夏休み前の最後の試練となる期末テストへ挑むともえ達。
せっかくだから点数勝負もする事になった。
無謀にも成績優秀な萌絵にまで勝負を挑むともえとイエイヌ。
テスト勝負に勝って萌絵をひたすら甘やかそうと企むものの、残念ながらそれを果たす事は出来なかった。
それでも期末テストで好成績を残した皆は無事に夏休みを迎えるのだった。
「夏休みだぁー!」
ともえは大きく伸びをする。
今日は1学期終業式である。これから学校は約1ヶ月間の夏休みに入る。
今日は授業もなく、終業式とホームルーム、大掃除と午前中のみで学校も終わりだ。
夏休みは何をしようか。
考えるだけでワクワクしてくる。
「ねえねえ、皆はなにか予定あるの?」
帰り道でともえは後ろに続くみんなに振り返る。
今日はいつものイエイヌと萌絵の他にもルリ、アムールトラ、ユキヒョウ、エゾオオカミのクロスジュエルチームとかばん、サーバル、アライさんとフェネック、博士助手のクロスシンフォニーチームも一緒だった。
「我々は図書館で勉強の予定なのです。」
「受験生なのです。仕方ないのです。決して図書館に開館から閉館時間まで入り浸ってやろうなどと考えているわけではないのですよ。」
と言いつつも顔に楽しみで仕方ない、と書いてあるコノハ博士とミミ助手である。
敢えてそこにツッコミを入れるのも野暮というものか、と他の一同は苦笑と共に受け流す。
すると今度はルリが挙手した。
「えっとね。私は前住んでたおうちをお掃除しに行きたいな、って。」
それには全員感心したようにルリを見る。
自分から掃除すると言い出すのはなかなか出来る事ではない。
そういえば、ルリは以前は人里離れた場所で暮らしていたのだったか。
その家も当然残っているわけで、家には掃除や手入れが必須である。
ただ、それを行うべきはルリではなく保護者である“教授”の役割ではないのか。
「まあ…、ウチらの場合、放っておくと母さんがアレやからな。」
アムールトラの苦笑に全員が「あぁ……。」と納得してしまった。
“教授”は家事には基本ずぼらである。
その分、宝条家の家事はルリが一手に引き受けている結果、しっかりせざるを得ないのであった。
「なんじゃったら、わらわも手伝うかの?」
「ユキさん本当!?それは助かっちゃうかもっ!」
アムールトラは力仕事こそ得意だが、細かい作業が得意な方ではない。
なので気配り上手のユキヒョウは大きな戦力であった。
「出来たら俺も手伝いたいとは思うんだけどさ…。夏休みは商店街の手伝いでバイトする予定なんだ。」
と申し訳なさそうに言うのはエゾオオカミだった。
彼女は商店街に暮らしている。
キタキツネやギンギツネもそうだが、商店街に暮らすフレンズ達は誰もが商店街が大好きでその役に立とうと頑張っている。
だから、エゾオオカミも夏休みは商店街の手伝いに奔走するのが想像に難くなかった。
「アタシ達も夏はバイト増やせちゃうねー。お母さんが何かイベントとか考えるかも。」
というのは萌絵だった。
ともえとイエイヌも含めて3人は家でやっている喫茶店『two-Moe』の手伝いをしている事も多い。
夏休みにそれが増えるのは当然といえば当然ではある。
「アルバイトですかぁ…。ボクも何かしてみようかなぁ…。」
バイトのお話が続けば、かばんもアルバイトしてみたいなあ、と考え始めた。
何か欲しいものでもあるんだろうか?とかばんを見やる一同。
「圧力鍋とかハンディミキサーとか低温調理機とか欲しいなぁ、って。」
確かに調理器具の中にはお高いものも多い。
中学生のお小遣いでは荷が重いものだって少なくないのだ。
きっと、かばんの事だから新しく揃えた調理器具でサーバルに美味しいものを食べさせようなんて考えているに違いない。
そこにアライさんがキラキラした目で割り込む。
