けものフレンズRクロスハート   作:土玉満

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第19話『イエイヌの戦い再び』(後編)

 

 

「はぁー……。」

 

 色鳥商店街前交番ではハクトウワシが一人、盛大な溜め息をついていた。

 溜め息のみならず、デスクに顎を乗せてぐったりとした様子まで見せている。

 真面目でいつも熱心に仕事をしているハクトウワシのこんな姿は珍しかったが、今は交番に彼女一人だ。

 ヤマさんがオオセルザンコウとセルシコウとマセルカの3人を連れてバイト先の紹介に行ったので、彼女はお留守番だった。

 

「はぁー……。」

 

 もう一度盛大な溜め息をつく理由は何も一人留守番で置いて行かれたからではない。

 そんなところにもう一人、鳥系のフレンズがやって来て呆れた表情を浮かべる。

 

「ちょっとハクトウワシ。どうしたのよ。アンタらしくもない。」

「ああ…オオタカ…。」

「『ああ…オオタカ…。』じゃないわよ。先日の色鳥武道館に現れた不審者だって見つかってないんだからしっかりしてよ。」

 

 やって来たのはオオタカのフレンズだった。

 黒髪に前髪の一部が黄色く、居住まいはクールなのだが、声が少女っぽくて喋るとそんなクールな印象が吹き飛んでしまう。

 そんな彼女はハクトウワシと同期で警察官になったフレンズで交通課に配属されている。

 今は強化されたパトロールの途中で情報共有の為に色鳥商店街前交番にも立ち寄ったのだ。

 

「住宅街方面のパトロールを実施。異常なし。」

「了解。こちらも商店街のパトロール強化を引き続き実施するわ。」

 

 お互いに業務連絡が終わると、再びハクトウワシは机に突っ伏す。

 

「あー…。」

「もう。一体全体何があったの?」

 

 すっかりだらけた様子のハクトウワシにオオタカは仕方ない、と空いてる椅子を手繰り寄せて話を聞く体勢になった。

 相変わらず机に突っ伏したままのハクトウワシは顔だけをオオタカに向けて言った。

 

「いや…。お給料をあげる方法って何かないかしら。」

「何よ、藪から棒に。」

 

 とはいえ、オオタカはハクトウワシの悩みを何となく察した。

 どうやらお金にまつわる事らしい。

 となると、これは力になれる類の話ではないのだろう、とオオタカも悟っていた。

 それに、警察官は公務員なのでアルバイトなどの副業を行う事は出来ない。

 

「いや…。その…。いきなり娘が3人くらい出来て、一人前になるまで育てるのってどのくらいお給料がいるのかなあ…って。」

「何なのよ、そのやけに具体的な想定は…。」

 

 ここまで言われるとオオタカの頭にはハクトウワシに関する一つの噂話が思い出された。

 生真面目な彼女がまさかそんな事をするわけがない、と一笑に付した噂話だがちょっとだけカマをかけてみる事にした。

 

「アンタが中学生に手を出したって噂と関係ある?」

 

―バン!

 

 と机を叩いて立ち上がるハクトウワシ。

 

「人聞きの悪い事言わないでよ!?一緒に住んでるだけだからっ!?」

「いや、同棲ってもっと悪くない…?」

「違うの!?そういうのじゃなくてー!?」

 

 どうやら思った以上にカマをかけた効果はあったようで、ハクトウワシは大いに慌てて見せた。

 それにしても驚いた。

 まさかあの堅物と思っていたハクトウワシが中学生と同棲なんて大それた真似が出来るとは。

 

「でも中学生はまずいでしょ。通報した方がいいかしら?おまわりさん、こっちでーす。」

「だから違うってば!?っていうか私達がおまわりさんでしょ!?」

 

 これ以上オオタカにからかわれるわけにはいかない。

 ハクトウワシはかいつまんで今までの経緯を説明した。

 ある雨の日に生まれたてのフレンズ3人組を保護した事。

 なし崩しで一緒に暮らし始めた事。

 そして、二人は中学生として学校に通っている事。残る一人が何とか生計を立てようと頑張っている事。

 

