陸上の地区大会へ応援団として赴いたともえ達。
ところが、陸上部部長のプロングホーンと副部長のチーターがセルリアンに“輝き”を奪われて体調を崩してしまう。
応援団長のともえが抜けてしまえば、その穴は非常に目立つ。
一計を案じた萌絵は変身スプレー(仮)というアイテムを使ってともえの姿に変装し入れ替わる。
萌絵が悪戦苦闘しながらも応援団長を務めている間に、クロスハート、クロスナイト、クロスラピス、クロスラズリの4人がセルリアンを撃破し、“輝き”を取り戻すのだった。
運動部の地区大会も終わってまずは一段落したジャパリ女子中学校。
本来ならほっと一息つくべきところなのだろうが、意外にも校内はどこかピリピリとした緊張感に包まれていた。
ジャパリ女子中学校は来週から期末テスト期間に入るのだ。
そう。それは全生徒にとっての一大事。この試練を乗り越えた先に輝かしい夏休みが待っているのだ。
通常授業最終日となる今日は、教師達の『ここ、テストに出るぞー。』という一言にいつも以上に反応する生徒達が続出した。
さて、2年B組の教室では萌絵が他の生徒達に囲まれている。
「ここ!ここってどうやって訳したらいいの!?」
「ねえねえ、こっちはどの公式使ったらいいのかな!?」
「ここの活用形なんだけどー…。」
と、どうやら萌絵を囲んでいる生徒達のお目当ては勉強を教わる事だったらしい。
一つ一つに丁寧に答えていく萌絵だったが、さすがに大変そうだ。
「ありゃあ…。お姉ちゃん囲まれちゃってるねえ。」
B組の教室にやって来たともえもその様子に苦笑しか出ない。
イエイヌも囲まれている萌絵に近づけずに困っている様子であった。
今はちょうど昼休みに入ったばかりだ。
お昼を一緒しようかと誘いに来たともえであったが、そんな場面に出くわしてしまったのだった。
「どうしましょうか…。このままだとお昼食べ損ねちゃいそうですよ。」
戸惑うイエイヌに、任せろとばかりに頷くともえ。
こんな場面もさすがに慣れたものだった。
ひょいひょい、と人だかりを避けるように萌絵へ近づくと皆に向けて言う。
「はい、みんなごめんねー。続きはお昼食べてからでもいいかな?」
ともえの一言に、萌絵がお昼を食べそびれてしまう事に思い至った生徒達は一言「ごめんね。」と言いつつ解散していった。
「お…。おお…!すごいです、ともえちゃん!」
あっという間に萌絵を救い出したように見えてイエイヌは思わずぶんぶんと尻尾を揺らした。
「ありがとうね。ともえちゃん。助かっちゃったかも。」
「どういたしまして。今日はこのまま教室にいると落ち着かなさそうだし中庭でも行ってみる?」
確かに、お昼を食べ終わった生徒にまた勉強を教えて欲しいと頼まれそうだし、ゆっくりするなら教室を出た方がよさそうだ。
3人は連れだって外へと移動した。
今日は外は天気もいいのに空いていた。
やはり昼休みも勉強に充てようという生徒が多いのだろう。
ちなみに、萌絵は学年トップの成績だし、ともえも普段萌絵から勉強を教わっているおかげであまり慌てずに済んでいる。
「ちなみに、イエイヌちゃんは初めてのテストになるんだよね。大丈夫そう?」
中庭でお弁当を広げたともえはイエイヌに訊ねてみる。
つい数ヶ月前には読み書きすら覚束なかったイエイヌだ。今度の期末テストはさすがに以前の編入試験のように下駄を履かせてもらえるわけではない。
なので、その心配ももっともな事に思えた。
「はい!大丈夫です!」
だが、返って来た答えは何とも頼もしいものだった。
それもそのはず。
「イエイヌちゃんはおうちでもちゃんと予習復習してるからね。今回のテストも結構いいところまで行けると思うよぉ。」
とイエイヌに家でも勉強を教えている萌絵が太鼓判を押していた。
「意外とともえちゃんより成績良かったりして。」
「えぇー…?さすがにそれは…。」
と言おうと思ったともえだったがハタと気が付く。
案外それは冗談ではないかもしれない。
ともえだってイエイヌが普段頑張っている姿はいつも目にしているのだ。
有り得ない話ではない。
「ち、ちなみにイエイヌちゃん?昨日の小テストだけど何点くらいだった?」
昨日、ちょうど数学の小テストがあったのだ。