「おお!?何か作るのだ!?かばんさん!何か作るのだ!?」
「あはは、はい。いいアルバイトを見つけるのが先ですが。」
「だったらさー、アライさーん。私たちもかばんさんと一緒にバイトしちゃうー?」
「おおおお!?フェネックぅ!?さすがなのだ!天才なのだっ!」
そうなれば、当然…。
「はいはーい!私も!私も一緒にやるぅー!」
とサーバルも加わるに決まっている。
それに目をつけたともえは早速バイト先の提案をしようと考えた。
「ねぇねぇ、だったらさ。うちでバイトできないかお母さんに聞いてみようか。」
かばんとサーバルのメイド服姿は見たけれど、とても可愛かった。
それにアライさんとフェネックまで加わるとなれば、まさに無敵の布陣というものだ。
だが、そこに意外にも待ったがかかった。
なんと、エゾオオカミがヒョイ、とかばんを引き寄せたのだ。
「悪いが、実は商店街でも人手が足りてないんだ。こっちなら4人まとめてバイト出来そうなんだが、どうだ?」
「あぁー!?ず、ズルイよっ!エゾオオカミちゃんっ!?」
ほっぺたを膨らませるともえだったが、ビシリ!と指を突きつけられてしまう。
「いいか?ともえ先輩。バイトするにしたって募集人数ってものがあるだろう?4人いっぺんにってなると相当大きな仕事がないと暇になっちまうぜ。」
エゾオオカミの言う通りだった。
当然アルバイトを雇う側には人件費というものを支払う必要がある。それを考えずに大量雇用なんてした日には赤字まっしぐらだ。
ともえが助けを求めて振り返った先の萌絵も、視線で「諦めなよ。」と言っているのだった。
「まあまあ。ともえちゃん。アルバイトが一緒じゃなくても一緒に遊べる機会だってありますよ。」
となだめるイエイヌだった。
夏休みは学校がない。となると、イエイヌだってみんなと会えなくて寂しい。
「だから、何か集まって遊べませんか!」
そんなイエイヌの提案には全員がうんうん頷いていた。
せっかくの夏休みだ。理由がなくたって一緒に遊びたい。
「だったら早めに何か考えておかないとね。」
萌絵が早速携帯電話のスケジュール帳を開く。
夏休みは長いようで短い。
ボヤボヤしていたらあっという間に終わってしまうのだ。
「海にも行きたいし、キャンプとかも楽しそうだし、あ、あと青龍神社の夏祭り!アレも楽しみだなあー!」
横からともえがそのスケジュール帳にちょっかいを出して予定を書き込んでいく。
「そんなに予定詰め込んだら夏休みがいくらあっても足りないねえ。」
そう言って苦笑する萌絵だったが、なるべくならともえの希望も叶えてやりたい。
きっと今年の夏休みはいつも以上にアッと言う間に過ぎていくのだろうな、なんて思うのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
エゾオオカミは自宅に戻ると、まずは学生鞄を自室に置く。
さて、明日から商店街で新しいイベントが始まるらしい。
そのイベントで人手が必要という事で、エゾオオカミにも声が掛かったのだ。
一体何を始めるつもりなのか、それはまだわからない。
今日の午後からその説明会をするらしい。
「そういう事だから、お母さん。お昼は後からで。」
ヒョイっと店舗側に顔を出してから出かける事を伝える。
エゾオオカミの母親はやはりエゾオオカミのフレンズである。
毛足が長くて細身のプロポーションだが、一番の特徴は隙なく着こなした和服だろう。
それに目元や唇を彩る化粧もバッチリだ。
エゾオオカミの家は和服屋を営んでいる。
普段店舗で客を見かける事は稀なので、儲かっているのか不思議に思う事があるが、着付けや衣装レンタルなどでちゃんと経営出来ているらしい。
そんな和服屋を営む母親はエゾオオカミから見ても美人だ。
昔はかなり勝気な性格だったらしいが、今では着物の似合うおしとやか美人という感じなのだ。
