかり知らない事ではあるけれど元凶は既にヒーロー達が退治してしまったから、それは徒労に終わってしまう結果となった。

 そして、空手部の地区大会であるが残念ながら中止が決定された。

 あんな事件があったのだ。無理もないだろう。

 今年はこの地区から勝ち上がって県大会へ出場するチームはなしである。

 一方で朗報もある。

 ジャパリ女子中学空手部の体調を崩していた3人の生徒がいずれも復調したのである。

 ちょうど、クロスシンフォニーとクロスアイズが牛頭のセルリアンを倒した時間に急に体調がよくなったらしい。

 実はこの3人はセルリアンに“輝き”を奪われて、それが空手道着に瓦頭や防具の面頭やら牛頭のセルリアンとなったのだが、その影響で体調がよくなかったのだ。

 

「先輩達が体調よくなったのはいいけど…。キンシコウ先輩を全国まで連れて行く夢は果たせませんでした。すみません。」

 

 急遽解散となったのでオウギワシはキンシコウと共に帰り道を歩く。

 確かに全国大会出場は大きな目標の一つだったから今回の大会中止は残念だ。

 けれど…。

 

「いえ。オウギワシさんにはとても感謝しています。今日の大会に参加できてよかったです。」

 

 キンシコウはとても晴れやかな顔をしていた。

 

「今日私にも夢が出来ましたから。」

 

 そんな言葉と共に笑うキンシコウの表情をオウギワシは見た事がなかった。

 それにしても、キンシコウの夢とは何なのだろう。オウギワシが気になっているとキンシコウが答えてくれた。

 

「この拳でどこまで行けるのか…。ちょっと本気で試そうかと。」

 

 キンシコウは己の拳を傾き始めた太陽に向けて突き付ける。

 

「プロの格闘家。目指してみようと思います。」

 

 争い事は嫌いだけれど、誰かと本気で技をぶつけ合う事がこんなにも楽しい事だと、今日知ってしまった。

 その夢は今までのどの目標よりもしっくりとキンシコウに馴染んでいた。

 そこは想像以上に厳しい世界なのだろう。

 けれど、空を見上げるキンシコウの目には強い意志が見て取れた。

 そんな彼女を見て、オウギワシは確信する。

 きっとキンシコウならば夢を叶えられるだろう、と。

 

「さて、そうと決まればどうやったらプロになれるか知らないといけませんね。進路指導の先生に相談してみましょうか…。」

 

 後日、進路指導の教師は優等生と言っていいキンシコウから「どうやったら総合格闘技大会K-1(けもわん)グランプリに出られるのか」という素っ頓狂な進路相談を受けて面食らう事になる。

 だが、キンシコウの道は今日決まった。

 己の未来をその拳に託すのだ、と。

 

 

けものフレンズRクロスハート第17話『拳に賭ける夢』

―おしまい―

 




【セルリアン情報公開:カラテリアン】

 空手部の女子生徒の“輝き”から生まれたセルリアン。
 いずれも空手道着に拳サポーター、脛当てなどで身体を構成された人型のセルリアンである。
 頭が牛頭、瓦、空手防具の面で出来ている。
 いずれも強力な空手技を使ってくるが特に強力なのが牛頭のセルリアンである。
 大きな体格とそれに見合った強靭なパワーを持ち、たてがみから分身体を作り出す事も出来る。
 ただし、分身体は体格も小さく、動きも悪い。締めてる帯が白帯なだけに技も未熟だ。
 さらに、この三体のセルリアンは合体する事が出来る。
 合体した際は牛頭のセルリアンをベースに、防具の面をつけて、瓦で出来た鎧武者のような肩当を装備した状態になる。
 この状態だと防御力が飛躍的に上がって、生半可な攻撃は通用しなくなるだろう。
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