このお話は、けものフレンズR秋の投稿祭用に書いた作品です。
企画詳細はこちらです。
https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im10596761
本編とは時系列がちょっと違う未来のお話になりますがよかったらお楽しみ下さい。
【けものフレンズRクロスハートとは!】
かつてヒトがいなくなって荒廃したジャパリパークで暮らしていたイエイヌはオイナリサマの手によって別な世界へ送られた。
そこはセルリアンがいなくて平和でヒトもフレンズも仲良く暮らす賑やかな街だった。
そこで遠坂ともえと出会い、その家族である双子の姉、遠坂萌絵、そして母の遠坂春香と幸せな日常を過ごしていた。
ところが、その世界にもセルリアンが現れる。
別世界でセルリアンと戦う事が出来たイエイヌは通りすがりの変身ヒーロー、クロスナイトとなって街を守る。
今日のお話はそんなクロスナイトの物語である。
空気が乾いて吹く風に涼しさと一緒にどこか寂しさも混じる季節になった。
秋である。
色づいた葉が時折舞う公園を一人歩くのはイエイヌだった。
「はっくさい、エノキに、シイタケ、にんじーん♪」
楽しそうに一人歌うその手には買い物袋が提げられていた。
イエイヌはお使いの帰りだった。
バッチリ任務達成。きっと春香も褒めてくれるに違いない。
季節も巡って、今では一人でお使いだって出来るようになったイエイヌだ。
近道の公園を通って今日はタイムアタックにも挑戦だ。
今日のお使いリストに卵が入っていないのは運がよかった。
少しばかり速度を上げたって卵を割ってしまう心配はないのだ。
イエイヌは一度あたりを見渡して人影がないかどうかを確かめる。
イエイヌが全力を出すと、その速さに周囲を驚かせてしまうのだ。
なんせ彼女はこの世界とは異なる別な世界からやって来たのだ。
フレンズと人が近しい存在となって、よりヒトと近い生活を送れるようになったのがこの世界だ。
その代わり、フレンズは動物の力を失い、野生の力を発揮できる者もまたいなくなってもいた。
イエイヌのいる世界ではとある天敵との戦いが日常茶飯事であった為に、その力はこの世界のフレンズ達と比べて強力なものだった。
ちょっと本気を出せば、公園の遊歩道に積もった落ち葉を巻き上げて、秋の風よりも速く走る事だって出来る。
そうして人影のない公園の遊歩道をひた走るイエイヌだったが、あるベンチの前でふと立ち止まった。
そこはかつてイエイヌがともえと出会ったベンチであった。
確かに思い出の場所ではあるが、それだけなら立ち止まる理由にはならない。
だが、そこに一人のフレンズがうなだれて座っていたのなら話は別だ。
そのフレンズは前髪が伸びていて目元を覆い隠すようになっている。うなだれているのを含めても何だか内気そうな印象だ。
それに彼女が持っている尾ヒレは水棲動物のものだ。
一体どうしたのだろう。何か困り事だろうか。
かつてイエイヌはこちらの世界に来たばかりの時、ともえにこのベンチで声を掛けてもらってとても救われた。
だから、誰かが困っているのなら今度は自分が助けになる番だ。
「へーい。かわい子ちゃん。そんなしょぼくれた顔してちゃせっかくの尾ひれと背びれが台無しですよ。」
イエイヌはかつてともえに声を掛けられた時と同じようなセリフでもってその水棲動物のフレンズに話しかけた。
そんなイエイヌに彼女はしばらく驚いたようにポカンとしていた。
イエイヌは膝を折ってそのフレンズの前にしゃがみ込むと下から前髪の下の瞳を覗き込むようにする。
まん丸の可愛らしい目と視線があった。
「よかったら何に困っているのか教えて貰えませんか?わたし、こう見えても数々の難事件を解決してきた正義の味方なんです。」
えっへん!
