けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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これまでのけものフレンズRクロスハートは!

学校へとやってきたイエイヌとともえと萌絵の三人。
イエイヌが学校見学を満喫していたところ生徒会書記のヘビクイワシとひょんな事から諍いが発生してしまう。
なんだかんだですっちゃかめっちゃか喧嘩しても仲良しになったヘビクイワシとともえ達。
そんな新たな友人ヘビクイワシが人気のない旧校舎でセルリアンに襲われてしまう。
駆けつけたイエイヌによって、からくもヘビクイワシは難を逃れる。
しかし、鉄のような固い身体をもつ大蛇セルリアンに苦戦を強いられるともえとイエイヌ。
焦ったともえはあわや大蛇セルリアンに飲み込まれかけるも、そのピンチを救ったのは唐突に飛んできた紙飛行機だった。
何とかピンチを脱出したともえは新たな力、ヘビクイワシフォームへと変身して大蛇セルリアンを倒す事に成功するのだった。



フォーム紹介

名称:イエイヌフォーム
特徴:超嗅覚
パワー:B スピード:A 防御力:C 持久力:S
必殺技:ワンだふるアタック
イエイヌとのクロスハートフォーム。変身中はサンドスターをまとった手を牙に見立てた握りつぶす攻撃や投げ技が得意。
必殺技の『ワンだふるアタック』は両手を獣の顎に見立て、敵を握りつぶす技。
※挿絵はともえのイエイヌフォーム。けものフレンズちゃんねる併設のけものフレンズBBSにて有志の方よりいただいたイラストです。
ありがとうございます!

【挿絵表示】


名称:ヘビクイワシフォーム
特徴:飛行能力
パワー:B スピード:S 防御力:C 持久力:C
必殺技:刻み込む蹴撃・スタンプビート
ヘビクイワシとのクロスハートフォーム。多彩な蹴り技を駆使して戦う。
相手が倒れるまで執拗に蹴り続けるのは元動物の習性が原因だろうか。
必殺技は連続キックの『刻み込む蹴撃・スタンプビート』





第3話『紙飛行機の君』(前編)

ここはともえ達の暮らすおうちの地下室。

この地下室は防音設備、換気設備が充実した部屋だ。さらに、様々な工作機械や工具が綺麗に整頓されて整えられている。

この場所を主に使うのは、父親であるドクター遠坂とそして、萌絵の二人である。

そこは家族からは『工房』と呼ばれる部屋だった。

 

「うふふー。思いついちゃった以上は作らないとダメだよね…。」

 

何かを企んだ顔で笑みを見せる萌絵。

そう、今日は金曜日。明日は週休二日の土曜日だ。つまり学校がお休みであり、多少の夜更かしなら許容範囲。

作業服に腰ベルト、そこに取り付けられたポーチ状の工具入れに次々とドライバーやスパナなどの工具が綺麗に納まっていく。

まさに職人のフル装備。

最後に、キュっと作業用のグローブに手を通して…。

 

「さあ、やりますかね!」

 

と気合を入れた萌絵。戦闘態勢は準備完了だ。

遠坂萌絵の戦いはこの工房で人知れず繰り広げられる事になるのだ。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「んいー…。ともえちゃんひざまくらー…。」

 

土曜日の朝。

人知れぬ戦いを終わらせた萌絵はすっかり溶けていた。

 

「はいはい。萌絵お姉ちゃん、もしかしてまた工房で夜更かししたの?随分久しぶりな気がするねえ。」

 

萌絵をリビングのソファーで膝枕しつつ、ともえは萌絵の髪を撫でつける。

 

「うんー。ちょっと思いついた事があってねえー。あ、イエイヌちゃんは抱き枕ねー。」

「ええ!?わたしですか!?」

「イエイヌちゃん、お願い。」

 

すっかりいつもと違う様子の萌絵に戸惑いを覚えるイエイヌだったが、ともえにとっては割と普通な出来事の様子。

たまにこうして精魂尽き果てた萌絵はとことん甘えん坊になるのだが、こういう時はお姉ちゃんをひたすら甘やかすのがともえの密かな楽しみだった。

 

「そうそう、添い寝してあげてれば萌絵お姉ちゃんも満足だから。」

「あ、はい。これで大丈夫ですか?」

「うんー。満足ー♪ああー、モフモフだよぉー、天国だよぉー」

 

ともえの膝枕にイエイヌの添い寝ですっかりご満悦の萌絵。

 