ちょうど試験前の小テストとあって多くの生徒が試金石だと思って臨んだものだ。
訊ねた当の本人であるともえは88点。好成績と言っていい。
対するイエイヌは…。
「あ、はい。92点でした。」
その答えにともえの笑顔が引きつる。
「そうでした。萌絵お姉ちゃん。後で間違えたところの復習をお願いしてもいいですか?」
「うん。もちろんいいよー。」
そんなともえを余所に、イエイヌはいつもしているように、復習もキチンとするつもりだった。
ずっとこうして真面目に勉強して、教えるのが萌絵なのだからこれで成績が上がらないわけがない。
そんな様子のイエイヌを自慢げにした萌絵が言う。
「ね?イエイヌちゃん、今回のテストでいいところまで行けそうでしょ?」
「うわぁあああん!?本当だよぅ!?イエイヌちゃんに負けちゃいそうだよぅ!?自慢のイエイヌちゃんだけど小学校からずっとお勉強してきたアタシの立場というものがー!?」
イエイヌの努力が実を結んでいる事は嬉しいけれども、それで追い抜かれそうになっているのも悔しい複雑な心境のともえだった。
とりあえず嬉しいのと悔しいのとをぶつけてイエイヌをモフり倒す。
「あぁ…。相変わらずいい毛並み…。落ち着くぅ…。」
「ほんとだねぇ。さすがイエイヌちゃんだねぇ。」
ちゃっかり萌絵まで逆側から抱き着いてイエイヌをサンドイッチモフモフしていた。
こうしてモフり倒されるのも慣れて来たイエイヌである。
「ともかく。今度のテストは3人で頑張りましょう。きっと春香お母さんも喜んでくれますよ。」
きっといい成績が取れれば春香だって喜んでくれるに違いない。
せっかくだから3人揃って褒めてもらいたいイエイヌだ。
「うんうん。でも…!」
ともえは何かを思いついたようにニヤリとして続けた。
「せっかくだから勝負もしよう!」
「ええ!?ともえちゃんと勝負ですかっ!?」
思わずイエイヌは驚いてしまった。
いつもともえとは協力してきた間柄だ。それが勝負だなんて。
「今回の期末テストでどっちがいい点数取れるか勝負するのっ。」
イエイヌは初めての経験なのでどうにもその良し悪しが判断できない。
不安そうに萌絵の方を見てみる。
「悪い事ではないんじゃないかな。喧嘩ってわけでは全然ないし、こうして競争するとやる気も出るし。」
そんなイエイヌの視線を受けて萌絵が頷いて見せた。
それならいいか、とイエイヌも頷きを返す。
「へへへー。実はね…!アタシが勝ったらイエイヌちゃんにお願いしたい事があったんだ…!」
勝負の約束が成立してともえは不敵に宣言する。
一体何をお願いするというのか。まあ、ともえの事だからそこまで変な事ではないとは思うけれど…、とイエイヌも続く言葉を待つ。
「一回でいいからアタシもともえお姉ちゃんって呼んで欲しい!」
なんだそんな事か、とホッと胸を撫で下ろすイエイヌである。
一日中尻尾をモフモフされたりクンクンされたりだったらさすがに少し恥ずかしかったので、お姉ちゃんと呼ぶくらいならお安い御用だ。
「あとあと!ちゃんとアタシに一日甘えるの!」
目をキラキラさせたともえはそんな事を言い出す。
「あれ?でもわたし…。結構ともえちゃんに甘えてるような気がしますけど…。」
「えっとね!えっとね!イエイヌちゃんってあんまり自分からは撫でて!って感じにならないじゃない。だからそこをね!もう撫でてオーラ全開で来て欲しい!そして目いっぱい甘やかしたい!」
「おおおっ!?それはいいかもね!それは目いっぱい甘やかしたくなるね!」
どうやらこの勝負に負けると結構恥ずかしい事になるらしい。それを悟ったイエイヌは身震いする。
ちゃっかり萌絵まで乗っかってともえと一緒に盛り上がってるし。
これは負けられない、と覚悟を決めるイエイヌだったが、ふとした考えが頭に過った。
もしも自分が勝った場合はどうなるのだろうか、という疑問である。
「もし…。もしわたしが勝ったらその時はともえちゃんがわたしをイエイヌお姉ちゃんって呼んでくれるって事でしょうか…。」
ふむ、とその場面を想像してみるイエイヌである。
ともえが少しばかり恥ずかしそうにはにかんで、「イエイヌお姉ちゃん…。」と自分に呼びかけるのである。
「し、しかもわたしに目いっぱい甘えてくれるって事ですよね!?」