「ええ。今日は商店街の新イベント説明会だったわね。そうだわ。エゾオオカミちゃんに似合いそうなカンザシがあるから付けて行かない?」
自慢の母親ではあるが、事あるごとに自分にオシャレさせようとしてくるのが玉に瑕だろうか、なんて思うエゾオオカミである。
「あ、それともコッチの匂い袋なんか試してみる?そうだわ。せっかくだもの。いっそ浴衣着てみる?きっと似合うわぁ。」
「いや、すぐ出るから…。ゴメンな。」
どんどんエスカレートしそうなのでエゾオオカミは早々に出掛ける事にした。
「でも、お腹空いてるでしょう?はい、これ。持って行って。」
母親が渡してくれたのはいつも使っているお弁当用の巾着袋だった。
今日は学校が午前中で終わりだったから使わなかったものだ。
すぐに出かけるのは分かっていたから気を利かせてお弁当を作っていてくれたのだろうか。
「簡単におむすび握っただけだけど、後で食べてね。」
これはありがたい。集合時間が思っていたより早かったから、昼食を食べる時間がないかと思っていた。
空きっ腹を抱えたままでなくて済むのは助かる。
エゾオオカミは礼を言うと巾着袋を受け取った。
すると、エゾオオカミはふと気が付いた。
今日の母親はいつもと少しだけ違うな、と。
しばらくじーっとその顔を観察してみる。
ああ、そうか。
「口紅、新色か?いいな、それ。似合ってる。」
いつもと違うのは化粧か、と思い至った。
しばらく驚いたように目を丸くする母親に、藪を突いてしまったかとエゾオオカミは肝を冷やす。ならば蛇が出る前に退散だ。
未だ呆けている母親が我に返る前にエゾオオカミは「じゃあ行って来ます。」と、さっさと出かけて行ってしまった。
その背中を呆けたまま見送る母親だったがようやく我に返ると、ぐっ!と握り拳を握ってガッツポーズだ。
「ようやく…。ようやくあの子もオシャレに目覚めてきたのね…!最近は香水まで持ち歩いているみたいだし…!」
はしたない、と思いつつも母親は小躍りしてしまっていた。
ボーイッシュを通り越して男勝りなエゾオオカミであるが、あの子は磨けば光るのだと母親は思っている。
そして、この家業はやはりオシャレに興味があったほうがいい。
全然飾りっ気のない娘を心配していたが、最近では香水なんて持ち歩くようになったのだ。
「でも、あんな香水どこで手に入れたのかしら…。」
母親は考え込む。
考えられる可能性は、と思考を巡らせる彼女に一つの天啓が走った。
「誰かいい人が出来たのかしら!?」
だとすれば、そのいい人からのプレゼントで香水を貰ったとしても不思議はない。
そして、そのいい人によく見られたいからオシャレにも気を使い始めた…。
しかも、先程自分の口紅を褒めた手管。あれも誰かいい人が出来たからこそ身に着けたものだとしたら…。
母親の頭の中でどんどんと線が繋がっていく。…間違った方向に。
「ああ…、どうしましょう!どうしましょう…!取り敢えず今夜はご馳走ね…!」
さて、そんな母親は置いておいてエゾオオカミは商店街を歩く。
目的地は中央市場だ。
中央市場とは近年区画整理をして、八百屋や魚屋や肉屋などの食材を売るお店を集めた区画の事を指す。
毎日地元農家のゲンブファームから送られてくる新鮮な食材達は商店街の目玉商品の一つだ。
それが一同に集まる中央市場は商店街でも最も活気に溢れた場所だ。
エゾオオカミが中央市場を訪れると、やはりそこは沢山の人達で賑わっていた。
商店の主達も忙しそうに立ち回っている。
さて、呼び出された中央市場まで来たはいいけれど、そこからどこに行けばいいのか。
忙しそうな商店主を呼び止めて訊ねるのも申し訳ない。
「ええっと…。誰か手の空いてそうな人は…。」
キョロキョロと回りを見渡すとエプロン姿を付けた店員の後ろ姿が目についた。