「で…萌絵お姉ちゃんは今度は何を作ってたの?」

「うん、あのねー。一言でいうとねー?イエイヌちゃんの変身アイテム。」

「へ?わたしの、ですか?」

 

と萌絵の腕の中でモフられながら訊ねるイエイヌ。

 

「うんー。ともえちゃんがクロスハートになって変身してもイエイヌちゃんがそのままだと正体がバレちゃうかもだし。」

 

すっかりだらけ切った萌絵が眠そうな声で話はじめる。

 

「あのね、イエイヌちゃんの今着てる服ってね。けものプラズムっていうサンドスターが変化した物質でできてるの。ここまでいい?」

と横になったまま解説をはじめる萌絵。

 

「この服ってね。汚れたりほつれたりしても時間が経つと皮膚が治るみたいに元通りになっちゃうの。」

「へえー…、わたしの毛皮ってそんな事になってたんですね。」

「うんー。でね、これって実はね。理論上は変化させる事もできるの。つまり何もないところからお着替えって事ができるんだよ。」

 

と、いきなりとんでもない事を言い出す萌絵。

 

「え…。でもわたし、そんな事が出来た事ないですよ…?」

「普通は難しいと思うよおー。無意識に形成しているものだろうからねえ。意識しても相当強いイメージ力がなかったら難しいんじゃないかなあ。」

「じゃあ、イエイヌちゃんは頑張ってイメージしたら自由に服を替えられるって事?」

そのともえの疑問に萌絵は寝転んだまま、一つ肯定の吐息を漏らしてから続ける。

 

「極端な事を言うとそうだねえ。でも、それだけのイメージをするのは難しいから、イエイヌちゃんのけものプラズムを変化させる為の機械を作ったの。」

 

と、ポケットから一本のチョーカーを出す萌絵。

 

「イエイヌちゃんのけものプラズムを変化させる装置かっこ仮ー。」

てーれってれー、と何かのBGMを自分で口ずさみながら取り出したそれを掲げてみせる萌絵。

「これはね、装置の方に変化するイメージを登録しておいて、合言葉と同時に起動してイエイヌちゃんのけものプラズムを変化させるの。」

 

その言葉に?マークを浮かべるともえとイエイヌ。どうもピンと来ていないようだ。

 

「つまりね。ともえちゃんがクロスハートの合言葉で変身するのと同じように、変身できるようになるってこと。」

「お、おおおおお!?それってイエイヌちゃんがパワーアップするってこと!?!?」

「ううん。そこまでいいものじゃないよ。単に格好だけ変化させるの。上手くしたら多少防御力は上がるけれどそれくらいだね。」

驚きの声をあげるともえに萌絵は残念そうに告げる。

 

「そっかあ…。でもイエイヌちゃんは元から強いもんね。つまり正体を隠す為だけの機械って事でいいのかな?」

「そういうことだねえ。」

 

と、昨夜作っていた機械の解説を一段落させた萌絵、満足そうに「んふー。」とドヤ顔である。

ともえはよしよし、とそんな萌絵の頭を撫でてあげるのだった。

 

「えっと…つまり、ともえさんとお揃い、という事でしょうか。」

「そうそう。ともえちゃんが変身するときに一緒に変身したらいいよおー。」

「えへへ…。ともえさんとお揃い…。嬉しいです。ありがとうございます、萌絵さん。」

 

相変わらず萌絵の腕の中で抱き枕状態だけれど、それでも嬉しそうにほにゃんとした笑みを浮かべるイエイヌ。

 

「でもねえ。変身の合言葉と変身後の姿をまだ決めてないから考えないといけないんだー。」

「そっかあ。じゃあ合言葉から考えよう?アタシのクロスハートみたいにそのまま合言葉が名前になるかもしれないもんね。」

 

言いつつ早速頭を捻るともえ。

「ねえ、イエイヌちゃんは何か考えがないかな?」

「はい。わたし考えてた事があるんです。」

と意外にもイエイヌは真剣な顔で応じる。

 

「この世界ではわたし以外のフレンズはセルリアンと戦う力がないんですよね?」

「うん、イエイヌちゃんみたいに強い子は知らないよ。運動だってヒトよりも得意な子は多いけど…。」

「運動が得意なフレンズちゃんでも、ともえちゃんくらい運動得意だと互角くらいにはなるよねえ。」

 

そう、それがこの世界のフレンズの標準だ。

ヒトと大して差はないし、イエイヌのようにフレンズの技を使う事だって出来ない。

現状でセルリアンと戦えるフレンズはたった一人。イエイヌだけなのである。

 