とでも言いたげなドヤ顔のイエイヌ。ついでに尻尾がぶんぶん揺れていた。
最初、新手のナンパか何かかと思っていたベンチに座っていたフレンズだったが、思わず撫でまわしたくなるような人懐っこいイヌのフレンズが声を掛けてきたのだとわかって思わず…
「ぷっ…。」
と吹き出してしまった。
「お?笑いましたね。うんうん。そっちの顔の方が元気があって好きですよ。」
そんなナンパなんだかよくわからないセリフを言うのが自分なんかよりよっぽど可愛らしいイヌのフレンズだ。
「あはははは!」
可笑しくてたまらなくなったベンチに座っていたフレンズはお腹を抱えて笑い出した。
ひとしきり笑った彼女は、ようやく落ち着いてから自己紹介をした。
「私はね、シャチっていうの。急に笑ったりしてごめんなさい。」
「いえいえ。元気になってくれて嬉しいですよ。わたしはイエイヌです。」
お互いに自己紹介したところでシャチが横にズレてベンチのスペースを開けた。
イエイヌも遠慮なくそこに腰掛ける。
お使いは順調だ。少しくらいの道草ならば許容範囲だろう。
イエイヌはシャチの言葉を待つ。
「ええとね…。私ね…。今度のハロウィンでわるわる団になるの。」
イエイヌは聞きなれない言葉に小首を傾げた。
ハロウィンというのは一緒に暮らす家族であるともえや萌絵から教えて貰った。
なんでも仮装してお菓子を貰うというイベントらしい。
春香がイエイヌの分も張り切って衣装を作ってくれている。なのでとても楽しみなイベントだ。
だがそれよりも、わるわる団とは一体何なのか。
シャチはそんなイエイヌの疑問に答える。
「えっとね…。私は小学校の6年生でね。ハロウィンの子供会で、お菓子を配るの。一番上の学年になったお姉さんの役割なの。」
「ほうほう…。それがどうしてわるわる団?というのになるのですか?」
お菓子を配る役とわるわる団というものがどうにもイコールで繋がらないイエイヌである。
「でね…。今年はお菓子を奪った悪い悪いわるわる団から仮装した子供たちがお菓子を取り戻すってストーリーなの。」
なるほど、とイエイヌにもようやく合点がいった。
そしてシャチが何に思い悩んでいたのかもだいたい見当がついた。
この短い時間でも分かった事だが、シャチはわるわる団というよりも「いい子いい子」と撫でたくなるようなフレンズなのだ。
そんな彼女がわるわる団なんて役柄をこなせるのか。
確かにこれは難問かもしれない。
「つまり、シャチさんはわるわる団になれるかどうか不安を感じている、と。」
イエイヌの確認にシャチはコクリと一つ頷いた。
「うーん…。」
「ねえ、イエイヌさん。私はどうしたらいいのかな。」
腕を組んで考え込むイエイヌにシャチは藁にもすがる想いで訊ねた。
「そうですね。わたしだけではいい考えが浮かばないです。」
その答えにシャチがガッカリするよりも早く、イエイヌは彼女の手をとって立ち上がった。
「ですが、わたしだけではダメでも、みんなで一緒に考えたらきっといいアイデアが浮かびます!」
力強く言うイエイヌに、シャチは不思議と不安が薄れていくのだった。
そのまま二人は落ち葉舞う遊歩道を駆け出した。
の の の の の の の の の の の の の の
喫茶店『two-Moe』はこちらもハロウィン風の飾り付けがされていた。
照明にはカボチャのランタンを模したカバーが取り付けられて、秋の紅葉を象った飾りがテーブルを彩る。
さらにはお客さんが座るイスの背もたれにも小さなジャック・オー・ランタンやデフォルメされたコウモリの人形が置かれていた。
まさにハロウィンモードである。
―コロン、コロン。
ハロウィンモードでドア鈴もジャック・オー・ランタンを象ったものになっていたのだが、それが来客を報せる。
「ただいま戻りましたー!」
ドアを開けたのはイエイヌだった。
「おかえりなさい。」