イエイヌの想像の中ではともえが仰向けに寝転んでお腹を見せるようにして、「撫でて」と言っていた。
悪くない…。むしろ最高じゃないか、とイエイヌは目を輝かせ尻尾をぶんぶん揺らした。
「そうだねえ。イエイヌちゃんが勝った場合は同じ事を要求しても文句は言えないよねえ。ね、ともえちゃん。」
そんなイエイヌの姿を眺めながら萌絵はニヤニヤしていた。
これは面白い事になってきた、とその顔に書いてある。
「まさか、自分で仕掛けた勝負を取り消したりしないよね?」
「ももも、もちろんだよっ!?どんと来いだよっ!?」
イエイヌの目がやけにギラついていたので若干の気後れをしていたともえだったが、萌絵に乗せられる形で勝負は続行である。
それに、勝てばいいのだ。
こうなれば残りの時間、お勉強を頑張るしかない。
「言っておきますが、全力で行きますよ。」
「望むところだよ…!」
萌絵を挟んで火花を散らし合うイエイヌとともえ。
ちなみに、真ん中に挟まれる萌絵は…。
「(アタシが勝ったら二人とも目いっぱい可愛がってもいいって事かなあ?)」
なんて呑気に考えているのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
市内の学校はどこも似た様な日程で期末テストを行う。
という事は、色鳥東中学校でも期末テストが行われようとしていた。
「ヤマさぁ~ん、ハクトウワシぃ~。もう頭ん中ぐるぐるだよぉ~。」
色鳥商店街前交番の休憩室でマセルカがテーブルに突っ伏していた。
二人は苦笑しながらテスト勉強に悪戦苦闘するマセルカを見守っている。
「頑張って下さい。マセルカ。今までちゃんと勉強してこなかった報いだと思って。」
「セルシコウの薄情ものぉ~!?」
そんなマセルカの勉強を看ているのはセルシコウだった。
彼女もテストはあるが、こちらは余裕の表情だ。
実はセルシコウは転校初日から当てられた問題に難なく答えてみせたり体育で大活躍したりという文武両道ぶりを見せつけていた。
これも、彼女達の世界で予め読み書き計算などの“輝き”を学習していたからなのだが、マセルカはそれを怠っていたらしい。
なのでセルシコウからすればマセルカの自業自得である。
そうして大分煮詰まっているらしいマセルカの前に氷を浮かべた麦茶の入ったグラスを置いたのはオオセルザンコウだった。
同様の物をセルシコウとハクトウワシ、ヤマさんの席にも置いてから訊ねる。
「それはともかく。今日、私達を呼んだのはどういう事なのかな?」
オオセルザンコウ達3人は、今日、ヤマさんに呼ばれてやって来たのだ。
ヤマさんはチラリと時計を見てから答えた。
「うん。前に、キミ達が飲食店を開くにあたって店舗の方には心当たりがあると言っただろう。」
その言葉にマセルカがバッと顔を上げた。
「店舗ってグルメキャッスルの!?」
「ああ。まあ、キャッスルってわけにはいかないけれど、もうすぐ来るはずだよ。」
店舗が来るとはどういう事か、とセルシコウもマセルカもオオセルザンコウもハクトウワシまでもがハテナマークを浮かべる。
ちょうどその時…。
「ヤマさん。待たせたねえ。」
とやって来たのは商店街で飲食店を営む男性だった。
この男性の店舗に間借りでもさせてもらうというのだろうか。
だがそういう事ではないらしい。
「倉庫で埃を被っていたのを持ってきたけど、ここまで持ってくるだけでも結構しんどかったよ。」
男性は交番の前に停められた“それ”を示す。
その姿を見たハクトウワシは思わずつぶやいた。
「これって…屋台?」
それは車輪のついた手押し式の移動屋台だった。
「ああ。俺がまだ若い頃に使っていたものなんだが、ヤマさんに言われて引っ張り出してみたんだよ。」
だが、問題は山積みのようだ。
それは一目見ただけでわかる。
「これ…。すっごいオンボロじゃない?」
思わず言ってしまったマセルカの口をハクトウワシが慌てて抑えたが残念ながら遅かった。
だが、屋台を引っ張って来た男性は気を悪くした様子もなく言った。
「そうなんだよ。大分長く使ってなかったから、このままじゃあ使えないと思う。」
ヤマさんも屋台の周りをぐるぐる回ったり、底面を覗き込んだりして具合を確かめていた。