「私の世界では強いセルリアンを倒してみんなを守るセルリアンハンターがいたんです。」

「へえー。その人たちもヒーローみたいだね。」

「だから、わたししかセルリアンと戦えないならわたしがセルリアンハンターになってともえさんや萌絵さんや春香さん、それにヘビクイワシさんを守ったらいいんだ、ってそう思ってたんです。」

「イエイヌちゃん…。」

 

その独白にも似た決意表明はともえと萌絵には確かな説得力を持っていた。

過去2度に渡ってセルリアンと戦うイエイヌの姿を見てきたともえと萌絵にはその言葉が言葉だけではない事を知っていた。

 

「けどですね…。ともえさんが一緒に戦ってくれて、凄く心強かったんです。わたし一人じゃないんだって。仲間がいるんだって…。」

萌絵の腕の中で相変わらず抱き枕状態だけれど、それでもともえと萌絵に視線を向けるイエイヌ。

「あの…。わたしも、ともえさんと一緒に…。クロスハートに、なれますか?」

 

その言葉にともえは即座に大きく頷く。

 

「もちろんだよ!アタシの方こそ、イエイヌちゃんが一緒だったからセルリアンに勝てたんだよ!」

「うんうん、じゃあイエイヌちゃんは二人目のクロスハートだねえ。」

言いつつ萌絵はイエイヌを抱く手に力をこめる。

ともえも抱き着きたそうにしているけど、今日はお姉ちゃんに譲ってあげるのだ。

 

「とは言っても、アタシがクロスハートでイエイヌちゃんもクロスハートだとこんがらがっちゃわない?」

「クロスハート2号とかじゃ安直すぎるもんねえ。」

「だったら、イエイヌちゃんがなりたかったっていうセルリアンハンターからとってクロスハート・ハンターとかは?」

と早速二人して頭を捻りはじめる。

「カッコイイんだけどそれだとなんか敵側みたいじゃない?クロスハートをハントする人みたいに思われわないかなあ。」

「あー、それもそうだねえ。でも、クロスなんとかーっていうのは方向性的にはあってる気がする。」

 

再び頭を捻るともえと萌絵。萌絵は膝枕されてる状態なんで何とも不思議な光景である。

 

「ハートじゃなくてスペード、ダイヤ、クローバー…うーん。なんかしっくりこないねえ…。」

「あ、トランプのマークだ。じゃあ絵札のジャック…じゃあ男の子っぽくてあんまり可愛くないなあ…。」

 

で、再び二人揃って、うーん、と頭を捻るともえと萌絵。これは中々の難問だ。

 

「あ、ジャックってキング、クイーンの子供で王子様って説あるじゃない?クロスハート・プリンスとかは?」

そのともえの提案に…

「だめぇー、プリンスはだめぇー。アタシのプリンスはともえちゃんだもーん。」

とダダっこみたいになる萌絵。ともえの膝にぐりぐりと頭を押し付けてみせる。

「ええー…。もー。萌絵お姉ちゃんったら…。じゃあ萌絵お姉ちゃんがプリンセス?って事はー…イエイヌちゃんが…ナイト?」

 

とそんなダダっこから何か思いついたような表情になっていくともえ。

「イエイヌちゃんっていつもアタシ達を守ろうとして頑張ってくれてたもんね…。うん。アタシ達のナイトだ。だからクロスハート・ナイト。クロスナイトっていうのはどうかな!」

「ナイト…。わたしが…。」

「あ、いいねえ。イエイヌちゃんにピッタリだよー。イエイヌちゃんはクロスナイトって名前はどうかな?」

と、その確認に抱き枕状態のイエイヌは萌絵の胸に顔を埋めて「はい。」とだけ答えるのだった。

嬉しそうにニヤけ切った顔を見られたらナイトの称号は取り消されちゃいそうな気がしたが、とても嬉しかったので顔が緩むのはもう仕方ないのだ。

 

「じゃあ、ナイトなイエイヌちゃんにピッタリな衣装も考えないとねえ。ともえちゃん、イメージスケッチお願いできる?」

「任せて!」

と物凄い勢いでスケッチブックに何かを描き始めるともえ。あっという間に描きあげると、それを寝転んだままの萌絵に示してみせる。

「えっとねー。機能的にここをこうしたいからー…。で、正体も隠すのでここんとこをもう少し大きめにしてー…」

「ほほう…ついでにここをこうしたら…。」

「いいねえいいねえ。」

とドンドン絵が描きあがって、最後に膝枕したままのともえとされたままの萌絵がガシリと固い握手をして完成…したらしい。

よいしょ、と起き上がった萌絵。

チョーカーと出来上がったイメージスケッチを持ってリビングのパソコンへ取りつくと軽く操作して…。

 