「3人を引き離すのもかわいそうだし…。だから私がまとめて引き取ろうかなって思うんだけど、それでちゃんと皆を養えるのかって考えると…。」

 

 オオセルザンコウ達の前ではいつも通りに振舞っていたハクトウワシだったが、彼女達がいない場ではこんな風に思い悩んでいた。

 

「そうねぇ…。家族が増えたなら、家族手当だとか、住宅手当なんかは出るだろうけど…。」

「へ?そうなの。」

 

 警察官は公務員だ。

 副業が禁止されている分ある程度の給料は保障されているし、家族が路頭に迷ったりしないように配慮されてもいる。

 

「今度、経理に訊いてみなさいな。その辺りは多分だけどちゃんと申請しないとダメでしょうから。」

 

 そうした補助には疎かったハクトウワシは希望を見出した気分だ。

 

「Thank You!オオタカ!やっぱり持つべきものはCoolな友人ね!」

「はいはい。調子がいいんだから。」

 

 とりあえずはハクトウワシも調子を取り戻してくれたか、とオオタカも一安心だ。

 

「ああ、そうそう。もしもその子達をお嫁さんにするつもりなら、ちゃんと入籍してから手を出しなさいよ。私はアンタに手錠を掛けるなんてゴメンだから。」

「だからそんなんじゃないったら!?」

 

 とはいえ、3人ともとても可愛い子達だとは思っているハクトウワシだ。

 オオセルザンコウはよく気が回るし、掃除洗濯なんかの家事も得意。

 セルシコウは3人の中でも一番料理が上手ですっかり胃袋を掴まれてしまった。

 マセルカは少し生意気なところもあるが甘え上手だし一緒にいると元気になる。

 最初は戸惑ったけれど、今では3人のいない生活なんて考えられない。

 ふむ、としばらく考え込んだハクトウワシは真剣な表情をわざわざ念入りに作ってから呟いた。

 

「ちなみに……。3人ともお嫁さんにする方法ってあるかしら?」

「やっぱり今のうちに逮捕しておいた方がいい気がしてきたわ。」

 

 オオタカは呆れ半分で応じる。

 ハクトウワシなりのジョークなのはわかるが、うっかり道を踏み外したりしないようにだけは気を付けて欲しいものだと苦笑まじりに思うのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 ジャパリ女子中学では今日から期末試験が始まる。

 テスト期間中は授業は午前中のみ。

 その全てがテスト時間に充てられる。

 

「じゃあ、3人とも頑張ってね。」

 

 見送る春香の前にはそれぞれに決意の表情の戦士達がいた。

 いつも通り余裕すら感じさせる萌絵とは対照的に、ともえとイエイヌは気合十分といった様子である。

 

「今日モ俺はついていけないガ、頑張ってこいヨ。」

 

 最近はお留守番が多くなってきたラモリさんは今日も見送る側だ。

 家では3人のテスト勉強に付き合っていたので、今回もきっといい結果を出してくるだろうと確信していた。

 

「(マア、もっとも今回はそればかりジャないようだがナ。)」

 

 どうやら3人のうち誰が一番いい点数をとるか競争をしているらしい事はラモリさんも知っていた。

 下馬評としてはもちろん萌絵が圧倒的に優勢だが、イエイヌは毎日勉強だって頑張っていた。その成長には目を見張るものがある。

 それにともえは萌絵ほど勉強が得意なわけではないけれど、勝負ごとには強い。

 

「(案外面白い結果になるかもしれン。)」

 

 と考えるラモリさんだ。

 いずれにせよ3人とも頑張って欲しい。

 そんな願いと共に送り出されるともえと萌絵とイエイヌの3人。

 通学路を行く生徒達も今日は単語帳をめくりながら歩いていたりする者が多い。

 やはりテスト前のどこかピリピリと張りつめた空気が感じられる。

 それは校舎の中も、そして教室の中も一緒だった。

 ともえ達も余裕をもってそれぞれの席に着いた。

 程なくして、始業のチャイムが鳴ってホームルームが始まる。

 それが終わればいよいよ期末テストの幕が切って落とされる。

 最初の教科は数学だ。

 それぞれの席に問題文と回答用紙が配られる。

 まだ問題文は裏返しのままだ。

 