「そうだね。まず車輪の車軸が歪んでるし、骨組みはともかく、木板が痛んでいる箇所もあるようだから交換が必要かな。」
「あとは車輪自体も一応動いてるけど長年使ってないからこれも交換した方がいいね。」
「もしかして、コンロの方もダメそうかい?」
「いやいや、そっちはチューブを交換すればイケそうだよ。」
オオセルザンコウ達をそっちのけでヤマさんと男性はワイワイと屋台の状態を話し合っていた。
「ふぅむ…。そうなるとこの屋台を使えるようにするのに結構お金がかかるかな。」
「工務店のおやっさんに見積もりとってもらったんだけど、このくらいはかかるよ。」
男性が示した見積書をヤマさんの肩越しに覗き込むオオセルザンコウ達。
その数字が示す金額を見たオオセルザンコウは思わず眩暈がした。
この前陸上大会のお手伝いをして稼いだ金額ではとても足りそうにない。
「うぅん…。飲食店を開く初期費用としては安い方なんだけどね。」
ヤマさんの言う通り、飲食店を開くにもそれなりのお金がかかる。
店舗を借りて内装を整えて、調理器具を揃えて、そして食材を仕入れなくてはならない。
そのうちの店舗と内装を一度に整えられる移動屋台はいい手段だったし、実際にかかる初期費用も破格の安さだ。
それでも、その金額は簡単に払えるような額ではない。
「だが…。これはいい手ではある。」
オオセルザンコウも遊んでいたわけではない。
図書館などでこちらの世界の常識などを色々と調べてもいたのだ。
「確かにヤマさんの言う通り、初期費用としては安すぎると言っていいくらいだ。」
それだけに、ヤマさんが随分と手を回してくれたのもオオセルザンコウは気づいていた。
だから、これ以上ヤマさんや屋台を持ってきてくれた男性に甘えるわけにはいかない。
このお金は自分が稼がないといけないのだ。そう決意したオオセルザンコウはヤマさんに頭を下げる。
「すまないが、また何か仕事を貰えないだろうか。今の私ではこの屋台を直すお金を払えないんだ。」
オオセルザンコウに頭を下げられてヤマさんは頷いた。
「うん。そうだね。実は商店街の会長さんにも聞いてみたら、人手が足りない仕事があるみたいだからそこでバイトが出来ないか頼んでみるよ。」
すっかりヤマさん達には世話になりっぱなしだ。
オオセルザンコウとしてはそんな状態に心苦しさはあるものの、今は甘えるしかない。
「あ。それだったら私もアルバイトしたいです。オオセルザンコウにばかり働かせるわけにもいきませんから。」
「マセルカもー!」
セルシコウとマセルカの二人もヤマさんに頼み込んでいた。
その姿にオオセルザンコウは頼もしさを覚える。
そうとも。
今はこうしてこの世界の人達に甘えるしか出来ないが、それでも『オペレーショングルメキャッスル』は自分達3人が成し遂げなくてはならない。
だが…。
「セルシコウ。すまんが頼む。」
とオオセルザンコウはあえてセルシコウにだけ一緒にバイトしてくれるように頼んだ。
「なんでー!?マセルカは!?マセルカも一緒にやるよう!」
両手をぶんぶんしているマセルカの頭にポンと手を置くとオオセルザンコウは言った。
「マセルカは今度の期末テストで赤点を回避できたらな。」
成り行きとはいえ中学生になった以上、やはり勉学もそれなりには頑張って欲しいオオセルザンコウだった。
「分かった!じゃあすっごい点数とってビックリさせてあげるんだから!ハクトウワシー!今度はこのえーごってヤツ教えてー!」
「わかったわ!英語は昔から得意だったんだから!バッチリ教えてあげるわよ!」
どうやら狙い通りにマセルカはやる気を出してくれたらしい。
早速ハクトウワシとセルシコウに纏わりついてテスト勉強の続きに勤しんでいた。
「まだまだ前途多難だが…。これで『オペレーショングルメキャッスル』も一歩前進か。」
そんな賑やかな様子を見ながら、オオセルザンコウは確かな前進の手応えを感じていた。
の の の の の の の の の の の の の の
「まったく…。テスト時期にだけ図書室を使いに来る者が多いのは呆れますね。博士。」
「ええ。普段からしっかり勉強していないからそうなるのです。助手。」
ジャパリ女子中学校の図書室の主、コノハ博士とミミ助手はテスト前で混雑する室内に溜め息をついていた。