「うん。これで出来上がり。名付けてー…ナイト…ナイトチェンジャー?とかにしておこうかー。」

最後の調整も済んだらしいチョーカーを持ってイエイヌのところに戻る萌絵。そのままイエイヌの首にチョーカーを着けてあげる。

「萌絵さんが着けてくれたともえさんとお揃い…。えへへ…。嬉しいです。」

嬉しそうに尻尾を揺らすイエイヌ。

ナイトチェンジャーそのものよりも萌絵が着けてくれた事と、ともえと一緒の事が出来るというそれがたまらなく嬉しかった。

 

「じゃあ、一度試してみようか。イエイヌちゃん。変身っ。クロスナイトっ!って言ってみて。」

言われた通りの言葉がイエイヌの口から出ると、カッと周囲にサンドスターの輝きが満ちて、それが治まったとき…。

「ふぉおおお!?思った以上にこれは絵になるぅー!めっちゃ絵になるぅー!」

「ほんとだね!ほんとに絵になるぅー!!」

と、遠坂姉妹のスケッチ大会が始まるのだった。

 

 

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ともえと萌絵が一通り満足すると

「じゃあ、お姉ちゃんちょっとだけお昼寝してこようかな。さすがに夜更かしが過ぎちゃった。」

と萌絵が小さく欠伸を一つ。

 

「うん。そうだね…。でも萌絵お姉ちゃん。いいの?」

「へ?今日、何かあったっけ?」

 

その用事があるのを指摘するのが申し訳ない、とでもいうかのような表情のともえ。

出来る事ならそのまま寝かせておいてあげたい…。と心の中で思いながらもそれを告げる決断をするともえ。

 

「今日、プール開き前のプール清掃の日だよ。」

 

そのともえの指摘に萌絵はしばらく時間が止まったかのようにピタリと動きを止める。

やがて、ギギギ。と油が切れたロボットのような動きでともえに顔を向けると

「まじで?」

と絞り出す。

「まじで。」

と返すともえ。

 

そんな二人のやり取りにイエイヌはただただ?マークを浮かべるばかりだ。

「えっと、ともえさん。萌絵さんは何かお困りなんですか?」

「えっとね…。」

困ったような表情のともえが言葉を濁すように話そうとする前に

「解説しよう!」

寝不足のテンションな萌絵が半ばヤケクソといった様子で吹っ切れたかのように動きはじめる。

「プール清掃作業とは!任意参加だけど体育の平常点にめっちゃプラスされる神イベントなのである!」

「あはは…。萌絵お姉ちゃんは体育だけは苦手だもんねえ…。プール清掃で平常点稼いでおかないと補習授業確定だもんね…。」

「そう!!しかもっ!補習授業って1時間ひたすら校庭走るっていう拷問なんだよ!?」

「萌絵お姉ちゃん…。特に長距離走は苦手中の苦手だもんね…。」

その解説にもやはりひたすら?マークを浮かべるイエイヌ。しかしどうやら学校の何かを掃除するらしい事だけは理解できた。

 

「ええと、お掃除するんですよね?わたしもお手伝いしますよ。」

「もうー!イエイヌちゃんありがとおー!」

と萌絵がイエイヌに抱き着きすりすりと頬ずりしちゃう。

「ようし!お母さん!コーヒー淹れてー!うんと濃いやつー!」

 

無理やり、といった様子でテンション上げる萌絵であったが…。

 

「あ、お母さんいないよ。今朝からお父さんの研究所にラモリさんと一緒に呼び出されてるみたいでまだ戻ってないの。」

と、意外な答えに萌絵も?マークを浮かべる。

 

「昨日の夜もお父さん帰ってなかったよね。何かあったのかなあ…。」

そう。イエイヌがうちに来た日から父親は帰宅できない日が続いていた。

仕事が忙しいのだろうか。出来れば早くイエイヌに父親の事を紹介しないとラモリさんが父親というものだと誤解したままになってしまうのではないだろうか。

それよりも今は……。

「そろそろ準備しないとプール清掃の集合時間に間に合わないよ。コーヒー。インスタントでいいならアタシが淹れようか?」

 

そのともえの提案に、何か覚悟を決めた様子の萌絵。指を一本立てると

 