と、出迎えたのはイエイヌが暮らす遠坂家の母親である遠坂春香であった。
背丈が低く、若い容姿も相まって随分と年下にみられる事の多い彼女であるが、とても頼りになる母親である。
そんな春香はイエイヌの背中に隠れるようにしているシャチに気が付いた。
「あら。イエイヌちゃんが随分かわいいフレンズちゃんをお持ち帰りしてきたのね。」
そんな言葉に目ざとく反応したのはイエイヌの家族である双子の姉妹であった。
「お、おおお!本当だ!なになに、この子どうしたの!?」
「イエイヌちゃん…。お使いのついでに可愛いフレンズちゃんまで連れてくるようになって…。立派になったね…。」
最初が緑がかった髪色のともえで、続いた方が黒髪の姉である萌絵だった。
「もうー!ともえちゃんも萌絵お姉ちゃんもっ!シャチさんがビックリするじゃないですかっ!」
「「ごめんごめん。」」
ぷんすか、と怒ってみせるイエイヌにともえも萌絵も両手を合わせて謝っていた。
さすがに双子だけあってともえと萌絵の動きは見事にピッタリ揃っていた。
「それで、どうしたの?」
「シャチちゃんだっけ?遊びに来てくれたの?」
と冗談は程々にして訊ねるともえと萌絵にイエイヌはかいつまんで事情を説明した。
すると、二人はやはり同じ動きで腕を組んで「うーん。」と同じように頭を捻る。
「わるわる団…なんだかシャチちゃんには似合わない感じの役だね。」
「そうなの…。それで上手に出来る自信がなくて…。」
萌絵の言葉にシャチも力なく頷いた。
確かにこの様子を見るにわるわる団なる悪役を出来る性格には思えない。
そんな彼女の肩に力強く手を置いたのはともえだった。
「大丈夫だよ!だってシャチちゃんの元になった動物には二つ名があるんだよ。」
わるわる団とシャチの二つ名が何か関係があるのか、とイエイヌもシャチも揃って小首を傾げた。
「シャチって動物はね、海のギャングって呼ばれているんだ。」
「海のギャング…。」
ともえが教えてくれた二つ名に、イエイヌはもう一度シャチの顔を覗き込む。
とても可愛いくてギャングという名称は連想できない。
それでもともえは強く頷いてみせた。
「だから大丈夫。シャチちゃんはちゃんとわるわる団を出来るよ。」
海のギャングと呼ばれる動物のフレンズなのだから、子供会の悪者役だってちゃんと出来るというのはいささか根拠に乏しい。
それでも、真っ直ぐに見つめるともえの視線を見ていると不思議と不安が薄れていく。
理屈よりも勢いでやる気だけは沸いて来た。
「けど…。」
それでもまだシャチには不安が残っていた。
本当に一人でそんな事が出来るのか。
そこに萌絵がニマリとしながら言った。
「じゃあさ、取り敢えず形から入ってみるっていうのはどう?」
ついでとばかりに萌絵はヒョイとラモリさんを抱えあげてみせる。
ラモリさんとは赤いカラーリングのラッキービーストで尻尾部分が試作多機能アームに換装されているのが特徴だ。
そして目元には黒いサングラスを掛けている。
萌絵はラモリさんの目元のサングラスをコショコショとくすぐるようにしてから、自身も予め用意していた同じデザインのサングラスを掛けてみせた。
その姿を見たともえとイエイヌとシャチの3人は一様に同じ事を思った。
「「「ちょ、ちょっとだけワルに見える…!」」」
「オイッ!?俺はワルぶってサングラス着けてるわけじゃないゾッ!?」
思わずラモリさんのツッコミが入ったけれど、萌絵が言いたい事はわかった。
「そう。せっかくのハロウィンだもの。わるわる団に仮装しちゃえばいいって事だよ。」
「ええ。ちょうどよくイエイヌちゃんの分の衣装だって用意してたもの。せっかくだからシャチちゃんも仮装しちゃいましょう。」
いつの間にやって来ていたのか。春香がお客さん用のコスプレ衣装を用意していた。