「そんな事言わないで助けてよぉ!コノハちゃん博士先輩、ミミちゃん助手先輩ぃ~!」
そんな二人に抱き着いてほっぺを擦り付けているのはともえだった。
イエイヌとのテスト勝負が決まったのはいいが、思っていた以上に強敵だった事に危機感を募らせたともえは対策を考えに図書室にやって来て、そこで博士と助手を見つけたのだ。
博士と助手は3年生の中でも学年トップと2位の成績を誇る二人だ。何かいい勉強方法を知っているに違いない。
だが博士と助手の二人はジト目で答える。
「そんな物はないのです。毎日の予習復習が重要なのです。一つ一つ積み重ねるのが大事なのです。」
「その通りなのです。テスト前に慌てるようではダメダメなのです。」
「そこを何とかぁ~!?」
とりつく島もない博士と助手をここぞとばかりにモフり倒すともえ。
ちゃっかり二人のモフモフぶりも堪能していた。
「ともえ。お前の学年ならむしろ、かばんを頼った方がよいと思うのです。」
「ちょうど、かばんも図書室に来ているのだから、わからないところを聞いてくるといいのです。」
だが、その提案にともえはゆっくりと被りを振る。
ともえも、図書室にかばんがいるのは気づいていた。
それでも博士と助手を先に頼ったのには理由があった。
かばんは当然のようにサーバルと一緒だった。
「そうそう。そこの問題は、この公式にそれぞれの値を代入してね…。」
「おお!?すっごい!ほんとに解けたー!すごいよかばんちゃん!」
「すごいのはサーバルちゃんだよ。よく出来ました。」
「えへへー。かばんちゃんに撫でてもらっちゃったぁ~。」
と、すっかり二人の世界に浸っていたので声を掛けるに掛けられなかったのだ。
「ちなみに…。二人はあの空気に割って入れる?」
博士と助手は揃って首を横に振った。
「まあ…かばんとサーバルの二人はアレでいいのです。」
「もうあの二人は末永くイチャついてればいいのです。」
博士と助手の言葉にともえも同意とばかりに三人して何度も頷いていた。
「いや、あの…聞こえてますからねっ!?」
と思わずツッコミを入れてしまうかばんであった。
「それよりも、テスト勉強だったら、この後アライさんやフェネックさんも来ますからともえさんも一緒にやりますか?」
「おおお!?マジでいいの!?」
三人寄れば文殊の知恵というものである。
ちょっとだけ希望が見えて来た。
こうなったら博士と助手も巻き込んで人海戦術でもとるか、と画策を始めるともえ。
博士と助手は仕方ないなあ、というように二人して頷いた。
「ちなみに我々はこの後、宝条ルリ達が来るので少しは勉強を看てやるとするのです。」
「宝条ルリは図書室常連なので特別扱いしてやるのです。そのついででいいなら少しくらいは一緒に勉強してやるのです。」
「ほんと!?ありがとう、コノハちゃん博士先輩っ!ミミちゃん助手先輩っ!」
「「だから抱き着くななのですっ!」」
再びともえにモフられながら博士と助手は一つの疑問を持っていた。
勉強だったら普通に萌絵に教わるのが一番効率がいいような気がするんだけどそれじゃあダメなのだろうか、と。
「あー。うん…。それなんだけどね…。」
と、その疑問に答えようとするともえは何だか歯切れが悪い。
だが意を決すると一息に言った。
「まず、お姉ちゃんの事だから、テスト終わったら一番成績がよかったって事でアタシとイエイヌちゃんをまとめて可愛がろうと企んでると思うんだ!」
いやさすがにそれは…。と思った博士と助手だったがすぐに、イヤ、有り得ると考えを改めた。
「そこで一教科くらいはお姉ちゃんよりいい点数とってお姉ちゃんを甘やかしたいっ!」
何とも呆れた理由だ、と博士も助手も思わずジト目になってしまう。
つまり、ともえは萌絵と同じ事をしていても勝てないと踏んで図書室にやって来たのだろう。
そんなともえに博士と助手は口々に言う。
「無謀なのです。」
「アリが象に挑むくらい無茶なのです。」
「二人ともヒドくない!?」
「確かに。アリに失礼だったのです。」
「ミジンコがクジラに挑むくらい無茶なのです。」
「前よりヒドくなった!?」
散々な謂われように肩を落とすともえ。
だが二人の言う事ももっともだ。