「それでは、始めて下さい。」

 

 試験官の合図と共に全ての生徒が一斉に問題文を表に返した。

 2年B組の教室ではイエイヌが問題文を目に一筋の汗を浮かべる。

 

問1 次の連立方程式のxとyの値を求めなさい。

4x+2y=2

4x+5y=-7

 

 これは最初から強敵だ。

 xに攻撃をしようと思えばyが邪魔をし、yに攻撃をしようとすればxが邪魔をする。

 まるで問題文が…。

 

「ふっふっふ。我ら連立方程式の連携を崩せるかな?」

「我らが共にある限り如何なる攻撃も通用せんぞ!」

 

 とでも言っているかのようだ。

 一度深呼吸してもう一度問題文に立ち向かうイエイヌ。

 萌絵に教わった事を思い出す。

 

『いい?連立方程式には二つの解き方があるの。一つは代入法。もう一つは…。』

「加減法…!」

 

 イエイヌはメインウェポンのシャープペンを走らせて途中式を書き込む。

 

4x+2y=2

-)4x+5y=-7

__________

-3y=9

y=-3

 

「ば、バカな!?二つの式を引き算してxを打ち消しただとっ!?」

「yの値を出された以上xの値を求められるのも時間の問題かっ!?」

 

 鉄壁を誇るはずの連立方程式はそのコンビネーションを崩された。これこそが加減法である。

 そのままの勢いでイエイヌは一番最初の式のyに-3を代入する。

 そうなれば方程式を解くのは簡単だ。

 

4x+2(-3)=2

4x-6=2

4x=2+6

x=8÷4

x=2

 

「連立方程式は最初にxかyどちらかの値を求められるようにすればきちんと倒せる。そう萌絵お姉ちゃんに教わりました。」

「「な、なんだとぉおおお!?」」

 

 問1の連立方程式を撃破したイエイヌはシャープペンを構えなおして次の問題文へ進もうとする。

 

「ふ…。問1は我ら数学問題文の中では一番の小物。」

「次の連立方程式が貴様に解けるかな!?」

 

 そこへ立ちはだかったのが問2だ。

 

問2 次の連立方程式のxとyの値を求めなさい。

 

x=-y+3

2x+5y=9

 

「ふはは!今度は二つの式を足そうが引こうが我らのバリアを打ち消すなど出来ぬぞ!」

「今度こそこの問題で足止めされるがいい!」

 

 勝ち誇る連立方程式にイエイヌは申し訳なさそうな顔をする。

 

「あの…。いえ…。その…。xの方はもうそのまま代入できちゃうのでは…。」

「「へ?」」

 

 まだよくわかっていない顔の連立方程式にどういう事かを説明するには、言葉よりも途中式を書いた方が早そうだ。

 そう思ったイエイヌはメインウェポンのシャープペンを走らせる。

 

2(-y+3)+5y-=9

 

「し、しまったっ!?xにそのまま-y+3を代入されたら……。」

「yの値が求められてしまう!?」

 

 こちらがもう一つの連立方程式の解き方、その名も代入法だ。

 すでに連立方程式の鎧の半分は剥ぎ取ったも同然だった。

 慌てる問2の連立方程式コンビにイエイヌはシャープペンの切っ先を突きつける。

 

「覚悟はいいですね。」

「「ば、ばかなぁああああああっ!?」」

 

 断末魔の悲鳴を残す問2を越えてさらにイエイヌは突き進む。

 かつて鎧袖一触で倒された二桁の足し算引き算コンビがイエイヌのその姿を「「強くなったな…。」」と誇らしげに見送るのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 さて、期末テストは2教科目の英語へと突入していた。

 2年A組の教室では、ともえが縦横無尽ともいうべき動きで英語のテスト問題に挑んでいた。

 

「さあ。我を英訳するがいい!」

 

問3 彼女は夏休みに海に行きます。

 

「おお。いいねえ。アタシもみんなで海とか行きたいなあ。」

 

 と思いつつも、ともえはその問題からくるりと背をむけて一目散に逃げ出した。

 