『two-Moe』ではハロウィン企画でお客さんにもコスプレしてもらえるよう衣装を準備していたのだ。
そして何より…。
「つまり、イエイヌちゃんもシャチちゃんも可愛く仮装させちゃってイイって事だね…!最高じゃない!?」
と本音が漏れるともえだった。
春香と萌絵とともえの3人には共通点がある。
それはフレンズが大好きな事だ。
そんな彼女達は手をワキワキさせながらイエイヌとシャチに迫る。
「ええと…。あの…。」
「なんかお姉さんたち目が怖いような…?」
それから小一時間ほど。
イエイヌとシャチの二人は着せ替え人形となるのであった。
の の の の の の の の の の の の の の
さて、子供会のハロウィンイベント当日。
シャチは『two-Moe』で借りた衣装でバッチリと仮装していた。
黒いマントと口元に小さな牙。それと目元に赤い筋を傷のように書いている。
彼女の目元を隠す前髪と相まって見事に不気味さを醸し出す事に成功していた。
シャチの仮装は吸血鬼というべきものだった。
「私は…!海のギャング…!!」
シャチはバサァ、とマントを翻すと先日『two-Moe』で演技指導してもらった通りにワルっぽいポーズを決めて思い切って叫んだ。
「わるわる団!」
きゃあきゃあ、と楽しそうな表情で逃げ回る仮装した子供達。
「はーっはっは!逃げ回るのならお菓子はこのわるわる団が独り占めしちゃうぞぉー!」
衣装に身を包んでみたら覚悟が決まったシャチである。
子供達に配るお菓子の入ったバスケットを高く掲げて見せる。
そんな楽しそうな様子をこっそりとイエイヌが覗いていた。
シャチが上手くやっているか心配で様子を見に来たのだが、これなら杞憂だったようだ。
イエイヌは満足して踵を返そうと思ったが、瞬間ザワリ、と背中が総毛立つイヤな予感がした。
続けて自慢の鼻にそのイヤな予感の正体が感じ取れた。
「まさか……!」
イエイヌがバッと振り返った先、シャチが高く掲げたバスケットが黒い水のようなものに包まれていた。
お菓子の入ったバスケットは黒い水に包まれてグニョグニョと形を変えて、やがてカボチャ頭に白いローブを纏った怪人へと姿を変えた。
ローブの下は細長い針金のような手足と胴体がついていた。
イエイヌはその正体を知っていた。
それこそがイエイヌがかつて暮らしていた世界で天敵だった存在。セルリアンである。
カボチャ頭のセルリアンはおとぎ話のジャック・オー・ランタンのように見える。さながらハロウィンに現れたハロウィンセルリアンと呼ぶべき物なのだろう。
ハロウィンセルリアンは未だ驚きに固まる子供達に向けて針金のような手を伸ばす。
その手の中にキャンディが現れると、高速で回転を始めた。
「ま、まさか!?」
イヤな予感にシャチは飛び出すと、ハロウィンセルリアンが指さした子供を抱えて身を投げ出した。
―バキィ!
直後放たれたキャンディの弾丸が先程まで子供がいた地面を抉っていた。
状況はよくわからないが危険な事だけはシャチにも分かった。
だから叫ぶ。
「みんな!逃げて!」
これは余興やイベントなのではないかと思っていた子供達も、イベントを運営する大人達もようやく我に返った。
子供達を守るようにして逃げ出す。
シャチも抱えた子供と一緒に逃げようとした。
しかし、ベタリ、と足が地面に張り付いたように動かない。
よく見ると、足元が茶色のチョコレートで固められて動かす事が出来ない。これもハロウィンセルリアンの仕業なのか。
そのシャチに向けてハロウィンセルリアンは再び指で鉄砲の形を作るとそれを突きつけた。
その指先に高速回転するキャンディが現れた。
先程と同じようにキャンディの弾丸を放つつもりなのだろう。
それを悟ったシャチはせめて抱えた年下の子だけは、と腕の中に庇う。
キャンディの弾丸が放たれれば大怪我は避けられないだろう。
シャチは固く目を閉じた。
―ガキィイン!