それでも…。
「でもさ。この前の陸上大会の時、お姉ちゃんには随分頑張ってもらったじゃない?」
博士と助手も地区大会での顛末は後で聞いていた。
なので、萌絵がともえと入れ替わったと聞いた時にはこれまた無茶をしたな、と呆れたものだった。
「だからさ、たまにはアタシもいいとこ見せて、一日くらいお姉ちゃんを交替して目いっぱい甘やかしたいわけ!」
その言い分はわかるようなわからないような博士だった。
だが、一つハッキリした事は…。
「かばんとサーバルも大概ですがお前達も負けず劣らずなのです。」
「末永くイチャついてやがれなのです。」
どうやらこの学校には過剰に仲良しペアが多いらしいという事だった。
そんなところにかばんもサーバルもやって来た。
「でも、頑張るのは良い事ですよね。せっかくですし挑戦してみたらいいと思います。一緒に勉強しましょうか。」
「やったぁ!さっすがかばんちゃんっ!」
そんな願ってもない申し出にともえはかばんにも抱き着いた。
そして逆側はサーバルが抱き着く。
「私も!私もいい点とってかばんちゃんに甘えてもらうね!」
「お!いいね!サーバルちゃんも一緒に頑張ろうっ!」
「「いえーい!」」
パシン、とお互い手を合わせるともえとサーバル。
もう博士と助手はどこから突っ込んでいいのかわからない。
とりあえずどうしても今この場で言わなくはならない事が一つある。
「お前達…。図書室ではお静かになのです。」
「他の人達の迷惑になるなら追い出すのですよ。」
ゴゴゴゴ、と怒りの炎を背にした博士と助手に慌てて平謝りのともえとサーバルだった。
とりあえず静かになったので、博士は怒りの炎を収める。
「まあ、でもこれで戦力比はオキアミがクジラに挑むようなものくらいになったと言ってやるのです。」
「それでも捕食される側っ!?」
少しは評価があがったらしいけれど、それでも圧倒的な戦力差にともえは再び肩を落とす。
そんなところにアムールトラとユキヒョウとエゾオオカミを伴ったルリがやって来た。
どうやらクロスジュエルチームもみんなでテスト勉強らしい。
と、そこには意外な人物も含まれていた。
イエイヌと萌絵もクロスジュエルチームの皆と一緒に図書室にやって来たのだ。
その理由をイエイヌが説明してくれた。
「実はですね。萌絵お姉ちゃんがテストの予想問題を作ってくれたんですよ。せっかくだから皆で勉強しようかってアムールトラ達も誘ったんです。」
イエイヌが見せてくれた紙には確かに予想問題が記されていた。
2年生の分だけじゃなく、1年生の分まで作っていたとは驚きだ。
「なるほど、これはよく出来ているのです。」
「さすが遠坂萌絵なのです。」
それを見た博士と助手がそう言うのだから、萌絵が作った予想問題はかなり正確に作られているのではないだろうか。
勝負が始まる前から圧倒的な格の違いを見せつけられた気分のともえだった。
「さすがに3年生の分までは作れなかったけどね。」
と小さく舌を出す萌絵だったが、そこまで作られたら3年生の立つ瀬もない。
そうして、みんなが萌絵の作った予想問題集に集まっている間にイエイヌがともえの隣にやって来た。
「ともえちゃん…。萌絵お姉ちゃんにも勝とうとか思ってますよね?」
「うぇ!?」
すっかり見透かされたともえは思わず驚きの声をあげた。
だが、続くイエイヌの言葉は少しばかり意外なものだった。
「実はわたしも同じ事を考えてました。」
そんな告白にともえがニヤリとする。
「つまり…。テストで勝ってお姉ちゃんを思いっきり甘やかすってわけだね…!」
「はい…!」
どうやら企む事は萌絵も含めた3人とも似たようなものだったらしい。
机の下でこっそりと手を握り合うともえとイエイヌ。こうなれば共同戦線だ。
そんな様子を見ていた博士と助手はやはり嘆息する。
ともえも萌絵もイエイヌにも、どうしてそうなるんだ、と言いたかった。
けれども、きっとこの3人にしか分からないような理屈があるのだろう。
「もうお前達は三人まとめて仲良くしていやがれなのです。」
「三人まとめて末永くイチャついてろなのです。」
すっかり賑やかになった図書室で博士と助手は理解を放り出して嘆息した。
期末テストはもう近い。
―後編へ続く。