野菜の入ったダンボールを運ぼうとしている様子だ。
今から仕事に取り掛かろうというところで、始まる前の今なら比較的余裕があるかもしれない。
「あ、あの。すみません。」
それでも仕事の邪魔をしてしまう事にエゾオオカミは申し訳なさを感じてもいたが、いつまでも迷っているわけにもいかない。
意を決して声を掛けた彼女に振り返った店員さんは…。
「はい、どうしましたか?」
とイヤな顔一つせずに振り返ったが、何とそれが見知った顔だった。
金色の髪飾りにハチミツ色の髪。それにシュルリと伸びた猿の尻尾は忘れたくても忘れられない。
「セ…セルシコウ…?お前こんなトコで何やってんだ…?」
「なに、とはご挨拶ですね。そりゃあアルバイトですよ。アルバイト。今日から夏休みですからね。」
思わず言葉を失いかけたエゾオオカミだったが、辛うじてそれを訊ねる事が出来た。
対してセルシコウの方は何を当たり前の事を?とでも言いたそうに答えると、食材の詰まったダンボールを抱える。
1段、2段、3段と重ねたダンボールをヒョイと持ち上げたものの、それでは顔の高さまでダンボールが積みあがって前が見えない。
「だー!?それで歩いたら誰かにぶつかる!?危ないから一回降ろせ!1個俺が持ってやるから!?」
そんな状況で歩いてごった返す人にぶつかりでもしたら一大事だ。
エゾオオカミは半ば強引にセルシコウを引き留めるとダンボールを一つ抱えた。
「あら、ありがとうございます。じゃあ、コレをお弁当屋さんまで運びますよ。」
エゾオオカミは後悔した。
てっきり八百屋まで持って行って商品補充なのかと思っていた。
ところがどっこい、どうやらセルシコウは配達に出るところらしかったのだ。
1箱だけとはいえ、野菜の詰まったダンボールは結構重い。
それを涼しい顔で2箱も持ち上げているセルシコウはやはり只者ではない。
もっとも、お弁当屋さんもそこまで遠いわけではなかった。
お弁当屋さんや飲食店などは中央市場を囲むように配置されている。
そうする事で買い物客の利便性を高め、大型ショッピングモールに対抗する戦略なのだ。
ダンボールを抱えたセルシコウとエゾオオカミが連れ立って歩く。
「で…、なんでまた商店街でアルバイトなんだよ。まさかまた何か企んでるんじゃないだろうな?」
「うーん。企んでいない、と言えば嘘になりますが、単にお金が要り様だというのが一番大きな理由でしょうか。」
セルシコウの横顔を眺めるエゾオオカミ。
嘘を言っているようには見えない。
というか何か企んでるのか。そこまで正直に言ってしまうあたり、やはりセルシコウはそんなに悪いヤツには思えなかった。
「で?今度は何を企んでるっていうんだ?」
「そりゃあアレですよ。『グルメキャッスル』を作るんです。」
その『グルメキャッスル』とやらは何なんだ、とエゾオオカミも疑問を持つ。
言葉の響きからすると危険なモノではなさそうだが…。
「私達の世界には誰もが虜になった究極の輝き…“料理”があります。」
「いや、俺らの世界にも料理くらいあるぞ。…と、それは置いといてお前らの世界の“料理”と『グルメキャッスル』とやらがどう関係するっていうんだ?」
訊ねるエゾオオカミにグイ、とやたらとキラキラした瞳を向けてくるセルシコウ。
「聞きたいですか!?」
「お、おう。」
エゾオオカミは勢いに圧されながらも頷く。
「いいですか?『グルメキャッスル』とはあらゆる“料理”を生み出す美食の殿堂!そこを訪れる誰もが満腹と幸福を得る究極の“輝き”!」
あまりの熱弁に周囲にごった返す人たちも何だろう?とセルシコウを見る。
「それが『グルメキャッスル』なのです!」
何だかよくわからないが、勢いに押された周囲の観客達もパチパチパチと拍手を送る。
二人して、注目の的になっていた事にようやく気が付いたエゾオオカミとセルシコウであった。