「な!?」

 

 と驚く問3を無視して、先に問4の「次の日本語を英単語にしなさい。」という問題をあっさりと撃破していく。

 

「ごめんごめん、時間かかりそうな問題って後回しにしちゃうタイプなんだ、アタシ。」

 

 それはテスト攻略における基本テクニックでもある。

 敢えて時間のかかる長文読解や英文和訳、和文英訳などを後回しにしてわかる問題から片付ける。

 そして、残った時間で難問に挑むのだ。

 そうする事で、「あ!あの問題わかったのに答えを書き込む時間がなかったー!」という事態を防ぐのだ。

 イエイヌが剣と盾で正面から切り込む重装戦士タイプならば、ともえは細剣を手にスピード重視で戦場を駆け巡る軽戦士タイプだ。

 次々と時間のかからない単語問題を終わらせて、一度、問題文を最初から最後まで眺める。

 そうしてから、問3へと戻って来た。

 

「お待たせー。問3が一番時間かからなそうだし、キミからやらせてもらうよ!」

 

 あらためてシャープペンの細剣を問3に突きつけるともえ。

 まず主語は『彼女は』となっているのだから当然sheである。

 英文の土台は『彼女は海へ行く』というのが基本となるからshe go to the seaとなる。そこに『夏休みに』という時間を示す言葉をつけないといけないのでshe go to the sea in summer vacationとするのがいいだろう。

 だが、そこに罠があった。

 

「それでは不正解だ!」

 

 問3の和文英訳はしてやったり、とばかりにともえの背後に潜ませた伏兵に合図を出す。

 この問題は『夏休みに海に行く』という未来表現が出来るかどうかがキモなのだ。

 ともえが今の考えのままでは未来表現がないので不正解となってしまう。

 

「分かってるよ。夏休みは未来の事って読み取れるもんね。だから、この前習ったwillかbe going toのどっちかを使えって事だよね。」

 

 ともえは背後から襲い来る攻撃を振り返る事なくジャンプ一番かわしてのける。

 そのままくるり、とトンボを切って問3の背後を取った。

 

「敢えて問題文を夏休みっていう未来か過去かわからない時間にして不意打ちを狙ったんだろうけど、残念だったね!」

 

 ともえは解答欄に書き込む。

 

She will go to the sea in summer vacation.

 

 と。

 その瞬間にズシャリ、と音を立てて問3は倒れた。

 

「見事だ…。最後に教えてくれ…。どうして…、どうしてbe going toではなくwillを使った…?」

 

 どちらを使おうが解答としては正解である。

 She is going to go to the sea in summer vacation.でも正解ではあるのだ。

 けれど、ともえがwillを使ったのには理由があった。

 

「何となく、一つの文に二つもgoとgoingってあるの変な感じがしたからかなあ。」

 

 その答えに問3は満足気な笑みを浮かべた。

 

「確かにな…。willの方が納まりのよい文になる…。」

 

 ともえは倒した問3を後目に次の問題へ取り掛かる。

 まだまだ問題文は多い。

 

「よぉし!いっくよー!」

 

 気合を入れ直したともえは大量の問題文へ突撃していった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 イエイヌが正面切って戦いを挑む重装戦士、ともえがスピードと機動力を活かした軽戦士と喩えたが、では残る一人の萌絵はどうなのか。

 一言で言うなら怪盗だ。

 教師達が100点満点を阻止すべく張った狡猾な罠をものともせずに潜り抜けて、己のシャープペンを正解の鍵へと変幻自在に変えて難問の扉を苦もなく開く。

 次々に襲い掛かる問題文は萌絵にカスリ傷一つ与えられずにバタバタと薙ぎ倒される。

 

「(今日はともえちゃんもイエイヌちゃんもたくさん頭を使って疲れてるだろうから、甘いオヤツ作ってあげようかなあ。)」

 

 それで片手間に、今日のオヤツのメニューを考えていた。

 何がいいだろう、と思い悩む方が問題を解くより苦労しているかもしれない。

 まさに無敵。

 ハッキリ言って萌絵だけ格が違ったのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そんな調子で3日間の期末テストの日程は全てが終わった。