「ともえちゃん…。ともえスペシャルいっちょうプリーズ。」

とオーダーを入れるのだった。

 

 

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そろそろ初夏のじんわりと汗が浮かんで来るような陽気の中を学校へと向かうともえと萌絵とイエイヌの三人。

ともえと萌絵は今日はTシャツに短パンにサンダルという何ともラフな格好である。で、頭の上にはそれぞれ麦わら帽子が乗っかっている。

萌絵は口元を何故か抑えて言う…。

 

「ともえちゃん…。なんでコーヒーにお塩入れちゃうかな…。」

「いやあ。スイカにお塩かける要領で甘くなるかなーって…。」

「ならないよ!」

 

右にともえ、左に萌絵を置いて真ん中を歩くイエイヌはじゃれあう二人をイエイヌは交互に見やって楽しそうに尻尾を揺らす。

 

「でも、おかげで目は覚めたかなー。」

「それはよかった。」

「あのあの、わたしもこーひー?の淹れ方を教えて欲しいです!」

「いいねえ、イエイヌちゃんならコーヒーの淹れ方もすぐに上手になるよー。」

「そしたらともえスペシャルはお払い箱だねえ。」

「もう!萌絵お姉ちゃんヒドイよぉ!」

 

そんな三人で歩く通学路は何とも賑やかだ。昨日の朝、はじめてセルリアンと戦った公園を通り過ぎて遠くに大蛇と戦った旧校舎が見える。

 

「ねえ。昨日の紙飛行機…。あれ、誰が飛ばしてくれたんだろうね。」

ポツリと呟くように言うともえ。

 

「うーん、それはわからないけど、誰かがともえちゃん…、クロスハートを助けてくれた、って事だよね。」

それに空を見上げるように口元に指をあてて考えこむ萌絵。

「実はこっちの世界にもセルリアンハンターみたいな人がいて助けてくれた、とか?」

とイエイヌも一緒に首を捻る。

「うーん。そもそもセルリアンってアタシ達、今まで見た事も聞いた事もないから、それと戦うセルリアンハンターがいるっていうのも聞いた事がないよ。」

「じゃあ、紙飛行機を飛ばしてくれたのはセルリアンハンターじゃないって事でしょうか。」

「うーん。何とも言えないよね。わからない事ばっかりすぎて…。」

イエイヌの疑問に答えるにはいくら萌絵の頭脳をもってしても要素が足りなさすぎる。

 

「今は誰か助けてくれた人…。そうだなー。紙飛行機の君、ってでも呼んでおく?紙飛行機の君がいるって思っておけばいいんじゃないかな。」

いくら考えてもわからないものはわからない。とりあえずの結論は紙飛行機を飛ばしてくれた人を紙飛行機の君と呼ぶという事になりそうだ。

「紙飛行機の君かー。もしかしたらその人ならセルリアンの事に詳しかったりするのかなあ。」

「だったらいいねえ。それに協力しあえたりしたらまたセルリアンが出ても心強いんだけど…。」

「そうですね。いつかゆっくりお話ししてみたいですね。」

遠くに学校の校門が見えてくる。

とりあえず紙飛行機の君については一旦そう結論づけた三人。校門をくぐって屋外プールの方へと進む。

 

プールの入り口前にはこちらも半袖ハーフパンツ姿のヘビクイワシが出席簿を持って立っていた。

「やあ。ともえ君、萌絵君。プール清掃作業に参加でありますな?イエイヌ君もお手伝いでありましょうか。」

「ヘビクイワシさん!もう体調の方はいいんですか?」

尻尾をぶんぶんさせたイエイヌ。出席をとっているヘビクイワシに駆け寄る。

「ええ。もうすっかりよくなりました。イエイヌ君も助けてくれた、と聞いております。ありがとう。」

「いえいえ。大した事はしてないですよ。」

とすっかり仲良くなった二人の様子を見ながらともえと萌絵がほっこりとした笑みを見せる。

 