その耳に甲高い金属音が響く。
けれど、シャチの身には何も起こってはいなかった。
どうして、と目を開けたシャチの前には翻る短いマントが見えた。
続けて金属製の脛当てをつけた足、デフォルメされた犬の顔を模したガントレットをつけた腕が見える。
その左腕には丸形の盾が握られていた。どうやらそれでキャンディの弾丸を防いだらしい。
「大丈夫ですか?」
振り返ったその人物はピンと立ったイヌ耳に目元を隠すミラーシェードを付けていた。
「も、もしかして…。」
シャチも子供達も知っていた。
巷で噂になっている通りすがりの正義の味方。その一人…。
「「「「クロスナイトだぁー!!」」」」
避難しようとしていた子供達とシャチの叫びが重なった。
「はい。クロスナイトです。ここは任せて逃げて下さい。」
言うとクロスナイトは右腕にけものプラズムを変化させた武器を構える。その名も…
「ナイトソード!」
である。
それは一見すると大きな骨のように見える。骨型の棍棒に剣の柄をつけた代物で鈍器の類なのだが、ソードったらソードなのだ。
クロスナイトはそれを地面に叩きつけてシャチの足を捕らえていたチョコレートを割り砕く。
「さて、あなたの相手はわたしですよ。セルリアン!」
そうしてからあらためてクロスナイトは骨の独特の丸みを帯びた切っ先を突きつける。
見た目は不格好な剣かもしれないが今まで多くのセルリアンを倒したくさんの人達を救ってきた剣だ。
対してハロウィンセルリアンもローブの下から長いステッキを取り出す。
それは色鮮やかなスティックキャンディである。
―ガキィイン!
骨型の剣とスティックキャンディ型の剣が激突して火花を散らす。
ギチギチ、と鍔迫り合いが続く。
どうやら針金のような身体に似合わずハロウィンセルリアンはかなりのパワーを秘めているらしい。
鍔迫り合いの場面を見ていたシャチの目にハロウィンセルリアンが空いている手で鉄砲の形にした指をクロスナイトに向けるのが映った。
「あ、危ない!」
思わず叫んでしまうシャチと同時にハロウィンセルリアンがキャンディの弾丸を放つ。
しかし、それはクロスナイトだって気づいていた。
左手の盾、ナイトシールドで防ぐ。
と同時、ハロウィンセルリアンのスティックキャンディソードの力が緩んだ一瞬をクロスナイトは見逃さなかった。
ハロウィンセルリアンを押し切ってナイトソードを一閃!
しかし、ハロウィンセルリアンも大きく後ろに飛び退って剣戟をかわす。
そのまま距離を開けつつキャンディの弾丸を次々に連射してクロスナイトに浴びせかけた。
キャンディの弾丸を剣で払い、盾で受けるクロスナイト。
一進一退の攻防に思わず子供達もイベント運営の大人達もそしてシャチもそれを見守っていた。
そして、懸命に戦うクロスナイトの姿にシャチの口から知らず言葉が漏れていた。
「頑張れ…。頑張れクロスナイトぉー!」
それは同じく見守る子供達にも広がっていった。
「頑張れクロスナイトぉー!」
「負けないでぇー!」
子供達の応援にクロスナイトは苦笑する。
出来れば早く安全なところに避難してもらった方が安心なのだが…。
だけれども、応援されてイヤなわけでもなかった。
だから安心させる為にもいいところを見せなくてはいけない。
クロスナイトは意を決すると大きく息を吸い込み…。
「あぁああぉおおおおおおおおおん!」
と遠吠えを一つ。ビリビリと空気が揺れる。
それはクロスナイトの技の一つ『ウォーハウリング』である。遠吠えで自身の身体能力を一時的に引き上げる技だ。
クロスナイトは前へと踏み出す。
未だに浴びせられるキャンディの弾丸を剣と盾で打ち払いながら、1歩、また1歩とハロウィンセルリアンに迫る。
少しでも連射の手を緩めれば一気に踏み込まれる。そう判断したハロウィンセルリアンは全力でキャンディの弾丸を連射するしか出来なくなっていた。
それでもクロスナイトの歩みは止まらない。
ついに剣の間合いにまで詰められてしまった。
―ギッ!