 手応えを感じて余裕の笑みを浮かべる者。不勉強を後悔する者。開き直って結果を待つ者。

 いずれの生徒達にも結果は返って来る。

 ちなみに、成績上位者10名までの名前は掲示されるのでテストの返却を待たずして勝負の結果が一部判明する。

 テスト終了翌日に登校後、早速成績上位者を見に来たともえとイエイヌと萌絵の3人。

 

「やっぱり3年生は博士先輩と助手先輩が1位と2位かー。」

 

 まず、3年生だが、今回もコノハ博士とミミ助手がワンツーフィニッシュで首位を守った。

 続けて1年生の方も見知った名前が掲示されていた。

 1年生の1位にはアオイの名前があったのだ。

 やはり生真面目に勉強してきて、それが成績にも反映されたのだろう。

 その他にも、3位にルリの名前があった。

 最近勉強も熱心に頑張っていたらしいルリは転校後初めてとなるテストでも好成績を残したらしい。

 さらに、8位にユキヒョウ、10位にギンギツネの名前もあるではないか。

 後で会ったらおめでとうを言おうと考えるともえ達だった。

 ただ、その前に肝心の2年生の結果を見ないといけない。

 果たして2年生学年1位の成績に掲示されていたのは…。

 

「萌絵お姉ちゃん…ですね。」

「だね…。」

 

 やはり今回も首位をキープしたのは萌絵だった。

 当然これで3人のテスト勝負も勝者は萌絵という事になる。

 ちなみに、2年生学年2位の成績はかばんである。学年6位にはヘビクイワシの名前もあった。そして学年8位にはフェネックがランクインしていたようだ。

 2年生の方は成績上位者はいつもの顔ぶれという感じである。

 

「ま、まだだよ!実は1教科くらいはお姉ちゃんに勝ってるかもしれないじゃない!」

 

 ともえの言う通り、萌絵との勝負はハンデとして1教科でも勝てたら勝ちという事にしていたのだ。

 だが、残念ながらともえとイエイヌの名前は成績上位者10名の中には見当たらなかった。

 これでは各教科ごとの勝負でも萌絵に勝てる望みは薄そうだ。

 それに、ともえもイエイヌも今回のテストは皆で頑張って勉強しただけに上位10名に入れなかった事は残念だった。

 

「まあまあ。ともえちゃんとイエイヌちゃんの勝負も残ってるよ。」

 

 肩を落とすともえとイエイヌを慰める萌絵だった。

 この後、朝のホームルームでテスト成績の通知表を渡されて、テストの答案返却は各授業の時間に行われる事となる。

 なので勝負の結果が分かるのはそれ以降の休み時間に通知表を見比べた後の話だ。

 ホームルーム開始前の予鈴が鳴って、成績上位者掲示の前に集まっていた生徒達も教室へ戻っていく。

 ともえも一旦萌絵とイエイヌと別れて緊張とともにA組の自分の席に着いた。

 今さら緊張しても成績に変動はないのだが、それでも緊張してしまうのは仕方がない。

 それぞれの名前が呼ばれてテスト成績の通知表が渡される。

 ともえは恐る恐る自分の通知表を開く。

 成績は充分優秀と言えるものだ。総合順位も14位と前回の中間試験に比べて大健闘だ。

 問題は、イエイヌに勝てたのかどうかと、1教科でも萌絵よりいい点数が取れたのかどうかだ。

 果たして結果は………。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 昼休み。

 今日も天気がよかったので中庭でご飯にしたともえ達であったが、今日はちょっとだけ様子が違う。

 

「ふっふっふー。両手に花だねえ。」

 

 萌絵が片側にともえを、逆側にイエイヌを抱えてご満悦の表情だった。

 結局、ともえもイエイヌも1教科として萌絵に勝つ事は出来なかったのだ。

 なので勝者特権として二人には今日一日目いっぱい甘えてもらう事にした。

 

「くぅー!?保健体育くらいなら何とかいけないかなって思ったのに!?」

 

 主要5科目で勝てなくても、保健体育や音楽、美術、家庭科などなら勝ち目もあるのではないかと思っていたともえだったが残念ながらアテが外れた。

 特に、保健体育は萌絵は満点だった。

 