「さて、それでは遠坂萌絵君と遠坂ともえ君、出席、と。」

ヘビクイワシは出席簿の二人の欄に丸をつけるとかわりに、小さく切られた藁半紙の紙片を渡してくる。

「ヘビクイワシちゃん。これは?」

とその紙片を開いてみるともえ。そこには『デッキブラシ3番隊』と書かれている。

「で、萌絵君はこちらの方がよいでありましょうな。」

と萌絵には『補給部隊 バケツにひたすら水を汲んでね。』と書かれているのだ。

「これは作業分担を割り当てたものになるのでありますよ。かばん君の発案で作業分担を割り振って効率的に作業を進めようという案であります。」

ふふーん、と得意気に腰に手をあてえっへんとしてみせるヘビクイワシ。

「イエイヌ君はともえ君と一緒にデッキブラシ3番隊を手伝ってくれるとよいのであります。」

「わかりました!わたしもお手伝い頑張りますよ!」

尻尾をぶんぶん揺らすイエイヌ。

「それではアッチで庶務のサーバル君とフェネック君が掃除道具を配っているので受け取ってから配置につくのであります。」

プール清掃大作戦の火蓋が間もなく切って落とされようとしていた…。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「みんなー!プール掃除によく集まってくれたのだー!」

 

飛び込み台に昇った生徒会副会長、アライさんが元気に気勢をあげる。

 

「これからプール開きだというのに見ての通りプールはドロドロのぐっちゃぐちゃなのだ!」

とアライさんの背後に広がるプールは水抜きされているものの、ヘドロや藻がたまった惨状を示していた。

屋外プールは夏季いがいは水を貯めたままにしてしまうので、毎年この惨状が広がってしまうのだ。

「みんなー!こんなくっちゃいくっちゃいプールでいいのかー!?アライさんはイヤなのだー!」

という呼びかけに

「「「いやだー!!」」」

と集まった女子生徒達もノリよく答えてくれる。

 

「今日はかばんさん生徒会長が作戦を考えているのだ!かばんさんはな!凄いんだぞ!」

「そうだよ!かばんちゃんはね!すっごいんだから!」

とアライさんの隣の飛び込み台にサーバルも乗っかって

「かばんちゃんはね!いっつも一生懸命で困ってる子の為に色んな事考えて…」

「そうなのだ!かばんさんは凄いのだ!」

 

と話が明後日の方向に行きかけているところに…。

「まったく…。話が脱線しているのです。」

「そうなのです。二人とももっと頭を使うのです。頭を。ちゃんと食べているのですか。」

というのは先代生徒会長の3年生コノハ博士と先代副会長のミミ助手だ。

嘆息してみせるコノハ博士とミミ助手に

「なあにぃー!アライさんはその辺バッチリなのだー!」

と怒ってみせるアライさん。

 

それを見て集まった生徒達にも笑いが漏れる。

「と、ともかく!みんな!!プールアライ大作戦開始なのだー!」

というアライさん副会長の号令とともに、ピーッ!と笛の音が響く。

 

「はい、それではバケツ水まき隊1番から水を持ってこちらに整列してくださーい。」

かばん生徒会長がホイッスルを使って放水指示していく。

 

「続けて水ホウキ1番隊から3番隊、準備してください。こちらからあちらに向かって水を押し出していって下さいね。」

とかばん生徒会長が皆に説明を終わらせたところで…。

「それじゃあ水ホウキ隊出撃なのだー!」

 

とアライさん副会長が号令だしてドロドロのプールに第一陣が降りて水を押し出していく。

「なるほど…。排水溝に向かって水を押し出していくようにちゃんと配置とか考えてるんだねえ。さすがかばん生徒会長だ。」

バケツに追加の水を汲みながらその様子を観察している萌絵。

「はいよー。空バケツにどんどんお水汲んでねー。」

そんな萌絵達補給部隊のもとへ庶務のフェネックが空バケツをどんどん持って来る。

 

「あれ?萌絵さん、もしかして調子よくない?顔色ちょっとよくないから体調悪そうならすぐに言ってねー。」

フェネックが萌絵の顔を覗き込むようにして様子を伺う。

「あー、うん、ちょっと昨日夜更かししちゃって。心配かけてごめんね。調子悪くなったら無理はしないから。」

とフェネックに笑顔を向ける萌絵、それを見て安心したようにほっと息をついてから

「そっかー。じゃあ無理せず頑張ってねー。」

と汲み終わったバケツを持って去っていくフェネック。

 

そして、掃除はテキパキとどんどん進んでいって

「次はデッキブラシ隊のみなさん、1番隊から順番に整列していってくださーい。」

と、いよいよともえ達の出番だ。

ともえの隣にはイエイヌも並んでデッキブラシを構えている。

 

「それじゃあデッキブラシ隊!ドロドロとか藻とかくっちゃいのをやっつけちゃうのだー!突撃ー!!」

デッキブラシ1番隊を率いるアライさんが先陣きってプールに突撃を敢行。

それに「「「おおー!!」」」

と続いていくデッキブラシ隊達。

 