業を煮やしたハロウィンセルリアンはスティックキャンディソードによる刺突を繰り出した。
―パキィイイイイン!
だが、そんな苦し紛れの攻撃は通用しない。クロスナイトが自身の剣でスティックキャンディソードを真っ二つに叩き折った甲高い音が響く。
剣を失い無防備になったハロウィンセルリアンに対してクロスナイトは必殺の間合いに踏み込んでいた。
「ナイトスラァアアアアアッシュ!」
ついに必殺のナイトスラッシュ(殴打)を繰り出すクロスナイト。
だが、ハロウィンセルリアンにもまだ悪あがきが残っていた。
―ガキィイン!
その攻撃はハロウィンセルリアンが中空に出現させたビスケットの盾に阻まれたのだ。
その盾の影に隠れてハロウィンセルリアンはキャンディの弾丸を中空に大量に展開した。
連射は効かないが大量の弾丸を広範囲に浴びせかけられる技、キャンディショットガンである。
そんなものを放たれれば子供達もシャチも危ない。
クロスナイトは意を決した。
相手の盾を乗り越える、と。
まずは自身の剣と盾を敢えて捨てた。
空いた両手にサンドスターをかき集める。
そこから放たれるのはクロスナイトの必殺技だ。
「ワンだふるアタァアアアアアック!!」
両腕を顎に見立てた攻撃はビスケットの盾を噛み砕いた!
「もう少し硬いビスケットの方が好みなんです。犬用ビスケットくらいの硬さがいいですね。」
どうやらハロウィンセルリアンの作った盾もクロスナイトにはまさにビスケットくらいの役にしか立たなかったらしい。
そのまま今度こそ無防備となったハロウィンセルリアンの『石』を狙う。
それはカボチャ頭の額にあった。ワンだふるアタックの余勢を駆ってクロスナイトはその『石』を掴んだ。
バキン!と音を立ててそれを握りつぶすのとハロウィンセルリアンの身体がパッカァーン!と砕けるのはほぼ同時だった。
キラキラとしたサンドスターの光が降り注ぐ中、『石』を砕いたクロスナイトの手にはお菓子の入ったバスケットが握られていた。
それは先程までセルリアンが憑りついていた物だったが、『石』を砕いた事で元に戻ったらしい。どうやら中身も無事のようだ。
クロスナイトはシャチの前まで行くとそのバスケットを差し出す。
「やはり貴女にわるわる団は似合わないんじゃないかなって思います。」
未だ呆けているシャチにクロスナイトはその手をとる。
「貴女が子供を守ってくれたおかげで間に合いました。ありがとう。」
そしてその手にバスケットを握らせると続けた。
「ええと、ハッピーハロウィン。」
それだけを言い残して短いマントをバサリと翻しクロスナイトは去って行く。
シャチはその後ろ姿を紅潮した頬で見送るのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
ハロウィン当日。
今日は夕方から喫茶店『two-Moe』でも仮装した子供達にお菓子を配る予定になっていた。
きっと食いしん坊なフレンズ達が気合の入った仮装でやって来るのだろう。
さて、一番乗りは誰だろう、と待ってる春香と萌絵とともえの3人である。
ちなみに、イエイヌはといえば春香の作った衣装、ネコマタに仮装していた。
「「ワンコ要素と猫要素が合わさり最強に見える!」」
ともえと萌絵にはこんな具合に大好評であるがイエイヌはやはり慣れない衣装に恥ずかしさを覚えていた。
そうしていると…。
―コロン、コロン。
ジャック・オー・ランタンを模したドア鈴が鳴る。