とりあえず、二人で愛想笑いで誤魔化すと荷物運びを再開した。
「……要は飲食店を開く、って事だな?セルシコウ…。お前、料理なんて出来たのか。」
「ええ。私もオオセルザンコウもマセルカも中々のものですよ。」
「へぇ?美味いのか?」
「もちろんです。何なら食べに来ますか?」
そんなに自信満々だとどんどん気になってくるエゾオオカミだ。
ってちょっと待て。
「食べに…ってどこに?」
「ああ。今日は何とかーってイベントの説明会をするそうじゃないですか。丁度昼食時に呼び出す事になったんで軽食を作るの頼まれてたんですよ。」
セルシコウに出会った時点でイベント説明会の開催場所を探し出すのは振り出しに戻ったと思っていたが、どうやら彼女はその場所を知っているらしい。
これがヒョウタンから駒というものか。
「そうか。ちょうどよかった。俺もそのイベントの説明会に参加するつもりだったんだ。」
「そうですか。ちょうど時間ですし一緒に行きます?」
二人してお弁当屋さんに荷物を届けると納品伝票にサインを貰って中央市場に戻る。
「いやでも助かったぜ。中央市場が集合場所ってのは知ってたけど、結構広いからな。」
戻りは手ぶらだ。
エゾオオカミは自由になった腕をぐるぐると回し改めて横を歩くセルシコウを見てみる。
「私の顔に何かついています?」
「いや…。ついこの前本気で戦った相手とこうして歩いてるのが不思議な気がしただけだ。」
言われてセルシコウもしばらく考える。
「いやあ…。その…。」
「ああ。セルシコウは本気ってわけじゃなかったな。」
それはその通りだった。
セルシコウにとってエゾオオカミは敵としては取るに足らない。
この場で戦いになれば、セルシコウは彼女を赤子の手を捻るより容易に倒す事が出来る。
けれども、その自分を相手に平然としているエゾオオカミはどういうつもりなのだろう。
「ええと…、一応、私とあなたは敵同士、ですよね?」
思わずセルシコウは訊ねてしまった。
「だな。」
返って来た答えも予想通りだった。
しかし、エゾオオカミはセルシコウの正面に回るとその眼を真っ直ぐに見つめて続けた。
「けどさ。敵同士かもしれないけど、俺はお前やお前達の事をちゃんと知りたいって思ったんだ。」
その視線を受け止めるセルシコウ。
エゾオオカミが本気でそう言っているのは彼女にもよくわかった。
「戦うのはその後だって遅くない、だろ?」
それだけを言ってエゾオオカミは前に向き直って歩き始める。
「まったく、貴女は実力の割に豪胆ですね。そんなの関係なく私が貴女に襲い掛かるとは思わないんですか?」
「実力の割に、は余計だ。」
横に追いついてくるセルシコウにエゾオオカミは続ける。
「お前らはそこまで悪いヤツには思えない。だから意味もなく襲って来たりはしない。俺はそう思ってるんだ。」
確かにセルシコウも今この場でエゾオオカミと戦う理由はない。
その意味では一つ看破されてしまったと言える。
なんとも決まりの悪いセルシコウにエゾオカミはニヤリと笑う。
「次はお前らの料理の腕前を見せてくれるんだろ?代わりと言っちゃあ何だが、ウチのお母さんが作ってくれたおむすびの味を教えてやるぜ。」
言って自身が提げていた巾着袋を示して見せる。
そんな答えは意外だったのか、セルシコウは目を丸くして驚いていた。
そんな顔を見て、エゾオオカミは初めてセルシコウから一本とってやった気分になるのだった。
の の の の の の の の の の の の の の
説明会の会場は中央市場に併設された集会所だった。
ここではよく商店街の会議なども行われており自治会の公会堂的役割を担っている場所でもある。
ここにはお茶汲み用の給湯室も用意されているので簡単な炊事だって出来る。