プールにこびりついたヘドロや藻は床面が防水処理コーティングされているおかげでデッキブラシで擦りさえすれば割と簡単に落ちる。

けれどもあまりにも広範囲に汚れが広がっており、この広大なプール全ての床面を掃除するのはあまりにも大変だ。

「おお!?」

と水のないプールの底面に足を降ろしたともえ。一度水で濯いだプールの床面は恐ろしく滑りやすい。

ともえも危うく足を滑らせるところだった。

 

っていうか…

 

「んなあああああっ!?」

アライさんは既に足を滑らせてどろんこになっていた。

 

他にも数名の生徒達が足を滑らせている。デッキブラシは力を入れて擦らないといけないのだが滑る床面ではこれが意外に難しい。

運動部などの運動能力に優れた精鋭部隊を配置したデッキブラシ隊ではあるがそれでも濡れたプールの床面は強敵だ。

数名のコケた女子生徒を出しながらも精鋭デッキブラシ隊は徐々に床面の汚れを取り払っていく。

そして、慣れたところで…

「バケツ水まき隊のみなさん、追加放水お願いします。デッキブラシ隊への誤爆に気を付けてください!」

かばん生徒会長の号令で洗った床面にさらに水が撒かれてデッキブラシで浮いた汚れを洗い流していく。

 

「おおお!?さらに滑りやすくー!?」

ともえ達の足元もさらに濡れて滑りやすさパワーアップである。コケてどろんこ被弾する女子生徒の数も増えていく。

 

「これは確かに効率はいいけど…!」

ともえの頬に一筋の汗が浮かぶ。

デッキブラシ隊は味方の援護射撃という名の砲撃を背中から浴びつつ最前線のヘドロや藻と戦う役割だった。

その戦場はあまりにも過酷。

運動神経には自信ありの精鋭部隊達が次々とコケてどろんこまみれになっていく。

だが…

「やらなかったら終わらないッ!」

「と、ともえさん!?」

「イエイヌちゃん!フォローをお願い!アタシが突撃するっ!」

業を煮やしたともえが雄叫びあげつつ単身突貫!汚れのひどい最前線で次々と汚れを落としていく。

ともえの所属するデッキブラシ3番隊。

ともえの後ろにつくようにして徐々にペースを上げていく。

 

と…

「へっ!やるじゃねーかっ!」

そのともえの隣に並ぶように走り込む一人のフレンズ。

「デッキブラシ2番隊!G・ロードランナーのフレンズ、ゴマ様だっ!俺様の前を走っていいのはプロングホーン様だけだぞっ!」

そのゴマの後ろをフォローするかのようにデッキブラシを滑らせる二人のフレンズが続く。

「ウチのゴマがごめんねー。久しぶりね。ともえ。」

ゴマの後ろを走る二人のうち一人はチーター。陸上部副部長の3年生だ。

「だが、一番前を走るのは私たち陸上部だ!」

そしてもう一人が陸上部部長の3年生。プロングホーンである。

「あのー…。これって掃除だからそういう競争じゃないんじゃないでしょうか…。」

とイエイヌが控えめに指摘するがそのごもっともな指摘の言葉は最前線に突出していくともえとゴマには届いていない。

 

「「うぉりゃああああああああ!!」」

肩をぶつけ合うようにして次々汚れを撃破していくともえとゴマ。

高速でデッキブラシをシャカシャカする様は熟練のカーリング選手もかくやである。

「うむ。それでこそ陸上部だ。」

と腕組みして満足そうなプロングホーンに

「いや、あの二人だけ突出してもダメでしょ…。」

チーターが呆れた表情を見せる。

 

それを余所にともえとゴマの二人はもうすぐプールの端っこへ辿り着こうとしていた。

 

「ちょ…あぶなっ!?」

とチーターが制止の声をあげる頃には時すでに遅し。

「「へ!?」」

スピードが乗り切った二人は止まろうにも滑るプール床面のせいで…

「「と、とまらないー!?!?」」

とプールの端っこ壁面に向かって滑っていくともえとゴマ。

このままでは壁面に激突してしまう。

「えーい!しょうがない!ゴマちゃんごめん!」

ともえはゴマに飛びつきながら倒れ込むとゴマを腕の中に抱き、壁面に自らの背を向ける。

倒れても滑る床面のせいで水しぶきをあげながら壁面へ滑っていくともえとゴマ。

このままでは壁面に激突してしまう。

 

―タッ

 