「いやあ。テストで点数稼いでおかないと、保健体育は補習になっちゃうからね。実は一番勉強頑張ったんだよ。」

 

 体育の実技は苦手中の苦手としている萌絵である。

 なので補習回避の為にもテストでの座学は決して落とせないもので、萌絵も一番力を注いだ教科だった。

 つまり、そこに勝機を求めたのはともえの完全な作戦ミスだったわけだ。

 さて、ともえとイエイヌの勝負の結果ではあるが…何と二人揃って同じ総合成績、学年14位という結果だ。

 各教科ごとに点数の上下はあったが、最終的な合計点数は全く同じだったのだ。

 

「なので、勝負はアタシの一人勝ちだねぇ。」

 

 もう鼻歌でも歌い出しそうにして、抱えたともえとイエイヌを撫でまくる萌絵である。

 なんせこれで今日一日は妹達二人を目いっぱい甘やかす権利を手にしたわけだ。

 上機嫌にもなろうというものだ。

 一方のともえとイエイヌはといえば、されるがままではあったがどこか不満気でもある。

 その原因はといえば、萌絵に勝負で負けた事ばかりではない。

 もちろん、ともえとイエイヌの勝負が同点で決着がうやむやになってしまった事も関係ない。

 ではその理由は一体何なのか。

 

「お姉ちゃんごめんね。」

 

 唐突なともえの言葉に萌絵はハテナマークを浮かべる。

 その後をイエイヌが引き継いだ。

 

「実は、陸上の地区大会では萌絵お姉ちゃんに凄く頑張ってもらったじゃないですか。」

 

 まぁ、確かに陸上の地区大会で萌絵はともえと入れ替わるという無茶をした。

 その後数日は筋肉痛で歩くのも大変だったくらいだ。

 けれど、それが今回の成績勝負とどう関係があるのか萌絵にはわからなかった。

 

「えっとね…。アタシ達のどっちかが勝ったら萌絵お姉ちゃんにも一日くらいお姉ちゃんを交代して気兼ねなく甘えてもらえるかなって。」

 

 ともえの告白にイエイヌも何度も頷いていた。

 萌絵は疲れた時なんかにはひたすら甘えん坊になるので、甘えるのが嫌いというわけではない。

 だから、頑張ってもらったお返しに彼女が気兼ねなく甘えてもらえるようにするつもりだった。

 二人でそんな事をこっそり共謀していたらしいと知った萌絵は小さく笑みを浮かべてからコホンと咳払い一つ。やけに改まった口調で言った。

 

「はい。そんなともえちゃんとイエイヌちゃんにお姉ちゃんからお報せがあります。」

 

 二人とも何だろう?と小首を傾げる。

 

「実はお姉ちゃんにはこっそり自慢にしている事があります。」

 

 それは一体?

 ともえもイエイヌも続く言葉を待った。

 

「生まれてから13年と4か月、一日も休まずともえちゃんのお姉ちゃんだった事です。」

 

 えっへん、と言わんがばかりの萌絵であった。

 

「もちろんこれからも一日だって休まずに、ともえちゃんとイエイヌちゃんのお姉ちゃんだよ。」

 

 萌絵は二人まとめて抱き寄せて続けた。

 

「時々頼りなかったりダメになったりするお姉ちゃんだけど、これからもよろしくね。」

 

 確かに、萌絵は時々甘えん坊になったりする。

 けれども、ともえもイエイヌも頼りないなんて思った事はない。だから答えは決まっていた。

 

「お姉ちゃんは世界一のお姉ちゃんだよ。」

「はい。萌絵お姉ちゃんは世界一のお姉ちゃんです。」

「「ねー!」」

 

 言って二人して両側から萌絵をサンドイッチにするともえとイエイヌだった。

 こうして、夏休み前最後の試練となる期末テストも終わりを迎えた。

 きっと楽しい事がたくさん待っている夏休みになるだろう。

 そう確信する遠坂3姉妹であった。

 

 

けものフレンズRクロスハート第19話『イエイヌの戦い再び』

―おしまい―

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