ちょうどお昼時の招集という事もあってか、説明会の主催者はわざわざ軽食も用意してくれたらしい。
と、言っても作ったのは主にオオセルザンコウとマセルカであった。
簡単につまみやすいという事で選ばれたメニューはサンドイッチである。
「うっわ、美味しい。何これ美味しい!」
「ほんとね…。」
と早速テーブルに用意されていたミニサンドイッチを言葉少なく食べていたのはキタキツネにギンギツネであった。
どうやら美味しすぎて語彙力が消失している模様だ。
「こらこら、二人とも。他にも人が来るんだし、その人たちの分も残しておいてあげなよ。」
そんな風にたしなめるような事を言いながらも、既に三つ目に手が伸びている奈々である。
「構わない。沢山用意しているからな。ただ、家で昼食を用意しているのであれば程々にしておくといいだろう。」
追加のミニサンドイッチが乗ったお皿を持ってくるオオセルザンコウに奈々は訊ねる。
「ねえ、このサンドイッチどうやって作ったの?めっちゃ美味しいんだけど…。」
そこに褒められてドヤ顔のマセルカが割り込んだ。
「ふっふーん!今は夏だからね。夏が旬の食材をメインに仕上げたんだよ!」
奈々がサンドイッチの中を覗くと、意外と珍しい食材が使われている事に気が付いた。
アスパラガス。
確かにサンドイッチの具材にするにはポピュラーではない。
マヨネーズで和えた茹で卵に程よく焼いたベーコンと一緒に挟み込んだそれはしっかりした食べ応えの割に後味が爽やかだ。
「こっちがコーンとポテトのマヨネーズ和え。こっちは定番だがトマトとベーコンとレタスサンドだ。」
オオセルザンコウの解説してくれたサンドイッチはどれもが夏が旬の食材達が主役だ。
既に奈々とキタキツネにギンギツネの三人はすっかり虜になってしまっていた。
そんなところに到着したのはエゾオオカミとセルシコウである。
「あ、エゾオオカミっ!こっちおいでよ!ご飯、食べて待っててって事みたいだから!美味しいよ!」
キタキツネがエゾオオカミの手を取ってテーブルに座らせる。
どうやらその様子を見るに、セルリアンフレンズ達の料理の腕前は確からしい。
「ああ、うちのお母さんが持たせてくれたおむすびもあるぞ。お前らも食うか?」
エゾオオカミはセルリアンフレンズの3人も誘った。
オオセルザンコウは一瞬考える。
このエゾオオカミというフレンズは確か自分達の正体を知っているはずだ、と。
一緒に入って来たセルシコウにアイコンタクトを送ってみる。
この誘いに乗ってもいいものかどうか、と。
それに一瞬キョトンとするセルシコウ。
アイコンタクトが通じているのか通じていないのか…。悩むオオセルザンコウを後目に、セルシコウは
「ではご相伴に与りましょう。」
とエゾオオカミの隣に座ってしまった。
その様子から察するに、どうやら問題ないのだろう。
そう判断したオオセルザンコウもちょうど一仕事終わったところだ。
未だ少しばかりの警戒と共にテーブルに付こうとした。
「じゃあ、マセルカもー!」
そうしたら、なんとマセルカがオオセルザンコウの膝の上に乗っかった。
「マセルカ…。尾ビレがだな…。」
そうなるとオオセルザンコウの顔の前にマセルカの尾ビレが来て全然前が見えない。
そんな様子を苦笑と共に見守る奈々達。
「あなた達、仲いいんだね。」
という言葉にオオセルザンコウは苦笑を返す事しかできなかった。
しかし仮にも敵(かもしれないフレンズ)の前でこんな油断した姿を晒していていいものか、とオオセルザンコウは悩む。
それ以前にマセルカは気づいているのだろうか。
「おおー!?何これ、ちょっとピリっとしてるけどご飯に合うねー!」
「ああ、それは具が野沢菜の漬物だな。」
と楽しそうに談笑しながらエゾオオカミの持ってきたおむすびをパクついている様子から、マセルカは以前に彼女と出会ってる事自体忘れていそうだ。