とそこにプールサイドから一人の人影が飛び出す。くたびれた二本羽根の帽子をかぶったその人は

「かばんちゃん!?」

腕の中にゴマを庇ったままその人影を見やるともえ。

逆側から滑って来たかばん。ともえと交差する際にその腕をとってくるり、と回転させて直線運動を円運動へかえてスイングバイの要領で逆側へと投げ放つ。

プール端から中央近くまで水しぶきをあげながら滑っていくともえとゴマ。そこでようやく、といった感じで止まる。

 

「二人とも無事ですか?念の為ですがお二人が向かう先で準備しててよかったです。」

ふう、と一息をつきながら立ち上がるかばん。着ていた体操着もどろんこである。

「あ、ありがとう…。ごめんね、調子に乗っちゃったよ。」

ともえも立ち上がって

「ゴマちゃんも平気だった?」

と手を差し出す。

 

ゴマがその手を握り返すよりも早く駆け寄ったチーターが

「このおバカっ!調子に乗りすぎだったら!」

とゴマを乱暴に引き起こす。

「アンタ、怪我してないでしょうね!?あー、もうこんな泥んこになっちゃって!ともえも生徒会長もごめんね!ウチのバカ達がほんっとごめんね!」

 

とペコペコ頭を下げるチーター。

「いたたっ!?チーター先輩のが痛いぞ!?おいっ!」

乱暴に引き起こされたゴマではあるがどうやら怪我はなく着ている体操服がドロドロになった程度のようである。

 

「まったく!あんたも悪いわよ!プロングホーン!」

「な、なんでだ!?」

「ゴマはあんたの言う事なら何でも真に受けちゃうんだから少しは考えた言動しなさい!」

「む…。そうか。煽るような事を言ってしまって申し訳ない。」

 

チーターの批判を受けてプロングホーンもともえとかばんに頭を下げてみせる。

 

「はい、そういうわけで皆さん!」

パンっと手を打ったかばん。周囲の生徒達に向けてよく通る声で呼びかける。

「プール内は非常に滑りやすいので走らないように気をつけて作業をしましょう!残りの作業ももう少しです!頑張りましょう!」

そうあらためて呼びかけると

「おー!アライさんにお任せなのだー!」

と元気に飛び跳ねようとしたアライさんが…

「ぶへっ」

と滑って転んで、それを見た生徒達に笑いが起こるのだった。

 




登場人物紹介

名前:ラモリさん
好きな物:家族
特技:試作多機能アーム アナライズ スキャン 通信
赤いカラーリングで目元にサングラスを着けたラッキービーストで通称ラモリさん。
尻尾部分が試作多機能アームに換装されているのが最大の特徴。
ドクター遠坂の手によって改装されたラモリさんは遠坂家で家族と過ごしたりドクター遠坂の研究を手伝ったりと様々なシーンで活躍する。


名前:アライさん
好きな物:フェネック。かばんさん。ワタアメ。
特技:洗い物
ジャパリ女子中学に通う2年生で生徒会副会長のアライグマのフレンズ。
自分の事をアライさん、と呼ぶので上級生からも同級生からもアライさん呼びである。
いつも元気印な子で常に明後日の方向に全力疾走だ。


名前:フェネック
好きな物:アライさん。
特技:アライさんの面倒を見る。穴掘り
ジャパリ女子中学に通う2年生でフェネックギツネのフレンズ。
生徒会庶務を務めており、放っておくと明後日の方向に全力疾走してしまうアライさんの操縦役でもある。
一見するとクールな印象を与えるが、周囲の事をよく観察して面倒見のよい子だ。


名前:コノハ博士
好きな物:ミミ助手 食べる事
特技:理系科目全般
ジャパリ女子中学の3年生でアフリカオオコノハズクのフレンズ。
昨年度の生徒会長を務めていた。
理系科目の成績が特に優秀で周囲からは博士の名で呼ばれる。
生徒会長をかばんに引き継いでからもたまに手伝いで顔を出している。
何よりも美味しい料理が大好きで調理部に入り浸っている。


名前:ミミ助手
好きな物:コノハ博士 食べる事
特技:理系科目全般
ジャパリ女子中学3年生でワシミミズクのフレンズ。
昨年度はコノハ博士と共に生徒会副会長を務めていた。
コノハ博士のフォロー役に回る事も多いが理系科目を中心にその成績はコノハ博士に勝るとも劣らない。
同じく何よりも美味しい料理が大好きだ。
なお、コノハ博士に毎日のお弁当を作るのは彼女の大切な日課である。
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