どうやら最初のお客さんらしい。
「ハッピーハロウィン!トリック・オア・トリートッ!」
果たして一番乗りを果たしたのはシャチであった。
しかしその仮装はイヌ耳バンドにダンボールを加工して作ったガントレットと脛当て。そして腰までの短いマントを纏っていた。
その姿にはともえも萌絵ももちろんイエイヌも見覚えがあった。
「シャチちゃん。それってもしかして…?」
訊ねるともえにシャチは一つ頷いて見せるとキッパリと言った。
「そう!クロスナイトだよ!格好いいでしょっ!」
バサリ、と芝居がかった調子でマントを翻してみせるシャチにイエイヌはなんとも複雑な笑顔を浮かべる。
なんせクロスナイトの正体はイエイヌなのだ。
萌絵が作ってくれた“ナイトチェンジャー”というアイテムでクロスナイトに変身してこの街を守って来た正真正銘通りすがりの正義の味方だった。
何はともあれ仮装して来てくれたのだ。約束通りにお菓子を配らないといけない。
「ハッピーハロウィン、シャチさん。」
イエイヌはお菓子の入った袋を一つ、シャチへ手渡す。
と、何かシャチは不思議そうな顔をしていた。
どうして既視感を感じるのだろう、と。
「ねえ、イエイヌさん…?イエイヌさんってもしかして…?」
言いかけてシャチは被りを振る。
まさかね、と。
「ううん。やっぱり何でもない。」
怪訝な顔をするイエイヌにシャチは満面の笑みで言葉を引っ込めた。
自分の考えが正しくても間違っていても構わないが、ただ一つだけ思った。
シャチが公園で困っていた時にイエイヌが言った、
『わたし、こう見えても数々の難事件を解決してきた正義の味方なんです。』
という言葉はもしかしたら彼女を元気づける為の冗談というわけではないのかもしれない、と。
けものフレンズRクロスハート秋の番外編『秋の夜長のクロスナイト』
―おしまい―
【後書き】
今回は本編から大分未来の出来事になるのでイエイヌちゃんの性格も少しだけ本編から成長した感じになっています。
けものフレンズR秋の投稿祭に併せた番外編となっています。
さて、今回はシャチちゃんが登場したわけですがイヌシャチもいいですね…!
ちょうどけもフレ3で開催中のイベントストーリーでイチャイチャしている二人を見て自分もイヌシャチを書きたくなってしまいました!
イエイヌちゃんが幸せそうにしてると自分的にも幸せです。
実は今回初めて未来の出来事を書く事になったので上手く出来たかどうかわからないのですが本編から続く未来の可能性の一つと思って貰えると嬉しいです。
本編の方はこれから夏休み編に突入していく予定です。
本編の方もよろしくお願いします!
【セルリアン情報公開:ハロウィンセルリアン】
ハロウィンのお菓子に憑りついたセルリアン。
頭はジャック・オー・ランタンのようなカボチャ頭で白いローブを着て針金のような手足や胴体を持っている。
攻撃方法はキャンディを弾丸にして飛ばしてくるキャンディショット。
それを一度に多数同時発射するキャンディショットガン。
そして接近戦になった際にキャンディで出来た杖を剣変わりにするスティックキャンディソードなどである。
さらに、チョコレートを足元に流して敵を動けなくする技もあるし、ビスケットを中空に出現させて盾代わりにするビスケットシールドという防御技もある。
接近戦から遠距離攻撃までこなすセルリアンだが、防御力は高くない。
多彩な技を如何にして潜り抜けて攻撃を当てるかが攻略の鍵だ。