幸いあちらも、今この場でどうこうするつもりはないようだ。
ならばまぁ、まずは様子を見るのがいいだろう。
そう覚悟してオオセルザンコウもおむすびに手を伸ばす。
「ほう…。これは中々。」
一口食べてみると程よい塩気のご飯。二口目で具に到達する。
「ってすっぱ!?」
どうやら具は梅干しだったらしい。オオセルザンコウの口の中に鮮烈な酸っぱさが広がる。
「あー、苦手だったか?」
エゾオオカミが差し出したお茶の入った紙コップの中身を一息に煽るオオセルザンコウ。
「いや…。最初は驚いたがこれは癖になる酸っぱさだな。」
「ああ、それは自家製で結構長い事漬け込んでいるらしい。」
「それでか…。ただ酸っぱいだけじゃない。奥深い味わいだった。」
エゾオオカミと目があったオオセルザンコウは何とも言えない苦笑を浮かべる。
敵とするにはいかにも緊張感の無さすぎる会話だ。
けれど、今この場にあってはそれが許されるような気がしていた。
そのエゾオオカミは今度は奈々にサンドイッチを勧められていた。
「エゾオオカミっ。こっちのサンドイッチも食べてみなよ。美味しいから。」
「おう、んじゃあありがたく…。ってこれ真面目に美味いな…。」
「でしょう!?私もビックリしちゃった!」
「ボクもこれ好き。いくらでも食べられそう!」
ギンギツネとキタキツネも一緒になってワイワイと楽しそうにサンドイッチを頬張っていた。
そうして時間が過ぎると、ようやく主催の商店街会長が姿を現した。
「やあやあ、お待たせしてすまなかったね。」
さらに商店街会長の後ろにはこの商店街の名誉顧問となっている純白の毛並みを持つオイナリ校長までいるではないか。
これはどういう事だろう、と一同続く言葉を待つ。
最初に話し始めたのはオイナリ校長だった。
「では皆さん、明日から商店街でイベントを行う事は知っていますね?」
「ああ。内容まではまだ聞かされていないけどな。」
答えるエゾオオカミに自分達もそうだ、と他の全員が頷いていた。
「皆さんには内緒にして準備を進めていたんですよ。何せ商店街を活気付ける秘策中の秘策でしたから!」
今度はオイナリ校長はどんな事を思いついたのだ、とギンギツネとキタキツネはキラキラした目で彼女を見ていた。
「じゃあプリントを配るわね。」
集まった皆の前に一枚ずつプリントを配るオイナリ校長。
そのプリントの見出しにはこう書いてあった。
『色鳥商店街夏イベント!自宅で買って自宅にお届け!迅速配達“U-Mya-System”』
と。
軽く目を通すと、どうやらインターネットで注文した商品をお客さんのところに届けるネットショッピング的な事をするというイベントらしい。
「つまり、その配達員を俺らにやれって事だな。」
エゾオオカミの確認にオイナリ校長が頷く。
「そう。ちょうど学生さん達が夏休みで手が空くでしょう?だから人手が必要なこのイベントは今この時にしかできないのよ!」
力説するオイナリ校長だったが疑問もある。
奈々がその疑問を口にするべく挙手した。
「あの…。ネットショッピング出来るようにする、っていう案はわかったんですけど、その…、ホームページやアプリなんかはどうするんですか?」
簡単にネットショッピング事業を開始すると言って出来るものではない。
お客さんの注文を受け付けたり決済する為のシステム構築が必要なはずだ。それはそういった業者じゃなければ難しい。
そして、それはお金だって相当かかるはずだ。
ひと夏のイベントの為だけにそんな事をしたら赤字確定ではないだろうか。
けれど、オイナリ校長は自信たっぷりに頷くとこう言った。
「そこは心配ないわ。」
言うと同時、檀上に二体のラッキービーストを置く。
それは赤色のカラーリングのものと水色のカラーリングの二体だった。
エゾオオカミはその姿を見て驚く。
「って、ラモリさん…!?最近見ないなと思ったら…!?」
赤色の方はサングラスをアイセンサーのところにつけて、尻尾を試作多機能アームに換装したラモリさんだった。
もう一体は普段、かばん達と一緒にいるラッキービーストでボス、と呼ばれる事も多い水色のものだ。
「システム構築に関しては心配ないゾ。今回のイベントにはサンドスター研究所が協力しているからナ。」
「オペレーティングはボク達がするカラ、マカセテ。」
プリントを見てみると、どうやらこの二体のラッキービーストが注文の受付から店舗への連絡、配達員への指示を行ってくれるらしい。
とはいえ、エゾオオカミにはどうしても気になる事があった。
なので、ラモリさんを引き寄せるとその耳元にコソコソと内緒話で耳打ちする。
「おい…。いくらなんでも夏のイベントの為だけにシステム構築してオペレーターの真似事まで…。割に合わなすぎなんじゃねぇのか?」
確かに商店街はサンドスター研究所のスポンサーでもある。
けれどもいくらスポンサーでもタダでそれだけの事をやってくれるとは思えなかった。
ラモリさんは多機能アームでエゾオオカミと同じようにして彼女の耳元にこっそりと返答を返す。
「なぁに。コッチにはコッチの思惑があってちゃんとリターンだってあるのサ。お互いWin-Winってわけヨ。」
ラモリさんがそう言うのならいいのか。っていうかこうやってヒソヒソ話してるとすごい悪い事を企んでいるように見えるんじゃないか、なんてエゾオオカミは心配してしまう。
やはり、残る一同から怪訝な目で見られていたのでエゾオオカミは早々にラモリさんを解放した。
「それじゃあ、U-Mya-Systemの概要を説明するわね。」
オイナリ校長がプリントを示しながら解説を始める。
なんだか夏休みが始まったばかりなのに、早くも授業を受けているような気分だ。
その説明を聞くとどうもこういう事らしい。
お客さんは自分の携帯電話に専用アプリをインストール。そこから商店街に売っているものを注文。
電子マネーで決済までを完了する。
注文が成立したら各店舗に注文品の連絡が入る。
で、ここからが集められた彼女達の出番らしい。
「ええっと…。私達は各店舗を回って注文された品をまとめる役とお客さんに届ける役の二つに分けられるわけかあ…。」
奈々のプリントを見ながらの確認にオイナリ校長も頷いて見せた。
「そう。各お店から商品を取って来て配達荷物をまとめる人をピックアッパー。お客様のところに配達する人をデリバリーマンと呼ぶ事にしますね。」
なるほど、これは確かに人手が必要になるわけだ。
なんせこの商店街を走り回るだけでも結構大変なのだ。
それに加えてお客さんへ商品配達をするとなればどれだけ忙しくなるかわからない。
「既にアプリの事前DLは予想より多いの。だから結構な注文が入ると思うわ。」
「出来る事なら、もう少し人手は欲しいんだけどねぇ。」
オイナリ校長の言葉に商店街の会長も頷いていた。
それならちょうどいい事にエゾオオカミにアテがある。
「なら4人くらい雇えるか?ちょうどバイトしたいって先輩がいるんだ。」
「それは助かるよ!是非お願いしたい!」
商店街会長に両手を握られて、「お、おう。」と気圧されてしまうエゾオオカミ。
まあ、何はともあれ渡りに船というものだ。
早速かばん達にも連絡をしてやらないとな、と考える。
いっその事、ともえ達やルリ達にも声を掛けてしまうのも手かもしれない。
「それじゃあ、今年の夏はショッピングモールには負けないぞ!」
と気合を入れる商店街会長。
それに全員が「おー!」と気勢を返した。
その姿を見たエゾオオカミは…
「(もしユキヒョウも手伝いに呼ぶ時は、なんか変装でもさせた方がいいんじゃないか?)」
と苦笑混じりに思うのだった。
―中編へ続く